資料4:特別支援教室構想について

1.中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」(平成17年12月8日)(抜粋)

 

○特殊学級等の見直し

(1)特殊学級及び通級による指導の現状と課題

 全国の小・中学校の特殊学級の平均在籍者数は約2.8人(平成16年5月1日現在)となっているが、障害種別あるいは都道府県別の平均在籍者数には幅があり、その実態は様々となっている。

 特殊学級には、すべての時間を当該特殊学級で過ごし、教育を受ける必要のある児童生徒がいる一方で、相当の時間を通常の学級との交流教育という形で障害のない児童生徒と共に過ごすことが可能な児童生徒もみられ、その実態は、児童生徒の障害の種類や程度、学校の実情等に応じて様々である。

 また、特殊学級を担当する教員については、当該学級に在籍する児童生徒への指導に加え、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する通級による指導と類似した支援やいわゆる「巡回による指導」を行ったり、通常の学級を担当する教員に対する相談支援を行ったりしている例もみられる一方で、十分な専門性を有しない教員が配置されるなど、必ずしも効果的に活用されていない例もみられる。

 さらに、通級による指導については、指導時間数及び対象となる障害が限定されており、特別支援教育を推進する観点から、より弾力的な対応ができるようにする必要がある。

 

(2)「特別支援教室(仮称)」の構想について

 協力者会議最終報告においては、「特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある」とともに、「制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要」との提言が行われた。

 「特別支援教室(仮称)」の構想が目指すものは、各学校に、障害のある児童生徒の実態に応じて特別支援教育を担当する教員が柔軟に配置されるとともに、LD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒も含め、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍しながら、特別の場で適切な指導及び必要な支援を受けることができるような弾力的なシステムを構築することであると考えられる。

 この考え方は、小・中学校における特別支援教育を推進する上で、極めて重要であり、また、すでに特殊学級と通常の学級との交流教育という形で弾力的な運用が行われている例があることも踏まえれば、「特別支援教室(仮称)」の構想が目指しているシステムを実現する方向で、制度的見直しを行うことが適当である。

 具体的な「特別支援教室(仮称)」のイメージについては、LD・ADHD・高機能自閉症等を含め、障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍し、教員の適切な配慮、ティーム・ティーチング、個別指導や学習内容の習熟に応じた指導などの工夫により通常の学級において教育を受けつつ、必要な時間に特別の指導を受ける教室として、例えば以下のような形態が想定される。いかなる形態の特別支援教室をどのように配置していくかについては、地域の実情、個々の児童生徒の障害の状態、適切な指導及び必要な支援の内容・程度に応じ、柔軟かつ適切に対応することが重要である。

○特別支援教室1

    ほとんどの時間を特別支援教室で特別の指導を受ける形態。

○特別支援教室2

    比較的多くの時間を通常の学級で指導を受けつつ、障害の状態に応じ、相当程度の時間を特別支援教室で特別の指導を受ける形態。

○特別支援教室3

    一部の時間のみ特別支援教室で特別の指導を受ける形態。
    これらの形態は、あくまでも例示としてのイメージであって、当然のことながらこれらの形態の中間的なものやこれらの形態を組み合わせたものなども考えられる。

 なお、設置者である市町村教育委員会においては、各小・中学校の「特別支援教室(仮称)」が有するそれぞれの専門性を前提にしながら、特別支援教育のセンター的機能を有する特別支援学校(仮称)及び関係機関との連携協力を進めるなど、各地域におけるニーズに応じた地域全体における総合的な支援体制を構築することが重要である。

 

2.「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議 審議経過報告」(平成22年3月24日)(抜粋)

 

 特別支援教室構想は、小・中学校において、LD、ADHD、高機能自閉症等を含めた障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍し、教員の適切な配慮、ティーム・ティーチング、個別指導や学習内容の習熟に応じた指導等の工夫により通常の学級において指導を行いつつ、必要な時間に特別の場で障害に応じた教科指導や、障害に起因する困難の改善・克服のための指導を行う形態であり、平成15年3月の特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の提言を受け、平成17年12月の中央教育審議会答申(特別支援教育を推進するための制度の在り方について)において構想として示されたものである。

 

○現状・これまでの取組

特別支援教室構想の具現化に向けた取組として、特別支援学級と通常の学級との交流及び共同学習の促進、特別支援学級担任の一層の活用、通級による指導の対象者の拡大(LD、ADHDへの通級指導)等が行われている。

また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、「特別支援教室構想」に関する研究が行われた(平成21年3月報告)ほか、研究開発学校による特別支援教室構想に関する研究(学習指導要領によらない特別の教育課程の研究)が行われているところであり、以下の研究開発学校においては、校内の資源や支援体制に応じて個別の児童生徒に必要な特別の指導の内容や時間数について、知見及びデータを積み重ねているところである(i)。

  • 大阪府高槻市立五領小学校(H17~19年度)
  • 宮城県仙台市立小松島小学校(H18~20年度)
  • 埼玉県熊谷市立富士見中学校(H19~21年度)
  • 茨城県坂東市立岩井中学校(H20~22年度)
  • 岐阜県高山市立東小学校(H21~23年度)

 

○検討の方向性及び課題

特別支援教室構想については、現在の特別支援学級と通級による指導では制度として連続性がないため、児童生徒のニーズに応じて、指導時間においても連続性のある形で対応することが可能な制度にすべきとの意見や、知的障害のある児童生徒も、教科によっては通常の学級で学ぶことができる弾力的な仕組みについて検討すべきとの意見があるほか、特別支援教室構想は理想的ではあるが、その制度化に当たっては、教職員配置の在り方を含め、総合的かつ慎重に検討すべきとの意見もあった。

他方、研究開発学校の成果として、特別支援教室構想の効果や有用性を示すデータも得られつつあることから、こうした成果も踏まえ、特別支援教室構想の制度化に当たっては、従来の特別支援学級での指導の在り方や、障害のある児童生徒の通常の学級での授業形態や評価方法について、改めて整理することが必要である。

特別支援教室構想については様々な意見があるが、これまでの研究等を踏まえ、今後次のような課題について検討することが必要である。

  • 特別支援教室を障害種別に設置するか否か
  • 児童生徒が籍を置かない「教室」に対する教員配置システムの在り方
  • 特別支援教室及び在籍する通常の学級担当教員双方の専門性確保の在り方
  • 教育課程の編成・実施・評価の在り方(必要な指導時数、一貫性のある指導・支援、PDCAサイクルによる指導・支援の弾力的見直しなど)
  • 在籍学級と特別支援教室との指導・責任の分担
  • 現行制度において通級指導の対象外である、より軽度の障害のある児童生徒への対応の在り方

 

さらに、教員配置システムを検討するに当たっては、次のような課題があり、これらについて検討することが必要である。

  • 教員数の算定について、例えば個々の児童生徒が特別支援教室で指導を受ける時間を積算し、必要な教員数を割り出すといった根本的な見直しが必要になること
  • 新入生の場合、年度当初の4月の段階で特別支援教室における指導内容、指導時間数を確定することができず、教員配置の積算が困難であること

 

 

i 事務局注:本「審議経過報告」の取りまとめ後、平成22年度から3年間の予定で新潟県新潟市立新津第二中学校においても特別支援教室構想に係る研究が開始している。

 

 

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