平成23年6月
中央教育審議会初等中等教育分科会
学校段階間の連携・接続等に関する作業部会
(目次)
制度導入時の背景・考え方
中高一貫教育の現状
各学校等において中高一貫教育を導入したねらい、成果、課題
教育課程の特例の内容
教育課程の特例の活用状況、活用した結果、活用に当たっての課題
公立学校(中等教育学校・併設型)における入学者選抜の在り方について
公立学校(連携型)における入学者選抜の在り方について
高等学校段階に進む時点での入退学等の配慮について
各地域における中高一貫教育校の整備
地域への影響
連携型中高一貫教育校
(本文)
○ 中高一貫教育制度は、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(平成9年6月中央教育審議会第2次答申。以下「平成9年答申」という。)においてその基本的な考え方や制度の骨格が示された。
○ 平成9年答申においては、昭和46年の中央教育審議会答申以来の幅広い検討を念頭に、中高一貫教育が、私立の中・高等学校を中心に、実際上相当の広がりを持って行われていた現状も踏まえつつ、その導入についての検討がなされた。その結果として、心身の成長や変化の著しい多感な時期にある中等教育において、一人一人の能力・適性に応じた教育を進めるため、中学校教育と高等学校教育を6年間一貫して行うことについて、考えられるその利点や問題点を挙げつつ、大きな幾つかの利点を持つ中高一貫教育を享受する機会を、子どもたちにより広く提供することが望ましく、中高一貫教育を導入することが適当であるとの結論に達した。一方で、中高一貫ではない中学校・高等学校の利点や意義も確認し、その上で、子どもたちや保護者の選択の幅を広げる観点、さらには、地方公共団体や学校法人などの学校設置者が自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する観点から、その中等教育における選択肢としての意義を提言した。
○ この平成9年答申における提言を踏まえ、子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ、学校制度の複線化構造を進める観点から、中学校と高等学校の6年間を接続し、6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開することにより、生徒の個性や創造性を伸ばすことを目的として、中高一貫教育制度が平成11年度から選択的に導入された。
○ 中高一貫教育には、様々な利点あるが、特に、「ゆとり」ある学校生活を送ることを可能にするということの意義は大(子どもたちは、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて、豊かな学習をし、個性や創造性を伸ばすことがより可能に。その中で、じっくり学ぶことを希望する子どもへの十分な指導がより可能に)。このため、中高一貫教育を享受する機会をより広く提供していくことが適当。
<利点>
○ なお、中高一貫教育には様々な利点がある一方で、留意すべき点もあり、それらに適切に対処していくことが必要。
<留意すべき点とそれらへの対処に関する考え方>
○ 中高一貫教育の導入に当たっては、子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ、学校制度の複線化構造を進める観点から、中高一貫教育の選択的導入を行うことが適当(従来の中学校・高等学校に区分された中等教育も大きな利点や意義を持っており、中高一貫教育の利点と問題点の軽重を総合的に判断するのは子どもたちや保護者)。
○ 中高一貫教育の選択的導入は、地方公共団体や学校法人などの学校設置者が、自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する裁量の範囲を拡大することに資する。
○ 中高一貫教育の具体的な在り方については、学校設置者の主体的な判断を尊重することが適当。国の役割は、そのための制度上の隘路を取り除くことを含めて、制度改革を行うこと。
○ 中高一貫教育の実施形態については、次のような類型が考えられ、中高一貫教育の円滑な導入を図るためには、学校設置者がそのいずれも選択できるよう、所要の制度改革を行うことが必要。
○ 教育内容については、「ゆとり」の中で子どもたちの個性や創造性を大いに伸ばしていくものとすべき。その類型としては、普通科タイプ、総合学科タイプ、専門学科タイプなどが考えられ、そのいずれを採るかは学校設置者の選択に委ねていくべき。ただし、普通科タイプの場合は、受験準備に偏した教育を行わないよう強く要請。
○ 中高一貫校においては、特色ある教育を提供していくことが望まれるが、例えば、次のような特色を6年間の一貫した軸に据えて教育活動を展開していくことが有意義。
○ 入学者を定める方法については、受験競争の低年齢化を招くことのないような適切な配慮が必要。特に、地方公共団体が設置する学校にあっては、学力試験を行わず、学校の個性や特色に応じて、抽選、面接、推薦等の多様な方法を適切に組み合わせることが適当。また、現在、学力試験を偏重する選抜や小学校教育の趣旨を逸脱した出題を行っている一部の国私立中学校に対しては、改善を要請。
○ 高等学校段階に進む時点での入退学等についての配慮が必要(進路変更を希望する生徒の他の高校への進学への配慮、高校段階での入学をある程度の数認めること、6年制の学校の第3年次修了者を中学校卒業者と同等に扱うことなど)。
○ 中高一貫教育校には、一つの学校として6年間一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続する「併設型」、及び、市町村立中学校と都道府県立高等学校など、異なる設置者による中学校と高等学校が、教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深める形で中高一貫教育を実施する「連携型」の3つの設置形態がある。
○ 中高一貫教育を行う学校は制度導入以降着実に増加しており、平成22年4月現在、402校を数えるまでになっている。その内訳は、設置形態別では中等教育学校が48校、併設型が273校、連携型が81校と併設型が最も多く、設置者別では国立が5校、公立が176校、私立が221校と私立が最も多くなっている。全ての都道府県において何らかの形で中高一貫教育校が設置されているものの、その設置状況は都道府県により大きく異なっている。
○ 中高一貫教育校については、制度導入当初、当時の政府として500校程度整備するという目標があった。これは、平成11年当時、生徒や保護者が中高一貫教育校への進学を望む場合に実質的に選択できるようにする観点から、当面、高等学校の通学範囲に少なくとも1校は整備する、との考え方によった(*1)。この目標が達成されていない要因としては、少子化の進展により、公立の高等学校数が逓減傾向(平成11年度の4,149校に対し、平成22年度は3,808校。(*2))にある中で、公立中高一貫教育校の整備が進んでいない地域があることが考えられる。また、すでに実際上中高一貫教育を行っていた私立学校において、制度上でも中高一貫教育校として位置づけるために学則変更を行うメリットが乏しいこと、あるいは、学則変更の届出手続きが煩雑であると受けとめられている地域があることが考えられる。
○ 中高一貫教育制度においては、各学校が計画的・継続的に教育課程を編成し、それぞれ特色ある教育活動を展開することができるよう、教育課程の基準の特例が設けられている。
(*1) 「生活空間倍増プラン」(平成11年1月29日閣議決定)及び「教育改革プログラム」(平成11年9月21日文部省)
(*2) 「学校基本調査」(文部科学省)。いずれも中等教育学校を含む。
(*1) 「中高一貫教育に関する実態調査」(平成22年3月実施)をいう。以下同じ。
○ 各学校等において中高一貫教育を導入したねらいやその成果と、中高一貫教育実施にあたっての課題を設置者(国公私立)別、設置形態別に見ると、そのそれぞれにおいて上記のとおり一定の特徴が見られる。
○ 平成9年答申の理念に基づき、特色ある教育の展開や異年齢集団の活動など具体的な成果が上がっている学校が見られる。その反面、例えば受験産業において公立中高一貫校対策が講じられているといった指摘など、平成9年答申において示された懸念が現実になっていたり、教職員の負担感の増加など、平成9年答申には示されていない論点が課題として挙がっているなどの現状も見られる。
○ また、制度創設後の約10年間においては、教育基本法、学校教育法が改正され、また、各学校段階の学習指導要領が改訂されるなど、中高一貫教育制度以外にも、初等中等教育をめぐる議論が活発に行われてきた。平成24年度には中学校で全面実施され、高等学校においても平成25年度入学生から年次進行で全面実施される新学習指導要領では、改正教育基本法や学校教育法の規定は、「生きる力」を支える「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」の調和を重視するとともに、学力の重要な要素は、(1)基礎的・基本的な知識・技能の習得、(2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、(3)主体的に学習に取り組む態度、であることを示しているとの解釈に立ち、「生きる力」の育成に向け、基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスに配慮した改訂がなされている(*1)。
○ 他方、従来、子どもの教育を受ける権利を保障するため、全国的な教育の機会均等を図ることを最重要の役割としてきた公立学校においても、過度の画一化から生まれた弊害に対する反省から、国のナショナル・ミニマムを踏まえつつ地域・保護者の意向に応じた地域や学校の教育目標・方針づくりを行い、それに向けた特色ある学校教育活動を展開するようになってきている。
○ このような状況を踏まえながら、本作業部会では、平成9年答申において示された論点等に沿って、以下のとおり、具体的にその成果と課題を実態に即して検証するとともに、改善方策等について検討を行った。
(*1) 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(平成20年1月17日中央教育審議会答申)
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育校では特色ある教育を提供することが望まれるとして、有意義な教育活動の特色の類型が例示されている。
○ 実態としては、多くの中高一貫教育校で、特色ある教育が行われている。中でも、海外留学や国際バカロレア認定校の取組など国際化に対応するための教育や、体験活動・地域の特性を重視するとする学校が多く見られる。
○ このほか、中高一貫教育校からは、特に高校入試がないこと等による時間的余裕を活用して、安心して自分の好きなこと、意欲的な活動に取り組んだり、挑戦できる、また、進路実現に向けて意欲的に取り組めるといった長所が高く評価されている。
○ 加えて、高校生との交流を通じて「自分がなるべき姿」を見いだしたり、読書活動を通じて高校段階の本に触れるといった経験が、中学生にとって、知的好奇心や学習意欲の向上につながっているほか、高校生のリーダーシップの育成といった効果もある。
○ 中高一貫教育校の学習満足度や特色ある教育、探求心を育てる教育などについては、生徒側からも高い評価を得ており、「企画・創造力」や「思考・探求力」といった観点で、他の一般的な同世代の者に比して高い効力を得たと自己評価されている。一方、詰め込み教育のようなものを受けたとの認識は少ない。
○ これらを総合すると、中高一貫教育校における教育では、例えば、単に難関大学への進学といったようなことのためではなく、平成9年答申において示されているように、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて、豊かな学習をし、個性や創造性を伸ばすといった考え方が、制度創設後10年を経た現在、一定程度達成されていると言うことができる。
○ このような現状を踏まえつつ、今後とも、各学校がその特色を活かした教育活動を展開していくことが望まれる。中高一貫教育校の最も良い点は6年間という長いスパンで一貫した教育を行うことが可能であることにあり、目的意識を6年間維持し続けることが課題であるとも言える。
○ そのためには、まず、目指す学校像や生徒像を明確にして目標を共有し、その目標を達成するために教育活動に特色を持たせていく、さらに、そういった特色を積極的に広報していく、といった取組が特に必要である。
○ 加えて、海外留学や国際バカロレア認定校としての取組等をはじめとして、中高一貫教育校で行われている特色ある教育活動を積極的に支援していくことが必要である。
○ なお、「教員の資質能力向上特別部会」で議論されているが、学校現場で起きている学校間の接続に起因する問題に十分対応できるようにするため、教員が隣接する学校種においても指導できる力量を、養成段階において身に付けることが必要となっていることから、例えば、中学校教諭免許状と高等学校教諭免許状を併せ、「中等教育免許状」とすることなどの是非について、今後検討を進めていくことが必要である。
○ 現行制度においては、中高一貫教育校においては、以下の教育課程の特例が設けられている。
(*1) 「規則」:学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)、「中等・併設告示」:中等教育学校並びに併設型中学校及び併設型高等学校の教育課程の基準の特例を定める件(平成10年文部省告示第154号)、「連携告示」:連携型中学校及び連携形高等学校の教育課程の基準の特例を定める件(平成16年文部科学省告示第61号)
(*2) (2)については、新学習指導要領の実施により選択教科の授業時数の定めがなくなることに伴い、平成24年度から廃止される。
(*3) (4)については、中等教育学校、併設型中学校・高等学校のみ。
○ 平成9年答申においては、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねるなどゆとりある学校生活を送るとの中高一貫教育のねらいを達成する観点から、選択履修の拡大など教育課程の弾力化等の必要性が示されている。
○ この考え方に基づき、教育課程の大綱的な基準である学習指導要領においても、中等教育学校・併設型及び連携型のそれぞれにおいて、上記のとおり所要の特例が設けられている。
○ 一方、現状として、教育課程の基準の特例については、中高一貫教育を行う上で一定の成果が認められるものの、その活用は一部の特例に限られ、決して十分とは言えない状況にある。
○ 加えて、中学校の新学習指導要領が施行されることに伴い、「中学校段階の各選択教科の授業時数の拡大」の特例が廃止される。このことから、中高一貫教育校の教育課程の特徴が弱まることとなるとともに、学校が独自に設定できる時間数が縮小される中で、学校の教科学習面での特色をどのように工夫すべきかが難しいとの意見が出された。
○ このような中、各学校の特色を活かした教育課程の編成をより柔軟に可能とする観点から、「高等学校段階における学校設定教科・科目について卒業に必要な修得単位数に含めることのできる単位数の上限」について、更なる拡大を求める意見が多い。例えば、各教科・科目には位置づけられていない特色ある取組(例えば、福祉に関する教育や表現力を育む教育など)を、学校設定教科・科目として行うに当たって、その単位数の拡大は今後とも必要になる。
○ ついては、中高一貫教育校が今後とも特色ある教育を展開することを促すため、教育課程の特例について、更なる拡充を講じる必要がある。 具体的には、中等教育学校、併設型、連携型のいずれにも認められている「高等学校段階における学校設定教科・科目について卒業に必要な修得単位数に含めることのできる単位数の上限」については、現行制度では30単位まで認められているが、これを、高等学校における学校外学修や外国の高等学校へ留学した場合における単位認定の制度の例等にあわせて、36単位までとすることが考えられる。
○ また、中学校段階内において指導内容を他の学年へ移行し、かつ、その内容を本来の学年で指導しないこと(例えば、第3学年の内容の一部を第2学年において指導し、その内容について第3学年で指導しないこと)の可否については、現在、必ずしも明文の規定がないが、中等教育学校及び併設型の中高一貫教育校においては、前述のとおり、そもそも高等学校段階の指導内容の一部を中学校段階に移行することが認められていることから、6年間の特色ある教育課程を編成するに当たって、中学校段階内においても、各学年及び各教科の標準授業時数を確保しつつ、学年間において指導内容の一部を移行し、かつ、当該内容を本来の学年で指導しなくてもよいこととし、その旨を明確化することが考えられる。
○ 一方、他の設置形態に比して特例が少なく、その活用が難しい連携型においても、例えば中高合同による6年間のシラバスの作成といった取組も見られる。連携型においても6年一貫のカリキュラムの作成は必要との意見も出され、連携型における特例についても、もっと柔軟なものにできないかとも考えられる。 連携型は、一般の中学校と同様に就学指定を受けて中学校へ進学し、高等学校入学者選抜を受けて高等学校へ進学するというその性質上、中等教育学校や併設型に比べると、他の高等学校等へ進学する生徒も多いことに留意しつつ、その特例の拡充について、今後検討が必要である。
○ なお、本作業部会における審議では、教科内容の中高の入替え等に伴う検定教科書の取扱いについての柔軟な運用(中高の別や学年を超えた使用、事前購入や継続使用等)を求める意見も出されたが、これについては、現行制度下で対応可能である。
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育の利点として、高等学校入学者選抜の影響を受けずにゆとりのある安定的な学校生活が送れること、6年間の計画的・継続的な教育指導が展開でき効果的な一貫した教育が可能になること、生徒の個性を伸長したり、優れた才能の発見がよりできること等を挙げ、ゆとりある学校生活を送ることを可能にすることの意義が大きいとしている。
○ 一方、制度創設後10年を経た現在、多くの学校において、在校生・卒業生・教員ともに、特に「高校入試がない」等を理由として、生徒間の学力差、あるいは学習意欲の低下(いわゆる「中だるみ」)を課題として捉えるようになってきており、6年間の間に学力差や学習意欲の差が大きくなる中で、それらをいかに向上させるかが課題となっている。
○ 中でも中学校段階と高等学校段階の接続に当たる時期において、学習意欲の向上の重要性が指摘されている。この点については、既に多くの学校で、この時期に色々な行事を取り入れたり、 生徒へ課題や試験を課したりする等の取組が広く行われており、このような取組は引き続き有効であると考えられる。
○ 加えて、学習意欲や学力の向上を図る上で、いわゆる内進生と外進生の交流の観点がある。すなわち、混合してクラス編成をする場合に、交流による人間性の涵養や学習意欲の向上が期待できる一方で教育課程の先取りは活用しづらい。一方、分けてクラス編成する場合には、学力差には対応しやすいが、交流の面で課題が残る。この点は、多くの学校でジレンマがあるところでもある。
○ 総じて、生徒の理想や目的意識・モチベーションを6年間にわたっていかに育んでいくかが重要であり、それがうまく行かない場合に「中だるみ」が生じるが、学校を運営する立場にある教員の側はこれを緊張感の少なさとして指導上の重要課題と捉える一方、生徒の側はゆとりや中だるみをむしろ自分を再構築する時期として積極的に評価する向きもある。「中だるみ」を単に学習意欲の低下ではなく、まさに中等教育の段階で迎える重要な思春期の心の葛藤や不安定さと捉えるべきとも考えられる。
○ いずれにしても、中高一貫教育校は、高等学校へ進学する段階で試験がないことによって多様な生徒を受け入れることが可能になっている面もあり、中高一貫教育本来のゆとりのある安定的な学校生活を送る中で、6年間の計画的・継続的な教育を展開するという理念のもとで、生徒間の学力差や学習意欲の低下という課題との整合性をどのように考えていくかが重要な視点である。
○ その際、そもそも何をもって学力とするのかを明確にすることも必要である。「生きる力」の理念の下、基礎的・基本的な知識・技能のみならず思考力・判断力・表現力といった要素も併せて考える必要があることに留意することが必要である。
○ 中高一貫教育校への進学に際しては、小学校という早い段階での進路選択が必要になるが、生徒側への調査結果によると、自分の進路について保護者と話をする機会を得つつ、保護者ではなく自らが選択して進学したという傾向が高い。
○ 平成9年答申や、制度導入時の法改正に際しての国会審議での附帯決議においては、中高一貫教育導入に当たっての懸念として「受験エリート校化」や「受験競争の低年齢化」が示され、この点を踏まえて、公立学校(中等教育学校・併設型中学校)での入学者選抜においては「学力検査を行わない」こととされている(*1)。
○ このため、現在、公立(中等教育学校・併設型中学校)の入学者選抜に当たっては、学校がその個性や特色に応じて、 面接、作文、小学校からの調査書・推薦書を用いるなど、 多様な方法を適切に組み合わせて入学者選抜を行っているが、その一環として、ペーパーテストなどを用いて、生徒に求める思考力、判断力、表現力といった総合的な適性を測る、いわゆる「適性検査」が広く行われている。これは、多くの設置者において、実施しないこととされている「学力検査」の意味を、学校の各教科の内容に即した、受験に向けた反復訓練等により正答率を高めることが可能な知識・技能を測る検査であると捉え、これとは異なる資質等を測るものと位置づけて実施されているものと考えられる。
○ しかしながら、このような実態に対して、思考力、判断力、表現力といった概念こそ学力の重要な要素であり、それを測る検査は、「学力検査」そのものではないかとの指摘や、実際に、受験産業において公立の中高一貫教育校の「適性検査」への対策が講じられ、それに取り組んでいる児童がおり、問題である等の指摘もあり、 公立の中等教育学校、併設型の中学校における入学者選抜において、「学力検査」を行うことの是非が改めて大きな課題となっている。この点について、各委員からは次のような意見が出された。
(*1) 学校教育法施行規則第110条(中等教育学校)及び第117条(併設型)。
○ これらの意見を踏まえると、公立学校(中等教育学校・併設型中学校)での入学者選抜における「学力検査」の在り方を考えるに当たっては、
○ 公立の中等教育学校や併設型の中学校は、小・中学校の設置を義務付けられている市町村が、その義務の履行の一環として設置する学校ではなく、設置義務に基づいて設置される中学校に加えて、あくまで生徒や保護者の中等教育における「選択肢」を提供するものとして、設置者の判断により設置される学校である。
このため、多くの志願者があるような実態も踏まえると、公立学校や私立学校が置かれている環境などそれぞれの地域の状況も考慮に入れた上で、学校が、その目標や目指すべき人材育成像や、これに基づく教育内容・方法の特色に応じて、これに見合う資質・能力を有する生徒を見極めるための入学者選抜を行い、入学者を決定することは許容されてよいものと考える。その際には、小学校教育において、1.基礎的・基本的な知識・技能の習得、2.知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、3.主体的に学習に取り組む態度をバランスよく育むべく教育活動が行われており、これを損なうことのないよう十分留意することが必要である。
なお、公立学校においてはより積極的に抽選を導入すべき、との指摘もあるが、抽選は生徒の資質・能力や努力と関係ないところで結果が決まり、生徒に不公平感や精神的ショックを与えるおそれがある点に留意する必要がある。
○ 入学者選抜を行う際には、設置者において、学校の目標、人材育成像、教育内容・方法の特色や、これらに基づきどのような適性を有する生徒を求めるのか、そしてその考え方がどのように選抜方法に反映されているのかを明確にし、これを広く周知することが最も重要である。また、各学校において入学者選抜の方法を決定するに当たっては、 平成9年答申や、制度導入時の法改正に際しての国会審議での附帯決議において示されている「受験エリート校化」や「受験競争の低年齢化」といった懸念を招くおそれがないか、あるいは、 こうした懸念を上回る必要性があるのか、 等を見極める必要がある。 その際、同じ選抜方法を用いる場合であっても、例えば、既存の高等学校に接続された中学校が実施するのか、全くの新設校が実施するのかといったように、それぞれの場合によって、生徒や保護者の受け止め方に違いが生じることがあるなど、地域や学校の状況に配慮することが重要である。
○ 中高一貫教育の充実について考える上では、現状の「適性検査」について、上記のような考え方を前提として、その内容が妥当なものであるかどうかを、各教育委員会において検証していくことが必要である。制度上、「学力検査」を実施しないこととされていることについては、このような状況を踏まえつつ、これを改めるかどうかを判断することが重要である。
○ 連携型高等学校における入学者選抜については、「調査書及び学力検査の成績以外の資料により行うことができる」こととされており(*1)、実態としては、面接がほぼ全ての学校で行われているほか、レポートや作文、発表などを実施しているとする学校が一定数見られる。
○ こういった方法による結果、連携型においても、学習意欲の低下や学力差については課題意識がある。また、文部科学省が施策の広報において用いている「簡便な入学者選抜」という言葉が、あたかもその高等学校における入学者選抜の難易度や教育内容の程度が低いかのような印象を与えることがあるとの指摘がなされた。
(*1) 学校教育法施行規則第90条第4項。
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育校にあっても、高等学校段階に進む時点で進路変更を希望する生徒に対しては、他の高等学校への進学などの必要な配慮を行う必要性が示されている。
○ 実態において、高等学校段階に進む時点では、公立の連携型を除き、併設先・連携先の高等学校や同一の中等教育学校の後期課程への進学が圧倒的に多いが、一部、「他の高等学校等に進学」する例が見られる。
○ ただし、この場合も、転居等を除き、生徒本人の進路希望を踏まえた上で保護者を交えた面談を行い、他校への進学意思を確認したり、希望する進学先の概要・特色を説明した上で、生徒本人や保護者の進路意思を確認するといった必要な配慮が行われており、この点に関して、特段の課題は認識されていない。
○ 平成9年答申では、中学1年生から高校3年生までの異年齢集団による活動が行えることにより、社会性や豊かな人間性の育成に資するとの利点と、心身発達の差異の大きい生徒を対象とするため学校運営に困難が生じるおそれがある場合や、生徒集団が長期間固定されることによる問題点が示され、中・高を通じた教員の連携・配慮や生徒の発達段階の差異に応じた指導を行う必要性などが指摘されている。
○ 実態として、中高一貫教育を導入した結果、当初ねらいとしていた学校より多くの学校で異年齢交流による生徒の育成に成果があったとしており、学校運営が困難とする学校は少ない。また、生徒の人間関係の固定化を課題とする学校も決して多くない。
○ 心身発達の差異や人間関係の固定化に対する取組として、スクールカウンセラーの活用や、内進生・外進生、学級、年齢の別を超えた活動、行事や部活動等での交流が行われている。
○ 特に、中学校段階から高校生と深く交流することができる異年齢集団の活動については、その成果が学校側からも評価されている。
○ また、生徒側からの評価でも、人間関係の固定化・不安定さについての懸念も見られる一方で、中高の6年間において深い人間関係が形成されることについての高い評価が見られ、安定している。
○ 「教職員の負担」は、平成9年答申には示されていない論点である。
○ 一方、実態として、国による制度導入以前から相当の広がりをもって中高一貫教育を実施してきた私立を除き、国公立においては、教職員の意識改革・指導力の向上に成果を認める一方で、教職員の負担が増えているとする学校が多い。
○ これらのことから、教職員の負担感が、制度導入時には懸念されていなかった新たな課題として生じてきている現状が浮き彫りになっている。このような中、教職員の定数増が望まれ、公立学校の条件整備としては、都道府県独自で加配措置を講じてきたものの、財政難の中でなかなか難しい状況がある。
○ 負担感の要因の一つとして、例えば前述した中高間の交流授業実施にともなう打合せ時間の確保、教材研究等が考えられる。高等学校の教員が積極的に中学校の授業に入り、中学校段階での学習を高校教員が十分把握することで、高校で学ぶ内容をより厳選したり、中学3年生を担当していた教員が高校1年生の授業を受け持つことによって、生徒にとっての安心感につながることから、これらの取組自体は非常に有益であると考えられる。
○ よって、この点に関する負担感を克服する必要があり、例えば、校務分掌の中高一体化やITの導入による負担の軽減等の取組が認められる。また、6か年を見通したシラバスの作成は、生徒への指導の一貫性を保ちつつ、指導法の継承や教員の負担軽減に資するとの意見も出され、このような取組が広く行われることが有効であると考えられる。
○ また、学校側からは、公立学校においては高等学校・中学校それぞれから背景の異なる人事により赴任することに起因する困難さも指摘されている。この点については、例えば職員室を同じにするといった取組や職員研修などを通じて、双方の教員の相互理解の促進に資することが重要であると考えられる。なお、教員の交流を行う場合には、中高の授業形態の在り方、各教員の授業の持ち時間のやりくり、評価、卒業後の進路に関する指導の在り方等についても、相互理解を進めることが必要であると考えられる。
○ なお、負担感の増加には、中高一貫教育校であることに由来する要因のほかに、「子どもと向き合う時間の確保」の指摘に見られるように、そもそも教職員の超過勤務の常態化等の構造的な背景があることにも留意し、例えば教職員の持っている能力や適性に応じた校務分掌を行うことも重要である。
○ 一方で、私立学校からは、中高一貫教育の趣旨や目的意識を明確に持つことができれば、さほど負担感はないのではないか、との意見が出された。
○ 制度導入後、中高一貫教育校の数は着実に増えているが、それ以上に中高一貫教育についての生徒や保護者の期待やニーズが非常に高まっており、それに学校の整備が追いついていないとの意見が出された。 このような状況の下、地方公共団体や学校設置者の主体的な判断により、今後とも中高一貫教育校の量的充実が図られることが求められていると考えられる。
○ その際、公立学校においては、制度導入以前から実際上相当の広がりをもって中高一貫教育を行ってきた国私立学校を単に模倣するのではなく、それとは違う学校の在り方が模索されることが望ましい。平成9年答申では、特色ある中高一貫教育校の在り方として、(a)体験活動を重視する学校、(b)地域に関する学習を重視する学校、(c)国際化に対応する教育を重視する学校、(d)情報化に対応する教育を重視する学校、(e)環境に関する学習を重視する学校、(f)伝統文化等の継承のための教育を重視する学校、(g)じっくり学びたい子どもたちの希望にこたえる学校、が例示されているが、地域の実情に応じた多様な中高一貫教育校の整備が図られることが望まれる。
○ また、私立学校においては保護者の学費負担の大きさが課題となっており、負担軽減が図られながら、公立学校と、また私立学校間でも切磋琢磨していけるような環境が整っていくことが望ましいと考えられる。
○ 中高一貫教育校の中でも中等教育学校は、新しい学校制度の選択が可能となり、学校が新しく一新され、地域の信頼が高まったとの指摘がある。
○ また、中高一貫教育校が核となり、地域全体の取組として、中学校と高等学校が情報提供を密にする観点からの中高連携を進める取組も行われている。
○ 他方、中高一貫教育校が生徒や保護者のニーズに応える形で際だった才能や意欲を示す子どもを受け入れ、地域のリーダーを育成するといった教育目標を掲げる一方で、公私のバランスや地域の一般の公立中学校への影響を懸念する声もある。
○ もとより中高一貫教育校は、生徒や保護者にとって中等教育の「選択肢」として設置されるものであるが、中高一貫教育校ではない一般の公立中学校や高等学校についても、平成9年答申においては、
といった利点を有することが示されている点には留意が必要である。
○ 連携型中高一貫教育校は、主に都道府県立高等学校と市町村立中学校の連携により設置され、既存の中学校・高等学校を活用して中高一貫教育を導入しやすい面がある一方、実態として、離島や中山間地域など、過疎化が進む地域において、単独又は複数の中学校と高等学校が連携することにより、地域振興などの役割も担っている学校が一定程度見られるといった特徴がある点で、中等教育学校や併設型とは大きく異なる。
○ 連携型はその学校数が近年伸び悩んでいる。その要因として、中学校と高等学校の距離が離れているという物理的な環境の下で、中高間の連携・協力を図らなければならない教員を支える体制が必ずしも十分に整っていないことが考えられる。また、併設型と異なり、連携先の中学校から高等学校への進学率は必ずしも高くない。
○ 一方、離島など当該地域から離れた高等学校に通学することが難しい地域を中心に、教育委員会や保護者、地域住民が地域ぐるみで連携型中高一貫教育校における教育活動の充実に取り組んでいる。
○ これらを踏まえ、前述した教育課程の特例の拡大などの検討を行うとともに、その取組を支援していくことが必要である。
○ これまで見てきたように、中高一貫教育制度は、その制度導入から10年を経過した現在、制度創設時に期待された成果が達成され、その理念が一定程度実現されている一方で、制度創設後に生じてきた課題なども見られるようになってきた。
○ こういった成果についての関係者の理解・認識がより深まるとともに、認識されている課題に対しては、必要な制度の改善や各学校における取組が促されることが必要である。また、単に中高一貫教育制度のみの改善にとどまらず、今後の高等学校教育の在り方を検討する中での視点も重要である。
○ その上で、本作業部会としては、すべての子どもたちが、その能力に応じてひとしく教育を受ける権利を持っており、中高一貫教育を希望する子どもたちや保護者の選択の拡大を図ることや、学校設置者による特色ある教育の更なる展開の観点から、今後とも中高一貫教育校の設置が促進され、今後より一層、我が国中等教育の多様化・複線化が深まることを期待する。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室