資料3-3 長塚委員

中教審高等学校教育部会(第7回)「課題の整理と検討の視点:1~3について」(意見)

日本私立中学高等学校連合会常任理事
順天中学校・高等学校長 長塚篤夫

 本部会開催当初に示されたのは、過去20年余り、高校教育の在り方が論議されてこなかったこと、そして10年後の指導要領改訂に向けて論議して欲しいとのことであった。その主旨に沿って、今般の課題の整理と検討の視点について若干の考えを述べたい。

1.高等学校教育の現状認識について

 ●知識基盤社会に対応する高大接続を考える

 高等学校への進学率が9割に達したのは、昭和49年の38年前である。したがって20年前には既に、高校教育は完全に量的飽和状態になっていたのであり、その多様な生徒の実態に対応するために、公立学校にも中高一貫校を設けるための制度化を図る等、単線型から複線型へ移行したのであるが、却って競争的な教育改革が進められたともいえる。その在り様の是非について、国のレベルで十分論議されることはなく、地方自治体が改革を主導したことでさらに著しい多様化が生じた。この間に、生徒数は少子化により4割減少したが、大学進学率は3割から5割へと大幅に増加した。
 ついては、普通科が7割を占めている現状からしても、今後とも高学歴志向が続くのではないかと思われる。とくに、首都東京における高校卒業者の大学進学率は現在65.4%(私立75.8%、公立50.8%)と年々増加している。都市部での変化が全国の変化に先立つのは、教育に限らない現象であるが、経済格差が地方との学歴格差を生んでいるとすれば、大学等の高等教育の充実政策こそが日本社会の将来の進展の鍵を握っているのではないかともいえる。とくに3/4を占める私立大学に進学する者の経済的負担は、他国に比べても相当に大きい。
 いずれにしても、知識基盤社会化する国際社会の趨勢からして、更なる量的拡大に向かいつつある高等教育の前に、既に量的に飽和し多様化している高校教育がある。適格者主義の綻びは、高等学校の入学ではなく卒業、或いは高等教育の入口問題になっている。この高大間の接続の問題が高校教育のみならず、日本の学校教育の最重要課題であるということは国民の間に共有された認識ではないか。この現状を踏まえると、三種類の進路に着目して課題整理をしているのは概ね妥当ではないかと考える。

2.今後の施策の方向性について

 ●多様化の中での修得状況把握の在り方を考える

 多様化した高等学校の教育の質保証を求めるために、最低限修得させる共通内容のコアを設けたり、学校の人材像による類型化を図ることは、これまでの多様化策の結果状況を是正する措置と受け止められる。
 しかしその際、共通内容のコアについてどのように定めるのかは容易ではない。適格者であることを廃して、ほぼ全員が進学している高等学校には多様な生徒達がいる。知識・技能だけでなく、意欲や態度といった面であっても、その共通内容を定めて、その修得を全ての高校の卒業要件にする様なことになれば、事は極めて困難である。単位の認定や卒業要件については、各学校が定める基準によって判断する現状の履修主義の上に立たなければ、多様な高校の教育は成立しないのではないかと考える。
 したがって、ここで求められる質保証のための修得状況の把握の仕組みは、所属する学校によらず、どの学校の生徒であっても主体的に利用でき、生徒達の知識・技能や思考力等の修得度を客観的に評価してくれる共通の仕組みでなければならないだろう。また、その結果が有効に用いられるものでなければ普及しないのではないかとも考える。その際、修得度評価の内容を共通のものとするか、類型別の到達目標に応じたものにするかは、類型化の内容や是非にもよることであり一概には決められない。
 少なくとも、学校の類型化を図ることについては、意図的であろうとなかろうと、何らかの序列化が伴うことは避けられない。そこで、生徒達にとって最低限必要なことは、類型間の変更や学び直しの自由度が確保されていることではないかと考える。

3.高等学校教育の質保証について

 ●修得度評価による国際標準の質保証を考える

 さらには、修得度の評価は国際的にも認められるような内容でなければならない。海外の大学に留学する際に、例えば米国であれば、SATの共通学力テストのスコアやTOEFLの英語力到達スコア等が審査されるが、日本の高校での内申評価は相対的に有効性が低い。その点、国際バカロレアのディプロマは専門機関が評価しており、客観性があることから、他国においてはそれ自体で大学入学資格に繋がっている。
 現在、それこそ選抜性の強い大学を中心に秋入学の是非が論議されているが、それは単に入学時期の問題ではなく、入学後の授業言語や授業内容、そして入学資格の国際共通化の問題と連動している事柄である。先ずはこれらを解決するべきであるが、取り分け、国内外の高校生が国内外の大学への進学で相互に通用する有効な指標となる様に、高等学校教育の修得度評価の仕組みを、国際標準で構築するべきと考える。
 因みに、欧米諸国で確立しているこれらの共通テストの在り方は、目標準拠型の「高大接続テスト」(仮称)として、我国においても少なからず検討されてきている。その実現に向けて、国大協や私大協、全国高校長会などの意見もほぼ一致しているように思えるが、これに踏み込めないでいるのは、集団準拠型の大学入試センター試験などとの相違が、広く理解されていないことや、更にまた、我国の特殊な大学入試制度の現状を極力維持することを前提として論議されていることに起因していると思われる。
 将来の高等学校教育、及び高等教育の成否はこの大学入試制度、高大接続の在り様をグローバル化することにかかっていると言っても過言ではないと考える。

 以上

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