資料2-1 これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(中間まとめ)

目次

0.これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(中間まとめ) はじめに
1.検討の背景
2.これからの時代の教員に求められる資質能力
3.教員の養成・採用・研修に関する課題
(1)教員の養成・採用・研修を通じた課題
(2)教員研修に関する課題
(3)教員採用に関する課題
(4)教員養成に関する課題
(5)教員免許制度に関する課題
4.改革の具体的な方向性
(1)教員の養成・採用・研修を通じた改革の具体的な方向性
  1.教員育成指標及び研修指針の策定
  2.教員育成協議会(仮称)の創設
  3.新たな教育課題への対応
  4.新学習指導要領の検討を踏まえた養成・研修の在り方
(2)教員研修に関する改革の具体的な方向性
  1.継続的な研修の推進
  2.初任者研修の改革
  3.十年経験者研修の改革
  4.研修実施体制の整備・充実
  5.独立行政法人教員研修センターの機能強化
(3) 教員採用に関する改革の具体的な方向性
  1.円滑な入職のための取組
  2.教員採用試験における共通問題の作成に関する検討
  3.特別免許状制度の活用等による多様な人材の確保
(4)教員養成に関する改革の具体的な方向性
  1.学校インターンシップの導入
  2.教職課程の質の保証・向上
 ア 教職課程を統括する組織の設置
 イ 教職課程の評価の推進
 ウ 教職課程担当教員の資質能力の向上等
 エ 教科に関する科目の充実
(5)教員免許制度に関する改革の具体的な方向性
  1.中学校及び高等学校の教員免許状所有者による小学校での活動範囲の拡大
  2.教員の教職経験を考慮した免許状併有の促進
  3.特別免許状制度の手続等の改善
  4.特別支援学校教諭等免許状の保有率向上
(6) 教員の資質能力の高度化に関する改革の具体的な方向性
  1.拡充期を迎えた教職大学院の在り方
  2.教職大学院を中心とした大学における履修証明制度の活用等による教員の資質能力の高度化
  3.教員養成系以外の修士課程における教員養成機能の充実
5.今後の検討について

0.はじめに

○ 中央教育審議会は、平成26年7月29日、文部科学大臣から「これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について」の諮問を受けた。諮問においては、これからの教育を担う教員に求められる指導力を、教員の専門性の中に明確に位置づけ、全ての教員がその指導力を身につけることができるようにするため、教員の養成・採用・研修の接続を重視して見直し、再構築するための方策について検討する必要があるとされた。

○ 本諮問については、初等中等教育分科会に付託され、教員養成部会において審議を行ってきたところである。

○ 審議に当たっては、同部会「教員の養成・採用・研修の改善に関するワーキンググループ」における論点整理(平成26年7月)等を踏まえつつ、教員の養成・採用・研修の一体的改革を基本とした個別論点や、教職生涯にわたる職能成長を支える具体的な制度設計の構築といった分野を中心に検討を重ね、今般、その議論の状況を中間まとめとしてとりまとめたところである。

1.検討の背景

○ 情報通信技術の急速な発展とそれに伴う知識基盤社会の到来、社会・経済のグローバル化や少子高齢化の進展など、我が国の社会は大きく変化してきた。特に近年は、人工知能の研究やビッグデータの活用等による様々な分野における調査研究手法の開発が進められており、将来、こうした新たな知識や技術の活用により、一層社会の進歩や変化のスピードは高まる可能性がある。

○ このような変化の中、我が国が将来に向けて更に発展し、繁栄を維持していくためには、様々な分野で活躍できる質の高い人材育成が不可欠である。こうした人材育成の中核を担うのが学校教育であり、その充実こそが我が国の将来を左右すると言っても過言ではない。そのためには、学校における教育環境を充実させるとともに、学校が組織として力を発揮できる体制を充実させるなど、様々な対応が必要であるが、中でも教育の直接の担い手である教員の資質能力を向上させることが最も重要である。

○ OECDの国際教員指導環境調査(TALIS)では、初回の調査に当たる2008年調査の参加国が24か国であったのに対し、2回目の調査に当たる2013年調査では、参加国が34か国に増加するなど、次代の教育の成否、ひいては各国社会の行く末が教員に懸かっているとの認識のもと、教員の育成に高い関心を持ち、教員政策に全力を傾けるのが世界の潮流となっている。

○ 例えば、2011年の一般教書演説において、米国のオバマ大統領は、「この国を良くしたいと思うなら、そして子供たちの未来に影響を及ぼしたいと思うなら、教師になりなさい」との旨述べるとともに、「韓国では、教師を『国家を築く者たち(Nation Builders)』と呼んでいる」との例を引き合いに出したほどである。

○ 我が国においても、従来「教育は人なり」との考えのもと、教員について、教育職員免許法、人材確保法、教育公務員特例法、義務標準法等により、教員の養成・採用・研修の充実に努めてきたところであり、上記のような社会変化が加速する中、また新しい教育への期待が高まる中、教員一人一人が、その職は高度に専門的なものであり、国家社会の活力を作り出す重要な職であるとの誇りを持ちつつ、高い志で自ら研鑽(さん)することの重要性が改めて認識されるようになってきた。

○ 教員の資質能力の向上については、教育基本法第9条において「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない。」「前項の教員については、その使命と職責の重要性にかんがみ、その身分は尊重され、待遇の適正が期せられるとともに、養成と研修の充実が図られなければならない。」こととされている。このように教員の資質能力の向上は、教員自身の責務であるとともに、国、教育委員会、学校などの関係者にとっても重要な責務である。

○ 一方、学校教育を取り巻く環境も大きく変化していることも認識する必要がある。かつては、教員に採用された後、学校現場における実践の中で、先輩教員から若手教員へと知識・技能が伝承されることで資質能力の向上が図られるという側面も強かった。しかしながら、近年の教員の大量退職、大量採用の影響により、必ずしもかつてのような先輩教員から若手教員への知識・技能の伝承がうまく図られていない状況があるといった指摘もある。

○ 平成24年8月の中央教育審議会答申では、学校が抱える多様な課題に対応したり新たな学びを展開できる実践的な指導力を身につけたりするためには、教員自身が探求力を持ち学び続ける存在であるべきであるという「学び続ける教員像」の確立が提言されたところであり、真の意味で「学び続ける教員像」を具現化していくための教員政策を進めていく必要がある。

○ 元来、我が国の教員に対する国際的な評価は高く、特に、「Lesson Study」と呼ばれる我が国の授業研究手法に対する関心は高い。また、TALISにおいても示されているように、我が国の教員は、他国と比べて他の教員や他の学校の授業を見学する割合が高く、他者から学び授業改善のために学ぼうとする教員の様子をうかがうことができる。しかしながら、一方で、同調査によると、「もう一度仕事を選べるとしたら、また教員になりたい」と回答した教員の割合は、参加国平均が77.6%であるのに対し、我が国の教員の割合は58.1%と参加国中最低レベルであるほか、教職が社会的に高く評価されていると思う教員の割合も28.1%と低いレベルにある。その背景として、近年、学校教育が抱える課題の多様化などに伴う教員の多忙化や、社会全体の高学歴化等に伴い教員に対して専門職としての社会的評価が低下してきていること、さらには地域の教育力の低下や家庭環境の多様化により学校に対する教育上の期待が以前よりも増加している中で、そうした期待に十分に応えられない学校や教職員に対する社会や保護者の反応も厳しくなっていることなどが考えられる。

○ これらのことから、我が国の教員の強みを最大限に生かしつつ、子供に慕われ、保護者に敬われ、地域に信頼される存在として、さらなる飛躍が図られる仕組みを構築していくことが必要である。例えば、多くの子供たちに将来教員になりたいと思われるような改革を行わなければならない。

○ こうした中、政府としても教員政策には高い関心を寄せており、内閣総理大臣が主催する教育再生実行会議の第5次提言(平成26年7月)においては、自ら学び続ける強い意志を備えた質の高い教師を確保する必要があること、第7次提言(平成27年5月)においては、教育の革新を実践できる人材を教師として得るための養成・採用・研修の改革を進める必要があることを提言している。このように、教員の資質能力の向上は教育政策の最重要課題であるだけでなく、内閣全体としての最重要課題としても取り上げられており、現在またとない改革への気運が高まっている状況と言える。

○ また、現在、初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について審議を行っている。変化の激しい時代を乗り越え、伝統や文化に立脚し、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り拓いていく力が求められる。そのような新しい時代に必要となる資質・能力の育成のためには、「何を教えるか」という知識の質や量の改善に加え、「どのように学ぶか」という学びの質や深まりを重視することが必要であるとの認識のもと、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)の充実や、そのための指導の方法等を充実させていく必要があるとの方向で議論が進められている。

○ さらに、こうした学習・指導方法の改革と併せて、学びの成果として「どのような力が身に付いたか」に関する学習評価の在り方についても、育成すべき資質・能力を育む観点からの改善を図る必要があり、教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体として捉えた学習指導要領等の在り方について検討されている。また、学習指導要領等の理念を実現するために、各学校における教育課程の編成、実施、評価、改善の一連のカリキュラム・マネジメントが必要との認識で議論が進められているところである。

○ 本部会として、こうした教育課程の改善の趣旨を実現するためには、教員の学習観を転換させ、各教科等の指導に関する専門知識を備えた、いわば教えの専門家にとどまらず、アクティブ・ラーニング等の実践力や、学習の成果を適切に評価する力、カリキュラム・マネジメントなどの力を備えた、いわば学びの専門家へと転換することが必要であり、子供たちに教育を行う教員の資質能力の向上を含めた教員政策の改革が不可欠であることから、教育課程の改善に向けた議論と歩調を合わせながら進めていく必要がある。

2.これからの時代の教員に求められる資質能力

○ 教員が備えるべき資質能力については、例えば使命感や責任感、教育的愛情、教科や教職に関する専門的知識、実践的指導力、総合的人間力等がこれまでの答申等においても繰り返し提言されてきたところである。これら教員として不易の資質能力は引き続き教員に求められる。

○ 今後、改めて教員が高度専門職として認識されるために、学び続ける教員像の確立が強く求められる。このため、これからの教員には、自律的に学ぶ姿勢を持ち、時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を、生涯にわたって高めていくことのできる力も必要とされる。

○ また、変化の激しい社会を生き抜いていける人材を育成していくためには、教員自身が時代や社会、環境の変化を的確につかみ取り、その時々の状況に応じた適切な学びを提供していくことが求められることから、教員は、常に探究心や学び続ける意識を持つこととともに、情報を適切に収集し、選択し、活用する能力や深く知識を構造化する力を身につけることが求められる。

○ さらに、子供たち一人一人がそれぞれの夢や目標の実現に向けて、自らの人生を切り拓くことができるよう、これからの時代に生きる子供たちをどう育成すべきかについての目標を組織として共有し、その育成のために確固たる信念をもって取り組んでいく姿勢が必要である。

○ 一方、学校を取り巻く課題は極めて多種多様である。いじめ・不登校などの生徒指導上の課題や貧困・児童虐待などの課題を抱えた家庭への対応、キャリア教育・進路指導への対応、保護者や地域との協力関係の構築など、従来指摘されている課題に加え、先に述べた新しい時代に必要な資質・能力の育成、そのためのアクティブ・ラーニングの充実や道徳教育の充実、小学校における外国語活動、ICTの活用、インクルーシブ教育システムの構築の理念を踏まえた、発達障害を含む特別な支援を必要とする児童生徒等への対応、幼小接続をはじめとした学校間連携等への対応など、新たな教育課題も枚挙にいとまがなく、一人の教員がかつてのように、得意科目などについて学校現場で問われる高度な専門性を持ちつつ、これらすべての課題に対応することが困難であることも事実である。

○ そのため、教員は上記のように新たな課題等に対応できる力量を高めていく必要があり、一方で学校は、「チーム学校」の考え方のもと学校現場以外での様々な専門性を持つ地域の人材と効果的に連携しつつ、教員とこれらの者がチームを組んで組織的に諸課題に対応するとともに、保護者や地域の力を学校運営に生かしていくことが必要である。このため教員は、校内研修、校外研修など様々な研修の機会を活用したり自主的な学習を積み重ねたりしながら、学校作りのチームの一員として組織的、協働的に諸課題の解決のために取り組む専門的な力についても醸成していくことが求められる。

3.教員の養成・採用・研修に関する課題

○ 本中間まとめでは、教員の養成・採用・研修の一体的改革が必要であるという認識のもと、教員が教職生涯にわたって資質能力を向上させていく重要性にかんがみ、教職生活の大半の期間を占める現職から遡り、養成・採用・研修の全般的事項に続いて、研修、採用、養成の順に記述することとした。

(1)教員の養成・採用・研修を通じた課題

○ 「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策(平成24年8月28日中央教育審議会答申)」においても「教員になる前の教育は大学、教員になった後の研修は教育委員会という、断絶した役割分担から脱却し、教育委員会と大学との連携・協働により教職生活全体を通じた一体的な改革、学び続ける教員を支援する仕組みを構築する必要がある。」とされており、教員の養成・採用・研修を通じた改革の必要性については、これまでも何度も議論・提案されてきたところである。

○ このため、教員の養成・採用・研修の各段階において、教職大学院を含む大学等と教育委員会の連携が図られていくことが望ましいが、単に連携の必要性を強調しても、制度的な担保がなければ現実的には連携が進まないとの指摘もあり、国、教育委員会、国公私を通じた教職大学院、大学、学校等の位置付けなどを明確化した具体的な制度的枠組みが必要である。

○ 大学等と教育委員会の両者が、本当の意味で連携・協力しつつ、教員のキャリアステージに応じた学びや成長を支えていくためには、それぞれの立場・役割を尊重しつつ、養成段階と採用・研修段階の両段階を通じて養成・研修を計画・実施する際の基軸となる教員の育成指標を協働して作成するなど、高度専門職としての教員の成長を支えるための協働を通じ連携強化を図る具体的な制度を構築することが必要である。

○ こうした制度が構築されれば、新たな教育課題に対応した教員の育成方策を体系的かつ効果的に行うことが可能となる。

○ また、一言で養成・採用・研修と言っても、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼保連携型認定こども園等のそれぞれの学校種において、学校が抱える課題や教員に求められる専門性は異なるものもあり、それぞれの特徴や違いを踏まえ、その在り方についての制度設計を進めていくことが重要である。

(2)教員研修に関する課題

○ TALISによると、我が国の教員の職能開発に対するニーズは極めて高く、例えば、担当教科等の指導法に関する能力開発に対するニーズは参加国平均が9.7%であるのに対し、我が国の教員の割合は56.9%と参加国中最も高い。一方で、職能開発の参加に当たって、「職能開発の日程が仕事のスケジュールと合わない」と回答した教員の割合は、参加国平均が50.6%であったのに対し、我が国の教員の割合は86.4%と同じく参加国中で最も高いものとなっている。

○ これらの調査結果から、我が国の教員は研修へのニーズは高いものの、日常業務の多忙化などにより必要な研修のための時間を十分に確保することが困難な状況であることが伺える。これは、勤務時間が参加国中で最長となっていることが主な要因であると考えられ、授業準備や授業研究を含めた広い意味での研究、修養の機会や子供と向き合う時間を確保することが大きな課題となっており、課題解決のための条件整備が急務となっている。

○ このため、国、教育委員会、学校、その他の関係者等が一体となって、校務支援システムの活用など学校における業務の精選や効率化、教職員の役割分担の見直しや専門家の活用、組織体制の強化、地域との連携などチームとしての学校の力の向上を図るための措置を講じることによって、子供と向き合う時間の確保や教員研修等のための機会を確保することが不可欠である。

○ また、国、都道府県、市町村、学校がそれぞれ主体となって研修を行っているが、全体として必ずしも体系的な研修が行われていないとの指摘がある。このため、研修の実施主体が有機的連携を図りながら、教員のキャリアステージに応じ、教員のニーズも踏まえた研修を効果的・効率的に行うことが必要である。この際、法定研修である初任者研修、十年経験者研修については、その実施状況や教育委員会、学校現場のニーズを把握し、より効果的な研修となるよう国としても制度や運用の見直しを図ることが重要である。

○ また、団塊世代の教員が大量に退職する影響や、ミドルリーダーとなるべき年齢層の教員が相対的に少ないことなど、学校組織における年齢の不均衡化がみられる。このような中で、以前のように先輩教員から若手教員に指導技術や子供・保護者との接し方などのノウハウが自然な形で伝承できる状況ではなく、意図的・継続的に研修を行うなど、教員が学びを継続できる仕組みを考えていくことが必要である。その際、学校をチームとして機能させていくため、教員としてのキャリアステージに応じて求められる専門性の育成と合わせ、教員それぞれが得意とする専門分野、例えば教科指導や現代的な教育課題など、特化した専門性を備えたミドルリーダーの育成が必要である。

○ さらに、新しい時代に求められる資質能力を育成する上では、研修そのものの在り方や手法も見直しが必要であり、例えば、講義形式の研修からより主体的・協働的な学びの要素を含んだ、いわばAL研修(アクティブ・ラーニング型研修)ともいうべき研修への転換を図っていくことが重要である。また、こうしたことを踏まえつつ、新たな教育課題に対応した研修プログラムの開発と全国的な普及、研修指導者の育成、教育センターや学校内での研修体制の充実など、学校内外の研修を一層効果的・効率的に行うための体制整備も必要である。

○ また、公立学校の教員はもとより、国立・私立の学校の教員に対する研修を充実するための方策を検討する必要がある。

○ 上記に掲げられた研修に関する様々な課題に対応していくためには、研修の実施主体だけではなく、国における対応も充実させていく必要があり、独立行政法人教員研修センターがこれまで以上に積極的に役割を果たしていく必要がある。当該法人については、平成25年12月の閣議決定において法人の機能強化に向けた取組が規定されたところであり、その具体化に向けた制度改善が求められる。

(3)教員採用に関する課題

○ 時代の変化に伴い、教員を目指す人材が変化している中、従来、優秀な教員を確保するため、都道府県教育委員会等は、求める教員像を明確かつ具体的に示し、当該教員像に合致する者の採用に適した選考方法の工夫を行うことが提言されている。今後は上記のように教員の育成指標を作成し、それを踏まえるなどの取組を進めていくことが必要である。

○ また、学校に対するニーズが複雑化・多様化する中、豊かな知識や識見はもとより、幅広い視野を持ち個性豊かでたくましい人材を教員として確保することが必要である。また、一層多様化している児童生徒の興味・関心に対応するため、教科や指導法の一部についてより高い専門性を持った人材の確保も重要である。

○ 都道府県教育委員会等は、これまでも人物を重視した採用選考を実施しており、真に教員としての適格性を有する人材の確保に努めているところであるが、中には採用選考試験の作成が大きな負担になっているとの声も聞かれるところであり、多様で多面的な選考方法を促進するためにも、各教育委員会が実施する採用選考試験への支援方策が必要ではないかとの指摘がある。

○ また、大量退職・大量採用の影響などにより、地域や学校によっては、30代、40代の教員の数が極端に少なく、学校内における年齢構成の不均衡が生じている。年齢構成の均衡がある程度取れた状態の方が組織として望ましいとの指摘もあり、各任命権者における教員の採用に当たって、これらのことについても検討することが必要である。

(4)教員養成に関する課題

○ 教員としての職能成長が、教職生活全体を通じて行われるものであることを踏まえ、養成段階は、「教員となる際に必要な最低限の基礎的・基盤的な学修」を行う段階であることを改めて認識することが重要である。

○ 知識や技能の修得のみならず、これらを活用して子供たちが課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力及び主体的に学習に取り組む態度を育む指導力を身に付けることが必要である。その際、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(アクティブ・ラーニング)に関する指導・学習環境の設計やICTを活用した指導など、様々な学習を展開する上で必要な指導力を身につけることが必要である。また、特別支援教育の推進、小学校における外国語活動、「特別の教科 道徳」、幼小接続をはじめとした学校間連携等、近年の教育改革の方向に合わせた教職課程の改善を図るとともに、生徒指導や学級経営を行う力の育成にも対応することが重要である。

○ 幼児児童生徒や学校・地域の実情を踏まえて、各教科等の学習を通じて育成すべき資質・能力を考え、教育課程を編成し、実施するカリキュラム・マネジメントに関する基礎的な能力を身に付けることも重要である。

○ さらに、教員が社会の変化に対応できるためには、教員としての使命感や幼児児童生徒の発達に対する理解など、教員としての基本的な知識や能力を備えていることが必要である。また、大きく変動する社会の中での教育の在り方に関する理解や、多様化した保護者の関心や要求に対応できる豊かな人間性とたくましさ、幼稚園、小・中学校をはじめとした各学校等の特色や関係性に関する幅広い知見、地域との連携・協働を円滑に行うための資質を備えた教員を養成することも重要である。

○ また、教職課程の学生が学校や教職についての深い理解や意欲を持たないまま安易に教員免許状を取得し、教員として採用されているとの指摘がある。教員養成課程を有する大学学部の附属学校を積極的に活用するなど、実践的指導力の基礎の育成に資するとともに教職課程の学生に自らの教員としての適性を考えさせるための機会として、学校現場や教職を体験させる機会を充実させることが必要である。

○ その際、附属学校については、地域のモデル校や大学における教育研究への協力といった役割だけでなく、例えば、教職大学院等と連携し、都道府県教育委員会との人事交流を活用して、附属学校の特色をいかした教育実習校から教員研修学校への役割を拡大強化することも併せて検討する必要がある。

○ これらの教員養成上の重要課題に適切に対応し、あわせて、各大学の個性や特色を発揮した教員養成を行うためには、養成段階で真に必要な基礎力を明確にした上で、厳格な成績評価はもとより、各大学の学部等において教育課程の科目全体を精選しつつ総合的かつ体系的に教員の養成を図っていくような取組が必要である。

○ 教職課程の質の保証・向上も課題である。教職課程の質保証・向上のためのシステムとしては、開設時における課程認定と不定期に行われる教職課程実地視察のみであり、課程認定を受けた後、教職課程の質の維持向上が十分に図られていないケースも見られる。このため、現在大学の教育活動全体についてなされている認証評価と同様の、教職課程に対する外部評価制度の導入や、全学的に教職課程を統括する組織の整備を促進していくことが必要である。

○ さらに、学校を取り巻く様々な教育課題に対応できる教員の養成を行えるよう、教職課程の科目を担当する教員の意識改革や資質能力の向上も重要である。

○ また、これら教職課程の内容の詳細については、次期学習指導要領、幼稚園教育要領の検討状況を踏まえつつ、検討していくことが必要となる。

(5)教員免許制度に関する課題

○ 教員免許状については、平成27年度から幼保連携型認定こども園が学校及び児童福祉施設である単一の施設として位置づけられ、また、学制改革の検討が進められている。その中で、学校種横断的な免許状の創設等の必要性を指摘する意見がある一方、当該免許状の有効性への疑問や免許状制度の一層の複雑化、学生や大学への負担増加等の課題も指摘されている。
○ これらの課題については、教員養成部会において今後免許状制度の総合的な在り方について検討する中で議論を行う。

○ 一方、義務教育学校制度の創設や学校現場における多様な人材の確保の必要性が高まる中、平成26年11月の教員養成部会報告等も踏まえ、以下の事項の具体化が必要である。

  • 現職教員が併有しようとする免許状に関係する学校における勤務経験を併有の際に必要となる単位数と見なす措置
  • 中・高免許状所有者が小学校において活動できる範囲の拡大措置
  • 特別免許状の一層の活用方策
  • 教員育成の高度化を図るための専修免許状の取得促進方策

4.改革の具体的な方向性

(1)教員の養成・採用・研修を通じた改革の具体的な方向性

○ 上記の課題に対応し、学び続ける教員の養成段階から研修段階までの資質能力の向上施策を、教育委員会、大学等の関係者が一体となって体系的に取り組むための体制の構築が不可欠である。

○ 既に教育委員会や大学の一部において、このような点を意識した取組が進められており、こうした先行事例を参考にしながら以下のような取組を全国的に推進していくことが重要である。

1.教員育成指標及び研修指針の策定

○ 教員の養成、採用、研修の接続を強化し一体性を確保するためには、大学と教育委員会が目標を共有し、連携を図りながら、当該目標を達成するためにそれぞれが果たすべき役割を自覚し、適切に実施していくことが必要である。

○ 特に、近年の重要な教育課題や次期学習指導要領の検討状況も踏まえつつ、これらに教員が速やかに対応できる力を効果的に育成できるようにしなければならず、国、独立行政法人教員研修センター、教育委員会、学校、大学が互いに連携・協力しながら、体系的に養成及び研修を行っていくことが求められる。そのためにも、これらの関係者間でこのような課題への対応も含む教員の育成に関する目標が共有されることが不可欠である。

○ また、あわせて、教員が担う役割が高度に専門的であることを改めて示すとともに、教職課程に在籍する学生や現職教員の両方にとって、教職キャリア全体を俯瞰(ふかん)しつつ、現在自らが位置する段階において身につけるべき資質や能力の具体的な目標となり、かつ、教員一人一人がそれぞれの段階に応じて更に高度な段階を目指し、効果的・継続的な学習に結びつけることが可能となる体系的な指標となるべきものが必要である。

○ こうしたことから、教員のキャリアステージに応じて身につけることが求められる能力を明確化する教員育成指標が全国的に整備されることが必要であり、国はそのための所要の措置を講じるべきである。こうした指標の体系的な整備により、教員の高度専門職としての地位の確立に寄与することが期待され、教員が自信と誇りをもちつつ、指導に当たることが可能になると考えられる。

○ 子供たちや学校、教員、地域等の実情はそれぞれ異なるため、各都道府県等の教育委員会ごとに大学等の関係者との協議・調整を行い、学校と地域の連携・協働体制を構築しつつ、教員育成指標を整備していくことが必要である。また、各地域の課題や特性を踏まえ、自主性や自律性が最大限発揮される制度となるよう配慮が必要である。

○ 一方、高度専門職としての教員に共通に求められる資質能力、グローバル化をはじめとする大きな社会構造の変化の中にあって、全国を通じて配慮しなければならない事項やそれぞれのキャリアステージに応じて最低限身につけるべき能力などについては、国が整備指針などにおいて大綱的に示していくべきであり、その際には、各教育委員会や大学における先行事例を参考にしつつ、関係者等の意見を聞きながら別途十分な検討を行った上で提示することが適当である。

○ こうして整備される教員育成指標を踏まえ、各教育委員会や各大学において教員研修や教員養成が行われることが重要である。その際、望ましい研修の在り方や実施されるべき事項を示す研修指針を国が提示することや、大学が教職課程を編成するに当たり参考とする指針(教職課程コアカリキュラム)を関係者が共同で作成することで、教員の養成、研修を通じた教員育成における全国的な水準の確保を行っていくことが必要である。ただし、その一方で具体的な養成や研修の手法等については、養成を担う各大学や研修を担う各教育委員会の自主性、自律性に委ねられるべきである。

○ 都道府県等の教育委員会は、国の研修指針や地域ごとの教員育成指標を踏まえ、地域ごとの体系的な研修計画を策定し、当該研修計画に基づき各種研修を行うことが適当である。また、大学においては、教職課程コアカリキュラムや地域ごとの教員育成指標を踏まえつつ、大学として養成すべき教員像を明確にし、既存の科目構成・内容を見直すなど教職課程の改善充実を図ることが適当である。

○ 市町村の教育委員会は域内の都道府県ごとに策定される教員育成指標や研修計画を踏まえ、市町村独自の研修目標や研修計画を策定することが期待される。また、市町村教育委員会や教員研修施設、学校などは都道府県等の教育委員会が定めた教員育成指標や研修計画を踏まえ、教員の資質や能力の育成に関するより具体的な研修目標を定めて研修を実施していくことが期待される。

○ また、国が示す整備指針や研修指針及び各地域で策定される教員育成指標や研修計画については、初任段階で求められる能力から、中堅・ベテラン、さらには管理職まで、職能成長を俯瞰(ふかん)した全体像が示されるものであるとともに、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼保連携型認定こども園等のそれぞれの学校種における教員に求められる専門性等を十分に踏まえつつ、必要に応じ学校種ごとに策定されるべきものである。

2.教員育成協議会(仮称)の創設

○ 近年の重要な教育課題や次期学習指導要領の検討状況も踏まえつつ、各地域において教員育成指標や研修計画を策定、あるいは教員育成の効果的な取組を推進するためには、都道府県等教育委員会と大学が相互に議論し内容を調整するための制度的担保が必要であり、そうした場として、教育委員会と大学を主たる構成員とする「教員育成協議会」(仮称)を創設することが適当である。

○ その際、教員の育成及びその資質能力の向上は全国的な課題であることから、教員育成指標等の策定や「教員育成協議会」(仮称)の設置は、各都道府県で必ず取り組まれることが必要である。

○ 教員育成協議会(仮称)は、おおむね都道府県、政令指定都市の教育委員会単位で組織するものとし、関係する市町村教育委員会、域内を含め周辺の教員養成大学・学部やその他の教職課程を置く大学、関係する各学校種(幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等)の代表、職能団体の代表等が、国公私立を通じて参画でき得るものとする必要がある。また、地域の実情に応じたものとするとともに、各主体の自主性・自律性が生かされる仕組みとすることが必要である。

○ また、「教員育成協議会」(仮称)においては、教員の育成の効果的な取組のため、地域の実情に応じた方策の検討が求められる。例えば、養成、採用、研修に関する教育委員会と大学との連携協力の在り方や相互の人事交流、教師塾等の実施、教育委員会と教職大学院等との連携による教員の資質能力の高度化を図る方策等具体的な施策等についても幅広く議論されることが期待される。

○ 以上について教員育成指標や研修計画の策定、「教員育成協議会」(仮称)の創設の具体化のため、関係法令の改正を含めた取組を講じる必要があり、詳細な制度設計に向けた検討を進めるべきである。

3.新たな教育課題への対応

○ 新たな教育課題への対応に当たっては、以下の方向で教員研修の改善を図ることが適当である。

  • 各授業の振り返りと授業での実践のサイクルを創る校内研修システムの構築が必要である。また、各地の研修施設等での年間を通じた継続的で探求的な専門的研修、学びの過程の実践記録に基づく新たな専門性基準による認定、大学での学び直しや専門職としての高度化等が必要である。
  • アクティブ・ラーニングの充実や情報の収集・活用能力に関する指導力の向上のためには、教科の特性を踏まえつつ、特定の教科だけの課題ではなく、学校全体の取組として校内研修を進めることが必要である。特に、高等学校の教員については、国民投票年齢や選挙権年齢が満18歳以上となることなども踏まえて、主権者として主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力を育てることや、高大接続改革の意義について理解を深め、課題の発見と解決に向けた主体的・協働的な授業を展開できるよう、指導力を向上させることが必要である。また、国公私全学校の教員のアクティブ・ラーニングに関する指導力の向上に資するよう、免許状更新講習の選択必修科目として、主体的・協働的な学びの実現のための指導法に関する科目を追加すべきである。
  • ICTを用いた指導法については、教員が授業のどの場面でどのような教材を提示すれば児童生徒の関心意欲を引き出したり、理解を促したりしやすいかという観点や、児童生徒が学習の道具や環境として適切にICTを用いて学習を進めることを教員が促す観点を含めて授業力の育成を図る必要がある。また、ICTの実践的活用や情報セキュリティ等を含めた情報モラルなどの情報活用能力の育成に資する指導に向けた教員研修が必要である。
  • 道徳教育の充実のため、新たに学習指導要領に「特別の教科」として位置づけられた道徳科の目標や内容を理解し、児童生徒が議論する問題解決的な学習への一層の転換を図るなどの計画的な研修の充実が必要である。特に中学校段階については、扱う内容や指導方法の高度化が求められることなどを踏まえ、教員の専門的指導力の確保のための研修の充実を図る必要がある。さらには、道徳教育に関する校内研究や地域研究の充実のための研究委嘱授業等の充実、柔軟な発想力とリーダー性を備えた「道徳教育推進リーダー教師」(仮称)の育成等、教員の指導力向上のための環境やスタッフの充実も必要である。
  • 英語教育の充実のため、次期学習指導要領改訂の検討状況も踏まえつつ、国は外部専門機関等との連携により、各地域の指導者となる「英語教育推進リーダー」の養成を推進する必要がある。各地域では、リーダー等が教育委員会と大学等が連携して実施する研修の企画・運営への参画、学校内外の研修講師、公開授業の実施や、地域の英語担当教員に対する指導・助言を行う等の役割を担い、小・中・高校の一貫した英語教育や、小学校の英語教育の専門性向上等を推進することが期待される。具体的には、「英語教育推進リーダー」と英語教育担当指導主事等が中心となって、小・中・高校の連携による研修の実施や、各学校を訪問し、小・中・高校の接続を意識した指導計画の作成や「~することができる」という形で表したCAN-DO形式での学習到達目標を活用した授業改善などについて指導・助言を行うことなどが期待される。
     また、このような地域のリーダーの活動が可能となるような体制整備が必要である。さらに、小学校教員が教科化に向けた専科指導や小・中・高校の一貫した学びの接続に留意した指導に当たることが可能となるよう必要な研修を充実するとともに、「免許法認定講習」の開設支援等による小学校免許状と中学校英語免許状の併有を促進する必要がある。 
  • 特別支援教育の充実のため、全ての教員が特別支援教育に関する基礎的な知識・技能を身に付けるための研修を実施するとともに、校長等管理職が特別支援教育に関する認識を持ち、リーダーシップを発揮するための研修を行うことも必要である。また、小中学校等において特別支援教育推進の中心的役割を担う特別支援学級の担任、通級による指導の担当教員及び特別支援教育コーディネーターの専門性を向上させるための研修の実施に併せ、必要に応じて専門家の活用等により、学校全体としての専門性を確保する必要がある。
  • 特別支援学校の教員には、障害の多様化や重度・重複化への対応、特別支援学校のセンター的機能発揮のための地域の小中学校等との効果的な連携手法等を身につけるための専門的な研修が求められている。
  • 現在、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、都道府県等の指導的立場の教員に対する研修の実施、各地域の教員研修センターの中核的役割を担っているが、今後特別支援教育の充実に係る研修の実施に当たって、独立行政法人教員研修センターとも連携し、推進することが期待される。
  • 平成27年度から、幼保連携型認定こども園が学校及び児童福祉施設である単一の施設として位置づけられたことを始め、質の高い幼児期の学校教育・保育・子育て支援を総合的に行うための、子供・子育て支援制度が施行されたことから、質の高い幼児教育を提供することがますます重要となっている。このため、各地域の幼児教育の中心となる、教育内容や指導方法、指導環境の改善等について指導・助言を行う「幼児教育アドバイザー(仮称)」の養成とともに、幼児教育に係る教員等の研修を充実させるための研究委託事業等の充実、円滑な幼保小接続を図るために、幼稚園や幼保連携型認定こども園の教員、保育士、小学校教員等が合同で研修を行い、お互いの指導方法、指導原理に関し、相互の理解を深めることも求められる。

○ こうした新たな課題の対応を含め、個々の教科の授業における実践力だけでなく、子供や学校・地域の実態を踏まえて、育成すべき資質・能力を踏まえた教育課程をデザインして実施し、評価・改善することや、そのために必要な学校内外のリソースを活用することなどを含めた、一連のカリキュラム・マネジメントができる力を付けることが必要である。

○ また、教員養成段階においても、上記で列挙された新たな教育課題に対応できる力の基礎を育成できるよう、教職課程の科目全体を精選しつつ、新たな科目の創設や既存科目の改善を図るなど、必要な見直しを行うことが必要である。この際、特に初任段階において研修等により学ぶべき内容との整合性にも留意しつつ、検討することが適当である。

  • アクティブ・ラーニングに関する指導力や適切な評価方法については、全ての学校種の教員が身につけるべき能力や技能であり、教職課程において、これらの育成が適切に行われるよう、児童生徒の深い理解を伴う学習過程やそのための各教科の指導法の授業等に取り入れていくことが必要である。
  • また、アクティブ・ラーニングに関する教育の充実のためには、教員養成課程における授業そのものを、課題探究的な学習や、学生同士で議論をして深め合うような授業としていくことも求められる。
  • ICTを用いた指導法については、教員がICTの操作方法そのものを身に付けるのではなく、ICTを用いて効果的な授業を行ったり、適切なデジタル教材を開発・活用したりすることができる力や子供たちの情報活用能力の育成を行うことができる力の基礎を育成すべきである。
  • 教職科目における道徳については、「特別の教科」としての道徳科の趣旨を踏まえた位置づけを検討するとともに、人間に対する理解を深めつつ教員としての指導力を身につけるために、理論面、実践面、実地経験面の三つの側面から改善・充実を図る必要がある。また、幼児期や高等学校段階も含めた教育活動全体で道徳教育の一層の充実が求められることから、教職課程の全体でその取扱いの充実を考慮すべきである。
  • 英語教育については、小学校における英語の教科化への対応や中学・高等学校の「話す」「書く」の指導力の向上を図るため、大学、教育委員会等が参画して養成・研修に必要なコアカリキュラム開発を行い、課程認定の際の審査や各大学による教職課程の改善・充実の取組に活用できるようにするとともに、小学校中学年の外国語活動導入と高学年の英語の教科化に向け、「小学校英語」に関する科目を教職課程に位置づけるための検討を進めるべきである。
  • 発達障害を含む特別な支援を必要とする幼児・児童・生徒に関する理論及びその指導法は、学校種によらず広く重要となってきていることから、教職課程において独立した科目として位置付け、より充実した内容で取り扱われるようにすべきである。
  • さらに、地方創生や起業体験など新しい観点を踏まえたキャリア教育、生徒指導や自然体験活動の充実、幼小接続をはじめとした学校間連携なども課題とされているところであり、教職課程においてその取扱いの充実を図るべきである。
  • こうした新たな課題の対応を含め、前述のカリキュラム・マネジメントについて、養成段階においてはその基礎を身に付けることが必要である。

○ これらの教員研修、養成における内容の詳細事項については、次期幼稚園教育要領、学習指導要領の検討状況等を踏まえつつ、引き続き検討していくこととする。

○ なお、こうした新たな教育的課題に対応していくためには、保護者や地域の力を学校運営に生かしていく視点も必要である。学校が地域づくりの中核を担うという意識を持ち、学校教育と社会教育の連携の視点から、学校と地域の連携・協働を円滑に行うための資質を養成していくことも重要である。

4.新学習指導要領の検討を踏まえた養成・研修の在り方

 現在、次期学習指導要領の在り方について審議が進められる中で、高等学校における新たな教科・科目の在り方についても検討が行われている。こうした教科・科目の趣旨を十分に理解し、それぞれの教科・科目を指導する上で求められる指導力を培うような養成・研修の在り方について、検討が必要である。

(2)教員研修に関する改革の具体的な方向性

○ 教職生涯を通じた教員の育成のためには、現職教員の研修の充実が極めて重要である。このため、教育委員会は、教員育成指標や研修計画に則(のっと)って、大学の教員養成との接続や大学との連携も踏まえつつ、体系的に研修を実施していくことが必要である。

○ また、「教員は学校で育つ」ものであり、教員の資質能力を向上させるためには、経験年数や職能、専門教科ごとに行われる校外研修の体系的な実施とともに、学校内において同僚の教員とともにOJTを通じて日常的に学び合う校内研修の充実や、個々の教員が自ら課題を持って自律的、主体的に行う研修に対する支援のための方策を講じることが必要である。

○ さらに、校内研修の充実を図ることが重要であり、校内において組織的・継続的に研修が実施されるよう実施体制の充実強化を図ることが必要である。

1.継続的な研修の推進

○ 教員の資質能力の育成・向上のためには、法定研修や各教育委員会が計画・実施する各種の研修はもとより、自発的、継続的に校内研修が実施されることが不可欠である。校内研修が組織的に行われることにより、教員間での組織目標の共有化とそれに伴う協働が進み、学校の組織力の向上にも大きく寄与することが期待される。

○ 教員の研修に係る計画及び実施は、一義的には都道府県や政令指定都市など、任命権者である教育委員会に責任があるものの、市町村など、学校の設置者である教育委員会や学校経営の責任を有する学校長等も、教員一人一人の成長を支える重要な存在であることを認識するとともに、校内研修等、継続的な研修の意義や重要性を理解し、その活性化に最大限努めるべきである。

○ 校内研修の充実に関する先進的事例としては、どの教員も主体的に参加できるように校内に複数の研修チームを設け、 各チームに経験豊富なベテランの教員やミドルリーダーとしての活躍が期待される教員、教職経験の浅い若手教員や初任者の教員、臨時的任用の教員をバランスよく配置して行う研修や、ベテランの教員やミドルリーダークラスの教員がメンターとして若手教員等の指導や助言を行ったり、授業研究などを行ったりしながらチーム内で相互に学習しあう中で初任者等の若手教員を育成するいわゆるメンター方式の研修等を導入し、効果をあげている例がある。

○ こうした先進事例等も踏まえつつ、都道府県・市町村の教育委員会は、管理職に対する研修の実施や校内研修リーダーの養成、校内研修の実施マニュアル等の整備を推進すべきである。また、学校内においては、校長のリーダーシップのもと、研修リーダー等を校内に設け、校内研修の実施計画を整備し、当該計画に則して各教員の自発的かつ主体的な学習意欲を尊重しながら、研修チームを設けるなどして組織的、継続的な研修が行われることが期待される。

○ また、近年の大量退職、大量採用の流れの影響から、必ずしも年齢構成の均衡が取れている学校ばかりとはいえず、効率的・効果的な校内研修の実施に支障を来す場合があることも想定されることから、必要に応じ、各教育委員会が域内において様々な年齢や経験をもつ教員同士の学びの機会を提供することやそうした教員同士の学び合いのネットワークを構築していくことが望まれる。また、そうした学びの機会が可能な限り得られるよう、学校長等が配慮するとともに、そうした体制を整えていくことが必要である。

○ こうした学びの機会を提供する際には、人事交流を図り、例えば大学教員が校内研修に関わるなど、教職大学院等を含めた大学や関係機関の協力を得ながら、当該機関等と協働して取り組むことが必要であり、前述した教員育成協議会(仮称)において、そのための協議を行っていくことが望ましい。

2.初任者研修の改革

○ 初任者研修は、初任者の配置校におけるOJTである校内研修と都道府県の教員研修施設等において実施される校外研修により行われている。このうち小中学校の校内研修については、地域に初任者研修の拠点校を設け、その学校に初任者指導教員を配置し、当該教員が拠点校を含む地域の複数の学校に分散して配置されている初任者の指導に当たる「拠点校方式」による実施が基本となっている。

○ 拠点校方式による初任者研修については、従来より以下のような課題が指摘されている。

  • 一人の初任者指導教員は、通常、一人の初任者に対して週1回程度しか指導に当たれず、初任者に対し継続的に十分な指導を行うことが困難。
  • 学校も初任者指導教員に初任者の指導を任せてしまい、学校として責任を持って初任者の育成に組織的に取り組む体制が十分構築されていない場合も見受けられる。

○ このため、学校として組織的かつ継続的に初任者の育成を行うことができるよう、初任者研修の改善を図るべきである。

○ 初任者研修に関しては様々な地域で、前述のメンター方式の他、経験豊かな再任用の教員や指導力の高い教員が担任する学級に初任者を副担任等として配置し、ジョブ・シャドウイングを用いるなどして、学級担任の教員をメンター役として常時初任者に指導や助言を行い、初任者を育成する方式等、先駆的な取組が行われており、これらを参考に改善方策を検討することが適当である。

○ このような取組を踏まえ、メンターが常時初任者を含む若手教員に対して指導や助言を行えるような取組が促進されることが望まれる。この際、同一学校内で1人のメンターが1人又は複数の初任者等を指導するだけでなく、複数のメンターと初任者を含む複数の若手教員が研修チームを組織し、研修を実施する方法によることも効果的であり、このような組織的な研修を行う中で、例えば臨時的任用の教員に対する研修を実施することも可能であると考えられる。

○ また、これらの方法による初任者研修の実施を支援するため、国は、引き続き必要な定数措置に努めるとともに、研修実施マニュアルの配布等の必要な措置を講じるべきである。さらに、初任者研修がより効果的に行われるよう、学校管理職や直接初任者の指導に当たる指導教員等を対象とした研修を実施することが必要である。

○ 以上の方式の実施に伴い、初任者研修における校内研修が充実することが考えられる。初任者の教員は、指導教員や先輩教員からの指導や助言を受けながら学校で日々実践し、省察・改善を繰り返す中で、教員として成長していくものである。その意味でOJT を中心とした校内研修により一層重点を置いて実施していくことが望ましい。

○ 一方、校外研修についてはこうした校内研修の充実に伴い、実施期間を短縮する方向で運用されることが望ましく、演習や模擬授業、体験活動などAL研修(アクティブ・ラーニング型研修)を取り入れたより実践的な内容に改善することが適当である。

○ 初任者研修の実施に当たっては、校内研修、校外研修のいずれにおいても、新たな教育課題への対応や第三者的な視点からの客観性の高い指導や助言を得るため、教職大学院も含め大学と連携し、大学の知見や人材を活用しながら実施することも検討すべきである。

○ さらに、近年、多くの都道府県等においては、若手教員の育成の強化を図るため、初任者研修のみで若手教員の研修を終えるのではなく、2年目研修や3年目研修を実施するなど若手教員のための研修を継続して実施しており、成果をあげている。初任者に限らず、経験年数の浅い教員に対する研修は、その後の教職生活への影響も大きく、とりわけ重要であることから、国においては、今後、都道府県等において、それぞれの地域の状況等を踏まえた効果的な若手教員研修が行えるよう、初任者研修の弾力的な運用を可能にするよう現在の初任者研修の運用方針を見直すことが必要であり、前述した国の策定する研修指針に反映させることが適当である。

3.十年経験者研修の改革

○ 十年経験者研修に関しては、教員免許更新制度を導入するための教育職員免許法改正の際に、国会において、「現職研修と免許状更新講習との整合性の確保、特に十年経験者研修の在り方について検討すること」が附帯決議されたこと等を受け、その後、その在り方について議論がなされてきた。

○ 免許状更新講習は、免許状の所有者が免許状授与時(又は更新時)に修得対象とされていなかった最新の知識技能の修得を行うことを通じて、その時々で教員として求められる資質能力の確保・確認を行うことを目的とし、国公私立の教員を通じて、また、現職教員及び非現職教員を対象に行われるものであり、免許制度の根幹を成すものであると考えられる。

○ 「教員免許更新制度の改善について(報告)」(平成26年3月18日、教員免許更新制度の改善に係る検討会議)においても、免許更新講習の根本的な在り方は維持するとの考えの下で改善に向けた提言がなされ、順次改善が図られてきたところである。

○ 一方、十年経験者研修については、同報告書において、「今後の十年経験者研修の在り方については、制度的に一律にその実施時期を設定するのではなく、各任命権者が、各現職教員の教職生活全体を通じた体系的な学びの環境を柔軟かつ適切に築けるよう、各任命権者の判断で、教職経験に応じた体系的な研修を行うものとする方向で、教育公務員特例法の規定の見直しを検討する必要がある。」と提言されるなど、各任命権者の判断で、実施時期を柔軟化して実施できるようにする必要があるとの方向で議論が進められてきた。

○ 先に述べたように、各地域において、教員育成指標や研修計画が策定されること を前提とすれば、現行の十年経験者研修の実施者がより自主性を発揮し、創意工夫が図りやすくなるような制度とした方が望ましい。

○ また、十年が経過した時点で受講すべき研修であるといった意識を改め、学校内でミドルリーダーとなるべき人材を育成すべき研修であるという認識に転換し、それぞれの地域の実情に応じ、必要な時期に必要な教員に受講させる研修へと位置付けを改めるべきである。

○ 具体的には、各任命権者の責任の下、現行の十年経験者研修を例えば「中堅教員能力向上研修」とするなど、任命権者が定める年数に達した後に実施することが可能となる制度改正が望ましく、教員免許更新制の意義や位置付けを踏まえつつ、教育公務員特例法の規定の見直しを行うことが必要である。

○ また、当該研修を計画・実施する際には、グローバル化する社会において身につけるべき資質能力を意識しつつ、学校外のネットワークを最大限に活用することが求められる。そのため、各地域において、教職大学院等の大学だけでなく、地域や民間企業等の協力も必要に応じて得ながら、それらのネットワーク化を図りつつ研修を実施するなど、ミドルリーダーの育成にふさわしい研修とするための体制を整えることが期待される。

4.研修実施体制の整備・充実

○ 前述したとおり、教員の養成、採用、研修を通じた改善は極めて重要であるが、新しい時代に求められる資質・能力の育成、そのために必要なアクティブ・ラーニングの充実など、新たな時代に必要な対応を考慮したとき、幼稚園教員から高等学校教員まで百万人以上にも上る現職教員の研修の意義はとりわけ大きく、早急に体制を整備する必要がある。

○ 研修の充実のためには、研修の機会や子供と向き合う時間を確保することが大前提であり、そのための条件整備が不可欠である。そのため、チーム学校の理念のもと、国、教育委員会は、教員の業務を見直し、事務職員や他の専門スタッフの活用を推進するとともに、研修機会の確保等やアクティブ・ラーニングの推進等に必要な教職員定数の拡充を図るべきである。

○ また、国が業務改善に関する考え方や取組事例等をまとめた指針を作成することなどにより、教育委員会の業務改善を支援するとともに、教育行政職員や管理職、中堅教員を対象とした研修において、校務を効率的・効果的に進めることができるよう、タイムマネジメントに係る研修を実施するなどの措置を講じる必要がある。

○ さらに、主体的・協働的な学びの要素をより一層含んだ、AL研修(アクティブ・ラーニング型研修)への転換を図るための研修手法の開発や改善、新たな課題に対応した研修プログラムの開発や研修の効果の適切な評価・改善を行うとともに、これらの研修手法やプログラムの全国的な普及を図るための措置を講じる必要がある。

○ そのため、研修リーダーの養成や指導教諭の職務の明確化、指導教諭の配置を促進するための加配措置の検討など、校内研修の実施体制を強化するとともに、教育委員会等による学校への支援を充実させるため、指導主事の配置や指導体制を充実させるために必要な措置を講じることが必要である。

5.独立行政法人教員研修センターの機能強化

○ 独立行政法人教員研修センターに関しては、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月24日閣議決定)により、法人の機能強化のために研修対象の拡大等が示されたところである。

○ 当該法人については、新しい時代に求められる資質・能力の育成やそのために必要なアクティブ・ラーニングの充実のため、本年度より「次世代型教育推進センター」を設置し、研修プログラムの開発や全国的普及を行っている。こうした取組により、法人における中央研修を核として、アクティブ・ラーニングの充実や産学官連携によるICTを活用した教育内容・方法の革新の推進などについて、組織的な取組支援を一層充実させる必要がある。

○ 一方、教育再生実行会議第7次提言(平成27年5月)において、国は、地方公共団体、大学等が、教職生活全体を通じた教員の能力形成を支援できるよう、全国的な教員研修・支援のハブ機能を整備・充実し、地方公共団体間のネットワークを構築すること、教員育成指標に基づく養成・採用・研修の各段階を通じた教員の資質・能力の開発・向上について、地方公共団体、大学等における取組を体系的、総合的に支援するための拠点を整備することなどが提言されている。

○ 今後、研修の充実のみにとどまらず、養成・採用・研修を通じた一体的な改革が図られていくことを踏まえれば、各地域における教員研修施設や教職大学院などの大学等とのネットワークを構築しつつ、各段階を通じた教員の資質能力の向上に関する調査、分析、研究開発や情報の整理・収集・提供等を担う全国的な拠点を整備し、当該拠点が各地域と人的交流を図るなど、各地域の国公私立の教員を支援するという視点から様々な取組をリードしていくことが望ましい。

○ こうしたことを総合的に考慮すれば、上記のような拠点機能を当該法人が担うことが適切であり、具体的な制度設計について検討を進めるべきである。その際、生涯を通じた職能成長を実現する研修の高度化・体系化、免許状更新講習の改善等に資する研究開発、教育長等の教育行政専門職や教職大学院等の大学教員の資質向上に資する研修機会の提供の他、教材バンクとしての機能など教員を支援するための取組についても留意する必要がある。

(3)教員採用に関する改革の具体的な方向性

○ 教員採用に関しては、上記の教員育成指標を踏まえつつ求める教員像を明確にした上で、引き続き人物重視の採用を進めていくことが必要である。さらに、学校における教育課題が多様化する中、多様な専門性を持つ教員を採用していくことが重要であり、特別免許状の活用等による学校外の人材の採用を推進する必要がある。

○ また、採用の際のミスマッチの防止や新規採用者の円滑な教職の開始のため、入職の前後における研修や学校現場体験の機会を設けることも重要であるとともに、年齢構成の不均衡を是正するための方策を検討することも必要である。

○ さらに、一般に教員の採用時期が国家公務員の採用時期と比べても遅く、優秀な人材を確保する際の課題となっているとの指摘もある。政府が就職・採用活動時期の後ろ倒しを要請していることや教育実習の実施時期なども踏まえつつ、改善のための検討を進めるべきである。

1.円滑な入職のための取組の推進

○ 採用の際のミスマッチを防止するとともに、新規採用の教員が円滑に教職を開始できるようにする取組などが重要である。このような観点からも、後述のように教職課程において学校現場に参画する学校ボランティア等の活動は効果的である。また、一部の教育委員会では、新規採用の教員の円滑な入職や学校における必要最低限の実践力獲得のため、教員志望の学生を対象にいわゆる「教師養成塾」等を実施したり、採用前の時期に採用予定の学生を対象に、配置予定校において校務の体験や教員から説明を受ける機会を設けたりする取組を行っている。

○ これらの取組は、ミスマッチの解消のみならず教職に必要な最低限の実践力を身につけさせることにも有効であると考えられることから、より一層の普及が期待される。

2.教員採用試験における共通問題の作成に関する検討

○ まずは、各都道府県等における教員採用の際の試験問題作成上の負担軽減や、新たな教育課題を踏まえた適切な試験の実施等の観点から、各都道府県等の採用選考の内容分析やニーズの把握等、必要な検討に着手すべきである。

3.特別免許状制度の活用等による多様な人材の確保

○ 複雑化・多様化する教育課題に対応するためには、これらの教育課題に対応できる高度な専門性を持った多様な人材を確保し、教育の質の向上を図ることが重要である。

○ このためには、特別免許状制度や特別非常勤講師制度の活用が有効である。特に、特別免許状については、制度創設以来、特別免許状の授与基準が著しく高いことや授与基準が未整備であることから活用が不十分であった。このため、昨年6月に各都道府県教育委員会に授与基準の弾力化を進めるよう依頼し、各都道府県において授与基準の弾力化を図る取組が進んでいる。

○ 今後、後述のように、特別免許状授与の手続きの改善を図るなどして特別免許状の活用を促進する必要がある。((5)3.)

○ なお、前述の教員育成指標とのかかわりで、特別免許状によって採用された者の、高度専門職としての教員として必要な能力や専門性が十分担保されるよう、選考や研修等で適切に対応することも必要である。

(4)教員養成に関する改革の具体的な方向性

○ 教職課程の改革に当たっては、教職課程が教員として最低限必要な資質・能力を育成することを目的とすることや履修の適正化を図る観点から、教職課程も含めた総単位数が大学設置基準の範囲内であること、単位の実質化や厳格な成績評価なども前提として、教員免許状の取得に必要な単位数については、まずは増加させないことを前提として検討を進めることとする。

○ その上で、学部段階と教職大学院あるいは現職との系統性や接続を踏まえ、新たな教育課題に対応できるよう教職課程の内容を精選・重点化するとともに、限りある履修量の中で効果的な履修が行われるよう履修の仕組みを工夫することが必要である。また、学生に教職のための意欲を持たせたり、定期的に自ら教職への適性を確認させるような機会を設けたりすることも重要である。

○ さらに、教員の資質能力を向上させるためには、教員養成学部の果たす役割は極めて大きく、教職課程における質の高い教員養成が行われることが必要である。このため、大学において教員養成を全学的に推進していくための体制の整備や、教科に関する科目と教職に関する科目の連携、教職課程の評価の充実といった質保証の取組を総合的に推進することが重要である。

○ 特に、国立の教員養成を目的とする大学・学部は、地域のニーズを踏まえつつ、4(1)3.の新たな教育課題や以下に求められる課題に対応した取組を率先して実施することにより、国立大学に置かれる意義・目的を明確にするとともに、他大学・学部におけるモデルを提示して、その取組を普及・啓発することが重要である。具体的には、「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」の審議のまとめにおいて重点配分の評価指標の例として示された「人材育成や地域課題を解決する取組などを通じて地域に貢献する取組」の評価指標例の一つとして「地域教育(初等中等教育、職業教育、生涯学習等)への貢献状況」が取り上げられているが、このような取組として、アクティブ・ラーニングの充実、ICTの利活用、道徳教育、英語教育、特別支援教育の充実などの初等中等教育における新たな教育課題に対応するための教員養成や教員研修の支援などの取組が考えられることから、各大学においては積極的にこれらの取組を進めていくことが求められる。また、教員養成学部を有する私立大学等についても、前述の教員育成協議会(仮称)に参画するなど、地域の教育委員会と連携の下、新たな課題等に対応した教員養成・研修を一体的に行うことを検討する必要がある。

○ また、近年、国公私全ての大学は、地域貢献や人材育成の役割を強く求められており、大学がそのような役割を積極的に果たしていくためには、教員の育成を担う教職課程のより一層の充実が必要である。このため、大学は、教職課程について全学的に支援を行っていくことが重要である。

○ なお、今回の審議に当たっては、大学における養成の原則(教員養成は大学において行うことを基本とすること)及び開放制の原則(教員養成を目的とする学位課程に限らず、あらゆる学位課程において教職課程を設置し、教員養成を行うことができる)を維持することを前提とするものである。

1.学校インターンシップの導入

○ 教員養成系の学部や学科を中心に、教職課程の学生に、学校現場において教育活動や校務、部活動などに関する支援や補助業務を行わせる学校インターンシップや学校ボランティアなどの取組が定着しつつある。

○ これらの取組は、学生が長期間にわたり継続的に学校現場等で体験的な活動を行うことで、学校現場をより深く知ることができ、既存の教育実習と相まって、理論と実践の往還による実践的指導力の基礎の育成に有効である。また、学生がこれからの教員に求められる資質を理解し、自らの教員としての適格性を把握するための機会としても有意義であると考える。

○ 一方、学校インターンシップの実施に当たっては、既存の教育実習との間で役割分担の明確化を図るとともに、その円滑かつ確実な実施に向けて、受入れ校確保等のための教育委員会や学校と大学との連携体制の構築、大学による学生に対する事前及び事後の指導の適切な実施、学生側と受入れ校側のニーズを把握するための情報提供の実施など、環境整備について今後十分に検討することが必要である。

○ これらの点を踏まえつつ、学校インターンシップについて、教職課程において単位化することや教職課程コアカリキュラムに盛り込むことなども含め、教職課程全体の在り方について今後議論していく中で、具体的な普及促進方策を検討していくこととする。

2.教職課程の質の保証・向上

ア 教職課程を統括する組織の設置

○ 中央教育審議会答申等において、従来より教職課程を置く大学においては、教員養成カリキュラム委員会を設置し、教職課程のカリキュラム充実や複数の教職課程間における科目の調整や、教育実習の適切な実施、教育委員会との連携によるカリキュラムの改善等を図ることが提言されている。

○ このようなことから、多くの大学においては教員養成カリキュラム委員会等の設置が進捗している。また、上記のような機能に加え、学生への教職指導や教職課程を担当する教員に対するFDの実施、学校インターンシップ等の企画・実施等の機能を加えた教職支援センター等の組織を設置している例もある。

○ これらの組織は、教職課程の内容、学修量、成績評価基準の統一など、全学的に効率的・効果的な教職課程の実施や教職課程の質の維持・向上にとって極めて有効である。また、前述の学部等の教育課程全体を通じた教員の養成を行うため、これらの組織が中心となって必要な取組を進めていくことが期待される。

○ こうしたことから、教職課程を置く大学における教員養成カリキュラム委員会や教職支援センター等の整備状況を踏まえつつ、全学的に教職課程を統括する組織の設置について努力義務化することが適当である。

イ 教職課程の評価の推進

○ 教職課程の質保証の仕組みとしては、大学が教職課程を開設する際に受ける教員養成部会の課程認定委員会による課程認定の審査及び、教職課程の設置後に教員養成部会課程認定委員会の委員等による教職課程実地視察がある。

○ 教職課程実地視察については、各大学の教職課程水準の維持・向上にとって有効であるが、現在の実施体制では1年間の実施大学数に限りがあることから、教職課程実地視察の体制の整備・充実を図ることが適当である。

○ さらに、教職課程の水準の向上を図るためには、教職課程に関するPDCAサイクルが適切に機能することが必要である。このため、まずは教職課程における自己点検・評価の実施を制度化することが適当である。

○ 現在、教職大学院では、他の専門職大学院と同様に法令に基づき、五年以内ごとに、教職大学院の目的に照らし、教育課程、教員組織その他の教育研究活動の状況について、認証評価団体による評価を受けることが法令上義務付けられており、一般財団法人教員養成評価機構がこれを担っている。

○ 機構による認証評価は、国私立大学の大学関係者、外部有識者による訪問調査を含めたピアレビューを行い、評価基準に適合していると認められた場合は適格認定を行い、評価結果はウェブサイト等で公表されている。

○ 一方で、学士課程における教員養成教育の評価については、これまで認証評価のような法令上の制度化はされていなかった。そのような中、東京学芸大学では、他の国公私立大学や教育委員会・学校関係者等の協力を得ながら、開発研究プロジェクトを立ち上げ、学士課程における教員養成教育の評価システム(教員養成教育認定)を開発し、評価活動を開始している。

○ この評価システムは、教職課程を有する大学における教員養成教育の多様性を尊重しつつ、各大学が任意で参加し、学校や教育委員会の協力を得ながら、ピアレビューを中心とした、相互に学びあうコミュニティーを形成し、大学の枠を超えて学士課程段階の教員養成教育全体の質的向上に資することを目指している。

○ 今後、この取組が既存の一般財団法人教員養成評価機構などの評価団体等に引き継がれ、継続・拡大され、各大学が主体的かつ恒常的に自己の教育内容や方法・組織を検証しながら、相互評価を行うことにより、教員養成の質保証システムが確立されることは、我が国の教員養成に有意義であり、各大学の積極的な参加が望まれる。

○ なお、大学の教職課程の第三者評価については、これらの取組に加え、地域や大学の特性、学部等の専門分野などに応じて、将来的には様々な評価主体によって全国的に取り組まれることが期待される。このため、国としても教職課程の第三者評価を支援・促進するための方策について今後検討していくことが求められる。

ウ 教職課程担当教員の資質能力の向上等

○ 教職課程においては前述のように、教職に関する実践力の基礎や新たな教育課題に対応できる力を持った教員の養成が求められる。そのためには「教科に関する科目」、「教職に関する科目」の区分にかかわらず、教職課程の科目を担当する教員は、これらの課題に対応できる力を学生に身につけられるよう、指導力を高めることが必要である。

○ このため、大学においては、教職支援センター等の教職課程を統括する組織や教職大学院が中心となって、教職課程の科目を担当する教員に対し、学校現場体験を含む実践的な内容の研修やこれらの教育課題に対応した研修を行うなどを進めることが必要である。さらに、教育委員会とも連携して実際に学校現場に携わる教員等を教職大学院をはじめとする大学の教職課程の教員として確保する取組も一層推進すべきである。また、大学の教職課程における実務家教員の育成及び確保に資するため、大学と教育委員会が連携し、例えば希望する一部の教員に対して大学と学校現場を交互に経験させるなどの人事上の工夫を行うことにより、理論と実践の両方に強い教員を計画的に育成し、これらの者が、最終的には大学の教職課程を担う教員として活躍できるようなキャリアパスを構築することも考えられる。

エ 教科に関する科目の充実

○ 教科に関する科目については、学校教育の教科内容等を踏まえつつ適切に実施されるべきである。このため、教科に関する科目を担当する教員に対し、大学において全学的に教職課程を統括する組織等がFDを実施するなどして、教職課程の科目であることの意識を高めることが必要である。また、教科に関する科目の実施に当たって、教科専門の教員と教科の指導法を担当する教員が講義を協働で行うといった教科と教職の連携を進めることも重要である。

○ また、教科に関する科目の中に「教科の内容及び構成」等の科目を設けて、学校教育の教育内容を踏まえた内容で授業を実施している大学もある。このような取組は、教科に関する科目の一層の充実に資することから、今後拡大していくことが期待される。

○ 特に、教職大学院や教員養成大学・学部においては、教員養成に資する教科に関する科目の取組を充実させることが重要である。このため、他学部等と連携し、高度かつ最新の専門的知見に基づく科目を開設することや、前述の「教科の内容及び構成」に関する科目を積極的に教科に関する科目等として位置付けて実施するなどの工夫を行うことが強く求められる。

(5)教員免許制度に関する改革の具体的な方向性

○ 今回、教員免許状制度については、相当免許状主義(教育職員になることができる者は、相当する学校の相当する職及び教科に対応した免許状を保有する者に限られる)を引き続き維持することを前提とする。

○ その上で、平成27年度から幼保連携型認定こども園が学校及び児童福祉施設である単一の施設として位置づけられたことや学校種間の円滑な接続の問題、様々な教育課題への対応のため、多様な人材を学校現場に配置可能とするなど、園や学校現場のニーズに対応できる柔軟かつ効果的な運用ができるよう、制度を見直すこととする。 

○ なお、学校種横断的な免許状の創設等の課題については、教員養成部会において今後免許状制度の総合的な在り方について検討する中で議論を行う。

1.中学校及び高等学校の教員免許状所有者による小学校での活動範囲の拡大

○ 教育職員免許法第16条の5により、中学校及び高等学校の教員免許状を所有する者は、「それぞれの教員免許状に係る教科に相当する教科その他教科に関する事項で文部科学省令で定めるもの」の教授又は実習を担当する小学校の教諭等となることができることとされている。

○ 本制度により、中学校及び高等学校の教諭等が自らの有する免許状の教科に関連する小学校の教科等の指導を行うことができるようになっており、小学校における専科担任制の円滑な導入や小中一貫教育の効果的な実施が可能となる。

○ 本年6月に学校教育法等の一部を改正する法律が制定され、義務教育学校が平成28年4月より導入されることが予定されており、これを契機として、全国的に小中一貫教育の取組が一層進むことが予想される。また、小学校における英語教育のさらなる充実などが検討される中、教科に関する高い専門性を持つ中学校等の教員を小学校として活用しやすくするため、教科等に加え学級担任も可能にするよう制度改正を行うことが必要である。

○ なお、本措置により中学校等の教員を小学校又は義務教育学校の前期課程の教員として配置する場合には、任命権者等は小学校における組織、教育内容、学級運営等に関しあらかじめ研修を行うよう法令上措置すべきである。

2.教員の教職経験を考慮した免許状併有の促進

○ 教育職員免許法別表第8により、ある学校に一定の年数以上勤務経験のある教員が、他の学校種の普通免許状を取得しようとする場合、当該学校における勤務経験年数を考慮し、軽減された単位数で普通免許状を取得することが可能となっている。その場合に必要な単位は、大学における通常の講義のみならず、大学や教育委員会が文部科学大臣の認定を受けて開設する講習や公開講座においても取得可能とされている。

○ 今後、小中一貫教育の推進や多様な教育課題への対応等により、教員が学校種を超えて活躍する機会が広がっていくことが想定されるため、本措置による免許状併有を促進していくことは有益である。このようなことから、現職教員の他校種免許状の併有を促進するため、本措置による併有を行いやすくするよう制度を改善することが必要である。

○ 具体的には、取得しようとする免許状に関係する学校(例:中学校教諭免許状の取得の場合には、中学校、義務教育学校、併設型小学校・中学校、中等教育学校及び併設型中学校・高等学校、特別支援学校の中学部等)における勤務年数を単位数に換算可能として新たな免許状の取得のための負担を軽減することにより、異なる学校種の免許状の併有を促進することが考えられる。

○ 勤務年数の単位数への換算については、現行の教育職員免許法別表第8による単位数の軽減措置による軽減単位数を踏まえ、1年につき3単位程度とすることが適当である。なお、教職経験のみをもって免許状を取得することができるようにすることは望ましくなく、最低でも必要な単位の半数程度は大学等における学びにより修得すべきものとすることが適当である。

○ 例えば、小学校普通免許状を持ち小学校に3年以上の勤務経験を有する教員が、中学校普通免許状(二種)を取得しようとする場合、現行制度では、大学等における認定講習等で14単位を取得することが必要である。しかし、本措置を講じることにより、当該教員が中学校や義務教育学校等で2年の勤務の経験を有していた場合、例えば1年間の勤務経験を3単位と換算して、6単位(3単位×2年)分を取得したものと見なし、残り8単位で免許状を取得可能とすることが考えられる。

3.特別免許状制度の手続等の改善

○ 特別免許状は、免許状を持っていないが優れた知識経験等を有する者を教員として迎え入れることにより、学校教育の多様化への対応や、その活性化を図ることを目的としている。

○ 4.(3)3.でも述べたとおり、制度創設以来、授与基準が著しく高いことや授与基準が未整備であることから活用が不十分であった。このため、昨年6月に各都道府県教育委員会に授与基準の弾力化を進めるよう依頼し、各都道府県において授与基準の弾力化を図る取組が進んでいる。

○ 特別免許状の授与を行う場合、授与権者は、あらかじめ、学校教育に関し学識経験を有する者等の意見を聴かなければならないこととされているが、この学識経験を有する者とは、1.認定課程を有する大学の学長又は認定課程を有する学部の学部長、2.小学校、中学校、高等学校、中等教育学校又は特別支援学校の校長、3.その他学校教育に関し学識経験を有する者、とされており、これらの全員から意見を聴かなければならないことや、意見聴取の対象が極めて限定されている(例えば副学長や教頭は対象とされていない)ことから、手続に係る事務負担が大きく、迅速な授与が困難になっているとの課題が指摘されている。

○ このような状況を踏まえ、特別免許状授与を一層促進するため、意見聴取の対象について弾力化を行うことが必要である。

○ 他方、前述の教員育成指標とのかかわりで、高度専門職としての教員として必要な能力や専門性が十分担保されるよう、先行研修等で適切に対応することも必要である。

○ なお、特別免許状の授与に当たっては、博士の学位、海外の教員資格やTESOL修士の保有なども含め、授与を受けようとする者の様々な学修履歴や経験を考慮し、総合的に判断することが望ましい。

4.特別支援学校教諭等免許状の保有率向上

○ 特別支援学校の教員は、幼稚園、小学校等の免許状に加えて、特別支援学校教諭免許状を保有しなければならないが、相当免許状主義の例外として、免許法附則第16項において、当分の間特別支援学校教諭免許状を保有しなくても特別支援学校教員となることができるとされている。

○そのため、特別支援学校教員の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、72.7%にとどまっている。しかし、特別支援学校の教員は子供一人一人の障害に応じた適切な指導が求められる他、障害の多様化や重度・重複化への対応、特別支援学校が地域の特別支援教育のセンター的機能を発揮するため等、これまで以上に特別支援学校教員としての専門性が求められている。

○ このため、免許法附則第16項の廃止も見据え、平成32年度までの間に、おおむね全ての特別支援学校教員が免許状を保有することを目指し、国が必要な支援を行うことが適当である。集中的に保有率の向上を図るためには、都道府県教育委員会等、学校設置者における特別支援学校教員の採用や配置、研修等を通じた取組を求めるとともに、国においても、現職教員に対する免許法認定講習の開設支援や、独立行政法人特別支援教育総合研究所による免許法認定通信教育の実施、養成段階での免許状取得促進等の取組を進めることが考えられる。

○ また、小中学校の特別支援学級や通級による指導の担当教員は、免許法上特別支援学校教諭免許状の保有は必要とされていないが、特別支援学級等での指導のみにとどまらず、小・中学校における特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。
そのため、小中学校の特別支援学級担任の保有率も現状の2倍程度を目標として、特別支援学校教諭免許状の取得を進めることが期待される。

(6)教員の資質能力の高度化に関する改革の具体的な方向性 

1.拡充期を迎えた教職大学院の在り方

○ 教職大学院は、地域の教育委員会・学校との密接な連携の下で、力量のある教員のためのモデルを制度的に提示することを目的として創設され、1.新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成、2.管理職候補者をはじめとする指導的役割を果たし得るスクールリーダーの養成、の2つを目的・機能として有しており、平成19年度に制度化されて以降、平成27年4月現在で22都道府県の27大学に設置されている。

○ 教職大学院では、実習を中心として、理論と実践を往還する探究的な省察力を育成する体系的な教育課程、実務家教員と研究者教員から構成されるチームによる指導体制、現職教員学生と学部新卒学生が協働して学び合う学修形態、学校現場の今日的な課題を題材として、事例研究や討論を中心とした授業方法、など多くの特色を有している。

○ 各大学においては、教職大学院設置後、大学と教育委員会・学校との連携・協働が強化されるとともに、学び続ける教員の高度化を図りながら、学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解に立って幅広く指導性を発揮できる実践力のある教員の養成を進めるなど、教職大学院は、質的な面から教員の高度化に貢献をしてきた。

○ 一方、平成24年8月の中央教育審議会答申では、教職大学院の設置されていない都道府県においても、大学と教育委員会との連携・協働により、教職大学院の設置を推進することが提言されるとともに、国立の教員養成系修士課程については、高度専門職業人としての教員養成機能は原則教職大学院に移行させることとしている。なお、当面は、現在の修士課程入学定員の規模や役割を踏まえながら、教職大学院の量的な整備を行っていくことが必要であり、その際、教科教育などの修士課程で主として担ってきた能力をどのように教職大学院で養成するか、「チーム学校」を形成する教員としての力量をどのように育成するか、教員研修とどのように連動させるかといったことについて検討する必要がある。

○ 上記の方針を踏まえ、今後は、教職大学院は、質的な面のみならず、量的な面でも大学院段階での教員養成の主軸として捉え、高度専門職業人としての教員養成のモデルから、その中心に位置付けることが必要である。教職大学院が大学と教育委員会・学校との連携・協働のハブとなり、学部段階も含めた大学全体の教員養成の抜本的な強化や、現職教員の研修への参画など地域への貢献の充実を図ることが求められる。また、教職大学院の中には、教育委員会と連携し、現職教員の育成のみならず地域や学校における教育改革の取組を支援し成果をあげている例もあることから、このような取組を進めていくことにより、教育委員会と教職大学院の連携がより一層促進・強化されることも期待される。

○ 教職大学院の設置拡充に伴い、新任教員については、大学院修了者向けの採用試験の実施、名簿登載期間の延長や初任者研修の免除などによりインセンティブを付与することや、現職教員については、教職大学院の学びを教職生活全体のキャリアの中に明確に位置付けることも重要である。また、拡充期を迎えた教職大学院では、「チーム学校」を形成する教員としての力量を育成できるカリキュラムの充実に努めるとともに、教育委員会の行う教員研修の中核的パートナーとして役割を果たすことが求められている。このためにも、教職大学院でのこれまでの成果や学びの有効性・メリットなどについての対外的な広報を強化するとともに、さらなる教育委員会と連携・協働により、学校現場での実践に即した教育内容への改善・充実を図ることで、入学のための動機付けやニーズを高めることも可能となる。

○ さらに、教職大学院において、現職教員の中でも、従来のミドルリーダーの養成とともに、教育委員会のニーズに合わせて、管理職候補者となる教員に対する学校マネジメントに係る学修の充実を図り、管理職コースを設置することや、教育委員会との連携による管理職研修を開発・実施することも必要である。その際、独立行政法人教員研修センターと連携し、現職教員の学びの質を向上させる仕組みも検討する必要がある。

○ それに合わせて、原則、各都道府県に教職大学院が設置されることとなる。現在、各教職大学院は、入学する者の4割以上を現職教員が占めており、今後は現職教員がより学びやすい仕組みに改善するとともに、各教職大学院の強み・特色をカリキュラム構成やコース設定などで明確に示していく必要がある。また、教職大学院は、学校現場を基軸にした教育課程の編成・管理(カリキュラムマネジメント)を行うことにより、チーム学校を支えながら、地域交流を支援する存在となるべきである。その際、大学によっては、設置される地域からのニーズのみならず、県域を越えて広域型のニーズを踏まえたものとすることも必要である。

○ このように、各都道府県の教育委員会ごとに教員育成協議会(仮称)が設置され、それらとあわせて教職大学院が設置されるとともに、独立行政法人教員研修センターとの連携が図られることで、教職生活全体を通じた教員の能力形成を支援するネットワークが、全国的にも、各地域にも構築される立体的なものとなり、教員の資質向上の全国的な充実が図られることが期待される。

2.教職大学院を中心とした大学における履修証明制度の活用等による教員の資質能力の高度化

○ 複雑化、多様化する教育課題に対応するためには、教員の資質能力について一層の高度化が図られなければならない。

○ そのためには、将来的には教員養成の大学院レベル化も視野に入れつつ、教職大学院を中心とした大学と教育委員会が連携しながら教員の養成や研修を進めていくことが必要である。また、教員がこれらの方法により学習した成果を専修免許状の取得や能力証明に結びつけられる方策も重要である。これらにより、一人一人の教員が自ら学び続ける意欲を高め、ひいては高度専門職業人としての教員の地位の確立にも寄与することが期待される。 

○ 当面の取組としては、例えば以下のようなものが考えられる。

  • ア 教職大学院等において、現職教員等を対象に履修証明プログラムを開設し、大学院レベルの高度で専門的な内容のプログラムを提供する。その際、現職教員に受講しやすいよう、120時間以上行うこととされている履修証明プログラムを、例えば「教科指導コース」「生徒指導コース」、「学校経営コース」など複数のコースに分割し、現職教員の判断により、これらのコースの1つ又は複数を履修できるようにすることも考えられる。その場合、コースの終了のみであればコース修了証を授与する。
  • イ 教職大学院等と教育委員会が連携し、現職教員を対象とした研修や免許状更新講習を行い、当該研修による学習の成果を教職大学院において単位認定することや、これらの研修について文部科学大臣の認定を受けて「認定講習」とすることにより単位認定を可能とする。

○ 上記アやイの方法、又は、アとイを混合した方法により必要な単位を満たした現職教員に対しては、教育職員免許法別表第3により専修免許状の授与が可能となる。さらに、専修免許状の授与につながらなくても、上記アの履修証明プログラムの全部又は一部を修了することにより履修証明証やコース証明証が授与され、受講した教員の能力証明としての役割を果たすことが可能である。なおその際、教員が自らの職能成長をデザインできるように、研修履歴をファイルしポートフォリオを作成するシステムを教員育成協議会(仮称)が構築すると、教員の主体的な将来設計を促すことができる。

○ 任命権者においては、現職教員の学び続ける意欲を高め、その資質能力の高度 化を図るため、教員育成協議会(仮称)の場を活用することなどにより、大学と十分連携した上で、教職大学院等における授業や研修等の成果である履修証明証やコース修了証、さらには専修免許状を取得した者についても人事上の配置や昇進、処遇への反映等、インセンティブの付与について今後積極的に対応していくことが期待される。

3.教員養成系以外の修士課程における教員養成機能の充実

○ 教員養成の高度化を図っていくためには、国公私立大学の教員養成系以外の大学院における教員養成の取組について一層の充実も必要であり、これらの教職課程においては、アクティブ・ラーニングを踏まえた実践的指導力を保証する取組を進めつつ教科等の一定の分野について学問的な幅広い知識や深い理解を強みとする教員の養成を行うことが求められる。

○ このため例えば、教職大学院等との連携を図ることにより、教科の指導法等の教職に関する科目や「教科の内容及び構成」に関する科目など教員養成に資する実践的な科目を開設するなどの取組を進めていくことが考えられる。

○ また任命権者においては、これらの教職課程を経て専修免許状を取得した者についても、教員採用や人事上の配置・昇進、処遇への反映を行うなど、教員養成の高度化を促進する観点からインセンティブとなる取組を進めていくことが期待される。

5.今後の検討について

 以上、教員の養成・採用・研修の一体的改革を基本とした具体的方向性やその制度設計の在り方について、教員養成部会における審議検討をもとに中間まとめとしてとりまとめたが、今後、関係団体からのヒアリングやパブリックコメントを実施しつつ、例えば以下のような各事項の詳細については追加的に検討を行い、年内中に答申としてとりまとめる予定である。

(1)教員の養成・採用・研修を通じた改革の具体的な方向性

 教員育成指標や研修計画の策定、教員育成協議会(仮称)の創設についての制度設計、新たな課題に対応した研修・教職課程の見直しの内容

(2)教員研修に関する改革の具体的な方向性

 チームとしての研修体制や校内研修充実のための具体的方策、初任者研修・十年経験者研修の見直しを含めた研修全体の具体的な制度設計、独立行政法人教員研修センターの機能強化についての具体的な制度設計

(3)教員採用に関する改革の具体的な方向性

 教員採用試験の共同問題の作成に関する具体的な検討

(4)教員養成に関する改革の具体的な方向性

 学校インターンシップの詳細、教職課程の質保証・向上に向けた制度設計

(5)教員の資質能力の高度化に関する改革の具体的な方向性

 教職大学院等における学修内容や履修証明制度の活用の詳細
 など
 なお、教員免許制度については、これらの検討が終了した後に、総合的な検討を行うこととする。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成27年11月 --