全国都市教育長協議会

障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について

全国都市教育長協議会
会長  中川 俊隆

 

 

1.現行の特別支援教育の評価

(1)効果としての観点等

    ○1 特別支援教育の理念の浸透
    ○2 特別支援教育の推進体制整備の進展
    ○3 専門家の意見を踏まえた就学指導
    ○4 障害の重複化に対応できる特別支援学校制度への改正
    ○5 通級指導の充実と対象者の拡大
    ○6 少人数学級や加配教員の充実
    ○7 教職員の意識改革

(2)課題としての観点等

    ○1 保護者の希望と教育的ニーズとのバランス
    ○2 専門性のある特別支援教育担当教員の増員と配置
    ○3 施設・設備等の物的側面の充実
    ○4 早期からの教育支援及び就学指導
    ○5 医療、保健、福祉等の関係機関との連携

 

2.平成21年2月の調査研究協力者会議の中間取りまとめにおける就学先決定に関する提言の評価

(1)評価できる点

    ○1 全般的に現状と課題を明確にし、特別支援教育の充実に向けての方向性を明らかにしている。

    ○2 理想とする特別支援教育推進のための基本的な考え方が明確にされていてわかりやすい。

    ○3 学校現場にとって当面の課題である「早期からの教育相談や支援体制の充実」「就学指導の在り方」を中心として提言がまとめられて優先課題が明確になっている。

    ○4 就学先の決定について、「最終的には教育委員会が行うことが適当であると考える」を明記することは重要である。

    ○5 「居住地の小・中学校とのかかわりについて」を明記することは、今後、必要な配慮事項であり重要な観点である。

    ○6 質の高い教育の実現を図ることが特別支援教育の理念とする「教育支援」であることを押さえ、インクルーシブ・エデュケーション・システムが求める教育との整合を明示している。

(2)課題

    ○1 特別支援教育の理念と教育基本法、学校教育法との整合を明示し、特別支援教育の役割を明確にすることが必要である。

    ○2 全般的に提言内容については肯定的に捉えることができるが、やや理想論的になりがちな面もある。学校現場がこれらの提言を実現できる人的、物的な支援や制度の充実について国が主体的に推進することが必要である。

 

3.障がい者制度改革推進会議の第一次意見(教育関係部分)の評価

    ○1 就学先の決定については、保護者の意見を聴取することや専門家の意見を踏まえることは浸透している。認定就学制度もあり、これまでの制度改正で必要に応じて対応できている。

    ○2 現状の制度は、さまざまな障害種別やその程度に応じて、きめ細かに対応できる制度になってきている。地域への学校に就学することが目的化されないように留意しなければならないと考える。

 

4.その他、特別委員会の論点についての意見

(1)総論について

    ○1 教育の目的は、教育基本法に示されているとおり、障がいのあるなしに関わらず、「人格の完成」をめざし、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を育成することである。このことは、障がい者権利条約に掲げられた教育に係る目的と合致するものである。

    ○2 このような教育の目的を達成する上で最も重要な要件は、「教育の質の保証・向上」である。これからの日本の特別支援教育を考える上で重要な点は、現行の特別支援教育のシステムの良さを生かしながら、「教育の質の保証・向上」という観点で現在のシステムを再構築し、すべての子どもたちの「人格の完成」を目指した取り組みを推進していくことであると考える。

(2)就学相談・就学先決定の在り方および必要な制度改革について

    ○1 基本的に子どもの育成に関わる大人が、該当する子どもの基本情報と育成方針を共有することが重要である。個別の教育支援計画を通じて、障がいの状態・ニーズ、保護者の意向を総合的に勘案して就学先を決定することは、たいへん有効な手段である。しかし、きめ細やかな対応であるが故に教職員の十分の理解と時間の確保が必要となる。

    ○2 個別の教育支援計画を活用するにあたって、就学前教育を担当する保健部局と義務教育を担当する教育委員会の連携と・協力が必要となる。現在も連携を行っているが課題もあり、部局を横断した連携体制を構築することによって、就学決定において、最も必要な保護者と学校・教育行政サイドの共通理解を深めることができると考える。

    ○3 就学後の適切な就学相談・指導によって、就学先を変更する事例が増加している。柔軟な就学指導を進める上でも、適切な教育を進めるための支援体制の充実が望まれる。

    ○4 「障がいの有無にかかわらず、すべての子どもが地域の小・中学校に就学し、かつ通常学級に在籍すること原則とした制度」については、集団活動を特色とする学校教育おいて困難な場合がある。その集団に属する子どもが同じ教育課程が実施できる状況であれば、この原則に基づいた教育を進めることができるが、個に応じて異なる教育課程を実施することが必要な子どもがいる場合、その子に適した教育環境を準備することが望ましい。

(3)(2)の制度改正の実施必要な体制・環境整備について

    ○1 障がいのある子どもが地域の小・中学校に就学する場合の環境整備として、校舎のバリアフリー化を進め、エレベーターの設置、専用トイレの整備、必要な場合は冷暖房の整備など生活環境の整備が必要となる。また、障がい種別に応じて特別支援学校に準じた新たな施設の整備が必要となる場合がある。

    ○2 教育課程上の配慮としては、専門的知識を有した教員や介助員など複数の職員により支援チームが必要となる。

    ○3 居住地校との交流及び共同学習を進めていく上では、副次的学籍の検討や公的な交通手段の確保が必要である。

    ○4 国、県、市町村の役割分担を考えたとき、設置者としての市町村に財政的、人的負担が偏らないよう国、県、市町村の役割を明確にする必要がある。特に、国の財政面での支援や県による専門的知識技能を有した教職員の配置などを望みたい。

(4)障がいのある幼児児童生徒の特性・ニーズに応じた教育・支援のための教職員の確保及び専門性の向上のための方策

    ○1 「人格の完成」を目指す教育現場において、その担い手となる教職員は、障がいに関する専門的な知識はもちろんのこと、たくましく豊かな人間性や教育への情熱をもった心身共に健康な人材であることが基本となる。

    ○2 配置にあたっては、現在の学級編成規準を見直し、1学級あたりの人数を減らすことが望まれる。

    ○3 通常学級において障がい特性に応じた適切な支援を行う上で、それぞれの障がいに応じた支援ができる地域人材の確保が必要となる。技術を有した地域人材の積極的な活用を推進したい。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)