資料2 教員養成部会審議経過報告

 中央教育審議会は、本年4月11日に文部科学大臣から「今後の教員免許制度の在り方について」諮問を受けた。その際に、具体的審議事項として、

  1. 教員免許状の総合化・弾力化について
  2. 教員免許更新制の可能性の検討について
  3. 特別免許状制度の一層の活用の促進について

の三つが挙げられた。
 その後、初等中等教育分科会教員養成部会(以下「部会」という。)において関係団体からのヒアリングを行いつつ計13回にわたる審議を行い、中間報告についての本部会としての案を取りまとめ、このたび初等中等教育分科会に報告することとした。この間、鳥居会長及び木村初等中等教育分科会長にも、時間の許す限り、本部会に御出席いただき、審議に参加いただいた。三つの審議事項のうち、「教員免許更新制の可能性」については、特に、教育改革国民会議の最終報告を踏まえた審議事項であることから、本部会における審議経過については、できる限り詳細に報告することとしたい。

 教員の資質向上の課題に関しては、これまでも本部会の前身に当たる旧教育職員養成審議会が数次にわたる答申を行い、それに基づき様々な制度改正等の措置が講じられてきた。まず、これらに関する経過をたどることとしたい。
 昭和61年の臨時教育審議会「教育改革に関する第2次答申」を踏まえ、昭和62年答申「教員の資質能力の向上方策等について」においては、教員の養成・免許制度及び研修にわたる教員の資質向上方策全般について提言がなされた。これを受け、昭和63年に教育職員免許法が改正され、大学院修士課程修了レベルの「専修免許状」の創設とともに、普通免許状を専修免許状、一種免許状及び二種免許状の三種類としたこと等の改正がなされた。また、教育公務員特例法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正により、初任者研修の制度化と教員についての条件付採用期間の延長が行われた。
 その後、平成8年7月「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」の文部大臣からの諮問に対して、3次にわたる答申が行われた。平成9年7月「新たな時代に向けた教員養成の在り方について」(第1次答申)、平成10年10月「修士課程を積極的に活用した教員養成の在り方について」(第2次答申)及び平成11年12月「養成と採用・研修との連携の円滑化について」(第3次答申)である。
 第1次答申は、使命感、得意分野、個性を持ち、現場の課題に適切に対応できる力量ある教員を養成する観点から、教職重視、得意分野づくりの方向で教員養成カリキュラムの大幅な改善、社会人の学校教育における活用の積極的促進等を提言した。この答申を受けた教育職員免許法の改正による新しい教員養成カリキュラムでは、教職の意義等に関する科目の新設や生徒指導・教育相談等に関する科目の充実、中学校の教育実習の延長が図られた。改正法は平成10年7月から施行され、平成12年の大学入学者から新カリキュラムが全面的に適用されている。
 また、第2次答申は、現職教員の資質能力の向上を図るため、可能な限り多くの現職教員が多様な形態で修士レベルの教育を受けることができるよう条件整備を進めるとともに、修士号・専修免許状取得者に対し所要の処遇改善を行うこと等を提言した。この答申を受け、平成12年の教育公務員特例法の改正により、大学院修学休業制度が創設された。
 さらに、第3次答申では、採用選考において多面的な人物評価を一層積極的に行うこと、長期社会体験研修の機会の拡充を図ることなど採用の改善、研修の見直しについての具体的提言や、養成・採用・研修の各段階の取組を円滑に進めるための大学と教育委員会の連携、大学の教職課程の充実と大学教員の指導力の向上について提言を行っている。
 これら一連の答申を踏まえ、国及び都道府県教育委員会等において、その役割分担に応じ、現職研修の体系化をはじめとして教員の養成、採用、研修の各段階における取組を総合的に行い、教員の資質向上のための施策が展開されてきている。

 学校教育の状況においても、近年教育改革の推進により施策が大きく進展している。
 まず、平成10年度に学校教育法施行規則の改正により、学習指導要領が改訂され、完全学校週5日制の下、各学校が「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、子どもたちに学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせるとともに、それを基にして自ら学び自ら考える力など「生きる力」をはぐくむという基本的な考え方に立ち、授業時数の縮減と教育内容の厳選、個に応じた指導の充実、体験的、問題解決的な学習活動の重視、総合的な学習の時間の創設、選択学習の幅の拡大などの改善を図り、小・中学校においては平成14年度から、高等学校においては平成15年度から本格実施されることとなっている。
 平成11年度からは、これまでの中学校・高等学校に加えて、生徒や保護者が6年間の一貫した教育課程や学習環境の下で学ぶ機会をも選択できるようにすることにより、中等教育の一層の多様化を推進し、生徒一人一人の個性をより重視した教育の実現を目指すため、中高一貫教育校が学校教育法等の改正により制度化された。
 また、平成12年4月から施行されている学校教育法施行規則等の一部改正により、学校がより自主性・自律性を持って、校長のリーダーシップのもとで組織的・機動的に運営され、子どもや地域の実情に応じた特色ある学校づくりを展開できるよう、学校評議員制度の導入、校長及び教頭の資格要件の緩和等の制度改正がなされた。
 さらに、平成13年度からは、基礎学力の向上ときめ細かな学習指導の充実を図るため、教科等に応じた少人数指導等の具体的な学校の取組に対する支援を行うこと等を内容とした第7次教職員定数改善計画(公立高等学校については第6次教職員定数改善計画)が実施されている。

 このたびの「今後の教員免許制度の在り方について」の諮問は、先に観た旧教育職員養成審議会の各答申における提言の流れを踏まえ、近年の学校教育の大きな変化等により、教員をめぐり新たに生じている課題を整理した結果、三つの課題に集約されたものと認識しており、これらの課題解決の要請に応えるべく具体的な提言を行うよう努めた。

 「教員免許状の総合化・弾力化」については、早期に対応すべき課題及び中長期的課題に分け、早期に対応すべき課題としては、教員免許制度におけるいわゆる相当免許状主義の原則を維持しつつ、幼・小・中・高の隣接校種間の連携、交流の促進、小学校の専科指導の充実、特殊教育諸学校における児童生徒の障害の重度重複化への対応などの観点から具体的方策について提言した。また、幼・小・中・高の免許状の総合化及び専修免許状の在り方等についても中長期的課題として検討を行った。
 三つ目の審議事項である「特別免許状制度の一層の活用の促進」については、教員免許制度において大学における養成を原則としつつも、学校教育において社会人の協力を得る意義の重要性から、特別免許状について、その活用が進まない理由を分析した上、その活用を促進する具体的方策について、制度面及び運用面の両面から検討を行い提言した。

 そして、「教員免許更新制の可能性の検討」について、我々は、三つの審議事項の中で最も重い課題であると受け止め、慎重かつ精力的に審議を進めた。初等中等教育分科会における審議に資するため、本部会における審議の筋道と姿勢について報告しておきたい。
 本部会には、教育改革国民会議の委員を務められた委員もおられ、同会議において「教員免許更新制の可能性の検討」について、「適性を欠く教員がなぜ学校にそのままいるのか、学校への不信を招く。また、新しい学習指導要領に基づく教育は、教員が旧態依然のままというわけにはいかないのではないか」、「科学技術や社会の急速な変化に伴い、教員には専門性向上の不断の努力が求められ、定期的にチェックする仕組みが必要ではないか」「教員の意欲や努力が報われ評価される体制をつくるべき」といった議論があったと伺っている。我々も同じ思いのもと「今、教員には何が期待され、また、教員がどのような状況にあるのか」等、更新制をめぐる背景を分析し、付託された難しい課題に応えたいと考え審議を行った。
 子どもたちに基礎・基本をしっかりと身に付けさせ、自ら学び自ら考える力をはぐくみ、確かな学力を育てること、このような「真の学力」の向上と「心の教育」の充実の成否は教員及び学校としての取組に一にかかっている。しかし、一方で、一部の問題教員のために教員社会全体が批判に晒され、指導力不足や研修に不熱心な教員、保護者、地域住民とのコミュニケーションが成り立たない学校や教員が不信感を生んでいるのも事実である。そこで我々は教員や学校が国民の期待を受け止める必要があることから、教員をめぐる課題として三つの視点を設定した。1.教職への使命感、情熱を持ち、子どもたちとの信頼関係を築くことのできる適格性の確保、2.教科指導、生徒指導等における専門性の向上、説明責任を果たすことを通じての3.信頼される学校づくりである。
 我々は、このような課題に応えるべく、免許更新制について、複数の制度を描き、実現の可能性を模索した。すなわち、免許更新制の導入の目的を、これら三つの視点のうち、個々の教員の基本的な資質に直接かかわる、1.教員の適格性確保と2.専門性の向上の二つに置いて制度を想定し、その導入の可能性を検討した。
 しかし、本文2の3.で詳述するように、現行制度上の制約などから、更新制の導入にはなお慎重とならざるを得ないとの結論に至った。
 まず、1.適格性の確保のための更新制については、教員免許が大学で教科、教職等に関する科目について所要単位を修得した者に授与されるものであることから、更新時に教員としての適格性を判断するという仕組みはとり得ない等制度上の問題がある。一方、分限処分等は即時に行われるべきことから、分限制度や児童生徒への指導が不適切な教員の他職種への転職制度が適切かつ厳格に適用されるよう、人事管理システムの早期の構築を求めた。人事管理システムについては、各都道府県教育委員会等において、現在実施されている調査研究の実効が期待される段階を待つことになる。
 続いて、2.専門性の向上のための更新制については、もし導入が可能ならばその意義があることから、制度上の困難性を前提としつつも、数百万人の教員免許状保有者全てを対象とするのではなく、内容の濃い研修を行うために現職教員に限定して導入できないか、この場合、専門性の向上という導入目的から、一律の研修ではなく、個々の教員の実態(指導力等)に応じて研修の内容に差異を設けることができないか、といった条件を設定したうえでの考察も行うなど、慎重な検討に努めた。その検討の筋道は本文に譲るが、「なお慎重にならざるを得ない」との結論に至るほかはなかったのである。
 議論の過程では、「更新制は困難との結論を早期に出すべきではない。職務や研修に苦労していない教員が『安堵』することのないよう、更新制はあり得るかもしれないとしておいたほうがよいのではないか」といった意見もあった。実際、「中間報告についての部会案」に至るまで幾度も「素案」を書き換えたが、前述のような実効ある更新制の可能性の検討に時日を要したため、ある時期の「素案」では「現時点において直ちに更新制の可能性に結論を出すことは時期尚早」としていた。このように、更新制の可能性について真摯かつ慎重に検討を重ねたものである。

 「免許更新制の可能性」については、我々は、現時点において、1.適格性の確保又は2.専門性の向上のいずれの目的を達する成案を得ることができなかった。しかし、教員免許更新制の可能性の検討にあたり設定した三つの検討の視点、すなわち1.教員の適格性の確保、2.専門性の向上及び3.信頼される学校づくりの三つの視点を、教員の資質向上にかかる課題ととらえ、これらの解決に向けての取組が必要ではないかと考えた。それらが2の4.における各提言である。これらは単独のものではなく、総合的に展開されることによって、より実効性あるものとなり得ると考える。1.教員の適格性を確保するために、前述の教員の人事管理システムの構築、教員免許状の取上事由の強化、人物重視の教員採用の一層の推進を、2.教員の専門性の向上を図るために、教職経験10年経験教員に対する研修制度の創設、自主研修の活性化、研修実績の活用、研修の評価を、3.信頼される学校づくりのために、新しい教員評価システムの導入、学校の説明責任を果たす取組をそれぞれ提言した。
 例えば、教職経験10年教員に対する研修は、個々の教員の勤務実績、研修実績に応じてそれぞれの教員の専門性の向上につながるよう、いわばそれぞれの研修の「処方箋」に基づき課されるものである。その研修の成果も個々に評価を受ける。研修の成果は研修の内容によっては研修の過程で評価できるものもあろうし、研修後の実際の授業や学級経営等の諸活動において力量の向上がみられたかどうかで評価される。そして、我々は3.信頼される学校づくりのために、学校としての説明責任を果たす取組を強調した。今後、保護者や地域住民とのコミュニケーションの在り方や公開授業等の場面において、教員個々の力量や学校としての取組が外部評価を受けることになる。力量ある教員やしっかりした取組をしている学校は、その意欲と努力が外からも評価されるであろう。このように、各提言が総合的に機能することにより、意欲や努力が不十分であるところには厳しい評価がなされるなど、更新制の趣旨は生かしうるものと考えている。

 以上、初等中等教育分科会においては、本部会における審議の経過、考え方等を踏まえていただきながら、十分な御審議をお願いしたい。特に、24.(2)2において提言している「新たな教職10年を経過した教員に対する研修の構築」については、その内容をより実効性のあるものとするため、さらに議論を深めていただければ幸いである。

 平成13年11月19日

初等中等教育分科会 教員養成部会長
高倉 翔

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

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