資料3:公立中高一貫教育校の入学者選抜における「学力検査」の取扱いについて(意見)

 

私中高連発第70号
平成23年6月20日

中央教育審議会初等中等教育分科会
学校段階間の連携・接続等に関する作業部会
 主査 小川正人 殿

日本私立中学高等学校連合会
会長 吉田 晋

公立中高一貫教育校の入学者選抜における「学力検査」の取扱いについて(意見)

  標記につき、別紙のとおり意見を申し述べます。

以上


【別紙】

平成23年6月20日
日本私立中学高等学校連合会


公立中高一貫教育校の入学者選抜における「学力検査」の取扱いについて
(意見)

  1.  公立中高一貫教育校は、平成11年4月に施行された「学校教育法等の一部を改正する法律」によって制度が発足しましたが、学校の設置・運営に係る費用の全額を公費で賄われている学校であり、何よりも、公平・平等を基本とする公立義務教育機関であることから、国会での上記の法案審議においても、「受験準備に偏したいわゆる『受験エリート校』化など、偏差値による学校間格差を助長することのないよう十分配慮すること」 「入学者の選抜に当たって学力試験は行わないこととし、学校の個性や特色に応じて多様で柔軟な方法を適切に組み合わせて入学者選抜方法を検討し、受験競争の低年齢化を招くことのないよう十分配慮すること」等の趣旨の付帯決議が衆参両院の委員会で行われています。
     
  2.  これを受けて、文科省では、平成10年6月26日付で「中高一貫教育制度導入に係る学校教育法等の一部改正について」を所管局長名で発し、学校設置者となる各地方公共団体に対して、国会の付帯決議の内容に十分留意し、中高一貫教育制度がその趣旨に沿って導入されるよう配慮することを求め、併せて、この決議の趣旨の徹底を図るため、文科省令である学校教育法施行規則第110条第2項(同117条で併設型中学校に準用)に「公立中等学校および併設型中学校では、入学者選抜に当たって学力検査を行わないものとする。」と定めました。
     以上の経緯を踏まえて、省令の文意を常識の範囲で読めば、現行の法令上、公立の中等教育学校および併設型中学校では、入学者選抜に当たって「学力検査」は実施できないことになっています。
     
  3.  公立の中高一貫教育校は、平成22年度には全国で176校となり、そのうち中等教育学校および併設型中高一貫教育校は計96校を数えています。
     制度発足以来12年を経た現在、全国の34の都府県の公立中高一貫教育校(中等教育学校および併設型中学校)では、入学者選抜に当たって「適性検査」という共通の名称の検査が行われています。 「適性検査」は実施者それぞれの考え方に基づいて行われていますが、例えば適性検査は適性検査であって学力検査ではないとしたり、適性検査の出題は教科横断的に行われており、教科ごとの学力を判定するために行われる学力検査とは違うとの考え方の下に実施されたりしています。
     しかし、説明はどうあれ、適性検査が学力判定の有力手段として機能しているのは紛れもない事実であり、多くの都府県では、申し合わせたように「適性検査」と言う同じ名称の選抜手段を導入していますが、これは、見方を変えれば、「学力検査」が法令上禁止されていることの共通認識の裏返しであり、さらにいえば、「適性検査」自体が不適正な検査であることの証左といえなくもありません。
     所管行政や公立学校関係者側が如何に弁明しようとも、受験者側や社会一般では、適性検査を学力検査であると認識しており、そのための対策を指導する進学塾が都市部を中心に数多く存在し、公立中高一貫教育校に入学した子どもたちの大半はそこで受検のための技術を学んでいるのが現状です。
     
  4.  仄聞するところによれば、去る5月30日に開催された中教審の作業部会の席上、文科省の担当責任者は、適性検査が学力検査であることを認めた上で、今後の公立中高一貫教育校の入学者選抜のあり方を議論して欲しい旨の説明を行ったということです。このことが事実だとすれば、現に広く行われている「適性検査の実施」が学校教育法施行規則第110条第2項に違反する違法な行政行為ということになり、国会の付帯決議の趣旨を反故にすることにもなります。
     このよう状況の下で、文科省として先ず行うべきは、現在の事態の違法性を認めて開き直るのではなく、多くの都府県で行われているこれらの違法行為を即刻取り止めさせることではないでしょうか。実際、平成17年1月19日に私立学校の代表者が行った「公立中高一貫校のあり方に関する質問」に対して、文科省の担当責任者は「公立中高一貫教育校の中で、学力検査を実施し、受験競争の低年齢化を招いたり、受験エリート校化している実態があるとすれば、このような学校については、今後何らかの対応や見直しが必要となることもありうる。」と回答しており、この見解に立ち、適性検査が学力検査と認めるのだとすれば、大半の公立中高一貫教育校には何らかの対応が必要となるはずですが、この見解もまた、この5年間で変わってしまったということでしょうか。さらにいえば、文科省は、上記の衆参両院での付帯決議や自ら発した文科省所管局長名による通知の趣旨を行政は具体的にどのようにこれまで反映させて来たのか、また、平成21年3月31日に閣議決定された「規制改革のための3か年計画」中の「公立中高一貫教育に関する問題点の是正」に示された厳しい指摘事項に対してはどのような検討がなされ対応が行われたのか、あるいは、なされなかったのかについても明らかにする必要があります。これらの中で、唯一明らかなことは、「公立中高一貫教育の実態調査」が実施されたことであり、その結果を踏まえての作業部会での検討と学力検査実施の是非論であるとすれば、手続きも議論も中抜きで、いきなり最終テーマの検討に入ったという不自然さと唐突感は否めません。
     
  5.  公立中高一貫教育校の入学者選抜において学力検査を導入するか否かは、この制度の根幹に係る事柄であるとともに、中等教育のあり方にも繋がる重要問題であり、作業部会の「作業」には到底馴染まないテーマだと考えます。
     この件は、この制度を決定し、敢えて付帯決議まで行った国会に議論に委ね、制度発足12年を経た現時点での公立中高一貫教育校のあり方、入学者選抜のあり方を改めて検討する中で、学力検査の導入の是非についても方向性を示していただき、その方向性を踏まえて、中教審や行政が制度の具体的内容や実施方法を検討するのが、この制度が法律に由来し、しかも今後の教育や社会のあり方にも影響を及ぼす惧れがあると考えれば、なおのこと、正当な手続きによって事を進めるのが順序ではないでしょうか。いずれにしても、このような重要な事項の検討に関し、何の根拠も権限もない中教審の作業部会で基礎となる考え方をまとめ、これを今後の議論のたたき台に供することは認められません。
     
  6.  時代は大きく変っていますが、公立中高一貫教育校は、依然として公立義務教育機関であり、広く「国民の教育を受ける権利」の実現に資することを最大の目的としていることには何ら変わりなく、それ故、学校運営費の全てが税金で賄われている以上、学校運営においても、入学者選抜の方法においても、一部の学校関係者の願望や学齢期の保護者の期待などの恣意的な世論でなく、大方の納税者すなわち世の中の大勢の理解が得られなければなりません。
     公立中高一貫教育校も税金によって運営されている学校であればこそ、一部の国民だけに恩恵を与え優遇するような制度は極力排除しなければならないことは当然であり、少なくとも学校選択の機会は実質的に平等に与えられていなければなりません。しかし、学校選択の入りロにおいて、学力検査という新たな負担を課して子どもたちの入りロ規制を行えば、公立中高一貫教育校に学ぶ子どもたちと一般の公立中学校に学ぶ子どもたちとの間で、学習環境の面でも、また、優越感や劣等感などの意識や意欲の面でも深刻な格差を生じ、それを後々まで引きずることになります。
     その意味で、公立中高一貫教育校の入学者選抜において「学力検査を行わない」としたことは、制度創設の趣旨を象徴的に示したものと考えます。もちろん、公立の中高一貫教育であれば、公立学校という立場を十分に踏まえてそれぞれの学校は設置されたはずであり、学校の成り立ちや費用負担の面で全く異なる私立中高の学校運営やカリキュラムだけを安易に模倣し追随するようなことがあるとすれば、それは自らの存在意義や担うべき役割を否定するだけでなく、多くの納税者や国民の理解は得られないと認識すべきです。
     この件については、制度発足時に現在の方向性や考え方を定め、しかも、納税者の意思が先ずは尊重されるべき世論だとすれば、現在の制度の実態の検証や見直しの必要性の有無については、これは正に国会において審議され方向性が決せられるべき事項だと考えます。それにも拘らず、現在進行しつつあるような方法で、このような社会の重要なしくみが意図的かつ済し崩し的に変更されてしまうとしたら、「法治国家の明日」は危ういといわざるを得ません。

以 上

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)