東京家政大学教授 増田まゆみ
「保育要領(仮称)」の策定が本格的にすすむ中で、多くの意見が示されてきました。いよいよ最終のまとめに入る段階で、非常に重要な事柄であるにもかかわらず十分に意見が述べられていない事項、また出された意見を反映し、検討し合うことが十分になされていないと思われる事項がまだ残っているように思われます。
保育所保育指針、幼稚園教育要領の基本を継承し、その整合性を図ることについては、相応の検討がすすんでいますが、年齢や発達段階の特性を踏まえ、それに基づく保育内容を体系的に示すこと、3歳未満児の養護と教育の一体性や保育と教育の継続性を尊重すること、幼保連携型認定こども園に必須の機能である保護者支援について重要な事柄を明示すること、及び保育の質の向上に向けた協働や保育評価を重視すること、についてはさらなる議論が必要であると考えます。
これらの内容について、以下の通り意見を述べさせていただきますので、格段のご配慮とご検討を加えていただきたく、よろしくお願い申し上げます。
乳児から就学前の6歳までの子どもを対象とする保育要領(仮称)には、「子どもの発達」について具体的に提示することが必要であると考えます。
「子どもの発達」に関する基本は、保育の場が保育所・幼稚園・幼保連携型認定こども園であっても、また、家庭であっても共通しています。そこで、発達の基本と共に発達過程を提示し、「子どもの生活の連続性、発達の連続性」を重視した保育、子育てが可能となるようにすることが求められます。
その際、現保育所保育指針の八つの発達過程区分から「18か月未満、3歳未満、3歳以上就学前」の3期に大別し、それぞれの段階の発達特性と留意事項等について明記することによって、幼保連携型認定こども園、家庭、学校等地域における生活の連続性、発達の連続性を重視した具体的な保育へとつながると考えられます。
現保育所保育指針にも、大人と子どもの相互の関わりが十分に行われ、人への信頼感と自己の主体性を形成していくことの重要性が示されていますが、これは、保育・子育ての根幹となるものです。また、発達過程について「この区分は、同年齢の子どもの均一的な発達の基準ではなく、一人一人の子どもの発達過程としてとらえるべきものである。」と示されていますが、8期から3期へと発達の大きな節目での区分にすることによって、発達過程で示される内容が保育の到達目標のように誤解されることを避けることにもつながります。
0歳から就学前に至る子どもたちの保育・教育施設として今後ますます重視される幼保連携型認定こども園のあり方のうち、3歳以上児の学校教育としての幼児教育のあり方や小学校との継続性、接続性の方向性と比較して、3歳未満児の養育と教育に関する議論が不足しています。とくに、0歳からの養護と教育の一体性、3歳未満児の教育(家庭教育、社会教育を含む)の視点の明確化や議論が十分なされていません。
また、0歳から3歳にかけてのいわゆる乳児保育へのニーズや関心が深まる一方で、現実の乳児保育の質の維持、向上に関しての懸念が示されるなど、乳幼児の発達や保育者のかかわり方などについて、検討を加える内容が多くみられます。このため、上記1でふれたとおり、幼保連携型認定こども園における18か月未満、3歳未満の段階における発達特性や留意事項に関しては、これらの課題について十分考慮することが必要です。
そして、0歳からの養護と教育の一体性にかかわる重要な事項について議論を重ね、検討を加えること、さらに就学まで一貫性をもって家庭教育、社会教育とも連動させた教育の連続性、教育・保育の継続性に関する重要な事項について検討を加えることを強く希望します。
就学前の子どもの保育・教育、そして入園している子どもだけではなく地域のすべての子どもの保護者の養育に深くかかわる幼保連携型認定こども園においては、保護者との協働、保護者への支援は特段に重要な意味をもっていると考えます。特別の支援を必要とする子どもや子育て家庭へのきめ細かい支援体制とともに、保護者自身の子育て力向上の機能を重視し、保護者とともに子育て・子育ちにかかわる役割とその内容について、明記する必要があると考えますので、より深く議論と検討を加えることを望みます。
そして、幼保連携型認定こども園の必須の機能である保護者支援については、総則に明示すると共に一つの章を設けるといった位置づけが求められます。
なお、第3回のヒアリングの際にも示されましたが、保育要領及び解説書が広く保護者にも読まれ参考となるようにすることも、極めて重要な視点であると考えます。
就学前の保育・教育の定義を確認し合い、「子どもの最善の利益」を第一義にした保育・教育について、保育要領(仮称)ではわかりやすく、しかも簡潔に明示した上で、解説書ではより具体的に記述していくことを希望します。
保育要領(仮称)及び解説書を通じて、3歳未満児と3歳以上児の発達特性の理解に基づきその連続性・継続性を重視し、教科的配慮よりも“生活・遊び”を通した保育・教育の本質を示すことにより、今後の我が国の就学前の保育・教育における一定の「質」が確保されることに資するものとしなければなりません。
子ども理解に基づく計画性のある保育は、その評価と改善の過程が保育の質の向上に向けて循環することが必須です。多様な機能を担う幼保連携型認定こども園の協働・自己評価等のあり方について議論と検討を加えることを望みます。
以上
指導係
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