全国町村教育長会

平成22年10月27日(水)
全国町村教育長会長 髙橋 健彦

障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方

 

1 現行の特別支援教育に対する評価について

 本来,教育は全ての子どもたちに与えられなくてはならず,人種や性別,障害の有無やその他の個々の違いによって,教育上差別されてはならないものである。人格の完成を目指し,社会の形成者として育成するため,教育上必要な支援を講じ,ひとしくその能力に応じた教育を受ける機会を与えていくことは,全ての子どもたちに共通することであり,教育の目指すところであると捉える。
 そのような中,平成19年4月に文部科学省から出された「特別支援教育の推進」についての通知は,特別支援教育の考え方やそのための体制について具体的に示したものであり,学校や教職員の特別支援教育に関する意識が変わってきている。ここ数年間における特別支援教育に関する様々な対応や整備は,社会の変化に対応した望ましい方向にあると考える。通級による指導対象の拡大,特別支援学校・学級における少人数学級編制,個別の支援計画,個別の指導計画の実施など,地域が置かれている状況のなかで,それぞれが現在できることに取り組んだことで定着しつつあると言える。
 特別支援学校に在籍する児童生徒と出身地の小・中学校との交流教育はそれぞれの地域で実施しているが,その目的を達成するにはまだ課題が残っている。障害のある児童生徒がそれぞれの地域で安心して生活できるような人間関係づくりや地域社会との絆づくりを推進するために,交流教育の望ましい在り方を模索していかなければならない。
 また,文部科学省のまとめによれば,特別支援学校に在籍する児童生徒数は過去10年間で約2万8000人も増加し,現在では約11万3000人となっている。そのため,教室不足が深刻になっている学校もある。通常の小・中学校においても,特別支援学級に在籍したり通級指導教室を利用したりする児童生徒も急増している状況にある。しかし,教室を新設・増設するための財政措置がとれなかったり,特別支援教育に関する経験や知識の豊かな教師が不足していたり,特別支援教育支援員の配置が不十分であったりするために,障害の程度に関係なく一つの特別支援学級に在籍するケースも少なくない。障害のある児童生徒を受け入れ,個に応じた適切な支援をするためにそれぞれの環境整備を急ぐべきである。
 このように,人的・物的な環境整備を進めたりするためには,財政的な裏付けが欠かせない。市町村による格差が生じないように,また国の責任において義務教育の水準を維持するためにも,義務教育費国庫負担率を2分の1に復元させることが必要である。

 

2 就学先決定に関する提言に対する評価について

 障害のある児童生徒の就学先決定について,現在は就学指導委員会が専門家・保護者の意見を聴取した後に判定し,教育委員会が保護者に通知する方式を採っている。しかし,乳幼児期からの個別の支援体制がまだ十分でないため,就学時健康診断の時期になって,就学先の判定を受けた保護者が戸惑いを感じるといった新たな課題が生じている。
 保護者が子どもの成長を願って,子どもにとって最適な教育機会を与えたいという思いは当然であろう。同様に,将来の自立と社会参加に向けて一人一人の教育的ニーズに対応した教育支援を行う市町村教育委員会にも強い使命と責任とがある。そこで,乳幼児期からの早期の個別支援を充実させるとともに,その子の障害の状態から必要とされる教育的ニーズに関する情報を保護者や関係機関と共有できるように,発達支援センター等の支援体制を全市町村で早急に整備することが望まれる。
 障害のある子どもの就学先については,「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会」の中間とりまとめにあるように,個別の教育支援計画の作成及び活用を通して,一人一人の教育的ニーズをきめ細かく把握した上で決定されるべきである。就学基準に該当するか否かに加えて,障害の状態から必要とされる教育的ニーズ,保護者の意見,教育・医学・心理学等専門的見地からの意見,さらに学校や地域の状況等を市町村教育委員会が総合的に判断して,本人の教育的ニーズに最も適切に対応できる学校を就学先として決定するように,今後その手続きを改めることが適当であると考える。
 このように,障害のある児童生徒に対する最も望ましい就学先を決定するためには,出生時・乳幼児期に始まる早期からの常時的かつ長期的な支援体制を確立することが最優先されるべきである。

 

3 障害者の制度改革推進会議の第一次意見に対する評価

 障害者制度改革の基本的考え方の5項目は,障害者だけでなく,全ての人に関係するところであると考える。「共生社会の構築」は,これから進むべき「社会モデル」を示していると言える。障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限を社会全体で解決していき,障害者の日常生活及び社会生活のあらゆる分野への参加を可能かつ容易にしていくことが今後目指すべき社会ではないか。前述の就学指導における課題解決も含めて,社会環境の改善をそれぞれの関係機関が連携して総合的に解決していく必要があると考える。
 現在は,生涯を通して学習の機会が確保されるようになってきたが,障害者については,学習の機会を求めているのに学習の場が確保されにくいと言われる。義務教育だけでなく,就学前の教育や高校や大学,就労に向けた職業教育や能力開発のための技術教育,生涯学習などについては,特に環境を整えていく必要があるのではないか。
 さらに,就労の場があってこそ自己実現や社会の一員としての存在が認められるのであり,それこそ学校教育が最終的に目指すものである。自分の生活が就労により自立できるような環境を作ることが,真のインクルーシブであると考える。

 

4 特別支援教育の在り方に関する論点に対する評価

 特別支援教育の在り方に関しては,様々な方向からの論点があり,しかもその論点がよく整理されていて,有効な話し合いがされていると今後も期待できる。特別支援教育の問題は,支援体制づくりと環境整備といった制度的・人的・物理的な諸問題であり,今後も計画的な整備が必要であると考える。
 その他の関連事項としては,「職業教育・就労支援」に関して是非とも議題に加えてほしい。キャリア教育の必要性が叫ばれる中,障害者にとっての「職業教育・就労支援」は学校教育と切り離すことのできない重要課題であると考える。

 

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