平成13年11月19日
中央教育審議会
初等中等教育分科会
教員養成部会
教員免許状の総合化・弾力化について検討するに際し、教員免許制度の現状を概観し、総合化・弾力化との関係を整理する。
教員免許状の総合化は、現在の学校種別の免許状を複数校種で一括りとすることなどを意味するが、これは学校種別となっている現行免許制度の根本を変更することを迫る課題である。一方、教員免許状の弾力化は、現行の相当免許状主義を原則としつつ、その例外措置を講ずることを意味するが、現行制度上認められている以下の例外措置は、現行制度上、既に教員免許状が弾力化されている例ということができる。
社会的経験を有する人材を学校現場に招致するため、特別免許状制度とともに昭和63年に創設された制度。英会話等の教科の領域の一部又は小学校のクラブ活動等を担任する非常勤講師について、都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て、免許状を有しない者を充てることができる(免許法第3条の2)。
都道府県教育委員会は、ある教科の教授を担任すべき教員を採用することができないと認めるときは、当該学校の校長及び教諭の申請により、1年以内の期間を限り、当該教科についての免許状を有しない教諭が当該教科の教授を担任することを許可することができる(免許法附則第2項)。
小学校、中学校、高等学校又は幼稚園の教諭の免許状を有する者は、特殊教育諸学校の教諭の免許状を有さなくとも、当分の間、盲学校、聾学校又は養護学校の相当する各部の教諭(講師を含む。)となることができる(免許法附則第19項)。
音楽、美術、保健体育又は家庭の教科について中学校の教諭の免許状を有する者は、それぞれの免許状に係る教科に相当する教科の教授を担任する小学校の教諭又は講師となることができる(免許法附則第3項)。
高等学校の工業等の免許状を有する者は、中学校でその免許状に相当する事項を教授する教諭又は講師となることができる(免許法附則第4項)。
盲学校、聾学校又は養護学校若しくは特殊学級において自立活動の教授を担任する教諭又は講師は、いずれかの学校の自立活動の免許状を有する者であれば足りる(免許法第17条の2)。
教員養成を行っている大学においては、複数の校種の教員免許課程の認定を受けている大学があることから、所定の単位を修得することにより、複数校種の免許状を取得する者も多数存在する。
例えば、現職教員のうち、異校種の免許状を保有する割合が高いのは、中学校教諭免許状と高等学校教諭免許状の保有であり、中学校教諭の76.0%が高等学校教諭免許状を保有している。また、高等学校教諭の55.5%が中学校教諭免許状を保有する状況にある(別添資料参照)。
前述のとおり、現行の教員免許制度は、初等中等教育における幼稚園、小学校、中学校、高等学校の学校種の区分に対応した形でその区分が設けられているが、このような学校種別に区分されている教員免許状が、幼児児童生徒の発達状況に必ずしも合わない面も生じてきている。幼児児童生徒の身体の発達に早まりが見られる一方で、幼児児童生徒を取りまく、激しい社会環境の変化の影響を受けて、生活の自立に必要となる行動様式の習得や進路意識の面において遅れがみられ、心身の発達において個人差も広がる傾向が明らかとなっている。また、高等学校への進学率が97%に達するなど後期中等教育が広く普及してきている。このような幼児児童生徒の様々な変化や高等学校への進学率の状況を踏まえたとき、幼児期から高等学校段階までを一貫したものととらえて指導を行うことが必要であり、各学校段階間の連携を一層強化することが求められている。このような観点から、中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成11年12月)において、幼児教育から高等教育までの全体を通じた連携・接続の課題が指摘されている。
同答申を踏まえつつ、教員免許状の総合化・弾力化を検討する背景には、次のような要請がある。
幼稚園と小学校低学年段階の教育においては、幼稚園と小学校が連携し、幼児期にふさわしい主体的な遊びを中心とした総合的な指導から、児童期にふさわしい学習等への移行を円滑にし、一貫した流れを形成することが重要となっており、幼稚園及び小学校のそれぞれの教員が共通の子ども理解を持ち、互いの教育に対して理解を深めることが重要となっている。
小学校と中学校段階の教育については、小学校が全教科担任制であり、中学校が教科担任制であることから、これまで相互の連携・接続が難しい面もあったことは否定できない。しかしながら、小学校と中学校段階においても、児童生徒の心身の発達に応じて一貫性のある継続的な指導を行う必要があることから、相互の連携・接続が重要であることは言うまでもない。特に、小学校高学年は、各自の個性が現れ、興味・関心が分かれる時期であり、児童の授業への関心・集中力を高めるためにも、専科指導の充実を含めた指導方法の多様性が求められている。また、児童の心身の発達に関する変化も生じてきており、これまでの学級担任制を中心としながら、学級担任と専科教員などがチームを組んで指導にあたることも求められている。このような状況に対応するためには、小学校と中学校の双方の経験を持つ教員を一層拡充することが必要となってくる。
中学校と高等学校の連携・接続については、平成11年度からは中等教育学校など中高一貫教育を実施するための制度が導入されたところであるが、事実上全員入学に近づいた高等学校進学率を背景として、カリキュラムや生徒指導に一貫性を持たせる必要性が従来から指摘されている。特に、高等学校の生徒がある教科や科目を嫌いになる契機は、中学校においてその教科・科目に関する理解が不十分なまま卒業し、高等学校でさらに高度な内容を学ぶというケースが多いことも指摘されている。このため、中学校と高等学校の同じ教科を担当する教員が、お互いの指導方法を学ぶことも必要である。なお、中等教育学校の教員については、免許法上、原則として中学校及び高等学校免許状の両方を有することが必要となっている(免許法第3条第4項)。
現在の教員免許状は学校種ごとに分かれているが、以上見てきたように、各学校段階・学校種間の連携・接続を円滑に進めるためには、直接、幼児児童生徒の指導に当たる教員が、一学校種のみならず隣接する学校種においても教授できる資質能力を身に付けることが必要となる。
また、今後の学校教育は、地域のニーズに応じた教育を実施していくことが必要であるが、これを実現するためには、地域の幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の連携が不可欠であることから、各学校間の教員の連携、交流が必要となる。
以上の観点から、教員が他校種で教授できるような弾力的な制度を創設することも必要であるとともに、教員が隣接する学校種の免許状の併有を促進する制度の創設や幼稚園、小学校、中学校、高等学校の学校種を越えた総合免許状の可能性が検討課題となる。
特殊教育については、特に近年、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が急速に進んでいる中で、障害のある児童生徒等の一人一人のニーズを把握し、特別な教育的ニーズに応じた教育を推進することが必要である。このため、障害児教育に関する基本的な専門性を構築しながら、各障害種別に対応した専門性を確保しつつ、多様な障害へ対応することが可能となる総合的な専門性が求められている。しかし、特殊教育諸学校教諭免許状については、本年1月に出された「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告において提言されているように、特殊教育諸学校教諭免許状が盲・聾・養護学校に分かれていることが現実に合わない状況が生じている。今後、複数の障害に対応した専門性と実践的指導力を有する教員を養成するため、盲・聾・養護学校の全ての校種において教授することを可能とする総合的な免許状の創設を検討することが喫緊の課題となっている。
なお、特殊教育諸学校の教員は、小・中学校等の教員のいわゆる基礎免許状に加えて、各学校種ごとの特殊教育教諭免許状の保有が必要とされているが、1.(2)3で述べたとおり、特殊教育諸学校教諭免許状を保有していなくても盲・聾・養護学校の教員となることができる特例が設けられていること等から、特殊教育諸学校教員の特殊教育諸学校教諭免許状の保有率は、盲学校20%、聾学校27%、養護学校52%(平成12年5月1日現在)と低い状況にある。このため、特殊教育諸学校教諭免許状を一本化することにより、盲・聾・養護学校の教員の特殊教育諸学校教諭免許状を保有しやすくし、全体としての専門性の向上を高めることが必要である。
教員免許状の総合化・弾力化については、その検討の背景を2.で概観したとおり、小学校、中学校、高等学校、幼稚園免許状と特殊教育諸学校免許状とに分けて検討することが必要である。
隣接学校種への理解や教員の複数校種での交流を促進するための措置をとることは、各学校段階間の連携を一層強化するため、早期に進めるべき課題である。
現在、小学校においては、人間性を豊かにするために学級担任ができる限り子どもたちと触れ合い、一人一人の子どもを理解することが重要であることから、全教科担任制(「学習集団」と「生活集団」が一致)となっている。一方、前述したとおり、小学校高学年では、専科指導の充実も含めた指導方法(学習集団)の多様性が求められており、チームによる指導を推進する指導方法のあり方が課題となっていることから、小学校における各教科及び総合的な学習の時間の指導の充実を図るため、各学校の事情等に応じ、教科に関する専門性の高い教員が担当できるよう免許制度上の措置を講じることが重要である。平成14年度から実施される新しい教育課程においては、体験的な学習や問題解決的な学習が重視されるとともに、国際化や情報化、環境問題等多様な課題への対応を踏まえつつ各教科の指導を行うことが求められており、小学校においても、教科に関する専門分野についての深い理解を持ち、多様な教授技術を備えている教員を確保し、各教科の指導を充実していくことが必要となっている。例えば、理科については、観察・実験などの過程や得られた結果について考察する中から、科学的な見方や考え方を育成するという特徴を持っており、また、近年の理数離れと指摘されている状況に対応し、児童の興味・関心・意欲を引き出す魅力ある授業を展開していく観点からも、発展的な学習を指導するなど各学校の実情等に応じ、高度な専門性が求められる場面もある。本年度から実施されている教職員定数改善計画により、習熟度に応じた少人数指導を支援しているが、こうした場面における専門性の高い教員の確保も早急に対応すべき課題である。
また、平成14年度から小学校において本格的に実施される総合的な学習の時間においては、国際理解、情報、環境、福祉・健康その他の課題について多様な学習活動が行われる。総合的な学習の時間を実施する上では、地域の人々など多様な人材の活用が求められており、その一環として、各学校の必要に応じ、専門性の高い教員を活用していくことが重要である。例えば、国際理解に関する学習の一環として外国語会話等の学習活動を行ったり、情報に関する学習を行ったりすることも考えられるが、小学校の教員は養成段階で専門的にこれらを学んでいないなど、小学校の各教科に含まれていない分野を指導できる教員の確保なども検討課題と考えられる。
したがって、小学校における専科指導等の拡充を図るための措置を講ずる必要がある。
さらに、現行制度では、現職教員が他校種の免許状を取得しようとする場合、教員資格認定試験に合格する方法を除き、教職希望学生と同様、大学等で所要の単位を修得する方法しかない。例えば、幼稚園一種免許状を持つ教員が隣接する小学校一種免許状を取得しようとする場合、平成13年3月の免許法施行規則の改正により履修科目の弾力化が図られたが、それでも大学等で39単位を修得することが必要である。そこで、隣接学校種への理解や教員の複数校種での交流の促進を図るため、現職教員が他校種の免許状を取得する際に、教職経験を評価することによって、その取得を促進する制度の創設を図るべきである。
この制度の創設により、幼稚園教員が小学校の各教科の指導に関する専門性を身に付けて小学校教諭免許状を取得することにより小学校低学年等での指導を行ったり、小学校教員がある特定の教科に関する専門性や生徒指導の専門性を身に付けることにより中学校での指導を行ったり、高等学校教員が教職の専門性を身に付けることにより中学校における指導を行うことがより促進されると考えられる。
これらの制度創設により、学校間連携がさらに促進され、例えば、小学校・中学校の9か年を連続した児童・生徒の心身発達としてとらえた教育課程を実施することや、小学校の専科担当教員と中学校の教科担当教員とのティーム・ティーチングや合同授業、小・中学校間の連続性ある教育課程やカリキュラム編成のための連携協力といった様々な連携を積極的に展開し、地域が期待する学校教育を実施していくことが促進されると考えられる。
各学校段階間の連携を一層強化する方策として、教員が複数校種で教授できるよう学校種ごとの教員免許の総合化が考えられる。
総合化のパターンとしては、例えば、幼稚園と小学校を一括りにする「初等教育免許状」、中学校と高等学校を一括りにする「中等教育免許状」、小学校と中学校とを一括りにする「義務教育免許状」などの形態が考えられる。しかしながら、今すぐにこのような総合化を行うとすると、
特殊教育諸学校免許状の総合化については、21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議最終報告において提言されているように、障害を持つ児童生徒等の重度・重複化等の課題に対応するため、盲・聾・養護学校に区分されている免許状の総合化を早期に行うことが必要である。
教員免許状の総合化に関連して、専修免許状の在り方についても検討することも必要となろう。
専修免許状は、昭和63年の免許法改正により創設された大学院修士課程修了レベルの免許状である。専修免許状は、大学院修士課程修了レベルの資質の高い教員を確保するとともに、一種免許状を有する現職教員が専修免許状を取得する道を開くことによりその研修意欲を助長することをねらいとして創設されたものであるが、処遇面を含めその位置づけが必ずしも明確でなかったことから、現職教員の保有率は、小学校教員が0.9%、中学校教員が1.7%、高等学校教員が28.0%(平成10年度)と低い割合に留まっている。
専修免許状については、従来から、例えば、学校教育専修の科目の修得で教科ごとの一種免許状が専修免許状になる現行の方式は専門性の観点から疑問が呈されてきた。このため、専修免許状はある特定の分野の単位を修得した場合に取得するものとし、その修得単位の分野を適切に示すものとするよう改善すべきである。専修免許状を教員の専門性を表すものとするためには、教員免許状の種類として、現在の一種免許状及び二種免許状を基礎となる免許状として、当該教員の教授可能な学校種及び教科を示すものとし、専修免許状は、当該教員の得意分野を示すものとして再構築することが必要である。この場合、教員は、基礎となる免許状の1種類、又は、基礎となる免許状と専修免許状の2種類の免許状を持つことになる。
また、専修免許状は、現行の学校種別の区分を廃止し、専攻分野別の区分(例えば、理科教育、環境教育、生徒指導等)として専門性を明確にすることが必要である。専修免許状は専門分野別となるため、複数の取得が可能となる。
さらに、専修免許状の取得要件として一定の現職経験と教育職員検定を課すことにより、教員としての実践的な指導力や専門性を更に高めることができることなどから、専修免許状取得者について将来の給与面等における処遇の改善に資することが期待できる。このような専修免許状にかかる制度改正を行った場合、学部から直接大学院修士課程へ進学した者については、大学院修了の際に専修免許状が取得できないこととなるが、大学院において必要な単位数を修得した者については、採用後の現職経験と教育職員検定のみで専修免許状を取得できるとする方法を設けることも考えられる。
専修免許状の改善に際しては、免許取得のために必要単位を修得する大学院修士課程のカリキュラムの改善も不可欠となってくる。教員が大学院修士課程において学ぶ意義としては、例えば、
等が考えられる。大学院修士課程を修了した教員が真に教育現場の求める力量を備えるためには、大学院修士課程において、今述べたような点について教員が専門的な資質能力を身に付けるような実践的な教育が行われることが必要であり、この点については、教員養成を行っている各大学の取組に期待するところである。
以上のような専修免許状の改善については、専修免許状取得者の処遇改善の見通し、免許状の総合化の検討状況、大学の状況(平成10年及び11年において、平成10年免許法改正による再課程認定を行ったばかりであること等)にかんがみ、専修免許状の種類を専攻分野別の区分とするのは将来的な課題とし、現時点においては、現在の学校種教科別は維持しつつ、専修免許状に、免許状取得のために履修した専攻分野を記載することにより、専修免許状の専門性(教員の得意分野)を明確にすることとする。
学校において様々な得意分野を持った教員が集まり、組織としての力を発揮することが期待されている。専修免許状に専攻分野を明記することにより、それぞれの得意分野を意識した教員配置を促進し、特色ある学校づくりが可能となると考えられる。
1.で述べたとおり、現在、当分の間の措置として、音楽、美術、保健体育又は家庭の教科について中学校の教諭の免許状を有する者は、それぞれの免許状に係る教科に相当する教科の教授を担任する小学校の教諭又は講師となることができることとされている(免許法附則第3項)。この規定については、免許法制定当初は、これらの教科を担任できる教員が不足していたことから当分の間の措置として規定されたものであったが、当分の間の措置とする現在の免許法附則第3項を、相当免許状主義の原則は維持しつつ小学校における専科指導の拡充の観点から見直し、これらに加え、例えば、中学校又は高等学校理科免許状を有する教員が小学校の理科を、中学校又は高等学校数学免許状を有する教員が小学校の算数を担任できるようにするなどの措置を行う。
また、中学校又は高等学校外国語免許状や高等学校情報免許状を有する教員などが小学校の総合的な学習の時間で教授できるような方策を検討する。
なお、以上の措置は、学級担任制や小学校教員の専門性を否定するものではなく、教科専門性の高い教員を小学校で活用することにより、児童一人一人の学習の進展や、学級担任が学習や生活への全体的な支援に専念できることなどを目的としたものである。中学校や高等学校の教員が小学校における授業を担うとしても、小学校段階における教科等の目標やねらい、児童の発達段階等を踏まえ、教員間の連携を密にして指導にあたらなければならないことは言うまでもない。
現職教員が他校種免許状を取得できる機会を拡大し、複数校種の免許状を併有する者の増加を図るため、他校種免許状の取得を促進する制度を創設する。具体的には、教職経験による要修得単位数の軽減を図り、また、免許法認定講習等での単位取得による他校種免許の取得を可能とすることが考えられる。
現在、盲・聾・養護学校の別となっている特殊教育諸学校教諭免許状の総合化については、早急に実現すべき課題として、教員養成部会に専門委員会を設けて具体的な検討を進めることとする。
専修免許状の専攻分野の区分を免許法施行規則に具体的に規定する。区分例として以下のようなものが考えられる。
教育改革が進む中、子どもたちが真に楽しいと感じる学校、楽しいと感じる授業、よくわかる授業を実現することは、保護者や地域住民をはじめとする国民の願いであり、その実現は、学校としての組織的な取組や一人一人の教員の熱意や指導力にかかっていると言って過言ではない。特に、近年の都市化、核家族化等に伴い、総じて家庭や地域の教育力が低下しているが、保護者や地域住民の学校や教員に対する期待は非常に大きくなっている。このような期待が高まる中、昨年12月、教育改革国民会議最終報告において、「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」観点からの提言の一つとして、「教員免許更新制の可能性の検討」が提言された。
今、学校には何が期待され、子どもたちはどのような状況にあるのだろうか。そして、教員には何が求められているのだろうか。
学校には新しい学習指導要領のもと、基礎・基本を定着させ、自ら学び自ら考える力を育成する「真の学力」の向上と「心の教育」の充実が求められている。今の子どもたちは、概して、自分に自信がない、やりたいことが見つからない、自己実現の喜びを味あう機会がないと言われている。子どもたちのやる気を引き出し、良い点を伸ばすことにより、単なる知識の詰め込みではなく、基礎・基本をきちんと身に付けさせ、自ら考える力をはぐくみ、確かな学力を育てることによって、すべての子どもたちがのびのびと多様な個性を発揮できるよう教育していくことが期待される。また、道徳教育の充実や、社会奉仕体験活動・自然体験活動などの体験活動等を促進することによって、心豊かな日本人をはぐくむことが求められる。本年度から実施されている教職員定数改善計画により、少人数授業やティームティーチングなど、子どもたちのニーズに応じた発展的学習や補充的学習のための条件整備が進み、学力向上に向けた指導の充実が課題となっている。同時に、総合的な学習の時間の展開など各学校が特色を生かした教育が一層求められる中で、各教員の意欲や得意分野を発揮する機会が増えていくと考えられる。教員にはこれらの要請に応えられるよう、一層の指導力、力量の向上が求められる。
また、科学技術や社会の急速な変化に伴い、教員としての専門性の維持向上を図るには、教員一人一人の不断の努力と主体的な取組がますます重要になってきている。
一方、児童生徒等に対するわいせつ行為や体罰など一部教員の不祥事は、わかる授業、子どもたちにとって楽しい学校づくりに日々努力している数多くの教員の志気を低下させるとともに、これら一部教員のために教員社会全体が批判に晒されている。たしかに、保護者とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、指導力不足が指摘される教員が存在することも事実である。教員には教材研究をはじめ自己研鑽が不可欠であるのにもかかわらず、研修に消極的な教員の姿も一部見られる。さらに、複雑な要因が絡み合ってはいるものの、いじめ、不登校、校内暴力等の問題行動が深刻な状況にある。保護者や地域住民の期待に学校や教員が十分に応えきれておらず、大きな期待の裏返しとして不信感を生んでいることも否定できない。地域に開かれた学校づくりを進め、保護者等への説明責任を果たせるようにしていくことが課題であろう。
多くの教員が子どもたちのために一生懸命努力し、また、緊張感を持って日々の教育活動に臨んでいる一方で、いわゆる問題教員の存在、保護者とのコミュニケーション不足、家庭でのしつけ不足や教育力低下、学校や教員に対する過大な期待などが相まって、学校や教員をめぐるある種の閉塞感のようなものが生じており、それを打開する方策が求められている。
以上のような教員をめぐる状況を踏まえ、我々は、教員免許更新制の導入の可能性を議論するに当たって、次のような視点を設定し、検討することとした。すなわち、今教員に求められているのは、1.教職への使命感、情熱を持ち、子どもたちとの信頼関係を築くことのできる適格性の確保であり、2.教科指導、生徒指導等における専門性の向上である。そして、これからの学校に求められるのは、説明責任を果たすことを通じての3.信頼される学校づくりであると考える。このような学校づくりを支えるべき教員には、1及び2の教員の適格性の確保や専門性の向上を当然としつつも、新たな資質能力が求められているのではないかと考えられる。
本部会としては、教員免許更新制の導入の目的を、これら三つの視点のうち個々の教員の基本的な資質に直接かかわる上記1及び2の二つに置いて制度を想定し、その導入の可能性を検討した。また、これら三つの視点について検討を行い、教員の資質向上に向けて実効性ある具体的方策を模索した。我々は、一部の適格性を欠く教員には厳しく対処していく一方、とかく閉鎖的であるとされる学校組織や教員社会によい意味での緊張感を醸成し、子どもたちのために日々地道に努力している教員を適切に評価することによって、多くの教員の志気を高めその専門性の向上を促したいと考えている。
教員免許更新制の可能性を検討するに当たり、まず、国立学校及び公立学校の教員の適格性確保や専門性向上に関わる現行の制度について概観する。
任命権者である都道府県・指定都市教育委員会が、教員として有すべき知識・技能を判断するための学力試験及び人物を判断するための面接試験等を中心とした選考を実施し、教員として適格性のある者を教員の職に任命している(教育公務員特例法第13条)。近年、採用の段階で教員にふさわしい優れた人材を確保するため、採用選考の在り方を人物評価重視の改善が進んでいる。
国家公務員の勤務評定制度については、国家公務員法第71条及び第72条、それに基づく人事院規則10-2(勤務評定の根本基準)等において、地方公務員の勤務評定制度については地方公務員法第40条において定められており、職員についての勤務成績を評定し、人事管理の資料として活用されることとなっている。
なお、公務員の人事評価システムについては、本年3月に人事院の「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」が「公務員の新人事評価システム」について報告書を取りまとめている。この報告書においては、公務員のための新人事評価システムが提案されており、新たな評価システムの必要性や、評価システムの機能や構成、評価結果の人事管理諸制度への活用の方向から、評価の具体的な仕組み、実施方法や評価票及び導入に当たっての手順や支援体制の整備まで、幅広い検討の結果が示されている。
また、昨年12月に公務員制度改革を含む行政改革大綱が決定され、これに基づき、本年1月から行政改革担当大臣の下で、その具体的な検討が行われている。本年3月には「公務員制度改革の大枠」、本年6月には「公務員制度改革の基本設計」が示されており、今後、本年12月を目途に「公務員制度改革大綱(仮称)」が策定されることとなっている。この「公務員制度改革の基本設計」においては、能力等級制度の導入、給与制度の改革とともに、任用・給与等の人事管理システム全体を能力・実績に基づくトータルシステムとして機能させることをねらいとして、現行の勤務評定に替え、「能力評価」と「業績評価」からなる公正で納得性の高い新たな評価制度の導入が掲げられている。
一般職の公務員の採用は、全て条件付のものとし、その職員がその職において6か月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに初めて正式採用となる(国家公務員法第59条、地方公務員法第22条)。教員については、教育公務員特例法により1年間となっている(同法第13条の2)。
公務員組織内における秩序維持のために一定の義務違反に対してその責任を追及し制裁を科すること。職員に、1.法令違反、2.服務義務違反又は職務怠慢、3.全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合において、戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。
勤務実績がよくない場合等一定の事由がある場合には、職員の意に反する身分上の変動(免職、降任、降給、休職)をもたらす処分(国家公務員法第78・79条、地方公務員法第28条)。
分限免職又は分限休職までには至らないが、児童生徒への指導が不適切である県費負担教職員について、研修等必要な措置が講じられたとしてもなお児童又は生徒に対する指導を行うことができないと認められる場合には、市町村立学校の教員を免職し、引き続き都道府県の教員以外の職に採用することができる制度(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第47条の2)。平成14年1月11日から施行される。
なお、指導力が不足している教員等については、継続的な観察・指導を実施して研修を行う体制を整えるとともに、必要に応じ分限制度を的確に運用することが必要である。このため、文部科学省では、平成13年度には、このような教員に対応する人事管理システムを構築するための実践的な調査研究事業をすべての都道府県・指定都市教育委員会に委嘱して実施している。
教員は職責遂行のため絶えず研修に努めなければならず、任命権者は計画的にその実施に努めなければならないこととされている(教育公務員特例法第19条)。これは、教員の資質能力が養成、採用、研修の各段階を通じて伸長が図られるものであり、現職教員段階においては、大学での養成段階で身に付けた資質能力を、職務と研修を通じて教員としての力量をさらに高めることが求められるからである。
このため、教員の任命権者である各都道府県・指定都市教育委員会をはじめとして各教育委員会において、初任者研修、教職経験者研修等の教職経験に応じた研修、職能に応じた研修、専門研修等様々な体系的な研修を実施している。
各都道府県・指定都市教育委員会等が実施している現職教員に対する研修の概要は、以下のとおりである。
初任者の時期は、大学における養成段階と学校現場における実践とをつなぐ重要な時期であり、この時期に教職への自覚を高め、自立した教育活動を展開していく素地をつくるため、組織的、計画的な教職研修を実施する必要がある。こうした認識の下、国・公立学校の教員の現職研修の最初の段階に位置付けられる制度として、昭和63年に初任者研修制度が創設され、平成元年度から学校種ごとに段階的に開始され、平成4年度からは、小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校の教諭の初任者を対象に実施されている。
初任者研修においては、指導教員の指導・助言による校内研修(週2日・年間60日程度)及び教育センター等における受講、他校種参観、社会教育施設・社会福祉施設等の参観、ボランティア活動体験等の校外研修(週1日・年間30日程度)が実施されている。
教職経験に応じた研修は、初任者研修とともに研修体系の基本を成すものと位置付けられ、5年、10年、20年等といった一定の教職経験を有する教員全員を対象として実施されている。
各都道府県・指定都市における教職経験者研修の実施状況は、平成12年度小・中学校教諭について見ると、59県市中、5年経験者研修は全県市、10年経験者研修は49県市、15年経験者研修は21県市、20年経験者研修は7県市で実施されている。
内容面に関しては、平成12年度の講座数でみると、5年経験者研修では教科指導が、10年経験者研修では教科指導及び情報教育が、15年経験者研修では生徒指導・教育相談が重視されている。また、管理職に近い20年経験者研修では、学校経営及び情報教育に関する研修の割合が高くなっている。
中堅教員の研修には、職能に応じた研修としての主任研修や教科に関する専門的な知識・技能を身に付けることを目的とした専門研修などがあり、主として各都道府県・指定都市教育委員会が実施している。国レベルにおいても、中堅教員を対象とした中央研修講座を実施している。
管理職研修は、校長、教頭及びそれらの候補者を対象に実施する研修で、主として各都道府県・指定都市教育委員会が実施しているが、国レベルにおいても、校長及び教頭を対象とした中央研修講座を実施している。
近年、視野の拡大、対人関係能力の向上等を目的として教員を民間企業、社会福祉施設等学校以外の施設等へ概ね1か月から1年程度派遣して行う長期社会体験研修の機会が拡大しており、平成12年度は49県市で956人の教員が派遣されている。
教員の自主的・主体的研修活動の機会を拡充するため、国公立学校の教員が、大学院等で学び専修免許状を取得するため、1年から3年の間休業することができる大学院修学休業制度が平成12年4月の教育公務員特例法等の一部改正により創設され、平成13年4月現在、全国で155人の教員がこの制度により大学院に修学している。
国立、公立、私立に共通のものとしては、現職教員の研修意欲を助長し、資質能力の向上を図るため、教育職員免許法において、所定の在職年数と免許法認定講習等による単位取得により、教育職員検定で上位の免許状を取得できることとなっており、現職教員の研修等が免許状に反映される仕組みとなっている。
現職研修の見直しについては、平成11年の教育職員養成審議会第3次答申において、現職研修の現状、問題点を指摘した上で、具体的改善方策を提言している。具体的には、初任者研修については、校内研修の実施体制が確立していなかったり、その内容が画一化している例があることなどの問題点を指摘した上で、初任者の指導教員が指導事務に専念できるよう適切な校務分掌等の措置を講ずることや、校内研修の内容を個々の初任者の経験や力量に応じたものにすることなどの改善方策を提言している。また、教職経験者研修についても、その内容・方法が画一化され、教員のニーズに応じた研修の機会が少ないことなどの問題点を指摘し、教員のニーズや学校の課題等に応じて多様な選択ができるようにするなど今日的な観点から内容・方法の見直しを図ることなどの改善を各教育委員会に促している。
国立学校及び公立学校の教員の適格性確保や専門性向上に関わる現行制度の概要は以上であるが、私立学校の教員においては、使用者の判断により、採用、人事管理等を通じてその適格性の確保や、研修を通じてその専門性の向上が図られている。
教員免許更新制とは、免許状に有効期限を設け、一定の要件を満たした教員に免許状を再授与する制度である。これにより、教員の適格性を担保することや、専門性などの向上を図ることに主たる目的があると考えられる。そこで、教員免許更新制の可能性について検討する視点として、その目的を、1.教員の適格性確保に置く場合と2.教員の専門性向上に置く場合とに分けて、その仕組みを想定し検討する。
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し、更新時に教員としての適格性を判断する制度の可能性について検討する。教員の適格性確保を目的としたより現実的な更新制の可能性を検討するため、併せて仮免許制度の可能性についても検討する。
この制度について検討した場合、次のような制度上、実効上の問題がある。
(制度上の問題)
(実効上の問題)
<仮免許制度の可能性>
適格性を有さない教員を排除するための制度として、いわゆる仮免許状制度が考えられる。これは、最初に授与を受けるのは更新不可の仮免許状とし、一定期間の勤務を経て本免許状を授与するものである。これについては、2.(1)1において説明したとおり、現在も国立学校及び公立学校の教員については採用後1年間の条件付採用制度が設けられており、仮免許制度を仮に導入した場合、条件付採用制度との関係が問題となり、いたずらに制度が複雑となる。この点については、まず、条件付採用制度の厳格な運用が求められると考えられる。なお、更新制の導入は、採用直後の教員よりもむしろ一定の教職経験を経た教員を対象として検討することが期待されているものであり、この点においても、仮免許状制度導入で対処することには限界があるものと考えられる。
免許状にある一定の有効期限(例えば10年間)を付し、更新時までに教員に新たな知識技能を修得させるための研修を義務付けることにより免許を更新する制度の可能性について検討する。
仮に、教員の専門性向上を目的とした更新制の導入が可能であるならば、意義があることから、更に内容の濃い研修を行うために現職教員に限定してできないか、この場合において、専門性の向上という導入目的から、一律の研修ではなく、個々の教員の実態(指導力等)に応じて研修の内容に差異を設けることができないかについても併せて検討する。
さらに、現行免許法に規定されている上進制度を活用した更新制の可能性についても検討する。
この制度について検討した場合、次のような制度上、実効上の問題がある。
(制度上の問題)
(実効上の問題)
3.において教員免許更新制の可能性の検討を行ったが、現時点において、1.適格性の確保又は2.専門性の向上のいずれの目的を達する成案を得ることができなかった。しかし、教員免許更新制の可能性の検討にあたり設定した三つの検討の視点、すなわち1.で述べた1.教員の適格性の確保、2.専門性の向上及び3.信頼される学校づくりの三つの視点を、教員の資質向上にかかる課題ととらえ、これらの解決に向けての取組が必要ではないかと考えた。そこで、国立学校及び公立学校の教員に関する制度を中心にいくつかの具体的な提案を行いたい。これらはそれぞれ単独のものとしてではなく、総合的に展開されることによって、より実効性あるものとなり得ると考える。
免許更新制の導入目的のうち、指導力が著しく不足する等、教員として適格性に問題があるものを教壇に立たせないようにすることについては、更新制度ではなく、現行の分限制度等の的確な運用によって対応することが適切である。そのため、全ての都道府県・指定都市教育委員会において指導力が不足する教員等に対する人事管理システムを早急に構築すべきであり、現在文部科学省が都道府県・指定都市教育委員会に委嘱して実施している実践的な調査研究事業等を通じて、人事管理システムを構築するための取組が着実に進められるよう提言する。
現在、現職教員の免許状の取上げは懲戒免職の処分を受けた場合で、かつ、その情状が重いと認められるときに限られている(免許法第11条)。この趣旨は、現職教員の身分保障の観点から規定されているものであるが、情状が重い場合に限られていることから、例えば、教員が児童生徒にわいせつ行為を行って懲戒免職された場合であっても、任命権者の判断により免許状を取り上げないケースもみられた。しかし、懲戒免職となった教員については、全て免許状の取上げ処分とすることについても検討すべきである。
また、勤務実績が良くない場合、心身の故障のために職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合又はその職に必要な適格性を欠く場合(国家公務員法第78条第1号、第2号又は第3号、地方公務員法第28条第1項第1号、第2号又は第3号)に該当し分限免職の処分を受けた教員についても免許状の取上げ処分とすることを検討すべきである。さらに、現行法上は免許状の取上げから再授与を受けられるまでの期間が2年とされている(免許法第5条)が、教員として不適格な者が2年間で教職に復帰できる可能性があるというのは適当でない。
したがって、現行の免許法において、1.現職教員については、「懲戒免職の処分を受け、その情状が重いと認められるときに限る」とされているが、「その情状が重いと認められるとき」を要件からはずすこと、2.現職教員が、国家公務員法第78条第1号、第2号若しくは第3号又は地方公務員法第28条第1項第1号、第2号若しくは第3号に基づき、分限免職の処分を受けた場合には、免許状を取り上げることができるものとすること、3.現在は2年とされている取り上げられてから授与を受けることができるまでの期間を延長することを他の制度との整合性や私立学校教員への適用の在り方を考慮しつつ検討することを提案したい。
2.(1)で述べたように、近年、採用の段階で教員にふさわしい優れた人材を確保するため、各都道府県教育委員会等で採用選考の在り方を人物評価重視の改善が進んでいる。より適格性を有する教員を確保するため、教員採用に際しては、教育職員養成審議会第3次答申で提言されているとおり、学力試験については一定の水準に達しているかどうかを評価するために活用することにとどめ、面接試験を重視したり、様々な社会体験や、ボランティア経験や教育実習以外の学校現場体験を評価するなど、各都道府県教育委員会等において選考方法をより一層工夫することにより、教員志望者の人物を重視する方向で選考方法の一層の改善を推進することが必要である。
更新制の導入目的のうち、専門性の向上については、これまで任命権者である都道府県教育委員会等を中心に研修の体系化に努めてきたところであるが、教員のライフステージに応じた研修をさらに推進するために、任命権者が教員の資質能力の変化に対応して研修を実施するための制度を設けることが必要と考えられることから、新たに採用されてから教職経験10年を経過した全教員に対する研修を構築することを提言する。今後、関係者の意見も聴きつつ、さらに内容を実効あるものとしたい。
なお、今回提言するのは、国立学校及び公立学校の教員についてであるが、私立学校においても教員のライフステージに応じ適時適切な研修を実施することが期待され、また、下記に提案する研修に私立学校教員の参加の機会が与えられることが望まれる。
教員のライフステージを考えたとき、教職経験の各段階に応じた資質能力が求められる。これについては、平成11年の教育職員養成審議会第3次答申の2.3.において、初任者段階、中堅教員段階、管理職段階に分けて具体的に記述されている。
このような教員のライフステージを念頭に置いた場合、初任者段階から中堅教員段階に進んでいく期間における資質向上が特に重要と考えられる。すなわち、中堅教員の段階においては、学級担任、教科担任として相当の経験を積んだ時期であり、学級・学年運営、教科指導、生徒指導等の在り方に関して広い視野に立った力量の向上が必要であり、若手教員への助言、援助など指導的役割が期待される。この段階に進んでいく期間において、教員は、一般に、様々な経験を通じることによって、教科指導や生徒指導等に関し、基礎的・基本的資質能力を確保し、一定の自信を持って臨むことができる力量を備えるとともに、各人の得意分野づくりや個性の伸長を図り始めていくのであり、また、それが強く求められている。また、これからの学校運営に必要とされるマネジメントや下記(3)で述べる学校の説明責任に関する素養もこの段階で身に付けることが必要である。
また、2.(4)に述べたように、教育職員養成審議会第3次答申において、現在各都道府県教育委員会等で実施されている教職経験者研修については、その内容・方法が画一化され、教員のニーズに応じた研修の機会が少ないことなどの問題点が指摘されており、この点からも改善のための具体的方策が必要である。
さらに、科学技術や社会の急速な変化に伴い、教員としての専門性の維持向上を図る観点から、一定の期間ごとに変化に対応するための研修を行うことも必要である。
このため、この中堅段階に進んでいく期間の中でも、特に重要な時期である教職経験10年を経過した教員に対し、勤務成績の評定結果や研修実績等、教員のニーズ等に応じた研修を各任命権者が行うものとする。すなわち、一定の力量を備えた教員に対しては、さらに指導力を高めるための研修や、これからの学校や教員に求められるマネジメントや学校の説明責任に関する素養を身に付ける研修などその得意分野づくりを促し、苦手分野や弱点を抱えている教員に対しては、その分野の必要な指導力等を補うことのできるような、個々の教員の力量に応じた研修を各任命権者において実施することとするものである。この研修においてなお指導力の改善を要すると認められた教員については、更にその指導力を高めるための個別の研修を行うことも可能であろう。これらの研修の具体の実施については、各都道府県教育委員会等の実情に応じ、教職経験10年を経過した者ではなく、例えば11年を経過した者を対象とすることも考えられ、実施時期についても一律にではなく、一定の期間(例えば、数年程度)内に該当する全ての教員に対する研修が実施されるよう計画的に進められることが考えられる。
また、これらの研修は教育センター等において各都道府県教育委員会等が自ら実施するものに限らず、大学・大学院等との連携に基づき大学・大学院等の授業参加を研修に位置づけたり、民間組織等が開設する研修コース等を活用することによって、個々の教員の力量の向上のための研修プログラムを多彩かつよりきめ細かく整備することができよう。国においても、このような研修プログラムの整備のために財政的支援等適切な措置を講ずることが求められる。
このように、この新たな教職経験10年を経過した教員に対する研修については、次のような点において従来型の教職経験研修とは内容を異にする。
学校現場における様々な教育課題に真摯に対応するために日々研鑽に努めている教員も少なくない。教員には、教育公務員特例法により研修に関する努力義務が課されており、個々の教員が自らの力量を高めていくためには、職務命令による研修だけではなく、このような教員自らの自主研修を奨励することが重要であることは言うまでもない。他の職業人が自己能力伸長のため様々な研修に自費で参加しているように、教員においても、勤務時間外などを積極的に活用し、自費で様々な研修に取り組むことが求められる。教員の自主研修を支援する大学と教育委員会との連携による取組も一層促進されることを望みたい。
研修実績については、例えば、大学院修学休業制度や科目等履修制度を活用した大学院での学修、青年海外協力隊への参加など社会貢献活動、新たな教員免許状の取得、民間組織等の開設する研修への参加によって得られた資格の取得なども考慮されるべきであろう。このような資質向上に向けての教員の自発的な取組にも期待したい。
また、各教員の研修実績については、研修歴を作成し、これを自己努力と得意分野を示す一種の研修修了書や研修証明書として活用することも考えられる。この修了書や証明書については、特色ある学校づくりを進めている学校への教員の赴任希望申告として活用したり、保護者や地域住民に自らの得意分野をアピールし社会的評価を得る資料として活用する方策を今後検討することが望まれる。校長にも学校運営の中で個々の教員の研修成果が校務分掌等に生かされるよう努めることが求められる。このような取組とも相まって、10年経験教員研修の導入が、教育職員養成審議会の提言する方向に沿った初任者研修を起点とする既存の研修体系の見直しや、教員の自主研修の一層の活性化を促進するものと考えられる。
ここで、研修の評価の必要性について強調しておきたい。これまで初任者研修をはじめ任命権者等の実施する研修や、個々の教員の自主研修について、研修やその成果についての評価が十分になされてきたとは言えない。
研修については、その成果について評価し、個々の教員に対するその後の指導や研修の在り方にフィードバックすることが求められる。
研修成果は一般に研修後の教員の授業や学級経営等の諸活動において力量の向上がみられたかどうかによって測られるものであり、研修後の勤務実績の評定が適切に行われ、その後の教員に対する指導や研修計画に生かされるよう努めることが必要である。研修内容によっては、例えば、情報機器の操作など、研修により身に付けた知識技能を当該研修の過程で測ることが可能と考えられものがある。このような評価についても積極的に行い、その後の教員に対する指導等に生かしていくことが必要である。
また、研修後の教員に対する評価結果を研修の在り方の検討に反映させ、研修プログラムを不断に改善していくことが求められる。
これらの研修やその成果についての評価については、1で述べた10年経験教員研修においても適切に実施されることが必要であろう。
なお、個々の教員の自主研修についても、校長は計画段階及び事後に報告を受け、その努力について適正に評価するとともに、教員の自主研修計画に適切な助言を行うことが望まれる。
これからの学校は、校長のリーダーシップのもと、多様な得意分野を持った教員が集まり、教員以外の専門性を有する職員と一緒になって、組織として力を発揮するとともに、地域に開かれ、地域と連携し、地域を挙げての学校づくりがますます重要となってきている。信頼される学校づくりには、学校は保護者や地域住民に積極的に情報を公開し、双方向のコミュニケーションや共通理解を得る努力が不可欠である。特に、各学校が地域の実態等を踏まえた特色ある教育を展開するためには、学校は教育目標や教育計画だけではなく、その目標の達成状況、例えば、子どもたちに目指す学力が身に付いたかなどについても保護者や地域住民に説明し、その理解を得る責任があることをしっかり認識する必要がある。そのことによって、保護者や地域住民は学校の力強いサポーターとなり、学校運営や学校の諸活動をともに支えてくれると考えられるからである。学校は閉鎖社会であるといった指摘や、学校組織や教員には緊張感が欠けているのではないかといった指摘がある。しかし、保護者や地域住民への説明責任を果たすよう努めることにより、共通の目標達成に向けての一体感が学校組織の中に生まれるであろう。また、このような信頼される学校づくりに向けた取組が、個々の教員の資質向上に極めて緊密な関係を有しており、それに大変資するものであるといえる。
ここで、10年経験教員に対する研修をはじめ、自己研修を含む各種の研修と信頼される学校づくりとの関係について述べておきたい。教員の専門性向上を目指した研修成果は、個々の教員の力量だけではなく、組織としての学校づくりにも現れる。
校長や教員には説明責任を果たす力量の向上が不可欠であるが、このような力量は、組織としての学校づくりを進める中、主に日々の職務によって形成し得るものであり、それに勝るものはない。また、学校が日常的に地域に開かれ、外から常に観られる環境にあることも必要である。このため、学校と学校外との双方向のコミュニケーションを拡充することが必要であり、次のようなことが求められる。
学校の教育方針を保護者が知ることができるのは、まず、学級担任を通してであろう。学級担任は学校及び学級の教育目標、授業の進め方や子どもたちの様子やその成果についても保護者に十分説明し、保護者の意向も把握しつつその理解を深める日常的な努力が極めて重要であり、校長のリーダーシップに期待するとともに、教員一人一人の説明責任を果たす力量の向上が必要である。
また、学校の教育方針・教育方法や学級経営などについての情報は通常、定期的な学校便りや学級通信等によって保護者等に伝えられている。このような情報提供を行うに当たっては、学校として伝えたい情報だけでなく、保護者等の立場からみてどのような情報が求められているかを十分考慮して行われることが必要である。今後、インターネットを活用した保護者を含む地域住民への情報提供も充実することが求められる。
保護者や地域住民の学校への理解を深め、その信頼が得られる学校づくりには、予定された日時ではなく、いつでも保護者や地域住民が観にこれるよう、授業の公開を拡大していくことが最も効果的な方策であると考える。真の学力、たしかな学力を子どもたちにはぐくみ、心の教育の充実が求められている中で、教員としての力量を最も発揮しうる授業がいつでも観られる環境をつくっていくことにより、教員や学校への信頼が深められると考える。保護者や地域住民のサポートが必要であれば、なおさら、学校や子どもたちの様子をありのままに観てもらいその協力を求めていくことが不可欠である。
地域住民等が学校運営に参画する仕組みである学校評議員制度等については、その設置が一層促進されることが望ましい。また、学校評議員の活動に資するよう、校長は学校評議員に対し学校の活動状況等について十分説明を行って、学校の教育方針・教育目標や成果についての共通理解を図るとともに、学校運営に対する提案や提言をもらうよう運営されることが必要である。そのような運営によって、学校の力強いサポーターが生まれ、サポーターとしての意識の高まりも期待できる。
我々は、以上述べてきたようなコミュニケーションの成立を確実にするため、学校の自己点検・自己評価の実施とその結果を保護者や地域住民等に公表する学校評価システムを早期に確立することを提言する。各都道府県教育委員会等において、学校や地域の実情に応じた評価を行うための具体的方策について、先進的な取組を参考にしつつ、調査研究を進めることを提案したい。そして、自己点検・自己評価の実施とその結果の公開の進展にあわせ、外部評価が加味され、外部評価の導入へと段階的に進展することを求めたい。
今後、保護者や地域住民とのコミュニケーションの在り方や公開授業等の場面において、教員個々の力量や学校としての取組が日常的に外部評価を受けることになり、よい意味での競争原理が働き、力量ある教員やしっかりした取組をしている学校は、その意欲と努力が外からも評価されることになる。
学校教育の成否は何よりも教員の在り方にかかっている。教員がその資質能力を向上させながら、それを最大限発揮するためには、教員一人一人の能力や実績等が適正に評価され、それが配置や処遇、研修等に適切に結びつけられることが必要である。このため、各都道府県教育委員会等において教員の勤務評価について、公務員制度改革の動向を踏まえつつ、新しい評価システムの導入に向け、早急に検討を開始することを提言する。努力し、成果を挙げている教員が適切に評価されることによって、教員は自信を持って、わかる授業や子どもたちにとって楽しい学校づくりにさらに努力を傾けることができよう。
「教員免許状の総合化・弾力化」の1.(1)2で述べたように、教職の高度な専門性から、相当免許状主義がとられており、教員養成は大学での養成を原則としているところである。
一方、今日、学校教育において、情報化、国際化等の社会の変化に対応し、児童・生徒の多様な興味・関心に積極的に応えつつ、児童・生徒に生きた社会に触れる機会を与え、社会との関わり方を身につけさせていくことは極めて重要な課題となっている。このような課題に的確に対応していくためには、優れた知識・技術をもつ学校外の社会人を学校教育に積極的に活用していくことが必要である。とりわけ総合的な学習の時間の導入など「生きる力」の育成をめざす新しい学習指導要領の実施に向け、その必要性は増しており、教職に関する専門性を有する教員に加え、学校外の優れた社会人の力を借りることが不可欠となってきている。また、このことは学校組織について、我が国の社会システムに共通の弱点を抱えるいわゆる同質社会を揺り動かし、その活性化に資するものと考えられる。
現行の免許法上、社会人活用のための制度としては、以下の制度がある。
大学での養成教育を受けていない者に、都道府県教育委員会の行う教育職員検定により免許状を授与する制度であり、昭和63年の教育職員免許法の改正により制度化された。
特別免許状は、1.学士の学位、2.担当する教科の専門的知識・技能、3.社会的信望、熱意と識見を持つ者に対し、4.その者を教員として任命又は雇用しようとする者(教育委員会、学校法人等)の推薦に基づき、学識経験者(認定課程を有する大学の学長又は認定課程を有する学部の学部長、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、盲学校、聾学校又は養護学校の校長及びその他学校教育に関し学識経験を有する者)からの意見聴取を経て、教育職員検定により授与されることとなっている。
特別免許状の効力については、5年以上10年以内で教育委員会規則で定める期間、授与した都道府県内のみで有効である。なお、平成12年の免許法改正により、特別免許状を有する教員が、3年以上の在職年数と所定の単位(中・高の専修免許状の場合25単位)の修得により普通免許状を取得できることとなった。
しかし、特別免許状は、制度創設以来、平成12年度までで延べ44件しか授与されていない。
社会的経験を有する人材を学校現場に招致することを目的として、英会話等の教科の領域の一部又は小学校のクラブ活動等を担任する非常勤講師について、都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て、免許状を有しない者を充てることができる制度(免許法第3条の2)であり、特別非常勤講師は年々増加しており、平成12年度においては、前年と比べ約3,000件増の約11,600件となっている。
教員の養成は大学において行うことを原則としているが、このような方式だけでは、1.教員として適当な資質能力を有する者をすべての分野に十分確保するには困難な面もあること、2.大学等に在学中に教員の免許状取得に必要な単位を修得しなかった者や大学等に進学しなかった者の中にも、職業生活や自己研修などにより教員として必要な専門的学力などを身に付け、教職を志すに至る者も少なくないと考えられることなどから、小学校、高等学校の教科の一部(看護、情報、福祉)又は教科の領域の一部(柔道、剣道、情報技術、建築、インテリア、デザイン、情報処理、計算実務)、特殊教育に関する免許(盲・聾・養護学校の自立活動)について文部科学省が資格試験を実施し、それに合格することにより免許状を授与している(免許法第16条の2)。
特別免許状を授与した社会人経験のある教員を活用する具体的効果の例は以下のとおりである。
特別免許状を活用した社会人活用が進まない理由としては、
などが考えられる。
一方、学校教育における社会人活用については、様々な分野において、特別非常勤講師制度が活用されており、年々増加している。特別非常勤講師制度の活用が進んでいる理由としては、身分が非常勤講師であり採用が容易であること、講師をする側としても本職を持ちながら教壇に立つことができることなどが考えられる。また、国においても、その活用を促進するため、平成6年度から特別非常勤講師配置調査研究事業、平成13年度からは特別非常勤講師配置補助事業を行い、都道府県教育委員会等に対する財政的支援を行ってきたところである。
特別免許状の授与を促進し、特別免許状による社会人活用を増大していくためには、その授与要件、授与手続及び有効期限について次のような改善を行うことが必要である。
現在特別免許状の授与要件として、学士の学位の要件が課されている。しかしながら、特別免許状の性格が社会人として培った知識・技能を活用するというものであることから、学歴にかかわらずその専門性を評価することが重要である。したがって、今後、特別免許状の授与要件として、学士の学位を求めないこととする。
現在、特別免許状を授与する場合、通常の教育職員検定の手続に加え、学識経験者から意見聴取を行うこととされている。しかしながら、教育職員検定の中においてもそのような意見聴取を行うことが可能であり、また、一律に手続として求めるのではなく、免許状の授与権者として教育職員検定を行う都道府県教育委員会の判断に委ねることができるようにすべきである。
現在、特別免許状の有効期限は、5年以上10年以内で教育委員会規則で定める期間となっており、都道府県教育委員会等でその年数は異なるが、最長で10年となっている。
このように特別免許状に有効期限が付されていることが、授与を受ける側にとって身分について不安感を与え、特別免許状の授与が進まない要因の一つと考えられる。今後、特別免許状の授与を受ける者の身分の安定を図るため、特別免許状の有効期限を撤廃する。
特別免許状の有効期限の撤廃に伴い、教員不足や大学における養成になじまない教科等にかかる教員を確保する目的で実施している教員資格認定試験の見直しの検討が必要となる。例えば、高等学校看護の教員については、現在大学においても養成を行っているが、養成人数が少なく教員不足となっているため、教員資格認定試験を実施し確保している。しかし、特別免許状の有効期限を撤廃することにより特別免許状の授与で制度上代替できることになる。この他、高等学校教科領域一部免許状、小学校二種免許状等も含め、今後の教員資格認定試験の在り方については、廃止することを含めその見直しを行うことが必要である。
現在、臨時免許状の授与要件については、普通免許状を有する者を採用することができない場合に限り、教育職員検定に合格した者に授与する(免許法第5条第5項)こととなっている。このため、普通免許状を有する者は採用できないが、特別免許状を有する者を採用できる場合であっても、臨時免許状を授与して助教諭として任用することが可能である。しかしながら、特別免許状は普通免許状と同じ教諭の免許状であり、特別免許状を授与し採用できる者が存在するにもかかわらず、臨時免許状を授与して助教諭として任用することは適当でないと考えられ、臨時免許状の授与要件を、「普通免許状又は特別免許状を有する者を採用することができない場合に限り」とすることが適当である。この措置により、現在特別免許状を授与できるにもかかわらず臨時免許状を授与していたケースで、特別免許状の授与がまず検討されることとなり、特別免許状の授与の促進につながることになろう。
運用面において、特別免許状の授与を促進し社会人活用を増大していくためには、特別免許状を活用した教員採用の工夫が求められるとともに、非常勤講師に対する特別免許状の授与を促進することが考えられる。
前述したとおり、各都道府県・指定都市の教員採用選考試験においては、現在、ほとんどの県市で教員免許状の所有を前提とした選考を実施しており、教員免許状を持たない社会人にとって教員採用の門戸はほとんど開かれていない。教員免許状の所有を前提とした採用選考においては、教員免許状は取得したが大学卒業後すぐに教職に就かず民間企業等に就職した者を対象とした社会人特別選考を実施している都県も存在するが、通常、教職の専門性を見るための学力試験が実施されており、仮に教員免許状を有する者と同じ試験を教員免許状を持たない社会人に対して実施した場合、教員免許状を有さない社会人は、たとえ教職に対する意欲、適性を有していたとしても、採用試験に合格することは非常に困難と考えられる。
このため、都道府県教育委員会等においては、特別免許状による社会人活用を促進するため、教員免許状を有する者とは別の、例えばその者の民間企業での勤務経験を適切に評価するような、いわゆる教員免許状を持たないことを前提とする「社会人特別選考」の実施を検討すべきである。
これまで、特別免許状の授与実績を教科別に見ると、英語8件、工業7件、商業6件、数学6件、理科4件、宗教3件、社会2件(公民を含む)、看護2件、農業、水産、国語、書道、家庭、保健体育各1件となっている。
特別免許状は、現在、その活用できる教科は限定されていないが、社会人として培った知識・技能を活用するという性格から、活用のニーズが大きいと考えられる分野があると考えられる。例えば、工業、商業、看護などのいわゆる専門教科、英語、理科、社会などの社会での実務経験が強く生かされる分野等であり、このことは、これまで授与された特別免許状の教科からもうかがえる。今後、都道府県教育委員会等において、例えば、工業、商業、看護、理科、公民等の教員について活用を検討すべきである。
特別免許状は制度上、現在でも「教諭」のみならず「講師」に対しても授与が可能となっているが、現在までの授与例では、全て常勤の教員に対してのみ授与されており、非常勤講師には授与された例はない。平成13年3月に公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律が改正され、教員定数を使って非常勤講師が採用できることとなったが、今後、教員定数を使って非常勤講師を任用する場合に、特別免許状を授与して社会人を活用する方策が考えられる。
特別免許状は、教科の一部領域しか教授できない特別非常勤講師とは異なり、教科の全領域を教授するものであることから、非常勤講師についても、特別免許状の活用を促進することが望まれる。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成21年以前 --