生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ議論のまとめ (たたき台・イメージ)〔生活科〕

1.これまでの成果と課題

(経緯と成果)
○ 生活科は、平成元年の学習指導要領改訂において、小学校低学年に新設された教科である。これまで、児童の生活圏を学習の対象や場とし、それらと直接関わる活動や体験を重視し、具体的な活動や体験の中で様々な気付きを得て、自立への基礎を養うことをねらいにしてきた。
○ 平成20年の改訂では、活動や体験を一層重視するとともに、気付きの質を高めること、幼児教育との連携を図ることなどについて充実を図ってきた。具体的には、
【1】具体的な活動や体験を通して、人や社会、自然とのかかわりに関心をもち、自分自身について考えさせるとともに、その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせるといったその趣旨の一層の実現を図るため、人や社会、自然とかかわる活動を充実し、自分自身についての理解などを深めるよう改善を図る。
【2】気付きの質を高め、活動や体験を一層充実するための学習活動を重視する。また、科学的な見方・考え方の基礎を養う観点から、自然の不思議さや面白さを実感する学習活動を取り入れる。
【3】児童を取り巻く環境の変化を考慮し、安全教育を充実することや自然の素晴らしさ、生命の尊さを実感する学習活動を充実する。また、小学校における教科学習への円滑な接続のための指導を一層充実するとともに、幼児教育との連携を図り、異年齢での教育活動を一層推進する
といった改善を図ってきたところである。
○ これまでの各種調査や研究指定校等の状況からは、身近な人々、社会及び自然等と直接関わることや気付いたことや楽しかったことなどを表現する活動を大切にするなどの学習活動が行われてきており、言葉と体験を重視してきた前回改訂の趣旨が概ね反映されているものと考えることができる。自分自身や自分の生活について考えさせることや他教科等との関連を図ること、保護者、地域にいる人々などの協力を得ることなどについても積極的に取り組もうとしている。

(課題)
○ 一方、前回改訂で示された改善の方向性のうち十分に行われていないと考えられる点や、「論点整理」で示された教育課程の全体的な方向性に照らして考えると更なる充実を図ることが期待されると考えられる点としては、以下のように整理できる。
・一つには、活動や体験を行うことで低学年らしい思考や認識を確かに育成し、次の活動へとつなげる学習活動を重視することである。これまでも生活科においては、「活動あって学びなし」との批判が繰り返されてきた。前回改訂において、気付きの質を高めることが示され改善の方向に向かいつつあるものの、具体的な活動を通して、どのような思考力等が発揮されるのかなどについて十分に検討する必要がある。
・二つには、幼児教育において育成された資質・能力を存分に発揮し、各教科等で期待される資質・能力を育成する低学年教育として滑らかに連続、発展させることである。小学校低学年は、遊びを通して総合的に学ぶ幼児期に比べて、より意図的で、計画的で、組織的に意図する生活を自力で創造するようになる時期である。幼児期に育成する資質・能力と小学校低学年で育成する資質・能力とのつながりを明確にし、そこでの生活科の役割を考える必要がある。
・三つ目には、幼児教育との連携や接続を意識したスタートカリキュラムが、生活科固有の課題としてではなく、教育課程全体を視野に入れた取り組みとすることである。現行学習指導要領においては、生活科の内容の取扱いにおいて、「第1学年入学当初においては、生活科を中心とした合科的な指導を行うなどの工夫をすること。」との規定が追加された。これを踏まえて幼児教育から小学校教育への円滑な接続のためのスタートカリキュラムを工夫する取組も始まりつつあるが、未だ全国的に普及を見ているとは言えない状況にある。スタートカリキュラムの具体的な姿を明らかにするとともに、国語、音楽、図画工作などの他教科等との関連についてもカリキュラム・マネジメントの視点から検討し、学校全体で取り組むスタートカリキュラムとする必要がある。
・四つ目の点として、社会科や理科、総合的な学習の時間をはじめとする中学年の各教科等への接続が明確ではないという点がある。三つ目に挙げた、生活科と低学年の各教科の連携が十分図られていないという点とも関連する。小学校中学年以降の学びにおいては、より各教科等の特性に応じた見方・考え方を深め、児童は意識的・意図的に学んでいく。単に中学年の社会科や理科等の学習内容を前倒すことにならないよう留意しつつ、育成する資質・能力や見方・考え方のつながりを検討することが必要である。

2.生活科において育成する資質・能力について

(1)生活科の特質に応じ育まれる見方・考え方について

○ 生活科では、具体的な活動や体験を通して、児童の生活圏に存在する身近な人々、社会及び自然を学習の対象として扱う。その際、対象を自分との関わりで捉えることともに、人々、社会、自然を一体として捉えることが特徴である。発達が未分化な状況にある低学年の児童が直接かかわる対象や場は、人、社会、自然は一体のものとして存在している。それらを客観的に区別しながら認識するのではなく、つながりのあるものとして、それらを丸ごと捉えていく傾向が強いという、児童の発達の特性を生かすためである。
○ 具体的な活動や体験を通して捉えた対象については、比較したり、分類したり、関連付けたりなどして解釈し把握するとともに、試行したり、予測したり、工夫したりなどして新たな活動や行動を創り出していくことを通して、自分自身や自分の生活について考え、そこに新たな気付きを生み出すことを期待している。こうして児童はそれぞれの対象のよさや特徴、自分との関係や、対象同士の関わりに気付いていく。
○ このように、身近な人々、社会及び自然を自分との関わりで捉え、比較、分類、関連付け、試行、予測、工夫することなどを通して、自分自身や自分の生活について考えることは、生活科の特質に応じて育まれる見方・考え方であると言える。
○ こうした生活科の学習は、幼児教育における見方・考え方を、スタートカリキュラム等を通じて、各教科等の特質に応じた見方・考え方につなげていく際の中核としての役割を担う。それは、遊びを中心として総合的に育まれる幼児教育における見方・考え方を生かすとともに、だんだんと意図的、計画的、組織的になっていく低学年における各教科等の見方・考え方ともつながっていく。
○ 生活科において、低学年の未分化で一体的な学びの特性を生かし、身近な人々、社会及び自然を一体的に感じ取り、自分との関わりで捉えることを通じて、3学年以降の社会科における社会的な事象の見方・考え方や理科における自然の事物に対する見方・考え方、総合的な学習の時間における横断的・総合的な学習、探究的な学習を通じ、俯瞰的に捉えたり自己と関連付けて考えたりするという見方・考え方など見方・考え方に発展していくものと考えられる。
○ こうした小学校低学年の発達の特性や、中学年以降の各教科等へのつながりを踏まえ、生活科においては、「自分と人や社会とのかかわり」「自分と自然とのかかわり」「自分自身」の三つを基本的な内容構成の視点として示しているが、これらの三つの視点は明確に線引きできず、関わり合っていることに生活科の特徴があるといえる。

(2)生活科で育成する資質・能力と、教科目標の整理

【1】生活科で育成する資質・能力
(資質・能力の三つの柱に基づく整理)
○ 論点整理において示された育成すべき資質・能力の三つの柱は、「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、各学校段階の各教科等において、系統的に示されなければならないこととされている。小学校1学年、2学年においてのみ設定する生活科において育成する資質・能力については、上記のような視点を持ちつつ、幼児期の学びとのつながりを受けながら、生活科における学びを小学校中学年以降の学びにどうつなげていくかということを特に重視して、育成すべき資質・能力を整理する必要がある。
○ 生活科において、対象に直接関わる具体的な活動や体験を通して育成すべき資質・能力を、資質・能力の三つの柱や生活科の特質を踏まえつつ、幼児教育において育みたい資質・能力とのつながりや、小学校低学年における他教科及び中学年以降の理科、社会、総合的な学習の時間を含めた各教科等における学習との関係性も踏まえた上で整理し、具体的に考えられる内容をまとめると、以下のように考えることができる。
◆知識や技能の基礎(生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、何に気付いたり、何がわかったり、何ができるようになるのか)
・具体的な活動や体験を通して獲得する自分自身、社会事象、自然事象に関する個別的な気付きや関係的な気付き
・具体的な活動や体験を通して身に付ける習慣や技能
などが考えられる。
◆思考力・判断力・表現力等の基礎(生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなどを使って、どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか)
・身体を通して関わり、対象に直接働きかける力
・比較したり、分類したり、関連付けたり、視点を変えたりして対象を捉える力
・違いに気付いたり、よさを生かしたりして他者と関わり合う力
・試したり、見立てたり、予測したり、工夫したりして創り出す力
・伝えたり、交流したり、振り返ったりして表現する力
などが考えられる。
◆学びに向かう力、人間性等(どのような心情、意欲、態度などを育み、よりよい生活を営むか)
・身近な人々や地域に関わり、集団や社会の一員として適切に行動しようとする態度
・身近な自然と関わり、自然を大切にしたり、遊びや生活を豊かにしたりしようとする態度
・自分のよさや可能性を生かして、意欲と自信を持って(学んだり)生活しようとする態度
などが考えられる。
○ こうした資質・能力を育むために、生活科の目標としては、具体的な活動や体験を通して、身近な生活に関わる見方・考え方を生かし、自立し生活を豊かにしていくための資質・能力を、次のように育成することとする。
・活動や体験の過程において、自分自身、身近な人々、社会及び自然の特徴やよさ、それらの関わりに気付くとともに、生活上必要な習慣や技能を身に付けるようにする
・身近な人々、社会及び自然を自分との関わりで捉え、自分自身や自分の生活について考え表現する力を育成する
・身近な人々、社会及び自然に自ら働きかけ、意欲や自信を持って学んだり生活を豊かにしたりしようとする態度を育てる
(学年目標について)
○ これまで生活科は教科目標を示し、教科目標をより具体的・構造的に示した重点目標とも言うべき学年の目標を、第1学年と第2学年共通のものとして定めてきた。学年目標は、(1)主に自分と人や社会とのかかわりに関すること、(2)主に自分と自然との関わりに関すること、(3)自分自身に関すること、(4)生活科特有の学び方に関することの四つで構成していた。これらについて育成すべき資質・能力の三つの柱を踏まえて整理することが考えられる。

【2】教育課程全体における生活科の役割とカリキュラム・マネジメント
(スタートカリキュラムについて)
○ スタートカリキュラムは、幼児期の学びから小学校教育への円滑な接続を目的としたカリキュラム編成の工夫として、現行学習指導要領において位置付けられたものである。
○ 幼児教育においては、遊びや生活の中で、幼児期の特性に応じた見方・考え方や資質・能力を育む体験的・総合的な学びを行い、小学校教育においては、教科等の特質に応じた見方・考え方や資質・能力を育むとともに、教科横断的にそれらを総合・統合していく意図的・系統的な学びを行っていく。
○ この両者を円滑に接続するためには、小学校においては、生活科を中心としたスタートカリキュラムの中で、幼児期の学びの特性を踏まえながら、小学校教育へ円滑につないでいくことが重要である。適応指導として生活上のことを教え込んでいくのではなく、体験的・総合的な学びから徐々に意図的・系統的な学びへと移行していくことを促しながら、その中で学校や家庭、地域での生活に必要な技能等も学んでいく。その過程においては、合科的・関連的な指導を行ったり、児童の生活の流れを大切にした指導を行ったりして、幼児期の終わりまでに育った姿が発揮できるような教育課程の編成、実施上の工夫を行うことが考えられる。
○ 小学校に入学した児童が、幼児教育における遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくためのカリキュラムとして、生活科を中心としたスタートカリキュラムを工夫することにより、児童が安心して自信を持って成長し自立への基礎の形成につながることが期待される。
○ こうしたスタートカリキュラムの設定について、幼児教育から小学校教育への円滑な接続のためのカリキュラム・マネジメントという視点を踏まえて、改めてその取組を促していくことが必要である。
○ カリキュラム・マネジメントについては、「論点整理」において以下の三つの側面が示されている。
・各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
・教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
・教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
○ こうした側面を考えると、スタートカリキュラムを考えるに当たっては、小学校内における組織的な取組はもとより、小学校区内の幼稚園、保育所等と小学校とが連携し、子供の育ちの現状、育成したい資質・能力等についてのイメージを共有しながらともに考えていくことが必要である。スタートカリキュラムについての方針を作成する時点だけでなく、恒常的に、こうした連携、共有を行い、改善を行っていくことが求められる。
(小学校低学年の学習と中学年以降の各教科等の接続の視点)
○ 幼児教育と小学校教育の円滑な接続という視点からのカリキュラム・マネジメントに加え、各学校においける、小学校低学年の学習と中学年以降の学習という視点からのカリキュラム・マネジメントという視点も重要である。
○ 小学校部会におけるこれまでの議論のとりまとめにも示されているように、小学校教育における現状の課題について考えると、小学校の6年間という期間は子供たちにとって大きな幅のある期間であり、低学年、中学年、高学年の発達の段階に応じて、それぞれ異なる課題が見受けられるとの指摘があるところである。
○ 低学年においては、これまで述べてきたような、幼児教育で身に付けたことを生かしながら教科等の学びにつなぎ、子供たちの資質・能力を伸ばしていく時期であると同時に、その2年間の中で表れた学力差が、その後の学力差の拡大に大きく影響しているとの課題が指摘されている。学習の質に大きく関わる語彙量を増やすことなど基礎的な知識・技能の定着や、感性を豊かに働かせ、身近な出来事から気付きを得て考えることなど、中学年以降の学習の素地(そじ)を形成していくとともに、一人一人のつまずきを早期に見いだし、指導上の配慮を行っていくことが重要となる。
○ 中学年は、生活科の学習が終わり、理科や社会科の学習が始まるなど、具体的な活動や体験を通じて低学年で身に付けたことを、より各教科の特性に応じた学びにつなげていく時期である。例えば国語科における言葉の働きについても、低学年における「事物の内容を表す働き」等に加えて、「考えたことや思ったことを表す働き」があることに気付くなど、指導事項も次第に抽象的な内容に近づいていく段階であり、そうした内容を扱う学習に円滑に移行できるような指導上の配慮が課題となる。
○ また、生活科においては、低学年の未分化で一体的な学びの特性を生かし、幼児期に育成された資質・能力を発揮するとともに、学びを自覚し自ら学習に向かうこと、学級の友達と学び合うこと、体験と言葉を使って学ぶことなどを意識していくことが大切になる。生活科や理科、社会科、総合的な学習の時間の特性を踏まえた見方・考え方、育成される資質・能力を明らかにすることも、小学校低学年から中学年の学習への円滑な移行に資するものと考えられる。
(小・中・高等学校の学びまでを見通した生活科の意義)
◯ 幼児期における豊かな遊びを通した学びから、生活科の中で豊かな経験を通した学びをすることにより、中学年、高学年、中学校へ進学した際にも豊かで瑞々しい意欲的な学習をすることにつながっていく。 ◯ また、生活科の体験を通した一体的な学びは、総合的な学習の時間における各教科等の見方・考え方を活かした学習につながっていく。遊びや生活を通した幼児期の学びが、生活科における体験を通した一体的な学びを経て、教科の系統的な学習と総合的な学習の時間における総合的な学びによりつながりつつ広がっていくことで、中学校段階の自己の生き方との関わりの中で深まったり、高等学校段階で自己の在り方生き方との関わりの中で統合されたりしていく。そうした大きな流れの中で生活科が重要な位置を占めることが求められている。幼児期、小学校低学年、中学年だけでなく、さらにその先につながっている生活科であるということを改めて示してくことが必要である。

(3)資質・能力を育む学習過程のあり方

○ 生活科における資質・能力を育む学習過程は、やってみたい、してみたいと自分の思いや願いを持ち、そのための具体的な活動や体験を行い、直接対象と関わる中で感じたり考えたりしたことを表現したり、行為したりしていくプロセスと考えることができる。このプロセスの中で、体験活動と表現活動とが繰り返されることで児童の学びの質を高めていくことが重要である。
○ もちろんこうしたプロセスはそれぞれの学習活動がいつも同じように繰り返されるわけではなく、活動が入れ替わったり、一体的に行われたり、行きつ戻りつしたりするものである。
○ 一人一人の児童の思いや願いを実現していく一連の学習活動を行うことにより、児童の自発性が発揮され、一人一人の児童が能動的に活動するようにすることが重要である。体験活動は児童の興味や関心を喚起し、熱中したり没頭したりすることが期待できる。こうして児童は身近な環境に直接働きかけたり、働き返されたりしながら対象との双方向のやり取りを繰り返し、活動や体験の楽しさを実感していく。
○ 直接対象と関わる体験活動が重視され、それを伝えたり、交流したり、振り返ったりする表現活動が適切に位置付けられる。そうした学習活動が連続的・発展的に繰り返されることにより、育成すべき資質・能力として期待される児童の姿が繰り返し表れ、積み重なっていく。こうした一連の学習活動を通して育成すべき資質・能力は確かになっていく。
○ 具体的な活動や体験を通して、比較したり、分類したり、関連付けたりなどして解釈し把握するとともに、試行したり、予測したり、工夫したりなどして新たな活動や行動を創り出していくことを通して、自分自身や自分の生活について考え、個別的な気付きが関係的な気付きへと質的に高まったりするなど、新たな気付きを生み出すことが期待される。
○ また、熱中し没頭したこと、発見や成功したときの喜びなどは表現への意欲となり、他者に伝えたり、交流したり、振り返って捉え直したりして表現する活動を行うことにつながる。そこでは、自分の学習活動に対する充実感、達成感、自己有用感、一体感などの手応えをつかむことになり、そのことが児童の安定的で持続的な学びに向かう力を育成していく。
○ 小学校に入学したばかりの時期においては、意識的に振り返りを行うというよりは、伝え合い表現する学習活動を行うことが学びの振り返りになるという段階であり、活動や体験したことを言葉などによって振り返ることで、無自覚な気付きが自覚的になったり、一つ一つの気付きが関連付いたりするという意義を持つ。生活科の学習を通じて、様々な気付きを得たり、学びに向かう力を育てていく上で、表現することを通じて振り返るという学習を重視する必要がある。

(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点のあり方

○ これまで生活科では、観点別学習状況評価として、「生活への関心・意欲・態度」「活動や体験について思考・表現」「身近な環境や自分についての気付き」を評価の観点として、学習活動における評価規準を設定した上で、具体的な児童の姿と評価方法を想定して評価を行うこととしてきた。
○ 今後は、三つの柱に整理した生活科における育成すべき資質・能力と教科目標を踏まえて、以下のような評価の観点と趣旨にすることが必要と考えられる。
【1】身近な環境や自分についての気付き及び生活上必要な習慣や技能
活動や体験の過程において、自分自身、身近な人々、社会及び自然の特徴やよさ、それらの関わりに気付いているとともに、生活上必要な習慣や技能を身に付けている。
【2】身近な環境や自分についての思考・判断・表現
身近な人々、社会及び自然を自分との関わりで捉え、自分自身や自分の生活について考え表現している。
【3】主体的に学習に取り組む態度
身近な人々、社会及び自然に自ら働きかけ、意欲や自信を持って学んだり生活を豊かにしたりしようとしている。
○ 具体的な評価については、評価規準を学習活動における具体的な児童の姿として描き出し、期待する資質・能力が発揮されているかどうかを診断することが考えられる。その際、具体的な児童の姿を把握するに相応しい評価方法や評価場面を設定し位置付けることなどが考えられる。

3.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善、充実

(1)資質・能力の整理と学習過程のあり方を踏まえた教育内容の構造化

○ これまで生活科では、内容構成の基本的な視点として、「自分と人や社会とのかかわり」「自分と自然とのかかわり」「自分自身」の三つを示しつつ、九つの内容項目を設定してきた。
○ 九つの内容項目の中には、内容構成の具体的な視点として11の視点(「健康で安全な生活」「身近な人々との接し方」「地域への愛着」「公共の意識とマナー」「生産と消費」「情報と交流」「身近な自然との触れ合い」「時間と季節」「遊びの工夫」「成長への喜び」「基本的な生活習慣や生活技能」)を定め、主に育成すべき児童の姿を示してきた。また、その姿の具現に向けて、内容構成の具体的な視点を育成していく学習活動が実現するよう15の学習対象(「学校の施設」「学校で働く人」「友達」「通学路」「家族」「家庭」「地域で生活したり働いたりしている人」「公共物」「公共施設」「地域の行事・出来事」「身近な自然」「身近にある物」「動物」「植物」「自分のこと」)を整理してきた。この学習対象を通して様々な気付きを得て、11の視点のような児童の姿(態度)を育むという形で内容が構成されてきた。
○ こうした生活科の内容について、育成すべき資質・能力の三つの柱を踏まえつつ、生活科の三つの基本的な視点を踏まえて、その構成を見直す必要がある。
○ 具体的には、各内容項目について、(学習対象を基に内容を構成するのではなく、)【1】伸ばしたい思考力・判断力・表現力等が発揮され、認識を広げ、期待する態度を育成していくという点を重視して整理し、【2】そうした資質・能力を育成するためにふさわしく、児童の身の回りにある学習対象を、児童の実態や学習環境の変化、社会的要請等を踏まえて示すことで、内容を整理することが適当であると考えられる。
○ 特に、思考力等については、これまでの目標の中で必ずしも明確に示されていないことから、できるだけ具体的に示すようにすること、認識を広げることについては、個別の気付きを関係的な気付きとして質が高まるようにすること、11の視点で示してきた児童の姿(態度)については、幼児期の終わりまでに育てたい幼児の姿との関連や、中学年以降の各教科等における学習との関連を考慮しながら見直すようにすべきである。
○ なお、小学校低学年の大半の教科等が、目標や内容を第1学年・第2学年の2年間を通して設定していることを踏まえると、生活科の目標や内容の示し方も現行の2年間を通した設定を前提としつつ、第1学年、第2学年の発達の違い、経験の違いなどを考慮した示し方を工夫することが考えられる。例えば、第1学年の当初における幼児期との接続の観点、第2学年における第3学年以降の学習とのつながりという点については(2)【2】で示した留意すべきポイント等を示すことや、それぞれの学年で経験することを踏まえた内容の扱いを示すことなどの工夫について検討する。

(2)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し

(多様性が尊重される社会の視点)
○ 障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、平成28年4月1日より施行された。障害のある児童生徒が、その年齢及び能力に応じ、可能な限り障害のない児童生徒と共に、その特性を踏まえた十分な教育を受けることのできるインクルーシブ教育システムを推進しつつ、家庭や学校を始めとする社会のあらゆる機会を活用し、子供の頃から年齢を問わず障害に関する知識・理解を深め、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人であることを認識し、障害の有無にかかわらず共に助け合い・学び合う精神を涵養することとされている。
○ 生活科においては、身近な幼児や高齢者、障害のある児童生徒などの多様な人々と触れ合うことを大切にすることとしてきた。多様性を尊重する社会づくりという視点から、この視点を今後さらに重視していく必要がある。
(健康・安全の視点)
○ 健康で安全な生活を営むことについては、低学年の児童の事件や事故が課題となる中、通学路での安全にも十分配慮した行動ができるようにする必要があるという観点から充実を図っており、健康・安全に関連した内容は生活科の指導の全般にわたっている。
○ 教育課程企画特別部会で示された「論点整理」や総則・評価特別部会における教科・校種横断的な議論の中で、防災を含む安全教育を通じて育成すべき資質・能力を明確化し、その育成に必要な各教科等における指導内容を系統的に示すことが提言されていることを踏まえ、生活科の教育内容について健康・安全の視点からの充実を図るよう検討する。

4.学習・指導の改善充実や教材の充実

(1)特別支援教育の充実、個に応じた学習の充実

(特別支援教育の充実)
○ 生活科の学習は、対象への働きかけなどの具体的な体験を通して、考えたことや感じたことを表現することを特徴とする。一人一人の児童生徒の状況等に応じた十分な学びを確保するため、たとえば以下のような配慮を行う。
・ 言葉での説明や指示だけでは、安全に気を付けることが難しい児童の場合には、その説明や指示の意味を理解し、なぜ危険なのかをイメージできるように、体験的な事前学習を行うなど配慮をする。
・  みんなで使うもの等を大切に扱うことが難しい場合は、大切に扱うことの意義や他者の思いを理解できるように、学習場面に即して、児童の生活経験等も踏まえながら具体的に教えるように配慮する。
・ 自分の経験を文章にしたり、考えをまとめたりすることが困難な場合は、 児童がどのように考えればよいのか、また具体的なイメージを想起しやすいように、考える項目や順序を示したプリントを準備したり、事前に自分の考えたいことを言葉や動作で表現したりしてから文章を書くようにするなどの配慮をする。
・ 学習の振り返りの場面において学習内容の想起が難しい場合、学習経過を思い出しやすいように、学習経過などの分かる文章や写真、イラスト等を活用するなどの配慮をする。
◯ こうした配慮を行うに当たっては、困難さを補うという視点だけでなく、むしろ得意なことを活かすという視点から行うことにより、自己肯定感の醸成にもつながるものと考えられる。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実

○ アクティブ・ラーニングの視点による生活科の授業改善は、これまでと同様に、児童の思いや願いを実現する体験活動を充実させるとともに、表現活動を工夫し、体験活動と表現活動とが豊かに行きつ戻りつする相互作用を意識することが考えられる。アクティブ・ラーニングの三つの視点に即して整理すると以下のようになる。具体的な体験を通じて学ぶという生活科の特質から、三つの視点はそれぞれ独立したものではなく、相互に関わりあっていくことが重要である。
【1】「深い学び」の視点
・「深い学び」とは、子供たちが習得・活用・探究を見通した学習過程の中で見方・考え方を働かせて思考・判断・表現し、学習内容の深い理解や資質・能力の育成、学習への動機付け等につなげる学びである。
・生活科では、思いや願いを実現していく過程で、一人一人の子供が自分との関わりで対象を捉えていくことが生活科の特質であると言える。身近な人々、社会及び自然と直接関わる中で、一人一人が感じたり考えたりしながら、対象に対する特徴やよさなどの個別的な気付きを自覚し獲得していくことができるよう、学習活動を設定することが必要である。
・また、活動や体験で熱中し没頭したこと、発見したことや成功したことは表現への意欲となり、活発な表現活動へとつながる。他者に伝え表現することは体験したことを対象化するとともに、比較、分類、関連付けるなどして対象の共通点や相違点に気付いたり、試行、予測、工夫するなどして自分自身や自分の生活について考えたりしていくことになる。
・生活科の特質を踏まえた見方・考え方を生かした学習活動が充実することで、気付いたことを基に考え、新たな気付きを生み出し関係的な気付きを獲得するなどの「深い学び」を実現することが求められる。低学年らしい瑞々しい感性により感じ取られたことを、自分自身の実感の伴った言葉にして表したり、様々な事象と関連付けて捉えようとしたりすることを助けるような教師の関わりが求められる。
・その際、国語や図画工作、音楽等における学びと関連を図りながら、言葉、絵、動作、劇化などの発達に応じた多様な方法で表現自体を楽しむとともに、記録し表現する方法として、デジタルカメラやタブレット端末などのICT機器等を活用することも考えられる。
【2】「対話的な学び」の視点
・「対話的な学び」とは、他者との協働や外界との相互作用を通して、自らの考えを広げ深める学びである。
・生活科では、身の回りの様々な人々と関わりながら活動に取り組むことや、伝え合ったり交流したりすることを大切にしたい。伝え合い交流する中で、一人一人の発見が共有され、そのことをきっかけとして新たな気付きが生まれたり、関係が明らかになったりすることが考えられる。他者との協働や伝え合い交流する活動は、集団としての学習を質的に高めるだけではなく、一人一人の子供の学びを質的に高めることにもつながる。
・また、生活科では、対象に直接働きかけるだけではなく、それらの対象が子供に働き返してくるという双方性のある活動が行われ、対象と直接関わり、対象とのやりとりをする中で、感じ、考え、気付くなどして「対話的な学び」が豊かに展開されていくことが求められる。「深い学び」の視点と同様に、様々な表現を行い伝え合う活動の充実を図ることは、「対話的な学び」の視点からも求められる。
【3】「主体的な学び」の視点
・「主体的な学び」とは、学習に積極的に取り組ませるだけではなく、学習後に自らの学びの成果や過程を振り返ることを通して、次の学びに主体的に取り組む態度を育む学びである。
・生活科では、子供の生活圏である学校、家庭、地域を学習の対象や場とし、対象と直接関わる活動を行うことで、興味や関心を喚起し、自発的な取組を促してきた。
・こうした点に加えて、「深い学び」の視点、「対話的な学び」の視点と同様に、「主体的な学び」の視点から生活科の改善充実を図っていく上で、表現を行い伝え合う活動の充実を図ることが必要である。
・小学校低学年は、自らの学びを直接的に振り返ることは難しく、相手意識や目的意識に支えられた表現活動を行う中で、自らの学習活動を振り返る。活動や体験したことを言葉などによって表現し振り返ることで、無自覚な気付きが自覚的になったり、一つ一つの気付きが関連付いたりする。それらに加えて、振り返ることで自分自身の成長や変容について考え、自分自身についてのイメージを深め、自分のよさや可能性に気付いていく。働きかける対象への気付きだけではなく、そこに映し出される自分自身への気付きや、自分自身の成長に気付くことが、自分はさらに成長していけるという期待や意欲を高めることにつながる。
・学習活動の成果や過程を表現し、振り返ることで得られた手応えや自信は、自らの学びを新たな活動に生かし挑戦していこうとする子供の姿を生み出す。こうした好ましいサイクルこそが、次の学びにつなげる安定的で持続的な「学びに向かう力」を育成するものとして期待することができる。

(3)教材の在り方

○ 地域は、児童にとって生活の場であり学習の場である。生活科では(先に挙げた)15の学習対象を示しているが、どのような対象とかかわりながら、どのような活動を行うことによって資質・能力を育んでいくかということが重要である。「社会に開かれた教育課程」の理念を実現するためにも、地域の文化的・社会的な素材や活動の場などを見出す観点から地域の環境を繰り返し調査し、それらの素材を教材化して最大限に生かすことが重要である。
○ また、飼育動物や栽培植物といった、いわば生きた教材は、児童にとって直接的な体験の機会が減っている中で大きな意義を持つものである。特別活動の学級活動や児童会活動(係活動や委員会活動としての動植物の世話など)との関連を図ったり、地域人材や外部の専門家等の協力を得たりしつつ引き続き充実を図ることが必要である。

5.必要な条件整備等について

(スタートカリキュラムを支える条件整備)
○ スタートカリキュラムにおいて合科的な指導や短時間学習等の工夫を行っていくに当たっては、入学当初の児童の生活面の支援に関する人的なサポートも含め、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせるカリキュラム・マネジメントが重要となる。
○ 上記2.において述べたように、スタートカリキュラムについては、学校内にとどまらず地域におけるカリキュラム・マネジメントが必要である。校区内の公立私立の幼稚園、保育所、認定こども園等との継続的な連携体制の構築が必要であり、市町村においては教育委員会と首長部局との密接な連携も望まれる。
○ スタートカリキュラムについては、幅広く各学校や教育委員会における取組事例を収集し、提供することが必要と考えられる。
(児童の体験的な学習のために必要な条件整備)
○ 児童の体験的な活動を重視した学習を実施するため、学校内外の様々な人的な協力、交流が必要となる。身近な地域、自然に触れるための校外での学習、地域の人との交流、公共物の利用などの学習を進めていくためには、学校と地域の円滑な協働体制が構築できていることが望まれる。高齢者や障害のある人との交流に当たっては関連する施設との連携が必要である。学校内で行う動物飼育に関しては、動物特有の感染症への対応などに関して獣医師(等)の専門家の協力が必要であるなど、生活科の活動に対応した専門家の支援も必要である。

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