資料5 産業教育ワーキンググループ(第1~4回)におけるこれまでの意見の整理

1.教科横断的な事項

(1)育成すべき資質・能力

  • 産業教育は実学であるということについて、実学とは人の役に立つ教育に尽きると思われる。これからどのように教育の場で展開していくかが重要である。
  • 学びの必要性や価値を、専門教育を通して実感させるような学びの在り方が次の学習指導要領では望まれてくるのではないか。受験を短期的な目標とした、剥落する可能性のある受験専用の学力ではないものを、産業教育の中でどのように伸ばしていくのかという議論が今後求められていくのではないか。
  • 専門高校で身に付けるべき資質・能力については、卒業してすぐに社会に出る、進学してやがて社会に出る、そういうことも見据えた上で、非常に柔軟な対応が求められる。一つ一つの資質・能力について、どのようにカリキュラムの中に位置付けて育成していくのかということについては、様々な検討が必要である。
  • 次の学習指導要領の新しい方向性として、社会に開かれた教育課程ということがあり、これは教育課程が教育界だけのものではなく、民間企業も含めて広く一般社会の人たちにとって、教育の内容が分かるようなカリキュラム、教育課程を考えなければならない。
  • いずれの専門高校もスペシャリストとして高い専門性を追求するということと、もう一つは、広い視野を持つという観点が必要。具体的には、人口問題、食料問題、世界経済、環境問題など、こういったことと高校生の学びをどう関連付けるかが課題である。
  • どのように社会、世界と関わり、よりよい人生を送るのか、それは具体的にどの科目を使って教育課程を編成していくかというと、もう少し特化したものがあってもいいのではないかと思う。
  • 資格取得や技術検定などに取り組む中で、例えば段取り力、そして集中力、あきらめないで粘り強く取り組む力などが育まれている。
  • 様々な専門高校で社会人基礎力をベースとした評価の枠組みの構築が、数年以上続いている。しかし、社会人基礎力は、大学生を対象とした求人票をベースとして、そこから析出してきた能力論であり、二つの点で問題がある。専門高校に必ずしも特化しているわけではないということ、また、求人票から析出された社会人基礎力では、就職する段階でどういう力が付いていればいいかということしか見えないので、生涯にわたって学び続けるという枠組みが導出できないという点で課題がある。
  • 何か物事を起こすに当たっても、どうすれば何が起こるのかをしっかり考え、流れをどう作っていくのか、どのように経営や運営をしていくのかという、マネジメントする力も資質・能力として、必要な力である。
  • 現在のグローバル化の中で、地方の中小企業も含めて産業界が求めている人材像は、技能が分かる技術者や技術が分かる技能者であり、そういう人材でなければマネジメントに支障が起こり、例えば工場を海外に進出させている場合には、運営ができないということは競争にも負けることになる。
  • 例えば工業高校では、せめて英語のマニュアルはある程度読めるくらいの力や、英語で書かれた図面はある程度読めるような力がほしい、また、海外に出たときに簡単な技術者同士の会話ができるようにしてほしいなど、グローバル化に対応した教育は産業界でも求められている。
  • 専門高校の卒業生は、半分が就職、半分が進学ということから、専門高校の中で、進学する者には学ぶ覚悟、就職する者には働く覚悟や社会に出る覚悟を、いかにきちんと育てられるかが課題である。
  • 最近、日本の大企業で不祥事が相次いでいる。正しいことなのか、正しくないことなのかは、学校時代に倫理観として身に付けておくべきなのに、なぜそういう不祥事が起きてくるのか。知識があり、読み解く力があっても、生かす能力がないというところに問題がある。
  • 例えば、対人スキル、特に他人の気持ちを理解できること、コミュニケーション能力、気付く力、推し量る力、議論し合う力、協力し合う力、つまりグループでともに働きながらお互いを伸ばしていくということが今求められている。
  • 六次産業化等への対応として、学校を超えた生徒の交流や研究はかなり行われているが、その際、なるべく異分野の生徒や地域の人と連携しながら課題を解決していく力が必要であり、チームワークを発揮しながら課題解決力を身に付けていく学習が必要である。
  • 相手も自分も大切にしながら議論を進めていく技術(アサーション)は、社会に出るために必要なことである。
  • 産業界としては、自立・自律して、かつ、自主的な問題提起や問題解決ができる人材をぜひ育成してほしい。そのため、自分自身が体感し、考え、オリジナルな情報と知恵を自分で作ることがこれからの教育に求められる。一方で、チームワークは個人の力を前提として、仕事をうまく実現するために求められる。
  • 基礎学力の育成という視点で、普通教育も専門教育も両方とも大切だということ、両方が関連し合っているということをしっかり意識付けさせて、学ぶ姿勢を身に付けさせることが大切である。そうすることによって生徒に自信を持たせて、専門性を発揮したり発信したりできるようにしていきたい。
  • 知識だけではなくて、その背景にある考え方ということも教えていくことが必要である。
  • 専門高校に入学する生徒に、何のためにそれをやらなければならないのかをまず気づかせ、動機付けを行っていくことが必要である。
  • 「課題研究」については、一生懸命やっているところとそうでないところとの差がまだ大きいことから、「課題研究」の充実の仕方について、今後、力を入れていく必要がある。
  • 専門高校では、高い専門性や課題解決力を育成する中で、教科の学習と同時に、課外活動の部分もかなり重要な役割となっている。教育課程内の活動と教育課程外の活動の双方で生徒たちに力を付けさせるということも課題である。
  • カリキュラムについて、基礎的なところはきちんと仕組みを組むと同時に、ある程度学校で変えていい部分とか、変化に対応できるようなカリキュラムの作り方の仕組みも検討するべき。


(2)資質・能力の育成のために重視すべき指導等

(指導等の改善充実)

  • アクティブ・ラーニングという言葉をもっと進化させた形で、チームでの学習ということを学習指導要領のどこかに盛り込めないか。
  • 専門高校は実験・実習が多く、体全体を使って体験的に学ぶということ、そして、資格取得を目指すために細かい行動目標が設定されて、一つ一つクリアすることによって自分の達成感が得られるという学びの仕組みによって、生徒は自信を深めていく。
  • 社会の大きな変化にしっかり対応できるような力を生徒に身に付けさせていくためには、アクティブ・ラーニングが必要である。これまでも例えば農業クラブや学校家庭クラブ活動の中でプロジェクト学習を行っているが、さらに一歩進んで、世界と関わりを持つという視点で学習を深めていかなければならない。
  • 生徒が台湾の生徒と連携して商品開発を行い、現地で販売会を行った。その学習の成果発表の際に、「自分たちの思いや考えをうまく伝えるためにもっと英語を学ばなければいけない」という意見や、「台湾の生徒と話すために、中国語にもチャレンジしたい」という意見もあった。こういった機会をたくさん生徒に与えることによって、生徒の基礎学力のアップにつなげていきたい。
  • 専門高校においては課外活動も含めて、相当密な学習を行っている。
  • 基礎・基本だけをやり続けたら、生徒の興味・関心が低下してしまうおそれが多分にあり、今生徒が何に興味を持っているかということを考えながら、高いレベルのものをしっかり見せて、そういった体験をどんどんさせていくことが必要である。
  • 専門高校における共通教科の学習の仕方が、生徒たちに合っていないのではないか。例えば、農業や工業の科目などでは、1年生から三角関数を使う。あるいは、橋桁、橋を架けるときにひずみがどう起きるかという、ある意味で構造計算をする。1年生からそういう高度な学びがあるにもかかわらず、実は専門高校の1年生では、詳しい論理的なことは分からなくても、数値を代入することによって、その計算の仕方はどんどんやっていく。普通科の先生は、まだ三角関数を教えていないのにそんなことやっていいのかということを言っている。
  • 基礎とは積み重ねではなく、高校生の年代では、まずゴールを目指して、とりあえず中途半端でもいいから最後までやってみて、できないことを徐々に減らしていくようなシェーピングや逆シェーピングといった学習方法が求められるのではないか。

(中学校等との接続)

  • 中学校の技術・家庭科においては、以前の学習指導要領では、栽培に関する学習内容を選択とし、全国調査では2割程度の実施であった。現行学習指導要領において、生物育成を必修にし、全国調査では、学習内容の内訳は作物関係97%、水産関係は0.5%、それ以外は動物関係となっている。これらによって、第一次産業の物を作ることに対する子供たちの興味関心が高まり、将来、自分が進路選択するときに、目的意識を持って、農業高校などの専門高校に進学することが考えられる。
  • 就職だけが目的ではなく、その分野を学びたくて中学校から専門高校に進学し、その後の進路として、働くのか、又はその上に行ってさらに学びたいのか、そこを専門高校で広げていくような方向であれば、中学生としてもそういう学びというのは非常に有効になる。逆に言うと、中学校の課題としては、そういう目的意識を持たせるような授業、特に技術・家庭科で進めていくことも課題になる。
  • 専門高校は、早くからそういうところに行きたいと思った人たちが選ぶ学校であるから、中学校時代ぐらいに、もっと夢をきちんと作れるような教育が必要ではないか。
  • 全日本中学校技術・家庭科研究会では、全国中学生創造ものづくり教育フェアを開催しており、中学生は、そのコンテストに出てくるまでに、考えたことを形にする設計をして、実際やってみて、評価を受けて、改善して、それを繰り返し学ぶことで力を付けていく。
  • 新規採用又は2年目までの中学校の教員の初任者研修を農業高校と工業高校にお願いしている。まず専門高校を見てもらう、その中で生徒がどういう学びをして、生き生きとした姿かということを教員が感じなければ生徒と対話ができない。

(大学等との接続)

  • 専門高校は、かつては、社会に即出て、実践できるような人材を育成するという完結教育的な位置付けが強くあった。しかし、時代の流れとともに産業が高度化し、高学歴化する中で、専門高校からも大学等に進学する道がしっかりと位置付けられることが大切であり、継続教育の重要性が増している。
  • 専門高校の進路先として、大学を含む高等教育機関への進学の割合は非常に高くなっている。ほとんどの大学が普通科高校出身者を前提とした入学試験等を行っているが、専門高校での学びを大学がどのように評価するのかという大学側の努力も必要である。一方で、専門高校は、進学を希望する者については、共通教科も適切に編成する努力が必要である。
  • 文部科学省では、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」が制度の具体化に向けて進んでいると思うが、専門高校で学んだ生徒がさらに学びを深め、高められるような新たな高等教育機関ができることを期待しており、これは国と地方自治体の協力があって、そういうことが可能になる。

(産業・社会との連携)

  • 産業教育の持っている様々な力をどう意識し、どう伸ばしていくのか、そのときに閉じた高等学校の空間だけではなくて、企業、産業界との連携の中でそういった力をどう伸ばしていくのかということが必要である。
  • 地域連携というのは、一つは地域産業の実践的ですばらしい専門的な技術を学校の生徒に身に付けさせるとともに、そこで活躍する生徒を育てるという両面がある。
  • 時代の変化に常に対応していくためには、必要となる知識や基礎的な力も変化していかなければならない。その際、学校現場で教えられることには限界があり、そういうときに、地域の企業や地域の人材をしっかり学校の中に入れていかなければ対応できない。
  • 専門学科で学ぶ生徒たちは、地域での活動や、施設・企業での実習などを通して、さらに大きく成長できる。そのような社会とのつながりの中で、生徒たちは他人の気持ちを思いはかることやコミュニケーション能力を身に付けていく。人と接する中で成長させていくことが大切である。今後は、さらに一歩進んで、生徒の力を社会に活用することで社会の課題を解決していくような学習をしながら、より力を伸ばしていきたい。
  • 企業と学校の連携については、高校生の感想など企業にフィードバックをきめ細かに行うとうまくいくという話があり、学校側もそういうきめ細かな対応が求められる。


(3)資質・能力の育成のために重視すべき評価

  • ルーブリックをどう作成していくのかということが大きな課題になるのではないか。学科や専攻によって育成すべき力が違ってくるため、各学校で育成すべき力を設定し、それをルーブリックに落とし込みながら生徒の成長をみとっていくという文化の醸成が、特に専門高校では必要である。その際、国としてどのような支援を提供すべきかということも検討する必要がある。
  • ルーブリックの使い方も含めて、自ら気づいて自ら修正していく自己評価を高校の段階から徹底していくことにより、生徒は相当変わる可能性がある。
  • 職業に関する八つの教科で、共通に活用できる評価の仕組みを改めて検討する必要があるのではないか。


(4)必要な支援、条件整備等

(専門高校の在り方)

  • 今後の生徒数の急激な減少への対応として、例えば、幾つかの専門高校は単独の専門高校が統廃合するときに、二つないし三つの学校を一つにするという総合産業高校としてまとめていく。関連するお互いの専門学科でどう共通性を維持し、あるいは専門性を継続するかといった問題がある。また、総合学科へ変わっていく学校は、専門学科の学びを単位制の中で維持しながら職業教育を行っている。生徒減への対応を喫緊の問題としてこれからどう考えるのかが課題である。
  • これからは学科の枠を超えた、お互いに良いところを学び合うといった形が必要になってくる。
  • 普通科の高校から就職する者についても、職業能力的なことを培わせることができないか、育成することができないかということも検討が必要ではないか。例えば、共通教科としての職業に関する科目のようなものがあってもいいのではないか。
  • 日本全体の専門家とか職人に対する社会的評価が低過ぎる。社会全体として社会的地位を上げる、そういう風潮ができない限り、どんなに教育のところだけで充実させたとしても、専門高校が5割から2割に減ったという現実はなかなか変わらない。

(教員の研修等)

  • 教員の研修の機会を増やしていくことが必要。その際、企業と連携して、例えば研修の講師になってもらうとか、あるいは学校の教員が企業に行って研修を受けるというようなシステムが必要である。
  • 教員の研修については、地域社会や民間企業の協力を得て実施する仕組みを作っていく必要がある。岐阜県では、若手の教員を対象として産業教育実地研修を実施しており、約2か月から1年間、民間企業や自治体等に派遣されて研修している。絶えず現在社会で起こっていることを学び、それを学校現場に戻って生かすという仕組みをもっと活用する必要がある。
  • 教員が社会の変化に本当についていけているか。教員も忙しい中で、社会に目を向ける時間が非常に限られてくる。ぜひ、教員が学ぶための時間や仕組み等も検討していかなければならない。
  • 例えば2割の教員が1年間、社会の変化に対応するための研修を受けようとしたら、2割教員を増やさなければ現場は回らない。今の教員は忙しくてそれどころではないという話をよく聞く。教員の数をもっと増やす必要があるのではないか。
  • 会社で勤めた経験のある教員は少ないのが実情であるため、インターンシップ先の開拓、実習中の生徒の姿を一緒に見させる、そういったところから教員に実際の企業の経験を積ませている。

(施設・設備)

  • 施設設備の老朽化については、農業に限らず、今、現場では課題になっており、昭和40~50年代等かなり以前に造られたような施設も現在まだ残っており、県の予算としては耐震化がまず優先であり、なかなか産業教育の施設設備の改善が進んでいない状況である。
  • 産業教育の施設設備が非常に老朽化しているということであれば、産業界全体としても考えなくてはならない問題である。
  • 産業教育の施設設備については充実が必要であるが、予算的な対応が困難であれば、それをカバーする方法として地域の企業と連携しながら、企業の設備を使わせてもらうといったことも必要である。

(連携体制の構築)

  • 専門高校で学んだことが地域社会にどう生かされているか、地域社会へどう貢献できるかについては、その地域の産業界、さらには自治体の協力があってうまくいく。
  • 今後、新たな職業がどんどん生まれていくことから、これからは外を見る力がより求められ、産学の連携がさらに重要となる。このため、どういう人材を育成するのかを学校と産業界で定期的に協議する場が必要である。

(その他)

  • かつて、専門高校生を対象とした「目指せスペシャリスト」の研究開発指定事業があったが、2年前から文科省でスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール事業がスタートし、これは非常にいい取組である。


2.各教科に関する事項

(1)農業科

(育成すべき資質・能力)

  • これから地方創生とグローバル化への対応が大切になってくると考えている。農業の分野では様々な取組があり、地域の伝統的な食材とか、貴重な遺伝資源を収集、保存し、さらに付加価値を付けて商品開発を行ったり、いわゆる六次産業化への対応ということも非常に重要な分野となってくる。それから、農産物の輸出等も視野に入れた成長産業としての農業を担うための資質・能力はどのようなものなのかということも大切になってくる。
  • やはり農業教育は、そのベースとなるのは生命を育み、育てる中から、豊かな人間性を培うというところと、自然環境と関連する中での学習を通して課題解決力を育成するということが大切である。

(その他)

  • 農業高校では農業クラブ活動というものがあり、教科活動と部活動が一緒になった活動で、その中心的な活動がプロジェクト活動である。それぞれ地域の課題を見つけながら、その課題解決に向かって探究学習をし、その成果を社会に発信するという学習が行われており、この活動を教育課程の内外にしっかりと位置付け、より充実させていくことが重要である。
  • 農業高校に入学して農業を学ぶ中で基本的、基礎的な学習についての動機付けをどう行っていくか。それと共通教科との関連をどうするか、カリキュラムの問題もあるが、検討しなければならない。
  • 女子生徒の比率が増加傾向にあり、本校も今6割が女子である。しかしながら、非常に女子の生徒は頑張っており、女子比率がある程度増加することによって、活性化にもつながっている。
  • 関係部局や地域との連携では、群馬県も次代を担う職業人材育成事業という県の事業を活用し、農政部、農業公社、先進農家等とも連携をしながら様々な事業を行っていて、このような取組は非常に重要なことである。


(2)工業科

(育成すべき資質・能力)

  • 工業については、科学的な視点や考え方を、もっともっと学習できるような指導要領にしていただきたい。

(その他)

  • 現在、工業高校等を見てみると、学力的に幅広い生徒が入ってきている学校もあり、実際に教えている内容を見ると、基礎学力に課題のある生徒をフォローするところに注力してしまっている現状も見受けられる。一方で、学力の高い生徒をいかに支援できるかということも課題として受け止めているが、そういった、もっともっと伸ばしていける生徒をたくさん育成することによって、地域産業の活性化であるとか、当然、進学もするなど、様々な道が広がっていくのではないか。
  • 工業高校では、実験・実習を中心として「課題研究」もあり、この中には三つの大きな学習スタイルがある。実験をする前の理論的な説明や実験方法の説明などの一斉学習、それを基にしながら、生徒が協力をしながら実験・実習を行う、まさに協働学習。そして、最後にレポートという形でまとめ上げて、そのレポートによって振り返りをするとともに、先生方にレポートを提出するときに質疑応答するなど、個別学習的なことをしっかりとやっている。こういった一連の流れの中で生徒はしっかりと育っており、非常に充実した取組が行われているが、ともすると、教員が教え込みをし過ぎてしまって、生徒の考える場面を奪ってしまっているということも考えられる。


(3)商業科

(育成すべき資質・能力)

  • 全国商業高等学校長協会のアンケート調査では、教科「商業」の目標については約6割が肯定的な意見である。残りの4割の中には様々な意見があり、4分野20科目の構成については再考できないかといった意見が出てきている。また、目標に盛り込むことが期待されているキーワードとしては、豊かな人間性、問題解決能力、コミュニケーション能力、グローバル化への対応、地域創生等がある。
  • 観光に関する教育について、実際に取り組んでいる学校が増えている。現行学習指導要領に観光に関する科目がないため、現在取り組んでいる学校は、学校設定科目で独自に内容を構成しながら授業を行っている。この観光については、2013年にビジット・ジャパン事業が発足し、訪日外国人の旅行者が1,000万人を超え、5年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けて2,000万人の旅行者を目指すといった取組も始まっているところである。ぜひ、次期学習指導要領に盛り込むことを検討していただきたい。

(その他)

  • 全国で様々な指導方法が実践されており、ケーススタディーやケースメソッド、ディベート、知的構成型ジグソー法、ワールドカフェ、反転授業等のような授業が全国的に実践されている。
    また、商業高校独自の取組である、模擬株式会社の経営や販売実習、デパートの経営、商品開発、知的財産の創造・登録、電子商取引等の教育活動も実践されている。そのような教育活動を通して、地域や産業界にプレゼンテーションを行ったり、ICTを活用した学習活動の充実等も、現行の学習指導要領の成果だと分析している。


(4)水産科

(育成すべき資質・能力)

  • 例えば水産科の食品製造では、缶詰とかレトルトという部門の実習があるが、冷凍食品が1兆円を超える産業になっている状況の中で、冷凍というものに対して一貫した授業がどうもあるようには思えない。

(その他)

  • 地域産業との連携を通じて、生徒に高度な技術を学ばせるなど学校教育を充実させる様々な取組が行われている。それはなぜかというと、水産高校が地域にとって非常に密着度が高い、そして必要とされる高校が全体として多いということではないのかと考えている。
  • 水産高校が様々な取組をやっていることがメディアを通していろいろ周知されることによって、水産高校はおもしろそうだ、あるいは、ここで学ぶことですごく大きな、広い意味での人間性が育つのではないかなと、そんな期待を持って生徒は入学してきている。
  • 日本全体の食料自給率は大体40%ぐらいだが、水産に関しては60%ぐらい。また、食の安全について言えば、水産物はほとんどが天然のもので、当然、添加物等は使っていないから、非常に安全でもある。食の安全という観点から行けば、今後は魚食については増えていく傾向にあるのではないか。あるデータによれば、魚食を主体とした食生活を送った人たちは平均寿命が高いということもあり、これから水産高校の追い風になっていくだろう。
  • 水産高校の専攻科では非常に高度な技術を習得でき、例えば海技免状の3級については、高校の専攻科であれば20歳で取れるが、大学まで行くと23歳までかかる。また、情報通信系の資格取得については、専攻科を出ると大体平均的に2級総合無線等の免許を取るが、例えば東海地区で言うと、この免許が取れる教育機関は本校しかないなどといった、水産高校には優位性がある。


(5)家庭科

(育成すべき資質・能力)

  • 家庭に関する学科においても企業や施設等での実習や連携した取組を積極的に実施しており、様々な地域と連携した取組の中でコミュニケーション能力の育成や豊かな感性、人間性を高めることにもつながっている。1つ心配していることは、単に実習をすること、また商品開発や検定の合格などが目的となってしまっているのではないかということ。基礎・基本の部分から専門性の高い学習内容まで、例えば科学的な視点、論理的な思考、そういったところを重視しながら、深い学びという部分をもっと大切にしなければならないのではないか。

(その他)

  • 専門学科にはもともとその専門分野を学びたい意欲を持った生徒が多く入っており、生徒たちはどんどん知識や技術を与えれば吸収する力を持っている。そういった意味で、様々な刺激を生徒たちにたくさん与えることで生徒の力を伸ばすことができるのではないか。家庭科で言えば、生活体験の不足から基礎・基本が大切だということがあるが、基礎・基本を大切にした学習も丁寧に行いながら、さらに高度な専門性を求めた学習内容が必要になってくる。
  • 課題研究は、多くの学科で現場実習なども含めて、核になる大変重要な科目である。例えば本校の保育科では近隣の幼稚園で実習を行っているが、地域の人たちに支えられながら学べることは大変ありがたく、班ごとに行う実習を通した協働的な問題解決という点でとても有効的な学習である。また、実習先に卒業生が多く就職している状況があり、卒業生が実習先で生徒たちに指導するというよい循環が生まれつつある。今後さらに地域社会を支える人材として、高度な専門性を生かしながら社会とともに協力して社会生活の課題解決を図っていくという、社会と深い結び付きの中で学習が深められることが期待される。


(6)看護科

(育成すべき資質・能力)

  • 看護については、ほとんどが5年一貫という方向に向かっている中で、高校に何を求めていくかというときに、医療職になる人材の素養を育てるということでは、科学的思考と論理的な考え方、チームの中で協働してできる問題解決力や意見が言えるアサーションの力、地域社会の中で体験を重ねて協働していける力などが必要である。
    また、今の医療状況の中では、シミュレーショントレーニングの強化とICTや電子カルテ等含めて十分対応できる力の基礎を作っていく必要がある。

(その他)

  • 高等学校の看護に関する学科については、臨床の現場の方たちの意見を聞くと、若くして教育を受けてきている、高校に入るときから看護に進みたいという目的意識があること等があり、臨床で働く上で地域で非常に活躍してくれる人になっている、何といっても素直であるといったこともあり、非常に看護の多様なコースの中でも重要な位置を占めていると思う。


(7)情報科

(育成すべき資質・能力)

  • 情報化については、いわゆる大きな情報システムという形の中で議論や教育が進んできているが、今はそういったシステムよりも、SNSを含めたウエブ対応、それをビジネスとどう結び付けていくかという教育が非常に大切である。このときに、教員資格を持っていない方々に先生になってもらうといったことは当然必要になってくる。そしてインターネット、SNSといったものとのつながりを何か入れていければと思う。

(その他)

  • 情報に関する学科の課題として、IT技術者不足と言われているにもかかわらず、専門高校の情報科から輩出する生徒数があまりにも少ないこと、情報科で採用した先生の数が全国であまりにも少ないこと、技術革新に対応した教員研修を実施していく必要がある。
  • 情報科はまだ新しい教科であることから、地域の中学生やその保護者に十分に認知されているとは言えない。また、就職先の情報産業や、進学先の大学や専門学校に、その存在を認知されているとは言いがたい。このため、情報産業から求められる資質・能力と教育内容とのマッチング、インターンシップの充実、大学や専門学校との教育内容の連携、地域の小・中学校との教育連携や地域でのICT支援等への貢献など、1.情報産業 2.大学・専門学校等 3.地域社会 との連携について、文部科学省のモデル事業等を通じて研究開発し、その成果を社会に広く周知していく必要がある。


(8)福祉科

(育成すべき資質・能力)

  • 福祉職も不祥事が報道され、専門学科においては規範意識、倫理観、そして遵法精神をきちんと押さえなければいけないが、なかなか生徒たちは自分のこととして学んでいない。法律を暗記したり理解はしているが、それを仕事に結び付けたり、判例を学習したり、ディスカッションしたりということがまだ足りないので、次期学習指導要領にも記載するといいのではないか。

(その他)

  • 介護人材、福祉職の育成というのは国として喫緊の課題であり、現在、義務教育段階ではボランティア活動が盛んに行われており、福祉に興味を持った目的意識の高い生徒が福祉科には入学している。例えば地域で介護技術教室を開いたり、学校でデイサービスを生徒たちが行ったりと、ただ資格を取るためではなく、地域へ自らの学びを還元する取組も行われている。さらに、福祉科を中心に全国介護技術コンテスト、介護の技術検定が行われており、技術、技能の習得についても全国レベルで励んでいるところである。
  • 福祉のイメージアップにつなげるために、次期学習指導要領の科目では、「豊かな福祉社会」など、科目名にも少し反映できたらと思ったところではあるが、9科目は国家試験に連動した科目であるので、慎重に考えていく必要がある。
  • 福祉の分野で40万人不足という話は産業界を超えて大きな課題となっているが、フィリピンやインドネシアの人は一生懸命やっているが、日本語の読み書きが不足しているということで結果は国家試験に通らないという状況がある。例えば福祉科の高校が海外の留学生の受入れ先になる、そんなことも視野に入れれば、全体が変わってきそうな気がする。

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初等中等教育局児童生徒課産業教育振興室