資料5:久松委員提出資料

特別支援教育の在り方に関する特別委員会

財団法人全日本ろうあ連盟 久松三二

以下、中央教育審議会特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告案(委員長試案)に対する意見を提出します。

2012年5月25日

文部科学大臣 平野博文様

中央教育審議会特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告案(委員長試案)に対する意見

日本障害フォーラム(JDF)

 貴省におかれまして平素より障害児・者教育の発展にご尽力いただき、心より敬意を表します。日本障害フォーラム(JDF)はこの間の制度改革に置きまして、積極的に参与してまいりました。その一環である障害児教育制度の改革についても大きな関心を持っており、障害者権利条約の理念と規定に沿った改革について様々な運動を進めております。
 貴省に設置されました特別支援教育の在り方に関する特別委員会(以下、特特委)における議論が、現在、取りまとめの作業を行っており、委員長による試案が出されております。先日も当委員会のもとにおかれました合理的配慮のワーキングチームの報告について、JDFとして意見を申し上げさせていただいた次第です。しかし、残念ながらそれに対する貴省の回答等はいただいておりません。
 これらの内容も含め、下記、緊急の意見を出させていただきますので、特特委での誠意あるご検討のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

1.共生社会の形成に向けて

 インクルーシブ教育システム構築のために国としての施策の優先順位を上げる必要があると書かれており、方向性としては大変望ましいと思われますが、いつ何をどうするのか具体的に記述してください。

2.就学相談・就学先決定の在り方について

(1)就学先決定における総合的判断について

 原則普通学校へ、希望する場合には特別支援学校へ、という障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育を基にした就学先決定の在り方にしてください。
 委員長試案では、「就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について市町村教育委員会が主体となって合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である」とありますが、現状と何が変わるのか明確ではありません。

(2)調停機関について

 就学先の決定において教育委員会と保護者の意見が一致しない場合の調停機関について、第三者的立場を十分に確保したものにしてください。都道府県教育委員会を調停機関とすることには賛成できません。欧米の仕組みなどを参考にしながら、教育支援計画を作成するチーム(本人・保護者、司法関係者や福祉従事者なども参加)などの第三者機関で対応すべきです。報告書において、1.共生社会に向けて(3)今後の進め方の箇所に記載されている短期・中長期の施策の中に、「第三者的な調停機関の設置」を明記してください。

【理由】

第三者的な立場からの調整について骨子案まで残されていた「行政不服審査制度による調整」の文言が削除されています。4月27日の委員長試案には市町村の教育委員会にある「教育支援委員会」の役割の一つとしてのっており、その日の委員会での議論で、「措置した機関が調停できない」という意見が出されました。そして複数の委員から都道府県教育委員会でその任を行うべき、との意見が出されたと聞き及んでいます。これでは解決策になりません。教育委員会の外におかれる調整機関による制度設計をすべきです。

3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備

(1)「合理的配慮の提供義務」について「行政法上の義務」なのか「障害者本人の権利に対応する、障害者本人に対する義務」なのか、権利義務関係がいまだ明確になっていません。合理的配慮が障害者等が請求できる権利としてきちんと位置付けてください。

(2)「基礎的環境整備」について

 3月14日にJDFとして提出させていただきました「インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に関するヒアリング意見」の概要を掲載します。

○1 どこまでが合理的配慮でどこからがそうでないのか全く不明です。「合理的配慮」とは、まずは現状の中で個別具体的な場面で、個人などが請求し、関係者と交渉しながら配慮の内容を決める、というものです。基礎的環境整備の内容が不明であり、合理的配慮とどのように違うのか全く不明です。概念の混同が見られます。

○2 基礎的環境整備ができていないと合理的配慮を請求することすらできない可能性が出てきます。(p.7○3「なお、「合理的配慮」は、「基礎的環境整備」のもとに個別に決定されるものであり、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なる」)。もしそうであれば権利条約に抵触する可能性があります。

○3 基礎的環境整備の数値目標

 障害者団体、関係団体などの参画のもと、短期、中期、長期の数値目標を定め、実行し、チェックし、修正等の行動を起こすPDCAサイクルのようなものを法制度で明確にして実施すべき旨を明記すべきです。

○4 合理的配慮の段階適用

 基礎的環境整備ができないと合理的配慮ができない、という制度である場合は条約に抵触する可能性があります。それに対して例えば、合理的配慮実施義務は教育機関別に段階的に適用するという立法技術もあります。ちなみに、基本的環境整備は、合理的配慮義務の適用に合わせて作られるべきものです。

 

以上

 

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