日本教育大学協会

日本教育大学協会全国特別支援教育研究部門の意見
「教職員の確保及び専門性の向上についての論点」を中心に

日本教育大学協会全国特別支援教育研究部門
代表 渡邉 健治

 

(1)総論

<特別支援教育の専門性について>

 ○1 小・中学校の通常の学級担任の専門性、○2 通級指導教室、特別支援学級担当教員の専門性、○3 特別支援学校教員の専門性とに分け、三層構造として考えるべきである。
 第一層は、全教員を対象に、発達障害・知的障害等を中心とした全障害(見えにくい、聞こえにくい、不器用など軽度の困難のある子どもへの対応)についての基礎を習得させる。習得方法は、大学の教員養成段階における教職課程での2単位必修化を義務付け、採用後の教員に対しては必修研修を課す。
 第二層は、小・中学校等の特別支援教育担当教員(特別支援学級担任、通級指導担当教員)および特別支援教育コーディネーターについては、特別支援学校教員と共通の専門性とともに、通常の学校におけるコーディネーションや通常の学級との協働など独自の専門性も求められることから、独自の免許制度(「特別支援教育免許」等)の創設を検討することも必要である。ただし、そうしたことがただちに実現できないならば、当面、現行の特別支援学校免許における複数領域の取得を進める。
 第三層は、専修免許か専修免許に準じた専門性を確保する。第三層の中でも、低発生頻度の障害(視覚障害、聴覚障害、重度・重複など)に対しては養成機関が少ないことを鑑みて、以下のような方策を単独または複数を組み合わせる等して地域格差を生まない専門性のある教員の確保を進める必要がある。

 1)大学院や特別支援教育特別専攻科での専修免許の取得をもって専門性を実現する。

 2)養成大学を中心に全国を地域割し、その障害領域の養成課程を持つ大学と持たない大学の間で単位互換を行うことで養成数と採用数の地域バランスを取る(e-learningとスクーリニングの活用)。

 3)障害領域に応じた特別支援学校等の教員を実地指導講師(または非常勤講師)等に指名し教育現場を活用した大学カリキュラムの開発。

 4)障害領域ごとの免許保有率向上につながる認定講習会の計画的実施の奨励。

(2)特別支援学校教員の専門性

○1 日本教育大学協会全国特別支援教育研究部門においては、従来より、教育職員免許法の附則16の撤廃を訴え続けてきている。特別支援学校免許を持たずに特別支援学校の教員として勤務している状況については、障害者差別にも相当するとの指摘もある。従って、附則16の速やかな撤廃を要請するものである。

○2 現在の免許状の保有率の計画的な引き上げのための方策として、地方自治体の教育委員会による特別支援学校における、新採教員、免許保有教員の確保のための計画を徹底させるべきである。同時に、国にあっては次年度から開始される新しい障害者基本計画(10ヵ年)および重点施策実施計画(5ヵ年)において、保有率引き上げの数値目標を示す必要がある。

○3 視覚障害、聴覚障害の担当教員の確保については、地方自治体の教育委員会に教員の採用方法の改善と、認定講習の計画的な実施を徹底させるべきである。専門領域を学んだ学生がその領域で採用されていない現状がある。特に低発生頻度の障害(視覚障害、聴覚障害、重度・重複など)については計画の策定を義務づけるなど、強制力のある対策を取る必要がある。

(3)小・中学校の特別支援教育担当教員(特別支援学級担任、通級指導担当教員)の専門性

○1 特別支援学校免許保有者の優先的採用の推進と大学の養成段階における履修状況を勘案した採用及び教員の確保を進める。

○2 小・中学校の特別支援教育担当教員と特別支援学校教員間の人事交流は、1~3年程度にわたり計画的に実施する。また、人事交流とは別に特別支援学校等を利用した研修の実施も検討する必要がある。

○3 小・中学校の特別支援教育担当教員を対象に、地方自治体の教育委員会による計画的な研修を実施し、研修受講のポイント制を導入して専門性を確保する。

(4)特別支援教育コーディネーターの専門性

 特別支援教育コーディネーターの専門性には、対象児の状態を適切に評価する能力、福祉制度等周辺領域についての資源や制度に関する基本的な知識、関係者を組織し連携を有機的なものにしていくコーディネート力が求められる。これらを実現する方策として、大学におけるアセスメント研修と福祉制度等に関する研修及び社会福祉施設や社会福祉協議会等におけるマネージメント研修を継続的に行う必要がある。
 また、コーディネーターは地域資源の活用や関係機関の調整など行う必要があるが、コーディネーターの一人配置ではその機能が継承されにくいため複数配置が望ましい。

(5)管理職及び教員のへの対応について

 現状の特別支援教育において、従来よりも発達障害等に関する理解が進んでいると思われる。しかし、いまなお、小・中学校等の管理職及び教員においては、障害児が通常の学級に在籍して学習することの意義を理解できなかったり、否定する考えを持っている場合がある。2011年7月29日改定、8月5日公布・施行された障害者基本法の第16条において、「国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」とされている理念について十分な理解を求めるとともに、その趣旨に沿った教育を進めるよう対策を講じる必要がある。そのためには以下のように進める必要がある。

<管理職に対して>

 1)管理職の任用試験の際に、例えば「障害者の権利条約」や「障害者基本法第16条」に関する知識等について出題し、本人の考えをレポート提出させる。

 2)地方自治体による「特別支援教育」についての研修を強化する。

 3)管理職に、「在籍障害児への取り組み計画書」を提出させる。

 4)年度末に「在籍障害児の教育の実施状況に関する報告」を義務づける。

 5)現行の「特別支援教育体制整備等状況調査結果」に学校長の意見書を義務づける。

<教員に対して>

 1)教育委員会による、特別支援教育に関する研修の強化

 2)管理職の「在籍障害児への取り組み計画書」について、担任教員がどのように取り組むのか学級経営案等に反映させるようにする。

 3)年度末の学級経営実施報告等に、在籍障害児への取り組み状況を反映させるようにする。

付記

 専門性ある教員の確保や専門性向上の議論は、教員免許等の議論と不可分であると考える。そのことを鑑み、日本教育大学協会全国特別支援教育研究部門では「特別支援教育時代の教員免許検討委員会」を平成23年度より立ち上げ、議論を進めているところである。中央教育審議会の「教員の資質能力向上特別部会」の審議を踏まえつつも、本ヒヤリングにおける「教職員の確保及び専門性の向上」に関する検討が今後の教員免許にまで反映されるよう希望するものである。
 また、免許保有率の向上等については現行法の下でも取り組みうるものが少なくないと考える。有資格者による専門性が担保されない状況での教育活動には、今後「合理的配慮」を欠くとの見方も出てくる可能性がある。短期目標を設定しての取り組みを期待する。

 

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