大学院部会 議事要旨

1.日時

平成20年6月30日(月曜日) 13時~15時

2.場所

三田共用会議所 第三特別会議室

3.出席者

委員

(委員)荻上紘一(部会長)、金子元久(副部会長)、黒田玲子、佐伯啓思の各委員
(臨時委員)天野郁夫、有信睦弘、石弘光、菱沼典子の各委員
(専門委員)伊藤文雄、川村正幸、菅裕明、堀井秀之の各委員
(意見発表者)角南篤政策研究大学院大学准教授、菅裕明専門委員

文部科学省

土屋高等教育局審議官、藤原高等教育企画課長、中岡大学振興課長、鈴木高等教育局企画官、井上大学改革推進室長、後藤大学振興課専門官 他

4.議事要旨

(○:委員、□:意見発表者、●:事務局)

(1)事務局より、配布資料の説明があった。

(2)会議の公開について諮り、公開となった。

(3)中国における大学院の状況について政策研究大学院大学准教授角南篤氏から発表があり、質疑応答が行われた。質疑応答の内容は以下のとおり。

○ 以前、中国の大学の教員の処遇が悪いと聞いたことがある。教員の処遇の改善についてはどうか。

□ 留学した者とそうでない者との間に格差はあるが、基本的には、教員の身分保障はなされている。国外に出ていない多くの研究者にとっては、海外から帰国した研究者の業績をみながら共存している状況がしばらくは続くだろうが、今後、身分保障がなくなり、首を切られるようになると、切られた研究者は就職先も見付けられず、相当厳しい事態に陥るだろう。また、地方の大学では処遇が十分でないという問題もある。

○ 設置者ごとの大学の状況は。中国行政機関における大学の所管の状況は。以前は大学の供給不足が指摘されていたが、現在は過剰供給という話になっていないか。競争原理の導入について気づきの点があれば。

□ 経営が民間の大学を「民営大学」と言っており、地方の大学も同様だが、専門職カリキュラムに特化していることが多いのが特徴。最近は、大学が立ち上げたベンチャーを統合させて、コーポレート・ガバナンスの導入を進めている。共管の大学もあるが、多くの大学は中国教育部の所管。大学の数は増えているが、教育部は質を保つためにコントロールするのではないか。また、学生が多く来て教員が足りない状況が続くだろう。競争環境については、アメリカから戻った研究者は、ほとんど米国に居たときと同じように研究を継続している。トップレベルの大学では、待遇の改善、複数年にわたるファンディング、教員の国際公募等が進んでおり、欧米に出た研究者が戻りやすい競争的環境が形成されてきている。

○ 修士の学生が増えているのは、専門職的な修士が増えているのか。文系においてもかなり増加しているようだが、このうち研究者になるのはどの程度か。論文数の増加に寄与しているのは、海外からの帰国者ではないか。中国国内の研究者養成は進んでいるのか。とても中国は落ち着いて勉強が出来る環境とは思えない。

□ 非常に厳しい競争環境にある。推測ではあるが、最近エリート養成プログラムが復活しており、その背景は優秀な人材を競争から守るためではないか。とにかく、研究成果を出版したり、研究者として生き残るのは厳しい。全体としては、御指摘の通りの状況と言える。

○ 米国で競争環境の仕組みは上手く機能していたが、最近NIHの研究費減に伴い競争的資金の採択率が20%から10%になったことに伴い競争が過酷化し、研究環境にひずみが生じている。中国における採択率は。また、ポストに対する競争環境はどうか。企業におけるポスドクステーションの財源は何か。また、ポスドクステーションを出た後のポスドクの就職先はどうなるのか。

□ ポスドクステーションについては実態を把握していない。短期的利益を優先する中国企業はこれをうまく使えておらず、必ずしも企業にとって有益な研究ばかりをしている訳ではないと聞いているが、設置することにより外部から研究費が入ったり、イメージアップが見込める(研究開発を重視していると見られる)効果はあるようだ。就職状況は不明。中国の競争環境は厳しい方であるが、ただ、一部の恵まれた20%程度の人材以外は研究費獲得において非常に厳しい状況に置かれており、状況は2分化している。

○ 留学生30万人計画というものがあるが、今後多くの学生を中国から招くと考える上で、現在、日本は中国のどのレベルの学生を惹き付けているのか教えてもらいたい。また、帰国してどのように活躍しているか。

□ 何をもってトップレベルとするか難しいところではあるが、海外留学を志す優秀な人材は、まず欧米を留学先として志向することは間違いない。ただ、恩師が日本で研究をしていた、あるいは研究内容が日本の研究者と合致する等の理由で日本を選ぶ人も存在する。日本に来ると帰国しても課長以上にはなれず、キャリア選択の幅が狭まるとか、日本語ができないと駄目など、ネガティブな風評が出回っている。

(4)アメリカにおける大学院の状況について、菅裕明専門委員から発表があり、質疑応答が行われた。質疑応答の内容は以下のとおり。

○ 大学院の教育システムの図は、米国では一般的なものか。早い学生だと3年で学位を取得すると聞くがどうか。

□ この図は一般的なものである。3年で学位を取得することはほとんど聞いたことが無い。2年次後半から3年次頭にかけて行われる適性試験を通過していれば、卒業できる権利を有することになるが、一般的には4~6年は必要。

○ RAの重要性は分かった。RAは教員のためか学生のためか。アメリカでは定年はないと聞くが、RA雇用との関係はどうか。学生が海外から日本に来て英語で学位を取ることにインセンティブはあるのか。日本に来て英語で学位を取るのであれば、アメリカに行こうと思うだろうが、どのように考えるか。

□ 日本に来たら日本語ができるようになって欲しいし、学生もそれを期待していると思う。英語で教育すればよいという問題ではないと考える。RAは教員のためでもあり、学生のためでもある。学生は研究に集中でき報酬も受けることができる。教員にとっては、ポスドクよりは安価に雇用できる上、5年間という長いスパンで研究に取り組んでくれることがメリット。定年はないが、研究費が取れなくなるとRAの雇用もできなくなり、研究室そのものが縮小し、引退の圧力となる。TA枠は若手研究者に優先的に与えられ、シニアな教員になるほどその枠は減らされるため、研究を継続するには、自分で研究費を獲得することが絶対条件。

○ 学生と教員との研究成果の帰属についてはどのように考えられているのか。

□ 基本的に教員が主である。学生へのリターンは数%程度。ただ、アイデアの発案者が利益を得るという考え方は共有されている。

○ 日本は米国の制度を模範にしており、制度上の違いは大きくないと思うが、教育の中身は異なっていると理解。適正試験の具体的な実施方法は。

□ コアコースは、例えば化学では、有機化学・無機化学等4つの基礎的かつ発展的な内容を含む授業が必修であった。学生はこれらの授業で「B」判定以上を取ることが必要。判定も厳しく、「C」判定ならもう一度やり直すことはできるが、それでも「B」にならなければアウトで修士修了の扱いとなる。プレゼンテーションは、大学によって無い場合もあるが、自分でトピックスを選びプレゼンをしたり、自身の研究についてプレゼンしたりもする。これらの評価は、きちんとできているかどうか確認するもので、合否の判断をすることはあまりない。プロポーザル試験はかなり厳しい。自身の論文以外の内容について10頁程度に概要をまとめ、各教員の質疑に対してディフェンスできるかどうかを確かめるものであり、研究の内側にある基礎的な内容の理解度も試される。修士の段階では、アメリカよりも日本の方が学生の質は高いと思うが、アメリカの博士が質が高いとみなされるのは、このような教育内容によるところが大きい。理系の大学院であれば、必ず同様の試験・課題をクリアする必要がある。

○ 社会科学では教育方法について教員に依存するところが大きく、標準化がなされていない。あまりに野放し過ぎて、上手くできていない面がある。

□ 指導者としてメンタリングが上手くできていない。プロポーザル試験の取組も併せて能力を伸ばす事が重要。

○ 社会科学における標準修業年限内の修了状況はどうか。メンタリング制度は社会科学分野でも導入しているのか。

□ 修了状況についてはまちまち。TAが続く限りできるが、おそらく博士課程には8年の在学期限がある。入学から5年以降は毎年度面接があり、学生はTAをこなしつつ、何とか学位を取得しようとする。大学はメンタリングにより学生を学位取得に導こうとする。

○ 博士の学位授与候補者になる要件はどうなっているか。

□ 適正試験をすべてパスすることが必要。その上で、ドクターとして社会で活躍できるかどうかを判別した上で学位を授与する。論文を幾つ出したかは関係ない。博士の学位授与候補者になって  博士論文最終審査会まで時間がかかることもある。学生が長期に在学するとRAの経費がかさむので、教員はメンタリングにより早期の修了を目指す。

○ あまり具体的な仕事とは結びついていないようだが、日本でも経済的支援が進んできている。アメリカの場合、どのような基準でRA選定を行っているのか。

□ 基準はない。学生としてその研究室で受け入れたからには、TAかRAとして必ず雇用している。競争原理が働いているのは、フェローシップであり、トレーニーシップのような大学が機関として獲得した資金で雇用を行うものもある。個人的な意見であるが、基本的には教育と競争的原理は相容れないと考えている。

○ 日本では学生が授業料を払っている。この研究がやりたいからこの先生に、という選び方がまだ浸透していない。研究室の定員枠にしたがって、教授できる範囲で適当に振り分けられているのが実態。研究科としての教育方針はアメリカではどうか。

□ 日本では定員の問題があり、入学した学生に他に行って欲しくないというインセンティブが働くことが根本的な相違。アメリカでは、TAの間は多忙なので、最初の半年間は学生に研究室を特定させない。例えば、バイオ系では1年間で3つの研究室をローテーションすることを義務付けており、学生は研究室を直接訪問する。ローテーションしている中で、熱意のある若い教員に惹かれる学生もおり、有名な教授ののみに学生が偏ることはない。

○ イギリスでは先生を決めて、1年目にプロモーション試験が駄目なら修士修了し、おちこぼれという扱いになる。

□ アメリカでも、修士がドロップアウトの学位である位置付けは同じ。

(5)事務局より「博士課程修了者等の諸問題について」説明があり意見交換があった。意見交換の内容は以下のとおり。

○ 法科大学院の開設に伴う影響で、法学部では大学院にほとんど進学しなくなった。大学院に在籍しているのは外国人学生ばかり。研究者養成ができていない。法科大学院卒業後に博士課程への受け入れができることにはなっているが、研究者としての基礎的な訓練は法科大学院ではできない。制度的には法科大学院3年、博士課程2年と2年間で修了することもできるが、現実的には不可能である。外国文献の読解力の獲得などが不十分な状況。現状のように、留学生は日本の学生と議論することもできず、教員との不十分なコミュニケーションしか取れないようでは、日本に行っても仕方ない、と考えるようになる。留学者を受け入れる目的の一つとして国益の問題があるが、例えば日本企業が海外に進出しようとするときに、その国に日本の法律を知る人がいなくて困るというように、国益を損なう事態が発生する可能性がある。

○ 法科大学院を開設する際に、研究者養成の見通しが暗くなることには気づいていた。法曹養成に全てのリソースを回して、研究者養成の道が狭まってしまった。法学を教えられる教員がいなくなる時が遅からずくる。このような現状については一斉に法科大学院設立に雪崩を打った大学に節操がないと考えるが、制度面でも見直しが必要。

○ 薬学の年限変更に関しても、実務化養成に偏り、研究者養成に支障をきたすと懸念されている。

○ 企業の立場からも、企業活動が国際化する中で、従来のような営業・生産行為のみであれば当該国の深い法的知識を求められることはなかったが、さらに活動を深めていく上では、各種規制への対処が大きな問題になり、対応できる人材の確保が必須。法律の比較検討ができないと活動のネックになる。法科大学院は資格制度の国際化への対応のために導入したものだが、研究行為が他分野の人によってしかなされないようになってしまっては、企業の立場としても心配。

○ アメリカの看護学では、専門職業人の養成が先行し、教員がいなくなってしまった。このような先例もあるので、研究者養成と専門職業人養成は各大学の裁量で別々にきちんと行うことが必要。ところで、アメリカではフルタイム・パートタイムの場合で、TA・RA雇用の対応はどうなっているのか。

○ 知る範囲では、社会人が職を持ちながら入学してくるケースはなかった。職を辞して入学してくるのが一般的ではないかと思う。

○ 修士課程では、在職のまま学生として受け入れている大学もある。米国でも制度が複雑になっている。ファンディングも多様化しており、一部非常に競争的になっている。また、日本でも経済的支援の状況について調査されているが、「のべ」調査であり、実態がまだ見えないところもある。

○ 奨学金を受けて博士課程を修了し、その後返済を行うのは経済的に大きな負担なので、博士課程修了前に弾力的に返還できる制度を導入してはどうか。

○ 学位論文を書いて刊行することが望まれるが、出版社の予算も減っており、新書ばかりが出版される状況。近年の文部科学省の刊行助成費の減額は、学位取得の促進と逆行しているのではないか。

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