資料1 委員発表資料 横倉委員

特別支援学校における教育の現状

東京都立大塚ろう学校長 横倉 久


1 はじめに
障害のある幼児児童生徒については、一人一人の能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するための基盤となる生きる力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じて、適切な指導及び必要な支援を行うことが重要である。このため、特別支援学校の教育課程は、幼稚園、小学校、中学校及び高等学校に準ずる各教科(知的障害者を教育する場合の教科)等のほか、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服することを目的とした特別の指導領域である「自立活動」で編成されている。さらに、障害の状態等に応じた教育を行うため、種々の教育課程の取扱いが設けられている。近年、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒の数は、135,000名(平成19年度比、25%増)を超え更に増加の傾向にある。
「教育課程企画特別部会(論点整理)」は、「新しい学習指導要領が目指す姿」の中でア.連続性のある「多様な学びの場」において十分な学びを確保していくことイ.発達段階に応じた学びの中で、地域や社会とかかわり、社会的職業的自立に向けた学びを積み重ねていくことが重要だとした。さらに、「各学校段階、各教科等における具体的な方向性」において次のように展開している。ア.障害の状態の多様化に対応した特別支援学校学習指導要領の改善充実が必要である。とりわけ、発達の段階に応じた自立活動の改善・充実、障害のある幼児児童生徒一人一人の発達の段階や進路に応じたキャリア教育の充実、知的障害の教科の改善・充実を図ることが求められる。イ.連続性のある「多様な学びの場」における子供たちの十分な学びを確保していく観点から、幼・小・中・高との間で教育課程が円滑に接続していけるようにすることが重要である。
「障害者の権利に関する条約」の批准や「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が平成28年4月1日より施行されることにより、特別支援学校においても「合理的配慮」の提供や「基礎的環境整備」の充実がより一層求められていること、及び障害者基本法第16条の趣旨を踏まえ、通常の学級・通級による指導・特別支援学級・特別支援学校における教育活動の在り方と相互の連続性を改めて可視化し、すべての学校現場において共有するとともに、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の作成・活用を通じ、育成すべき資質・能力を目指して、子供たちの学びの連続性を実現していくことが求められる。

2 特別支援学校における教育課程の現状
(1)自立活動の現状及び課題
平成21年3月に告示された特別支援学校幼稚部教育要領、小学部・中学部学習指導要領、高等部学習指導要領においては、自立活動の目標が「個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う」と明記されている。この目標を達成するために、自立活動の内容は6区分(健康の保持、心理的な安定、人間関係の形成、環境の把握、身体の動き、コミュニケーション)の下に26項目が示されている。
特別支援学校では、自立活動において個別の指導計画を作成することが以前から義務づけられている。特別支援学校(知的障害)においては、各教科等を合わせた指導が可能なので、自立活動の目標・内容を生活単元学習等の中に位置づけて教育課程を編成している学校も少なくない。 ※資料「自閉症の児童生徒を主な対象として教育課程を編成した学級」参照
○課題
・特別支援学校学習指導要領には、「自立活動の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の障害の状態や発達の段階等の的確な把握に基づき、指導目標及び指導内容を明確にし、個別の指導計画を作成するものとする。」と定められているが、特別支援学校学習指導要領解説自立活動編に示されている「指導計画の作成手順」の項目間のつながりや「具体的な指導内容の例」の図の矢印の意味などについて必ずしも正確でない理解が学校現場において散見される。障害者差別解消法の施行により、幼児・児童・生徒が社会に出ても適切な「意思の表明」ができるように、求める環境を自分で選択したり、決定したりするための力を身に付けていくことが重要であることなど、自立活動と合理的配慮の考え方についての整理が重要である。
 ・上記の点については、特別支援学校の学習指導要領を参考に小・中学校の特別支援学級の教育課程を編成することが可能となっているが、これらの考え方が十分に浸透するとは考えにくい。そのため、小・中学校の学習指導要領総則等においても書き込むことが必要であり、高等学校における通級による指導の必要性が高まってきている現状を捉えると、更に高等学校の学習指導要領においても、これらの考え方を示していくことが重要である。
・新しい時代に必要となる育成すべき資質・能力との関連から「学びに向かう力」について内容を充実させていくことが重要である。特にメタ認知やクリティカル・シンキング、論理的思考等の認知面や情意面については、学び方の違いを含めて、その方略等に関する内容についてより充実させていくことが重要となる。現行の学習指導要領解説には、「一人一人の認知の特性に応じた指導方法を工夫し、不得意な課題を少しずつ改善するよう指導するとともに、得意な方法を積極的に活用するよう指導することも大切である。」等の記述がなされているが、各教科等の配慮事項にも指導方法の工夫の仕方がより具体的にイメージできるような記述の充実が必要と考えられる。

(2)知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科の現状及び課題
特別支援学校(知的障害)の各教科においては、児童生徒が自立し社会参加するために必要な知識や技能、態度などを身に付けることを重視し、学部ごとに障害の状態や学習上の特性などを踏まえた目標、内容が示されている。各教科の内容は、同一学年であっても、知的障害の状態や経験等が様々であり、学年別に示さず、小学部は3段階、中学部は1段階、高等部は2段階(ただし、高等部の主として専門学科において開設される教科は1段階)で示している。 個々の児童生徒の実態等に即し、各教科の内容を選択して指導しやすいようになっている。
各教科等を合わせて指導を行う場合とは、各教科、道徳、特別活動及び自立活動の全部又は一部を合わせて指導を行うことをいう。特別支援学校(知的障害)においては、この各教科等を合わせて指導を行うことが効果的であることから、従前より、日常生活の指導、遊びの指導、生活単元学習、作業学習などとして実践されてきており、それらは「各教科等を合わせた指導」と呼ばれている。法的な根拠は学校教育法施行規則第130条第2項の規定による。
「小学部では、日常生活の指導、遊びの指導及び生活単元学習を中心とし、教科別の指導等を加えている傾向がある。中学部では、生活単元学習及び作業学習を中心とし、教科別の指導等を加えている傾向がある。高等部では、作業学習を中心とし、教科別の指導等を加えている傾向がある。」(H27/8全知長調査)近年、専門教育を主とする学科(職業学科)を設置する学校も次第に増加してきている。(専門学科の設置72校(10.7%)H27/8全知長調査)また、地域や学校によって対象生徒の実態等が異なるため、必要に応じて生徒の課題等を考慮し、指導に当たっては集団を再編成し、効果的な指導を行うなどの配慮がなされている。これらの指導の形態による実践では、必ずしも指導の意図等が明確になっていなかったり、評価の客観性や多面性が担保されていなかったりするなどの課題が見られることもあることから、都道府県レベルや各学校単位の取組の中で研究テーマとして取り上げて、研修や研究を積み重ねている状況も見られる。
○課題
・連続性のある多様な学びの場においては、各教科等の学びの連続性についても整理することが重要。特に「社会に開かれた教育課程」の編成と実施が求められている状況においては、「知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科」と小・中学校の各教科の本質が異なるのか同じなのかを明らかにすることや教科等を通じて育成すべき資質・能力が異なるのか同じなのかを明らかにすることが重要である。共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築において、特に重要となる「交流及び共同学習」の推進やその内容の充実を図る観点からも、合理的配慮の提供を前提とした「知的障害者である児童生徒に対する教育を行う特別支援学校の各教科」と小・中学校の各教科の指導内容のつながりを図っていくことが重要である。その際、知的障害のある児童生徒が言語や数量、情報などを扱う基礎的な学力は生活する上で必要となることなどを勘案しながら整理することが必要である。
・その上で知的障害の特性を踏まえた学び方の違いに基づいて、どのような指導内容や指導方法の工夫が考えられるのかについて具体的に示すことが重要である。また、知的障害のある児童生徒においては、生涯にわたって学習する基盤となる力等を育む観点から、課題の発見と解決に向けた主体的・協働的学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)の在り方について、その考え方や具体的な例等を示していくことが重要である。その際、国立特別支援教育総合研究所の研究や情報収集の成果等を活用することが考えられる。
・各教科等を合わせて指導を行う場合においては、指導の意図や具体的にどのような力を身に付けようとしているかが明確でない実践も散見されることから、各学校の教育目標等を踏まえて、育成すべき資質・能力を明らかにすると同時に各教科の個別の知識・技能や思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力など育成すべき資質・能力の育成に向けた学習過程等を重視した学びを確保することの必要性について言及しておくことが重要である。また、特別支援学校と小・中学校の間では、諸条件を総合的に勘案することにより柔軟に転学ができるようになったことからも小・中学校の各教科との学びの連続性について明らかにし、各特別支援学校の基礎的環境整備を図ると同時に保護者や地域社会への説明責任を果たすことが重要となっている。

(3) キャリア教育・職業教育と進路指導の現状及び課題
特別支援学校の幼児児童生徒が自分自身を見つめ、自分と社会とのかかわりを考え、将来、様々な生き方や進路の選択可能性があることを理解するとともに、自らの意思と責任で自己 の生き方、進路を選択するような能力  や態度を育てることを意図し、学校の教育活動全体を通じ、計画的、組織的、継続的にキャリア教育を展開している。特別支援学校の進路指導は、全校の教職員の共通理解と協力的指導体制によって、学校の教育活動全体を通じて取り組まれ、進路指導が生徒の勤労観・職業観を育て一人一人のキャリア発達を促すためのキャリア教育の一環として重要な役割を果たすものであること、学ぶ意義の実感にもつながることなどを踏まえて各校において実践されている。また、個別の教育支援計画を活用しながら保護者とともに進路指導を進めるようにするとともに、地域社会や福祉、労働等の関係諸機関と連携を十分に図って取り組まれている。全特長の調査(平成26年11月実施)によれば、平成26年度特別支援学校卒業生の企業就労率は27.7%、定着率は、82.8%(平成24年度卒業生)80.5%(平成25年度卒業生)であった。
○課題
・幼稚部・小学部・中学部段階からキャリア発達を支援する教育の重要性について、教職員の意識を高めることが必要である。
・幼稚部・小学部段階からのキャリア発達支援について、カリキュラム・マネジメントと連動させながら、将来の社会的・職業的自立のみならず、それぞれのライフステージに応じた自立や社会参加を促していく観点から、学習指導要領解説等に示していくことが重要である。
・各種の技能検定や社会に開かれた教育課程の具体的展開の工夫を地域や企業等と連携・協働していっていく中で、児童生徒が学習の達成感や充実感を得ると同時に地域や企業等の意識の変革を図っていくことが重要である点について認識を更に深めていくことが重要である。

(4)個別の指導計画と個別の指導計画の現状及び課題
「個別の指導計画」については、個々の子供の多様な実態に応じた適切な指導を一層推進するため、各教科等における配慮事項なども含めた「個別の指導計画」を作成することを明確にすること、実践を踏まえた評価を行い、指導の改善に生かし、きめ細やかな指導が行われている。「個別の教育支援計画」については、家庭や、福祉、医療、保健、労働関係機関等が緊密な連携を図り、一人一人のニーズに応じた適切な支援を行うための「個別の教育支援計画」の策定やその活用を図ることを明確にすること、「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、家庭との連携を図った取組を推進している。
○課題
・個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成は確実に進んでいるものの、本人・保護者や関係諸機関との一層の連携を踏まえた作成を行い,その質の向上を図ること及び活用することの具体的なイメージを校内の教職員や関係者間で共有することについては課題がある。活用の具体について学習指導要領等に記述していくことを検討することも必要と考える。
・障害者の権利に関する条約の批准を踏まえ、合理的配慮の提供について個別の教育支援計画や個別の指導計画に記載することが望ましいとされているが、基礎的環境整備を含め、これらの新しい概念の理解は学校現場に浸透していないことが課題であり、教職員はもとより保護者や関係者への理解・啓発に努めることが必要である。
・個別の教育支援計画や個別の指導計画のPDCAサイクルで見直すこと等についてカリキュラム・マネジメントと関連付けながら学習指導要領等に盛り込むことが重要である。

(5) 学習評価及びカリキュラム・マネジメントの現状
  「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(中央教育審議会,2010)では、「特別支援学校における学習評価の考え方は、基本的に小・中・高等学校における学習評価の考え方と変わらないが、実際の学習評価に当たっては、児童生徒の障害の状態等を十分理解し、児童生徒一人一人の学習状況を一層丁寧に把握する工夫が求められている。」とされている。また、「自立活動の指導や重複障害のある児童生徒に対する指導、知的障害のある児童生徒に対する指導は、児童生徒一人一人の障害の状態等に応じて個別に設定した指導目標や指導内容に基づいて行われており、その学習状況について評価を行うことになる。」と述べられている通り、各学校等においては創意工夫がなされた学習評価の取組がなされている。特に特別支援学校(知的障害)の学習評価の実施状況については、国立特別支援教育総合研究所の調査データによると、小・中学校で実施されている「観点別学習状況の評価の4観点」を活用した学習評価が全体の約20%となっており、学校独自の観点の設定による学習評価を行っている学校が全体の約50%となっていることから、評価の観点の設定や評価の集約方法等についても工夫した取組がなされていることが推測される。一方で、これらの観点については、必ずしも「生きる力」を構成する「確かな学力」を分析的に評価する観点となっていない可能性も指摘されており、連続性のある多様な学びの場における学習評価の在り方についても、小・中学校等と同様に基本的には学力の三要素に基づいて分析的に評価する観点を設定し、「学びの深まり」の状況を多面的に捉えていくことが重要である。
更にカリキュラム・マネジメントについては、児童生徒の学習評価を基に、授業の評価や改善、単元計画や年間指導計画等を柔軟に見直していくことが重要であるが、全国特別支援学校知的障害教育校長会の情報交換資料(2015)によると教育課程の「編成」の時ほど教育課程の「改善」に関する手続やスケジュール等は各学校で明文化されていない状況にある。また、校内で教育課程を見直す組織や会議等を重層的に設置している学校ほど教育課程が改善されていると認識される割合が高くなっていることから、学習評価や学校評価等のデータに基づきながら、全教職員の参画のもと、組織的・体系的なカリキュラム・マネジメントを図り、学校教育目標の具現化に努めていくことが重要である。
○課題
・特別支援学校においても育成すべき資質・能力の三つの柱に沿って分析的に捉える観点別学習評価を軸にした評価の取組の工夫を図っていくことが課題である。取組の工夫については、国立特別支援教育総合研究所が全国特別支援学校知的障害教育校長会の加盟校を対象としたアンケート調査の集約によりまとめた工夫要因などを参考に、各学校の実態等も考慮しながら段階的に充実を図っていくことが必要である。
・上記の評価に基づいて児童生徒の学習を結果の側面から保障していくと同時に学習評価に基づいて授業改善を図る不断の取組を充実させることや各教科等における単元計画、年間計画等の柔軟な見直しを図るシステムを学校組織として体系的に構築し、カリキュラム・マネジメントを促進していくことが重要である。とりわけ合理的配慮の提供や個別の教育支援計画、個別の指導計画の作成と活用を組み込んだカリキュラム・マネジメントの構築は、特別支援教育の独自の手法であるため、その根幹となる特別支援学校の取組については、カリキュラム・マネジメントスタイルを確立することが急務である。これらの手法をセンター的機能においても発揮し、地域の小・中学校等のカリキュラム・マネジメントについて助言していくことが求められている。
・学校全体としての教育課程を評価する視点については、国立特別支援教育総合研究所が行っている研究の成果等を参考にしながら、多角的に教育課程を評価し、当該学校の教職員のみならず多様な学校関係者を含めて不断の見直しを図っていくことが必要である。

(6)センター的機能についての現状
平成18年の学校教育法の改正では、第74条に「特別支援学校においては、第72条の目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第1項に規定する児童、生徒又は幼児の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるものとする。」と規定され、特別支援学校が地域の特別支援教育のセンター的機能を果たすことが、明確に位置付けられた。具体的には、以下のとおりである。ア.小中学校等の教員への支援機能  イ.特別支援教育に関する相談・情報提供機能  ウ.障害のある幼児児童生徒への指導・支援機能  エ.福祉、医療、労働などの関係機関等との連絡・調整機能 オ.小・中学校等の教員に対する研修協力機能 カ.障害のある幼児児童生徒への施設設備等の提供機能
平成25年度の全特長の調査によれば、専任コーディネーターの指名については、専任1名が37.4%、専任2名が18.3%、専任3名が8.1%、専任を4名以上指名している学校が5.5%である。一方、成27年度の全国特別支援学校長会(知的障害)の調査によれば、全国でコーディネーターの指名は1校あたり約3人、このうち専任が0.62人、授業時数軽減が1.15人、授業軽減無しが1.20人となった。幼小中高等学校への巡回相談は約6万7千件で毎年1万件を超える伸びを示している。
○課題
・センター的機能の業務内容について学校教育法74条の意義をはじめ、インクルーシブ教育システムの中で果たすべき特別支援学校の役割や意義を教職員間で十分に理解・把握しきれていないことが課題である。
・地域の小・中学校等の支援ニーズを十分に把握しきれていないことが課題である。また、各学校間での連携には限度があることから教育委員会や校長会等を通じたニーズ等の把握や機関間連携の推進も必要である。
・教職員の世代交代が進む中、特別支援学校における指導・支援の考え方や具体的な指導の工夫等を地域の小・中学校等の指導・支援に役立てるための校内の組織体制を構築していくことが課題である。また、小・中学校等の支援ニーズ等を校内に還元し、教職員の協働的な学びにより研さんを深め、指導の専門性を向上させ、センター的機能をより一層充実させていくことが重要である。

3 特別支援学校の教育課程の充実に向けて
3‐1 教育課程の充実
(1) 障害の状態の多様化に対応した教育課程の充実
・障害のある幼児児童生徒のアクティブ・ラーニングについて、自立と社会参加につながる深い学びや主体的・協働的学びについて不断に見直しを図ることが重要である点について言及することが必要である。
・その際、言語に関する能力の育成を含め、思考力・判断力・表現力等を適切に評価する必要があることから、障害の状態等に配慮しつつも分析的な観点を定めて行う学習評価の多様性を確保していくことが重要であることについても言及することが必要である。
・幼児児童生徒の学習評価を基にした指導内容の見直しや授業改善の必要性について言及するとともに、個別の指導計画・個別の教育支援計画を作成し活用していく特別支援学校ならではのカリキュラム・マネジメントについても言及することが重要。また、特別支援学校の教育課程については、各学校の創意工夫により、弾力的な運用が可能となっていることから、各学校が根拠に基づいた編成をするためにも、様々な書式や会議、校内の規則等を設定し、組織的に取り組むことで年間指導計画等を柔軟に見直し、教育目標を具現化していくことが重要であることについて述べることが必要である。

(2) 連続性のある「多様な学びの場」における子供たちの十分な学びの充実
・交流及び共同学習の質を高める観点からも、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機にスポーツを通じて障害の種類や状態に関わらず様々な人と交流を深め、自ら「する、みる、支える」活動に取り組む機会の充実を図ることが重要である。同時に文化的な活動についても充実を図っていくことが必要である。

(3)障害のある幼児児童生徒一人一人の進路に応じたキャリア教育の充実
・幼稚部・小学部段階からのキャリア発達支援について、将来の社会的・職業的自立のみならずそれぞれのライフステージに応じた自立や社会参加を促していく観点から、学習指導要領解説等に示していくことが必要である。
・各種の技能検定等や社会に開かれた教育課程の具体的展開の工夫を地域や企業と連携していっていく中で、児童生徒が学習の達成感や充実感を得ると同時に地域や企業等に対して積極的に理解を求めることが重要な点について言及していくことが重要である。

3‐2 教育課程の充実のための条件整備
(1) 医療的ケアが必要な幼児児童生徒の教育の充実
全国の公立特別支援学校において、平成26年度現在、日常的に医療的ケアが必要な幼児・児童・生徒は7,774 名で全在籍者に対する割合は5.9%。医療的ケアが必要な幼児・児童・生徒が、延べ23,396件の医療的ケアを必要としており、一人で複数の医療的ケアを必要とする幼児児童生徒が多い状況である。全国の公立特別支援学校において、医療的ケアに対応するため配置されている看護師は1,450名。認定特定行為業務従事者として医療的ケアを行っている教員は3,448名。医療的ケア対象幼児・児童・生徒数及び看護師数については、平成18年度以降全体として増加傾向にある。看護師の常駐による教員と連携した医療的ケアの実施による成果は以下のとおりである。 ア.児童生徒の医療的な安全が確保できたこと イ.児童生徒の授業の継続性が確保(登校日数の増加)れたことウ.児童生徒等と教員の信頼関係が向上したこと エ.保護者の負担の軽減に効果があったことオ.保護者の学校への信頼の確保につながったことカ.保護者が安心して児童生徒等を学校に通学させることできるようになったことキ.教職員の安心の拡大と教育の充実に繋(つな)がったことなどが挙げられる。
医療的ケアの実施上の課題は以下のとおりである。ア.首都圏では各病院のNICU(新生児集中治療管理室)の増設により高度な医療を継続的に必要とする児童生徒が急増している。イ.人工呼吸器を装着している児童・生徒が通学生に増加しているために、必要となる医療的ケアに、一定の条件の下で研修を受けた教員等が実施できる「特定行為」外の内容が含まれる場合も多く、看護師の体制が整っていない場合には、訪問教育や保護者の付添いが常時必要となり、保護者の負担等課題がある。ウ.経管栄養等栄養関係では胃ろう、腸ろうが増加している。特に、学校給食による初期食のシリンジ注入が課題となっている都道府県が多く見られる。

(2) 学校の組織マネジメント機能の充実
学校が組織として機能するためには、校長が自ら示す学校の教育ビジョンの下、リーダーシップを発揮した学校運営が実現できるよう、学校長の裁量拡大を進めていくが重要である。一方、特別支援学校の中には、小学部、中学部、高等部と3学部を設置する学校や複数の障害教育部門を併置する学校(平成25年度212校)、教職員が100名を越す学校も少なくない。学校の組織力を向上させるには、副校長の複数配置や部門ごとに主幹教諭等の監督層及びミドルリーダー層の教員の配置などの拡充が必要である。また、校長を中心としつつ、教科等の縦割りや学年を超えて、学校全体で取り組んでいくことができるよう、学校の組織及び運営、研修の在り方についても見直しを図ることが必要である。

(3) 教員免許制度の改革による専門性の充実
中央教育審議会の教員養成部会の答申案では、教育職員免許法附則第16項の廃止を見据え、平成32年度までの間に、おおむね全ての特別支援学校教員が特別支援学校教諭免許状を保有させることを提言している。特別支援学校教諭免許状の都道府県別保有状況を見ていくと、大都市を有する都道府県の保有率が低く、今後、都道府県・政令指定都市教育委員会や学校設置者による取組の強化が期待される。
一方、ア.免許保有の確実な取り組みとともに「教員の質」の確保にも留意していくことが重要であり、イ.特別支援教員免許状が取得できる大学等を拡大するなど「教員採用選考応募者」の確保を図っていく必要があることやウ.小・中・高との交流人事が促進される人事上の仕組みを検討する必要があると考える。エ.各教科の専門性を持つ教員を如何(いか)に養成していくのか検討をしていくことが求められる。
引き続き、特別支援教育の専門性とともに、教科の専門性も併せて維持していくことが求められる。

(4) 特別支援学校(視覚、聴覚、病弱・身体虚弱)等の専門性の維持・継続と人材の確保の充実
各県ごとに教育資源が少数しか存在しない特別支援学校の視覚障害、聴覚障害、病弱・身体虚弱等における教員等の異動等による、専門性の維持・継続の困難を改善する教員人事等の施策が必要である。また、教職員の世代交代が進む中、特別支援学校における指導や・支援の考え方や具体的な指導の工夫等を地域の小・中学校等の指導・支援に役立てるための校内の組織体制を構築していくことが重要である点について学習指導要領等に言及していくことが必要である。小・中学校等の支援ニーズ等を校内に還元し、教職員の協働的な学びにより研鑽(けんさん)を深めることで、指導の専門性を向上させ、センター的機能をより一層充実させていくことが重要である点についても学習指導要領等で言及していくことが必要である。

(5) 教員養成段階における特別支援教育関係の基本的理解の充実
文科省が平成24年度に行った調査によれば、小・中学校の通常の学級に在籍し、知的発達の遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒の在籍率は6.5%(推定値)である。加えて特別支援学校、特別支援学級(小・中)、通級による指導を併せると3.33%(推定値)であり、特別支援教育が対象とすべき児童・生徒は、約10%となる。対象の子供の量的拡大を踏まえ、特別支援教育の基礎・基本は、すべての教員が備えておくべき中身である。「特別支援教育の推進など近年の教育改革の方向に合わせた教職課程の改善を図ることが重要」であることを踏まえて、教育課程の改善を図る際には、すべての教職課程履修者が「特別支援教育の基礎理論に関する科目」を授業科目として履修するようにすべきだと考える。


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(初等中等教育局特別支援教育課)