全国都道府県教育委員長協議会・全国都道府県教育長協議会

全教委連発第201号
平成24年3月19日

文部科学大臣 平野 博文 様

全国都道府県教育委員長協議会
 会長  木村 孟

全国都道府県教育長協議会
 会長  大原 正行

インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に対する意見について

 

 平成24年2月16日付けで依頼がありました標記の件について、下記のとおり意見を申し上げます。

 

1 合理的配慮等環境整備について

(1)「合理的配慮」の定義等

  • 設置者および各学校は、障害のある幼児児童生徒に対する「合理的配慮」を、「体制面、財政面において均衡を失した又は過度の負担を課さない」範囲で実施することとされているが、「均衡を失した」「過度の」負担がどの程度のものを指すかについては、「個別に判断すること」としか書かれていない。このような抽象的な基準では個別の環境整備を実施しなければならないかどうかの判断が難しいため、判断基準を示す必要がある。

(2)「合理的配慮」の決定方法等

  • 障害者基本法第16条第1項に基づき、障害者である児童生徒が、障害者でない児童生徒と共に可能な限り教育を受けられるようにするため、本人・保護者、学校、市区町村教育委員会等が、専門家の意見も聞き、一人一人の障害の状態や教育的ニーズに応じ「個別の教育支援計画」を作成しながら、就学先や就学後の「合理的配慮」についての合意形成も図るべきである。
  • 現状では、市区町村により異なる対応となることが想定され、その場合には、保護者等から理解を得られず、合意形成に至らないことが懸念される。このため、国は、国、都道府県、市区町村等の役割を明確にし、合意形成に向けた手続きやスケジュール、調整に当たる第三者機関の設置の在り方等、一定の指針となるガイドラインを示すことが必要である。また、第三者機関の設置促進のため、設置に係る財政支援の検討も必要である。
  • 現行の特別支援学校の学習指導要領に示されている個別の教育支援計画や個別の指導計画を、今後は、幼稚園の幼稚園教育要領や、小・中学校、高等学校の学習指導要領においても明確に位置付ける方向での検討が必要である。
  • 障害者基本計画に示された、就学前から就労までを見通した個別の支援計画と個別の教育支援計画との関係を整理した上で、個別の教育支援計画の作成及び活用の方法を示していくことが求められる。また、幼稚園・保育所・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校間で情報を引き継ぐことができるよう、個人情報の取扱いも含めた国の指針等を示す必要がある。

(3)基礎的環境整備

  • 地域において子ども一人一人の学習権を保障する観点から、学びの場を適切に選択できるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれにおける基礎的環境整備充実のための国による財政支援が必要である。
     さらに、「合理的配慮」を市区町村が行うために、国からの財政措置を講じることや、障害のある幼児児童生徒を受け入れるための環境を整備する期間について明確に示す必要がある。
  • 小・中学校の通常の学級で支援を受けている、発達障害等のある児童生徒が増加傾向にある中で、就学前の段階から義務教育段階、義務教育段階から高等学校段階への継続した支援の方策を整備する必要がある。
  • 特別支援学校が果たしているセンター的機能・役割のうち、本来市区町村が担うべき役割等を整理し、全ての校種において、特別支援教育コーディネーターの配置に係る定数上の扱いについて検討する必要がある。
  • 高等学校段階において、入学者選抜や教育課程編成上の配慮、通級による指導の適用等について検討が必要である。高等学校の入学者選抜については、入学者選抜の公平性を損なわない範囲で、別室での受検等、障害のある受検生に対する特別な配慮に関する具体的な指針等の検討が必要である。

(4)学校における「合理的配慮」の観点

  • 「合理的配慮」を決定する上で、ICF(国際生活機能分類)を活用することが考えられるが、ICFの項目は多岐に渡るため、どの考え方を活用してどのように決定するかについて、関係者間で共通理解を図る必要があることを明記すべきである。

2 教職員の確保及び専門性の向上について

(1)大学における教員養成

  • 大学における教員養成課程において、発達障害、特別支援教育等に関する基礎、心理・教育法に関する内容の位置付けを強化する方向での検討が必要である。これまでの答申等で大学に求めてきた対応等の状況を把握し検証を行い、発達障害、特別支援教育等に関する基礎的内容を養成カリキュラムに位置付けるとともに、必修単位数の設定等改編をしていく必要がある。
  • 特別支援学校の教員養成課程において、障害種に応じた専門性、教科等の専門性などを考慮した養成カリキュラムの検討が必要である。

(2)現職教員の専門性の向上

  • 特別支援教育に関する専門性を有する教員を育成するためには、教育センター等の特別支援教育部門の充実とともに、全ての学校において特別支援教育に関する専門性を高めるための研修や実際の指導場面における実地研修を組織的に行うなど、各学校で実施可能な研修のシステムづくりが必要である。
  • 現職教員の特別支援学校教諭免許状の取得率を高めるための認定講習を各都道府県で実施してきたことに加え、国又は地区・ブロック別で免許状取得に係る講習会の実施等の検討が必要である。また、講師の確保等の観点から、国立特別支援教育総合研究所の活用等についても検討する必要がある。
  • 低発生頻度障害に対する専門性の向上が校内研修で図られるよう、校内の指導的立場となる教員を計画的に養成するシステムが必要である。そのため、国立特別支援教育総合研究所における専門研修制度の充実について検討する必要がある。
  • 特別支援学級担任、通級指導担当教員等にも特別支援学校教諭免許状の取得を支援する制度を構築する必要がある。
  • 特別支援学級担任、通級指導担当教員については、通常学級における教育の専門性に加え、特別支援教育に係る専門性が求められるが、担当者の入れ替わりが激しく、免許状を取得していることだけでは、専門性が十分担保できない。特別支援学級担当となった初任者や、初めて特別支援学級を担当する者(期限付き等も含む)に向けた研修の充実の方策について検討する必要がある。
  • 特別支援教育に係る専門性は、特別支援学校教諭免許状の保有に加え、学校現場での日頃の教育活動や研修で向上させていく必要がある。
  • 教員免許更新に係る講習や経年研修に、発達障害等の理解と指導法に関する内容を必須として位置付けることについて検討する必要がある。

(3)人事交流等

  • 障害のある教員は、点字や手話などの指導場面で、当事者の視点から「合理的配慮」や「基礎的環境整備」について、具体的な提案ができることが期待されるため、障害のある教員の積極的な養成・採用を図る必要がある。

3 その他

  • 「インクルーシブ教育システムの構築」については、理念・指針等を明確に示し、障害者の人権尊重という視点も含め、全ての子どもの個に応じた指導について幅広い視野からの検討が必要である。このことについては、今後の我が国の教育の在り方にも関わる問題であり、教員や教育行政に携わる者の意識改革が求められる。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)