算数・数学ワーキンググループにおけるとりまとめのイメージ(案)

1.現行学習指導要領の成果と課題

○ 算数科、数学科においては、発達の段階に応じて、算数的活動・数学的活動を充実させ、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、数学的な思考力・表現力を育て、学ぶ意欲を高めること等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
○ その結果、「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」(2012年)における数学的リテラシーは、読解力、科学的リテラシーとともに、平均得点が比較可能な調査回以降、最も高くなっているなどの成果が見られる。また、文部科学省においては、先進的な理数教育を行う高等学校等をスーパーサイエンスハイスクールとして指定し、支援を行っており、これらの学校では、高校段階から課題研究などに積極的に取り組み、成果をあげている。
○ その一方で、学力の上位層の割合はトップレベルの国・地域よりも低く、数学を学ぶ楽しさや、学習する意義を実感している中学生の割合も国際比較で見て低い結果となっている。また、小学校と中学校の間で算数・数学の勉強に対する意識にギャップがあり、小学校から中学校に移行すると、数学の学習に対し肯定的な回答をする子供の割合が低下する傾向にある。
○ さらに、小学校では、「基準量、比較量、割合の関係を捉え、基準量を求めること」、中学校では、「数学的な表現を用いて理由を説明すること」に課題が見られた。(平成27年度全国学力・学習状況調査)また,高等学校では、「数学学習に対する意欲が高くないこと」や「事象を式で数学的に表現したり論理的に説明したりすること」が課題として指摘されている。
○ 今回の学習指導要領の改訂においては、これらの課題に適切に対応できるよう改善を図っていくことが必要である。

2.育成すべき資質・能力を踏まえた教科等目標と評価の在り方について

(1)教科等の特質に応じ育まれる見方や考え方
○ 各教科においては、育成すべき資質・能力の三つの柱を明確化し、深い学びにつなげていくことが求められているが、その際、各教科の特性に応じ育まれる「見方や考え方」が重要である。
○ 算数・数学において養う見方や考え方については、これまでの学習指導要領において、小学校(昭和33年改訂,昭和43年改訂),中学校(昭和33年改訂,昭和44年改訂),高等学校(昭和35年改訂,昭和45年改訂)において「数学的な考え方」と示され,そのときから評価の観点名として「数学的な考え方」という言葉が定着している。その後,学習指導要領においては,小学校では、「数理的な処理のよさ」(平成元年改訂)、「算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさ」(平成20年改訂)、中学校及び高等学校では、「数学的な見方や考え方のよさ」(平成元年改訂・平成10年改訂)、「数学のよさ」(平成20年改訂)など、表現を変えながらもその重要性が指摘されてきたところであるが、今回、育成すべき資質・能力の三つの柱を明確化したことに合わせて改めて整理することが必要である。
○ 算数・数学の学習においては、この数学的な見方や考え方を働かせながら、知識・技能を習得したり、習得した知識・技能を活用して探究したりすることにより、知識の定着・構造化が図られ、技能の習熟・熟達にもつながるとともに、より広い領域や複雑な事象をもとに思考・判断・表現できる力が育成される。このような学習を通じて、数学的な見方や考え方がさらに成長し、重要な資質・能力として獲得されていくと考えられる。
○ また、算数・数学において育成すべき「学びに向かう力や人間性等」についても、数学的な見方や考え方を通して社会や世界にどのようにかかわっていくかという点が大きく作用しており、数学的な見方や考え方は資質・能力の三つの柱である「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力や人間性等」のすべてに働くものであり、かつすべてを通して育成されるものとして捉えられる。
○ 上記で示した数学的な見方や考え方のうち、「数学的な見方」については、事象を数量や図形及びそれらの関係等に着目してその特徴や本質を捉えることであると整理することができる。
○ また、算数・数学の学習における「数学的な考え方」については、目的に応じて数・式、図、表、グラフ等を活用し、論理的に考え、問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識・技能等を関連付けながら統合的・発展的に考えることであると整理される。
○ これらを踏まえると、算数・数学において育成される数学的な見方や考え方については、「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的、統合的・発展的に考えること」として再整理することが適当と考える。

(2)小・中・高を通じて育成すべき資質・能力の整理と、教科等目標の在り方
○ 今回の学習指導要領の改訂に際しては、幼児期に育まれた数量・図形への関心・感覚等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、実社会との関わりを意識した数学的活動の充実等を図っていくことが求められる。
○ そのため、本ワーキンググループにおいては、算数・数学において育成すべき資質・能力について、学校段階ごとに以下のとおり整理した(資料○)。学校段階ごとの算数・数学の教科目標についても、このような資質・能力の整理に基づき、今後検討していくことが求められる。
(小学校)
◎数学的な見方や考え方を働かせ,算数の学習を生活や学習に活用するなどの数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成する。
【1】数量や図形などについての基礎的・基本的な概念や性質などを理解するとともに、日常の事象を数理的に処理する技能を身に付ける。
【2】日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力、基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・発展的に考察する力や、数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表したり柔軟に表したりする力を養う。
【3】数学のよさに気づき、算数の学習を生活や学習に活用したり、学習を振り返ってよりよく問題解決したりする態度を養う。
(中学校)
◎ 数学的な見方や考え方を働かせ,数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成する。
【1】数量や図形などに関する基礎的な概念や原理・法則などを理解するとともに、事象を数学化したり、数学的に解釈したり表現したりする技能を身に付ける。
【2】事象を数学を活用して論理的に考察する力、数量や図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力や、数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力を養う。
【3】数学のよさを実感し、数学を活用して粘り強く考え、生活や学習に生かしたり、問題解決の過程を振り返って評価・改善したりする態度を養う。
(高等学校)
◎ 数学的な見方や考え方を働かせ,本質を明らかにするなどの数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成する。
【1】数学における基本的な概念や原理・法則などを体系的に理解するとともに、事象を数学化したり、数学的に解釈したり表現したりする技能を身に付ける。
【2】事象を数学を活用して論理的に考察する力、思考の過程を振り返って本質を明らかにし統合的・発展的に考察する力や、数学的な表現を用いて事象を簡潔。明瞭・的確に表現する力を養う。
【3】数学のよさを認識し、数学を活用して粘り強く考え、数学的論拠に基づき判断したり、問題解決の過程を振り返って評価・改善したりする態度を養う。
○ また、これらの資質・能力について、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力や人間性等」の三つの柱に沿った整理を行い、資料○のとおり本ワーキンググループとして取りまとめたところである。

(3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 上記(2)に掲げた資質・能力を育成していくためには、学習過程の果たす役割がきわめて重要である。算数・数学においては、資料○に示したとおり、日常生活や社会の事象を数理的に捉え、数学的に表現・処理し、問題を解決し、解決過程を振り返り得られた結果の意味を考察する、という問題解決の過程と、数学の事象について統合的・発展的に捉えて新たな問題を設定し、数学的に処理し、問題を解決し、解決過程を振り返って概念を形成したり体系化したりする、という問題解決の過程の二つのサイクルが相互にかかわり合って展開することにより、資料○に掲げた資質・能力が育成されるよう指導の改善を図ることが重要である。
○ また、意見交換や議論など協働的な学びを適宜取り入れていくことが必要であるが、その際にはあらかじめ自己の考えを意識した上で、主体的に取り組むようにすることが求められる。

(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方
○ 「目標に準拠した評価」の実質化を図るとともに、教科・校種を越えた共通理解に基づく組織的な取組を促す観点から、観点別評価の観点については、資質・能力の三つの柱を踏まえたものとすることが求められている。
○ このため、本ワーキンググループにおいては、上記(2)に掲げた資質・能力を踏まえつつ、資料○のとおり観点を整理したところである。
○ この点に関し、「知識・技能」については、事実的な知識のみならず、構造化された概念的な知識を含みさらなる概念形成に向かうものであることや、一定の手順に沿って処理する技能のみならず、変化する状況に応じて主体的に活用できる技能やそのような技能の習熟・熟達に向かうものまでも含めた、広範な意味で用いられていることに留意することが必要である。
○ また、資質・能力のうち「学びに向かう力、人間性等」の部分については、「主体的に学習に取り組む態度」として観点別評価を通じて見取ることができる部分と、観点別評価や評定にはなじまず、個人内評価を通じて見取る部分があり、ここでは観点別評価として見取るべきものを掲げていることに留意する必要がある。

3.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実

(1)科目構成の見直し
(数学活用を廃止し、数学C及び理数探究(仮称)を創設することについて記載)

(2)資質・能力の整理と学習過程の在り方を踏まえた教育内容の構造化
(学習指導要領への反映についての基本的方向性を記載予定)

○ 上記2.(2)に掲げた資質・能力を育成していく観点から、それぞれの学校段階において、以下のような学習活動が充実されるよう、学習指導要領の内容を見直ししていくことが必要である。
○ 小学校においては、
・ 事象を数理的に考察したり、自分の考えを数学的に表現し処理したり、友達の考えから学んだり,学習の過程と成果を振り返ったりする学習活動
・ 具体物、図、数、式、表、グラフ相互の関連を図り、問題解決する学習活動
○ 中学校においては、
・ 問題解決に必要な情報を生徒自らが集めたり選択したりする活動や、帰納的に考え自らきまりを見付ける活動、見いだしたきまりを既習の内容を生かして演繹的に説明する活動
・ 既習の内容を振り返って関連を図ったり、新たに学んだ内容を用いると,どのようなことができるようになるのかなどについて明らかにしたりする活動
○ 高等学校においては、
・ 学習内容を生活と関連付けたり、生徒の疑問を取り上げたりして生徒の数学学習に対する関心や意欲を高める活動
・ 学習の過程を振り返って、本質を明らかにしたり学習内容を整理し直したりして、自ら見いだした問題を解決する活動

(3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し
○ 社会生活などの様々な場面において、必要なデータを収集して分析し、その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりすることが求められており、そのような能力を育成するため、高等学校情報科等との関連も図りつつ、小・中・高等学校教育を通じて統計的な内容等の改善について検討していくことが必要である。
○ 小・中学校においては、例えば、日常生活や社会などにかかわる疑問をきっかけにして問題を設定し、それを解決するために必要なデータを集めて表現・処理し、現状や傾向を把握したり、二つ以上の集団を比較したりするなどして問題の解決に向けた活動を充実することが適当である。また、理科の季節の移り変わりと算数の折れ線グラフの学習を関連付けることや、理科や社会、総合的な学習の時間など他教科等での学習内容との関連等に留意することが望まれる。
○ 高等学校においては、統計をより多くの生徒が履修できるよう科目構成及びその内容について見直すともに、必履修科目の内容を充実させること、選択科目の統計の内容を様々な場面で「使える統計」となるよう改善を図る。また、数学で学習した統計の基本的な知識や技能等を基盤としつつ、情報科において統計を活用して問題解決する力を育むなど、情報科との関連を充実する。

4.学習・指導の改善充実や教材の充実

(1)特別支援教育の充実、個に応じた学習の充実
○ 現行学習指導要領においては、総則において、「個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと。」(小学校学習指導要領の例。中学校、高等学校も同様)と記載されているところであるが、今後は、各教科等における指導の場面における適切な配慮が一層充実されるよう工夫を講じる必要がある。
○ このため、各教科等における具体的な学習の場面で考えられる困難さに対する配慮の例について、以下のような形で学校現場に明示していくことが適当である。

※算数・数学における配慮の例
・ 同系色の方眼紙の目盛りが読み取りにくい場合は、正しい位置に印が付けやすいように、罫線の色を変更したり、マス目を大きくしたり、マーカーの色を変更したりするなどの配慮をする。
・ 「商」「等しい」など、児童が日常生活で使用することが少なく、抽象度の高いことばの理解が困難な場合は、児童がイメージを持つことができるよう、児童の興味・関心や生活経験に関連の深い題材を取り上げる、既習の言葉や分かる言葉に置き換えるなどの配慮をする。
・ 四則の混合した式や( )を用いた式について理解し、正しく計算することが難しい場合、計算のきまりを理解させるために、計算の順番を示した手順書を手元に置かせたり、式を分解してそれぞれを計算させ、混合式との比較をさせたりするなどの工夫を行う。
・ 目的に応じて折れ線グラフで表すことが難しい場合、目的に応じたグラフの表し方があることを理解するために、同じデータについての縦軸の幅を変えたり、読みやすさや読みにくさを強調したグラフを見比べたりするなどの活動を通して、よりよい表し方に気付かせる配慮をする。
・文章を読み取り,文字式を用いて数量の関係に表すことが難しい場合,生徒がイメージを豊かにして数量の関係を把握できるように,生徒の経験に基づいた場面や興味のある題材を取り上げ,解決に必要な情報に注目させたり,場面を図式化したりすることなどの工夫を行う。
・空間図形のもつ性質を理解することが難しい場合,空間における直線や平面の位置関係をイメージできるように,立体模型を持たせながら,言葉でその特徴を説明したり,見取図や投影図と見比べて位置関係を把握したりするなどの工夫を行う。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実
(13日の議論を受けて、記述予定)

(3)教材の在り方
(13日の議論を受けて、記述予定)

5.必要な条件整備等について

・指導体制に関する考え方
・探究的な学習を深めていくうえで必要なICT環境の整備等
・入試の在り方
・短時間学習の実施に係る留意点
(13日の議論を受けて、記述予定)

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