資料7 今村委員御提出資料

平成27年6月9日
教育課程企画特別部会

先生方の主体性と創意工夫を促せる「学習指導要領」を認定特定非営利活動法人カタリバ

代表理事 今村久美

 この4月に生活困窮者自立支援法が施行され、子どもの相対的貧困率は調査を開始し1985年以来最悪の16.3パーセントに至っていると共有されている現状は、高校課程における育成すべき資質・能力の議論において取りこぼしてはいけない。「子供の貧困対策に関する大綱」では、学校を子供の貧困対策のプラットフォームと位置付けると明記され、学校は学力保障だけでなく、学校から子どもを福祉的支援につなげ、総合的に対策を推進するという意図がある。全国の中学生の98 %が高校に進学していると同時に、小・中学校の通常の学級に発達障害の可能性がある特別な教育的支援を必要とする児童生徒が6.5%いるとも言われる。また、高等学校進学者全体に対して、高等学校に進学する発達障害等の困難のある生徒の割合は約2.2%と言われている。障害の有無に関わらず年間5万人以上の高校生が中退し、68000人以上が進路未決定で卒業している。そうした若者がその後正規雇用につくことは困難で、経済的な困窮状態に陥ることが想像されるが、学校を離れてしまうと困難やリスクを抱えた若者がいったいどこにいるのか、社会から見えなくなり、その発見と対策にかかる福祉コストは増大する。
 高校においても、そういった困難な状況に陥るリスクを抱えた生徒が多く在籍する「教育困難校」「課題集中校」などと非公式に呼ばれる学校が存在する。それらの学校において、本当の意味で生徒たちの自立を育むためのステップとなるような学習を支えていらっしゃる先生方が、意欲を持ち、生徒たちの実態に合わせた学習内容を展開するための学習指導要領をどのように構成するか。高校中退という貧困の連鎖を加速する転落を防ぐにはどのような学習で支えられるのか。
 生徒の課題が多様化し、就労への接続においての課題の難易度も高まる中、全国一律の学習指導要領がそのソリューションを設定するには限界がある。大切なのは、生徒たちの課題を目の当たりにしながら取り組む先生方の意欲を最大限引き出し、創意工夫をもって改善を行うための、武器となるものなのではないか。
 そんな考えを巡らせながら、気づきを下記に記載いたします。

学校設定教科・科目に対する理解促進と、サポート

  • 「学習指導要領の自由度を高くし、柔軟に対応できるものにならないと個々の生徒のニーズに合った指導が難しい」という先生方の感覚がある。しかしながら、現行の学習指導要領の内容で実は十分に対応できる。多くの先生方が学習指導要領に明記されている内容に腹落ちがなく、細やかに読み解けていないのか、もしくは内容は把握しているものの、生徒のニーズをもとに変革できるという感覚が持ちづらい原因があるのかもしれない。
  • たとえば、現行の学習指導要領では、学習に困難さを持った生徒を想定して、義務教育段階の「学び直し」を目的とした学校設定教科・科目の開設を推奨している。しかし、多くの先生方の言葉から「卒業までに74単位以上取得させた上で学力補填のための学び直しを補講で行う必要がある」という認識が多方面から聞く。実際に、補講は単位にならないために生徒の意欲を引き出しづらいという声もあった。
  • また、生活困窮世帯の生徒たちに対する学習提供として、アルバイトこそが生活をするための経済活動と就労体験を両立する策であり、職場でのコミュニケーションはアクティブラーニング型の学習プログラムそのものだという実感があるが、それらを正規の科目にすることは困難であり、実態とそぐわないという声も聞く。
  • 学習指導要領が示している内容と現場のニーズを結びつけて考えることができるチャンスとして学校設定科目をとらえられておらず、生徒の実態に即した学びの提供ができるといった認識が持ちづらい印象があるようだ。
  • 学校によってはカリキュラム編成を行う役割を持った校長に対して、教科ごとの担当輪切りになった高校教員が、生徒の中退を予防するなど福祉的な視点で総合的かつ創造的に考え、生徒の自立支援を促すための発議がしづらい原因があるのかもしれない。
  • 学習指導要領を充実した内容のものにしても、実際に現場において活用されるものでなければ、形骸化してしまう。学校には特色ある教育課程の編成に資するための「裁量権」があることを、学習指導要領の中で明確に打ち出し、またその裁量権を現実のものとするためのサポート機能が必要ではないか。

解決案

  • (1) 学習指導要領の中で「学校設定科目」の機能の活用について丁寧に触れる記述を明記する。もしくは、学校セグメントごとのグットプラクティス集を作る。
    例)「補講」の形で行っている義務教育段階の学び直しの授業を、「学び直し基礎」等の新たな教科・科目として設定できることなどについて丁寧な解説を明示し、実践につなげる方策など。
  • (2) 特に困難校と呼ばれる高校の校長や管理職に対しては、高校での学習活動が福祉機能の役割をも果たせるような状態を視野に入れ、重点的にカリキュラム編成サポートを行う専門支援体制を検討する。
  • (3) 原則として、教科の免許を持った教員が担当しなければ授業を単位化できない原則があるが、学校設定科目および教科を設ければ、教科担当でなくても指導することを可能とし、数学や英語などニーズの高い特定教科・科目の教員に負担がより過ぎないことも検討する。その際、科目として授業を行う場合は、教科書の使用が義務付けられるが、これにおいても、小・中学校の教科書で代替することで補うことが可能かもしれない。

「貧困対策プラットフォーム機能としての高校」を実現するための学校支援

  • 困難を抱える生徒が多く在籍する学校における、子供の貧困対策プラットフォームとしての機能を実現するためには、学校に対する多様な情報提供や専門家のサポートが必要である。しかし、多くの学校が都道府県管理の下で設置されているため、基礎自治体の福祉行政と連携がとれておらず、そこで把握されている情報が高校に入ってこない場合が多い。(例えば、生活保護受給世帯であるか否か、という情報でさえ高校教員は知らないため、生活困窮世帯に関しての情報は皆無。)また、もともとの高校文化として、高校で家庭訪問が行われることは少ないため、家庭の状況を把握することは難しい。受験の結果に影響するという判断なのか、中学校教員から生徒情報が十分に引き継がれないという声もある。
  • 中学校から引き継がれる指導要録には、入試とは切り離した視点のもと、児童生徒一人ひとりの福祉サポートに必要な情報は高校へ引き継ぐよう努めてもらうよう促すことも検討すべきではないか。それにより、生徒の課題の共有を行い、高校の担当教員が個別課題に応じた対応を検討できるようになる。
  • ただ、高校進学先は居住地域から離れているし、中学校の先生方の手間も大変だということもあるわけなので、高校に福祉的支援専門担当者を置き、様々な機関と日頃から連携を図るための方法論を、学習指導要領に明記してはどうか。
  • また、現実的にうまくいっているとは言えないように見えるスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連携については課題が大きい。先生方とSSWやSCなどの専門家が関係構築するための基本スタンスを学習指導要領に明記するとともに、実態として協働するための対話をどう管理職がファシリテーションするか、その方法論を研修することも必要。

まとめ

生徒たちの実態や学科の特色に応じて、バリエーション豊かに学びを構築する学校の「裁量権」があることは、既に学習指導要領によって担保されているが、現場ではそこに実感がない。これを鑑み、学習指導要領内において、学校の裁量権について、これまで以上に具体的に明示する必要があるのではないだろうか。
また、福祉行政や、外部専門家との連携などについても、学習指導要領に明確な記載があれば、学校は困難なニーズに対応した豊かな学びづくりに今よりも積極的に取り組めるようになるのではないか。
先生方が生徒たちの学びに伴走するには、先生方自身の意欲が非常に重要となるが、先生方が「管理されている」と感じながら仕事をするのではなく「気づきや意見が反映される」と思いながら仕事に打ち込める風土が土台としてあれば、生徒たちに実現したい学びに向け、互いに連携を図り、積極的に取り組む姿勢を培うようになるのではないだろうか。
先生方のこのような連帯性や積極性を支える校長のカリキュラム・マネジメント力の結果が、生徒の「生き抜く力」を伸ばす学びを深めることにつながることになると考える。

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