4.今後の施策の方向性

(基本的な考え方)

○ 高等学校教育の振興に当たっては、全ての意志ある生徒が、その能力・適性、進路等に応じた教育を安心して受けられ、学びを通じて、その能力・可能性を伸長させることができるよう、高等学校教育を含む後期中等教育段階の学びの機会を与えられるようにすることが必要である。
 ただし、このことは、いわゆる「義務教育化」を目指すものではないことを明らかにするべきである。

○ 具体的には、生徒一人一人が自らの進路を実現していくにあたって、高い学習意欲を持ちながら、興味・関心等に基づく主体的な学習を行うことができるよう、それぞれの生徒の課題に対応した教育を実施することが求められる。

○ 生徒の実態が多様である状況において、このような学びを可能にするためには、これまで以上に、生徒一人一人の個に応じた教育を充実させるためのきめ細かい支援が必要となる。

○ 具体的には、学校の教職員による指導を充実させることはもとより、学校外の専門人材を積極的に配置・活用することにより学習指導や教育相談を充実するなど、義務教育と比べて国としての取組が限られている教育条件・教育環境の整備が不可欠である。

○ 加えて、現行の設置基準や学習指導要領などの高等学校教育制度が、高等学校が果たす役割に照らして適切なものとなっているか、また、生徒の興味・関心、能力・適性、進路等が極めて多様化している高等学校の現状に十分に対応しているかどうか検証し、制度の改善を含めた検討を行うべきである。
 ただし、その場合にも、拙速な制度変更に伴う混乱等を避けるため、十分に時間をかけて行うべきである。

(修得すべき内容や修得状況の明確化)

○ 高等学校は、小学校や中学校と異なり、授業時間数ではなく修得すべき単位数を示し、その修得をもとに単位を認定することとされているが、単位認定されていても、学校によっては、ともすれば履修させることに重点が置かれ、生徒に期待される資質や能力等が十分に身に付いていない場合もあるとの指摘もある。

○ 高等学校の現状を踏まえると、全ての生徒に最低限必要な能力を身に付けさせた上で、在籍する生徒の能力・適性、進路等により、各学校の役割・機能が大きく異なっている実情を踏まえつつ、それぞれの学校ごとに、地域の実情や生徒の実態を踏まえた目標とする人間像及びそのために生徒が修得すべき内容を目標として明らかにし、その内容を確実に修得させることを通じて、個々人の次なるステップに向けてその能力等を高めることができるようにしていくことを基本とする必要がある。

○ また、そのことを前提としつつ、各学校における学習内容の修得状況を明らかにする様々な仕組みを構築し、高等学校教育の質保証につなげていくことが必要である。

○ なお、修得状況を明らかにするとともに、その状況に応じて単位認定についても厳格に行うこととなると中退者が増加するのではないかという懸念がある一方、単位認定を厳格に行うことは本来当然のことであり、生徒の修得状況に応じた教育をきめ細かに行うことによって学習意欲を喚起し、その学校が目指す水準まで確実に修得させていくことが必要であるとの指摘もあることを踏まえて検討を進める必要がある。

(全ての生徒が共通して身に付けるべきコアについて)

○ 上記を前提とした場合、高等学校教育において全ての生徒に共通に最低限修得させるべきもの(=コア)について、どのように考えていくのか検討が必要である。
 特に、全学校横断的なものとして位置付ける「コア」の在り方と、個々の学校が当該学校の特性に応じて定める修得すべき内容を、現行の学習指導要領における必履修教科・科目との関係等も踏まえつつ、検討していくことが必要である。その際、高等学校に学ぶ生徒全員が未来の主権者であるという前提に立って、例えば、社会的・職業的自立、社会・職業への円滑な移行に必要な力(※1)を育成する教育や社会の一員として参画し貢献する意識などの市民性を育む教育について考慮することが必要である。


※1 中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成23年1月)において示された力。具体的には、「基礎的・基本的な知識・技能」、「基礎的・汎用的能力」、「論理的思考力・創造力」、「意欲・態度及び価値観」、「専門的な知識・技能」を指す。

(育成すべき資質・能力に応じた施策を講じることについて)

○ 全ての生徒が共通して身に付けるべきコアに加えて、生徒の適性や希望、進路等に応じた課題に対応して、例えば、以下のような資質・能力を育むことが求められている。

【例】

  • 社会経済活動の基盤を担うために必要な資質・能力の育成
  • 専門的職業人に必要な資質・能力の育成
  • 社会においてリーダーシップを発揮し、また、グローバル社会において国際的に活躍するために必要な資質・能力の育成
  • 芸術・スポーツ等の特別な才能の育成
  • 自立して社会生活・職業生活を営むための基礎的な資質・能力の育成

○ そのための施策の実施にあたっては、高等学校として共通に基盤となる教育条件や教育環境を整備した上で、各学校が目標とする人間像に応じて、それぞれをより効果的に実現できるよう支援する観点から、国や地方公共団体が施策を講じることがより効果的である。
 ただし、各学校が目標とする人間像は、私立学校においては建学の精神に基づいて、国公立学校においては、設置の目的や地域の実情、生徒の実態等に応じて決められるものであり、必ずしもそれは各学校ごとに単一のものとして定められるものではなく、また、このことが各学校を序列化したり、国が各学校の役割・機能を決定したりすることのないようにしなければならない。

○ また、このような、各学校の目標とする人間像に応じた施策の実施により、生徒一人一人が多様な将来の希望を抱くことが妨げられたり、それぞれの生徒の進路や将来の可能性が狭められることのないよう、生徒の能力・可能性を伸長させることができるようにすることが必要である。その際、例えば、他の高等学校や専修学校等における多様な学習の成果を高等学校における科目の履修とみなし単位を与える取組をより一層推進することなどにより、生徒の学習状況や進路希望の変更に応じて、転学や編入学等の進路変更がより容易になるようにすることなどにも配慮しなければならない。

(少子化等に対応した教育方法の刷新)

○ 少子化の進行する中での高等学校の在り方について検討することが必要である。特に、少子化による学校規模の縮小等に対応するため、全ての教育活動を同一学校内で実施するという従来の学校の在り方に拘われず、通学制においても一部の教科・科目について通信教育を活用することや、情報通信技術を活用して学校間連携をより一層推進する等の新しい教育の在り方について検討することが必要である。

(検討にあたって留意すべき点)

○ 基本的生活習慣の確立や学習態度・意欲の向上は、学習指導を行うにあたっての前提となるものであること、学習指導による学力の向上を図るとともに、教育課程外の学校教育活動や生徒指導を通じて、豊かな人間性を育んでいくことが必要であることを踏まえることが適切である。

○ 生徒の「心身の発達」については、これまで、青年期前期の時期における心理・生理的な特質に対する配慮が必ずしも十分ではなかったため、この時期の「アイデンティティ(自己同一性)の確立」、「進路・専門に結びつく個性・適性の模索」、「身体的・性的関心の強まり」、「観の自己形成」という観点から、制度や教育課程、指導方法等において「自立」、「個性」に一層焦点を当てるように配慮する必要がある。

○ 不登校や高校中退などを経験した生徒への支援の在り方、発達障害を抱えた生徒等の特別な支援を必要とする生徒への特別な配慮についても検討が必要である。

○ 加えて、課題の解決及び高校教育の充実のためには、社会環境の変化に対応した教員の資質・能力の向上が不可欠である。

○ なお、高等学校教育の改善・充実に係る施策の実施にあたっては、制度的仕組みを構築することにより対応すべきものもあれば、学校現場における取組を支援することにより対応すべきものもあり、目的に照らしどのような仕組みが最も効果的であるかを見極めて実施することが必要である。

○ これらの検討の過程において必要があれば、課程や学科の区分の在り方、学校外における学修の単位認定等の制度の在り方等についても検討することが必要である。その際、学習指導要領については、平成25年度から年次進行で実施される新高等学校学習指導要領の着実な実施を前提としつつ、必要に応じ、その在り方についても検討することが必要である。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係)

-- 登録:平成24年09月 --