教育課程企画特別部会 論点整理(抜粋)

2 新しい学習指導要領等が目指す姿
 (1) 新しい学習指導要領等の在り方について

 ○ 学習指導要領等は、学校教育法に基づき国が定める教育課程の基準であり、教育の目標や指導すべき内容等を体系的に示している。各学校は、学習指導要領等に基づき、その記述の意味や解釈などの詳細について説明した教科等別の解説を踏まえ、教育課程を編成し、年間指導計画等や授業等ごとの学習指導案等を作成し、実施するものと定められている。

 ○ 各学校が今後、教育課程を通じて子供たちにどのような力を育むのかという教育目標を明確にし、それを広く社会と共有・連携していけるようにするためには、教育課程の基準となる学習指導要領等が、「社会に開かれた教育課程」を実現するという理念のもと、学習指導要領等に基づく指導を通じて子供たちが何を身に付けるのかを明確に示していく必要がある。

 ○ そのためには、指導すべき個別の内容事項の検討に入る前に、まずは学習する子供の視点に立ち、教育課程全体や各教科等の学びを通じて「何ができるようになるのか」という観点から、育成すべき資質・能力を整理する必要がある。その上で、整理された資質・能力を育成するために「何を学ぶのか」という、必要な指導内容等を検討し、その内容を「どのように学ぶのか」という、子供たちの具体的な学びの姿を考えながら構成していく必要がある。

(学習プロセス等の重要性を踏まえた検討)
 ○ こうした検討の方向性を底支えするのは、「学ぶとはどのようなことか」「知識とは何か」といった、「学び」や「知識」等に関する科学的な知見の蓄積である。

 ○ 学びを通じた子供たちの真の理解、深い理解を促すためには、主題に対する興味を喚起して学習への動機付けを行い、目の前の問題に対しては、これまでに獲得した知識や技能だけでは必ずしも十分ではないという問題意識を生じさせ、必要となる知識や技能を獲得し、さらに試行錯誤しながら問題の解決に向けた学習活動を行い、その上で自らの学習活動を振り返って次の学びにつなげるという、深い学習のプロセスが重要である。また、その過程で、対話を通じて他者の考え方を吟味し取り込み、自分の考え方の適用範囲を広げることを通じて、人間性を豊かなものへと育むことが極めて重要である。

 ○ また、学習のプロセスにおいて、人類の知的活動を通して蓄積され精査されてきた多様な思考の在り方を学び、その枠組みに触れることは、問題発見・解決の手法や主体的に考える力を身に付けるために有効であり、その点で教科間の区別を超えて重要である。

 ○ 身に付けるべき知識に関しても、個別の事実に関する知識と、社会の中で汎用的に使うことのできる概念等に関する知識とに構造化されるという視点が重要である。個々の事実に関する知識を習得することだけが学習の最終的な目的ではなく、新たに獲得した知識が既存の知識と関連付けられたり組み合わされたりしていく過程で、様々な場面で活用される基本的な概念等として体系化されながら身に付いていくということが重要である。技能についても同様に、獲得した個別の技能が関連付けられ、様々な場面で活用される複雑な方法として身に付き熟達していくということが重要であり、こうした視点に立てば、長期的な視野で学習を組み立てていくことが極めて重要となる。

 ○ こうした「学び」や「知識」等に関する知見は、芸術やスポーツ等の分野における学びについても当てはまるものであり、これらの分野における学習のプロセスやそれを通じて身に付く力の在り方も含めて、教育課程全体の中で構造化していくことが必要である。

(人生を主体的に切り拓(ひら)くための学び)
 ○ 子供たち一人一人は、多様な可能性を持った存在であり、多様な教育ニーズを持っている。成熟社会において新たな価値を創造していくためには、一人一人が互いの異なる背景を尊重し、それぞれが多様な経験を重ねながら、様々な得意分野の能力を伸ばしていくことが、これまで以上に強く求められる。一方で、苦手な分野を克服しながら、社会で生きていくために必要となる力をバランスよく身に付けていくことも重要である。

 ○ また、子供たちに社会や職業で必要となる資質・能力を育むためには、学校と社会との接続を意識し、一人一人の社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育み、キャリア発達を促す「キャリア教育」の視点も重要である。学校教育に「外の風」、すなわち、変化する社会の動きを取り込み、世の中と結び付いた授業等を通じて子供たちにこれからの人生を前向きに考えさせることが、主体的な学びの鍵となる。

 ○ これらの視点を重視しながら、未来に向かって成長しようとしている子供たちが、学びに関して持っている潜在的な力を、教育を通じて洗練させ、教員自らもその力を発揮し、教室や社会で共に生き生きと活躍できるようにするために、学習指導要領等の在り方を検討していかなければならない。


(2) 育成すべき資質・能力について

 ア 育成すべき資質・能力についての基本的な考え方
 
 ○ 学習指導要領等がどのような資質・能力の育成を目指すのかについては、教育法令が定める教育の目的・目標等を踏まえて検討する必要がある。教育基本法に定める教育の目的を踏まえれば、育成すべき資質・能力の上位には、常に個人一人一人の「人格の完成」と、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を備えた心身ともに健康な国民の育成があるべきである。

(現代的な課題)
 ○ 教育基本法が目指すこうした教育の目的を踏まえつつ、社会の質的変化等を踏まえた現代的な課題に即して、これからの時代に求められる人間の在り方を描くとすれば、以下のような在り方などが考えられる。
  ・社会的・職業的に自立した人間として、郷土や我が国が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野と深い知識を持ち、理想を実現しようとする高い志や意欲を持って、個性や能力を生かしながら、社会の激しい変化の中でも何が重要かを主体的に判断できる人間であること。
    ・他者に対して自分の考え等を根拠とともに明確に説明しながら、対話や議論を通じて多様な相手の考えを理解したり自分の考え方を広げたりし、多様な人々と協働していくことができる人間であること。
    ・社会の中で自ら問いを立て、解決方法を探索して計画を実行し、問題を解決に導き新たな価値を創造していくとともに新たな問題の発見・解決につなげていくことのできる人間であること。

 ○ 人間としてのこうした在り方を、教育課程の在り方に展開させるには、必要とされる資質・能力の要素についてその構造を整理しておく必要がある。

 ○ この点について、海外の事例や、カリキュラムに関する先行研究等に関する分析によれば、育成すべき資質・能力の要素が、知識に関するもの、スキルに関するもの、情意(人間性など)に関するものの三つに大きく分類されている。
 上記の三要素を、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)に照らし合わせると、これらの考え方は大きく共通するものであることがわかる。

(資質・能力の要素)
 ○ これら三要素を議論の出発点としながら、学習する子供の視点に立ち、育成すべき資質・能力を以下のような三つの柱(以下「三つの柱」という。)で整理することが考えられる。教育課程には、発達に応じて、これら三つをそれぞれバランスよくふくらませながら、子供たちが大きく成長していけるようにする役割が期待されており、各教科等の文脈の中で身に付けていく力と、教科横断的に身に付けていく力とを相互に関連付けながら育成していく必要がある。
    (ア)「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
        各教科等に関する個別の知識や技能などであり、身体的技能や芸術表現のための技能等も含む。基礎的・基本的な知識・技能を着実に獲得しながら、既存の知識・技能と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、知識・技能の定着を図るとともに、社会の様々な場面で活用できる知識・技能として体系化しながら身に付けていくことが重要である。
    (イ)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
                問題を発見し、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくこと(問題発見・解決)や、情報を他者と共有しながら、対話や議論を通じて互いの多様な考え方の共通点や相違点を理解し、相手の考えに共感したり多様な考えを統合したりして、協力しながら問題を解決していくこと(協働的問題解決)のために必要な思考力・判断力・表現力等である。
 特に、問題発見・解決のプロセスの中で、以下のような思考・判断・表現を行うことができることが重要である。
      ・問題発見・解決に必要な情報を収集・蓄積するとともに、既存の知識に加え、必要となる新たな知識・技能を獲得し、知識・技能を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決していくために必要となる思考。
      ・必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思決定。
      ・伝える相手や状況に応じた表現。
    (ウ)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
      上記の(ア)及び(イ)の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度等に関わるものが含まれる。
      ・主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考のプロセス等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。
      ・多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。

 ○ こうした資質・能力については、学習指導要領等を踏まえつつ、各学校が編成する教育課程の中で、各学校の教育目標とともに、育成する資質・能力のより具体的な姿を明らかにしていくことが重要である。その際、子供一人一人の個性に応じた資質・能力をどのように高めていくかという視点も重要になる。

 イ 特にこれからの時代に求められる資質・能力

 ○ 将来の予測が困難な複雑で変化の激しい社会や、グローバル化が進展する社会に、どのように向き合い、どのような資質・能力を育成していくべきか。また、一人一人が幸福な人生を生きるためには、どのような力を育んでいくべきか。

(変化の中に生きる社会的存在として)
 ○ 複雑で変化の激しい社会の中では、固有の組織のこれまでの在り方を前提としてどのように生きるかだけではなく、様々な情報や出来事を受け止め、主体的に判断しながら、自分を社会の中でどのように位置付け、社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、課題を解決していくための力が必要となる。主権を有し、今後の我が国の在り方に責任を有する国民の一人として、また、多様な個性・能力を生かして活躍する自立した人間として、こうした力を身に付け、適切な判断・意思決定や公正な世論の形成、政治参加や社会参画、一層多様性が高まる社会における自立と共生に向けた行動を取っていくことが求められる。

 ○ こうした観点から、平和で民主的な国家及び社会の形成者として求められる力をはじめ、生産や消費などの経済的主体等として求められる力や、安全な生活や社会づくりに必要な資質・能力 を育んでいくことや、急速に情報化が進展する社会の中で、情報や情報手段を主体的に選択し活用していくために必要な情報活用能力 、物事を多角的・多面的に吟味し見定めていく力(いわゆる「クリティカル・シンキング」)、統計的な分析に基づき判断する力、思考するために必要な知識やスキルなどを、各学校段階を通じて体系的に育んでいくことの重要性は高まっていると考えられる。あわせて、職業に従事するために必要な知識・技能、能力や態度の獲得も求められており、社会的要請を踏まえた職業教育の充実も重要である。

(3) 育成すべき資質・能力と、学習指導要領等の構造化の方向性について

 ア 学習指導要領等の構造化の在り方

(教育課程の総体的構造の可視化)
 ○ このように、思考力・判断力・表現力等や情意・態度等は、各教科等の文脈の中で指導される内容事項と関連付けられながら育まれていく。ただし、各教科等で育まれた力を、当該教科における文脈以外の、実社会の様々な場面で活用できる汎用的な能力に更に育てていくためには、総体的観点からの教育課程の構造上の工夫が必要になってくる。まさにその工夫が、各教科等間の内容事項についての相互の関連付けや、教科横断的な学びを行う「総合的な学習の時間」や社会参画につながる取組などを行う「特別活動」、高等学校の専門学科における「課題研究」の設定などに当たる。

 ○ このような資質・能力と各教科等との関係を踏まえれば、学習指導要領の全体構造を検討するに当たっては、教育課程全体でどのような資質・能力を育成していくのかという観点から、各教科等の在り方や、各教科等において育成する資質・能力を明確化し、この力はこの教科等においてこそ身に付くのだといった、各教科等を学ぶ本質的な意義を捉え直していくことが重要である。そして、各教科等で育成される資質・能力の間の関連付けや内容の体系化を図り、資質・能力の全体像を整理していくことが同じく重要であり、教育課程の全体構造と各教科等を往還的に整理していく必要がある 。

 ○ あわせて、教科等間の横のつながりとともに、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」や「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点から、初等中等教育の出口のところで身に付けておくべき力を明確にしながら、幼・小・中・高の教育を、縦のつながりの見通しを持って系統的に組織していくことも重要である。つまり、各教科等で学校や学年段階に応じて学ぶことを単に積み上げるのではなく、義務教育や高等学校教育を終える段階で身に付けておくべき力を踏まえつつ、各学校・学年段階で学ぶべき内容を見直すなど、発達の段階に応じた縦のつながりと、各教科等の横のつながりを行き来しながら、学習指導要領の全体像を構築していくことが必要である。

5 各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性
 (2) 各教科・科目等の内容の見直し

 ア 社会、地理歴史、公民

 ○ 社会科、地理歴史科、公民科においては、社会的事象に関心を持って多面的・多角的に考察し、公正に判断する能力と態度を養い、社会的な見方や考え方を成長させること等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。

 ○ 一方で、主体的に社会の形成に参画しようとする態度等の育成や、資料から読み取った情報を基にして社会的事象について考察し表現すること等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれたいろいろな人との関わり等の基礎や、生活科をはじめとする小学校低学年における学習を通じて身に付けた資質・能力の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、社会との関わりを意識した課題解決的な学習活動の充実等を図っていくことが求められる。

 ○ 特に高等学校教育においては、自分の参加により社会をよりよく変えられると考えている若者の割合が国際的に見ても低いこと、時代の変化に耐えてきた先哲の考え方を習得し、それを手掛かりとして自己の生き方や考え方等を練磨することに課題があること、近現代に関する学習の定着状況が低い傾向にあること、課題解決的な学習を取り入れた授業が十分に行われていないこと等が指摘されているところである。

 ○ また、2(2)イに示した「特にこれからの時代に求められる資質・能力」を踏まえれば、国家及び社会の形成者として必要な知識や思考力等を基盤として選択・判断等を行い、課題を解決していくために必要な力や、自国の動向とグローバルな動向を横断的・相互的に捉えて現代的な諸課題を歴史的に考察する力、持続可能な社会づくりの観点から地球規模の諸課題や地域課題を解決していく力を、全ての高校生に共通に育んでいくことが求められる。

 ○ こうした課題等を踏まえ、地理歴史科においては、「世界史」の必修を見直し、共通必履修科目として、我が国の伝統と向かい合いながら、自国のこととグローバルなことが影響し合ったりつながったりする歴史の諸相を、近現代を中心に学ぶ科目「歴史総合(仮称)」と、持続可能な社会づくりに必要な地理的な見方や考え方を育む科目「地理総合(仮称)」の設置を検討することが求められる。

 ○ また、公民科は、様々な課題を捉え考察する基となる概念・理論や先哲の多様な思想を学び、それを通じて多様な文化に触れ、グローバルな社会の中で、自らが考え、選択・判断する力を鍛える教科としての意義を持つ。そうした公民科における共通必履修科目として、家庭科や情報科をはじめとする関係教科・科目等とも連携しながら、主体的な社会参画に必要な力を、人間としての在り方生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目「公共(仮称)」の設置を検討することが求められる。なお、「公共(仮称)」については、社会的・職業的な自立に向けて必要な力を育むキャリア教育の中核となる時間として位置付けることを検討する。
   この際、学校教育活動全体の中でのインターンシップの在り方や位置付け等についても、併せて検討することが求められる。

 ○ なお、高等学校におけるこうした新科目の設置に当たっては、教科書を含めて学校における指導の中で扱う用語の在り方についても念頭に置いた検討が求められる。また、学校段階を通じた学習の充実の観点から、小・中学校社会科との接続について、例えば次のような点を重視して、その具体的な在り方を更に検討することが求められる。
 ・ 小学校の社会科については、社会的な見方や考え方の育成を一層重視するとともに、世界の国々との関わりや我が国の政治の働きへの関心を高める学習、社会に見られる課題を把握して社会の発展を考える学習を充実すること等が考えられる。
 ・ 中学校の地理的分野については、地理的技能の育成を一層重視するとともに、持続可能な社会づくりの観点から様々な課題を考察させること等、歴史的分野については、グローバル化に対応する観点から世界の歴史の扱いを充実させること等、公民的分野については、社会参画への手掛かりを得させるために、身に付けた概念を現実の社会的事象と関連付けて理解させること等が考えられる。

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課教育課程総括係

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線2073)