教育課程部会 高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム(第3回) 議事録

1.日時

平成28年2月16日(火曜日)13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省3階3F1特別会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 高等学校の地理歴史科及び公民科の改善充実について
  2. その他

4.議事録

【田中主査】  ほぼ時間となりましたので,また,本日御出席御予定の方,一部の方,川上先生遅れていらっしゃいますけれども,1時間遅れていらっしゃるということで,ほぼ現時点では皆さんおそろいになっていますので,始めさせていただきます。高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム(第3回)でございます。よろしくお願いいたします。
本日は,お忙しいところお集まりいただき,誠にありがとうございます。さすがにお忙しいせいか,若干,本日は御欠席の方も多くなっておりますが,最初に配付資料の確認をさせていただきます。大内教育官の方から御説明いただければと思います。よろしくお願いします。

【大内学校教育官】  はい,失礼いたします。それでは,配付資料の確認をさせていただきます。本日は,議事次第に記載しておりますとおり,資料1から資料11,参考資料につきまして1,2の二つ,その他机上に参考となる資料を配付させていただいております。不足等ございましたら事務局にお申し付けください。
なお,机上にタブレット端末の方を用意させていただいております。関連する資料をデータで入れておりますので,詳細につきましては2枚目の目次の方を御覧いただければと思います。
なお,本日,この特別チームに初めて参加していただきます若江眞紀委員でございます。御紹介させていただきます。

【若江委員】  初めまして。株式会社キャリアリンクの若江と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【大内学校教育官】  以上でございます。

【田中主査】  ありがとうございました。
それでは,これより議事に入らせていただきます。
本日は,報道関係者より会議の撮影及び録音の申出がありまして,これを許可しておりますので,御承知おきください。特にカメラはないようですけれども,録音はさせていただいております。
さて,本日は,高等学校の地理歴史科及び公民科の改善充実についての意見交換を引き続き行わせていただきますが,御議論いただきます事項の多さ,また内容の深さを考えまして,本日の会議につきましては終了時刻を30分延長させていただきます。午後3時30分までということで開かせていただきます。よろしくお願いいたします。
また,議事の流れといたしましては,事務局から資料の御説明をまず頂きながら,御議論を進めさせていただければと思います。
では,まず,本日の中心的な議題になるところは,「総合科目」の次に来ます地歴,また公民の上の科目,旧で言えばB科目になるような部分ですけれども,その改訂の方向性についても踏み込んでいただきたいんですが,もちろん今まで御議論いただきました総合についても触れることが当然あるかと思います。これに先立ちまして,事務局の方から社会・地理歴史・公民ワーキンググループにおけるこれまでの検討状況について御紹介いただければと思いますので,よろしくお願いいたします。

【大内学校教育官】  はい,失礼いたします。
それでは,お手元に配付資料4,それから3の方を御用意いただければと思います。
まず初めに配付資料4でございますけれども,本特別チームの検討と並行いたしまして,この中央教育審議会の下に小・中・高等学校に関わる社会科・地理歴史科・公民科に関わる議論をしていただきますワーキンググループというのを設置させていただいております。この特別チームでの御意見を頂きながらワーキンググループで具体化していくというような作業をこれまで経てきてございますが,実際に,特別チーム,前回第2回が12月21日に開催されましたが,その後,資料4にございますとおり,第2回から第5回まで社会科・地歴・公民ワーキンググループの方を開催させていただいております。こちらに関わる事項のうち,特に小・中学校社会科,それから小・中・高等学校を通じました資質・能力の育成の観点からの御議論を頂いている資料につきまして紹介をさせていただきたいというふうに思います。
それでは,資料4の中で,まず初めに2ページ目をお開きいただければと思います。こちらは,1月18日に開催されましたワーキンググループの第2回の配付資料の一つでございまして,今回,特に教育課程の基準の改善に当たりまして,思考力,判断力,表現力等の資質・能力の明確化という観点からワーキンググループにおいて御議論いただいた資料でございます。具体的には,マル1からマル4の力ということで,思考力,判断力,表現力を右側の方で色分けがされておりますけれども,小学校,中学校,高等学校段階のグレードに少し分けて整理をしまして,それぞれ,マル1としては考察する力ということで思考力,マル2といたしまして,課題や問題を把握し,その解決に向けて構想する力ということで判断をしていく力,マル3,マル4につきまして,説明する力あるいは議論する力ということで表現する力,表現力というような観点から,思考力,判断力,表現力を少し分けて御議論いただいてまいったところでございます。
具体的には,小・中・高等学校の段階で,例えばマル1でございますけれども,小学校段階でありますと,中点で示されている下から二つ目のところになりますが,「社会的事象の見方や考え方を用いて,社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多角的に考察」する,これが中学校になりますと「多面的・多角的に考察」する,更に高等学校になりますと,その上になりますが,「概念等を活用して多面的・多角的に考察」していくというような形での育成すべき力の明確化ということについて議論いただいておったところでございます。
また,一番下の欄でございますけれども,参考として,学習の見通しを持ち追究の結果を評価する力ということで,いわゆるメタ認知的な能力,こういったものも育成すべき力として検討すべきではないか,大事にしていくべきではないかというようなことで御意見を頂戴いたしたところでございます。
また,ちょっと飛びますが,下の方のページ数で申し上げますと22ページをお開きいただければと思います。22ページ以降の資料につきましては,2月8日に開催されました第5回のワーキンググループでの配付資料というふうになってございます。22ページの資料につきましては,今申し上げました思考力,判断力,表現力の育成に関わりまして,実際に社会科として固有の見方や考え方,教科の本質に照らして育てるべき資質・能力を見ていく際の見方や考え方というものがあるのではないかという観点から整理をされている資料でございます。
具体的には,22ページの中央部分でございますけれども,「社会的事象の見方や考え方」,オレンジ色で書かれているところなんですが,括弧書きで「追究の視点や方法」というふうに示されております。これを,この五角形のオレンジ色の中の一番下の欄に「社会的事象の見方や考え方の基礎」ということで,これが小学校段階,それが中学校の地理的分野,歴史的分野あるいは公民的分野につながる形で社会的な事象の地理的な見方や考え方,同じく歴史的な見方や考え方,公民的な分野においては現代社会を捉える見方や考え方というような形で整理し,これらの見方や考え方の育成と併せて,先ほど申し上げましたオレンジ色の五角形の外側にあります「考察する力」,「構想する力」,「説明する力」,「議論する力」,こういったものが成長していくのではないかというような形での御議論を頂戴したところでございます。
見方と力の関係については,もう1枚おめくりいただきまして次の23ページになります。資料の方,大変細かくて申し訳ございません。こちらの23ページの資料が,先ほどの見方・考え方と力の育成に関わっての補助資料ということで配付をさせていただいてございます。中央上の部分に※でちょっと小さくて見にくくて申し訳ありませんが,「社会的事象の見方や考え方は,社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連等を考察する際の『追究の視点や方法』」というふうにここでは整理をさせていただきまして,実際に中央部分の一番上の横軸のところの中央に当たりますけれども,「社会科における思考力,判断力」を育成していく際に,そのボックスの枠の中に,例えば小学校でありますと「社会的事象の見方や考え方の基礎」ということで,位置や空間的な広がり,あるいは時期や時間の経過,事象相互,立場相互の関係,こういったものに着目をしながら,社会的事象の様子や仕組みというものを見いだして,比較・分類したり総合したりする,あるいは国民生活(人々の生活)と関連付けて,そのボックスの外にありますけれども,社会的事象の特色や意味を多角的に考察するというような力,あるいは社会に見られる課題について,自分たちにできることを選択・判断する力というような思考力,判断力につながっていくのではないかというような形で,見方・考え方というものを整理しております。
この表の一番左側のところになりますけれども,「考えられる追究の視点(例)」ということで,小学校,中学校の各分野におきまして考えられる視点の例というのをお示しさせていただくと共に,その右側になりますけれども,「追究の視点を生かした『問い』の例」という形で整理をさせていただきました。具体的には,考えられる追究の視点の例として,小学校段階でありますけれども,位置や空間的な広がりの視点の中で,例えばですけれども,分布に着目し,それが問いとして,どのように広がっているのだろう,なぜこの場所に集まっているのだろうというような問い掛けをすることにより,先ほどの見方・考え方を通じまして,一番右側の欄になりますけれども,「習得する知識,概念の例」ということで,組立工場を中心に部品工場が集まって,そういった工業について盛んな地域を形成しているというような深い理解でありますとか,駅の開発,駅の周囲が交通の結節点なので,人が多いために商業施設が集まるというような考え方を捉えていくというような流れで,社会科における見方・考え方,それから,それに関わっての問いに着目をし,そういう問い掛けを通じて習得する知識,概念あるいは深い理解ということに導いていくというような形での資料を整理させていただきました。
こちらについて御意見を種々賜っておりまして,例えばですけれども,こういう方向性はいいんだけれども,これらが繰り返して継続的に考えを深めていく,あるいは続けていくような示し方の工夫があってもいいのではないかというような御意見でありますとか,あるいは,「追究の視点を生かした『問い』」のところでございますけれども,分析的な問いを立てることの重要性ということについて御意見,御理解を賜ったというようなところでございます。
それから,24ページの方になりますけれども,こうした思考力,判断力,表現力の育成に関わって,見方・考え方で整理をしてきたところでございますが,これら以外にも,社会科で育成すべき資質・能力といたしまして,24ページにお示しさせていただいているような個別の知識や技能に関わること,また,情意や態度等に関わること,こういったことも併せて第5回のワーキンググループにおいて整理し,御意見を頂戴してまいりました。先ほどの思考力,判断力,表現力等に関わる部分については,これまでの議論を踏まえて,小学校,中学校の分野ごとに真ん中の欄で整理をさせていただきました。また,個別の知識や技能,情意・態度に関わるものにつきましては,現行学習指導要領での記載を参考にしながら,現在考えられる点,あるいは,今後,論点整理を含めて充実を図っていくような点ということについて整理をさせていただいているということでございます。
特に小学校社会科の中で「情意・態度等に関わる」欄での赤字で記載の箇所,それから中学校の歴史的分野の「個別の知識や技能」の欄で赤色で書かれている内容,それから公民的分野の欄の「情意・態度等に関わる」点で赤字で書かれている箇所,これらの箇所については論点整理から見て今次の改訂におきまして検討すべき事項ということで,例えば小学校の社会科でありましたら,世界の国々との関わりや我が国の政治の働きへの関心,社会を考えようとする態度等の検討というような点が,情意・態度の欄には入っておりますが,それに関わって個別の知識や技能ではどうするか,あるいは思考力,判断力,表現力等をどうしていくかというような御議論を今後頂くという形で進めてまいりたいと考えております。
同様に,中学校の社会科につきましては,歴史的分野の中で世界の歴史の扱いを充実させること等についての検討,あるいは公民的分野につきましては,政治参加も含め社会に参画しようとする関心,態度等についての検討,こういったことについて引き続き検討していくという状況でございます。
次に25ページでございますけれども,こうした思考力,判断力,表現力,見方・考え方,それから育成すべき資質・能力,個別の知識や技能,情意・態度等も含めてですが,整理をさせていただいた中で,今次の改訂でもう一つ議論としてございます課題をしっかり追究していくというような学習過程についての御意見,御議論というのも頂戴してございます。
具体的には「社会科における学習プロセスの例」ということでお示しさせていただいておりまして,大きくは,課題の把握,課題の追究,課題解決,新たな課題の発見というような形での流れになっておりまして,小・中学校それぞれ主な学習例というのを示させていただいております。また,能力等の育成と主な評価場面ということで,先ほど整理をさせていただきました知識・理解,技能,思考力・判断力・表現力あるいは主体的に学習に取り組む態度というような事柄につきまして,こうした学習プロセスの中でどういった形で育んでいくか,あるいはどういった観点から評価するかというような点について御意見,御議論を頂戴したところでございます。
御意見,御議論いただいた点につきましては,資料3の方でございますけれども,1ページから15ページまでが小・中学校社会科あるいは資質・能力の育成に関わることにつきましてのこれまでの御意見,御議論でございます。後ほど御参考になさっていただければと思います。
以上でございます。

【田中主査】  ありがとうございました。ただいまのところで,WGの方での小・中・高等学校を通じて育成するべき資質・能力の観点からということで御議論の御報告を頂きました。
こちらのWGは土井先生に座長を務めていただいておりますので,適時,必要に応じてまた土井先生の御意見も伺えればと思いますが,よろしければ先に進んで,また後で御意見を伺えればと思います。
それでは,本日の議題となります御議論の方に移らせていただきます。
初めに,歴史科目の改訂の方向性として考えられる構成について意見交換をさせていただければと思います。
まず,事務局からまた資料の御説明を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。

【梶山主任視学官】  はい。私の方から,まずは歴史に関してワーキンググループでの検討,それから,本日,皆様方に御検討いただきたい事項につきまして御説明させていただければと思っております。
まず,資料2を御覧ください。資料2の1ページ目をはぐっていただきまして,横の図を見ていただければと思っております。こちらは,前回の本特別チームにおいて御議論いただいた資料でございます。「歴史総合(仮称)」というものの在り方につきまして,真ん中にあります近代化,大衆化,グローバル化,この三つの近現代における歴史の転換というものに着目いたしまして,日本と世界のつながりを意識し,比較,因果,それから相互作用といった考察の手立てを用いて歴史を考察していくこと,それからまた,具体的な学習のプロセスといたしまして,学習課題を設定し,資料を活用・考察し,歴史を捉える概念を理解していくというようなところ,こういうところにつきまして御議論いただいたところでございます。
ワーキンググループにおきましては,この特別チームの議論を踏まえて御検討いただいたわけでございますが,その資料の方は資料4を御覧いただければと思います。
資料4のまず3ページ目を御覧ください。ワーキンググループにおきましては,「歴史総合(仮称)」というものに関しての検討を行ったわけでございますが,その前に先立ちまして,本日御参加の神戸大学附属中等教育学校の高木委員が所属していらっしゃる学校の取組例というのを紹介いただいたところでございます。神戸大学附属学校におきましては,平成25年度から28年度までの予定で,グローバル人材の育成に向けて,地理歴史科を再編して地理基礎,それから「歴史総合(仮称)」というものを設置し,その学習内容と方法について研究評価というのを行われていらっしゃいます。その中でも歴史基礎というものが世界史と日本史の融合的な学習として単元全体で概括する主題学習というものを実施し,歴史の見方や考え方の育成を図られているという御報告を頂いたところでございます。
3ページを御覧いただければと思います。こちらは歴史基礎の単元構成図というところで,(1),(2)という内容につきまして,それぞれア,イ,ウという内容に関して学習されていらっしゃるわけでございますが,例えば(1)のイというところを御覧いただければと思いますが,「近代国家の成立として,国民国家はいつ誕生し,どのような特色を持ち,影響を与えたのだろうか」と,こういう問いをイというまとまりの中で基本的な問いとして位置付けて考察されている学習が行われています。具体的な学習のプロセスとして,右のところでマル1から調査までというような形で行われていらっしゃるようでございますが,「国民国家とは」というところで,これまでの学習を踏まえた歴史的な事象の理解の確認ということを行った上で,マル2,マル3のような具体的な事象についてその状況というものを説明するということ。それから,中間の段階のマル4のところで「対立か協調か?」というところでございますが,具体的には労働者と資本家といったことの点について当時の国民の捉え方というものを考えさせるというようなところ。それから,マル5,マル6,マル7というところで具体的な内容を取り上げて,その中でも問いを設定し,考えさせていくということ。それから最後に「調査」とありますが,単元のまとめとして,国民国家とはどのようなものかということについて生徒自身が選択した事例というものを調査し,共有する過程を通じて追究する学習を行っていると。このようなイメージというものが考えられるのではないかというところで御紹介いただいたところでございます。
こういうことを踏まえまして,5ページを御覧いただければと思いますが,先ほどの特別チームにおける御議論というものを踏まえて,構成の方向性ということのたたき台案というものを御議論いただいているところでございます。具体的に言いますと,育成すべき資質や能力というところで,歴史を考察する手立てを用いて,現代の諸課題の歴史的背景を追究するような力であったり,諸資料を適切に活用する技能,それから国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚とか資質,このようなところを育んでいくのであろうと。その際,これは繰り返しになりますが,歴史を考察する手立てとして,比較,因果,相互作用というものを用いて,多面的・多角的に吟味していくということ。それから,資料に基づいて解釈していくということ。こういうところの手立てを用いてやっていくというようなことというものを御議論いただいております。
下の構成イメージというところ,特に内容についてどのように考えていくかという点でございますが,近代化,大衆化,グローバル化という歴史の転換におきまして,現代の諸課題であります,例えばここに例示になっておりますが,経済活動と生活であったり,様々な課題というものに対応し,つながる歴史的事象というものを考えて,その際,例えば次のページ,6ページを御覧いただければと思いますが,下のところに,現在,世界史と日本史の学習指導要領上,記載がされている主な学習題材があるわけでございますが,このような題材というものも取り上げて,日本史・世界史というものに共通するようなところを載せているところでございますが,こういうところをこの中で整理して扱っていってはどうかと,このような御議論を頂いていたところでございます。ただ,こちらにつきましては,この表自体がどちらかというと,例えば工業化と政治変動といった点ということについて,先ほど神戸大学のお話をさせていただきましたが,その問いというような形,例えば日本と世界はどのように近代化を進めていったかと,このようなことの方が分かりやすいのではないかというようなところでまとめやすいのではないかという御議論も頂いたところでございます。
そのため,恐縮でございますが,資料6を御覧いただければと思います。こちらは,ワーキンググループで議論された検討というものを踏まえて,次回のワーキンググループで御検討いただき,また,本日も御意見を頂ければと思いますが,内容について構成をどうして考えていくかというところを新たに作り直した資料でございます。
上の二重線にあるところ,これはちょっと繰り返しになって恐縮でございますが,現代の社会に見られる諸課題の起こりや推移に関わる事項について,近現代の歴史の大きな転換に関わる事項を中心に,自国のこととグローバルなことが影響し合ったりつながったりする歴史の諸相に着目して考えていくこと。その際,基軸となる問いやそれに基づく「具体的な問い」というものを設定し,その追究を通じて,歴史の転換において基軸となる問い同士の関係性や,焦点となる,ここが非常に重要なんだというようなところの問いというものにある程度濃淡というものがあることにを留意して,先ほどの繰り返しになりますが,諸資料を適切に活用しながら,歴史を考察する手立てを用いて追究し,「歴史の学び方」を身に付けること。このような整理の仕方ではどうかというところをたたき台としていただいたところでございます。
近代化,大衆化,グローバル化というところは,波線にありますように,それぞれ重なり合っている部分があるということを表現しているところでございますが,そちらにつきまして,上の経済に関する諸課題でありましたり,政治に関する諸課題でありましたり,国際社会に関する諸課題,社会・文化に関する諸課題,このような現代の諸課題というものの起こりであったり推移に関して非常に大きな影響があるところが,それぞれ近代化,大衆化,グローバル化というところにあるのであろうということ。それについて,近代化ということであれば,横の軸で考えていくということ,これが非常に重要なのではないだろうかというところ。それから,例えば近代化の経済に関する諸課題ということに関して言えば,工業化というのは非常に大きなところでございますが,工業化というものが世界の情勢にどのような影響を及ぼしたかというものが非常に焦点となっていくのではないかと。一方,例えば,その隣にあります政治上の革命と経済や社会の変化というものに関しては,焦点化という意味では徐々に減っていくのではないかと。このようなところで全体を整理して,「歴史総合(仮称)」における構成を考えていってはどうかというところで作成させていただいたものでございます。こういうことに関しまして,諸課題というものはこれだけにとらわれるものではないと思っておりますし,この内容というものをどのように考えていけばいいかということについて御検討いただくものであり,ワーキングの方でも御検討いただきたいと考えているところでございます。
「歴史総合(仮称)」に関しては今申し上げたとおりでございます。
それから,資料7を御覧いただければと思っております。本日御検討をお願いしたいというところで,特に「歴史総合(仮称)」以外について御検討いただきたいところでございます。「歴史総合(仮称)」につきましては,全ての生徒が履修すべき必履修科目として設定する方向で御検討いただいているところでございますが,この「歴史総合(仮称)」を基礎に,歴史に関するより深い考察を行う選択科目の在り方についても御検討いただきたいと思っております。その資料がこの資料7でございます。
一番上の「歴史総合(仮称)」に関しては,繰り返しになって恐縮でございますが,マルにありますように,現代の諸課題の背景にある歴史を,グローバル化につながる近現代における歴史の転換に着目して追究すると共に,日本及び世界の歴史の考察に関わる概念を理解するということ。その際,二重マルにありますように,単元の基軸となる本質的で大きな問いを設け,諸資料を適切に活用しながら,歴史を考察する手立てを用いて追究し,「歴史の学び方」を身に付けると,こういう科目になっていくと考えております。
この矢印の赤のところを御覧いただければと思いますが,この「歴史総合(仮称)」で習得した歴史の学び方を活用いたしまして,より幅広い考察を行うというようなところで,世界史,日本史という新選択科目というものが考えられるのではないかと考えております。例えば世界史の方でございますが,この青の下のところを御覧いただければと思いますが,諸地域,それから世界の歴史の大きな枠組みと展開を広く深く考察していくようなものとして新選択科目の世界史のパートのものが,それから,日本史としては,我が国の歴史の展開を広く深く考察するというところで新選択科目の日本史のパートの部分が考えられるのではないかと思っております。
その際,真ん中にある赤の横のところを御覧いただければと思いますが,現行の科目の学習内容というものに関しては,一層の構造化をすることによって,「歴史総合(仮称)」で培った歴史の学び方というものを活用していくようなものであり,現行の科目とは異なるものであるということを明確にして,検討していく必要があるのではないかと思っております。
また,一番下を御覧いただければと思いますが,こちらは論点整理の方でも記述があったところでございますが,現行の歴史教育において非常に多くの歴史用語というものを学校現場で指導するというような状況になっているわけでございますが,この歴史用語の在り方については,研究者の方々,それから高校の教員の方々の対話を通じて,歴史を考察する手立てに着目などして構造化を図るということが極めて重要ではないかというようなところ。こういうところのセットで新しい歴史の選択科目というものを考えていくということが考えられるのではないかというところで,構成案を出させていただいているところでございます。
こちらにつきましても是非御検討いただければと思っております。
ワーキンググループにおける検討につきましては,資料3にワーキンググループにおけるこれまでの主な意見というものを記述させていただいているところでございます。基本的には変更点というものにつきましては先ほど御紹介させていただいたところでございますが,こちらも適宜御覧いただきまして御議論いただければと思います。
以上でございます。

【田中主査】  梶山主任視学官,どうもありがとうございました。
御説明いただきましたので,私の方から少し今日の狙いをもう少し丁寧に先に申し上げればよかったので,もう一回ここで申し上げておきますが,今,歴史のところに入ったところですけれども,本日の狙いは,今の御説明にありましたように,資料6の「歴史総合(仮称)」,2単位科目で日本史と世界史を統合した新しい科目であります「歴史総合(仮称)」についての意見交換をさせていただき,さらに,その後,資料7に関して,その次の科目との関連について御議論いただきたいと考えています。これはほかの分野も同じになりますけれども,総合というのは新しい科目で2単位科目である。その次に来るであろう新選択科目,資料7で御覧いただきますと下段の方に出ております左側の世界史がブルーですが,新選択科目の世界史,それから新選択科目の日本史,右側の方のベージュの色になっていますので,従来までの現行の「世界史B」の後継科目となるであろう新選択科目,世界史(仮称),それから現行であります「日本史B」に対応するであろうと思われる新選択科目の日本史の案というものをどう考えるかでありますので,これはこの後の地理でも,政治・社会,倫理,公民においても同じ構造で考えることになりますけれども,この総合と言われる今まで御議論いただいたものの上に新しい科目が来るので,その関連を議論したい。
まずは,本日も総合から入りますけれども,ここでの重要なポイントというのは,恐らく高大接続で考えたときに,高校の先生方,特に進学校での場合に,日本史のBとか世界史のB,今,新しい科目名称で言えば日本史とか世界史になるかもしれませんが,それらがあれば「歴史総合(仮称)」は学ばなくてもいいじゃないかと。すなわち,大学の入試で出るのはBなんだから,そこだけ教えればいいというふうになると,その「歴史総合(仮称)」を置く意味が全く消えてしまうわけですね。ですから,そのことはかなり重要なポイントを含んでいると思いまして,大学の側の入試の問題の在り方自体も相当議論する必要があるんだと思うんですが,すなわち,「歴史総合(仮称)」で学ぶことが理解できてないと,グローバルな人材として,社会に出てから,世の中に出てから困るということを大学の側がよく理解しないといけない。その上で,この新しい世界史,現行の「世界史B」,それから新しい日本史,現行で言うと「日本史B」ですね,これに対応するものが考えられなければならない。ただ単に重複して難しくするならば,難しいものだけをやればよいというのが進学校の考え方になると思うんですが,そうではないというところが今回の学習指導要領見直しの最大の論点だと思いますので,そこのところも含めて御議論していただきたいと思っております。
それでは,ここからはアジェンダに戻りまして進めさせていただきますけれども,今から約20分間ぐらいあると思うんですが,25分ぐらいまでの間に,この「歴史総合(仮称)」について議論をさせていただければと思います。20分程度,まずは「歴史総合(仮称)」について。今まで御議論いただいたところも振り返りながら議論させていただきますが,例えばワーキンググループでもかなり御議論いただいたところなので,土井先生にも少し御意見を伺えれば思うんですが,まず検討すべき視点としては,基軸となる問いや具体的な問いについてどう考えるかということ。それから,現代の諸課題について,ここに挙げられている以外にほかに例があるかどうかということだと思います。
それからもう一つ,私の方からもちょっと問い掛けたいと思っているのは,資料6を御覧いただきたいんですが,資料6の横長のものですね。波線があって,横に長くなっている図のような四角の表のものですが,左側に近代化,大衆化,グローバル化とありますが,この表現が適切かどうかと。ちょっと私自身が分からないというか,先生方の御意見を聞きたいのは,近代化というのは要するに近代社会の到来を意味し,大衆化というのは大衆社会の到来を意味していて,グローバル化というのはグローバル社会の到来を意味しているんだろうと思うんですね。なぜ「化」という,その化けるという言葉を避けたいかというのは,グローバル化という言葉が典型的だと思うんですが,何か一つのイデオロギー的意味を持っている。グローバリゼーションという言葉が,例えば経済のグローバリゼーションを資本主義の社会に普遍させることであるというような批判もあるわけですけれども,実際にはグローバルという言葉は意味はもっと異なっていて,グローバルヒストリーに見られるような西洋から見ただけではない視点で世界を見る,地球全体を見るという視点もあるわけですから,その意味でグローバルという言葉は非常に幅の広い意味を持っていると思うんですが,グローバリゼーションという言葉がかなり誤解を招く部分もあるかと思いまして,それよりはグローバル社会の到来の中でどのように歴史を学ぶかというような視点かなと思ったので,そういうことも少し申し上げました。
この辺りについて御自由に,今のことにもお答えいただきながらだと思うんですが,御自由に少し,この「歴史総合(仮称)」について約20分間ぐらい御意見を頂ければと思います。
御意見のある方は名札を立てていただければ,順に指名させていただきます。よろしくお願いいたします。
また,WGの方のことについても,土井先生から何かありましたら,いつでもどうぞ御発言いただければと思います。よろしくお願いいたします。
それでは,白石先生にお願いしたいと思っております。

【白石委員】  実は一つ質問がございまして,先ほどの資料4でしたでしょうか,神戸の学校の歴史基礎の例ですね,単元構成図というやつなんですが,これ,私,なかなかよくできていると実は思っているんですけれども,時間配分どうなっているのかということなんですね。つまり,私の理解では,「歴史総合(仮称)」というのは大体70時間を配分すると。そうすると,おのずから70時間でどういうテーマというか,これで言いますと,必ずしも私,これでハッピーじゃないんですけど,近代化,大衆化,グローバル化というところで例えば20,20,20で,イントロと結論で5,5にするとちょうど70時間になるわけですけど,そういうざっくりした意味でこの単元構成図の時間配分どうなっているのかということが一つと,それからもう一つは,その後,6ページのところに世界史・日本史に共通する主な学習の題材ということでキーワードがわっと並んで,私,このキーワードもざっと見てみて,こんなところだろうなと正直言って思ったんですけれども,こういうものを単元構成図の中でちゃんとうまく入れ込んで教えているのか。その2点ちょっと教えていただけますか。

【田中主査】  お願いいたします。

【高木委員】  神戸大学附属の高木です。よろしくお願いします。
時間配分に関しては,大体70時間,年間に使いまして,六つの単元になっていますので,大体一つの単元10時間前後ということで行っています。その内訳は,主題学習がメインで,主題学習で始まって主題学習で終わる。左側の単元を貫く大きな問いを考察するのが時間を最初に設けて,間に右側にあるマル1番からマル7番から調査ぐらいまでの調査・考察の時間を経て,また最後に主題学習,左側に戻ってくるということなので,そのような挟み込んだ形での実施をしています。

【白石委員】  キーワードは大体全部もう。6ページにキーワードがざっと入っていますわね。資料4の6ページですけれども。

【高木委員】  6ページのキーワードは,本校の実践のものではないので……。

【白石委員】  ええ。いや,それは分かっているんですけど,こういうものは大体網羅しているのか,それともこの一部しか使ってないのかという,ちょっとそこのところだけ,感覚を知りたいので。

【高木委員】  3ページの右側に大きなテーマとなるキーワードを書いているんですけれども,それらを主題学習で生徒が考察するために必要なキーワードに関しては大体網羅をしてやっていると。

【白石委員】  ああ,なるほど。
ちょっと済みません,じゃあ2点だけ申し上げたいと思います。
一つは,今,座長が指摘されたとおり,総合の一番重要なことは,学生が世界史と日本史のリンケージをきちっと付けられるということだと私は思うんですね。それを付けさせるための一つの手立てはキーワードなので,世界史を語るときのキーワードとできる限り同じキーワードで日本史も語られると。で,語られない言葉があれば,それについては特別の説明が要るという,そういう整理が多分一つ重要なんだろうと思います。
それからもう一つは,これは私,何度か欠席しておりますので,そこのところでひょっとしたらもう既に議論されたことかもしれませんけれども,やはり日本というのは世界の中の日本であると同時にアジアの中の日本なので,世界ということで非常に大きな世界史的流れを捉えると同時に,アジアについてはそれなりの目配りをする必要があるんじゃないかと。そうしますと,例えば神戸大学の例で申しますと,イ,ウ,それからその次のアですね。近代国家の国民国家,アジアの近代帝国主義,それから二つの世界大戦,この辺が実は例えば欧米とアジアを比較すると非常に対照的に違うところがあって,その中で日本というのはどういう位置にあったのかと,そういう形の組立てをするのがいいんじゃないかなと。私がこの神戸大学のがよくできているなと申し上げたのはそういう理由ですけれども,そういう考え方は重要だろうと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。
そのほかにも御意見頂ければと思いますが。
もう一つ,私の方からも少し伺いたいのは,先ほどのグローバリゼーションというグローバル化という言葉のこともありますが,もう1点やっぱり気になっておりますのは,昨今の,テロが多く起きるとか,立場の違いによって相当激しい考え方のぶつかり合いが世界中各地で起きているということに関して,特にこれ,「歴史総合(仮称)」でも「地理総合(仮称)」でも新しい「公共(仮称)」でも同じだろうと思うんですが,自国とか自分たちの共同体,自分たちの民族の文化とか歴史を相対化して見る必要があるんだろうと思うんですね。これ,歴史学だけでなく,地理でも新しい「公共(仮称)」でも同じだと思うんですが,いかに相対化するかという。日本と近隣諸国のことだけではなく,例えばフランスとイスラム教国の関係でも今そうだと思うんですが,フランスは歴史的には非常に政教分離が厳しくされてきていて,例えば公立学校でベールをかぶることを禁じてきたという歴史もあります。政教分離に物すごく注意を払ってきた。しかしながら,多くの方はキリスト教徒であるということだと思います。イスラム教徒の方たちにしてみれば,御自分たちの考え方というものがどう受け入れられているか,受け入れてないかということがすごく大きな相剋になっていると思うんですね。ここのところ,世界政治学会の私が会長をしているところでも相当議論が出ておりますが,今のヨーロッパの方たちの考え方が相当強く出てきている。あるフランスの歴史人類学者の書いたものでは,彼は孤立しているというんですが,フランスが,従来のような非常にオープンで幅の広い価値観を認めるような文化から,国が変わったように狭くなっていると。物すごく視野が狭くなっているという議論をされているわけですね。その方自体がもう孤立し始めているというんですけれども。こういうことが,日本もそうですけれども,日本だけでなくエジプトにしてもフランスにしても,どこの国にしても起き掛かっていると。すなわち,よその民族であるとか地域である,そこの文化や歴史や宗教というものを尊重して相対化する,いわゆる多角的な視点というだけでは済まないような気がするんですね。多面的な視点だけではなくて,立場を変えて見てみる。自分が信じているものを侮辱されたときにどう感じるかという,たとえそれが風刺であったとしても,自分が信じているものが侮辱されたときにどう感じるかというようなことを相対的に見る力がないと,やっぱりぶつかり合いはどんどん激しくなるわけで。
  正にグローバル社会に生きていく日本の若い方たちの教育ということを考えたときには,その総合という科目,三つあるわけですけれども,それぞれにおいてそのことも御議論いただく必要があるんだと思っていまして,ですから,グローバル化ということが,ある一つの西欧の知を世界中に普遍させることではないんだというのは実は重要な鍵だと思うんですね。もちろん,経済の力とか日本が信じ進めているものというのはそれなりに大事なんですけれども,それだけではない考え方というものも教育の場では必要なんだと思いまして,その辺りも含めて少し御意見を頂ければと思っております。

【羽田委員】  既に,資料4の「『歴史総合(仮称)』の方向性・特色・構成イメージ(たたき台案)」というものが示されたワーキンググループの会議のときに申し上げたことなのですが,多分,まだ議事録に反映されていないので,そのままになっているだけだと思いますが,今,田中先生のおっしゃったとおりだと思います。育成すべき資質・能力が三つ挙げられていますが,そのうちの一番下の「国際社会に主体的に生きる日本国民としての自覚と資質」という考え方は少し古いのではないでしょうか。グローバル社会に主体的に生きる日本国民であると同時に地球の住民という意識をこれからの人たちは持たないといけないので,この部分を変える必要があると思います。先生の御意見に全く賛成です。

【田中主査】  ありがとうございます。
いかがでしょうか。もうひと方ぐらい御意見を頂ければと思います。一ノ瀬先生,お願いします。

【一ノ瀬委員】  私は歴史の専門家ではないんですけれども,今の田中先生のお話を伺っていて私も共感するところが多くて,やっぱり自国の文化や伝統を尊重するというのはとても大切なことなんですが,そうではなくて,異文化と接触した場合にどうなのかということで,例えば西欧の歴史を見ますと,17世紀後半ぐらいに寛容という言葉が現れて,キリスト教の社会の中に異なる宗教が入ってきたときに,自分としては気分的には嫌なんだけれども,でも,認めるという,存在は容認するという考え方です。日本ではなかなか寛容という概念が定着しなかったんですけれども,ヨーロッパではそういう苦渋の,渋々と言ってしまえば渋々なんですけれども,寛容という概念で社会の構成がなされてきたという歴史がありますので,このキーワードの中に「寛容」という言葉も一つ入れたらいかがでしょうかというのがちょっと今思ったことです。

【田中主査】  ありがとうございます。
アジェンダでいえばもう少し意見を伺えることになっていますが。橋本先生,お願いします。

【橋本委員】  ありがとうございます。全く場違いかもしれませんが,物を考えるときに,やはり足場というか,そういうものがあると思うんですね。そうすると,中学校では主に日本史的なところで自国のということを中心に学習をしてきております。それで,そこからグローバルなそういう見方に広げていくということもまた大切なことだと思うんですね。
先ほどの神戸大学の例で難しいのは,世界史的なことの知識的なことが余りないという中で,どういうふうにこういう世界史的なことと日本史的なことをこういうテーマで広めていくかというふうなことになると,なかなか教員の資質・能力が問われるかなというような感触を持っておりまして,そうなると,どういう構造にするといいのだろうかというのがちょっとよく分からないでおります。

【田中主査】  じゃあ,若江先生。

【若江委員】  初めてになりますので,少し今のテーマと離れることからお話をさせていただきたいと思います。今回,このメンバーに入れていただいて本当に有り難く思っております。なぜならば,今,私どもは民間の立場で参加をさせていただいています。20年前から,日本の教育がこのままでは足りない部分を何か産業界がお手伝いしていこうということで,いろんな企業が学校現場に,カリキュラムで,教科と世の中のつながりをお手伝いできるようなサポートをしてきたんですけれども,なぜそうなってきたかというと,世の中がすごく変化をしていて,例えば思考一つを考えても,その思考の仕方自体もどんどん変わってきているので,それに合わせて学び方を変えていかなきゃいけないということで,実は2000年のときにこういう教科をベースにしたクロスカリキュラムの思考支援型,協働型の単元プランが作れるような教員研修サポートというのをある企業さんの支援でさせていただいたことがあります。,そのときに一番理解を示していただいたのが実は社会科の先生でした。とにかく知識をたくさん学べていって,いつ使うか分からないというよりも,何かテーマを設定して,そのテーマに必要な知識として,何が必要なのかというふうなことや,そこに教科の知識や技能がどのように活用できているのかということを知らせることによって,正に学ぶ楽しさだとか学ぶ意味みたいなことを理解させようとするものでした。今回,社会に開かれた教育課程ということで変わるに当たって,正にこの「歴史総合(仮称)」というのは,先ほど田中先生もおっしゃいましたように物すごく重要な意味を持っていると思います。産業界から見ましても,そういうことの概念がある人,要するに課題に合わせていろんな知識だとか概念を応用・活用できる人を,今,世の中は必要としているわけですから,その部分においてはすごく重要なことだと思っております。
正に今,先生がおっしゃいましたように,そうしたときに,今日の資料の7にあります上ですね,「歴史総合(仮称)」の二重マルのところの,単元の基軸となる本質的な問いを投げ掛けということです。その研修でお伝えしたいのが,本質的な質問を投げ掛けて,それが学習コンテンツの質問につながっていくというものでして,教員の質問力というようなことがすごく重要になるというものでした。教員の質問力を引き出すためには,やはり授業案づくりというか,そういったものが非常に重要になると感じております。
済みません,たわいのない感想でございますが,非常に重要で,かつ教員の力が重要視されるのではないかということを申し上げたいと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。重要なポイントで……。
続きまして,中家先生,お願いします。

【中家委員】  都立小石川の中家です。前回発言させていただいたときに,高校生は多様である,学校現場も多様である,教員も多様であるということをお話しさせていただいたと思います。こちらで議論されている今,問題となっているものをどのように解決していくかということで出てきているものだということは,重々分かっております。その上で,ここでの議論というものを先生方の御専門から理想論としてお話しいただくのはもちろんなのですけれども,私ども現場の人間としては,それをどう現場で定着させていくかということが求められていると。今,一番危惧されることは,かつての「現代社会」のようになってしまうんじゃないか,あるいは世界史の必修化のように必修外しが現場で行われるんじゃないかと。そういうことになってしまったら元も子もないわけなんですね。ということは,実際に現場でどういうことをやるのか。先ほどの神戸大学附属の実施例,非常にすばらしいと思います。ただ,それは,では,日本中のどの高校でもできるものなのかというようなことを念頭に置いてやっていかないと,ここで出たものから学習指導要領の策定に入り,更にそれを基にして教科書ができ,そしてそれを基にして先生方が教育をしていく,それを今度は多種多様な生徒たちが受けていく,そのようなところが実際の現場であるということも念頭に置いて今後の検討を進めていただければと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。非常に重要なポイントで,耳が痛いんですけれども,理想論ばかりでなく,現場にどう定着させるかという視点も非常に重要だということでございますね。
少しお時間も押してまいりましたので,この後,先ほど御説明いただいております「高等学校学習指導要領における歴史科目の改訂の方向性として考えられる構成」ということで,資料7の方になるかと思うんですが,新しい科目,「歴史総合(仮称)」というものも踏まえた上で,「歴史総合(仮称)」で学んだ力というもの,物の見方というものを活用して,いかに世界史なり日本史を学ぶかというところになると思うんですが,そこについてどういう方向性が重要かというところ,ここは「歴史総合(仮称)」との差異化も必要ですし,相互関連も必要だと思います。難しいところなんですけれども,全く無関係では困るわけですが,踏まえた上で新日本史なり新世界史に進むことになるんですが,その関連性と,それから差異化というものについて御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。

【羽田委員】  質問させていただきたいんですけれども,この「歴史総合(仮称)」の後,次に学ぶのは世界史と日本史とに分けて学ぶということはもう決まっているんですか。

【田中主査】  それは高校の立場に・・・あ,これは少し事務方から。梶山主任視学官,お願いします。

【梶山主任視学官】  どのような科目を新選択科目としてするかということに関して,今,どこかで決まっているということはございません。ただ,日本史と世界史というものに関しまして,やはり日本人として日本史をどのように考えていくか,また,グローバル化の中でどのように考えていくかという際に,今までの流れでありましたり高等教育との接続などを考えた際に,このような案というものが考えられるんじゃないかということでたたき台として提示させていただきました。御検討いただければと思います。

【田中主査】  ですから,総合は必修で必ず学んでいただいて,「新日本史」は学んでもよいし,学校によりけりだと思うんですね。若しくは,「新日本史」と「新世界史」と「地理」や「政治・経済」,「社会」,「倫理」ですか,その中のうちから二つを選びなさいというような高校もあるかと思いますし,その辺りは高校によって大分考え方が変わるんだろうと思うんですが,それについて我々がどういうふうに考えていくか,提示していくかということも含めて御意見を頂ければと思います。古城先生,お願いします。

【古城委員】  この資料7を見まして,ちょっと前からも感じていてあれなんですけれども,やっぱり先ほどの御説明では「歴史総合(仮称)」をスキップさせないようなことが非常に重要だということで,それは非常によく分かるんですけれども,そうしますと,新選択科目との間をどういうふうにつなげるかというのがやっぱり非常に重要で,つまり,そこをやらないと次の科目が分からないという,あるいはそこで学んだことを身に付けてないと次の科目の面白さが分からないという,そういうことですよね。それは結構難しいので,具体的にどういうふうにされているのかとか,何かもしあれば教えていただきたいんですけれども。

【田中主査】  具体例は。現場の先生方,そういう具体例がもしおありになれば教えていただければと。

【高木委員】  済みません,具体例になるかちょっと分からないですけれども,本校でやっている歴史基礎に関しては,主題学習の前に一つ生徒に調べ学習させているんですけれども,先ほどの国民国家の単元でいうと,五つの地域を,六つの単元の最初のうちなので,生徒が地域を指定するんじゃなくて,教員の方が先に地域を指定しています。指定している中には,国民国家,どうして,いつというのをすごく調べやすい,発表もしやすい地域と,すごく調べにくくて,「調べても分かりませんでした」という答えになるかもしれないような地域をわざと混ぜています。そうすることで,歴史基礎の単元を捉えていくときにはすっと土台となる概念は出たんだけれども,それがうまく適用できないところをもっと専門的に学んでみたいというふうな気を持ったまま,高校2年生,3年生の現在では「日本史B」,「世界史B」につながるような形で進めていると,歴史基礎担当は言っていました。

【田中主査】  この辺り,具体的にどうカリキュラムを組むかというのは,それから教科書をどう組むかというのは,まだまだ我々のこの方向性だけではなかなか出せないところだと思うんですが,今,古城先生御指摘のとおり,「歴史総合(仮称)」を学んでないと次の歴史は学べないというような仕組みというものが必要だろうということで,高木先生がそういう御苦労をされているというお話も伺いましたので。
じゃ,辻中先生。

【辻中委員】  今のお話で言うと,「歴史総合(仮称)」は近現代に注目してやっているわけですよね。そういう意味では,そこが絶対外せないようにするということは,逆に言うと,世界史・日本史はまた一から初めから入っていくようなイメージでいくのか,逆にさかのぼっていくとかですね,一つの手としては。近現代は押さえた上で,そこで出てきた問題を地域別にというか,世界的な視野でさかのぼっていくのが世界史であり,日本を中心に全体を見ながらさかのぼっていくのが新日本史であるというふうにすると,ここは絶対外せないということになりますよね。何かそういうようなちょっと新しい発想をしないと,現行の「世界史B」,「日本史B」のようにまた一から勉強します,これは初めから終わりまで全部ありますというフルセットですという形にしてしまうと,飛ばすというようなこととかいろんな問題が生じてくるのかもしれない。ただ,こういうのは今までやられてないことですから,そんな簡単に言わないでほしいということになると思いますが,「歴史総合(仮称)」で学んだことの問題意識を軸に再び原点から学ぶでもいいんですが,そういう接続関係を何か現場で考えられているのかどうか,その辺をちょっと聞きたいところだと思います。

【田中主査】  中家委員。

【中家委員】  現行の学習指導要領を検討しているときに,実は一度,さかのぼるという歴史の在り方も有りではないかということで話が出ました。ただ,歴史というのは,過去にあったことを受けて起こっているものであります。それをさかのぼっていくとしたら選択肢は無限に出てくるわけなんですね。それを一つ一つ,潰していくだけの圧倒的な知識量がないと駄目だということで,結局,さかのぼるというのは,ある程度分かった人間がある程度分かった人間を対象にしてゼミ形式で考えていくには何とかなるだろうけれども,それは現実的には全高校でやるのは非常に厳しいだろうという結論に達した部分があります。
例えば諸外国では,物の流れというものを理解させていく,つまり物を覚え込むのではなくて,なぜこうなったのかということを資料から見極め,そしてまとめて,比較して,自分の表現をするというような教育をやっております。今回,これを日本にも導入したいということ,基本はそこにあるのかなというふうに思っておりますが,例えば欧米ではそれを小学校のときからやってきているわけですね。もちろん,最近,小学校では「アクティブ・ラーニング」が導入されてきておりますので,そういったものに耐え得る形にはなっているとは思いますけれども,今回これを導入するに当たって,やはり欧米のように小学校から常に議論をする,まずその前提として調べて,自分の意見をまとめて,議論をするということを重ねてきた上で,より高度な概念的な議論をしていくというところに持っていくのではなく,中学校までは同じような形で教育を行った上で,高校だけでやっていくとなったときに,果たしてどうなのか。先ほど,神戸大学附属中等ではうまくいくと思う,すばらしいと思いますということは申し上げたんですけれども,じゃ,それが全日本の全ての高校生を対象にできるのかどうなのか。それをやっていくための前提として,高校でやっていくとしてもどういうふうに努力をすべきなのか,どういう位置付けをしていくべきなのか。あるいは,今,検討されていますけど,小学校,中学校と変えていく。そうすると小学校,中学校で変わってきた子を教育するということが前提になるのか,それとも,高校は高校で小・中でまだ変わってない段階でもこれを導入するということになるのかということも含めて問題があるのではないかと思います。少し論点でずれましたけれども,申し訳ありません。

【田中主査】  ありがとうございます。なかなか難しい問題がございますので,この辺り,もう少し事務局にもまとめていただきながら,ただ,難しいと思うのは,「歴史総合(仮称)」は近代から始まって現代まで,グローバル社会まで学ぼうということですね。最も大事なところをそこで教えるというんですが,それを学んでないと学べない世界史とか日本史というものを新しい科目として見るときに,古代から中世,近世というふうに来ないと近代にたどり着かないわけですよね。だからといって近代を抜くわけにもいかないんだろうと思いますので,やはり考え方,歴史のある時間を抜くということでなく,恐らく考え方,何か総合で学んでいる考え方が必須になるような科目としての新世界史・新日本史なんだろうと思うんですけれども。
辻中先生。

【辻中委員】  そういう点でいうと,「歴史総合(仮称)」が転換点に注目する,近代化,大衆化,グローバル化という転換点に注目していき,かつ各世界の差異,いろんな多様性があるということに注目しているわけなので,その考え方を全体として現代の差異だとか,この近代化,大衆化,グローバル化も国によって,地域によって全然入り方も違うし,現状の在り方も全然違うというのが現代の複雑な社会ですので,その多様性の差異の,そして転換点の現れる時期の違い,そういうものの謎を解き明かすというような大きなテーマを掲げて,どうしてこうなんでしょうねという形で全体を貫きながら,だから,最初の問題設定としては「歴史総合(仮称)」のところがある程度答えになっていると。それの謎を解くという形で世界史・日本史を再構成し直すと。従来の世界史・日本史ではない方がいいじゃないかというのは羽田先生言われたことと関係すると思うんですが,そういうふうにぱっと分けてしまったら,何のために「歴史総合(仮称)」創ったか分からないじゃないかということになっちゃうので,世界史は日本史と絡み合っているというか,相対化できるものでなきゃいけないし,日本史もグローバル日本史でないと何のためにやっているか分からないので,そういう大きな枠組み,これは両方とも絡み合っているんだということを一つやり,また,「歴史総合(仮称)」で言ったような転換点と現代の差異を多様性を解き明かすというような大きな軸を入れて構成し直すというのが一つの考え方ではないかと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。
それでは,羽田先生。大分時間が・・・。

【羽田委員】  はい,済みません。辻中先生がおっしゃったことでもう尽きているんですが,私の疑問は,せっかく「歴史総合(仮称)」という科目ができて,日本の過去を世界の中で捉えるという視点をここで身に付けることができるのであれば,どうしてその後でまた日本史と世界史に分けないといけないのかということです。広義の日本史,あるいは「歴史総合(仮称)」の続編でよいのではないかと思います。日本史を世界の中で見るという姿勢を継続し,「歴史総合(仮称)」を更に深めるような学習がなされれば,それでよいのではないでしょうか。このように二つに分けますと,例えば今の「日本史B」は,古代,中世,近世,近代というふうに時代区分されていますが,これをどのように世界史の中に位置付けて説明していくかということは,本来重要な問いのはずですが,余り問題になりません。日本史だけを扱っているからです。日本史と世界史がはっきりと分かれていると,実際に日本史の教科書を書く先生方は,従来からの日本史の解釈にとらわれるので,世界の中の日本史という視点から書いてほしいと言っても,そう簡単ではありません。ですから,二つに分けると,「歴史総合(仮称)」が目指す理想はなかなか実現しないのではないでしょうか。もし日本史と世界史をある程度融合させ,日本史を世界の中の日本の歴史,世界史も日本の過去を強く意識した世界史とすると,それに伴って,大学の研究教育も相当変えないといけなくなり,これはもう歴史学界がまなじりを決して取り組むべき大事業となるでしょう。私は,それは大変だけれどもとてもよいことだと思います。ただ,これは理想論ですから,さっき中家先生がおっしゃったことを考慮すると,実現は難しいのかもしれません。しかし,あえて理想としては「歴史総合(仮称)」を続けてやる方向が望ましいと申し上げておきます。

【白石委員】  よろしいですか。

【田中主査】  白石先生。

【白石委員】  一つ,この「歴史総合(仮称)」というのはそもそも何のためにこういうものを設けるのかということに戻りますと,非常に単純に申しますと,我々の生きているこの時代というのはどういう時代なのかということを教えると。そのときに近代というのはやっぱりそれ以前とは違う。それはいろんな意味で違う。ただ,それがキーワードで言いますと,国民国家だとか,科学技術革命だとか,産業化だとかということになるんだと思いますけれども,そういう近代で世界が一つになっているということを教えたいというのが,多分この総合の一番の鍵だと思うんですね。そうすると,当然のことながら,私,別に我々,ここで新選択の世界史・日本史をどうするかということについて議論する,決めるマンデートはないとは思いますけれども,おのずからそこで論理的に出てくることは,それじゃ,そういう総合で我々が対象にするような近代という世界が一つになった時代を対象化するような,そういう教育ですよね。それが当然のことながら世界史であり,日本史なので,ちょっと私,日本史は専門から大分遠いので申し上げませんが,世界史の場合ですと,一つの答えはそれぞれの文明がそれぞれの世界であった時代というのがもう一つあるわけですよね。だから,そういうものをやっぱり一つ世界史の中では教え込むことで,逆に,世界が,もちろんいろんな文明というのは残っているんだけれども,その中で,だけど,一つの世界になっている,そういうものをもう一遍捉え直すということがやっぱり鍵になるんじゃないのかなと,そういう気がします。ですから,少なくとも総合と新選択の間では,新選択というのは,総合で教えたことをもう一遍,対象化して捉え直すということを一番の鍵にしていただければ,あとは,どのぐらい-これ,140時間ですか,で教えられること,しかもいろんな知識の水準のある人たちに教えるという,ここはやっぱりかなり柔軟性を持たせるしかないんじゃないかなと思いますが。

【田中主査】  ありがとうございます。それとの関連でもう1点だけ。少し時間を超えておりますけど,もう1点だけ御議論いただきたいのは単位数なんですね。「世界史B」とか「日本史B」は4単位で来ている場合が多くて,Aは2単位だったので,今回は「歴史総合(仮称)」2単位で考えています。それに対して,新選択の世界史,新選択の日本史は単位としては何単位ぐらいが妥当かということも・・・。

【白石委員】  あ,そうなんですか。私はてっきり4単位かと思っていたので。

【田中主査】  そこもまだ踏み込めるところであると思うんですけれども,深みとか視野とかいうことでいうといかがですかね。はい,中家さん。

【中家委員】  「日本史B」・「世界史B」の標準単位数は4,それから「日本史A」,「世界史A」の標準単位数は2ということになっておりますけれども,実際に現場でどのぐらい行われているかといいますと,これは先ほど田中先生からくぎを刺された部分ではありますけれども,大学受験を前提としているような講座の場合は,高校3年間のうちに選択を含めて実際には8単位とかをやっております。4単位では本当に教科書を終えるのが厳しいかなというところが現実だと思います。もちろん,その深さなどによって違いますけれども,大きな流れを追って大きなイメージ,時代の流れというものを追うだけだったら十分4単位でできると思いますけれども,受験とかそういうものがありますと現実は倍ぐらい掛かるというところです。

【田中主査】  そうすると,新選択に関しても恐らく4単位というのは外せないだろうと思われますね。2単位に減らすということはちょっとあり得ないということですね。それだけでも多分足りないだろうということですから。高大接続の議論は我々の守備範囲でないんですけれども,ただ,視野に入れざるを得ないということがあると思っています。結局は,大学の入試問題の中にどういう形で出るかによって,高校の先生,また,予備校,受験産業もそのように教えてしまいますから,せっかく「歴史総合(仮称)」というものを創ったとしても,大学入試が「歴史総合(仮称)」を一切無視して出題し続ければ,高校の現場での「歴史総合(仮称)」は空洞化するんですよね。それは中家さんが先ほどおっしゃったように,世界史の必修外しと同じようなことが起きるわけですよね。ですから,大学の側の責任はすごく大きいんですね。ということは,大学の教員もそうですが,社会全体に新しい御理解を頂かないと,社会も受験産業も,高校の先生も大学の教員も,全てがこの新しい総合という科目の意味を理解していただかないと,結局,空理空論に終わるんだろうと思うんですね。そこが非常に難しいと思います。そのことももう少しまだこのことも視野に入れながら議論させていただかなければと思います。
一ノ瀬先生,どうぞ。

【一ノ瀬委員】  せっかくこういう会議に出ているので,考えたことをお伝えしたいと思うんですが,先ほど羽田先生から,せっかく基礎というか,総合があるのに,その後,世界史・日本史を分けるのはどうなのかという問題提起があったと思うんですけれども,先ほど辻中委員からもあったように,この「歴史総合(仮称)」の一番の眼目は現代の問題に焦点を当てるというのが基本的な視点だと思うんです。だとしたらば,選択科目は,多分これは大学の研究体制とか大学の教員のディシプリンにも関わるんですけれども,例えば世界史・日本史というふうに分けずに,古代から中世へというのと,あと近世から現代へというふうに時代で区分して二つの科目にするというのも,直ちに実行は難しいかもしれませんが,将来的なオプションとしてあり得るんじゃないかなと。つまり,その場合は,「歴史総合(仮称)」は現代に焦点を合わせるというところで一つの存在意義を持ち,そしてもう一つは古代から中世へ,それから中世から近世,現代へというので,それぞれ三つが固有のテリトリーを持つというふうになるんじゃないかなと。ただ,それは大学の方のディシプリンとも関わりますので,簡単に実行はできないと思いますが,そういう可能性は一言言及しておきたいと思います。

【田中主査】  井田先生。井田先生と,何人もいらっしゃいますね。ちょっと時間が大分過ぎてしまっていますが,じゃあ,まず井田先生。

【井田委員】  私は,4単位じゃなくても3単位という手があるかなと考えています。それは,日本史なり世界史に,今言われたように時代区分をするとしても,組合せでとることが可能なのは,必修が4単位,その上で3単位と,もう一つとって3単位,それで合計10単位になって,最大限このぐらいがとれる学校があれば選択が2科目とれる。そうなってくると,今話されたような総合と選択を一体として考えれば,それは5単位としてみなせるわけですから,そうなってくると一つが3単位という手もあるんじゃないかなと。それで複数とるような可能性を残しておくというのは一つの考え方じゃないかなと思っています。

【田中主査】  ありがとうございます。
それでは,橋本先生,短めにお願いします。

【橋本委員】  はい,ありがとうございます。ちょっと思い付きですが。「歴史総合(仮称)」では,学び方ということと歴史の転換点というような,歴史としてきちんと押さえておかなければならないことを押さえるわけです。そうなると,選択科目の世界史と日本史のところ,資料7の図などを見ますと「深く考察する」というところで終わっているので,もしかすると,そこのどこかに必ず,世界史であれば日本の「歴史総合(仮称)」で学んだ大事な視点ということを入れて,やはり学び方も入れたような部分の学習というのを必ず入れるとか,日本史の方であれば,国際グローバルという,その中での日本,そういうことがあって初めて深く考察するということになるのかなと。だから,ちゃんとやってないと最後困りますよというふうな作り方ができればいいのかなと思っております。

【田中主査】  ありがとうございました。
それでは,最後にさせていただきます。じゃ,若江先生,お願いします。

【若江委員】  はい,ありがとうございます。一ノ瀬先生がおっしゃったこととほぼ同じなんですけれども,「歴史総合(仮称)」で歴史の学び方を学んで,この世界史・日本史分かれてしまうというのは全くナンセンスで,今,先生方おっしゃっているように併せるべきで,たまたま私の息子が今30歳ですから,ちょうど15年前にアメリカの高校で学んでいるときに正に,歴史全体をやり,一番自分の関心のあるところについて深くグローバルで物を見ていくというような学び方をしておりました。ですので,正に今必要とされている「アクティブ・ラーニング」,主体的に自分の学びたいことを選び,そこに自分の意見を言っていき,その学んだスタイルをまたほかの時代というか,ところに置き換えて学ぶ機会もあるので,そうなると入試の選び方というのが変わってくるんでしょうけれども,せっかくですので,そこまでしないと,世の中では大体,日本がこんな時代に世界はどうだったという話しかビジネス界の中では出てこないわけですよね。日本史だけの話,世界史だけの話というのは現実的にはあり得ないことですので,是非そのようないいアイデアで日本史と世界史を分けない方向をお考えいただければなと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。
それでは,この議論は一度ここで閉じさせていただきます。随分大胆なといいますか,非常に大きな御提言を頂いております。頂いていることをそのまま考えますと,当然,大学の教育学部若しくは教職課程のカリキュラムを大編成する必要もありますし,大学の教員が本当に高校の教員を育成できるのかという問題もあると思うんですけれども,ただ,視点として非常に重要な御指摘を頂いておりますので,これを前向きに考えさせていただきます。
それでは,済みません,私の不手際で少し時間が押してしまいましたけれども,次の課題の方に移らせていただきます。この後は地理科目の改訂の方向性,いわゆる新地理の方について,全体で20分程度の時間を考えておりますけれども,これについては資料の御説明を頂ければと思います。梶山主任視学官にお願い申し上げます。

【梶山主任視学官】  はい。私の方から資料を説明させていただきます。
最初に資料2を御覧ください。資料2の先ほど見ていただいた歴史の次のページ,地理に関して,「地理総合(仮称)」のたたき台を,前回この特別チームで御検討いただいたところでございます。
そちらにおきましては,資質・能力として,地理的な技能,実践的な社会的スキルとしてのGIS活用などを育むと共に,地理的知識と地理的理解ということで,地球規模の自然システム,それから社会・経済システムの知識・理解を行うこと。それと,地理的な見方や考え方というところで,空間概念を捉える力などを活用していくということ。そして最終的に,態度として,地域,国家的な,それから国際的な課題解決を模索する献身的な努力というものを育んでいくということではどうかという観点から,右を御覧いただければと思いますが,新必履修科目の案というもので,(1),(2),(3)というように大きな構成というものが考えられるのではないかという御議論を頂いたところでございます。
それを踏まえましてワーキンググループにおいて議論されていた状況でございますが,資料4を御覧ください。資料4の7ページ目でございます。
こちらにおきまして,先ほどのペーパーを基に項目構成(案)というものが一番左にあるわけでございますが,(1),(2),(3)というようなところがあるわけでございます。こちらの下のところの補足を御覧いただければと思うんですが,(1)において,地図と地理情報システムの活用というものを行うわけでございますが,その学習によって培った地理的な技能というものを,(2),(3)の学習や他教科・科目の学習において実践的に活用することができるのではないかというところ。それから,(2)におきまして,国際理解と国際協力。(3)において,防災と持続可能な社会の構築というものに関して取り扱ってはという話があったわけでございますが,(2),(3)というのをそれぞれア,イに分けまして,アで把握・考察したことを基に,イで議論,構想(展望)するような構成にしてはどうかというところ。それから,(2)で学んだ各地の諸課題の対応策というものを,(3)で生徒の生活圏の諸課題解決の構想に生かしていくこと。このような全体の構成で項目構成を考えていくということ。
それから,真ん中を御覧いただければと思いますが,重視する思考力,判断力,表現力というものが,それぞれ(1)でありましたりアのレベルでどのようなものが考えられるかというところに関しまして,一番上にございますように,例えば地図上に表された事象と実際の出来事を関連付けて考察するような思考力,判断力。それから,その考察したことを目的に応じて地図等にまとめ,効果的に説明するような力というものを(1)で考えられるだろうと。それから,一つ飛んでいただきまして,三つ目のマルでいいましたら,地球規模で見られる諸課題の環境,資源・エネルギー,こういう様々なものについて多面的・多角的に考察する力。考察したことを,根拠を明確にして議論する力と。こういうものをそれぞれ育んでいく必要があるのではないかというところ。
それについては,先ほど歴史の学び方・考え方・見方という話がございましたが,「地理的な見方や考え方」を用いた授業設計で,問いを重視した授業展開としてはどうかというところで,具体的に,例えば先ほどの(2)のイのところでございましたら,マルウというところで,なぜウガンダでは生産性で劣る陸稲が生産されているのだろうかというところに関して,食料難で悩むウガンダに関して,どのような手段で食料増産を促すために支援が可能なのかと。直面した課題と要因を探って,在り方についてというところを問いを設定し,その地域の特性でありましたり,その地域の自然環境,そういうことに関して地理的な見方を用いて考えていってはどうかと。このようなところをたたき台案として御検討いただいているところでございます。
今,私が御説明しました具体的な内容につきましては,8ページ以降に授業実践事例ということで,「地理総合(仮称)」において今まで参考となるようなこのような例があるのではないかというところを会議においてお示しさせていただき,御検討の助けにしていただいているところでございます。
基本的に「地理総合(仮称)」においてワーキンググループにおいて今御検討している内容というのは以上でございます。
それを踏まえまして,先ほど御検討いただいた現行の「地理B」ということを踏まえた新選択科目をどうするかというものに関しまして,資料8を御覧ください。こちら,「構成原理」という一番上のところに,それぞれの「地理総合(仮称)」と新選択科目についてどういう関係にあるかというところを明確に書かせていただいて,まとめていく必要があるというところでございますが,「地理総合(仮称)」に関しましては,主題を基に課題解決的な学習により,社会で生きて働く地理的実践力の育成の場として,「地理総合(仮称)」というものは考えられるのではないかというところ。それから,新選択科目というのがこの「地理総合(仮称)」で習得した地理的な技術であったり,見方や考え方を基に,世界の諸事象の規則性や傾向性などを系統的に見ていく視点というところ。それから,世界の諸地域の構造や変容などを地誌的に考察した上で,現代日本に求められる国土像の在り方について展望するというような,系統的・地誌的な考え方の下で現代の日本に求められる国土像の在り方を展望することということを通じまして,高等教育での学びにもつながる本格的な地理的探究の場として構成してはどうかというところをこの一番上に書かせていただいているところでございます。
その際,真ん中のところを御覧いただければと思いますが,資質・能力というところで一番上の赤いところでございますが,「地理総合(仮称)」において学習した地理的な技能や世界のグローバル化や持続可能な社会づくりといった考え方などを踏まえて,繰り返しになりますが,世界の空間的な諸事象の規則性,傾向性や世界の諸地域の構造や変容についての理解。それから,地理の諸事象を系統地理的に考察する力や,世界の諸地域を地誌的に考察する力。また最後に,世界や日本の望まれる国土像や地域像の構築のために,進んで参加し貢献しようとする態度と。このようなところが育むべき資質や能力として考えられるのではないかというところでございます。
その際,構成案といたしまして,現在,「地理B」を参考にいたしますと,「地理B」では,地理的な技能とかそういうところをやっているところでございますが,この部分に関しては既に「地理総合(仮称)」で既習であるというところを前提に,この地理の新しい選択科目には置かないこととし,右の新選択科目のところを御覧いただければと思いますが,現代世界の系統地理的な考察をするパートとして(1),地誌的な考察するパートとして(2),それを現代日本に求められる国土像に総合的な地理的アプローチから考えていくパートの(3)にということが考えられるのではないかと思っております。それぞれの内容につきましてア,イ,ウ,エというところで取り上げるべき内容等の例,それからその考え方などにつきまして,ちょっと繰り返しになるところもございますので,そこは省略させていただきますが,このような内容につきまして「地理総合(仮称)」を踏まえた新選択科目として考えられるのではないかというところの案ということを御提示させていただいたところでございますので,御検討いただければと思います。
以上でございます。

【田中主査】  ありがとうございました。
今の御説明を踏まえた上で,「地理総合(仮称)」については前回まででかなり議論が出尽くし掛かっているというところで,この新しい新選択科目の地理について方向性を御議論いただきたいと思うんですけれども,井田先生から御発言いただければと。

【井田委員】  はい。まず,今日の資料8と,それから前回の先ほど説明いただいた資料4の7ページを両方見ていただくといいんですけれども,先ほど田中先生からありました世界を客観的に見られてという話ですけれども,ここで言うとそれが(2)の国際理解と国際協力に当たると思います。アの生活・文化の多様性と国際理解というのが特にそこに当たって,そこでいろんな地域の自然環境や社会環境に応じてこういう文化ができている,ああいう文化ができているということを客観視できないかというのがここの大きな目的になると思います。ですので,そういう意味では,次の右側に問いというのがありますけど,そこの問いをどう作るかで田中先生がおっしゃったようなところがうまく引き出せる可能性はあるかなというふうには考えています。
あと,ここですけれども,実は生活・文化の多様性というふうに言っちゃうと,現行の学習指導要領でもそうなんですけれども,ここが教科書でぐーっと多くなって,結局,世界地誌をやるというようなところが多くなってしまうんですけれども,ここはあくまでも論理性を求めるところで,そういう意味では,地域を事例として取り上げるということはかなり注意しなきゃいけないところじゃないかと思います。
それからもう一つ,科学オリンピックというのがありまして,それは物理,数学,化学とか情報とかあるんですけれども,地理もそこに入っています。現在,地理は,国際地理オリンピックは今年度の場合はモスクワで40か国ぐらいの子供たちを集めてされましたけど,日本もそこに参加していますけど,そこの大きな問題というのは大きく三つの問題があって,一つは,マルチメディアといっていろんな映像や何かを見ながら選択肢4択の中から1問選ぶというものが一つです。それは日本のセンター入試にかなり近い感じなんですけれども,でも,そこでも思考力は要求しているんですけれども。それから,もう一つは記述式試験。これはやっぱりいろんな図や表やデータを用いながら論理的にいかに考えさせるかという問題なんですけれども,もう一つはフィールドワークテストというのがあって,実際に外に行って,外の観察したものからいろんなことを考えて,将来そこをどうするかということまで考えさせようというのが三つになっています。日本人の子供たちは,先ほど言いましたマルチメディアテストは比較的得意なんです。というのは,慣れているからですね。でも,論理性の問題とフィールドワークの問題というのは比較的苦手で,配点を見ると,マルチメディアって20%なんです。あとのが40%なんですね。世界的な流れからいくと,やっぱり地理においても論理性というのは非常に重要視されていて,そういう意味では,先ほど事例地域というのがありましたけど,事例地域から主題を設けることによって論理的にそこを説明していく,論理的に考えていくということが重要じゃないかと。そういう意味では,この「地理総合(仮称)」では論理性を求めているところが一つあります。
それから,フィールドワークですけれども,フィールドワークではどちらかというと実際の調査だとか,そこからいろんなものを考えるということで,ここで言うと生活圏の調査と持続可能な社会づくりということで,比較的日本の子が苦手としたようなところがここではかなり論理的に組み込まれているのではないかなと思っています。もちろん,このためには,地誌とか系統地理の考え方が必要なんですけれども,それは中学校でも地理的分野では系統と地誌というのはある程度やっていて,ある程度の知識があると。その知識に基づきながらこの総合をやっていくというような形になると思います。
そう考えていった場合に,今度は新選択科目の方ですね,これ,どうやって考えられるかということですけれども,先ほど事務方から説明ありましたように,(1)地理と地理情報システムの活用というものは総合でやっていると。だから,これはもう既存としてできているんだという前提でここが入ってきます。(2)の国際理解と国際協力(3)の防災と持続可能な社会の構築は,論理性と,それから,論理的にやるんだけれども,結局,こうやっていったんだけど,この事例地域だけでは分からない,あるいは持続可能な社会の構築をするんだけれども,ほかのものをもっと見ないとこれはもっとできないという,そこの課題が出てくる。この課題が重要で,その課題を克服するのが新選択科目で,そういう意味では系統的にいろんなところを見ていこう,もっと防災とか持続可能な社会の構築を考えるときにはもっと資源や産業を深めて考えないといけない,世界的に深めて考えなきゃいけないというときにこれが出てくるし,先ほど事例地域と言いましたけど,ほかの地域をもっと見なきゃ分からないじゃないというときには,(2)現代世界の地誌的考察というところに入ってくると。そういう意味では,総合でやってある程度理解はするんですけれども,そこでの課題がまた出てきて,その課題を更に追究するのがこの新課程科目であるというふうに考えられます。
内容的に見ても,神戸大附属さんがやったような中心概念を中心とした流れにはなっていますけれども,現代世界の系統的地理的考察では,相互の地域間のつながり,つまり交通というところがまだ入ってないので,などというところに入っているんでしょうけど,そういうところはもうちょっと考えなきゃいけないと思うんですけれども,そういう意味では,そういうつながりというところでもこの辺はかなり明確に出てきたかなとは思います。
私が作っているわけじゃないですけれども,そういうことで説明させていただきます。

【田中主査】  ありがとうございます。
それでは,若江委員,お願いします。

【若江委員】  済みません,今の御説明を聞いて,私,問いのレベルがこんなんで高校レベルの学習の問いに適切なのかなと,正直,ちょっと失礼な言い方ですけど,感じたんですが,今の御説明を最後までお聞きしますと,(1),(2)(3)のところとそれぞれ思考のレベルが高度化していっているので,この問いのレベルが(1)のアのところはこのような問いになっているのだなというようなことが分かりました。ありがとうございました。

【田中主査】  私の方からもちょっと教えていただきたいことがありまして,ここでも議論がありましたが,例えば資料8の真ん中の欄の資質・能力のところの下の方にマルが二つありますけれども,下から2番目のマルの「世界の諸事象を系統地理的に考察する力」と「世界の諸地域を地誌的に考察する力」で,「系統地理的」という言葉と「地誌的」という言葉があるんですが,ちょっとこの区別を理解できてないものですから,教えていただければと思います。

【井田委員】  私が作っているわけじゃないですけど,説明させていただきます。
系統地理的な説明というのは,ここの(1)のところにある自然環境だとか資源,産業というテーマがありますけど,そういう項目に関して世界的に見てどういうふうに見られるかと。その地域はこういう特徴があるであるとか,あるいはそれが世界に共通したものだとか,そういうものが系統地理的見方というふうに言っています。それから,地誌的な見方というのは,その地域が総合的に,いろんな地理的な現象,いろんな社会的な現象が重なったときにどういう特徴を持っているか,それを地域ごとに性格を示していこうというのが地誌的な考え方ということになります。
それを踏まえて,最後の(3)で将来像もちゃんと考えましょうと。今まで将来像というのは余り社会科,地理では言われていなかったんですけれども,先ほど科学・地理オリンピックの話もしましたけど,やはりこういうものを踏まえて将来像を見据えるというのが重要で,そこをちゃんと入れたというのが今回の大きなところかと思います。

【田中主査】  ありがとうございました。かなり明確になりました。(1)で言っている現代社会の系統地理的考察というのは,いわゆるクロスナショナルといいますか,国際比較の中で理解をしていくという,システマティックな。ですから,ここでは当然,規則性でありますとか傾向性という統計的な傾向性というものが必要になる。それから,現代世界の地誌的考察の地域,エリアスタディーといいますか,地域の独自性のようなものをよく見ていくという,ケーススタディーとかエリアスタディーのような形ですね。その両方が組み合わさる必要があるという。さらに,3番目には,将来に対する視野というものが必要になると。
羽田先生,お願いします。

【羽田委員】  これは簡単な質問なんですけれども,新選択科目(案)のところで,(1)と(2)については「現代世界の系統地理的」,「地誌的」となっているんですが,(3)だけは「現代日本に求められる国土像」というふうになっていて,ここだけ「日本」になっていますね。左側の資質・能力というところでは「世界や日本の望まれる国土像」というふうに「世界」も入っているわけですけれども,(3)がどうして日本だけに限られているのかについて,もし何か意図があるようでしたら教えていただきたいと思います。

【梶山主任視学官】  私から御説明させていただきます。基本的に,(1),(2)におきまして全世界的なものを考えて検討するというところを含めて,この一番下の「世界や日本の望まれる国土像」ということを構築するというところで,貢献しようという態度は育まれるんだと思っております。それをやはり日本の状況というものに着目して地域との関わりという面で考えていくようなところが,総合的な地理アプローチとしての土台として,テーマとしてふさわしいのではないかという観点から,(3)につきましては「現代日本」というところにさせていただいているところでございます。ただ,これについては御議論等いただいて,例えば日本だけではなく世界ということも重要なのではないかというアプローチも当然考えられるのではないかと思います。

【田中主査】  ありがとうございます。
辻中先生。

【辻中委員】  新必修科目でも新選択科目でも入ってはいるんですが,日本の地理教育について詳しいわけじゃないんですが,現代の日本人,現代グローバルな社会に生きる日本の人たちにとって非常に弱いところというのは,世界各国及び日本も含めて人間的側面,簡単に言うと宗教だとか生活の側面での把握が弱い。弱いというのは,日本人は日本語のことを分かっているようだけど,日本は世界の中でどういうような宗教的な位置にあって,日本のような宗教的環境は世界でどういう感じなのかということも分かってないし,日本の仏教も神道も我々ほとんど知識なしに生きてきているわけだけど,その中に組み込まれていると。そして,世界的に見ても宗教のことを,イスラム教だけじゃなくて,いろんな宗教について学習する機会が,本当は倫理なんかであったんだと思うんですが,ほとんどない。それに対して世界でもいろんな問題が起こっていますが,問題だけじゃなくて,いろんなビジネスをする場合でも,理解するというのは結局,人間関係だとか人間のバックグラウンドというのを理解しなきゃいけないと思うんですが,そういう意味でいうと,その辺の宗教だとか民衆生活における人間関係の在り方を世界と日本で相対化しながら把握するというのが,恐らく,多様な世界,生活・文化の国際理解と書いてあると,それに入っているんだろうと思うんですが,日本の理解はやや統計的であったり,表層で見えるところは把握しているけど,その辺の一番根本的なところは我々理解し切れてないんじゃないかという疑問があるんですが,それは新しい新必修だとか新選択ではどの程度入っているのかなというのがちょっと疑問なんですが。

【田中主査】  これについてなかなか答えを出せるわけではないんですけれども,事務局の方で何か御意見があれば伺えればと思いますが。

【梶山主任視学官】  宗教的な課題でありましたり民族的な課題というものに関しては,非常に重要な課題だと思っております。現行の社会科,地理歴史科,それから公民科においても指導されているところでございますが,まず,先ほどおっしゃっていただいたように,原案の新選択科目-資料8のところを御覧いただければと思いますが,そちらの(1)のエというところで民族とか宗教というところを系統地理的に取り上げていくということ。こういうところにおいて,それをテーマにして,世界の状況,それから日本の状況も含めて検討していくということがあるのではないかというように思っております。
それからもう一つが,資料で言いますと資料4でございますね。資料4の7ページ目でございます。こちらの方の「地理総合(仮称)」においての部分でございますが,(2)の「国際理解と国際協力」というところで大きな課題を「地理総合(仮称)」としても取り扱うところでございますが,(2)のイの「地球的な諸課題と国際協力」というところの右の真ん中の思考力,判断力,表現力のところを見ていただければと思いますが,その中でもやはり「民族・領土等」というふうなことで入れております。民族を語るに当たって,やはり宗教的なところというのは重要なところではないかと思います。ただ,御議論いただいて,宗教というのを明確に出していただくというようなことも考えられるのではないかと思ったところでございます。それは御検討いただければと思います。

【田中主査】  どうもありがとうございました。
大分時間も過ぎておりますので,それでは,恐縮ではございますが,地理に関しての御議論はここで閉じさせていただきまして,公民の方へ移らせていただきたいと思います。公民科目の改訂の方向性として考えられる構成についての意見交換に入りたいと思うんですが,まず,事務局から,梶山主任視学官から資料を御説明いただければと思います。よろしくお願いします。

【梶山主任視学官】  はい。済みません,引き続き説明させていただきます。資料2をまず御覧ください。前回に特別チームにおいて御議論いただいた資料ということで,先ほどの地理の関係のところの後,後ろから行きまして2ページ目の資料,済みません,ページ数が付いてなくて恐縮でございますが,その資料をまずは御覧いただければと思っております。
こちらは,前回の特別チームにおいてこちらに基づいて御議論いただいたものでございます。「公共(仮称)」というものを公民科に設けるに当たって,どのような資質や能力を育むかというところに関しましては,真ん中のところを御覧いただければと思いますが,立場や文化によって意見の異なる様々な課題について,その背景にある考え方を踏まえてよりよい課題解決の在り方を協働的に考察し,公正に判断,合意形成するような力を育む。また,課題解決のための論理的な思考力というものを育んでいくということ。それから,二つ目にありますが,様々な課題を捉え,考察するための基準となる概念や理念を,古今東西の知的蓄積を通して習得するような力を育むべきではないかというところ。それから,3番目のマルにありますが,公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度。それから最後にございますが,現代社会に生きる人間としての在り方生き方,こういうことに関する自覚というものを育んでいこうというところ。
こういうところから,矢印のところを御覧いただければと思いますが,国家・社会の形成者として,必要な知識を基盤として選択・判断の基準を形成し,それを使って主体的な選択・判断を行い,他者と協働しながら様々な課題を解決していくために必要な力を養う公民科目というものを設けてはどうかというところがあるわけでございます。
そのことを踏まえまして,右のところを御覧いただければと思いますが,その構成といたしまして,(1),(2),(3)といたしまして分けてはどうかと。(1)というものが,自分と,個人と公共的な社会との関係。また,その中で個人としてどういうふうに判断基準を作っていくかというようなパート。それから,(2),(3)というのが,そういうことで(1)で作っていった,考えていった基準となるようなものに関して,それを活用して考えていく具体的な中身ということ。このようなところで分けていくということで御議論いただいていたところでございます。
これについて御議論いただいていたところでございますが,資料4を御覧いただければと思います。資料4の18ページを御覧いただければと思います。資料4の18ページに先ほどの構成案というものをより詳細にしたものをワーキンググループにおいて提示させていただいたところでございます。
(1)の「公共の扉」については別紙で,それから,(2),(3)についても,内容的なものを中心にそこを充実するというところでございますが,このところを提示させていただいたところ,(2)というのは非常に分厚く見えていて,ここが中心となっていくように見えるが,この(2)というところが,このページを見ていくと,内容的なものを教えていくというような,どちらかというと旧来の考え方に近付いていくのではないかというようなところ,また,その誤解があるのではないかというところから,もう一回考えた方がいいのではないかというところと,このア,イ,ウ,エの関係について,少しその関係性というのを明確にした方がいいのではないかと,そういう御議論を頂いたところでございます。
それを踏まえまして,土井主査とちょっと相談させていただきまして,資料9を御覧いただければと思いますが,この資料9というものに関して新たに作成させていただいて,次のワーキンググループでも御議論いただくということを予定しております。この資料9をちょっと紹介させていただければと思います。
まず,最初に「公共の扉」というところで,アで社会と自分との関係というものを書いておるところでございますが,今まで受け継がれてきた蓄積や先人の取組,知恵などを踏まえて,様々な立場や文化等を背景にして社会が成立していること。それから,「自分らしい生き方」を問い,自らの体験や悩みを振り返ることを通して自らを成長させること。人間は社会的な存在であることを認識し,対話を通じてお互いを高め合うことと,両者によってよりよい集団・社会を作り出していくことについて学ぶと。このようなところが御議論いただいているところでございます。特に,マル1のところに「自らの体験や悩みを振り返ることを通して」というところがございます。こちらは,このようなところが前回の御議論から付け加えたというようなところがあるところでございます。
それから,イのところでございますが,公共的な空間における人間としての在り方生き方というところのパートでございます。これは矢印にありますが,社会に参画し,他者と協働する倫理的主体として個人が判断するための手掛かりというものを育んでいくようなパートになりますが,前回も御紹介したように,マル1で書いてありますような功利主義的な考え方,マル2にありますような行為の動機となる人間的責務としての公正などを重視する考え方,この二つを理解させるということ。その際,人が追究するものは経済的価値に限られるものではなく,多義的であるというようなこと。それから,両者共に活用し,自分も他者も共に納得できる解を見出そうとしていくことが重要であること。行為の結果における効用について,多面的・多角的に考えていくことが重要であること。行為の動機について,個々の動機にとどまらず,それらを継続的に考えていくことにより,人間としての在り方生き方について考えることが重要であると。このようなところをマル1,マル2と併せて考えていくということに関して御議論いただいているところでございます。
例えばその中で,前回の特別チームでも御議論いただいたところでございますが,二つ目のポツにありますように,自分も他者も共に納得できる解を見出そうと考えていくというところがございます。これは最初,たたき台のところではバランスが重要だというところがあったわけでございますが,なかなかバランスというところは考えていくのは難しいという中で,このようなところが考えるための手掛かりとして考えられるんじゃないかというところを入れているところでございます。
また,一番下に,具体的にじゃあどうやってやっていくかというところで,これ,前回も御紹介したところでございますが,思考実験であったり概念的に考える学習活動を取り入れてはどうかというところが書いてありますが,それに加えまして,先ほど御紹介申し上げましたように,(2),(3)というものが内容的なものを教えるということではなく,(1)と(2),(3)の関係性というのを明確にする必要があるんだろうというところで,その際,(3)の取り扱うような課題と連動した課題を取り上げてはどうかというようなところを付け加えているところでございます。
それから,次のページを御覧いただければと思います。(2)において,具体的に,先ほど指導において考えました個人が判断するための手掛かりとして基準を作っていくわけでございますが,それを考えて,実際に解いておく課題といいますか,そのようなことについて指導するのがこの(2)の部分でございます。この(2)のところ,矢印のところを御覧いただければこの内容が明確になるところでございますが,小・中学校社会で習得した法や政治,経済等に関する知識等を基盤に,社会的事象の見方・考え方を働かせながら,「公共の扉」で身に付けた選択・判断の手掛かりとなる考え等を活用して現実の社会的事象について考察,追究するようなパートであるということ。また,次のポツは前回も御紹介したところでございますが,社会を構成する主体となるために,協働の必要な理由,それから協働を可能とする条件,協働を阻害する要因などについて考察を深めるということ。その際,自立した主体として生きるために必要な知識を身に付けるということ。このようなところに勘案しながら,それぞれの主体ということについて指導で取り上げていくということを御議論いただいたところでございます。
その際,ア,イ,ウ,エというところの関係性がちょっと分かりにくいという御議論が前回来あったところでございまして,そのところを土井先生のお力を頂いて修正したものがこちらでございます。
まず,アが法的主体となる私たちということで,様々なイ,ウ,エのような個々の課題を考えていく際のルールというものをアというところで教えていってはどうかと。それを基にイ,ウ,エというものを考えていってはどうかという構成で,このア,イ,ウ,エというのを整理させていただいております。
また,イ,ウ,エについてどのようなことを行うかというのが題材の例として,例えば政治的主体となる私たちであれば,政治参加,世論の形成うんぬん,こういうところがあるわけでございますが,このイでもあり,ウでもあるという両方を併せ持ったようなところがあるんじゃないかというところで,点線がかぶるような形で財政と税とか社会保障とか,そういう両方の観点から考えていくべきようなもの整理して,重複感というものをなくしていってはどうかというところ,こういうところを御検討いただいているところでございます。
併せまして,一番下を御覧いただければと思いますが,様々な主体となる個人を支える家庭や地域等にあるコミュニティということ,この役割というものも併せて触れていくということ。このようなところで(2)を御検討いただいております。
最後に,次のページを御覧いただければと思いますが,(3)といたしまして,(2)におきましてどちらかというと主体というところで考察し,追究していくところでございますが,持続可能な社会づくりの主体というところで,個人を起点として,自立,協働の観点から,今まで受け継がれてきた蓄積や先人の取組,知恵などを踏まえつつ多様性を尊重し,持続可能な地域,それから国家レベルの課題,それから国際社会全体の課題というようなところ,これらの役割を担う主体となることについて,ア,イ,ウというようなレベルで探究的な活動を行っていただくと。このようなところを新科目の構成案として御検討いただいておるところでございます。
ワーキンググループにおける検討状況というのは以上でございます。
このようなところを踏まえまして,恐縮でございますが,新選択科目のことについてどのように考えていくかというところでございますが,資料10を御覧ください。資料10におきまして,新選択科目と「公共(仮称)」という「総合科目」との構成原理の違いというものを整理したものがございます。
ちょっと繰り返しになって恐縮でございますが,「公共(仮称)」の構成原理については,現代社会の課題を捉え,考察するための基準となる概念や理論を,古今東西の知的蓄積を通して習得すると。立場や文化によって意見の異なる様々な課題について,その背景にある考え方を踏まえてよりよい解決の在り方を協働的に考察し,公正に判断,合意形成する力を養うことであり,持続可能な社会づくりの主体となるために,様々な課題の発見・解決に向けた探究を行い,平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な資質や能力を養うこと。
こういうところを構成原理として構成を考えていくわけでございますが,矢印の下を御覧いただければと思いますが,公共的な事柄に自ら参画しようとする意欲や態度を育み,現代社会に生きる人間としての在り方生き方についての自覚を一層深めるような学習を行うということで,新選択科目として「倫理(仮称)」でありましたり,「政治・経済(仮称)」というものを位置付けてはどうかというところでございます。
それぞれに関して,こちらはちょっと読ませていただきますと,倫理に関しては,自立して思索を行うと共に,他者と共に生きる主体を育む,そういう教科で倫理にすると。ただ,現行の状況におきまして,倫理というものが思想史的な知識の習得というものが非常に強い状況がございますので,それに終始させない考える倫理というものになっていくということが必要だと思っております。併せて,「政治・経済(仮称)」につきましては,国家・社会の形成に,より積極的な役割を果たす主体を育む「政治・経済(仮称)」ということで,制度・仕組みの知識の習得に終始しないということ,これが重要なのではないかと考えております。これについては後ほどそれぞれについて御説明させていただければと思います。
その際,現行の選択必履修科目として「現代社会」があるわけでございますが,「現代社会」というものに関しては,この「現代社会」と同様に1科目でもって公民科の教科目標を達成することのできる新必履修科目,「公共(仮称)」を設置することとなっているわけでございます。この科目につきまして,「現代社会」における三つの科目相互の関係でありましたり,学習内容ということに関してクロスオーバーする点もございますので,その発展と捉えることもできるわけでございますので,「現代社会」については科目を設置しないことも含めて検討していってはどうかというところが考えられるんだと思っております。
恐縮でございますが,それぞれの科目について御覧いただければと思います。
まず,倫理でございます。倫理につきまして科目構成の考え方というのは,一つにまとめますと,「公共(仮称)」というものを前提に,自己の在り方生き方と他者などとの関わりを判断するための基準となる考え方を活用し,探究を深める科目構成にすると。思想史の断片的な知識の暗記中心から,「倫理的価値の理解」を基にした「考える倫理」に転換していくことが必要だと考えております。
その際,資質や能力のところを御覧いただければと思いますが,現代社会に生きる人間としての在り方生き方についての自覚,それから,様々な課題を捉え,より深く考察するための概念などを,幅広い知的蓄積を通して習得し思索する力。それから,課題解決のための論理的な思考力というものを,繰り返しになりますが,新必履修科目で育まれた資質や能力を活用し,思索を深める科目としてはどうかというところがございます。
その際,新選択科目の案といたしましては,(1),(2)という二つに分けることができると思っております。(1)でございますが,自己の生き方を見詰め直し,自らの悩みや体験を振り返るというところで,社会との関わりというものを「公共(仮称)」で取り扱うということになっているわけでございますが,それに加えて,自己の課題というものを,他者,集団,生命,自然,こういうことの関わりを視点として捉えて,先哲の基本的な考え方も手掛かりとして,哲学に関する対話的手法等も用いて多面的・多角的に考察し,思索を深めるようなもの。例えば考察の対象としては,人間存在であったり,愛,正義,幸福,こういうような倫理的な価値というものを深く考えていくような内容。それから,(2)といたしまして,そのようなところも活用して,現代に生きる人間の倫理的課題について思索を深め,自己の生き方の確立を図るというところで,課題例としてこちらに挙げられているようなところも深く考えていくということが考えられるのではないかというところが,こちらの構成案として御提示させていただいているところでございます。
それから,次のページを御覧いただければと思いますが,「政治・経済(仮称)」でございます。「政治・経済(仮称)」も基本的には考え方は一緒でございまして,小・中学校などで身に付けた見方・考え方を基盤に,「公共(仮称)」で習得した選択・判断の基準となる概念を活用し,現代日本の政治や経済の諸課題,それからグローバル社会における日本の役割など,正解が一つに定まらない現実社会の諸課題を協働して探究し,国家・社会の形成により積極的な役割を果たす主体を育むような「政治・経済(仮称)」というものに発展させていく必要があるのではないか,このような考え方としてはどうかというところでございます。
資質や能力でございますが,グローバル社会における国家・社会の形成により積極的や役割を果たそうとする意欲や態度。それから,社会に見られる複雑な課題や問題を把握して,身に付けた判断基準を根拠に解決を構想する力。構想したことの妥当性や効果,実現可能性などを踏まえて議論し,合意形成に向かう力。このような力を育み,その際には,これも繰り返しになりますが,「公共(仮称)」で育まれた資質や能力を活用し,社会形成に向かう科目としてこの科目というものを考えていってはどうかというところでございます。
その際,一番右側を御覧いただければと思いますが,新選択科目の構成として二つに分けてはどうかと考えているところでございまして,民主政治の基本原理と現代の経済というところで,政治・経済それぞれの基本原理ということに関して,複雑な現代政治・経済の特質を捉え,その解決策を探究するようなもの。それから,(2)におきまして,現代に特徴的なグローバル化が進む中で複雑な国際政治・経済の特質を捉えていき,その解決策の探究というものをより深めていくというところ。このような構成というものが考えられるのではないかというところ。
この三つのペーパーにつきまして御検討のたたき台ということで御提示させていただいたところでございます。御検討いただければと思います。
以上でございます。

【田中主査】  どうもありがとうございました。
大分時間が押しておりますけれども,ここでの課題は「公共(仮称)」,「政治・経済(仮称)」の分野ですが,新必修科目であります「公共(仮称)」と,それから新選択科目であります「政治・経済(仮称)」若しくは倫理ということについての御議論になります。
最初に,今までの「歴史総合(仮称)」,「地理総合(仮称)」と同じように,新しい科目としての「公共(仮称)」についての意見交換をさせていただければと思うんですが,土井先生の方から少しWGでの御議論を御紹介いただきながら,個人的な御意見も含めて伺えればと思います。

【土井主査代理】  はい。それでは,私の方から2点だけ説明をさせていただきます。
一つは,お手持ちの資料9の2枚目ですね,(2)をどうするのかということがやはり大きな議論になりました。ここのところは,ややもすると従来の「政治・経済」,「倫理」のコンパクト版を詰め込むことになるのではないかという懸念がかなりあったということでございます。そこでどう考えるかということなんですけれども,従来の「政治・経済」あるいは「現代社会」については,高校に在学しているときには生徒から一番面白くないというか,余り関心が持たれない科目なんですけど,社会に出てからは最も勉強しておけばよかった科目と言われるんです。それはどこに原因があるかということを考えますと,一つは,政治にしても経済にしても人間の活動です。いろいろと人が活動している。それを例えばゲームと呼ぶならゲームと呼ぶことができます。この点,今まで高校で何を教えてきたかというと,そのゲームのルールばかりを教えてきて,ゲームのプレーの仕方をほとんど教えていないというのが実情だと思うんです。例えば野球で言えば,このゾーンに投げればストライクだということは教えているんだけれども,ストライクの投げ方は教えない,そういう教育をしてきたのではないか。結局,プレーの仕方というのは,ある程度実践的なことをやらない限り身に付かないものです。かといって,学校そのものでゲームをするわけにはいかないわけです。学校そのものでゲームをやると,学校が政治の場,経済の取引の場になりますので,それはできない。問題は,実際に社会に出てゲームをしていく上で,ゲームのルールの基本とゲームが実際にプレーができるような基礎トレーニングみたいなものをどううまく組み合わせてやるかだと思っています。したがって,(2)はそれがうまくバランスがとれるようにしたいという点に注目しています。
それから2点目は,このアの部分を法的主体と呼ぶかどうかという点は今後議論しましょうと事務局とも話していますここの構造は,政治というゲームがある,経済というゲームがある,様々な領域ごとに人はいろんな活動,ゲームをしているわけです。しかし,それをトータルとして見たときにどういう位置付けを与えているのか。例えば,経済を市場を使ったゲームだと見れば,それだけを教えるんじゃなくて,市場と民主主義という二つの領域はどういう関係になっているのか,どうしてそういうことが人間の活動にとって必要なのかということをより根本にさかのぼって考えましょうというのが,実はアの部分です。それを踏まえた上で,それぞれイ,ウ,エのところでどういうゲームが成立しているのか,その中でどうプレーするのかということを考察しましょうと,そういう構造になっています。ですので,ここに「法的主体」と書いてあると何か法に限定しているように見えますけど,先ほど梶山視学官もおっしゃったように,全体のゲームのルールの基本的な部分を教えるというようにイメージしていただければ,このたたき台案をご理解いただけるかなと思っております。
最初に私の方は以上です。

【田中主査】  どうもありがとうございました。
それでは,お時間少し限りながらですけど,まずは新必修科目であります「公共(仮称)」についてもう少し意見交換させていただければと思います。その上で,もう少し進んだところで「倫理(仮称)」や「政治・経済(仮称)」の新選択科目についても入らなければならないんですけれども,まず,今まで前回のところでも「公共の扉」のお話もして,かなり哲学的概念も御議論いただきながら来たところですけれども,この新必修科目の「公共(仮称)」について御意見を頂ければと思います。権丈先生,お願いします。

【権丈委員】  はい,ありがとうございます。ワーキンググループの方の議論も経て,整理がされてきており,だんだんと方向性が見えてきたように考えております。
それで,少し気になったところがございまして,そちらについて話させていただければと思います。(3)の「持続可能な社会づくりの主体となるために」というところで,少し細かいところで恐縮ですが,題材の例に「持続可能な社会保障」という言葉がございます。見出しで用いられたキーワードを使われたということだと思いますが,社会保障についてはほかの表現がよいのではないかと考えています。
二つほど理由がございまして,持続可能な社会保障といいますと,財政社会保障の政策の分野では社会保障の抑制・削減という意味で使われることが多い,一定の政策の方向性を示している用語になります。社会保障については,最近はむしろ機能強化が言われたりもしておりまして,政策が揺れているということがあります。ここではできるだけ政策・政治的な揺れから離れた表現の方がよいように思っております。
それからもう一つの理由としまして,ここの題材の例で並んでおりますのが,「地域の活性化」,「安全に配慮したまちづくり」と,それぞれ,トピックと,手段についての目標,望ましい姿が描かれております。社会保障の場合は,社会保障の持続可能性自体が目標なのではなくて,社会保障,特に中心となっております社会保険によりまして,疾病,失業,長寿等のリスクに協働して備え,安心して暮らせる社会を実現するということが目標になると思います。
そういうわけで,文言を少し変えていただいた方がいいかなと思います。例えば安心した暮らしのための社会保障と,そういう表現が考えられるかなと思います。
そして,社会保障に関しては,(3)だけではなくて(2)のところにも入ってございまして,そこでは,「財政と税,社会保障」という形で,政治と経済に関わるという整理をされると伺ったところですが,そちらの部分でも取り上げられるということですので,その際には,社会保障の理念や内容についてしっかり学んでほしいと思います。年金保険や医療保険等の意義や役割を具体的なイメージを持って理解できるようにすることが大切だと考えます。制度の名称や歴史の暗記をしてほしいわけではないのですが,知っておくべき知識をしっかりと学んでおくということはやはり欠かせないのではないかと思います。その上で(3)の発展的学習をしてほしいと考えます。
それからもう一つ,これは質問にもなるのですが,「持続可能な社会」のところに環境問題が入っていないので,入れた方がよいと考えておりますが,これはもしかすると(1)の「公共の扉」のところで,例えばゲーム理論などを用いたりしながら扱うという,そういう理解でよろしいのでしょうか。最後の方は質問です。
以上でございます。

【田中主査】  では,御質問に関しては事務局の方からお答えいただければと思います。

【梶山主任視学官】  はい。(3)の題材の例として挙げさせていただきましたのは,本当に例ということでございます。これに限られるというものではなく,これ以上に当然入っていくものだと思います。
環境につきましては,先生おっしゃっていただいたとおり,今まで(1)のところの具体的な例として,環境保護とか生命倫理というものを主に挙げておりましたので,こちらの方には入れておりませんでした。ただ,両方で扱えるような課題ということはあるのではないかと思います。

【権丈委員】  ありがとうございました。

【田中主査】  ありがとうございました。この「公共(仮称)」の科目と,それから新しい選択科目になります「政治・経済(仮称)」若しくは新しい倫理との関係も,先ほどと同じく,「政治・経済(仮称)」を学んでいれば「公共(仮称)」を学ばなくていいということではやはり困る。ここの仕組みも工夫が必要なわけですね。そのことも含めて,それでは,辻中先生,先でした。辻中先生,橋本先生。

【辻中委員】  済みません。この「公共(仮称)」という科目を,先ほどちょっと土井先生から言われたように,「現代社会」のようにならないようにするということが必要だということは非常に感じるわけですが,「現代社会」も非常にいい名前だと思うんだけど,実際問題として学生はそう受け取っているとしたら,これ,自分たちの問題としてなかなか受け止められないことだろうなというのがちょっとあるんですね。
もう一つは,例えばこの「公共(仮称)」という科目を英語で海外の人に表現するとき,どうするんだろうかということを考えると,ちょっとこれ,パブリックにするとか,パブリック・ソサエティー,ちょっとここ,ぴんとこないわけですが,それに合う海外の言葉というのは恐らくシチズンシップであったり,シビル・ソサエティーであったりするはずなんですね。というのが私の理解ですが,前もちょっと申し上げたんですけど,やっぱり日本の社会はもう少し市民社会というような言葉を前面に押し出していかないと,なかなか国際社会の中でうまくやっていけないんじゃないかと僕は個人的には考えているので,具体的な提案としては,「公共の扉」って,公共って何ですかということに学生はなると思うんですね。急に公だよと言われて,何か今まで公ガイドが足りなかったのかなということで,言いたいことは多少分かるんですが,ここにもっと,公共というのは結局,自分たちが作っている社会ですよと。自分たちが作っているんですよと。だから,高校の中にも中学の中にも公共はあるわけで,クラブであっても,教室であっても,そこにあるわけですね。それは正に,参政権はまだなくても公共があるわけですよ,公共空間が。公共空間は海外では市民社会というふうな言い方をするわけですけどね。だから,公共的な空間というのは市民,市民が嫌なら人々でいいと思うんですが,人々の作る社会なんだと。そこが無秩序でないということをもう少し言わないと,教室の中にもあるわけですよ,公共的空間というのは。学校の中にもたくさんあるわけで,そういうもので自分たちが作っている,自分たちで秩序立てている社会なんですよというのを出していかないと,そういう形になってしまうんじゃないかという危惧がちょっと私にはあります。
できれば,「公共の扉」のところで,公共的な空間というのはみんなが作る市民の社会だという形で,外だけにあるんじゃないんですよということを出したらどうかというのが一つと,それから,その下に政治的主体,経済的主体,法的主体と,これはこれで結構だし,メディアだとか知的主体というのもいいんだけど,その最後に「様々な主体となる個人を支える家庭や地域等にあるコミュニティ」というものがあって,本来ここだったら「市民社会」と書けばそれでおしまいなのに,そういう書き方をしているわけですが,で,その横を見るとNGO,NPOとか出てくるわけですけど,公民科目でもNGO,NPOというのは出てきていますから,やっぱり「市民社会」であるとかそういう言葉を使わないとちょっと不自然じゃないかなと。だから,市民社会の主体,社会の主体というのが全体を覆う言葉であるはずではないのかなというのが私の意見です。

【田中主査】  ありがとうございます。
では,橋本先生,それから川上先生に伺います。

【橋本委員】  ありがとうございます。18歳選挙権等もあり,(2)の部分の期待というのが非常に大きいのではないかと思います。一方,前回も発言させていただきましたけれども,内容によっては,例えば消費者教育というようなことであると,私は家庭科のWGの方に所属しておりますけれども,男女必修になって20年以上,契約と消費者信用については具体的に扱うということでやっております。ただ,それは視点とすれば,個人を主体とする家庭生活の面から見ていくという面があるわけです。ところが,例えば消費者基本法から,今,消費者市民社会の構築ということがうたわれてきていますけれども,やはり家庭科ではその辺になりますと,例えば,様々なものの選択購入というような中で何を買うかということになると,フェアトレードの問題とか,それから実際,企業に課題がありますよってお知らせするとか,そういう内容になりますともう家庭科の範疇を超えていまして,やはりこの「公共(仮称)」に期待する部分が非常に大きいわけです。となると,やはり「公共(仮称)」では,(2)を基礎としながら,(3)をしっかりやっていただくということが非常に重要なのではないかなと思っております。

【田中主査】  川上先生,お願いします。

【川上委員】  ありがとうございます。私は別の観点からちょっとコメントさせていただきたいと思うんですけれども,新しい「公共(仮称)」が成功するかどうかというのは,もちろんこれは教科書ができるわけで,採択制度に基づいていろいろな教科書を検定して選ばれると思うんですけれども,むしろ,どんな教科書が選ばれても外部のところとどういうふうに連携ができていくかというのは,「公共(仮称)」が生徒たちが非常に面白い科目としてやっていくかの鍵になるような気がいたします。例えばNIEですけれども,去年の秋田大会でしたかね,体験授業ということで秋田の生徒たちの事例があったんですけれども,北海道新聞と神戸新聞に日本とオーストラリア,EPAの例,北海道は農業団体寄りの論説になり,神戸は消費者団体寄りの論説になり,そういうことを比較するわけですね,秋田の子供たちが。で,様々なそういう立場を知る。そうするとやっぱり,先生が自分で選んで,地方新聞を選んで,たまさかそういうものを選んでくるというのは大変だと思うんですね。そういう意味では,例えば新聞協会と連携して調べ学習というのはICTでもうできるわけですから,今からそういう連携をとって様々な立場の社説を比較したり,あるいはNIEの提言書の中には大飯原発の賛成・反対で二つの立場が載っているわけで,そういったものをどんな教科書であっても先生方がある程度調べられるような,そういう連携。これはほかの団体も同じだと思います。明推協との連携もそうだし,ほかのところとの連携もそうですけれども,そういったことを今からきちんとやっていくと,子供たちが非常に生き生きとした「アクティブ・ラーニング」ができるかなと。それは実は「公共(仮称)」には限らず,新聞協会,提言書にも出ていたと思うんですけど,国語もそうだし,理科もそうだし,保健体育もそうだし,情報もそうだし,いろいろなところでICT,調べ学習のためのデータベースをより充実させていくということも両輪でやっていくということが,「公共(仮称)」という科目を成功させるための一番の肝になるかなという印象を持っていますので,そこも並行して議論していただきたいというふうに思います。
私からは以上です。

【田中主査】  ありがとうございます。
引き続いて新選択科目の方にも少し踏み込んでいただいてもと思いますので,「倫理(仮称)」,それから「政治・経済(仮称)」もありますが,一ノ瀬先生,お願いします。

【一ノ瀬委員】  必修の「公共(仮称)」と,それから選択科目の「倫理(仮称)」,「政治・経済(仮称)」,これがどういう関係になるのかということは非常に重要な問題だと思うんですが,私もワーキンググループの方にも出ているので,そのときにちょっと伺った話ですと,やはり「公共(仮称)」という科目に対応する受験科目が今のところ存在してないし,これからも直ちに存在し得るようになるかということはちょっと疑問なわけですね。そうなると,「公共(仮称)」という科目に生徒たちが熱意を持って取り組んでくれるかどうかということが非常に問題になる。私はそのときに,「公共(仮称)」を勉強することによって選択科目の「倫理(仮称)」や「政治・経済(仮称)」に対する関心を喚起できれば,それなりに科目としての意味を持ち得るだろうということを申し上げましたけれども,それは非常に間接的な効用で,これは高大一体という問題として考えていくべきかなと思っています。
それでもう一つなんですが,「公共(仮称)」に関して,公共プロパーに関してなんですけれども,大きい三つの柱のうちの2番目,これは土井先生がいろいろ工夫されて新しくパワーポイントのファイルを作っていただいたと思うんですが,どうしてもここの2番目の「自立した主体として社会に参画し,他者と協働するために」というところが中心になってしまいがちで,しかも,ここはどちらかというと知識を教えるということになりがちなんですけれども,それに対して1番の「公共の扉」と3番の「持続可能な社会づくりの主体となるために」というところをどう扱うかということが問題になるんですが,私はワーキンググループのときにも申し上げたんですけれども,まずは,この(1)と(2)と(3)の時間配分をある程度くっきりさせて,私は,この(1)の「公共の扉」というのはかなり時間を割いていいんじゃないかと思います。特に(1)と(3)の連携ということで,先ほど事務方の方もおっしゃったんですが,環境の問題,生命の問題というのをいわば橋渡しする問題としてかなり重視・強調するというのは一つのやり方かなと思います。やはり地球温暖化,それから大気汚染の問題,それから再生医療,それから生殖医療ですね,そうしたものは公共の世界,これから生きていくジェネレーションの方々にとってはかなり深刻な問題なので,やっぱり環境の問題,生命の問題というのはここに書かれている以上に強調すべき主題であると思います。
ついでながら,その二つの主題は別個ではなくて,間に動物倫理というのを挟みますと,動物倫理というのは環境の問題でもありますし,生命の問題でもありますので,動物倫理というのを挟むとうまくスムーズに両者を結合させることができるのではないかと私は思っております。
以上です。

【田中主査】  ありがとうございます。
羽田先生,お願いします。

【羽田委員】  最初の「公共の扉」というところから見ていくと,さっき土井先生は今まではゲームのルールを教えているとおっしゃっていましたが,そこから完全に抜け切っていない気がします。最後(3)は「持続可能な社会づくりの主体となるために」となっていますが,これをそのまま読むと,現在,私たちが生きている社会は持続可能ではないということを言っていることになります。ということは,つまり,現在,我々が生きている世界には非常にたくさんの問題があるということが,(3)の前提になります。その前提をどこで教えるのかをはっきりさせねばなりません。
私の意見は,「公共の扉」の最初で,自分たちが生きている世界について生徒たちが一生懸命考える機会を作るとよいということです。今,何が問題であって,なぜこういう事態が起きているのかということについて,もう少し具体的に最初に学べるとよいと思います。その後で,公共的な空間とは何なのか,そこで私たちはどう生きるのかというようなことを理論的に学び,問題がいろいろあるということを知った上で,今,自分たちが置かれている場を十分に理解して,最終的に持続可能な社会づくりをどうすればよいか考えていくのです。このようなストーリーにしないと,今のままだと(1)と(2)が理論的過ぎて,いきなり(3)で持続可能な社会づくりという話に持ってゆくのが不自然な感じがします。

【田中主査】  ありがとうございます。
大分時間も押してまいりましたけれども,最後に私の方からもちょっと伺いたいことがありまして,WGの中でも御議論がちょっと出たということなんですけれども,「政治・経済(仮称)」に関係するのかもしれないんです。「公共(仮称)」よりも「政治・経済(仮称)」かもしれないんですが,「政治・経済(仮称)」を学ぶ中で,国際関係だけではなく地政学,ジオポリティクスというような概念も必要ではないかという御意見が出たということだったので,ちょっと気になっていまして,政治学者としては,地政学というのは,ジオポリティクス,かなりイデオロギー的な意味を持っていた時代もあるので,今日的にどうなのかということもあって,そこら辺も少し専門のお立場の御意見も伺いたいと思っております。じゃ,古城先生と辻中先生,少し御意見を頂ければと思います。

【古城委員】  今,田中先生がおっしゃったように,地政学という言葉を教えるべきじゃないかと言われた,そのコメントの意味がどういうものかというのが,ちょっと私,分からないので,そのことが分からないとなかなかコメントしづらいんですけれども,もしも地理的な環境が例えばいろいろな国の政治なり何なりに影響を与えたり,あるいは考え方に影響を与えるという,かなりニュートラルな形でとるとすると,先ほど出ていました地理の中にもそういう要素は入っておりますし,それから,歴史のところにもそういう要素はもう入っていると思うんですね。殊更にそれを取り出して教えるとなるとかなり難しいというか,先生方にそれを,「どこが重要だからこれを教えてください」って言うのかというのはちょっと難しいんじゃないかと思うんですよね。そういうコメントがどういう文脈で出てきたのかというのはちょっと分からないんですけれども,私は,地理的な要因がそういったいろんな環境の一つとしてそれぞれの文化とかそういうものを決めているとか,あるいは国の政治にも反映しているというんでしたら,今までの中でも入っていないとは言えないんじゃないかというふうに思います。

【田中主査】  よろしいですか。私の理解でも,世界の理解というものが国家を主体とした国際関係だけではなくて,様々な自治体であるとか企業とか人々,NPO,NGOなどのアクターを考えたようなトランスナショナリゼーションという,脱国家間の国際関係というようなトランスナショナルとインターナショナルの両方の関係が今日では政治学でも国際環境論でも議論されているところですね。その中で何か殊更に地政学と言うと,そこが非常に国家主体という,国家の戦略を考えるような感じがしてしまうので,非常に若い子供たちに,それも,そこの深い知識がない高校の先生方,学問的な論争を御存じない高校の先生方がそこを教えるのは,ちょっと危ないような気がいたしました。ということもありましたので,少しそこを伺いたかったんですね。

【辻中委員】  今,田中先生がおっしゃったとおりのことを私も思っていて,地政学自体がどうのこうのというよりも,国家だけで政治を考える考え方というのは,国家も重要であるというのは言うまでもないことなんですけれども,ちょっとバランスを欠くと。人々,市民のレベル,そして地方のレベル,中央と地方のレベル,そして国際社会の中にいろんな形でトランスナショナルといいますけど,国家を超えて動くいろんな主体,それも併せて考えなきゃいけないので,殊更そのことを地政学というふうに言ってしまうと非常に偏った感じがしますので,気を付けた方がいいんじゃないかと思いました。

【梶山主任視学官】  1点だけ申し上げさせていただけば,資料3の23ページを御覧いただければと思います。23ページの下から二つ目のところ以降などに,具体的に会議において――地理教育のところではございますが,ジオポリティクスについて議論された内容が載っておりますので,こちらもちょっと御覧いただければと思います。

【辻中委員】  ちょっとよろしいですか。これはこれでよく分かりますけれども,地理のところでもちょっと申し上げたけれども,地図とか地理の見方というのは非常に多面的に見なきゃいけない。我々,確かに抜けている。これ,ジオポリティクスと言うかどうかはともかくとして,反対側から地図を見たり,いろんな形で地図を見たら,日本だとか国際政治,国際社会がどう見えるかというのは非常に重要なので,そういう形で僕は取り上げるべきではないかと思っております。

【田中主査】  ここの二つの御発言は分かりましたけれども,先ほど我々が申し上げたことと認識はあんまり変わらないと思います。やはり国家だけの戦略で考えるということをあんまり若いときから教えることには弊害もあると。広く世界を見ていただく必要があるんだろうと思っております。
ここに関しては,新選択科目と新必修科目,「公共(仮称)」の関係性について,まだ十分に御議論いただけてないと思うんですが,もう少しこれ,宿題にさせていただければと思います。
それで,先ほど井田先生,一ノ瀬先生からも御指摘があったとおり,特に一ノ瀬先生がおっしゃっていた,受験科目が「公共(仮称)」というものがないとか「倫理」がないとか,「政治・経済」,「社会」という受験科目はあるけれどもみたいなことがあって,この辺り,我々としてもう少し考える必要があると思います。例えば単位数をどうするかということも今後の宿題だと思うんですが,それから,例えば大学側に求めるときに,科目としては全てを含んでもらう必要がある。中で選択ができるとしてもですね。「公共(仮称)」と「倫理(仮称)」と「政治・経済(仮称)」というようなものを一つの領域として,学生,受験生が選択できるとしても,何かそれらを含むような出題の体制というようなものを考えていただかないと,やはり「公共(仮称)」は受験科目にないというだけで,もう高校生は全然学ぶ気がなくなってしまうことがありますから,この辺りは結構大きな宿題だろうと思います。
事務局は何かございますか。この後,まだ御説明いただかなきゃいけないことがありますので,時間超過して恐縮ですが,ここで一応,この「公共(仮称)」について,それから「政治・経済(仮称)」や「倫理(仮称)」についての御議論を閉じさせていただいて,次に参りたいと思います。
教育課程部会におきましては,特別支援教育,それから情報に関わる資質・能力,健康・安全等に関わる資質・能力などについて各教科に関わる議論がされておりますので,その状況について簡単に事務局より御紹介いただければと思いますので,済みません,少し時間を超過して恐縮ですが,よろしければ事務局の方からお願いできればと思います。

【小野教育課程企画室専門官】  失礼いたします。お時間が押しておりますので,ごく簡単に御紹介させていただければと思います。
お手元の資料11でございますけれども,こちらがただいま主査から御紹介いただきましたとおり,総則・評価特別部会を中心に,各教科横断的な事項に関しましてそれぞれのワーキンググループ等でこういった検討をお願いしますということを御紹介しております。
ざっと入れている事項を御紹介させていただきますと,右下にページの通し番号を入れておりますが,1ページ目をめくっていただきますと,2ページ目以降に,特別支援教育部会における検討事項についてというものがございます。特別支援教育部会におきましては,特別支援学校における教育の在り方のみならず,各教科の目標を実現する中での困難さ,障害を持つことによる困難さへの配慮ということにつきましても,幼・小・中・高通じてどのようなことが必要かということを御議論いただいております。
めくっていただきまして,通し番号の19ページ目,右下の数字でございます。各教科等における障害に応じた配慮事項についてということで,上の段にございますが,これまで,障害に応じた配慮事項につきましては総則の中で全体的に記すというものがございましたけれども,今回は,総則に加えまして,各教科等別に困難に応じた配慮事項を入れていくべきではないかという観点から検討をお願いしますということを入れております。
通し番号20ページ目以降に,幾つかの教科の中における具体的な例というものを挙げております。
それから,通し番号23ページ目以降,情報に関わる資質・能力について載せております。24ページ目にICT活用の特性ということで3点挙げております。ただICTを活用すればいいということではなくて,こうした強みをどのように各教科の学びに生かしていくかということで,通し番号25ページ目と26ページ目に,25ページ目には理科の問題解決のプロセスを例示としまして,また,26ページ目には問題解決のプロセスを「アクティブ・ラーニング」の視点に立ったICTの効果的活用の例という形で掲載しております。こういったICTの活用につきましても,各教科の学習プロセスの検討の中で御検討いただきたいというようなことをお願いしているところでございます。
またページが飛んで恐縮でございます。通し番号70ページ目以降に,健康・安全等に関わる育成すべき資質・能力というものがございます。この健康・安全の安全という部分につきましては,本特別チーム及び社会科等のWGにも関係の深い防災というテーマも入っております。こちらにつきましては,71ページ目以降に安全に関わる資質・能力の育成ということでいろいろ論点をまとめておりますけれども,73ページ目の上の段に安全に関する資質・能力のイメージというものを3本の柱に整理しておりますけれども,個別の教科だけではなくて,先ほどもお話ありましたクロスカリキュラム的な考え方に立ちまして,様々な教科横断的なカリキュラム・マネジメントの中で安全に関する資質・能力を育成していこうという考え方を挙げております。
同様の観点を,食育の観点あるいは保健教育の観点ということについてもまとめているというのが,この資料11でございます。
主に各ワーキンググループにおいて御検討いただくことでございますけれども,こういった視点からの御検討も視野に入れていただければということで御紹介させていただきました。
以上でございます。

【田中主査】  どうもありがとうございました。済みません,時間が押してしまいましたので。御丁寧にありがとうございました。
それでは,本日用意いたしましたのはここまででございますが,今の点についての御質問があればですけれども,よろしければ先に進ませていただきます。
時間も押しておりますので,本日はここまでで御議論を閉じさせていただきたいと思いますが,この後,事務局で論点ごとの整理をお願いいたしまして,頂いているコメントもある程度まとめていただければと思います。かなり宿題が多く出ております。それから,私の司会の不手際もありまして,地理と「公共(仮称)」,また,「倫理(仮称)」については少し時間が足りなくなってしまいましたので,先生方の御意見をペーパーで,メールでも結構ですし,事務局の方にお送りいただければ,また反映させていただければと思います。
本日の議論はここまでとさせていただきますが,次回以降について事務局から御説明いただければと思います。よろしくお願いします。

【大内学校教育官】  はい。長時間にわたりましてありがとうございました。次回以降の日程ですが,調整の上,追って御連絡をさせていただきます。また,この特別委員会の冒頭,第1回の際に,年度内を目途にというふうにお話し申し上げておったかと思っておりますが,ちょっと年度をまたぎまして,引き続きお力添えを頂ければと考えておりますので,改めまして日程調整をさせていただければと思っております。
それから,主査からもお話ございましたけれども,御意見につきまして,ふだんこちらの方から開催通知を出しておりますメールの方に,教育課程総括係宛てに本日の御意見等につきまして頂ければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【田中主査】  どうもありがとうございました。
大変活発に御議論いただきましたので,大変勉強になりましたけれども,大変司会の不手際もございまして時間が超過してしまいまして,大変失礼いたしました。
それでは,これで第3回目のこの特別チームの御議論を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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