特別支援教育の在り方に関する特別委員会 論点整理

中央教育審議会初等中等教育分科会
特別支援教育の在り方に関する特別委員会
論点整理

平成22年12月24日

目次

はじめに

1.インクルーシブ教育システム構築に向けての特別支援教育の方向性について

(1)インクルーシブ教育システムと特別支援教育の関係

(2)「共に学ぶ」ことについて

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

2.就学相談・就学先決定の在り方について

(1)早期からの教育相談・支援

(2)就学先決定の仕組み

(3)一貫した支援の仕組み

(4)就学相談、就学先決定に係る国・都道府県教育委員会の役割

3.インクルーシブ教育システム構築のための人的・物的な環境整備について

(1)障害のある児童生徒等を受け入れるための環境整備全般

(2)合理的配慮

(3)交流及び共同学習

(4)特別支援学校のセンター的機能の活用

4.教職員の確保及び専門性向上のための方策について

(1)教職員の専門性の確保

(2)教職員の養成・研修制度の在り方

(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置

はじめに

○1 「障害者の権利に関する条約」が、平成18年12月、第61回国連総会において採択され、平成20年5月に発効した。我が国は平成19年9月に同条約を署名し、現在批准に向けた検討を進めているところである。平成21年12月には、内閣総理大臣を本部長とし、文部科学大臣も含め全閣僚で構成される「障がい者制度改革推進本部」が設置され、当面5年間を障害者制度改革の集中期間と位置付け、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針の案の作成及び推進に関する検討等を行うこととしている。同本部の下に、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるために「障がい者制度改革推進会議」が設置され、平成22年6月7日、同会議による第一次意見が取りまとめられた。同意見においては、「障害者の権利に関する条約」におけるインクルーシブ教育システム(包容する教育制度)構築の理念を踏まえた「地域における就学と合理的配慮の確保」、「学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障」について同会議の問題認識が示されている。

○2 上記第一次意見を踏まえた平成22年6月29日の閣議決定において、各個別分野については、事項ごとに関係府省において検討することとされ、教育分野については、以下の2点が示された。

    • 障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面も含めた教育制度の在り方について、平成22年度内に障害者基本法の改正にもかかわる制度改革の基本的方向性についての結論を得るべく検討を行う。
    • 手話・点字等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員等の確保や、教員の専門性向上のための具体的方策の検討の在り方について、平成24年内を目途にその基本的方向性についての結論を得る。

○3 これまで、中央教育審議会は、平成17年12月の「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」(答申)において、「特別支援教育」の位置付けを明確化するとともに、我が国が目指すべき社会の方向性を示してきている。同答申に基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、特別支援教育は、平成19年度から本格的に開始されたところである。これにより、障害のある幼児児童生徒の教育の基本的な考え方について、特別な場で教育を行う「特殊教育」から、一人一人のニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」に発展的に転換したと言える。(参考資料1:特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)の概要、参考資料2:特別支援教育の現状)

○4 このような中、平成22年7月12日に、文部科学省より中央教育審議会初等中等教育分科会に対し審議要請があり、同分科会の下に、本特別委員会が設置された。本特別委員会においては、平成20年8月に文部科学省に設置された「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」及び「障がい者制度改革推進会議」における検討を議論の基礎として、8回に渡り検討を積み重ねてきたところであり、今回、その審議を論点整理として中間的に取りまとめるものである。

1.インクルーシブ教育システム構築に向けての特別支援教育の方向性について

○インクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の理念とそれに向かっていく方向性に賛成。

○インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある児童生徒に対して、その時点で教育的ニーズに最も的確にこたえる指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備することが重要。子ども一人一人の学習権を保障する観点から、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要。

○障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶことは、共生社会の形成に向けて望ましいと考えられる。同じ社会に生きる人間として、お互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。

○インクルーシブ教育システム構築に向けての今後の進め方については、短期と中長期に整理し段階的に実施していくことが必要。

(現状と課題)

 平成19年度から特別支援教育が本格的に開始されて以来、各教育委員会、各学校における特別支援教育の体制整備は一定程度進みつつあるが、共生社会の形成、インクルーシブ教育システムの構築という観点からは、これらの取組は今後更に時間をかけて進めるべきものであり、特別支援教育の更なる質的な充実を図るためにはなお多くの課題がある。これらは、平成22年3月に取りまとめられた、「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」の審議経過報告において整理されているところである。

(1)インクルーシブ教育システムと特別支援教育の関係

○1 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に教育を受ける仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等・中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的配慮が提供される等が必要とされている。(参考資料3:障害者の権利に関する条約(抄)、参考資料4:general education system(教育制度一般)の解釈について)

○2 本特別委員会は、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念とそれに向かっていく方向性に賛成する。

○3 インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある児童生徒に対して、その時点で教育的ニーズに最も的確にこたえる指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。(参考資料5:日本の義務教育段階の多様な学びの場の連続性)

○4 インクルーシブ教育システムの構築については、諸外国においても、それぞれの課題を抱えながら、制度設計の努力をしているという実情がある。各国ともインクルーシブ教育システムの構築の理念に基づきながら、漸進的に実施してきており、日本も同様に漸進的に実施してきているところである。

○5 障害者の権利に関する条約第8条には、障害者に関する社会全体の意識を向上させる必要性が示され、教育制度のすべての段階において障害者の権利を尊重する態度を育成することが規定されている。こうした規定を踏まえれば、学校教育において、障害のある人と障害のない人が触れ合い、交流していくという機会を増やしていくことが非常に大事である。障害のある人と触れ合う経験は、共生社会の形成に向けて望ましいと考えられる。(参考資料3:障害者の権利に関する条約(抄))

○6 今後の進め方については、短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理し段階的に実施していく必要がある。短期的には、就学相談・就学先決定の在り方にかかる制度改革、教職員の研修等について検討し、必要な財源を確保して順次実施していく。また、合理的配慮を含むインクルーシブ教育システム構築のための人的・物的な環境整備、教職員の確保及び専門性向上のための方策、特別支援教室構想について、体制面・財政面を含めて検討し、中長期的に実施していく必要がある。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。

(2)「共に学ぶ」ことについて

○1 基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもができるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合に、それぞれの子どもが授業や活動を理解し参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごせて、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な点であり、そのための条件の整備が必要である。

○2 生命尊重、思いやりや協力の態度などをはぐくむ道徳教育を充実するとともに、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶことにより、同じ社会に生きる人間として、互いに正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。

○3 一方、学級規模など現在の教育条件が大幅に改善されない状況で、個々の子どもの障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等を十分に考慮することなく、すべての子どもを同じ場で教育を行うことは、同じ場で学ぶという意味での平等は実現できても、子どもの健全な発達や子どもが適切に教育を受ける機会を平等に与えることにはならず、その結果、将来、社会に参加し市民として生きる時になって、障害のある子ども本人に対しより大きな不平等をもたらす可能性がある。財源負担も含めた国民的合意を図りながら、大きな枠組みを改善する中で、「共に育ち、共に学ぶ」体制を求めていくべきである。(参考資料6:OECD各国との初等中等教育段階における一学級当たり児童生徒数及び公財政支出の比較)

○4 特別支援教育は、共生社会の形成を目指すために必要な要素であり、インクルーシブ教育システムと同じ方向を向いているものと言える。したがって、インクルーシブ教育システムの更なる推進のため、特別支援教育を発展させ、必要な制度改革を行う必要がある。このような形で、特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことで障害のある子どもにも、障害があるとは周囲から認識されていないものの学習面又は行動面での困難を抱えている子どもにも、更には全ての子どもにとっても良い効果を与えることができるものと考えられる。

○5 障害のある子どもが、多様な子どもの中で共に学び、社会で生きる力を身に付けることと同時に、同じ障害のある子ども同士が共に学ぶことにより、それぞれの障害固有のコミュニケーション能力を高め、相互承認の感覚を深めていくことも重要である。

○6 特別な指導を受けている児童生徒の割合を比べてみると、英国で約20%(障害以外の学習困難を含む)、米国で約10%となっており、日本は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を受けている児童生徒は約2%程度に過ぎない。教育支援の必要な児童生徒の多くは既に通常の学級で学んでいると考えられる。これらの支援を必要とする児童生徒への対応が早急に求められている。今後は、これらの児童生徒の実態把握を行うとともに、教育的な支援を一層進展させることが必要である。(参考資料7:日、英、米の特別支援教育として特別な指導を受けている児童生徒の割合)

○7 国は、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要である。学校教育においても、共生社会の形成に向けた理解の促進を図る教育の一層の充実を図っていく必要がある。また、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のために国としての施策の優先順位を上げる必要がある。

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

○1 インクルーシブな社会の実現のためには、障害のある当事者がどれだけ社会に参加できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域住民や保護者とが相互に理解していることも重要である。学校のみならず地域の様々な場面において、どう生活支援していくかという観点も必要である。学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校支援地域本部など地域と連携した学校づくりを進めるに際しても、各学校は、障害のある子どもへの対応も念頭に地域の理解と協力を得た連携の取組を考えていく必要がある。また、特別支援学校に在籍する子どもについて、一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置く取組については、居住地域との結び付きを強めるために意義がある。今後、地域の学校に学籍を置くことについても検討していく必要がある。(参考資料8:学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)について、参考資料9:学校支援地域本部事業)

○2 地域の実情(交通アクセス、医療、福祉サービスが充実している都市部とその対極的な地域など)は様々であるが、どの地域の学校においても等しく達成されるべきもの(ナショナルミニマム)は何であるかという点に国は留意して制度設計すべきである。一方、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良い。

○3 地域内の教育資源(幼・小・中・高等学校及び特別支援学校等、特別支援学級、通級指導教室)それぞれの単体だけでは、そこに住んでいる子ども一人一人の教育的ニーズに応えることは難しい。こうした域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが考えられる。その際、交流及び共同学習の推進や特別支援学校のセンター的機能の活用が効果的である。さらに、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、両者の連携の円滑化を図るための仕組みを検討していく必要がある。なお、通学の利便性の向上のため、特別支援学校の分教室を設置するなど、特別支援教育の地域化を推進している都道府県もある。また、通級による指導についても、児童生徒の負担軽減のため、巡回による指導により、児童生徒の在籍校において実施している例もある。今後こうした例を地域の状況等を考慮しながら広め、多様な仕組みの構築の方向を目指すことが重要である。(参考資料10:域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)のイメージ)

○4 インクルーシブ教育システムを構築する上では、福祉、医療、労働などの関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルで「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、保護者支援を行うこと、連絡協議会を設置することや個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。今後、関係機関に警察や司法も加えていくことについて検討していく必要がある。

○5 インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障害のある子どもの地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化といった広い視野を持って取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会の構築を考える必要がある。

○6 例えば、障害が重度の児童生徒等に適切な教育を提供するためには、施設・整備等の基礎的条件の整備、充分な知識と技量を持った教育スタッフチームの配置・育成、看護師と教員が連携した医療的ケアの実施体制の整備が必要であるが、これらの条件整備を地域で計画的に進める必要がある。また、キャリア教育の観点からは、ソーシャルワーク(人々の生活を社会的な視点から捉え、その解決を支援すること)が非常に重要であるが、それを学校、教員だけで行うことには無理がある。地域の中で、ソーシャルワークの機能をきちんと確保することが重要である。

○7 病院に入院した際は、病院にある学校や学級に籍を移動しなければ教育を受けることができない。退院すると地域の学校に戻るということや、近年は入院が短期化してきていることを踏まえ、現在の特別支援学校、病院内に設置された学級と地域の学校における転学手続の運用等を一層柔軟にしていくべきである。

2.就学相談・就学先決定の在り方について

○一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障する就学先を決定するため、また、本人・保護者、学校、教育委員会が円滑に合意形成を図るため、医療や福祉の関係部局等との連携を図りながら、障害のある子どもの教育相談・支援を乳幼児期を含め早期から行うことが必要。

○就学基準に該当する障害のある子どもは、特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門家の意見等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当。その際、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定。本人・保護者と教育委員会、学校等の意見が一致しない場合の調整の仕組みについて、今後、検討していくことが必要。

○就学先決定後も、継続的な教育相談を行い、個別の教育支援計画を見直す中で、柔軟に就学先の見直しを図り適切な支援を行っていくことが適当。

○市町村教育委員会は、障害のある子ども本人・保護者に対して十分な相談・情報提供ができる体制を整備することが必要。その支援のために都道府県教育委員会は、専門的な相談・助言機能を充実・強化することが必要。

(現状と課題)

○現在の就学先の決定は、特別支援学校の就学基準に該当する障害のある子どもが原則特別支援学校に行く仕組みであり、これまでも就学基準の見直し、認定就学制度の導入、市町村教育委員会が就学先を決定する際の専門家の意見や保護者の意見聴取の義務付けなどの改善が行われており、インクルーシブ教育システムの理念と方向を同じくした制度改正が順次行われてきたところである。(参考資料11:これまでの制度改正の状況)

○就学先決定については、現状では、保護者に対する説明のための時間が足りないこと、また、保護者の意向が十分踏まえられない場合があること、さらには、就学判断に関わる者の専門性の確保が難しいこと、といった点が課題として指摘されている。

(1)早期からの教育相談・支援

○1 子どもの教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期から教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分情報を提供し、本人・保護者と学校、市町村教育委員会が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図りながら決定していくことが重要である。そのため、就学前から保護者も加わって専門家の意見を聴きながら、市町村教育委員会が個別の教育支援計画(*1)を作成していくことが重要である。その際、子どもの教育的ニーズや困難に対応した支援という観点から作成することが必要である。(参考資料12:特別支援教育の推進について(通知))

○2 乳児期から幼児期にかけて子どもが専門的な教育が受けられる体制を医療・福祉・教育の連携の下に早急に確立することが必要である。そのことにより、高い教育的効果が期待できる。特に、視覚障害者、聴覚障害者を対象とした特別支援学校については、同じ障害のある一定規模の学習集団があることが重要であり、幼稚部以前の早期からの相談体制、教育体制を更に充実させることが必要である。また、それ以外の障害種についても早期支援が重要である。

○3 市町村教育委員会は、医療や福祉等の関係部局との連携や地域との連携を十分に図り、例えば乳幼児検診の結果を必要に応じて共有し、必要な支援を行うことが必要である。また、近隣の特別支援学校、都道府県の特別支援教育センター(都道府県の教育センター特別支援教育担当部門や市町村の教育センターを含む。)等の地域の資源の活用を十分図り、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。

    (*1) 医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って一貫した的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について支援の内容等を示した計画。

(2)就学先決定の仕組み

○1 就学基準に該当する障害のある子どもは、特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。保護者や市町村教育委員会は、それぞれの役割と責任をきちんと果たしていく必要がある。このような仕組みに変えていくため、速やかに関係する法令改正等を行い、体制を整備していくべきである。(参考資料13:障害のある児童生徒の就学先決定について(手続の流れ))

○2 現在、多くの自治体で障害の種類・程度等の判断について専門的立場から調査・審議を行うために設置されている「就学指導委員会」については、早期からの教育相談や就学先決定時のみならずその後の一貫した支援に重点を置くという観点から、「教育支援委員会」(仮称)等の名称とすることが適当である。また、教育において言葉・文字が果たすべき役割が大きいとの指摘もあることから、委員会の専門家に言語発達に知見を有する者を加えることについても検討する必要がある。

○3 就学時に小学校段階6年間、中学校段階3年間の学びの場をすべて決めるのではなく、児童生徒のそれぞれの発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学ができることを共通理解とすることが重要である。定期的に教育相談や個別の教育支援計画に基づく関係者による会議などを行い、必要に応じて個別の教育支援計画及び就学先を変更できるようにしていくことが適当である。この場合、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、密接に連携を図りつつ、同じ場で共に学ぶことを追求するという姿勢で対応することが重要である。また、就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続の流れや就学先決定後も柔軟に転学できることなどを本人・保護者に予め説明を行うことが必要である(就学先決定にかかるガイダンス)。このことは、就学後に学校で適切な教育がなされないといったことを原因とした二次的な障害の発生を防止する観点からも重要である。

○4 保護者は、学校や市町村教育委員会が自分の子どもを地域で進んで受け入れてくれるという姿勢が見られないと、心を開いて就学相談をすることができない。学校や市町村教育委員会が保護者の伴走者として親身になって相談相手となることで保護者との信頼関係が生まれる。学校、市町村教育委員会は、障害のある子どもを地域で受け入れるという意識を持って就学相談・就学先決定に臨む必要がある。

○5 保護者は、何よりもまず、子どもの健康、学習、発達、成長という観点を最優先する立場で就学相談・就学先決定に臨む必要がある。

○6 小学校が就学相談の窓口となり、保育所、幼稚園と日常的に連携を行うことで障害の状態やニーズを把握している自治体もある。そのため、就学相談に関する管理職研修を実施するとともに、住民向けに広報誌で周知を図っているなどの工夫が見られる。また、特別な支援を必要とする子どもへの支援を行うネットワークを取りまとめる機関を設け、巡回相談など各種教育相談を実施させるとともに、必要に応じて、教育・保健・福祉・医療分野の連携を行っている自治体もある。これらの先行事例も参考としながら、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。

○7 就学先を決定するに当たって、就学先の学習の様子がわからなければ保護者は判断できない。例えば、英国、米国においては、行政側が、福祉、医療など教育以外の情報も含めた適切な情報を保護者に提供し、また、他の保護者と情報交換できるセンターの設置などの取組を行っており、これらを参考に、今後日本における保護者への支援の在り方について検討していく必要がある。

○8 障害のある子どもの能力を十分発達させていく上で、受入れ先の小・中学校には必要な環境整備が求められ、あらかじめ人的配置や物的整備を計画的に行うよう努めることが必要であるが、それでも障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等により環境整備に困難が予想される場合には、本人・保護者に予め受けられる教育や支援等について説明し、十分な理解を得るようにすることが重要である。

○9 保護者の思いと子ども本人の教育的ニーズは異なることもあり得ることに配慮する必要がある。保護者の思いを受け止めるとともに、本人に必要なものは何かを考えていくことが必要である。そのため、市町村教育委員会が本人・保護者の意見を十分に聞き、共通認識を醸成することが重要である。(参考資料14:児童の権利に関する条約(抄))

○10 市町村教育委員会が、保護者への説明、学校への指導・助言等の教育支援を適切に行うためには、専門的な知識をもった職員を配置するなどの体制整備が必要である。現行の「就学指導委員会」においても、自治体によっては、専門家の専門性が十分ではない、あるいは、単独で専門家を確保することが困難といった課題もある。例えば、専門家の確保を他の自治体と共同で実施することや都道府県教育委員会からの支援を受けることも考えられる。

○11 例えば、英国、米国においては、就学先決定について、本人・保護者の意見と行政の意見が一致しない場合、地方局や州に登録された中立の立場の仲介者が両者の間に入って合意点を見つけ解決策を探るといった調整のための仕組みが用意されている。これらを参考に、今後日本における仕組みを検討していく必要がある。例えば、都道府県教育委員会が、仲介者を紹介する役割を担うことも考えられる。これについては、これまでの認定就学の事例を整理することや新たなモデル事業を実施していくことも考えられる。(参考資料15:認定就学者数等及び就学指導委員会等に関する実態調査の結果について)

(3)一貫した支援の仕組み

○1 できる限り早期から成人に至るまで一貫した指導・支援ができるように、すべての子どもの成長記録や生活の様子、指導内容に関するあらゆる情報を記録し、必要に応じて関係機関が共有できる相談支援ファイルを作成している例もある。これは、関係機関が共有することにより、就学先決定、転学、就労判定する時の資料にもなることから、個人情報の活用について、保護者の理解と協力を得るとともに、情報の取扱いに留意して活用を図っていくことが必要である。例えば、幼稚園や保育所と小学校との間や小学校と中学校との間でそれぞれ連携・情報交換を進めることも考えられる。(参考資料16:子ども・若者育成支援推進法(抄))

○2 個別の教育支援計画、個別の指導計画については、現在、特別支援学校の学習指導要領には作成が明記されているが、幼・小・中・高等学校等で学ぶ障害のある幼児児童生徒については、必要に応じて作成されることとなっており、必ず作成することとなっていない。これを障害のある児童生徒等全てに拡大していくことが望ましい。

○3 一部の自治体では、市内在住の就学を迎えるすべての子どもを対象として、就学支援シートを作成し、それぞれの学校で保護者と担任等が子どもの学校生活、学習内容を検討するに当たり、活用しており、このような取組を拡大することも重要である。

○4 特別支援学校では、個別の教育支援計画を活用し、幼稚部・小学部・中学部・高等部で一貫性のあるキャリア教育を推進し、卒業後の継続した支援を行っている。また、進路指導において、子どもが自分の進路計画を自ら作っていくというような取組も始まっている。これらの取組を一層発展させるとともに、特別支援学校以外の障害のある子どもにも広げていくことが望ましい。

○5 社会の中で自立していくための教育という意味でキャリア教育と特別支援教育の考え方には共通するものがある。社会環境の変化が大きくなっていく中、特別支援学校・特別支援学級で行われてきている自立支援、職業教育や職場体験というものを更に発展させ、進化させていくべきである。

(4)就学相談、就学先決定に係る国・都道府県教育委員会の役割

○1 障害のある子どもの教育的ニーズに対応した教育が行われているかを相談・助言できる組織を都道府県レベルで設置し、いつでも相談できるような仕組みを構築するなど、都道府県教育委員会の就学先決定に係わる相談・助言機能を強化する必要がある。

○2 市町村教育委員会単独で、就学相談や就学支援に係る専門家の確保が困難な場合には、都道府県教育委員会が専門家を派遣するなどの措置を講ずる必要がある。また、関係者のための研修会を都道府県が実施することも考えられる。

○3 就学相談については、それぞれの自治体の努力に任せるだけでは限界があることから、国は、何らかのモデル的なプロセスを示すとともに具体例の共有化を進めることが必要である。例えば、県の特別支援教育センターの職員が各市町村の就学相談委員となって、就学コーディネーターの役割を果たし、全域をサポートしている例もある。都道府県教育委員会が行う市町村教育委員会に対する支援を円滑にするため、例えば、そのようなモデル的事例の開発や普及を行っていく必要がある。

3.インクルーシブ教育システム構築のための人的・物的な環境整備について

○発達障害も含め、特別支援教育の更なる充実のため、現場での意識改革、指導方法の充実、人的・物的な環境整備等が必要。

○合理的配慮については、ソフト・ハードの両面が必要であり、今後、障害種別の内容も含めて一層の検討が必要。

○特別支援学校と幼稚園、保育所、認定こども園、小・中・高等学校等との間で行われる交流及び共同学習を一層推進するとともに、例えば、居住する地域の小・中学校に副次的な学籍を持たせるなど一層の工夫が必要。

○特別支援学校のセンター的機能を一層活用することが必要。

(現状と課題)

○小・中学校等においては、特別支援教育担当教員として、特別支援学級を担当する教員の配置や通級による指導の担当教員の配置がなされている。また、特別支援教育支援員を地方交付税措置により配置している。通常の学級に在籍する発達障害のある子どもを含め教育的ニーズの異なる様々な障害のある子どもや、障害があるとは周囲から認識されていないものの、学習面又は行動面での困難を抱えている子どもが学んでいることが推測される。そのような子どもに対し十分な支援がなされていない場合があるなど、人的・物的な環境整備を行うことが課題になっており、このような現状の把握に努める必要がある。障害に関する医学的診断の確定にこだわらず、常に教育的ニーズを把握しそれに対応した指導等を行う必要があるが、こうした考え方が学校全体に浸透することにより、障害の有無にかかわらず、当該学校における幼児児童生徒の確かな学力の向上や豊かな心の育成にも資するものと言える。(参考資料12:特別支援教育の推進について(通知))

○特別支援学校についても、小、中、高等部、特に高等部において、入学を希望する子どもの数が増えてきており、子どもの障害の状態などについて現状を把握する必要があるとともに、計画的な整備が課題となっている。

(1)障害のある児童生徒等を受け入れるための環境整備全般

○1 現場での意識改革、指導方法の充実、人的・物的な環境整備、校長をはじめとする教員の指導力の向上(特に、特別支援教育についての専門性や多様性を踏まえた学校経営・学級経営といったマネジメント能力)等を総合的に進める必要がある。特に少人数学級の実現に向けた取組を進めていく必要がある。また、教育条件の整備のためには、国及び自治体の財政的な裏付けが必要である。環境整備が進まないまま、同じ場で共に学ぶことを進めるのは、結果として、特別な教育を必要とする子どもが何らの配慮もなく通常の学級で学ぶことになる危険性がある。また、私立学校に対しても配慮することが必要である。

○2 特別支援教室構想は、現在、小・中学校において通級や特別支援学級の形で実施している特別支援教育について、障害のある児童生徒の実態に応じて特別支援教育を担当する教員が柔軟に配置されるとともに、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍しながら、特別の場で適切な指導及び必要な支援を受けることができるようにするものであり、通級による指導の実施状況や研究開発学校の成果等を踏まえて、その導入に向けて課題を整理し、検討を進めていく必要がある。

○3 具体的に地域の現場において、同じ場で共に学ぶことを実現していくには、基礎自治体の取組が大きく影響する。その際、教育委員会だけではなく、財政、福祉等の観点から首長部局の関与も重要である。

○4 校内の支援体制として、教員に加えて、特別支援教育支援員、スクールカウンセラー、養護教諭といった人材も有効に活用していく必要がある。特に、特別支援教育支援員については更なる充実が必要である。

(2)合理的配慮

○1 障害者の権利に関する条約第24条は、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」と規定している。同条約第2条によれば、「合理的配慮」とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整」であり、「特定の場合において必要とされるもの」であり、かつ、その「変更及び調整」を行う主体にとっての負担という観点から、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」をいう、とされている。(参考資料3:障害者の権利に関する条約(抄)、参考資料17:合理的配慮について)

○2 障害は多様であり、例えば、肢体不自由についても医学的に様々な状態があり、それに対する合理的配慮も様々であるので、ICF(国際機能分類)を用いることも検討する必要がある。また、障害者の権利に関する条約は、社会参加の不利の原因を、個人の障害ではなく、社会の障壁側に焦点を当てている。この点からも人的・物的な環境整備や合理的配慮等について検討する必要がある。(参考資料18:ICFについて)

○3 合理的配慮については、教育課程、支援内容等のソフト面、施設・設備の整備等のハード面の両面が必要である。そのため、具体的な合理的配慮の内容について、障害種別の内容も含めて一層の検討が必要である。合理的配慮が不十分なままでは、子どもに適切な教育を行うことができない。(参考資料12:特別支援教育の推進について(通知)、参考資料19:合理的配慮についての特別委員会における意見等)

○4 合理的配慮について、教育委員会、学校、各教員が正しく認識しなければならないことは言うまでもないが、保護者、当事者も含めて、地域における理解はまだ進んでおらず、理解促進のための啓発活動が必要である。

○5 通常の学級で指導を行う場合、現在、障害のある児童生徒でも、各小・中学校は、小・中学校の学習指導要領に基づく教育課程を編成・実施する必要がある。通常の学級で学ぶ障害のある児童生徒一人一人に応じた特別の指導の在り方について検討する必要がある。

(3)交流及び共同学習

○1 特別支援学校と幼稚園、保育所、認定こども園、小・中・高等学校などとの間、また、特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学校に就学する障害のある児童生徒等にとっては、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有する。障害のない児童生徒等にとっても、障害のある児童生徒等とともに学び、多様性を尊重する心をはぐくむことができ、共生社会の実現を目指す観点とともに、子どもの成長にも大きな意味を持つ。特に、居住地校との交流及び共同学習は、居住地の小・中学校等の児童生徒等とともに学習し、交流することで地域とのつながりを持つことができることから、これを進める必要がある。

○2 一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置くことについては、居住地域との結びつきを強め、居住地校との交流及び共同学習を推進する上で意義がある。この場合、児童生徒の付添いや時間割の調整などが現実的課題であり、それらについて検討していく必要がある。(参考資料20:副次的な学籍について)

○3 同じ障害のある者との交流を継続して体験することも重要であり、例えば、通常の学級や特別支援学級で教育を受ける視覚障害の児童生徒が、視覚障害特別支援学校の児童生徒との交流を定期的に実施するなどの仕組み作りが考えられる。また、中学校・高等学校に通っている視覚障害の生徒と視覚障害特別支援学校の生徒の両方を対象とし、サマーキャンプ等で学習体験をする実践もある。その実践においては、先輩であり現役の企業等で働いている視覚障害の技術者や教員が講師となり、それを支えているのが視覚障害特別支援学校の教員や大学の視覚障害教育にかかわっている人たちである。

(4)特別支援学校のセンター的機能の活用

○1 特別支援学校は、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害のある児童生徒等への指導・支援機能、関係機関等との連絡・調整機能、小・中学校等の教員に対する研修協力機能、障害のある児童生徒等への施設設備等の提供機能といったセンター的機能を有しており、その機能を活用してインクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、センター的機能の一層の充実を図るとともに、その高い専門性の確保にも取り組む必要がある。その際に、市町村教育委員会との役割分担を念頭に協力体制を構築することが重要である。加えて、特別支援学校のセンター的機能を支援する仕組みを各都道府県において整備することが必要である。

○2 特別支援学校の教員による巡回相談等、小・中学校等と特別支援学校との連携が重要である。特別支援学校も加えた形で地域の特別支援教育の支援体制を面として作っていくことが必要である。また、特別支援学校が、地域にいる障害のある子どもの教育を担っている都道府県もあり、今後はこのような取組を一層積極的に進めていく必要がある。

○3 必要に応じて、分校、分教室の形で設置するなど、都道府県内に特別支援学校をバランス良く設置していくことも方策の一つとして考えられる。児童生徒の移動時間を考えると、分校、分教室の方が指導を充実できる可能性もある。小学校に設置している特別支援学校の分教室で、当該小学校のみならず周辺の小・中学校についても支援を行っている例もある。

○4 各市町村の小・中学校に設置されている特別支援学級をその市町村の特別支援教育のセンターとし、必要に応じ、特別支援学校のセンター的機能に類する役割を持たせることも考えられる。

4.教職員の確保及び専門性向上のための方策について

○インクルーシブ教育システムの構築のため、教職員の確保や教員の専門性の向上を図るための具体的方策として、大学での教員養成の在り方、管理職を含めた現職教職員の研修体系、採用・配置などについて、今後検討していくことが必要。

(現状と課題)

○教職員の専門性の確保については、特別支援学校教諭免許状の取得率が特別支援学校の教員で約7割、特別支援学級担当教員で約3割と、現在の特別支援教育の大きな課題となっている。また、現職の教員の資質向上のためには、特別支援教育についての研修は喫緊の課題であり、効率的で有効な研修を行うことが重要である。また、教職員への障害のある者の採用・人事配置は課題となっている。

(1)教職員の専門性の確保

○1 すべての子どもに実質的に効果のある教育を実践するためには、まずは受け入れる側の教員の専門性を確実にあげ、指導技術を担保することが必須要件である。その際、知識だけでなく様々なスキルをどう高めていくか、そのためには何が必要かということが大きなテーマである。

○2 特別支援教育の専門性について、例えば、米国や英国で行われているように、高発生頻度障害(発達障害等発生頻度が非常に高い障害)については基本の情報として、すべての教員が有することとし、低発生頻度障害(視覚障害、聴覚障害、重度・重複等)については担当教員が専門性を高めるという形で、高発生頻度と低発生頻度を分けて専門性を向上させる取組を日本でも参考にする必要がある。

○3 小・中学校等の特別支援教育担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その教育の質を支えるとともに、その専門性が校内に与える影響は大きいことから、特別支援学校における勤務等により特別支援教育の中核となる教員を養成し、そういった人材を障害のある子どもの教育的ニーズや学校の状況に応じ、各学校に配置するなど人事上の配慮を行うことが考えられる。また、特別支援学校としての障害種ごとの専門性を確保していくことを考慮した上で、同一校における教員の在職年数の延長など弾力的な人事上の配慮を行うことも考えられる。

○4 特別支援教育コーディネーターについては、専門性を持った教員が専任で配置されることで、学校全体の教員の資質・能力の向上に指導的な役割を果たすことが期待できることから、専門性を高めるための方策について今後検討していく必要がある。例えば、専門的な知識・技能に加えて、地域のネットワークの中で、効果的な支援ができるよう調整する能力を向上するための研修を実施することも考えられる。また、各学校において、特別支援教育の体制充実のための組織強化を図る学校経営を行うとともに、その評価を検討していく必要がある。

(2)教職員の養成・研修制度の在り方

○1 すべての教員が特別支援教育についての専門性を持っていることが望ましい。現在、教員養成段階で、特別支援教育に関する内容を取り扱うことになっているが、通常の学級の担任、特別支援学級担当教員について何らかの専門性向上のための方策を検討していく必要がある。例えば、通常の学級の教員については、大学で特別支援教育関係の単位を修得することが望ましい。また、小・中学校等において特別支援教育を担当する教員(特別支援学級や通級による指導の担当教員、特別支援教育コーディネーター)のための免許状を創設することなども考えられる。さらに、特別支援学校教諭の免許状を保有せずに特別支援学校の教員となることが可能とされている現行制度の見直しを検討する必要がある。今後、教員免許制度全般についての検討の中で、特別支援教育関係の単位修得や免許制度の在り方等について検討される必要がある。

○2 都道府県や市町村での特別支援教育に関する研修をすべての教職員に必要なものとして実施するか検討が必要である。まずは、校長等管理職を対象として、特別支援教育、特に発達障害に関する研修を集中的に行うことが必要である。特別支援教育についての多様な研修とともに、学級経営、学校経営といった研修においても特別支援教育を意識して取り組む必要がある。この場合、多忙な教員に配慮した効果的・効率的な研修の実施が求められる。また、教育委員会が主催する研修の実施に当たっては、国・私立学校関係者や保育所関係者も受講できるようにすることが望ましい。(参考資料21:教員の特別支援教育に関する研修の受講状況)

○3 特別支援教育に関する教職員の資質、能力としては、すべての教職員が最低限身に付けていなければならない特別支援教育の理念及び障害に対する基本的な知識・技能等や、実際に特別支援教育に携わる場合に身に付けるべき専門的な知識・技能等を、経験年次別研修や職務別研修を通して、身に付けられるようにしていくべきである。例えば、特別支援学級の新任担当者研修の形で実施することも考えられる。また、免許状更新講習の中により明確に位置付けて実施することも考えられる。

○4 校内研修等での教職経験豊かな教員を中心とした教員間の学び合い、支え合いにより、学校内で専門的知識・技能等を受け継いでいくことが重要である。国の事業として実施している「特別支援教育総合推進事業」により、校内研修を支援しており、各学校で抱える様々な課題について、特別支援学校や特別支援教育センターが助言、協議する研修を組んでいる。ただし、校内における研修は重要であるものの、OJT(On the job training、職場内研修)だけでは、体系的な知識が身に付かないことから、研修と実践を効果的に組み合わせることが適当である。(参考資料22:特別支援教育総合推進事業)

○5 発達障害に対応できる大学関係者、精神科医、小児神経科医などが地域で不足しているといった現状もあり、その対応策としても、各地域にある特別支援学校が巡回相談や研修会の実施といったセンター的機能を果たしていくことも重要である。

○6 特別支援教育の支援員の活用を図るということも、各都道府県教育委員会で行われているが、支援員の質の向上が課題であり、研修を計画的に実施していく必要がある。

○7 全国的に特別支援教育の質の向上を図るため、特別支援教育のナショナルセンターである独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が実施する研究事業、研修事業、情報普及事業等を一層推進していく必要がある。また、各大学における取組を国立特別支援教育総合研究所が促進していくとともに、関係者に情報提供していく必要がある。さらに、通信制大学においても、特別支援学校の教諭免許状取得に活用できる科目が開設されており、更なる充実・活用が求められる。

○8 特別支援学校については、専門性の向上のため、地域の関係機関との連携による研修、大学等との研修を実施していくことが重要である。

(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置

○1 児童生徒等にとって、障害のある教職員が身近にいることは、障害のある人に対する知識が深まるとともに、障害のある児童生徒等にとってのロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となるなどの効果が期待されるので、特別支援学校をはじめ様々な学校において、障害のある当事者の教職員が確保されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)