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資料2−2

イギリスの大学評価と大学教員の資質向上の取組

1 大学評価

1. 教育評価
   教育評価は1992年から開始されたが、現行の高等教育審査機関(Quality Assurance Agency for Higher Education,QAA)による評価は1997年から開始。

(1) 機関監査
 
目的
 当該機関が、適切な水準と質の教育課程を提供し、適切に学位・資格を授与しているかを評価する。

評価方法・内容等
 教育プログラムの質と授与学位・資格の水準の健全さを中心に3段階で評価(優・良・不可)。
 評価は、各機関が作成する機関レベルと分野レベルの二つの自己評価書を基に行なう。各評価書の記載事項は以下の表の通り。

機関レベル評価書 分野レベル評価書
1内部評価とその成果
2プログラムの水準及び学位・資格授与のあり方
3教育の質を保証するシステムとその効果の評価
4現在と今後の質の保証の在り方
1教育の目的
2学習成果
3カリキュラムと評価
4学習機会の質
5教育水準と質の維持・向上

(2) 分野別評価
 
目的
 当該機関が提供する各分野の学位・資格プログラムについて、その水準と教育成果をみる。機関監査と平行して、42の分野ごとに行なわれる。
 
 QAAは、「イギリスで授与されるあらゆる学位は同一の水準のものでなければならない」という立場から、高等教育資格の枠組み(qualifications framework,QF)とともに、第一優等学位(honors degree)に関し、各学問領域別に学位水準基標(subject benchmark statements,SB)を策定。各大学は、これを参考にして、独自の学位プログラム(programme specifications,PS)を作成。

評価方法・内容等
 評価は、各機関がQF,SB,PSを踏まえて作成した分野レベルの自己評価書を基に行なわれ、判定は次の2つの側面について行なわれる。
1 当該分野の教育内容や学習成果の水準について。
2 学習環境の質について。
 評価結果は報告書にまとめられ公表される。

(3) 教育評価と補助金配分との関係
   教育評価において深刻な問題点等があり、その改善が認められない場合には、補助金の交付停止を受ける可能性がある。交付の停止の判断は高等教育財政審議会(Higher Education Funding Councils,HEFCs)が行なう。

(4) その他
   QAAは、2002年以降、「負担の少ない軽やかな方向」(lighter touch)へ評価方式を変更。各大学に対し、QF、SBを踏まえた質保証の責任を委ね、QAAは機関監査を中心としつつ、必要に応じて学科レベルの評価を実施。

2. 研究評価
   研究評価は1986年に当時の大学補助金委員会(UGC)により開始されたが、現行のHEFCsによる評価は1992年から開始。

目的
 各機関の研究活動の活性化や水準向上を目的とする。評価結果は各機関への政府補助金の配分額の決定に当たって重要な要素となっている。

評価方法・内容等
 評価分野ごとに以下の表のような資料や情報に基づいて7段階で評価を実施。
 このうち、研究業績がもっとも基本となる。なお、各機関の総合評価は実施しない。

分類 内容
教職員
  • 当該分野の全教員の概要
  • 研究を担う教員の詳細
  • 研究支援職員及び研究助手の情報
研究業績
  • 申請教員1人当たり4件までの研究業績
関連文書
  • 研究環境、研究組織及び研究方針
  • 研究発展計画
  • 研究実績及びその評価に関する情報
関連資料
  • 研究資金の額と資金源
  • 大学院生数
  • 研究奨学金の数及び給与元
  • 研究学位の授与数
  • 当該分野の専門家の評価

評価結果と補助金配分との関係
 HEFCsから配分される補助金のうち、研究活動に係る補助金は評価結果に基づき、当該機関の高い評価を受けた分野に、傾斜的に配分される。

2 大学教員の資質向上の取組

 1997年に公表された「英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)」報告においては、大学教員の資質向上の方策について種々の提言が行われた(別紙)。
 これを受けて、政府として、主に以下のような取組を積極的に推進している。

1  教員個人や学問分野、あるいは各機関の教育の品質向上を支援するため、「学習教授支援ネットワーク」(Learning and Teaching Support Network)や24の学問分野別の「研究開発センター」(Subject Centres)を設置

2  「教育の専門職」としての会員制学術団体である「高等教育学習教授機構」(Institute for Learning and Teaching in Higher Education,,ILTHE)を創設(その後、「高等教育アカデミー」(Higher Education Academy)へ名称変更)

 
 高等教育資格課程(Postgraduate Certificate in Higher Educaton,PGCHE)を修了した教員が会員として加盟

3  優れた取組に資金を提供し、高等教育セクター内で共有するため、HEFCEによる政策イニシアチブの一環として、「教授・学習開発資金The Fund for the Development of Teaching and Learning」を実施。各大学の学習教授センターの取組を支援。

 各大学の学習教授センターは、学習・教授理論に基づくプログラム開発、e−ラーニング、学生の学習意欲を高める参画型学習(Active Learning)、雇用可能性を高める観点からの支援(例:コミュニケーション能力の育成など)などの役割を担うものとして重要な存在に。

<参考資料>
 文部科学省生涯学習政策局調査企画課「諸外国の高等教育」(2004年)
 広島大学高等教育研究開発センター『高等教育の質的保証に関する国際比較研究』(2005年)
 川嶋太津夫神戸大学教授「教育の専門職化を目指して−英国における大学教員の資質向上の取組−」(2005年)



別紙

英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)報告の概要

 1996年5月に政府の諮問機関として発足した高等教育制度検討委員会(National Committee of Inquiry into Higher Education)、通称デアリング委員会は、これまで今後20年間におけるイギリスの国家的必要に見合う高等教育のあり方を検討してきたが、1997年7月に継続的な高等教育の拡充なしに、イギリスは国際的な経済競争の時代にその繁栄と国際的な地位を確かなものすることはできないとする報告書、「学習社会における高等教育の将来」(Higher Education the learning society)を提出した。報告書は、全24章からなり、93の勧告を行い、豊富な調査資料と併せて全体1,700頁にわたる浩瀚な報告となっている。
 高等教育制度検討委員会は、大学人に加え、学校教育の代表、財界・産業界の代表などを委員として、1996年5月以来、各界の意見聴取、作業部会、日本を含む諸外国の高等教育調査などの方法による調査を行い、過去30年あまりのイギリスの高等教育の分析を基に、目的、規模、財政、教育・研究及び学生支援と高等教育全般にわたって検討を加え、全体として生涯学習社会における位置づけを展開するとともに、国際競争力の向上に向けた高等教育の役割を強調している。
 報告書によれば、イギリスの高等教育はこの20年間に、学生数の倍増、公的補助の実質的減少、パートタイム学生や成人学生の増加などの大きな変化を経験したが、知識・情報重視型の世界的経済秩序、継続的な能力開発を求める労働市場、情報技術の発展など環境の変化が激しく、高等教育においてはさらなる改革がもとめられるとして、高等教育の拡大、高等教育財政の改善、教育機能・教育内容の改善、高等教育の水準・質の管理、高等教育による地域経済の振興、及び研究基盤の整備などの点について勧告している。また、勧告の対象は、政府、高等教育機関及び財政審議会、高等教育の代表団体、学生組合、研究審議会など広範囲にわたり、その実施については、短・中・長期の期限を示しつつ数値目標を示すなど具体的な提案を行っている。
 こうした検討委員会の勧告について、労働党政府は、一部を除いて基本的に受け入れていく方針としており、勧告の実施に当たって法制化の措置の必要なものについては議会に提出する予定となっている。


英国高等教育制度検討委員会 勧告事項−大学教員の資質向上関係部分の抜粋−

勧告8

 すべての高等教育機関は、学生の学習の促進に焦点を当てた教授・学習に関する施策を優先的に策定し、これを速やかに実施する。

勧告9

 情報技術の進歩に応じて、中期的に、高等教育機関の教員の役割の変化を検討し、そして教員と学生が適切な訓練を受け、情報技術の力を十分発揮できるようにする。

勧告13

 教員訓練プログラムを持たない高等教育機関は、即刻その開発あるいは実施に努める。そしてすべての高等教育機関は、高等教育教授・学習開発機関(ILTHE)による同プログラムの全国的な認定を申請する。

勧告14

 高等教育の代表団体は、高等教育財政審議会と協議の上、高等教育教授・学習開発機関(ILTHE)を速やかに設置する。ILTHEは、高等教育教員の訓練プログラムの認定、教授及び学習の実践に関する研究・開発の委託、及び技術革新を促進する。

勧告47

 すべての高等教育機関は、今後1年間に、
教員の資質向上(staff development)の方針を改善し、各教員が変化する職務の内容に対応できるようにする。
新しい資質向上の方針は公表し、順次すべての教員に適用する。
「人的投資家」の認定を申請するかどうか決める。

勧告48

 すべての高等教育機関は、中期的に、新採用のフルタイム教員について、最低限、高等教育教授・学習開発機関(ILTHE)の準会員の資格を得ることを、試用期間の終了条件とする。


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