全高長 第71号
平成19年12月5日
中央教育審議会初等中等教育分科会
教育課程部会部会長 梶田 叡一 様
全国高等学校長協会
会長 島宮 道男
(公印省略)
「審議のまとめ」p47に、「高校進学率は約98パーセントとなり、生徒の興味・関心、能力・適性、進路等は多様化しているが、このように国民的な教育機関となっている高等学校は、これからのわが国の社会・経済・文化の水準の維持向上に極めて大きな役割を果たす」と記述されていることを踏まえ、今後も高等学校は「知識基盤社会」を支える人材育成を目指し、その基礎作りに最善の努力を続ける所存である。
ただ教育政策や学校の教育目標のねらいと現実との間には齟齬があり、調整のための支援策等、条件整備が不可欠である。
98パーセントの実態に、高校設置者は「特色ある学校づくり」という多様性で対応してきたが、同まとめp40にもあるように、「高等教育を受けるに必要な教育を求める者」から「義務教育段階での学習内容の確実な定着を必要とする者」まで高校生の学力は多層化している。
また、今年度の高校生の内、72.3パーセントが普通科に在籍しているが、大学進学、キャリア教育、就職等の観点では、普通科・専門学科・総合学科の枠を超えた共通部分があり、各科対応策では解決しにくい。融合や連携強化が求められていると考える。
「審議のまとめ」の各論は首肯できる部分が多いが、「一人ひとりの生徒が受ける教育」「実施する学校現場」の立場で見ると疑問点もあり、主なものをいくつか申し述べたい。
現行教育課程同様、高等学校教育課程には選択履修科目数が多い。
生徒の興味関心・学力やスキルの多様化実態に見合う選択科目の増加は、普通科・専門学科・総合学科を問わず歓迎すべき方向ではある。
しかし、5日制堅持の下、30時間枠の中に新カリキュラムが実際におさまるのかどうか、最終案決定以前に、学科別に時間割を複数組んでみて、その実現可能性を確認して頂きたい。
時間割編成に際しては、実験実技を伴う教科ではグラウンド・体育館・実験実技室・パソコン教室等の施設利用教科・科目が優先する。そこに3学年・単位数の違う多数教科を配分していくのは至難の業で、現状でも専門高校では、個人選択では時間割が組めず、学科での同一教科選択を採用せざるを得ない状況である。
「必履修科目指定」と、単位数「4、3、2、1」のバラツキは、困難度を高める。
特に低学年では「必履修科目指定」に拘束され、どの学校も同じになりがちで、特色化困難となる傾向がある。
p41に、「高等学校については進学就職等の進路を問わず、生徒の学習意欲を高め学力水準を保持することが課題」とある。「学力低下」以前の「学習意欲低下」問題の実態把握・分析に協会の研究部門は取り組んできた。抜本的な解決策とは言えないが、努力方向としては、家庭・義務教育段階学校との「役割分担」ではなく「連携強化」にある。また、学校努力に加えて、学習者自身の自覚を促す必要も大いにある。
生徒の学習意欲増進のため、「学校段階間の連携強化」に加えて「家庭教育との連携強化」並びに、義務教育段階からの「学習支援強化の必要性」を謳って頂きたい。
すでに生徒の多様化対応で「卒業単位や必履修科目の単位数を削減し、他教育機関での単位修得」等、弾力化が図られてきた歴史がある。
学習意欲へのインセンティブとして、全日制・定時制・通信制を問わず、生徒実態や志向に応じ、一定期間の「職場体験」などもデュアルシステムとして「学校外の学修」扱いする等、弾力的扱いの拡大をお願いしたい。
社会に関わることによる「学習成果と自信」を生徒に味わって欲しいからである。
教室での活動以外に、ボランティア活動・奉仕活動の持つ意義が説かれている。
また、キャリア教育を目指した職場体験・就業体験の重要性も指摘されており、p115にあるように、専門教育では特に、「基礎的・基本的な知識、技術及び技能の定着を通じた実践力の育成」「現場における長期間実習の取り入れ」が求められている。
いずれも望ましいが、実現のためには地域の産業社会や一般社会とのコーディネイト機能が欠かせない。しかし、これは単一学校の能力を超える。
機能発揮させる手立ての工夫の有無がこの実現・円滑化の試金石である。システム構築・および支援の必要性に言及して頂きたい。
後述する「共通必履修科目」のねらいと必要性は理解するが、知識の収集とその活用以前に、生徒一人ひとりの自己有用性認識が必要であり、この多くは体験を通じた他人との協働・コミュニケーション実践から生まれる。これがあって初めて「学ぶ意欲」や「学習力」、つまり「生きる力」を身につけることができると考えられる。
多様な高校生対応には、校内活動に加えて多様な学びの場が必要であり、学びの場の設定・維持、拡大・支援の工夫や改善が求められる。
「高校生にとって最低限必要な知識技能と教養とは何か」の検討結果として「共通必履修科目」を設定したとp43にある。
普通科・専門学科・総合学科の別を問わず、全高校生に「日常生活を営む上で共通に必要とされる知識技能を施し、活用する能力を伸ばし、調和の取れた人間の育成を目指す」方向には賛意を表する。
ただし、多様な高校生の存在を考えたとき、義務教育での学習内容定着のための指導も共通必履修内容(単位認定可)に加味する等、義務教育段階からの学習力や学力の底上げを図る方向で考えて頂きたい。
現行カリキュラムに必履修教科として「情報A・B・C」が導入された際、指導者不足の高校現場はかなり混乱した。日進月歩の情報技術には若者ほど対応力があり、技術的には教師を超える高校生が現状でも多数存在する。
情報技術の進化は激しいので、高等学校のカリキュラム移行の5、6年後を考えた時、現時点での内容が必要かどうか。リテラシィ学習は、義務教育段階で十分だろう。
高校段階では「選択必履修教科」からはずし、全ての教科学習の際の必須ツールとの前提で、学習活動を通じて活用能力向上を目指したらどうか。
a 現行案 b「情報」を選択教科化する c 現行案の「社会と情報」や「情報の科学」は関連教科(社会・理科・数学・家庭等)に取り込む等の再検討をお願いしたい。
義務教育での学習内容を勘案して、改訂案でも高校での世界史必修が維持されている。
「高校終了までに全ての学問の基礎を」という考え方もあるが、現代は生涯学習時代であり、なおかつ情報が多方面から得られる時代、学問分野の変貌が激しい時代でもある。
ある教科指導を通じて「学習力」を身につけさせ、他分野に応用させる、あるいは、義務教育でも歴史学習の範囲を拡大することもあり得るのではないか。
全国高等学校長協会は、すでに本年7月に「教育課程部会」宛「高等学校学習指導要領改訂」に向けた要請文を提出した。その意見集約に向けた19年度調査では、「教科必履修指定は理解できるが、科目の必履修指定は解除」との要望が極めて強かったことを、再度申し述べる。