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資料2

中央教育審議会初等中等教育分科会教育行財政部会
教育条件整備に関する作業部会
「義務教育費に係る経費負担の在り方について」
(中間報告)の概要


はじめに

 義務教育費に係る経費負担の在り方について検討が求められている背景としては、1教育の地方分権改革、2三位一体の改革がある。
 当作業部会では、こうした背景を念頭に置きつつも、義務教育制度の根本にさかのぼり、教育論の立場から検討を行った。

第1章 義務教育制度の在り方について

1.義務教育の意義

(1) 国家・社会の基礎となる国民教育としての意義

 義務教育は、国家・社会の形成者の育成のために必要な最小限度の教育であり、国民社会・国民経済の維持・発展の基礎となる国民教育としての意義を有している。

(2) 国民の教育を受ける権利の最小限の保障(ナショナルミニマム)としての意義

 義務教育は、憲法が国民に保障する「教育を受ける権利」の最小限の保障としての意義を有する。このような憲法の要請に基づき、市町村の小・中学校の設置義務や授業料の不徴収が定められている。


2.義務教育における教育条件

 義務教育における教育条件の在り方については、1教育内容・教育方法、2教科書その他の教材、3学校管理・組織編制、4教育施設、5教職員の5つの分野について、学校、市町村、都道府県、国の4者がそれぞれ担うべき役割を考える必要がある。


3.義務教育における教職員の重要性

 「教育は人なり」といわれるように、教育の本質は児童生徒と教員との直接の人格的接触にあり、義務教育の教育条件の中でも、教職員は最も重要な要素である。全国的に一定の教育内容と教育水準を確保し、教育の機会均等を保障するためには、優れた教職員を一定数確保することが必要である。
 教職員給与費は義務教育費の4分の3を占めており、地方財政に占める割合も高いことから、国が責任をもってその財源保障をするため、教職員給与費の2分の1を国が負担する国庫負担制度が設けられている。
事務職員及び学校栄養職員は、いずれも学校運営に必要な基幹的職員であり、そのため、これまで教員と同様に県費負担・国庫負担の対象職員とされてきた。これらの職員の重要性はますます高まっている。


4.義務教育の内容・水準の確保における国の責任

(1) 義務教育の内容・水準の確保の方法

 義務教育の内容・水準の確保の方法としては、今後、事後評価や情報公開と説明責任についての取組などを重視していくことが必要であるが、最小限の基準設定、財源保障は、今後とも国の責任で行う必要がある。

(2) 国による財源保障の責任

 小・中学校教育は市町村の自治事務とされているが、義務教育について全ての責任を市町村に負わせてよいということではない。
 義務教育の内容・水準の確保については国が積極的な責任を果たさなければならず、必要な財源を安定的に保障する責任は最終的に国が負っている。特に、義務教育において教職員が果たす役割の重要性や教職員給与費負担が地方財政に占める割合の高さに鑑み、教職員給与費に対する財源保障が必要である。


5.義務教育の将来ビジョンと今後の検討課題

 義務教育の内容・方法、教育条件整備については、時代の要請に応じた新しいビジョンを設定していくことが必要である。
 特に、今後の義務教育制度の在り方については、平成15(2003)年3月20日中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」において、「社会の変化や保護者の意識の変化に対応し、義務教育制度をできる限り弾力的なものにすべきとの観点」から指摘された諸課題を踏まえ、分科会で検討する。


第2章 義務教育費負担の現状、沿革及び国際比較

1.義務教育費負担の現状

(1) 義務教育無償の原則

 義務教育は憲法の規定により無償でなければならない。したがって、義務教育費は高校や大学のように授業料により受益者負担に転嫁することができず、原則として全ての経費を公費で賄わなければならない。

(2) 市町村・都道府県・国の負担関係

 小・中学校に係る経費の全てを市町村に負わせることは市町村の財政力にとって過重となるため、市町村立小中学校の基幹的な教職員の給与費と旅費については都道府県に負担義務を課す「県費負担教職員制度」が設けられている。その上で、都
 道府県が負担する義務教育諸学校の基幹的職員の給料・諸手当に係る経費については、国がその2分の1の負担義務を負う「義務教育費国庫負担制度」が設けられている。
 義務教育にかかる経費の総額約10兆円の義務教育費負担のうち、国・都道府県・市町村の負担割合は概ね3:4:3であり、国と都道府県の負担する経費の大部分が人件費である(平成12(2000)年度)。

(3) 児童生徒1人当たりの義務教育費

 教育の機会均等を実質的に保障するためには、小規模な学校ほど児童生徒数に比して手厚い教員配置が必要になるため、へき地・離島などを抱え小規模学校の多い地方ほど、児童生徒1人当たりの義務教育費国庫負担金は多くなる。


2.義務教育費負担制度の沿革

 学制発布から明治20年代まで、義務教育費は住民負担や受益者負担に頼っていたが、明治29(1896)年の市町村立小学校教員年功加俸国庫補助法、明治33(1900)の市町村立小学校費国庫補助法の制定で、国による財源保障制度ができたことにより、明治33年から義務教育の無償制を実施することができ、就学率は急上昇した。
 明治21(1888)年の市制・町村制、明治23(1890)年の地方学事通則、改正小学校令により、義務教育費は市町村の負担とされていたが、その負担は市町村にとって過重であった。そこで、教職員給与の改善と地方財政の健全化を図るため、大正7(1918)年に市町村義務教育費国庫負担法が制定され、義務教育費は国と地方が分担することとなった。国庫負担金の額は町村の強い要望を受けて順次増額された。さらに昭和7(1932)年には、市町村間の財政力格差を調整するため、市町村立尋常小学校費臨時国庫補助法が制定された。
 市町村に対する義務教育費国庫負担金の累次の増額や国庫補助金の創設は、市町村の予算支出のうち最大経費である教員給与費に国費を配分することにより、市町村間の財源調整を行おうとしたものと見ることができる。
 しかし、市町村に対する義務教育費の国庫負担・国庫補助という方法によっては、1義務教育費の財源保障、2地方間の財源調整という2つの目的のいずれをも十分に達成できなかったため、昭和15(1940)年、義務教育の教員給与費を府県が負担し、その2分の1を国が負担する義務教育費国庫負担法が制定され、同時に地方間の財源調整のため地方分与税が創設された。
 戦後、昭和25(1950)年にシャウプ勧告により義務教育費国庫負担法が廃止され、地方財政平衡交付金に吸収されたが、教育水準の低下、地域間格差の拡大、地方財政への圧迫といった問題が生じたため、昭和28(1953)年から改めて義務教育費国庫負担法が施行され、都道府県が負担する義務教育の教職員給与費の2分の1を国が負担することとなった。
 このような義務教育費負担をめぐる歴史から、次のような教訓が得られる。
 義務教育費の中心問題は常に教職員給与費だったこと
 義務教育の無償制と完全就学の実現、義務教育の水準維持と地域間格差の是正のため、国による義務教育費の財源保障が必要だったこと
 義務教育費の国庫負担は地方財政の健全化にも資するものだったこと
 義務教育費の財源保障制度は、地方間の財源調整制度とは別に設けられる必要があったこと


3.義務教育費負担制度の国際比較

 義務教育の教職員給与費については、フランス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパ諸国及び韓国、シンガポールなどの東アジア諸国で、全額を国(連邦制国家では州)が負担している。義務教育学校の教職員を国家公務員としている国も多い。
 主要先進国で義務教育教職員給与費を国が全額負担していないのは、アメリカとイギリスであるが、アメリカでは学区の学校税という目的税による財源が確保されているほか、州が教育目的税を設けている場合も多く、州や連邦の役割は増大している。イギリスでも中央政府が積極的な役割を果たすようになってきている。
 いずれの国においても、国策として、学力向上を目指し、教育水準保障のために国家が教育への関与を深める方向で改革が推進されている。
 また、IEAなどの国際調査を見ると、義務教育費を国家が負担している国は、学力水準が平均的に高く、児童生徒間の学力のばらつきが少ないという傾向が認められる。


第3章 義務教育費国庫負担制度の必要性

 義務教育費国庫負担制度の必要性は、概ね次の6つの観点から説明される。

1.義務教育に対する国の責任

 義務教育は、国民として最低限必要な資質を培い、国家・社会の基礎となる国民教育としての性格を有している。また、義務教育を人的資本形成として見た場合、その効果は国民経済全体に及ぶ。したがって、義務教育の内容・水準の確保は、国が責任をもって行わなければならない。
 また、国は国家戦略としての義務教育政策を推進し、将来の国家・社会の発展を担う国民の資質・能力の向上を図る責任を負っている。
 義務教育費国庫負担制度は、国がそのような責任を果たすためのものであり、この制度の廃止は国の責任放棄である。


2.義務教育無償制と完全就学の保障

 義務教育費負担制度の歴史に照らしてみると、全ての国民の義務教育への完全就学を実現するためには、義務教育の無償制の実施が必要であり、無償制を実施するためには確実な財源保障が必要であった。
 義務教育においては、憲法の要求に従い、全ての国民を就学させるために必要な規模の学校が、全額公費により維持されなければならず、そのために必要な財源が確実に用意されている必要があり、財源保障の必要性が極めて高い分野である。このような義務教育に対する財源保障の責任を最終的に果たすことができるのは国だけである。
 義務教育費国庫負担制度は、義務教育の無償制を支える制度であり、この制度を廃止すると、義務教育に必要な公費支出に支障が生じ、学校経費の安易な保護者への転嫁など、憲法が求める無償制の原則に反する事態を招くおそれがある。


3.教職員の人材確保

 義務教育を実施するうえで、教職員の配置は教育の成否を左右する最も重要な教育条件であり、財政負担の上でも教職員の人件費は義務教育費の4分の3というきわめて高い割合を占めるものである。
 優れた資質能力を有する教職員を、児童生徒に行き届いた教育が行える人数だけ確保するためには、教職員給与費の財源として必要な額が安定的に確保されていなければならない。
 教職員の給与費は地方財政の中で経常的経費の大きな部分を占めるため、財政状況の影響を受けやすく、教職員の給与水準は時間とともに他の職に比べて相対的に低下する傾向がある。そのため、教職員の給与水準と給与費の財源を支えるための意図的な努力が必要になる。
 義務教育費国庫負担制度は、教職員の質と数を全国的に確保するため、公立義務教育諸学校の教職員給与費の負担者である都道府県が、人材確保法と義務標準法の下で必要とする給与費の財源を、確実に保障するための制度であり、この制度を廃止することになれば、給与費財源の不足をきたし、少人数学級の実現が困難になり、少人数指導・習熟度別指導、自主的・自律的な学校運営、食の指導などが後退することになると考えられる。


4.義務教育の地域間格差の是正

 義務教育においては、全国どの地域においても一定の水準が確保されることによって、教育の機会均等が保障されなければならないが、財政力に大きな格差のある各地方公共団体に全ての負担を負わせてしまうと、財政力の格差がそのまま義務教育費の支出水準の格差に反映され、その結果地域間で義務教育の教育水準の格差が生じる事態となる。
 義務教育費国庫負担制度は、地方公共団体間の財政力格差がそのまま地域間の義務教育水準の格差に転化されてしまわないよう、義務教育費財源を地方公共団体間で平準化することにより、義務教育の機会均等を確保する役割を果たしている。


5.義務教育水準の安定的な確保

 地方財政は景気変動などに左右されやすいが、財政状況の変動が義務教育費支出に直接反映されてしまうと、義務教育の水準が安定的に確保されなくなる。
 義務教育費国庫負担制度は、地方財政の変動がそのまま義務教育水準の不安定化に転化されることがないよう、義務教育費財源を安定化することにより、義務教育の水準を安定的に確保する役割を果たしている。


6.地方財政の健全化

 市町村には小・中学校の設置義務が課されており、義務教育は市町村の義務的事業であるが、毎年度一定額が必要となる教職員給与費の額はきわめて大きく、これを全て市町村に負わせてしまうと、市町村の財政を著しく圧迫する。
 義務教育費国庫負担制度は、義務教育費によって地方財政が圧迫されないよう、国が義務教育費の財源保障を行うことにより、地方財政を健全化する役割を果たしており、この制度を廃止すると、地方財政上の義務的経費の比率が高まり、財政の硬直化を招きやすくなる。


第4章 人材確保法及び義務標準法の必要性

 人材確保法及び義務標準法は、義務教育の水準確保のため、それぞれ教職員の質及び教職員の量の確保を目的とする法律であり、都道府県により尊重されるべき規範として、義務教育の水準確保の機能を果たすとともに、義務教育費国庫負担金の算定の根拠となることによって、国による義務教育費の最低保障の基礎をなしている。
 義務標準法については、最低基準性の明確化、市町村や学校の権限と責任の拡大、加配定数の一般定数への転換等の見直し、特別支援教育に係る定数などについて検討する必要がある。


第5章 義務教育費国庫負担制度及び関連諸制度の改革

1.改革の方向性

 義務教育費国庫負担制度及び県費負担制度や義務標準法などの関連諸制度は、これまで、国が定める目標に向かって全国の教育水準を一律に引き上げる上で大きな成果を挙げてきたが、今日では、少人数学級や独自の教員加配など、国の基準を超える独自の取組を行う地方自治体も増えている。義務教育についての権限と責任を地方自治体に移譲し、保護者や住民の意思をより直接的に反映する学校運営の実現を図ることは、今日の地方分権改革の強い要請である。
 このような状況を踏まえ、義務教育費国庫負担制度及び関連諸制度については、地方の自由度をさらに拡大する方向での見直しが必要とされている。


2.「総額裁量制」の導入

 文部科学省が平成16(2004)年度から導入した「総額裁量制」は、国庫負担金の総額の範囲内で教職員の給与や配置について各都道府県の裁量を大幅に拡大するというものであり、大幅な事務の簡素化も図られる。
 「総額裁量制」は、教育財政における地方の自主性を高める改革として高く評価できるものであり、「三位一体の改革」の目的にも十分沿ったものと認められる。


3.教員給与制度の改革

 公立学校教員の給与制度については、平成16(2004)年度から「国立学校準拠制」が廃止され、給与の種類や額についての各都道府県の裁量が拡大されたが、この教員給与制度改革は、教員給与制度上の基本原則を堅持しつつ、各都道府県の裁量を最大限に拡大する改革として高く評価できる。


4.学級編制・教職員定数の弾力化

 文部科学省は、義務標準法に基づく義務教育諸学校の学級編制や教職員定数の取扱いについて、平成13(2001)年度以来、地方からの要望に応じて、地方の判断による少人数学級や地方の裁量による加配定数の活用など、地方の自由度を高めるための弾力化措置を講じてきている。これらの弾力化措置は、ナショナルミニマムの水準を維持しつつ、地方の創意工夫による義務教育の充実改善に資する改革として、高く評価できる。


5.情報公開と説明責任

 これまでに講じられてきた諸改革により、義務教育の条件整備についての地方の自由度が拡大するが、それに伴って、各地方ごとの住民に対する責任も増大する。各都道府県においては、学級編制、教職員配置、教員給与等について、住民に対し情報を公開し、説明責任を果たしていく必要がある。
 国においても、義務教育への資源投入や義務教育の成果について、情報を公開し説明責任を果たすことが求められる。


6.今後の検討課題

 義務教育費国庫負担制度及び関連諸制度については、当面、地方の自由度を拡大するための諸改革の成果を見守りつつ、さらなる改善方策を考えるべき。
 今後さらに次のような課題について検討すべきである。
1  義務教育費国庫負担金の負担水準を維持しつつ、負担対象職種や負担対象経費について、地方の自由度を拡大する方向で弾力化を図ること。
2  義務標準法について、最低基準性の明確化、地方の自由度を高める方向での加配制度の見直し、学級編制や教職員定数に関する市町村の権限と責任の拡大などの観点から見直しを行うこと。


第6章 全額一般財源化論の検討

1.全額一般財源化の問題点

 義務教育費国庫負担金が一般財源化されると、これまで義務教育の教職員給与費に充てることとされていた財源が、どのような経費に充ててもよい財源になり、義務教育教職員給与費のための財源保障が無くなる。それは義務教育費を減らす自由でしかなく、必ず義務教育の水準を下げる方向に作用する。特に現在都道府県が膨大な地方債残高を抱える現状においては、結果として義務教育費の減額によって公債費を賄うということになる可能性が高く、地方財政の深刻度の違いにより義務教育水準の大きな格差が生じる危険性も高い。地方財政が深刻化している今日こそ、地方財政平衡交付金への吸収から義務教育費国庫負担制度の復活に至った歴史の教訓に学ぶべきであろう。
 一般財源化のうち、税源移譲については、税源の偏在のため都道府県間で著しい税収の格差が生じ、財源不足になる道県では、義務教育費を削減せざるを得なくなる。
 税源移譲による不足額は地方交付税交付金によって保障されるとの主張があるが、地方交付税交付金では義務教育費が確保される制度的な保障は無い。また、「三位一体の改革」においては地方交付税の財源保障機能は縮小することとされており、全体に縮小する財源の中で義務教育費だけは従前どおり確保されるとは考えられない。
 義務教育は、1全ての国民に等しく提供されなければならないこと、2無償でなければならないことから、財源保障の必要性がきわめて高い分野である。義務教育費負担制度の沿革から見ても、義務教育の教職員給与費に対する財源保障制度は、地方間の財源調整制度とは別に設けられる必要があった。多くの先進諸国においても、義務教育の教職員給与費は国庫負担又は教育目的税といった特定財源によって支えられている。義務教育費に対する財源保障は、地方交付税のような一般財源ではなく、義務教育費に充てるための特定財源で行うべきである。


2.義務教育と高校教育の違い

 公立高校の経費は全額一般財源なのであるから、義務教育費を全額一般財源化しても支障は生じないとの主張がある。しかしこのような主張は、すべての国民に無償で行わなければならない義務教育においては、高校と異なり、希望者全員を公立学校で受け入れ、その経費の全額を公費で賄わなければならないため、確実な財源保障が必要になるという、義務教育の本質を理解しない、的外れの議論である。


3.義務教育費国庫負担制度を一般財源化したらどうなるか

 一般財源化すると、次のような重大な問題が生じるだろう。
1  国民教育として必要な内容と水準を確保できず、国の責任の放棄となる。
2  学校経費の保護者への転嫁など、義務教育無償に反する事態を招くおそれがある。
3  教職員給与費の財源不足のため教職員の確保が困難になり、少人数指導・習熟度別指導、地域に開かれた学校運営、食の指導などが後退し、40人学級の維持も困難になるおそれがある。
4  地域間の財政力格差が義務教育水準に転化され、義務教育水準に地域間格差が生じる。
5  地方の財政状況の変動により、義務教育水準が不安定化する。
6  教職員給与費が地方財政を圧迫し、財政の硬直化を招きやすくなる。
 以上の理由から、義務教育費国庫負担制度の根幹は堅持する必要がある。


第7章 市町村の権限と責任の拡大

1.県費負担教職員制度の見直し

 市町村間の教育水準の格差をなくし教育の機会均等を図るため、都道府県が教職員給与を負担し、その任命権を持つ県費負担教職員制度が設けられてきた。
 しかし、この制度については、保護者や住民の意向を直接反映できる市町村の権限と責任を拡大する方向で見直しを行っていく必要がある。


2.教職員給与費負担と学級編制・教職員定数に係る権限の政令指定都市への移譲

 政令指定都市については、教職員の給与は道府県の負担としつつ、その任命権は政令指定都市にあるという「ねじれ」が存在している。この問題について、関係の道府県及び政令指定都市から意見を聴取した結果、多くの意見は、次のとおりであった。
   任命権者と給与負担者を一致させるべきであり、政令指定都市が給与負担を行うよう制度の見直しを行うべき。
   ただし、税源移譲等により適切な財源措置がなされることが前提。
   制度の見直しにあわせて、学級編制基準の設定及び教職員定数の設定の権限についても政令指定都市に移譲していくべき。
   給与負担と権限の移譲を実施するためには、給与条例の整備や給与システムの構築等、移行のための一定の準備期間が必要。
一方、域内に政令指定都市が存在する道府県の中には、道府県内の義務教育の機会均等や教育水準の確保に果たしている道府県の役割にかんがみ、給与負担と権限の移譲については慎重に対処すべきであるとの反対意見もあった。
 当作業部会としては、給与負担と権限をあわせて移譲する方向で取り組むべきものと考えるが、その円滑な移譲のためには政令指定都市に対する国庫負担が必要であると考える。今後、財源問題について、関係省間で協議の上、方向性が示されることを期待するとともに、権限と負担の移譲に伴う政令指定都市の事務体制の整備に向けた具体的な検討が進められることを期待する。
 なお、中核市など一定規模以上の市への任命権や給与負担などの移譲についても、市町村の権限と責任を拡大する観点から、引き続き検討することとしたい。


3.市町村費負担教職員制度の全国化

 平成14(2002)年、構造改革特別区域法により市町村が独自に常勤の教職員を任用できる途が開かれ、現在18市町村でこの特区事業が認定されており、この制度の全国化が課題とされている。これについては、今後、特区における実施状況についての評価なども勘案しつつ、仮に本制度を全国化するとした場合、教職員の配置等に係る都道府県と市町村との間の関係にどのような影響を与えるかなどについて、関係団体から意見を聴取していくとともに、県費負担教職員制度を前提としている現在の義務標準法の諸制度の見直しも含め、市町村の権限と責任を拡大する観点から、引き続き検討することとしたい。


おわりに

 義務教育費に係る経費負担の在り方については、この中間報告後も引き続き検討を行う。
 また、本中間報告については、中央教育審議会初等中等教育分科会教育行財政部会においてさらに審議を加えることとなる。広く国民各層からのご意見を賜りたい。



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