学校が地域とも連携・協働しながら,一つのチームとして機能するように,学校のリーダーシップ機能や学校の企画・調整機能,事務体制を強化するとともに,学校に関わる全ての職員がチームの一員であるという意識を共有する。
校長は,学校の長として,リーダーシップを発揮するために,まず,子供や地域の実態を踏まえ,学校の教育ビジョンを示し,教職員と意識や取組の方向性の共有を図ることが重要である。
それに当たって,「チームとしての学校」における校長には,多様な専門性を持った職員を有機的に結びつけ,共通の目標に向かって動かす能力や,学校内に協働の文化を作り出すことができる能力などの資質が求められる。
また,学校の教育活動の質を高めるためには,校長の教育的リーダーシップが重要であり,教育指導等の点で教職員の力を伸ばしていくことができるような資質も求められている。
校長は,学校という組織で求められるマネジメントの能力と,組織一般で有効なマネジメントの能力をバランス良く身に付ける必要がある。
あわせて,校長がリーダーシップを発揮し,複雑化・多様化した課題を抱える学校を変え,学校の教育力を向上させていくためには,校長の補佐体制を強化することが必要である。例えば,副校長の配置や,教頭の複数配置,事務長の配置など,校長の権限を適切に分担する体制や校長の判断を補佐する体制の整備によって,管理職もチームとして取り組むことが学校の改革のためには有効である。
さらに,校長が,自らの示す学校の教育ビジョンの下で,リーダーシップを発揮した学校運営を実現できるよう,校長裁量経費の拡大等の学校の裁量拡大を一層進めるとともに(※1),保護者や地域住民等が学校運営に参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)等の仕組みを活用しつつ,「チームとしての学校」の力を一層高めていくことも重要である。
加えて,校長が自らの教育理念に基づき,特色ある教育活動を推進することができるようにするためには,校長の同一校における在職期間の長期化を図るなど,人事異動の在り方を見直すことも必要である。
教頭は,「校長(副校長を置く学校にあつては校長及び副校長)を助け,校務を整理し,及び必要に応じ児童(生徒)の教育をつかさどる」職(学校教育法第37条第7項等)として設けられており,原則として,全ての学校に置くこととされている。
副校長は,「校長を助け,命を受けて校務をつかさどる」職(学校教育法第37条第6項等)として,平成19年に制度化され,平成26年4月現在,67都道府県・指定都市教育委員会のうち,44の教育委員会において,3,646人が配置されている。副校長は,教頭と同様,校長を補佐する職であるが,校務の一部を自らの責任で処理することが想定されている職であることが,教頭とは異なっている。
副校長の配置状況を学校種別に見ると,公立の小学校(20,558校)に1,750人,中学校(9,707校)に900人,高等学校・中等教育学校(3,658校)に758人,特別支援学校(1,037校)に238人となっている。
副校長及び教頭は,「チームとしての学校」において,教職員と専門スタッフ等の調整や人材育成等の業務に当たることが期待されており,事務職員との連携や業務の見直し等により,副校長及び教頭が力を発揮できる体制を整えることが重要である。
さらに,規模が大きい学校や課題を抱えた学校については,副校長又は教頭を複数配置することも効果的である。
管理職に適材を確保できなければ,学校の組織力・教育力も低下することは確実であり,優秀な人材が管理職を目指すような取組が求められている。
しかし,近年,管理職選考の倍率の低下や,希望降任の増加など,管理職の魅力が低下しているのではないかという指摘がある。また,都道府県によって違いはあるものの,30代半ばから50歳までの教員数は,近年,減少しており,今後,管理職候補となる教員の数が少なくなることが予想される。
このような状況の中,優れた管理職を養成していくためには,管理職の処遇の改善を進めるとともに,管理職として優れた仕事をすることで自分の担任している子供たちだけでなく,学校全体の子供たちの教育を改善できること,担任では改善できないことを改善できること等,学校の管理職として仕事をすることの意義を教員に理解してもらうことが,まず重要である。
教育委員会は,校長に求められる資質・能力に基づき,将来,管理職として活躍することが期待される教員に,若いうちからマネジメント能力をつけさせるよう,計画的に教職大学院や民間企業への派遣,教育委員会事務局での勤務,学校現場でのOJT等の経験を積ませる必要がある。
その中で,学校現場におけるOJTは重要な役割を果たしているが,例えば,年齢等にとらわれず,適材適所で主任に充てるなど,教員の持っている良さや持ち味をより発揮できるような経験を積ませることにより,当該教員に,主任,主幹教諭,教頭という新たなステージに上がる資質・能力を育むことができる。その際,校長は,教員を育てるという意図を持ち,必要に応じて,教員を支援することが重要である。
さらに,各自治体で教育センター等を活用して行われている管理職養成の取組に関する情報共有も有効である。
管理職の選考試験においては,67都道府県・指定都市教育委員会のうち41教育委員会が短答形式による筆記試験を導入し,63教育委員会が小論文や作文による筆記試験を行っているが,試験の問題作成に教育委員会が多くの時間を費やしているという現状がある。
また,女性管理職の割合が,全職員に占める女性教員の割合に比べて低いことから(※2),女性管理職の登用が進むような方策を検討する必要がある。
教育委員会が実施している管理職研修の内容についても,校長に求められる資質・能力に基づき見直しを進める必要がある。特に,「チームとしての学校」を実効的なものにしていくために,教員や事務職員に加えて,専門スタッフで組織される学校を効果的に運営できるようなマネジメントを身に付けさせるための研修を取り入れていくことが重要である。
また,管理職研修の見直しを行うに当たっては,教職大学院をはじめとした大学と連携することが考えられるが,研修の実施方法について,管理職が受講しやすいように工夫することが必要である。
主幹教諭は,「校長を及び教頭を助け,命を受けて校務の一部を整理し,並びに児童の教育をつかさどる」職として,平成19年に制度化され,平成26年4月現在,67都道府県・指定都市教育委員会のうち,55の教育委員会において,19,742人が配置されている。
学校種別に見ると,公立の小学校(20,558校)に9,009人,中学校(9,707校)に6,224人,高等学校・中等教育学校(3,658校)に3,432人,特別支援学校(1,037校)に1,077人となっている。
主幹教諭には,学校を一つのチームとして機能させるため,全体をマネジメントする管理職と教職員,専門スタッフとの間に立って,「チームとしての学校」のビジョンを始めとした意識の共有を図る,いわばミドルリーダーとしての役割が期待されている。
主幹教諭が実際に担当している業務としては,文部科学省の調査によると,
の割合が高い。
特に,小・中学校では,「教務に関する校務の整理,調整」を担当している割合が高く,教務主任が担っている校務を担当していることが伺える。
また,「校長,副校長,教頭等の管理職の補佐」としての業務の中で,主幹教諭が担当している割合の高い業務は,
となっている。
この結果から見えてくるのは,主幹教諭は,主任業務を担っている者が多いこと,また,管理職の補佐として担っているのは,渉外や庶務業務の一部であり,人材育成機能について成果があがっているという割合は必ずしも高くないこと,である。
文部科学省の調査によれば,主幹教諭の配置の主な成果について,配置された学校において,分掌間・学年間の調整など学校の総合的な調整が図られ,「学校の組織としての力が向上」,「管理職と教職員のパイプ役になり,校内のコミュニケーションが改善」,「教職員間の業務調整の円滑化による,業務の質の改善や効率化」とするものが多くあった。
また,
といった効果も指摘されている。
一方で,配置の課題については,同調査において,「主幹教諭の役割等について校内の理解が進んでいない」,「主幹教諭となる者の人材育成」,「主幹教諭の授業時数が多く,期待される校務を処理できない」とする指摘が多い。
また,関係団体ヒアリングでは,主幹教諭が期待される役割を果たしていくために,管理職としての位置付けを明確にするべき,という意見もあった。
学校の課題の複雑化・多様化が進んでいることから,学校の組織体制の整備の必要性は高まっており,学校や地域の実態を踏まえ,主幹教諭の配置を促進していくことが必要である。
その際,校長は,学校のビジョンや課題を明確にし,ビジョンの達成や課題の解決のために,どのような組織体制が必要か,主幹教諭にどのような役割を担ってもらうのか,ということを明確にすることが大切である。
また,主幹教諭として,複数の分掌組織(教務部,生徒指導部等)の調整が必要な業務を担うことや,学校の課題に対応したプロジェクトを統括するような業務等を担うことは,管理職として求められる経験を積むことにつながることから,将来の管理職養成の観点からも,主幹教諭の配置,活用を進めていくことが重要である。
事務職員の職務について,学校教育法は「事務に従事する」と規定しているのみであるが,おおむね,事務職員が従事している職務は,
など,総務・財務等に関する事務全般である。
事務職員は,学校運営事務に関する専門性を有している,ほぼ唯一の職員である。教育委員会によっては,学校組織マネジメントを効率的・効果的に行うための学校経営職員として位置づけ,総務・財務等に関する事務以外の職務(地域連携や学校評価,危機管理等)にも事務職員が積極的に携わっている例も見られる。今後,事務職員には,その専門性等も生かしつつ,より広い視点に立って,副校長・教頭とともに校長を学校経営面から補佐する学校運営チームの一員として役割を果たすことが期待される。
文部科学省の調査においても,これからの事務職員に求められる資質・能力として,都道府県の約8割,市区町村と学校の約7割が,「学校運営等の充実・改善に貢献しようとする意欲や能力」をあげている。
一方,教員の勤務実態に関する各種調査の結果によると,教員が様々な事務業務を行っており,それが教員の負担になっているという実態も見られる。
特に,教頭は,事務業務の負担が非常に大きく,校長の補佐や人材育成等の業務を十分に果たしていくためには,教頭の業務の改善を図っていくことは不可欠であり,教頭と事務職員との間での業務の連携や分担を進める必要がある。
教員が,より子供と向き合う仕事に取り組み,副校長・教頭が教員への指導等に取り組むことができるように,副校長・教頭や教員が行っている管理的業務や事務的業務に関して事務職員が更に役割を担うことも効果的と考えられることから,学校事務体制の充実を図ることが必要である。
また,現在,事務職員の職務については,「事務に従事する」と規定されているが(学校教育法第37条第14項),学校の事務が複雑化・多様化していることに伴い,事務職員が,より権限と責任を持って学校の事務を処理することが期待されている。
さらに,学習指導要領の次期改訂では,学校におけるカリキュラム・マネジメントが重要となってくるが,教育内容と,教育活動に必要な人的・物的資源等を効果的に組み合わせていくために,学校の予算や施設管理等に精通した事務職員が大きな力を発揮することが期待されている。
事務職員の採用方法や人事異動の在り方については,任命権者によって様々に異なっているが,教育委員会は,事務職員が学校運営等に関わって,その専門性を発揮することができるよう,採用段階からの意識付けを行うとともに,教育行政や学校事務に携わってこなかった職員を学校に配置する場合には,必要な研修を実施するなどの配慮が求められる。
現在,学校の管理職の多くは,教員出身者であり,行政事務に十分に練達しているとはいえない。今後,学校の業務が一層,複雑化・多様化することが考えられることから,学校の自律的な運営を可能とするためには,教育行政事務の専門性を有する者が学校運営に参画することが望ましい。
小・中学校においても,例えば,一定規模以上の学校については,事務長等の学校運営事務の統括者を置くことができることを法令上,明確化することが考えられる。
小・中学校の場合,事務職員が一人配置であることを考えると,事務職員の資質・能力の向上は大きな課題であるが,事務職員向けの研修を企画できる職員が少ないことや事務職員向けの研修プログラムが少ないことなどの課題がある。そのため,事務職員の研修の企画・実施体制の充実を図ることも重要である。
学校の事務・業務を効率化し,併せて質を充実していくためには,教育委員会と学校の役割分担についても見直すことが求められる。
例えば,教育委員会は,学校ごとの対応では限界があり,域内で共通に取り組むべき課題に対応した施策の推進や,先導的な研究や実践事例の提供,学校の教育課題に沿った指導・助言等に重点的に取り組むなど業務の見直しの検討を進めるべきである。
また,地域全体の教育力の向上を図り,多様な教育活動を推進するという観点からも,教育委員会,学校は,子供に必要な教育活動を行うため,学校内の教育資源だけでなく,他の学校,地域の関係機関,関係団体等と連携・協働して,地域全体で教育活動を活性化していくことが必要になってきている。
その中で,事務体制の見直しについては,多くの小・中学校においては,事務職員が一人配置であるため,学校事務を効率的に執行する観点から,事務の共同実施の活用は有効な方策として進められてきた。
市町村における事務の共同実施の実施率は,域内の一部の地域で実施しているものも含めると,約5割の実施率となっている(平成24年度文部科学省委託事業「学校運営の改善の在り方に関する取組(報告書)」(全国公立小中学校事務職員研究会))。
共同実施については,事務処理における質の向上やミス・不正の防止,学校間の標準化による事務処理の効率化等において大きな成果が見られるところであるが,この他にも,教員の事務負担の軽減や事務職員の学校運営への支援・参画の拡大等においても成果が見られるところであり,今後の取組の一層の充実が期待される。
特に,「チームとしての学校」を進めていくためには,共同実施を行い,学校の事務を効率化し,事務職員が副校長・教頭等の補佐を行うことにより,副校長・教頭等が,人材育成や専門スタッフの調整等の業務に,より注力できるようにしていくことが重要である。
また,共同実施組織は,先輩から後輩への指導,事務職員の連携・協働の場として機能することによって,人材育成の場としての効果が期待できる。さらに,共同実施組織に,共同実施組織の業務の取りまとめを行う長を置くことは,事務職員の将来のキャリア形成の観点からも有効であると考えられる。
あわせて,学校間の連携を推進していく観点からも,事務の共同実施の在り方について検討を進めることが重要である。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成28年01月 --