指定都市教育委員・教育長協議会

インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に関するヒアリング意見提出様式

団体名 指定都市教育委員・教育長協議会

 

1.合理的配慮等環境整備について

○子ども一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定する「合理的配慮」の実現には、新たな国の財政的及び人的な支援が必要不可欠である。一義的には、国が標準的な整備水準を策定し、そのための財源を確保することにより、自治体や学校設置者の財政力に左右されないかたちでの整備を進めていくべきである。インクルーシブ教育の早期実現のために、国は財政的支援のあり方を具体的速やかに示すと共に、都道府県の役割を明確にし、市町村に対して過度の負担とならないよう対応すべきである。

(1)合理的配慮

○1 ガイドラインを取り決め、学習指導要領との整合性を図る

  • 地域によって差が広がらないように、一定の枠組みを示す。
  • 「均衡を失した又は過度の負担」は抽象的であり、具体的な事例を示す。
  • 通常の学級に在籍する発達障害等の児童生徒に関し、個別の教育支援計画や指導計画の作成を義務づける。

○2 システムの構築について

 現行の就学指導委員会等に代わり、以下のようなシステムの構築が必要となると思われる。これらシステムの構築をどのようにすすめるか検討が必要である。

  • 各学校からの合理的配慮に関する申請システムの構築
  • 各学校からの申請に基づく合理的配慮の決定システムの構築
  • 決定された合理的配慮についての当事者及び保護者との合意形成システムの構築
  • 当事者及び保護者との合意形成が図られなかった際の調停システムの構築
  • 合理配慮の効果についての評価システムの構築

○3 学校等への裁量権について

 設置者及び学校(校長)に指導の裁量権を与えるべきである。

○4 「教育内容・方法」については、学校の設置者や学校が特別支援教育の視点で内容や方法に対して積極的に工夫し取り組んでいるが、意見中にあるような特別支援教育の専門性の位置づけが合理的配慮への認識と行動と同等であると捉えるには現状では難しく、周知に時間がかかるのではないか。

○5 市民(保護者)への理解について

 「合理的配慮」の決定・提供にあたり、各市町村により差が生じることについて、市民(保護者)に理解を得られない場合が予測できる。訴訟等に発展した場合、一つの判決が判例として、実情の異なる市町村に適応される場合も想定できる。このような場合、「均衡を失した」又は「過度の」負担についての判断がなし崩しになる恐れがあるのではないか。

○6 学習内容の変更・調整について

 学習内容の変更・調整を行った場合、その評価は個に応じたものに工夫されることになると思われるが、その場合の評価を客観的なものとして、他の児童生徒への評価と同様に扱うのは難しいと思われる。高校受験等の場合、個に応じた評価をどのように扱うか。

(2)基礎的環境整備

○1 教員配置及び学校施設・設備の整備についての基準・指針を明記する必要がある。

 小中学校に障害のある児童・生徒を受け入れるためには、教員や支援員等の確保、施設・設備の整備が必要となるので、国が基準等を示すと共に各自治体に財政負担を強いるのでなく、国負担で行う。

○2 具体的な施策

  • 現状の40人学級編制では、個別の指導は十分にできない。特別な教育課程の編成が可能でも、通常の学級ではそれに対応できる教員が配置されていないと考える。
    個々の教育的ニーズに応じた教育課程の編成とそれに対応できる教員の配置を行う。(教員定数、1学級の児童生徒数の改善)
  • 地域の学校で全ての児童生徒が学ぶため、全小中学校に、特別支援学級、通級指導教室を設置する。
  • 基礎的環境の整備としての通級指導教室,特別支援学級等の多様な学び場の拡充。
  • 特別支援教育支援員について、地方交付税による措置ではなく国の定数配置化を明確にする。
  • 従来から構想が示されている「特別支援教室」が、「基礎的環境整備」等において全く取り上げられていない。今後の特別支援教育の推進方策を示すものであれば「特別支援教室」構想の現状や課題について示すべきである。
  • 合理的配慮のために必要な施設のバリアフリー化(スロープ、手すり、エレベーター、点字ブロックなどの整備)。
  • 合理的配慮のために必要な設備(拡大機、拡大鏡、補聴器、点字プリンター、点字ソフト、車椅子など)の各学校への貸与システムの構築。
  • 読み書きに課題がある児童生徒に対するマルチメディアデイジー図書の活用と教室で使用できるような電子黒板とコンピュータ機器の充実(ユニバーサルデザイン化)
  • 小中学校で学ぶ医療的ケアの必要な児童生徒に対する看護師派遣と校内体制整備のありかたについて(教員のバックアップ体制の充実と医療的ケアの実施)
  • 特別支援学校のセンター的機能を充実するなど、特別支援教育を充実するためにはより一層教員定数の改善を進める必要がある。
  • 高等学校での特別支援学級設置の可能性についての具体的な検討が必要である。
  • 知的な遅れのない発達障害の生徒について、高等学校への入学から卒業するまでの具体的な支援(評価基準のありかた)と大学受験体制の今後の方向性について(パソコンの使用許可や個別の教育支援計画や個別の指導計画による内申等の取扱)

2.教職員の確保及び専門性の向上について

(1)教職員の確保について

  • 教員の専門性向上の課題は、大学の教員養成課程や免許取得のための単位設定を変えない中で、学校現場だけで解決できるものではなく、単位認定等を充実させる施策を、国主導で行うべきである。
  • 公立小・中学校における少人数化の推進が特別支援教育の推進にも資するものであり、一層の充実を図る必要があることには同意であるが、特別支援学級や特別支援学校の在籍児童生徒数が増加傾向にある中で、これらの学級、学校の定数についての改善が後回しになっている現実がある。
  • 「個別の指導計画」等に基づいた指導を求められる中で、複数学年が在籍する特別支援学級では現行の定数(8人)では指導が極めて難しい。特に、自閉症・情緒障害のある子どもの学級では、各学年の教育課程に応じた指導が求められており、早急に定数を見直す必要があると思われる。

(2)教職員の専門性の向上について

○1 今後は、様々な障害種、特性のある子どもがすべての通常の学校に在籍する可能性がある。通常の学校のすべての教職員が、それらの子どもたちがもつ多様な教育的ニーズに対応するだけの専門性をもつことを求めるのは現実的ではない。専門性に欠ける教職員をサポートするためには、以下のようなシステムの充実が必要となるのではないか。

ア 教職員に対し助言を行う、それぞれの障害種について高い専門性をもつ「スペシャリスト」の活用の充実

  • 特別支援学校のセンター機能の充実
  • 看護士、臨床心理士等の雇用の拡大と充実

イ 「スペシャリスト」からの助言を受け止めることができる教員の養成、配置

  • 特別支援教室の設置と担当教員の養成、配置
  • 特別支援教室担当教員による合理的配慮の実施
  • 特別支援教室担当教員からの指示、助言に基づく教員、養護教諭、特別支援教育支援員等による合理的配慮の実施
  • 特別支援学校と特別支援学級の積極的な人事交流。

○2 研修体制の充実

  • 全ての教員に障害のある児童生徒への指導に関する研修受講を進めるため、免許更新時の研修等に取り入れる。
  • 専門性の向上が急務であるため、特別支援学校免許取得のための認定講習充実のため、実施に係る補助金支援や代替講師等の増員のための財政措置を講じる。
  • 教育センターにおいて、インクルーシブ教育システムに関する研修会を実施する。研修参加者が、自校に戻り伝達講習会を開催するように指示する。

(3)教員養成課程等での対応について

○1 特別支援学校教諭免許の扱い

  • 特別支援学級を担当する教員が、特別支援学校の免許をすぐに取得するのは容易ではなく、長期的な議論が必要である。免許保有率を上げることよりも、通常の学級や特別支援学級で様々な児童・生徒に対応できる教員の養成が急務である。
  • 特別支援学校教員・特別支援学級教員の特別支援学校教員免許保有率を上げるため、「当分の間、特別支援学校教員免許はなくてもよい」という時限を撤回し、十分な移行期間を明確に規定する。

○2 教員養成課程での改善策

  • 大学の教員養成課程で、小学校や教科の免許取得においても、現在の特別支援学校の免許(二種程度)に相当する内容や特別支援教育専門性の知識(高発生頻度障害・小児病等)と指導方法等の履修を義務づける。
  • 専門性を更に向上させるために、6年制(専修課程や大学院の充実)を奨励する。
  • 教員養成系の大学に対して、インクルーシブ教育を充実していくように依頼する。

(4)特別支援教育支援員について

 特別支援教育支援員については、特別支援教育をすすめるためには欠くことができない存在として、教育現場から支持されており、その拡大が望まれるところである。
 支援員に対し教員免許状の所持を採用の条件とし、学習指導の役割を期待する意見もあるようだが、そのためには賃金等でそれに応じた条件を用意する必要が出てくる。それらを整え、毎年度募集、採用を繰り返すことを考慮すると、教員数を増やした方が良いのではないか。
 また、講師不足が深刻な中、教員免許状の更新制もあり、その条件に合う人材を十分に確保するのは難しくないか。

(5)特別支援教育コーディネーター等

  • 特別支援教育コーディネーターは特別支援学校教諭免許状を有する者とし、各校に最低1名配置し、学校内で日常的にOJTができるようにする。
  • 各学校で指名されている特別支援教育コーディネーターのスーパーバイザー的な人材(スーパー特別支援教育コーディネーター)を専任配置し、コーディネーターの養成や全市町村的視野にたって、インクルーシブを推進できるような体制を構築する。

 

事務局:浜松市教育委員会
教育総務課 担当:影山和則
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初等中等教育局特別支援教育課

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