理科ワーキンググループにおけるとりまとめイメージ(案)

1.現行学習指導要領の成果と課題

○ 理科においては、小・中・高等学校を通じ、発達の段階に応じて、子どもたちが知的好奇心や探究心をもって、自然に親しみ、目的意識をもった観察・実験を行うことにより、科学的に調べる能力や態度を育てるとともに、科学的な認識の定着を図り、科学的な見方や考え方を養うことができるようにする観点から、その指導の充実を図ってきたところである。

○ その結果、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)(2012年)では、科学的リテラシーがOECD加盟国中1位となるほか、読解力、数学的リテラシーを加えた三分野全てにおいて、平均得点が比較可能な調査回以降、最も高くなっているなどの成果が見られる。また、文部科学省においては、先進的な理数教育を行う高等学校等をスーパーサイエンスハイスクールとして指定し、支援を行っており、これらの学校では、課題研究などに積極的に取り組み、成果をあげている。

○ 一方、理科を学ぶことに対する関心・意欲や意義・有用性に対する認識については、国際的にみても、また国語や算数・数学と比較しても肯定的な回答の割合が低い状況にある。

○ また、小学校、中学校ともに、「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」に課題がみられることが明らかになっており、高等学校については、観察・実験や探究的な活動が十分に取り入れられていないなどの指摘がある。

○ 今回の学習指導要領の改訂においては、これらの課題に適切に対応できるよう改善を図っていくことが必要である。

2.育成すべき資質・能力を踏まえた教科等目標と評価の在り方について

(1)教科等の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 各教科等を学ぶ意義を明確化するため、今回の改訂では、各教科等において身に付ける資質・能力について整理することとしている。これらの資質・能力の育成のために中核的な役割を果たすのが、各教科等の本質に根ざした「見方・考え方」である。総則・評価特別部会においては、「見方・考え方」について、「様々な事象を捉える各教科等ならではの視点」と「各教科等ならではの思考の枠組み」であるとされたところである。

○ 習得・活用・探究を見通した学習過程の中で、各教科等の本質に根差した「見方・考え方」を働かせながら、知識を構造化して身に付けたり、技能を習熟・熟達させたり、思考力・判断力・表現力等をより豊かなものとしたり、社会や世界とどのようにかかわっていくかという態度等の育成を図っていくことが求められている。

○ 理科においては、従来、「科学的な見方や考え方」を育成することを重要な目標として位置付け、資質・能力を包括するものとして示してきたところである。しかし、今回の改訂では、資質・能力をより具体的なものとして示し、「見方・考え方」は資質・能力を育成する「視点と思考の枠組み」として全教科を通して整理されたことを踏まえ、理科における「見方・考え方」を改めて検討することが必要である。

○ この見方(様々な事象等を捉える各教科等ならではの視点)については、理科を構成する領域ごとの特徴を見出すことが可能であり、「エネルギー」領域では、自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉えることが、「粒子」領域では、自然の事物・現象を主として質的・実体的な視点で捉えることが、「生命」領域では、生命に関する自然の事物・現象を主として多様性と共通性の視点で捉えることが、「地球」領域では、地球や宇宙に関する自然の事物・現象を主として時間的・空間的な視点で捉えることが、それぞれの領域における特徴的な視点として整理することができる(資料1-1)。

○ ただし、これらの特徴的な視点はそれぞれの領域固有のものではなく、その強弱はあるものの他の領域において用いられる視点でもあり、また、全体と部分の関係や原因と結果の関係など、これら以外の視点もあることについて留意することが必要である。これらを踏まえれば、理科という教科全体としての見方を簡潔に説明する観点からは、単に列挙するのではなく、「自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え」のように、科学的な視点の例示として主なものを掲げることが適当と考えられる。

○ また、理科の学習における考え方(思考の枠組み)については、課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究の過程を通じた学習活動の中で、比較したり、関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて、事象の中に何らかの関連性や規則性、因果関係等が見出せるかなどについて多面的に考えることであると思われる(資料1-2)。この「考え方」は思考の枠組みであり、「~的に考えることができる力」や「~的に考えようとする態度」のように資質・能力としての思考力や態度とは異なることに留意が必要である。

○ 理科の学習においては、この理科における「見方・考え方」を働かせながら、知識・技能を習得したり、思考・判断・表現したりしていくものであると同時に、このような学習を通じて、理科における「見方・考え方」が更に成長していくと考えられる。なお、「見方・考え方」は、まず「見方」があって、次に「考え方」があるといった順序性のあるものではないことも付言しておく。

(2)小・中・高を通じて育成すべき資質・能力の整理と、教科等目標の在り方
○ 今回の学習指導要領の改訂に際しては、幼児教育及び小学校低学年における生活科等において育成される資質・能力との関連について十分に意識するとともに、これらの基礎の上に立って、小学校、中学校、高等学校それぞれの学校段階において、理科でどのような資質・能力を身に付けさせるのかを明確にしていくことが必要である。

○ 本WGにおいては、学校段階ごとに育成すべき資質・能力について、以下のとおり整理した(資料1-3)。学校段階ごとの理科の教科目標についても、このような資質・能力の整理に基づき、今後検討していくことが求められる。

(小学校)
◎ 自然に親しみ、理科における見方・考え方を働かせて、問題を見いだし、見通しをもって観察・実験などを行い、より妥当な考えを導き出す過程を通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を養う。
(1) 自然の事物・現象に対する基本的な概念や性質・規則性の理解を図り、観察・実験等の基本的な技能を養う。
(2) 見通しをもって観察・実験などを行い、問題解決の能力を養う。
(3) 自然を大切にし、生命を尊重する態度、科学的に探究する態度、妥当性を検討する態度を養う。

(中学校)
◎ 自然の事物・現象について、理科における見方・考え方を働かせて、問題を明確にして、見通しをもって課題を設定し、観察・実験などを行い、根拠に基づく結論を導き出す過程を通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を養う。
(1) 自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の基本的な理解と科学的探究についての基本的な理解や観察・実験等の基本的な技能を養う。
(2) 見通しをもって観察・実験などを行い、科学的に探究したり、科学的な根拠を基に表現したりする力を養う。
(3) 自然を敬い、自然の事物・現象にすすんでかかわり、科学的に探究する態度と根拠に基づき判断し表現する態度を養う。

(高等学校)
◎ 自然の事物・現象について、理科における見方・考え方を働かせて、見通しをもって課題や仮説を設定し、観察・実験などを行い、根拠に基づく結論を導き出す過程を通して、事象を科学的に探究するために必要な資質・能力を養う。
(1) 自然の事物・現象に対する概念や原理・法則、科学的探究についての理解や、探究のために必要な観察・実験等の基本的な技能を養う。
(2) 見通しをもって観察・実験などを行い、科学的に探究したり、科学的な根拠を基に表現したりする力を養う。
(3) 自然に対する畏敬の念を持ち、科学の必要性や有用性を認識するとともに、科学的根拠に基づき、多面的・総合的に判断する態度を養う。

○ また、これらの資質・能力について、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力や人間性等」の三つの柱に沿った整理を行い、資料1-4のとおり本WGとして取りまとめたところである。これらの資質・能力が確実に育成されるよう、学習指導要領の記載内容に適切に反映されることが必要である。

○ 資質・能力の第1の柱である「知識・技能」では、自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の理解、科学的探究や問題解決に必要な観察・実験等の技能などが求められる。
  具体的には、例えば中学校では「自然事象に対する概念や原理・法則の基本的な理解」、「科学的探究についての基本的な理解」、「探究のために必要な観察・実験等の基礎的な技能」などの項目が挙げられる。

○ 資質・能力の第2の柱である「思考力・判断力・表現力等」では、科学的な探究能力や問題解決能力などが求められる。
  具体的には、例えば中学校では「自然事象の中に問題を見いだして見通しをもって課題を設定する力」、「計画を立て、観察・実験する力」、「得られた結果を分析して解釈するなど、科学的に探究する力と科学的な根拠を基に表現する力」、「探究の過程における妥当性を検討するなど総合的に振り返る力」などが挙げられる。

○ 資質・能力の第3の柱の「学びに向かう力や人間性等」では、主体的に探究しようとしたり、問題解決しようとしたりする態度などが求められる。
  具体的には、例えば中学校では「自然を敬い、自然事象にすすんでかかわる態度」、「粘り強く挑戦する態度」、「日常生活との関連、科学することのおもしろさや有用性の気付き」、「科学的根拠に基づき的確に判断する態度」、「小学校で身に付けた問題解決の力などを活用しようとする態度」などが挙げられる。

○ なお、小学校の「思考力・判断力・表現力等」については、学年ごとに記載しているが、これは当該学年において育成することを目指す力のうち主なものを示したものであり、実際の指導に当たっては、他の学年で掲げている力の育成やそのための主な学習活動(比較、関係付け等)を行うことについても十分に配慮することが必要である。

○ また、高等学校においては、数学と理科にわたる教科として「理数科」が設定されているところである。教科「理数科」において育成すべき資質・能力については、本WG及び算数・数学WGにおける検討の状況を十分に踏まえつつ検討することが求められる。

(3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 上記(2)に掲げた資質・能力を育成していくためには、学習過程の果たす役割が極めて重要である。理科においては、資料1-5に高等学校の例を示しているとおり、課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究の過程を通じた学習活動を行い、それぞれの過程において、同じく資料1-5に掲げてあるような資質・能力が育成されるよう指導の改善を図ることが必要である。

○ この学習過程の例で示されている資質・能力については、「思考力・判断力・表現力等」として掲げてある探究の過程を実施するための力を中心に、「知識・技能」や「学びに向かう力、人間性等」についても加えた上で、それぞれの過程において主に必要とされる資質・能力に細分化して示したものである。

○ なお、この学習過程については、必ずしも一方向の流れではなく、必要に応じて戻ったり、繰り返したりする場合があること、また、授業においては全ての学習過程を実施するのではなく、その一部を取り扱う場合があることに留意する必要がある。

○ また、意見交換や議論など対話的な学びを適宜取り入れていくことが必要であるが、その際にはあらかじめ自己の考えを形成したうえで行うようにすることが求められる。

○ 小学校及び中学校においては、それぞれの発達の段階に応じて、ここに掲げている学習過程の一部を省略したり統合的に取り扱ったりすることはあり得るものの、基本的には高等学校の例と同様の流れで学習過程を捉えることが必要である。

(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方
○ 「目標に準拠した評価」の実質化を図るとともに、教科・校種を越えた共通理解に基づく組織的な取組を促す観点から、観点別評価の観点については、資質・能力の三つの柱を踏まえたものとすることが求められている。

○ このため、本WGにおいては、上記(2)に掲げた資質・能力を踏まえつつ、資料1-6のとおり観点を整理したところである。

○ この点に関し、「知識・技能」については、事実的な知識のみならず、構造化された概念的な知識や、一定の手順に沿った技能のみならず、変化する状況に応じて主体的に活用できるまでに習熟した技能をも含めた広範な意味で用いられていることに留意することが必要である。

○ また、資質・能力のうち「学びに向かう力、人間性等」の部分については、「主体的に学習に取り組む態度」として観点別評価を通じて見取ることができる部分と、観点別評価や評定にはなじまず、個人内評価を通じて見取る部分があり、ここでは観点別評価として見取るべきものを掲げていることに留意する必要がある。

○ なお、これらの資質・能力を主にどのような場面で評価すべきかについては、資料1-7に示したとおりである。実際の評価に際しては、資質・能力の三つの柱について、毎回の授業で全てを見取るのではなく、カリキュラム・マネジメントの考え方のもと、単元や題材を通じたまとまりの中で、学習・指導内容と評価の場面を適切にデザインしていくことが求められる。

3.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実

(1)科目構成の見直し
○ 次期学習指導要領の改訂においては、別途「高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の在り方に関する特別チーム」において検討が行われている新科目「理数探究(仮称)」が、現行の理科における「理科課題研究」、数学科における「数学活用」及び理数科における「課題研究」の内容を踏まえ、発展的に新設されるものであることから、「理科課題研究」については廃止するものとする。

○ 高等学校理科における他の科目については、各高等学校における開設状況や履修状況が望ましい方向に向かっていることから、現状通りとすることが適当と考える(※1)。

(2)資質・能力の整理と学習過程の在り方を踏まえた教育内容の構造化
○ 上記2.(2)に掲げた学校段階ごとに育成すべき資質・能力、これらを「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力や人間性等」の三つの柱に沿って整理したもの、及び上記2.(3)に掲げた学習過程の例を学習指導要領の構造に適切に反映させることが必要である。

○ 学校段階ごとに育成すべき資質・能力については、教科の「目標」に反映させることが必要である。また、各学年の「目標」や各分野の「目標」についても、整理された資質・能力を反映させることが適当と考えられる。

○ 「内容」に関しては、現行学習指導要領においては、科学的な概念の理解などの基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る観点から、「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球」などの科学の基本的な見方や概念を柱として、小・中・高等学校を通じた内容の構造化が図られているところである。

○ 今回の改訂にあたっては、このような内容の構造や取り扱う内容項目については基本的に維持しつつ、育成すべき「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」及びそれらを育成するための学習過程の関連がより明確となるようにすることが必要である。このため、各内容項目について、どのような学習の過程を通じて、どのような「見方・考え方」を働かせることにより、どのような「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力等」を身に付けさせるのかを示していくことが必要である。その上で、内容の系統性とともに、育成される資質・能力のつながりを意識した構成、配列となるよう検討することが求められる。

○ 「学びに向かう力や人間性等」については、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」とは異なり、内容項目ごとに大きく異なるものではないことから、内容項目ごとに整理するのではなく、各学年や各分野の「目標」において整理されたものを、全ての内容項目において共通的に扱うこととするのが適当である。

○ 三つの柱に沿って整理された資質・能力を総合的に育成する観点から、実際の指導の場面において留意すべき点等については、「指導計画の作成と内容の取扱い」において示していくことも必要である。

○ その際、それぞれの学校段階において、以下のような学習活動が充実されるよう、学習指導要領の記述について考慮していくことが必要である。

(小学校)
・ 観察・実験の結果を整理し考察し表現する学習活動を充実する。また、日常生活や他教科との関連を図る。
・ 問題解決の能力、例えば、3年:差異点や共通点に気付き問題を見いだす力、4年:既習事項や生活経験を基に根拠のある予想や仮説を発想する力、5年:質的変化や量的変化、時間的変化に着目して解決の方法を発想する力、6年:要因や規則性、関係を多面的に分析して考察し、より妥当な考えをつくりだす力を育成する学習活動を充実する。
・ 目的を設定し、計測して制御するという考え方の学習活動を充実する。

(中学校)
・ 小学校で身に付けた問題解決の能力を更に高め、自然事象の把握、課題の設定、予想・仮説の設定、検証計画の立案、観察・実験の実施、結果の処理、考察・推論、表現等の学習活動を充実する。また、日常生活や他教科との関連を図る。
・ 例えば、 1年:自然の事物・現象に進んでかかわり、その中から問題を見いだす。2年:解決方法を立案して実行し、結果の妥当性を検討する。3年:探究の過程を振り返り、その妥当性を検討する。

(高等学校)
・ 「観察・実験」や「探究活動」を充実させることにより、科学的な探究の過程を通じて、中学校で身に付けた資質・能力を更に高める、観察・実験が扱えない場合も、論理的に検討を行うなど探究の過程を経ることが重要である。また、日常生活や他教科(数学、情報、保健体育、地理など)との関連を図る。(必履修科目)

(3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し
○ 国際調査において、日本の生徒は理科が「役に立つ」、「楽しい」との回答が国際平均より低く、理科の好きな子供が少ない状況を改善する必要がある。このため、生徒自身が観察・実験を中心とした探究の過程を通じて課題を解決したり、新たな課題を発見したりする経験を可能な限り増加させていくことが重要であり、このことが理科の面白さを感じたり、理科の有用性を認識したりすることにつながっていくと考えられる。

○ また、現代社会が抱える様々な課題を解決するためにイノベーションが期待されているが、そのためには「学術研究による知の創出が基盤であり、それが充実して初めて経済的価値ないし社会的・公共的価値を含むイノベーションが可能となる」(※2)。このような観点から世界的にも理数教育の充実や創造性の涵養が重要視されており、米国等におけるSTEM(Science、Technology、Engineering and Mathematics)教育の推進はその一例である。STEM教育においては、問題解決型の学習やプロジェクト型の学習が重視されており、我が国における探究的な学習の重視と方向性を同じくするものである。探究的な学習は教育課程全体を通じて充実を図るべきものであるが、観察・実験等を重視して学習を行う教科である理科がその中核となって探究的な学習の充実を図っていくことが重要である。

4.学習・指導の改善充実や教材の充実

(1)特別支援教育の充実、個に応じた学習の充実
○ 現行学習指導要領においては、総則において、「個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと。」(小学校学習指導要領の例。中学校、高等学校も同様)と記載されているところであるが、今後は、各教科等における指導の場面における適切な配慮が一層充実されるよう工夫を講じる必要がある。

○ このため、各教科等における具体的な学習の場面で考えられる「困難さの状態」に対する「配慮の意図」と「手立て」の例について、以下のような形で明示していくことが適当である。
・ 例えば、実験を行う活動において、実験の手順や方法が分からなかったり、見通しがもてなかったりして、学習活動に参加することが難しい場合には、学習の見通しがもてるよう、実験の手順や方法を視覚的に表したプリント等を掲示したり、配付したりするなどの配慮をする。また、燃焼実験のように危険を伴う学習活動において、危険に気付きにくい場合には、教員が確実に様子を把握できる場所で活動できるようにするなどの配慮が考えられる。
・ 自然現象としての雲を観察する活動において、雲の変化等の時間を要するような観察をすることが難しい場合には、変化に着目し、理解することができるよう、観察するポイントを示したり、雲の変化を短時間にまとめたICT教材を活用したりするなどの配慮を行うことが考えられる。

○ さらに、全ての児童生徒が、資質・能力を着実に身に付けていけるようにするとともに、それぞれの長所や個性を伸長させることができるようにする観点から、個に応じた学習の充実を図っていくことも重要である。このため、学校や児童生徒の実態に応じ、個別指導やグループ別指導、繰り返し指導、学習内容の習熟の程度に応じた指導等に引き続き取り組んでいくことが必要である。その際、ICTの効果的な活用についても考慮していくことが求められる。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実

○ 理科においては、これまでも知的好奇心や探究心をもって、自然に親しみ、目的意識をもって観察・実験を行い、その結果を整理し考察する探究的な学習活動を重視してきたところであるが、今後は、以下の「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の三つの視点から学習過程を更に質的に改善していくことが必要である。なお、これら三つの視点はそれぞれが独立しているものではなく、「対話的な学び」や「主体的な学び」を通じて「深い学び」が実現されるなど、相互に関連し合うものであることに留意が必要である。
【1】 習得・活用・探究という見通しの中で、教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を働かせて思考・判断・表現し、学習内容の深い理解や資質・能力の育成、学習への動機付け等につながる「深い学び」が実現できているか。
・ 理科においては、自然の事物・現象について、理科における「見方・考え方」を働かせて、探究の過程を通して学ぶことにより、資質・能力を獲得するとともに、「見方・考え方」も成長するものであると考えられる。さらに、獲得した資質・能力や成長した「見方・考え方」を次の学習や日常生活などにおける問題発見・解決に活用することによって、「深い学び」につながっていくものと考えられる。
・ このような学びを実現していくためには、例えば、観察・実験などの学習の過程を振り返って変容を自覚したり表現したりする学習場面を必要に応じて設けることなどが考えられる。
【2】 子供同士の協働、教員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
・ 理科において「対話的な学び」を実現していくためには、例えば、課題の設定や検証計画の立案、観察・実験の結果の処理、考察・推論する場面などでは、あらかじめ個人で考え、その後、互いに意見交換したり、議論したりして、自分の考えをより妥当なものにする学習場面を設けることなどが考えられる。
【3】 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
・ 理科において「主体的な学び」を実現していくためには、例えば、i)自然の事物・現象から問題を見いだし、見通しをもって課題や仮説の設定や観察・実験の計画を立案したりする学習場面を設けることや、ii)観察・実験の結果を分析・解釈して仮説の妥当性を検討したり、全体を振り返って改善策を考えたりする学習場面を設けること、iii)得られた知識や技能を基に、次の課題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を把握したりする学習場面を設けることなどが考えられる。

○ このような学習場面については、既に多くの学校で取り組まれているものも多いと考えられる。その際、このような学習場面を通じて児童生徒の「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」が実現できているのかについて確認しつつ進めることが重要であり、身に付けさせるべき資質・能力及びその評価の観点との関係も十分に踏まえた上で指導計画等を作成することが必要である。

○ また、主体的な学びや対話的な学びの過程でICTを活用することも効果的であり、授業時間の効率的な活用にも資するものと考えられる。例えば、観察・実験の際に変化の様子をタブレットPCで録画したものを何度か再生して確認することにより、結果を根拠として自分の考えを深めることができる。そして、その動画を再生しながら自分の考えを説明し、それについて他人の考えを聞いて、より妥当な考えを作り出すことができる。このほか、実際に体験することが難しい事象や現象を扱う学習に際して、タブレットPCで動画を視聴しイメージを膨らませたり、課題を設定する際にインターネット等で情報を収集したりする等の活動が考えられる。

(3)教材の在り方
○ 理科の教科書を含む教材については、いたずらに細かなあるいは高度な知識を身に付けさせるのではなく、生徒が問題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学習を進めることができるものが適当である。さらに、生徒の興味・関心等に応じて意欲的に学習を進め、考えを広めたり深めたりしていくこともできるよう配慮されたものであることが望まれる。

5.必要な条件整備等について

○ 理科においては、2.で述べた資質・能力の育成を図り、理数科目に対する子供たちの興味・関心を高めていくためには、指導体制の強化や教員研修の充実、実験器具等の整備充実、ICT環境の整備などの条件整備が求められる。

○ 特に理科の特色でもある観察・実験の充実を図っていく観点からは、理科教育のための設備整備の支援や、理科の観察・実験に使用する設備の準備・調整等を行う補助員の配置に引き続き取り組むことが重要である。このため、国において必要な予算を引き続き確保するとともに、各学校設置者において、各学校の実態の把握や整備のための計画の策定等に取り組むことが求められる。

○ また、今回の改訂が目指す、三つの柱に沿って整理された資質・能力を児童生徒に確実に身に付けさせるためには、各教員が改訂の趣旨や狙いを十分に理解して指導計画等を作成できるようにすることが必要である。さらに、観察・実験を中心とした探究的な学習を指導できる力が一層重要になる。このため教員研修の充実等を通じて、教育課程をデザインする力やマネジメントする力などを含めた指導力の向上を図るとともに、改訂の趣旨等について十分な周知を行っていくことが必要である。



※1 資料1-1の表2に示したとおり、「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球」の4領域について、小学校理科においてはこれらを分節化せずに、また、中学校理科においては主に再現性が高いものと低いものの二つに分節化した上で、4領域全ての内容を指導することとしている。これに対し、高等学校では生徒の多様性に配慮すること等が必要であるとともに、各領域の特性に応じて育まれる見方相互の特徴や共通性に気付くことが重要であることから、高等学校理科においては基本的に4領域に分節化して科目を設定した上で、各学校や生徒の実情に応じて選択履修させることとしている。高等学校理科における履修科目の設定に際しては、要習得単位数の制約の中で、理科として共通に育成すべき資質・能力と、4領域それぞれにおける専門的な学習を通じて育成される資質・能力及び特徴的な見方とのバランスを考慮する必要がある。このため、専門性を重視し、領域別の基礎を付した科目(例「物理基礎」。各2単位。)を3科目以上履修する方式と、共通性を重視し、4領域を全体的に取り扱う「科学と人間生活」(2単位)と基礎を付した科目1科目以上を履修する方式の二つから選択できるようにしているところである。

※2 科学技術・学術審議会学術分科会「学術研究の総合的な推進方策について(最終報告)」(平成27年1月27日)

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