資料2 産業教育ワーキンググループ(第2回)における主な意見

1.産業教育の現状と課題

○  専門高校は、かつては、社会に即出て、実践できるような人材を育成するという完結教育的な位置付けが強くあった。しかし、時代の流れとともに産業が高度化し、高学歴化する中で、専門高校からも大学等に進学する道がしっかりと位置付けられることが大切であり、継続教育の重要性が増している。


○ 現在のグローバル化の中で、地方の中小企業も含めて産業界が求めている人材像というのは、技術だけに精通している人材、あるいは技能だけに長けている人材だけではこなせない業務が多々あり、海外展開をする事業にしてみれば、技能が分かる技術者や技術が分かる技能者でなければマネジメントに支障が起こり、例えば工場を海外に進出させている場合には、運営ができないということは競争にも負けることになり、技能が分かる技術者、技術が分かる技能者が必要である。


○ 社会に出るための知識ということで、例えば労基法について、全く通常の高校教育の中では教えられない。ブラック企業、あるいはブラックバイトに対応する知識としたら必須である。あるいは金融の利用の仕方で、いかに金融機関を利用していくか、こんなことも高校の中では教えられていない。
そういう意味で、アサーション、相手も自分も大切にしながら議論を進めていく技術は、やはり社会に出て必要なことであり、社会に出るために必要な知識といったことを、普通科も含めてかもしれないが、共通教育の基盤の中でやっていくことは産業界から見ても非常に必要なことである。


○ 今までは高校を卒業した人は未成年だから、保護者的な対応を企業としてもしてきたが、選挙年齢が18歳に下がり、1票を投じる権利があるのならば、職業社会に出てくる覚悟が義務として求められるだろう。


○ いずれの専門高校もスペシャリストとして高い専門性を追求するということと、もう一つは、広い視野を持つという観点が必要。具体的には、今、世界の中で起こっている、例えば人口問題とか食料問題とか、あるいは世界経済とか、環境問題、こういったことと高校生の学びをどう関連付けるかという、この辺のところは、どの専門高校も実社会との結び付きの強い学校であるので、それぞれが関連するところがあると思われるが、その辺をどう取り入れていくかということが一つの課題である。


○ 六次産業化等への対応として、生徒が学校を超えて交流したり、あるいは研究したりというのは結構行われている。その際、なるべく異分野の生徒や地域の人と連携しながら課題を解決していく力が必要であり、チームワークを発揮しながら課題解決力を身に付けていく、そういう研究や学習が必要である。


○ これから生徒数の減少がまた急激に起こるが、生徒減への対応として、例えば具体的に言うと、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールの企画提案の中で幾つかあったが、専門学科を併せ持つ県、幾つかの専門高校は単独の専門高校が統廃合するときに、二つないし三つの学校を一つにするという総合産業高校としてまとめていく。関連するお互いの専門学科でどう共通性を維持し、あるいは専門性を継続するかといった問題がある。また、総合学科へ変わっていく学校もある中で、専門学科の学びを単位制の中で維持しながら職業教育を行う都道府県もある。生徒減への対応を喫緊の問題としてこれからどう考えるかが一つの課題である。


2.職業に関する各教科の現状と課題

(1)農業科の現状と課題
○ これから地方創生とグローバル化への対応が大切になってくると考えている。農業の分野では様々な取組があり、地域の伝統的な食材とか、貴重な遺伝資源を収集、保存し、さらに付加価値を付けて商品開発を行ったり、いわゆる六次産業化への対応ということも非常に重要な分野となってくる。それから、農産物の輸出等も視野に入れた成長産業としての農業を担うための資質・能力はどのようなものなのかということも大切になってくる。


○ やはり農業教育は、そのベースとなるのは生命を育み、育てる中から、豊かな人間性を培うというところと、自然環境と関連する中での学習を通して課題解決力を育成するということが大切である。


○ 女子生徒の比率が増加傾向にあり、本校も今6割が女子である。しかしながら、非常に女子の生徒は頑張っており、女子比率がある程度増加することによって、活性化にもつながっている。


○ 関係部局や地域との連携では、群馬県も次代を担う職業人材育成事業という県の事業を活用し、農政部、農業公社、先進農家等とも連携をしながら様々な事業を行っていて、このような取組は非常に重要なことである。


(2)工業科の現状と課題
○ 現在、工業高校等を見てみると、学力的に幅広い生徒が入ってきている学校もあり、実際に教えている内容を見ると、基礎学力に課題のある生徒をフォローするところに注力してしまっている現状も見受けられる。一方で、学力の高い生徒をいかに支援できるかということも課題として受け止めているが、そういった、もっともっと伸ばしていける生徒をたくさん育成することによって、地域産業の活性化であるとか、当然、進学もするなど、様々な道が広がっていくのではないか。


○ 工業については、科学的な視点や考え方を、もっともっと学習できるような指導要領にしていただきたい。


(3)商業科の現状と課題
○ 全国商業高等学校長協会のアンケート調査では、教科「商業」の目標については約6割が肯定的な意見である。残りの4割の中には様々な意見があり、4分野20科目の構成については再考できないかといった意見が出てきている。また、目標に盛り込むことが期待されているキーワードとしては、豊かな人間性、問題解決能力、コミュニケーション能力、グローバル化への対応、地域創生等がある。


○ 全国で様々な指導方法が実践されており、ケーススタディーやケースメソッド、ディベート、知的構成型ジグソー法、ワールドカフェ、反転授業等のような授業が全国的に実践されている。
また、商業高校独自の取組である、模擬株式会社の経営や販売実習、デパートの経営、商品開発、知的財産の創造・登録、電子商取引等の教育活動も実践されている。そのような教育活動を通して、地域や産業界にプレゼンテーションを行ったり、ICTを活用した学習活動の充実等も、現行の学習指導要領の成果だと分析している。


○ 観光に関する教育について、実際に取り組んでいる学校が増えている。現行学習指導要領に観光に関する科目がないため、現在取り組んでいる学校は、学校設定科目で独自に内容を構成しながら授業を行っている。この観光については、2013年にビジット・ジャパン事業が発足し、訪日外国人の旅行者が1,000万人を超え、5年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けて2,000万人の旅行者を目指すといった取組も始まっているところである。ぜひ、次期学習指導要領に盛り込むことを検討していただきたい。


(4)水産科の現状と課題
○ 地域産業との連携を通じて、生徒に高度な技術を学ばせるなど学校教育を充実させる様々な取組が行われている。それはなぜかというと、水産高校が地域にとって非常に密着度が高い、そして必要とされる高校が全体として多いということではないのかと考えている。


○ 水産高校が様々な取組をやっていることがメディアを通していろいろ周知されることによって、水産高校はおもしろそうだ、あるいは、ここで学ぶことですごく大きな、広い意味での人間性が育つのではないかなと、そんな期待を持って生徒は入学してきている。


○ 日本全体の食料自給率は大体40%ぐらいだが、水産に関しては60%ぐらい。また、食の安全について言えば、水産物はほとんどが天然のもので、当然、添加物等は使っていないから、非常に安全でもある。食の安全という観点から行けば、今後は魚食については増えていく傾向にあるのではないか。あるデータによれば、魚食を主体とした食生活を送った人たちは平均寿命が高いということもあり、これから水産高校の追い風になっていくだろう。


○ 水産高校の専攻科では非常に高度な技術を習得でき、例えば海技免状の3級については、高校の専攻科であれば20歳で取れるが、大学まで行くと23歳までかかる。また、情報通信系の資格取得については、専攻科を出ると大体平均的に2級総合無線等の免許を取るが、例えば東海地区で言うと、この免許が取れる教育機関は本校しかないなどといった、水産高校には優位性がある。


○ 例えば水産科の食品製造では、缶詰とかレトルトという部門の実習があるが、冷凍食品が1兆円を超える産業になっている状況の中で、冷凍というものに対して一貫した授業がどうもあるようには思えない。


(5)家庭科の現状と課題
○ 専門学科にはもともとその専門分野を学びたい意欲を持った生徒が多く入っており、生徒たちはどんどん知識や技術を与えれば吸収する力を持っている。そういった意味で、様々な刺激を生徒たちにたくさん与えることで生徒の力を伸ばすことができるのではないか。家庭科で言えば、生活体験の不足から基礎・基本が大切だということがあるが、基礎・基本を大切にした学習も丁寧に行いながら、さらに高度な専門性を求めた学習内容が必要になってくる。


○ 家庭に関する学科においても企業や施設等での実習や連携した取組を積極的に実施しており、様々な地域と連携した取組の中でコミュニケーション能力の育成や豊かな感性、人間性を高めることにもつながっている。1つ心配していることは、単に実習をすること、また商品開発や検定の合格などが目的となってしまっているのではないかということ。基礎・基本の部分から専門性の高い学習内容まで、例えば科学的な視点、論理的な思考、そういったところを重視しながら、深い学びという部分をもっと大切にしなければならないのではないか。


○ 課題研究は、多くの学科で現場実習なども含めて、核になる大変重要な科目である。例えば本校の保育科では近隣の幼稚園で実習を行っているが、地域の人たちに支えられながら学べることは大変ありがたく、班ごとに行う実習を通した協働的な問題解決という点でとても有効的な学習である。また、実習先に卒業生が多く就職している状況があり、卒業生が実習先で生徒たちに指導するというよい循環が生まれつつある。今後さらに地域社会を支える人材として、高度な専門性を生かしながら社会とともに協力して社会生活の課題解決を図っていくという、社会と深い結び付きの中で学習が深められることが期待される。


(6)看護科の現状と課題
○ 看護については、ほとんどが5年一貫という方向に向かっている中で、高校に何を求めていくかというときに、医療職になる人材の素養を育てるということでは、科学的思考と論理的な考え方、チームの中で協働してできる問題解決力や意見が言えるアサーションの力、地域社会の中で体験を重ねて協働していける力などが必要である。
また、今の医療状況の中では、シミュレーショントレーニングの強化とICTや電子カルテ等含めて十分対応できる力の基礎を作っていく必要がある。


(7)情報科の現状と課題
○ 情報科はまだ新しい教科であることから、地域の中学生やその保護者に十分に認知されているとは言えない。また、就職先の情報産業や、進学先の大学や専門学校に、その存在を認知されているとは言いがたい。このため、情報産業から求められる資質・能力と教育内容とのマッチング、インターンシップの充実、大学や専門学校との教育内容の連携、地域の小・中学校との教育連携や地域でのICT支援等への貢献など、1)情報産業 2)大学・専門学校等 3)地域社会 との連携について、文部科学省のモデル事業等を通じて研究開発し、その成果を社会に広く周知していく必要がある。


○ 情報化については、いわゆる大きな情報システムという形の中で議論や教育が進んできているが、今はそういったシステムよりも、SNSを含めたウエブ対応、それをビジネスとどう結び付けていくかという教育が非常に大切である。このときに、教員資格を持っていない方々に先生になってもらうといったことは当然必要になってくる。そしてインターネット、SNSといったものとのつながりを何か入れていければと思う。


(8)福祉科の現状と課題
○ 介護人材、福祉職の育成というのは国として喫緊の課題であり、現在、義務教育段階ではボランティア活動が盛んに行われており、福祉に興味を持った目的意識の高い生徒が福祉科には入学している。例えば地域で介護技術教室を開いたり、学校でデイサービスを生徒たちが行ったりと、ただ資格を取るためではなく、地域へ自らの学びを還元する取組も行われている。さらに、福祉科を中心に全国介護技術コンテスト、介護の技術検定が行われており、技術、技能の習得についても全国レベルで励んでいるところである。


○ 福祉のイメージアップにつなげるために、次期学習指導要領の科目では、「豊かな福祉社会」など、科目名にも少し反映できたらと思ったところではあるが、9科目は国家試験に連動した科目であるので、慎重に考えていく必要がある。


○ 福祉職も不祥事が報道され、専門学科においては規範意識、倫理観、そして遵法精神をきちんと押さえなければいけないが、なかなか生徒たちは自分のこととして学んでいない。法律を暗記したり理解はしているが、それを仕事に結び付けたり、判例を学習したり、ディスカッションしたりということがまだ足りないので、次期学習指導要領にも記載するといいのではないか。


○ 福祉の分野で40万人不足という話は産業界を超えて大きな課題となっているが、フィリピンやインドネシアの人は一生懸命やっているが、日本語の読み書きが不足しているということで結果は国家試験に通らないという状況がある。例えば福祉科の高校が海外の留学生の受入れ先になる、そんなことも視野に入れれば、全体が変わってきそうな気がする。


3.必要な支援、条件整備等
○ 施設設備の老朽化については、農業に限らず、今、現場では課題になっており、昭和40~50年代等かなり以前に造られたような施設も現在まだ残っており、県の予算としては耐震化がまず優先であり、なかなか産業教育の施設設備の改善が進んでいない状況である。


○ 産業教育の施設設備が非常に老朽化しているということであれば、産業界全体としても考えなくてはいけない問題である。


○ 産業教育の施設設備については深刻な問題であり、まずは、その充実をどうにかしてやっていかなければならないが、予算的な対応が困難であれば、それをカバーする方法として地域の企業と連携しながら、設備を使わせてもらうとか、そういうことをしながらやっていくしかない。


○ かつて、専門高校生を対象とした「目指せスペシャリスト」の研究開発指定事業があったが、2年前から文科省でスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール事業がスタートし、これは非常にいい取組である。


○ 中学校の技術・家庭科においては、以前の学習指導要領では、栽培の授業について選択としており、全国調査では2割程度の実施しかなかった。現行学習指導要領において、生物育成を必修にし、全国調査では、学習内容の内訳は作物関係97%、水産関係は0.5%、それ以外は動物関係となっている。これらによって、第一次産業の物を作ることに対する子供たちの興味関心が高まり、将来、自分が進路選択するときに、目的意識を持って、農業高校などの専門高校に進学することが考えられる。


○ 就職だけが目的ではなく、その分野を学びたくて中学校から専門高校に進学し、その後の進路として、働くのか、又はその上に行ってさらに学びたいのか、そこを専門高校で広げていくような方向であれば、中学生としてもそういう学びというのは非常に有効になる。逆に言うと、中学校の課題としては、そういう目的意識を持たせるような授業、特に技術・家庭科で進めていくことも課題になる。


4.その他

○ 埼玉県の場合、高校生のうちの6,000人が就職をし、このうち3,000人が専門高校の卒業生で、逆に言えば、普通高校からも3,000人就職をしている。何とかこの子たちに職業能力的なことを培わせることができないか、育成することができないかということも検討が必要なのではないか。例えば家庭科であるとか情報科には、共通教科の家庭科、共通教科の情報科がある。あとは専門科目にも情報科や家庭科があるならば、共通教科としての職業に関する科目のようなものがあってもいいのではないか。

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