本号では、去る1月23日(金曜日)の中教審教育課程部会において公表された、平成14年度高等学校教育課程実施状況調査の結果について、説明します。
文部科学省では、平成13年度から、国立教育政策研究所の教育課程研究センターにおいて、小学校から高校までを対象とした全国的かつ総合的な学力調査(教育課程実施状況調査、研究指定校による調査)を継続的に実施しています。
高校を対象とする教育課程実施状況調査は、平成14年11月に旧学習指導要領(平成元年告示)の下での学習状況の把握のため、10万5千人(高校3年生全体の約8%)の高校3年生を対象に実施したところです。対象教科(科目)は国語(国語1)、数学(数学1)、理科(物理1B・化学1B・生物1B・地学1B)、外国語(英語1)の4教科7科目です(地理歴史、公民は平成15年11月に実施)。
今回公表されたのは、正答率などの全般的な状況だけではありません。各科目ごとにペーパーテストと質問紙調査の結果から、現時点で明らかになった課題等を取り上げ、具体的な指導上の改善点を示し、中間整理として併せて公表しました。これは、この調査が学校での指導の改善を進めることを目的としたものであるからです。
今回は、その調査結果や、今後各学校に求められる取組等について解説したいと思います。
なお、平成13年度に実施した小・中学校の教育課程実施状況調査の結果については、本たよりでも何度か紹介していますが、昨年5月に教科別報告書を公表しています。
今回のペーパーテストの調査結果によれば、国語、英語の2教科においては、いくつかの課題があるものの想定以上の学習状況(※)となっています。一方、数学・理科の2教科については想定した学習状況に達しませんでした。また、高等学校の全国的な学力調査は、40年ほど前の昭和30年代に実施されていたことがありますが、高校進学率の違いなどもあり、その結果との比較は困難と考えています(昭和30年代の調査でも、国語・英語ではほぼ期待した水準に達している一方、数学では期待した水準に達していないという結果(理科については教科としての期待点についての記述なし)が出ています)。
※ 今回の調査結果の評価に当たっては、小・中学校の調査と同様に、学習指導要領の目標・内容に照らした生徒の学習状況を評価する基準として、各問題ごとに「設定通過率」を設け、これを実際の通過率と比較しています。実際の通過率が「設定通過率」以上と考えられる問題の数が、教科の問題数の半数以上であった場合、「想定以上の学習状況」としています。
この「設定通過率」は、各問題ごとに、その問題に対応する学習指導要領の内容について、標準的な時間をかけて学習活動が行われた場合、正答又は準正答がどの程度になるかという観点から設定したものです。この設定に当たっては、教科の専門家等からなる問題作成委員会と分析委員会の二つの段階で、数値の設定やその妥当性などについて慎重に検討を重ね、調査の集計結果がまとまる前に確定させたものです。
一方、質問紙調査の結果ですが、学校の授業以外の勉強時間について質問したところ、「1日に3時間以上勉強する」と回答した生徒が約23%いる一方で、「1日に勉強を全く又はほとんどしない」と回答した生徒が4割以上もいました。この勉強を全く又はほとんどしない生徒の割合は、小学校6年生(約11%)や中学校3年生(約9%)の結果と比較しても高い状況にあり、学習習慣の面で懸念すべき状況があると考えます。なお、「ふだん家庭でしている勉強」についての質問について、「予習や復習をする」と回答している生徒は、全体の平均に比較し、得点が高い状況にあり、この点から、家庭における学習習慣と「確かな学力」育成との関連がわかります。
また、アンケート調査の結果では、教科の勉強が好きだ、入学・就職試験に関係なく大切だと思うなど学ぶ意欲の高い生徒、基本的な生活習慣が身に付いている生徒、ふだんからインターネットや新聞等で情報の入手をしている生徒、教師の発展・補充的な指導を受けている生徒ほどペーパーテストの得点が高い傾向にありました。現在の生徒にとって特に課題となっている学習意欲を向上させる上で、これらの事柄は参考になると考えられます。
今回の調査結果は、あくまで全国の高校3年生の平均的な学力や学習状況を示しているものです。
言うまでもなく、各高校の生徒の状況は学校ごとに多様です。各学校や各教育委員会では、今回の調査結果や昨年末に告示した学習指導要領の一部改正等を踏まえつつ、生徒の学習状況や教育課程及び指導の実施状況について、改めて自己評価し、自らの学校にとって参考となるべき点はどこなのか、今後どのように改善すべきなのかを的確に把握してほしいと思います。
また、今回の調査結果は高校生の状況を示したものですが、小・中学校でも今回の調査結果をしっかりと受け止め、小学校・中学校・高等学校を通じて、基礎・基本を徹底し、思考力・判断力・表現力等を含む「確かな学力」の育成に向けて取り組んでもらいたいと考えています。
このことについてもう少し具体的に述べれば、各学校では、児童生徒の学習状況に応じて、標準時数にとらわれず必要な指導時間を確保して、各学年・各学校段階で児童生徒に基礎・基本を徹底するとともに、個に応じた指導を一層充実し、「わかる授業」に向けた取組を推進してほしいと思います。また、特に数学や理科では、今回明らかになった指導上の課題を踏まえ、実生活や自らの在り方生き方等と関連付けた指導を行い、学びへの関心、学ぶ意欲を向上することや、効果的な観察・実験、コンピュータの活用等を通じて抽象的な内容を具体的にイメージさせるような指導を通じて、理解を促してもらいたいと思います。なお、先ほど述べたような家庭での学習習慣の課題を踏まえれば、家庭と連携して児童生徒に基本的な生活習慣や学習習慣を育成することも大切です。
文部科学省としても、今後、国立教育政策研究所教育課程研究センターにおいて、科目別の詳細な報告書を作成することとしており、中央教育審議会教育課程部会に高等学校の「教科別専門部会」を新たに設置し、指導の改善についての分析を進めていきます。また、学力向上フロンティアハイスクールやスーパーサイエンスハイスクールの成果の普及など各種事業等を通じて、引き続き、各学校や各教育委員会の取組を支援していきたいと思います。
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