資料2-3 小林委員提出資料(※前回の部会で配付したものと同様)

中央教育審議会高等学校教育部会(第9回)への意見について

都立田無工業高等学校
非常勤教員 小林 薫 

「課題の整理と検討の視点」にある、「5.各種の振興方策(検討事項例)」に関して

1 今後も「ものづくり国家」で生き抜くために

 平成3年4月に高校教育改革答申が発表されてから約20年、この間、世界情勢は劇的に変化し、日本の製造業は変化の波に乗り遅れ、技術力や販売力などを中心に国力はかなり弱まってきている。この課題を克服し、今後も「ものづくり国家」として発展するためには以下の3点が必要である。
(1)中学校教育課程の技術科の授業時間を大幅に増加させるべきである。
 義務教育課程のすべての生徒が履修する教科である技術科が、学習指導要領の改定ごとに授業時間数を減少させられてきた。昭和37年度から実施された学習指導要領では3年間315時間と選択時間の設定よっては各学校判断で350時間以上確保できていた。それが現在の中学校学習指導要領では3年間で87.5時間しかない状況である。
 週1時間の授業時間で、ものづくりの大切さや工夫された仕組み及び作る楽しさを1人の教師が40人一斉で行う授業では伝えられない。3年間で87.5時間の授業時数しかない中で、〈材料と加工に関する技術〉〈エネルギー変換に関する技術〉〈生物育成に関する技術〉〈情報に関する技術〉の4分野を授業実践することは、かなり無理がある。このことが製造業への無理解と、大学の工学部離れにつながっている。また、大工道具や電気工具等の道具の使い方に疎い国民を増やし続けている。
(2)学科別生徒数の7割にも上る普通科高校の教科・科目に技術情報科を設置する。
 家庭科は、小学校5年6年で計115時間、中学校は3年間で87.5時間、高等学校は2単位以上が必履修で設置されている。科学技術創造立国・工業技術立国を標語としている国にあって、技術教育がないがしろにされている現実がある。そこで普通科高校の必履修教科の情報科を整理し、新たに技術情報科を3単位以上の必履修必修得教科として設置するべきときである。実技を伴う体験学習によって、日本の国力の基になっている製造業や建設業等について理解を深めることができ、社会に貢献できる人材を多く育成することができる。
(3)専門高校の専門教科教員の資質向上を図る。
 学習内容の質保証について、社会人として18歳で世の中に巣立つ高校生に、企業等が求める技能・技術及び職業観を修得させ、送り出す3年間はとても貴重な時間である。そのため限られた時間を有効に活用して質の保証を行うには、教える教職員の資質向上が必至である。大学課程で免許を取得し、教諭として教壇に立っても実践力に乏しいままでは、うわべだけの理論学習しか指導できない。専門高校は、社会ですぐに役立つように実験実習科目を中心に教育課程が成り立っている。そこで東京都教育委員会が推進している「ものづくり人材育成プログラム」のように、長期の企業派遣研修、高度熟練技能者の招聘(市民講師として)、特定分野の技能修得などを新規採用から早い時期に実行させ資質向上を図る。また、グローバル人材を育成するために、技能五輪へ挑戦させることができる指導者を養成するために、制度的、経済的な支援策を早急に立ち上げるべきである。 

2 専門高校専攻科について

 5年間教育を実践している高等専門学校は、入学時の力も、卒業時の力も高い水準を維持し、企業や大学等から注目を浴びている。それに比較して、高等学校専攻科はより専門的な学習を2年間行うので、結果的に高等専門学校と同じ5年間教育であるが、高等学校卒業の資格しかなく社会であまり認知されていない。また、専門高校との接続性や教育内容の一貫性に課題があり、卒業時の進路保障がすべての学科で成功しているとはいえない。しかし、農業科、水産科、看護科などは、より水準の高い国家資格などの取得により有利な就職が可能となっているところから、社会から高い評価を受けている例もある。
 振興方策の中でも述べられているように専攻科在学時の学習教科目が、大学への編入単位として認められるならば高等専門学校の生徒と同程度の認知と成果は生まれるものと思われる。また、卒業時の名称も短期大学や高等専門学校と同じように準学士か、専修学校卒業時に受ける専門士のような法で認知された資格として取得できるようにすれば、有為な生徒がスペシャリストへの道を歩めることとなる。専門高校の3年間で高度な技能・技術を修得できなかった生徒にとって、安価な費用でより高い知識・技能の獲得と資格取得が可能となりきわめて有利な進路選択が可能となる。
 以上のことから、専攻科の教育課程と修了時の資格について議論を深め、4年制大学への3年編入が可能となるように、法を整備するべきである。そして教員については、修士や博士号を持っていることを条件として採用するべきである。
 また、近々の対応として、卒業時の進路保障の一環で、現在全国の工業高校を中心として導入されているデュアルシステムを参考にしてみてはどうだろうか。いままでの短期のインターンシップでは十分に身に付かない技能や知識が、長期間の職場体験により具体的な職務を体得し資質の向上が図れる。企業にとっても人物を見極められ、雇用確保の利点があるので検討の価値はある。

3 資格取得に関する資金支援等について

 現在、公益社団法人全国工業高等学校長協会がジュニアマイスター顕彰制度を実施している。協会加盟の工業系学科に在籍する高校生は、3年間の在学期間中に取得した各種資格や合格した検定試験及び各種競技・コンクール等での優秀な成績等を指定された区分表から得点に換算し合計した点数により、ジュニアマイスターシルバー(30点以上)、ジュニアマイスターゴールド(45点以上)を認定し顕彰している。平成23年度は在籍生徒数が約28万人いて、そのうち1万人以上の生徒が顕彰認定されている。この数値は年々増加している。このことによって、生徒は日々の学習目標が明確になり真剣に取り組む姿勢が高まった。また、就職に進学に自信を持って取り組めるようになった。
 振興方策でも指摘しているとおり、取得に向けた学習と通常の教育課程の関連性について、現在は十分な検討がないまま各学校で資格指導が行われている。しかし、企業や大学等が求めている資格ばかりではないが、3年間の生徒の熱心な学習取り組み結果であることを評価し、採用選考や推薦入試などに活用されている。
 以上のように、多くの生徒は積極的に資格取得や各種の競技会・コンクールに参加し資質向上に努めているが、資金面で課題が残っている。競技会・コンクールへの参加は、学校予算でかなりの部分が賄えるが資格取得は個人の利益につながることから、原則は受益者が経費を負担している。たとえば厚生労働省が所管している国家検定制度の技能検定は初歩の3級で、学科試験料3,100円、実技試験料16,500円の合計19,600円(学生は減額される場合がある)もかかる。昨年度より、高等学校の授業料は無償化が実現できて、多くの家庭で安心して学習に取り組めるようになった。しかし、生活保護世帯等の生徒にとって、約2万円の受験料はかなり負担で、受験意欲はあるが受験できない現状がある。そこで、奨学金制度のような、資金援助の制度があれば、もっと多くの生徒が有為な資格取得者になれる。是非、資金面での支援制度を創設していただきたい。

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初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)