全日本教職員組合

インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に関するヒアリング意見

団体名  全日本教職員組合

 

 全日本教職員組合(全教)は、すべての子どもたちの学習権・発達権を具体化する教育制度の確立をめざすことこそがインクルーシブな教育づくりの方向であり、通常学級でも特別な教育の場でも、必要なニーズに応じて条件の整備をすすめていくことが重要であると考えて運動をすすめてきています。そういった観点から障害者権利条約の批准に向けた検討が教育分野で進められていくことを願い、依頼のあった2点について意見を述べます。

1.合理的配慮等環境整備について

(1)合理的配慮の定義ととらえ方について

 障害者権利条約においては、「締約国は、平等を推進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保する」(第5条)と規定され、第24条(教育条項)で「個人に必要とされる合理的配慮が提供される」とされています。つまり、合理的配慮は権利として保障され、障害の個別性に着目して求められる差別是正措置であると言えます。そう考えた場合、今回の「報告」で、「環境整備」と「個別の合理的配慮」を区別した上で、それらを合わせて「学校における配慮事項等」としたことは、個別的な差別是正措置としての合理的配慮を曖昧にしてしまい、実際には単なる「配慮」、心配りのレベルに矮小化されかねません。「合理的配慮」に対する国レベルの公的責任が明らかにされないことが危惧されます。
 さらに、各障害種別に応じて個別的配慮を例示したことによって、例示された範囲で合理的配慮措置を検討する、あるいは例示を基準にする、というような逆作用が起きてしまいかねません。子ども一人ひとりの、障害その他に起因する特別なニーズに対応した「合理的配慮」の実現に向けて努力する立場を明確にする必要があります。

(2)通常学級での基本的条件

 障害その他に起因する特別な教育的ニーズを持つ子どもが通常の学級で学習する基本的な条件として、何よりも小規模学級であることが必要です。「報告」でも触れられているように「公立小・中学校における少人数学級の推進」を第1にすすめていくことが重要だと考えます。
 同時に、現在の学習指導要領が内容的にも量的にも子どもへの負担が非常に重く、学習上の課題を抱える子どもたちにとっては困難さを増す原因ともなっています。内容の精選など学習指導要領の見直しを求めます。

(3)中等教育における合理的配慮

 高等学校や特別支援学校高等部への進学率がほぼ100%近い状況にあるとはいえ、義務教育と後期中等教育における合理的配慮の推進を同じレベルで考えていくことは難しいと思います。
 現在の後期中等教育においては、様々な障害やニーズをもった子どもたちに必要なカリキュラムや教育条件について、ほとんど整備されていないのが現状です。単位認定の問題など、中等教育においてクリアしなければならない課題を明確にしていくことが重要です。

(4)固定式の特別支援学級の意義と通級指導教室の整備

 特別支援学級を「特別支援教室」にしていくことが、特別支援教育のあり方に関する特別委員会でも議論されています。固定式の特別支援学級をなくしてしまうことは、継続的な学習と生活の指導を必要としている子どもたちにとって「合理的配慮」を否定してしまいかねません。固定式の支援学級を拡充し、さらに通級指導教室を充実してすべての学校に必要数を設置することが、一人ひとりのニーズに合わせた「環境整備」と言えます。

(5)特別支援学校の新増設、整備は急務

 特別支援学校の現在の条件整備を見ると、報告で述べられている「合理的配慮の基礎となる環境整備」はまったく不十分といわざるを得ません。在籍者の急増に学校建設や条件整備がまったく追いつかず、学校の過大・過密は全国的な状況にあります。教室不足解消のために、一つの教室をカーテンで間仕切りしたり、特別教室をすべてつぶしてしまったりしています。通常の学校ではあり得ないことが、障害児学校では普通に行われていると言うことであり、差別的な状況と言えます。また、教室不足解消という名目で、条件が劣悪な「分教室」を多数設置するような施策が行われていることも見過ごすことはできません。これは日本国憲法第26条(教育を受ける権利)、教育基本法第4条(教育の機会均等)、学校教育法第38条、49条、80条(学校設置義務)等の法令にのっとって早急に解決すべき問題であり、「合理的配慮」の「均衡を失した又は過度の負担」を理由として条件整備をすすめないことなどは、もちろんあってはならないことです。こうした状況は、特別支援学校にだけに「学校設置基準」がないことに起因していることが明白であり、早急に「特別支援学校設置基準」を策定し、特別支援学校の新増設・整備をすすめることが喫緊の課題です。
 同時に、学校の過大化により、子ども一人当たりの教職員の配置率が低くなり、十分な教育活動を行えない状況にあります。標準法の改定を行うこと、特に小学部の乗数改善は急務です。さらに、臨時的任用教職員の比率が他校種よりも高く、非正規率(産・育休含む)の全国平均で23%以上、一番比率の高い県で37%以上となっており、指導の継続性が保てないという問題も起きています。
 また、学校教育法第78条「特別支援学校には、寄宿舎を設けなければならない」という規定が遵守されず、しかも統廃合が行われている現状があります。寄宿舎は通学保障の機能だけでなく、障害児にとって生活指導の場として、また障害児をかかえる家族の子育てや生活を支援する場として、多様なニーズに応え、子どもの成長・発達を促す場として重要な役割を担っています。この機能は当然、必要とされる「合理的配慮」と考えます。

2.教職員の確保及び専門性の向上について

 全教はこの間、「学級編制及び教職員定数の改善について」、通常学級における30人学級の実現とともに、特別支援学級における低学年と高学年に分けた編成、特別支援学校における障害種別学級設置、重複学級を「重度・重複学級」と改めた編成とすること、幼稚部・専攻科を標準法に位置づけ、幼稚部に重度・重複学級を設置することなどを要望してきました。こういった改善をすすめ、子どもたち一人ひとりに向き合うことのできる教職員の体制をつくることが、教職員の確保及び専門性の向上における基本的条件になると考えます。

(1)教職員の確保及び専門性の向上の基本原則について

 障害に応じた個別的な配慮(合理的配慮)によって通常の学級においても主体的な学習に参加することが可能な子どもたちが存在することは事実であり、すべての教職員に障害理解や指導方法についての専門性を求め、教員養成制度や研修制度の検討は今後も必要です。同時に、特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室等で指導に当たる教職員や、特別支援コーディネーター等に関わる教職員には、さらに特別な専門性が必要であり、障害種ごとに、職種ごとに求められる専門性も違います。その専門性を確保できる養成制度と採用制度、研修制度などを、以下のような観点からすすめていくことが必要です。

(2)正規採用教職員の確保

 上記1.(5)で述べた、臨時的採用教職員の比率が高いことが、専門性の確保に大きな影響を与え、正規化を進めないことで、専門性のある教員の確保が難しい、という悪循環を生んでいます。臨時的採用の経験を正当に評価した採用制度などを検討する必要があります。

(3)専門性をもった教職員の確保

 通常学級の中で、障害その他に起因する特別な教育的ニーズを持つ子どもの学習と生活を保障するために、現在の体制では特別支援教育支援員が果たす役割が重要になっています。しかし、その雇用条件は劣悪であり、継続して指導に当たることができる基盤がありません。喫緊の課題として、特別支援教育支援員の地方交付税積算単価の引き上げが必要です。
 視覚障害や聴覚障害をもつ教職員の視覚・聴覚特別支援学校への採用をさらにすすめることは、障害者雇用の推進というだけでなく、在籍する子どもたちのアイデンティティーを育てるという意味でも重要と考えます。
 特別支援学校などへのOTやPT、看護士など、専門家の配置を早急に進めることが必要です。しかし、現在一部の自治体で行われている、教員の定数を削減した上での配置は本末転倒です。

(4)専門性を向上させる条件整備

 学校現場では、短期間で人事異動が行われることによって指導の継続性も、専門性の構築も困難になってしまう事例が多くあります。機械的な年限ではなく、指導の継続性、学校や教職員の状況を勘案した人事異動をすすめる必要があります。
 また、熱意を持って障害児教育の現場に入ってきた教職員が、定数の不足や事務量の多さによって専門性を高める余裕を失っている状況が多くあります。文科省の調査でも、特別支援学校の教員はこの9年間で週3.6時間も持ち時間が多くなっています。何より子どものことを教職員どうしで語り合う時間、丁寧にケース会議をもてる時間を確保することが重要です。また、急増する特別支援学級担任について、すべての地域で特別支援学級担任者会など交流・研修の場を早期に実現させることを求めます。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

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