高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の在り方に関する特別チーム(第1回)における主な意見

1.数理探究の在り方について

(1)数理探究の意義
〇高校数学の授業の課題として、受け身でなかなか自分から取り組めないということがあるが、これを少しずつ変えようとしている。したがって、数理探究のような科目が入ってくるということは、一つの起爆剤となって、普通の必修教科、必須科目において自ら考えて学習を進めていくということになればよいと思う。

○日本は、18歳人口で何をやりたいのかが分からないという割合が顕著に高い。勉強に限らず探究的なことをしないで、何をやりたいかが分かるわけがない。自由研究、あるいは探究的な研究が15歳まで続いているので、これを何とかプログラムの形で高校の段階まで伸ばすことができればよいと考える。

(2)数理探究の在り方について
○カリキュラムの中には、高校二年生に課題研究を1コマ、それから、高校三年生に1コマをとっているものがあるが、実際はとても時間割の枠内でできるものではなく、平均しても週3コマから5コマ、放課後は常にやっている。これをそのままもってくるのでは、通常の普通科の高校ではとてもできないということになる。

○数理探究をどのようにもっていけばよいのかというと、課題研究をそのままもってくるとうまくいかないと考えている。幾つかの課題研究のノウハウを疑似体験できるようなものにしていくべきではないかと考えている。

○諮問文の中に「より高度な思考力・判断力・表現力などを育成するための新たな教科・科目の在り方について」という言葉があるが、この諮問文の「より高度な」のところから始まるのを、実際科目化されるまでの間に、枕の部分に「複合的な」などを付ける。「より高度な」と書いてしまうと、テスト、最終的に入試するときに難解な数式を解かせるとか、難解な数理的な問題を出すように思われる。「複合的な」とすることで、少なくとも二つ三つ以上の何か技術的なものを組み合わせるという印象が出るのかなと思う。

○経済学では、三段階あって、一番が素材、社会現象、経済現象、社会問題、あるいは興味関心。二番目がモデルに落とし込むということ。三番目は、そのモデルを解いて証明したり、インプリケーションを引き出したりするところ。力量のある先生方や実績のあるところであると疑似体験でも、恐らく1、2、3の流れを体験できると思うが、これはやはり全国レベルで教材になっていく段階だと、問題から解答になってしまう。結局素材というのが、実は素材ではなくて、与えられた教材がもうモデルになっているので、この1、2、3の2、3の部分にならないような教材開発というのを是非とも現場の方のいろんなナレッジをシェアしていただきたい。

〇大学の活用、あるいは博物館、あるいは企業、地方でいうと博物館や大学がないところもあるので、そういうところでは企業の活用などを少し議論ができればよい。

〇高校生を実際に教えているが、研究倫理とか、知的財産の部分でひどい場合もある。全てがそうではないが、例えば、動物実験をやるときに、全く生命倫理の学習をしないままに実験をやっているところがあるなど、非常に大きな問題ではないかと思っており、高校レベルで研究倫理とか、知的財産の本当にベーシックな、ファンダメンタルなところを少しでも教えていく必要がある。

〇数学活用や理科課題研究がほとんど実施されていなかったという現状にはどういう課題があるかということをしっかり認識するべき。

〇SSHに関わっているが、本当に皆さんが並大抵ならぬ努力をされてやっとできている。それを数理探究という形で実施するにはどうすればよいかということで、特に数学に関しては、課題を考えること自体もなかなか難しいという意見も聞いている。

〇研究倫理のことが大学研究者の中で非常に大きな問題になっているが、これは中学、高校での教育が非常に大切だと思う。

〇企業のスペシャリストであるとか、博物館とか、科学館の人が、数理探究スペシャリストという形で教育の中に携われると、すごくよいのではないか。

〇学習する方法、正に今回の三つの柱でいう、一つ、どのように学ぶかというところで探究的に学んでいくという、その一連の活動を尊重していくのが大事である。

〇数学活用であったり、理数科の課題研究において学習指導要領などを見ると、大変良い趣旨が書かれていて、既に今回検討しようとしている科目のかなり参考になるような内容、目標であったり、評価であったりというようなことが書かれていると思う。ところが、現実にはそれがほとんど行われていない。行われているにしてもごく一部である。原因は、評価、多分大学入試、あるいは教科書であり、その中身をどうするかというのは大きいのではないかと思う。教科書を作るのか作らないか、作るとしてもどう作るのかとか、評価をどうするのかとか、そして、大学入試の部分をどうするのかということは、実はこの科目が実際に運用されて現場で活用されていくのに当たって大きな要因になってくるのではないか。実際に数理探究を現場で使ってもらうためにはどうしたらよいのかというところを検討していく必要があると思う。

〇力のある子供たちを高等学校でどうやって育てていくかというと、早くそういう力を伸ばすのは当然だが、伸ばすときに、学校現場で手に取り、足を取りやった方がよいのか、自由にやらせた方がよいのかという、そんな議論にも発展していくのではないかなと思っている。

〇数理探究の場合は、恐らくお金の支援はないと思うので、お金が限られた学校の予算の中でいかにやるかということも念頭に置きつつやっていく必要がある。

〇根本は数理探究という教科横断的な科目で設定するからには、どこかの科目の内容を抜本的に削って、もっと数理探究に仕向けるような面がないと実行されにくい。今の高校現場は恐らくこの科目が新たに加わったらどういう弊害が生じるかというと、きつきつで授業をやっていて、部活動をやっていて、その上で探究心を高めるには一部の教員の負担が増すだけである。どの教員も行える科目として考えていただきたい。

〇幾つか課題があるが、一つは、何年生でやるかについて高校の先生に聞いてみたところ、高三じゃ難しいと。なぜかというと、大学入試直前であり、そんな探究とばかり言っていられないとのこと。高二、高三でやるのなら、入試科目というのはなかなか内容的には難しいとは思うが、大学進学に対して何らかの影響を与えるようなことを入れていかないと、現行の数学活用や、課題研究などと同じ轍を踏むと思う。

〇SSHを見ているとグループ研究が多い。しかし、科目となって独立していくためには、個人の能力をきちんと見なければならない。したがって、評価についても、今までのような研究の成果以上に一人一人の取り組みの内容がどうであったかということをきちんと見ていく必要がある。

〇課題研究の課題設定は非常に難しいが、特に数学が絡む課題というのは、非常に考えにくい。数学の立場から言うと、統計か、微積かということになると思うが、はじめは理科的なことから入っていくしかないだろうが、そうすると、今までの理科の課題研究とそう変わりはなく、必要なところに数学の知識を使うことになるかと思う。だから、今までの理科の課題研究と数理探究の中身でこう変わったと、数学としてどういうところが関わることができるから数理探究になったということを明らかにできると良いと思う。

〇テキストなり、参考資料なり、何か見たときに、自分の学校はできないというのではなくて、どういうレベルの学校でも少しでも探究的なことに取り組めそうだという道を残しておいていただきたい。トップ層の本当に能力のある生徒しかできないというのではなくて、もう少し広い意味で捉えてもらえると有り難いと思う。

○現象があって、モデル化して、解析して、結果を出すというが、別にPDCAに倣っているわけではないが、1、2、3、もう一つ4というのがあると思う。それは一番単純な例でいうと、自然現象があって、それを数理学的にモデル化する。これが2。それで数学的に解析して、これは微分方程式を解くでも何でもいいが、答えが出てくる。これは新しい結果であると。これは3である。次が一番大事で、これももう一回、むしろ、自然科学だったら自然にフィードバックしなきゃいけない。本当に自然の何を表しているのか。当たり前、間違っていないということを前提にして、モデルが正しいのかということもあるが、新しいことをやる、ここが一番難しい。

○因果関係はすごく難しい。相関関係は相関係数で測れるが、だからといって因果関係があるわけではない。例えばメディアなんかもいかにもそれを因果関係のように報道している。これはリテラシーが低いと思っているが、こういうところをしっかり教えていくというのは非常に大事で、今回の検討事項にもあるが、中身についてはどういうものを教えるかというのもすごく大事だと考える。

(2)数理探究で目指す人材像
○今後は、不連続に世の中が変化していくのではないかと思う。2030年は我々の延長に多分ない。一番大事なのは、データサイエンティストじゃないかと皆さんで言っている。日本は、それがすごく弱いと思う。だから、データに関して、複雑なデータをいかにシンプルに捉えるかといった能力が、将来、2030年、大事だと思うので、それを教える人材とか、内容に関して、どういうのをやっていくかというのをここでまたしっかりと決められればと思う。

(3)数理探究で育成すべき資質・能力
○育成すべき資質・能力とは、より高度な思考力・判断力・表現力を中心として育成すべき。普通の理科・数学の教科・科目では、知識、理解にどうしても偏ってしまう。ところが、思考力・判断力・表現力を目指した科目というのは極めて少ない。そういうものを目指していくような科目である方がよいのではないかと考えている。

2.現在の課題

(1)高等学校の課題
○高校と大学との接続が重要だという御指摘があり、全くそのとおりだと思う。人は自分のやりたいことを見つけたときに伸びる。スーパーティーチャーというのはものすごく大変な仕事だと思うので、恐らくやりがいを感じているからできる。同じことが生徒にも当てはまる。ただし、今のところ、偏差値的なことだけで進学を決めている生徒が残念ながら多い。高大接続で協力することによって、高校の段階では自分はこういうことをやりたいということを見つけるチャンスを増やす糸口になればすばらしいと思う。

(2)理科教育の課題
〇高校現場で、特に理科の実験を何とか進めたいと思いやってきたが、現実は特に新しい先生方、今の教育課程のある面では負の遺産だと思うが、先生方が本当に実験に取り組まない。そういう現場の体質ができているというのは、これは否めないと思う。

〇現状の理科の教育課程、もうかなりきつきつである。自分の学校等では、理科の物理、化学の定理の検証を中学校時代から実験室で必ずやらせているから、比較的生徒像というのは育てやすいが、本校に高校から入ってくる生徒の実態像を見ると、ほとんどマッチの火もかざしたことがない。中学校のときは先生がよくやってくれたけど、全て教壇の演示実験で、実践ではほとんどない。逆に、そういうことをやっていると、進学校等は入れないみたいな雰囲気というのも多々ある。

3.スーパーサイエンス・ハイスクール(SSH)について

(1)SSHの取組の実態及び課題
○SSH事業が始まり、もう14年たっており、その卒業生がその後どういう道を歩んで、例えば科学の分野で研究生なり、職に就いて活躍しているなど、フォローアップの追跡調査みたいなものはされているのか。実際にそういうことを踏まえながら、SSHは効果を上げていると自信をもって言えるのか。

〇SSHは、スーパーティーチャーがいてその方々が引っ張ってくれているような部分も少なからずある。

〇課題研究のその取組の内容をもう少し見てみると、最初自分たちがテーマを設定し、設定したテーマに基づいて自分たちで、個人だったり、グループだったりするが、それを探究し、まとめて発表するという、一連活動を主体的に協働的に一生懸命やっているというのが非常にうまくいっている課題研究の取組かなというふうに感じている。

〇高校になって急激に理科の化学が好きじゃなくなるとか、数学や理科の勉強が大切だと思っている比率が低いだとか、社会へ出たら理科はあんまり必要でなくなると考えている高校生が多いとのことだが、SSH校を調べたらどうなっているのか。

〇スーパーティーチャーがいる学校と、そうでない学校とが多分分かれている。いる学校は、スーパーティーチャーがいるので良い、ということだが、その先生は猛烈な負担をかけられているはずで、基本的にはエコシステムが動いていない状態である。だから、走れば走るほど、その先生は多分疲弊していくはず。じゃあ、疲弊しないシステムはどう作ることができるかというと、大学との関係であるとか、使えるものはうまくどう使うか、大学との連携の在り方みたいなのをつないで全国に広げるような、そんなようなシステムをどう作り上げたらよいのかという気がしている。

〇スーパーティーチャーがいなくてもSSHを成り立たせるためには、試行錯誤の結果、大学、あるいは企業に頼ろうということに行き着いて連携協定を結んで、どんどん出向いていったり、あるいはおいでいただいてレクチャーしていただいたり、実際実験を見ていただいたりと、御指導いただくというような連携がうまくとることができたら、非常にスムーズにいく。生徒も非常に意識レベルが高まる。外部の大学の先生、あるいは研究機関の先生と連携をして力添えを頂くというのが、課題研究には欠かせないと本校では思っている。

〇トップ層の子供を対象に、「より高度な」というところをより追求していくレベルと、普通科、あるいは文系も含めた子供たちに、この課題研究を普及させていくという意味での課題、そのより汎用的なもの、その中から使えるものは何なのか。多くの先生たちが疲労もなく、普通の先生方が、あるいは新規採用の先生方がやることができる、そういう仕組みが何なのかというのがある程度確立してくることによって、全校規模に普及する。

○有効な課題研究の有効な点がより検証されつつあって、そのことが有効であるならば、全ての授業で課題研究的な、探究的な取組をしていこうということで、多くの学校が全ての授業を変えていきましょうと今、動きがかなり顕著に出てきている。一つの象徴的な事例だが、ある学校では、数学と物理の融合的な授業の実践、実際にやっていて、普通統計的な処理とかで終わる部分から更に超えて行っている。この講座を開くときに議論をしているのは、数学の視点と物理の視点というものを対等に議論して、同時に、その学習内容でいうと、数学の立場からと物理の立場から議論をして、二次曲線を使ってどういう物理的な法則を検証していくのかという、その取組を実際にやっている。こういう学校が今、出始めている。

○SSHからから学ぶところはまだまだある。知的財産の問題も、例えば生命倫理の問題も正面から取り組んでいる学校もある。当然こういう課題研究とか、今までない学力を評価するということで、今、それぞれの学校が新しい取組に対する指導と評価を一体となってどういうふうにそれを検証していくのか、具体化していくのかという取組も実際やっている。いろんな学校がかなり汗をかきながらも、地道に拡大して普及しているところである。

4.その他

〇秋田県の博士を持った教員を一つの高校で選択的に採るというよりは、秋田県全体で使える等の取組はすばらしいと思う。

〇高等学校ばかりではなく、中学校も数学とか、理科の指導要領改訂の議論がそれなりに進んでいるはずなので、方向性みたいなものを教えていただいたら参考になる。

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