資料6-1:イギリスにおける障害のある子どもの教育について

【独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所】

 

イギリスにおける障害のある子どもの教育について

 

 1981年教育法により、イギリスの障害のある子どもの教育は、それまでの障害カテゴリーを基にしたものから、学習における困難さから考えられる特別な教育的なニーズを基にしたものに変更されました。
 この特別な教育的なニーズは、1979年に出されたウォーノック報告で提唱された概念です。この概念は、個々の子どもに障害のラベリングを回避することと、従来の障害カテゴリーの概念では支援されにくい学習遅滞の子どもの教育や、障害が複数ある子どもの教育を充実させることも目的としています。

 

教育システムについて

 イギリスでの障害のある子どもの教育制度はSENと呼ばれています。これはSpecial Educational Needs(特別な教育的ニーズ)の頭文字から取られたものです。イギリスでは、「特別な教育的な手立て(special educational provision)」を必要とするほど、「学習における困難さ(learning difficulties)」があるならば、その子どもは特別な教育的ニーズがあると捉えられています。障害の有無にかかわらず、「学習における困難さ」の有無が基本となるのです。
 イギリスにおける特別な教育的ニーズがあるという認定においては、法定評価によってステートメントを得るというプロセスが代表的なものとしてあげられます。これは学習の困難さが大きい子どもに発行されるもので、このステートメントには特別な教育的ニーズがどのようなものであるかということや、必要な教育的な手立てについて具体的に記述されます。地方行政当局(Local Authority)や学校はこのステートメントに書かれた教育的な手立てを用意する義務が生じます。また、学習の困難さが比較的に軽いと判断される子どもにはこのステートメントは発行されません。このステートメントが発行されているかどうかで、子どもの就学のプロセスが若干異なります。
 イギリスにおいての就学の決定権は地方行政当局にあります。ステートメントの有無にかかわらず、原則的に子どもは学校区のいずれかの小学校に入学することになります。ただし、ステートメントのある子どもについては、保護者が希望した場合、または他の子どもへの効果的な教育の提供と矛盾すると判断される場合は、特別学校(special school)に行くことになります。特別学校は学習における困難さが大きい子どもが行く学校です。
 通常の学校の中で、ステートメントはないが特別の教育的ニーズのある子どもに対する特徴的な工夫としては、校内のSENについての体制を整備する教員であるSENコーディネーター(Special Educational Needs Coordinator(SENCO))と段階的な教育的な手立てを用意するスクールアクション(School Action)、スクールアクションプラス(School Action Plus)をあげることができます。
 スクールアクションとスクールアクションプラスは、教育的支援のステップを表し、前者よりも後者において、手厚い支援がなされます。また、両方のステップにおいて、個別教育計画(IEP)が作られ、定期的に評価されることとなっています。この評価によって、これらのステップでは十分な教育的な効果が得られないと判断された場合には、先に述べた法定評価によってステートメントを得ることになります。
 ステートメントがある子どもの場合は、取り出し指導等のより手厚い教育的な手立てを利用することができるようになります。また、特別学校への転校も考慮されます。
 教育全体でSENの対象となる子どもは、全体の20%程度です。また、特別学校の義務教育段階での在籍者数は、2010年段階で73,540名で、全生徒数の1.1%という統計データがあります。
 就学の決定権は地方行政当局にありますが、保護者とは、スクールアクション、スクールアクションプラスや法定評価のプロセスの中で、その都度アセスメント結果を基にした話し合いが持たれます。もし、そういった話し合いの結果、保護者が地方行政当局の決定や、学校の教育内容に不服がある場合、最終的にはSENを専門的に扱う訴訟機関SEND裁判所(the Special Educational Needs and Disability Tribunal)に申し立て、そこでの裁定を受けることもできるようになっています。

 

条約の批准について

 障害者の権利に関する条約の批准については、2008年の国会において、特別学校が条約の「general education system」に含まれるかどうかということと、軍隊での障害者の平等が担保されているかどうかということが議論となりました。
 この特別学校の扱いについて、子ども学校家庭省からは「我々の国内法では特別な教育的ニーズのステートメントを持つ子どもの就学にあたっては、保護者がそれを望まない場合と他の子どもたちの効果的な教育の手立てと矛盾しない限りはメインストリームスクールで教育されなければならないことになっている。我々は地方行政当局が、特別な教育的なニーズのステートメントを持つ子どもの就学を決定するときに、保護者の希望を考慮することができるようにし続けたいと考えている。したがって、特別学校は障害がある子どものために、地方行政当局の包括的な教育的手立ての中で重要な部分のままで残されている。そして、我々はイギリスの通常の教育システムがメインストリームスクールと特別学校の両者を含むことで24条の(2)(a)への解釈宣言とすることを提案したい。」と答弁がなされています。
 なお、条約については、この提案が政府の公式な解釈宣言となり2009年6月に批准されています。

 

 

(参考)

 

  1. 教育制度の概要

    (1)通常の教育の概要
    (2)就学率
    (3)教員の採用と免許
    (4)学校の評価

  1. 障害のある子どもの教育について
  1. 基礎データ
  2. (1)クラスサイズ
    (2)SENの対象となる児童生徒に関する統計資料
    (3)特別学校の数

  1. 就学先決定
  2. (1)学校の設置者
    (2)特別な教育的ニーズの認定と就学先の決定
    (3)保護者が果たすべき役割

  1. 合理的配慮
  2. (1)プライマリースクール、セカンダリースクールにおいての配慮
    (2)医療的ケア
    (3)教育内容の調整
    (4)障害のある児童生徒の学習内容と卒業
    (5)障害認定のある子どもに対して予算が配分される仕組み

  1. 批准の際の制度改正・国会審議について
  2. (1)イギリスにおける「インクルーシブ教育システム」の定義
    (2)批准の際に国会で議論したことなど

 

【引用文献】

 

 

1.教育制度の概要

(1)通常の教育の概要

 イギリスの義務教育期間は、5歳から16歳までで、初等教育(5歳から11歳)と前期中等教育(12歳から16歳)に分けることができる。公立学校の教育費は無料で行われている。
 日本にはない科目として、文化の多様性を理解する市民教育(citizenship)が設けられている。また宗教教育の時間が設けられているが、公教育では宗教的な中立性が保たれており、特定の宗教について学習するのではなく、様々な宗教について取り上げ理解を深める取り組みが行われている。

(2)就学率

 プライマリースクールへの就学率は、ほぼ100%である。就学にあたっては、行政側が子どもの学籍簿を作成し手続きを行うのではなく、保護者が学校区のいずれかの希望する学校に入学を申請することで手続きが行われる。
 保護者には就学の手続き以外にも、子どもを教育する義務が課せられており、就学に対する義務や子どもを学校に登校させる義務に違反した場合、罰金を科せられたり、裁判所から指導されることもある 10)。
 また、学校を欠席せざるを得ない場合に対する支援もある。例えば、病院に3日以上入院している子どもの場合、巡回教師が派遣され病院で教育が受けられる制度などが用意されている。
 しかしながら、義務教育期間においても、その学校の文化とあわないや素行不良などの理由をもとに停学や退学制度が認められており、近年excludeされた子どもへの対応が課題となっている 11)。

(3)教員の採用と免許

 教員は、学校理事会に採用の権限があるが、実際には学校理事会の方針のもと学校長により行われている 13)。
 校長の裁量によって補助教員(Asistant Teacher)や心理やふるまい(Behavior)を担当する教員が雇われていることが多い。言語聴覚士や視能訓練士などの、コ・メディカルスタッフは常駐しておらず、地方行政当局から定期的に派遣される形態が多い。
 教員免許取得は、大学の教員養成向けのコースを取って取得するPGCE(Postgraduate Certificate in EducationまたはProfessional Graduate Certificate in Education)などによってPrimary schoolやSecondary schoolの免許を得ることができる 14)。
 特別学校の教員免許は、プライマリースクールかセカンダリースクールの免許を基礎免許とした上で、必要とされる修士課程を修めることが必要要件である。SENに関連しては、視覚障害教育教員免許、聴覚障害教育教員免許、重複障害教育教員免許がある。また、特別学校に採用されて4年程度の取得猶予期間があり、その場合、勤務しながら大学に通うことになる。
 このほかに、プライマリースクールやセカンダリースクールの校内のSENの体制構築を行うSENCOについても資格が設けられており、地方行政当局が行う5日間の講習と課題論文の提出、実習を行うことで資格が得られる 16)。 

(4)学校の評価

 公立学校では保護者、教員、職員の代表から構成される学校理事会(Governing Body)が、人事、学校財政、学校目標、カリキュラムなどについて決定する権限がある。実際には、学校理事会の方針を受けて、学校長が人事や財政についての学校運営を行っている。
 こういった学校活動については、Ofsted(the Office for Standards in Education, Children’s Services and Skills)と呼ばれる学校監査機関が、教育活動内容や児童生徒の学力の状態などを定期的に監査し、ウェブページ上に監査レポートをアップロードすることになっている。ここでの評価によっては校長の交代などが起こることもある 10)。

  

2.障害のある子どもの教育について

 イギリスでの障害のある子どもの教育はSENと呼ばれている。このSENはSpecial Educational Needs(特別な教育的ニーズ)概念の頭文字をとったものである。ここでの「特別な教育的ニーズ(Special Educationa Needs)」の定義は、「特別な教育的な手立て(special educational provision)」を必要とするほど、「学習における困難さ(learning difficulties)」があるならば、その子どもは特別な教育的ニーズがあると記されている5)。したがって、障害の有無によるのではなく、「学習における困難さ」の有無によって、一人一人にあわせた「特別な教育的な手立て」を用意するということが基本となる。
 この特別な教育的ニーズ概念を基にした制度設計は、障害のラベリングを回避するという事とともに、学習遅滞のある子どもや障害が複数ある子どもの教育への整合性を持たせることも、その目的としている。
 障害のある子どもの教育と権利に関する法律としては、2001年特別な教育的なニーズ障害法(Special Educational Needs and Disability Act 2001)が定められており、教育の権利や就学に関する規定がなされている。

 

3.基礎データ

(1)クラスサイズ

 初等教育段階の児童数は2010年現在で4,093,710人、学校数は16,971校、前期中等教育段階の生徒数は2010年現在で2,797,850人、学校数は3,128校である 9)。
 初等教育では、1、2学年において30名以下の規定となっているが、その他の学年は規定無し、2010年平均学級サイズは25.8名。
 前期中等教育では、規定はないが、2010年の学級サイズの平均は、24.3名 3) 

(2)SENの対象となる児童生徒に関する統計資料

 以下の表は、SENの対象となる児童生徒数とその割合を示している。
 初等教育学校 (5~11歳)では、全児童数3,496,260人に対し、特別学校在籍者数は25,570人で0.7%、ステートメントを有している者は80,640人で2.3%、SENはあるがステートメントを有していない者は690,390人で19.7%、平均学級サイズは25.8人となっている。
 前期中等教育学校 (11~16歳)では、全生徒数3,097,140人に対し、特別学校在籍者数は47,970人で1.5%、ステートメントを有している者は117,930人で3.8%、SENはあるがステートメントを有していない者は598,470人で19.3%、平均学級サイズは24.3人となっている。
 合計では、全児童生徒数6,593,400人に対し、特別学校在籍者数は73,540人で1.1%、ステートメントを有している者は198,570人で2.6%、SENはあるがステートメントを有していなし者は1,288,860人で19.5%となっている。

 

表 SENの対象となる児童生徒数とその割合 4)

 

全児童生徒数

特別学校在籍者

ステートメントを有しているもの

SENはあるがステートメントを有していない者

平均学級サイズ

初等教育学校
 (5~11歳)

3,496,260
 

25,570
(0.7%)

80,640
(2.3%)

690,390
(19.7%)

25.8

前期中等教育学校
 (11~16歳)

3,097,140
 

47,970
(1.5%)

117,930
(3.8%)

598,470
(19.3%)

24.3

合計

6,593,400
 

73,540
(1.1%)

198,570
(2.6%)

1,288,860
(19.5%)

 

(3)特別学校の数

 特別学校の学校数は2010年時点で1,054校である 4)。
 各障害を対象とする学校は以下のようになっているが、1つの学校が複数の障害に対する手立てを表記しているため、学校総数と合致していない。なお、全学校数には、病弱児のためのhospital school も含まれている 4)。

    視覚障害(326校)
    聴覚障害(337校)
    言語コミュニケーション障害(439校)
    自閉症(601校)
    情緒障害(532校)
    盲ろう(244校)
    肢体不自由(357校)
    中度学習困難(520校)
    重度学習困難(541校)
    重度重複障害(425校)
    特異な学習困難(226校)
    その他の障害(205校)

 

4.就学先決定

(1)学校の設置者

 イギリスにおける、公立学校は地方行政当局が設置者となっているが、校長に教員の採用や予算の執行に関しての権限がある。またそれと同時に、保護者が半数以上を占める学校理事会が学校毎に設けられており、様々な学校運営について決定を行う。

(2)特別な教育的ニーズの認定と就学先の決定

 イギリスにおいて特別な教育的ニーズの認定には、法定評価(Statutory assessment)によってステートメント(Statement)を得るというプロセスが代表的なものとしてあげられる。これは学習の困難さが大きい子どもに発行されるもので、このステートメントには特別な教育的ニーズがどのようなものであるかや、教育的な手立てについて具体的に記述される。
 このステートメントにより、地方行政当局や学校は、そこに記述された教育的な手立てを用意する義務が生じる。また、学習の困難さが比較的に軽いと判断される子どもには、このステートメントは発行されることはなく、このステートメントが発行されているかどうかで、子どもの就学のプロセスが若干異なる。
 イギリスにおいての就学の決定権は地方行政当局にある。就学については、ステートメントの有無にかかわらず、原則的に子どもは学校区のいずれかの小学校に入学することとなっている。ただし、ステートメントのある子どもについては、保護者が希望した場合、または他の子どもへの効果的な教育の提供と矛盾すると判断される場合は、特別学校(special school)に行くことになる 12)。特別学校は学習における困難さが大きい子どもが行く学校である。 

(3)保護者が果たすべき役割

 就学にあたっては、保護者が学校区内の学校又は地方行政当局に就学の手続きを行うことが必要となる。
 法定評価がされる場合には、地方行政当局が招集する専門家チームとのミーティングに参加し、そこで保護者の意見を表明する。
 ステートメント発行の可否、就学先や教育的な手立てについて異議がある場合には、これらのミーティングの中で調整がなされるが、調整が付かない場合SEND裁判所に訴えることができる 1)。
 SEND裁判所には年間300件程度の訴えがあり、その内容はステートメントの発行を要求するものや、ステートメントに記載された教育の手立てが適切に用意されていないことを不満とするものなどがある 15)。
 また、保護者を支援する仕組みとして、SEN Parent Partnership Serviceが地方行政当局内に設置されることが義務づけられている。この機関は行政機関だが保護者に寄り添った第三者機関として、保護者に情報提供や法定評価の会議に一緒に参加するなどの支援を行う 2)。

 

5.合理的配慮

(1)プライマリースクール、セカンダリースクールにおいての配慮

 通常の学校の中で、SENのある子どもに対する特徴的な配慮としては、校内のSENについての体勢を整備するSENコーディネーター(Special Educational Needs Coordinator(SENCO))の存在と段階的な教育的な手立てを用意するスクールアクション(School Action)、スクールアクションプラス(School Action Plus)の存在である。また、教育内容はナショナルカリキュラムを基にしたものが行われることとなっている。
 SENコーディネーターは、日本の特別支援教育コーディネーターに似た役割をとる教員で、校内のSENのある子どもの拾い出しを行ったり、SENのある子どもの教育について担任とともに個別教育計画(IEP)をたてたり、教育の評価を行ったりする役割を担っている。
 スクールアクションは、SENがあると認められた子どもに対して行う支援の1番目の段階である。子どもの特別な教育的ニーズは少なく、多くは校内のリソースの工夫によって支援を行う段階である。個別教育計画を作成した上で、授業の工夫や配置されていた補助教員が積極的に関わることで支援を行う。
 スクールアクションプラスは、スクールアクション段階での支援ではカリキュラムにアクセスすることが難しい子どもに対して行う支援の段階である。スクールアクションプラスでは、地方行政当局が学校に対して資金の提供を行い教材の工夫を行ったり、新たに補助教員を配置したり、地方行政当局から派遣された専門的な教員(巡回教員)を活用した個別の指導などを行ったりするなどの、スクールアクションよりも手厚い支援が行われる。
 スクールアクションプラス段階でも子どもの改善が見られない場合は、地方行政当局が中心となって法定評価(Statutory assessment)を行い、その子どもの必要な教育的な手立てについて総合的に判定を行い、必要性が認められればステートメントを作成する。ステートメントが作成された場合には、日本の通級指導教室にあたるリソースベースド(Resource Based)などを利用したより手厚い教育的な手立てを利用することになる5)。
 こうした形で、通常の学校の中でSENが進められるが、SENのある子どもの特別な教育的なニーズが、通常の学校の中で提供できない場合には特別学校において教育が行われることとなる。こうした形で、教育全体でのSENの対象となる子どもの割合は20%程度となる 4)。 

(2)医療的ケア

 医療的なニーズがある子どもの教育については、2001年にガイドラインが設けられており、学校内で学習が可能な子どもに対しての医療的なケアについて述べられている。
 医療的なニーズが複雑で学校での対応が難しい子どもは病院にいる。その場合、教育的なサービスは地方行政当局より派遣される巡回教師により担われている 6)。

(3)教育内容の調整

 スクールアクション段階から個別教育計画が作成され、保護者との話し合いももたれながら、定期的に評価される。また評価により教育の内容が適切でなければ、スクールアクションプラス、法定評価と段階的に教育的な手立てが手厚くなる仕組みが取られている。

(4)障害のある児童生徒の学習内容と卒業

 すべての子どもが年齢により進級し卒業する。
 通常の学校に在席している障害のある子どもでも、学習の困難さが少ない場合は、日本の学習指導要領にあたるナショナルカリキュラムを履修することとなる。個別教育計画の目標は、一人一人の学力を考慮したナショナルカリキュラム内容を基にしたものとなる。この個別教育計画は、評価と見直しがなされるが、効果が得られていない場合には、学力の向上を図るための更に別の教育的手立てを投入することが検討される。
 学習に困難がありナショナルカリキュラムの内容を履修することが難しい子どもの多くは、特別学校に在席する。この場合、特別学校において、個別教育計画がたてられ、一人一人の到達目標に合わせた教育が行われるが、ナショナルカリキュラムにつなげる目的で設定された到達目標Pスケール(P-scales)の学習内容を行うこととなる。 

(5)障害認定のある子どもに対して予算が配分される仕組み

 スクールアクションプラス段階から、学校からの申し込みにより、地方行政当局から学校にそれぞれの子どもに必要な予算が配分される。
 法定評価によりステートメントが発行された子どもについては、ステートメント上で教育的な手立てについて具体的な記述がなされており、その教育的な手立てについては地方行政当局と学校が用意する義務がある 5)。

 

6.批准の際の制度改正・国会審議について

(1)イギリスにおける「インクルーシブ教育システム」の定義

 SENの制度では、当初から統合教育が目指されてきたが、1997年の教育に関するグリーンペーパーの中で初めてインクルージョンという用語を採用して以来、インクルージョンを制度の柱としてきている。
 このグリーンペーパーの中で、「インクルーシブは、プロセスであり、固定した状態ではない。インクルージョンが意味することは、SENがある子どもが可能な限り通常学校で教育を受けるべきであるということだけでなく、カリキュラムや学校生活において仲間と一緒に十分に活動すべきであるということである」と定義されている 7)。 

(2)批准の際に国会で議論したことなど

 障害者の権利に関する条約の批准に向けたプロセスの中では、2008年の国会において、特別学校が条約の「general education system」に含まれるかどうかということと、軍隊での障害者の平等が担保されているかどうかということについて議論が行われた。
 特別学校については、子ども学校家庭省から「我々の国内法では特別な教育的ニーズのステートメントを持つ子どもの就学にあたっては、彼らの保護者がそれを望まない場合と他の子どもたちの効果的な教育の手立てと矛盾しない限りはメインストリームスクールで教育されなければならないことになっている。我々は地方行政当局が、特別な教育的なニーズのステートメントを持つ子どもの就学を決定するときに、保護者の希望を考慮することができるようにし続けたいと考えている。したがって、特別学校は障害がある子どものために、地方行政当局の包括的な教育的な手立ての中で重要な部分のままで残されている。そして、我々はイギリスの通常の教育システムがメインストリームスクールと特別学校の両者を含むことで24条の(2)(a)への解釈宣言とすることを提案したい。」と国会において答弁がなされている 8)。
 その後、この提案内容が解釈宣言となり2009年6月に批准されている。なお、障害のある子どもの教育に関し批准に対応するための大きな法改正は、特に行われていない。

 

 

【引用文献】

(1)Department for children,schools and families(2009)Special educational needs(SEN):A guide for parents and carers.

(2)Department for children,schools and families (2007) Parent Partnership Services - increasing parental confidence

(3)Department for Education: Schools, Pupils and Their Characteristics: January 2010
  http://www.dcsf.gov.uk/rsgateway/DB/SFR/s000925/index.shtml(アクセス日2011/05/23)

(4)Department for Education:Special Educational Needs in England:January 2010
  http://www.dcsf.gov.uk/rsgateway/DB/SFR/s000939/index.shtml(アクセス日2011/05/23)

(5)Department for Education and Skills(2001)Special educational needs: Code of practice

(6)Department for Education and Skills(2001)Access to Education for children and young people with Medical needs

(7)Department for Education and Employment(1997)Excellence for all children

(8)House of Lords House of Commons Joint Committee on Human Rights(2008)The UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities:First Report of Session 2008-09 Report, together with formal minutes and oraland written evidence

(9)文部科学省:「教育指標の国際比較」(平成22年版)について
  https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/kokusai/1292096.htm(アクセス日2011/05/23)

(10)佐貫浩(2002)イギリスの教育改革と日本 高文研

(11)The Poverty Site:School exclusions
  http://www.poverty.org.uk/27/index.shtml(アクセス日2011/05/23)

(12)Special Educational Needs and Disability Act 2001

(13)諸外国教員給与研究会 2007 諸外国の教員給与に関する調査研究報告書

(14)TDA:Postgraduate certificate in education(PGCE)
  http://www.tda.gov.uk/get-into-teaching/teacher-training-options/pgce.aspx(アクセス日2011/05/23)

(15)Tribunals Judiciary: Search Decisions
  http://www.sendist.gov.uk/Public/search_decisions.aspx(アクセス日2011/05/23)

(16)横尾 俊(2007)イングランドのSpecial Educational Needs Coordinator(SENCO)の養成とその業務上の課題 世界の特別支援教育(21):13-18.

 

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(初等中等教育局特別支援教育課)