資料1-1 第2期教育振興基本計画における現状と課題(素案)

(初等中等教育分科会関係)

はじめに

  • 初等中等教育分科会では、第2期教育振興基本計画が掲げる8の成果目標のうち、特に関係が深いと考えられる「成果目標1 「生きる力」の確実な育成」「成果目標5 社会全体の変化や新たな価値を主導・創造する人材等の養成」「成果目標6 意欲ある全ての者への学習機会の確保」「成果目標7 安全・安心な教育研究環境の確保」を中心に現状と課題を取り上げる。

成果目標1について

  • 教育振興基本計画では、成果目標1に「変化の激しい社会を生き抜くことができるよう、「生きる力」(「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」から成る力)を一人一人に確実に身に付けさせることにより、社会的自立の基礎を培う。また、一人一人の適性、進路等に応じて、その能力を最大限伸ばし、国家及び社会の形成者として必要な資質を養う」ことを掲げている。
  • 「確かな学力」については、平成20年及び21年に改訂された学習指導要領において、いわゆる学力の三要素をバランスよく育むことを目指し、教育目標や内容が見直されるとともに、習得・活用・探究という学習過程の中で、学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動や、他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動等を重視することとされたところである。これを踏まえて、各教育委員会や学校において、学力向上に向けた真摯な取組が重ねられており、その成果の一端は、PISA2012において我が国は調査国中トップレベルであったことに代表されるように、近年改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れていると考えられる。
      一方、例えば、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されることや、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いこと(例として、数学で学ぶ内容に興味があると回答した生徒の割合:32.5%(2003年)→37.8%(2012年)、将来の仕事の可能性を広げてくれるから、数学は学び外があると回答した生徒の割合:42.9%(2003年)→51.6%(2012年)などが挙げられる)など、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。
  • 「豊かな心」については、子供たちの豊かな情操や規範意識、他者への思いやり、社会性、公共の精神などを育むため、新たな教材「私たちの道徳」を作成し、平成26年度より全国の小・中学校で使用するなど、道徳教育の充実を進めている。また、いじめの問題への対応については、平成25年に制定されたいじめ防止対策推進法及び基本方針に基づき、いじめの未然防止、早期発見・早期対応のための取組が各教育委員会や学校において着実に進められている。
       一方、国際的にみると、自己肯定感や社会参画の意識等が低いことなどが指摘されている。また、成果指標として設定している「いじめの認知件数に占める、いじめの解消しているものの割合」については、小・中・高等学校ともに横ばいである。また、「全児童生徒数に占める不登校児童生徒数の割合」についても、小・中学校では、平成24年度から平成26年度にかけて増加傾向にある。いじめに関しては、児童生徒1,000人当たりのいじめの認知件数について都道府県間の差が大きい状態にあるという課題があること、不登校に関しては、現在不登校に陥っている子供を学校復帰につなげる支援にも取り組むべきであることを踏まえ、次期計画においては、各学校の取組が具体的な成果としてあらわれるよう、対応策を検討していくべきと考える。
  • 「健やかな体」については、「今後10年間で子どもの体力が,体力水準の高かった昭和60年頃の水準を上回ることを目指すなど,生涯にわたってたくましく生きるために必要な健康や体力を養う」ことを目標に掲げ、学校においては、体育をはじめとする指導の工夫・改善、教育委員会においては、体力の向上に向けた施策の充実に取り組むよう促すなど、体力向上のための取組を進めている。
      一方、子供の体力については、昭和60年頃に比べて依然低い水準にあること、また、運動する子供としない子供が二極化していること等の課題がみられる。
  • 上記の「「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」の育成のためには、教員の資質能力を向上させるとともに、指導体制を整備することにより、質の高い教育を実現することが必要である。我が国の教員は、学習指導や生徒指導等まで幅広い職務を担い、子供たちの状況を総合的に把握して指導を行っている点や授業研究手法については、国際的にみても高く評価されている。一方、近年の教員の大量退職、大量採用の影響により、若手教員への知識・技能の伝承がうまく図られていないことへの指摘や、学校教育が抱える課題の多様化などに伴う教員の多忙化や,教員に対する社会的評価の低下から、他国と比べ、教員の自己満足度が低いとの調査結果がある。また、社会や経済の変化は、子供や家庭、地域社会にも影響を与えており、その結果、生徒指導や特別支援教育等に関わる課題が複雑化・多様化しており、現在の体制では課題の解決に向けた十分な取組ができない状況にあるため、その充実に向けて引き続き検討を行っていく必要がある。
  • 質の高い幼児期の学校教育・保育の総合的な提供については、幼保連携型認定こども園を学校及び児童福祉施設として法的に位置づける等の認定こども園制度の改善を行うとともに、幼稚園・保育所・認定こども園を通じた共通の給付である施設型給付を創設するなどの取組を進めてきたところである。施設型給付においては、消費税財源を活用して、職員配置の充実や処遇改善等の質の向上を実施しており、今後、更なる充実のため、1兆円超の財源の確保に最大限努力していく必要がある。
  • 子ども・子育て支援新制度の施行に伴い、各地方公共団体においても幼児教育の提供体制の充実が図られているところであるが、教育内容の質を向上させるための取組は必ずしも十分ではない状況である。各幼稚園等の教育活動を充実させるため、国の調査研究の推進や、地方公共団体における研修等の拠点の整備、指導・助言にあたる人員の配置といった行政の幼児教育推進体制を構築していく必要がある。
  • 特別なニーズに対応した教育については、まず、インクルーシブ教育システム構築に向けた特別支援教育の推進に関して、障害のある子供に関する就学手続の見直しや特別支援教育関係予算の大幅な増額など、障害のある児童生徒の教育の充実に向けた取組が着実に進められているが、特別支援教育の対象となる児童生徒が年々増加していることから、一人一人の障害の特性に応じた十分な教育を受けられるよう、教育環境の整備を一層進めていく必要がある。
      また、我が国の国際化の進展に伴い、海外の日本人学校等で学ぶ子供が増加しているが、在外教育施設における派遣教員数は減少傾向にあった。そのため、平成27年度より、派遣教員数の回復を目指しているが十分ではないため、海外で学ぶ子供たちの教育環境の充実を図る必要がある。
      さらに、我が国の学校に在籍する外国人児童生徒数は増加傾向にあるため、個々の実態を踏まえ、「特別の教育課程」による日本語指導が実施できるよう、平成26年1月に学校教育法施行規則を一部改正したが、まだなお日本語指導を受けられていない児童生徒は、日本語指導が必要な児童生徒数の約2割存在している。また、日本語指導を行う教員の養成や研修を充実させることが必要である。

成果目標5について

  • 成果目標5では、「「社会を生き抜く力」に加えて、卓越した能力を備え、社会全体の変化や新たな価値を主導・創造するような人材、社会の各分野を牽引するリーダー、グローバル社会にあって様々な人々と協働できる人材、とりわけ国際交渉など国際舞台で先導的に活躍できる人材を養成する」ことを掲げている。
  • これを達成するためには、初等中等教育段階から、各分野に興味・関心を有する子どもの裾野を拡大するとともに、その才能を見いだして、創造性やチャレンジ精神などをより一層伸ばしていくことが必要である。
  • 具体的な取組としては、意欲と能力のある児童生徒等に対し、ハイレベルな学習機会や切磋琢磨する場として、科学の甲子園、国際科学技術コンテスト、サイエンス・インカレ等の取組を進めている。成果指標として掲げる国際科学技術コンテストへの参加者については年々増加しており、成績でも一定の成果をあげている。
  • また、難しいことでも失敗を恐れないで挑戦している児童生徒の割合については、小学生は平成22年度74.3%から平成27年度76.4%、中学生は平成22年度64.1%から平成27年度68.7%と増加傾向にある。
      一方、理科の勉強が楽しいと答える中学生及び高校生の割合が国際的に見ても低い傾向にあるなどから、理数科目等に関する学習への関心を高め、裾野を広げていくことも重要である。
  • グローバル人材を育成するためには、日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けさせることが重要である。語学力について、中学校卒業段階で英検3級程度以上、高等学校卒業段階で英検準2級程度~2級程度以上を達成した中高校生の割合50%を成果目標として掲げている。平成27年度「英語教育改善のための英語力調査(中学3・高校3年生の英語力調査)」の結果(速報)によると、中学校3年生では、A1レベル上位(英検3級程度)以上の割合は「聞くこと(20.2%)」「話すこと(32.6%)」「読むこと(26.1%)」「書くこと(43.2%)」であり、いずれも目標を下回る。また、高校3年生についても、A2・B1レベル(英検準2級・2級程度)以上の割合は、26年度と比べ増加する等の改善も見られるものの、「聞くこと(26.3%)」「話すこと(11.0%)」「読むこと(31.9%)」「書くこと(17.9%)」であり、いずれも目標を下回る。

成果目標6について

  • 成果目標6では、「様々な困難や課題を抱え支援を求めている者に対して、生涯を通じて多様な学習機会を確保する。また、能力と意欲を有する全ての者が中等教育を受けられるようにする」ことを掲げている。これを達成するためには、教育費の保護者負担を軽減するとともに、意欲・能力のある者の学習機会へのアクセスを可能とするための支援を行うことが必要である。
  • 幼児教育に係る保護者負担の軽減については、「幼稚園等の就園率の増加」を成果指標に掲げ、これまで、幼児教育無償化を段階的に推進しており、保護者の所得状況に応じた経済的負担の軽減等を目的とした、幼稚園就園奨励費補助による支援の他、子ども・子育て支援新制度においても同様の軽減の措置を行っており、就園率は、平成24年度93.0%から平成26年度には93.9%になっている。
  • 義務教育に係る教育費負担軽減は、義務教育の無償制、教科書の無償配布に加えて、就学援助を通じ、経済的困難を抱える家庭に対する支援を継続的に実施している。また、平成27年度補正予算により、フリースクール等で学ぶ不登校児童生徒への支援モデル事業を開始したところである。
  • 高等学校段階については、平成25年度に高等学校就学支援金制度を見直し、新たに高校生等奨学給付金を創設するなど継続的に実施している。成果指標として、「経済的な理由による高校中退者の数の減少」等を目標に掲げており、経済的な理由による高校中退者(高等学校通信制課程を含む)は平成25年度1336人から平成26年度には1208人となるなど、減少傾向にある。

成果目標7について

  • 成果目標7においては、「子どもが安全・安心な環境において学習できるようにすること」を掲げている。これを達成するためには、学校施設の耐震化、防災機能強化等の教育環境の整備を図るとともに、自らの安全を守るための能力を身に付けさせる安全教育を推進するなど、学校等における児童生徒等の安全を確保する必要がある。
  • 公立学校については、平成27年度までのできるだけ早期の耐震化の完了を目指すこととしており、小中学校施設については、平成27年度予算事業実施後の耐震化率は、約98%となり、概ね完了する見込みである(平成27年4月現在は95.6%)。
      避難所に指定されている学校の防災施設・設備の整備状況については、例えば非常用の通信装置が設置されている学校の割合が平成24年度40.0%から平成27年度61.3%と増加傾向にあるが、引き続き防災機能の強化を行う必要がある。
      一方で、老朽化が進行した学校施設の割合が急速に増加しており、教育面や安全面、機能面で不具合が生じている。今後、第2次ベビーブーム期にあわせて整備された学校施設の更新時期が一斉に到来するため、老朽化はますます深刻な状況となる。このため、中長期的な視点の下、計画的な整備を行う必要がある。
  • 私立学校については、公立学校の耐震化の状況を勘案しつつ、できるだけ早期の耐震化の完了を目指すこととしており、平成27年度予算事業実施後の耐震化率は、幼稚園から高等学校までで約87%となる見込みである(平成27年4月現在は83.5%)。

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初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年03月 --