資料5:太田委員提出資料

平成22年11月19日

小中学校で学校選択制が導入されている時代に

品川区立鈴ヶ森小学校長
太田 裕子

1 基本理念として

 品川区では、平成10年から、公立小中学校の学校選択制を実施してきている。居住地の小中学校に就学するのではなく、区内の(小学校は区内を四つのブロックに分けている)学校から、保護者が主体的に就学先を選択することができる制度である。現在では東京の区部など、この制度を採用する地域は拡大しており、内閣府が2006年に行った調査では小学校の14.9%、中学校の15.6%が導入しているとされる。品川区では2010年度は、小学校は30.0%、中学校は29.8%の児童生徒が居住地の学校以外を選択している。
 このような時代にあっても、障害のある児童生徒は、居住地の小中学校に就学する選択権すら、まだない。特別支援学校に就学すべき障害の程度が学校教育法施行令に定められており、それに該当する児童生徒は区市町村教育委員会が「小中学校において適切に教育ができる特別の事情があると認める者」について認定就学者と認める制度がある。しかし希望するすべての児童生徒を認定できないのは、現行制度の判断の中に、「合理的配慮」が位置づけられていないことである。「合理的配慮」が公的制度には無く「現状のままで、小中学校において適切に教育ができる」と判断できる児童生徒はかなり限られた数である。
 先にも述べたが、品川区をはじめ、いくつもの自治体で、学校選択制が実施されている時代である。障害のある場合にだけ、「それでもなお、自分は挑戦してみたい」という強い希望を持つ児童生徒とその保護者に対して、最終的に本人・保護者の同意の得られない就学先を決定するような手続きは、私の感覚では、「障害者の権利条約」の内容にそぐわないものであると言わざるを得ない。
 私は、基本的な「合理的な配慮」をガイドラインとして示し保障していくことと、保護者の同意を就学指導のシステムに明確に位置づけていくことを主張したい。(p6~)

2 具体的なシステム案(p6~11)

(1)就学先決定に当たっては、保護者の同意を得ることとする。

    • 個別の教育支援計画を就学先決定に関する書類の一つとし、個別の教育支援計画に同意することをもって、保護者の同意とする。

(2)「合理的配慮」を、「ガイドライン」(仮称)に基づき、「個別の教育支援計画」に盛り込む。

(3)特別支援学校からの教員の訪問による専門性の高い指導が受けられるようにする。

    • 特別支援学校の就学基準の小・中学校就学者には、特別支援学校から訪問
    • 特別支援学級の就学基準の小・中学校就学者には、特別支援学級から訪問
    • 専門性のある教員を確保するには、現行制度の「訪問学級」を適用し、特別支援学校あるいは特別支援学級の「訪問学級児童生徒」として支援に出向く児童生徒の人数を掌握し、その人数で「訪問学級」の学級編制し、専門の担任を特別支援学校に配置する。
    • 「訪問学級」となれば、訪問指導だけでなく、スクーリングも適宜実施できる。

(4)特別支援学校を選択した児童生徒には、副籍あるいは支援籍のような制度は全国展開し、居住地における交流及び共同学習を推進する。

(5)小中学校・特別支援学校のどちらに就学しても、就学先決定後も、就学指導委員会でかかわった専門家や行政担当者と保護者、在籍学校が支援チームとなり、個別の教育支援計画に基づく支援会議を設定し、就学先や支援についての見直しの機会をシステム上明記する。

(6)新たな就学手続きを具体的に検討する段階では、就学時や就学後・卒業後の様子を協力可能な方からは情報提供いただくなど、現状と課題を踏まえて検討していけるようにする。

3 保護者から選ばれる特別支援学校、選ばれる特別支援学級に

 今まで出された意見の中に、「児童生徒がそのもてる力を最大限に発揮できない環境を、保護者が選んでしまうのではないか」という懸念が何度か示された。
 しかし、現実には、東京都では、知的障害の軽い生徒を対象とした特別支援学校では、定員の三倍を超える希望者がいる学校もあり、その中には、中学校の通常の学級からの希望者も多いと聞いている。また、発達障害等の児童生徒も対象に加えた通級指導学級(通級による指導)では、希望者が多く、入級するのに一年がかりという状況も見られる。特別支援教育の専門性が高ければ、保護者は自ずから専門性のある特別支援学校や特別支援学級、通級による指導を選択するという実態がある。
 「障害者の権利条約」の内容を踏まえると、就学先の決定に、児童生徒・保護者が同意できない状況を無くしていくことが重要であり、そのためには、特別支援学校や特別支援学級が、保護者や児童生徒のニーズに十分に応える専門性を発揮していくことが大切であると考える。
 ただし、障害種別の中で、人数の少ない視覚障害・聴覚障害については、その専門性の維持・継承の面からも、特別支援学校が専門性の高い教育の拠点として存続できるような仕組みにしていく必要がある。前項(3)で述べた訪問学級を視覚障害・聴覚障害特別支援学校には設定するなどの工夫が必要である。

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