「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」中央教育審議会答申の趣旨~新学習指導要領のねらいの再確認とよりよい実現を目指して~(2)
今回からは、前回に引き続き、答申の提言内容について順に紹介していくことにします。今回は、第1章で示されている[確かな学力]の育成を中心にして、答申全体を概観することにします。
中央教育審議会では、子どもたちに今はぐくむべき力について意見が活発に交わされました。具体的には、前回述べた、新学習指導要領の前提となっている、子どもたちを取り巻く状況である急速かつ激しい変化の進行ということと、その中で子どもたちに必要となる力は何かということがテーマとなり、平成8年の中央教育審議会で提唱されている[生きる力]の育成の重要性が再確認されました。そして、この[生きる力]の育成の観点から、まずは[確かな学力]をはぐくむための当面の方策を検討、提言したのが今回の答申です。
なお、今回の答申が[生きる力]の知の側面である[確かな学力]の育成が大切であると提言していることから、[確かな学力]が豊かな人間性や健康と体力よりも重要であるとしているという受け止めもあるようです。しかしながら、そもそも、これらは要素として画然と分けられるものではありませんし、[生きる力]は全体としてバランス良く育成する必要があるものであり、そのような受け止めは適切とは言えません。今回の答申は[確かな学力]にまずは絞って検討を行ったということなのです。
以上のように、[確かな学力]の育成を目指すことは「生きる力」の育成という新学習指導要領のねらいの実現を図ることにほかならず、これは平成8年以来の中央教育審議会の一貫した考えです。
次に、答申では、第2章において、新学習指導要領のねらいの一層の実現を図るための具体的な課題等として、学校、教育委員会や国がそれぞれ取り組むべき事柄を示しています。それぞれの具体的内容については、次回以降に譲ることにしますが、ここでは、全体を貫いているのは、学校に対して、校長のリーダーシップの下に全教職員が一致協力し、共通に指導すべき事柄はきちんとおさえつつも、それぞれが特色のある教育を行うことを求めるという考え方であることにふれておきたいと思います。
したがって、答申には学校の様々な取組として考えられることが掲げられていますが、これらを全国の学校が一律に行わなければならないということではなく、それぞれの学校が、地域や児童生徒の実態に即して、必要と考えられる、また、効果の上がる方策をとるべきものということになります。他方、こうした取組の成果については各学校が自ら、場合によっては地域や家庭の協力を得て、評価・検証を行い、さらなる改善を進めていくべきものであり、「地域や児童生徒の実態」の名の下に真摯な取組を怠るようなことがあってはならないことは言うまでもありません。
また、答申は、現行の学習指導要領の記述の見直しについて提言を行っています。これらについては、いずれも、新学習指導要領のねらいとするところが分かりやすく伝わり、それを踏まえた実践がより行いやすくなるように、との観点から、必要な見直しを求めているものです。つまり、求められているのは、新学習指導要領のねらいの一層の実現を図るための部分的な修正であって、そのねらいそのものを変更するものではないことに留意する必要があります。
なお、文部科学省は、現在検討中の学習指導要領等の一部改正案の概要を示し、パブリックコメントの手続きを行っているところです。
答申で最後に触れられているのは、学校での取組に対する教育行政や地域・家庭の支援についてです。支援方策の例は様々なものが掲げられていますが、教育行政、地域、家庭の役割は、学校が特色ある取組を推進していくための支援(特にカリキュラムマネジメントに係る教員の資質向上、情報提供、ネットワークづくり等)と、学校の取組を検証・改善していくことに対する支援(学校評議員制等)とが基本となっています。
また、現状で課題とされていることについては、新しい学習指導要領のねらいの周知が教育関係者、国民一般に対して不十分であることもその原因の一つであり、このため、その周知、本答申の趣旨の周知についても、特に言及がなされているところです。
答申に関連する各種調査結果や資料等の解説(第2回)
~子どもたちに求められる学力、我が国の子どもの学力の状況について~
前回は、新学習指導要領等の周知等の状況について説明しました。
第2回は、子どもたちに求められる学力、我が国の子どもの学力の状況について説明したいと思います。
答申では、これからの子どもたちに求められる学力を、学校を出た後も生涯学び続けていく上で基礎となる、知識・技能に加えて思考力・判断力・表現力や学ぶ意欲などまでを含む[確かな学力]であるとしていますが、これが社会や大学が真に求めている学力と共通していることは、各種調査やアンケートからも裏付けられます。
例えば、平成10年に大学入試センターが国立大学学部長に行った調査によれば、学力の課題として、主体的に課題に取り組む意欲、論理的な思考力・表現力をあげており、対策としては、高校以下の教育で論理的な思考力や表現力などの基礎的な能力を身に付けることが重要であるとしています。また、社団法人経済同友会が会員企業の経営者や人事担当者に対して行った調査でも、ビジネスの基礎・基本能力として今後必要となるものとして、問題発見能力、論理的な思考力、行動力・実行力などが上位にあげられています。
また、近年行われている全国的・国際的な調査の分析結果からは、我が国の子どもの学力の状況については、学習意欲や学習習慣などの面で様々な課題が明らかになっています。
例えば、文部科学省が実施した平成13年度教育課程実施状況調査では、学校の授業以外に勉強を全く又はほとんどしない子どもが約1割いるほか、勉強を大切だと思っているものの必ずしも好きだと思っていない子どもが多いことも明らかになっています。その他、毎日の朝食や学校にもっていくものの確認など基本的な生活習慣が身に付いている子どもや授業で分からなかったところを自分で調べる子ども、普段から新聞を読んだりインターネットを利用する子どもがペーパーテストの得点が高い傾向が見られ、[確かな学力]をはぐくむ上で、学習意欲の向上がカギを握っていることがうかがえます。
なお、放課後に補充指導を行っている場合や発展的な課題を取り入れるなど、教師が創意工夫して指導を行っている場合に得点が高いことにも注目してほしいと思います。
このような課題があるものの、全体として我が国の子どもの学習状況は国際的に見て上位にあることは事実であり、このことは、各学校や各教育委員会において、熱心に取り組んでこられた成果の現れであると考えられます。
一方、答申が求める[確かな学力]をはぐくむためには、国レベルのみならず、各学校や各教育委員会においてもその状況を的確に把握し、それに基づいた方策を立てていく必要があります。
既に、平成15年度には43都府県・指定都市が独自の学力調査を実施していますが、各学校や各教育委員会においては、学力の総合的な状況を継続的に把握することなどにより、教育課程や指導の充実・改善に積極的に取り組んでいただきたいと思います。
文部科学省としては、平成16年1、2月に、小・中学校について新学習指導要領の下での教育課程実施状況調査を全国の約45万人を対象に実施します。また、その他の教科を含めて研究指定校において継続的な調査も行っています。さらに、高等学校についても教育課程実施状況調査を実施し、現在、調査結果を分析中です。
なお、平成16年度からは、国語の長文記述や算数・数学の関心・意欲・態度や数学的に考える力などに焦点を当てた調査など、教育課程実施状況調査や研究指定校による調査では把握しにくい「特定の課題に関する調査」もあわせて実施する予定です。
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-- 登録:平成21年以前 --