資料4:宮城県教育委員会提出資料

「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」におけるヒアリング資料
-宮城県における「制度改革の実施に必要な体制・環境整備」に係る事例-

平成22年9月6日
宮城県教育委員会

1.宮城県における障害のある子どもが地域の小・中学校に就学する場合に実施している体制・環境整備について

(学習支援室システム整備事業の展開)

 宮城県では,平成17年に「障害の有無によらず,全ての子どもが地域の小・中学校で共に学ぶ教育を子どもや保護者の希望を尊重して展開する」ことを基本理念とする「宮城県障害児教育将来構想」を策定した。
 この基本理念である障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が通常の学級に在籍して共に学ぶためには,障害によって生ずる教育的ニーズに対応する学習の場の設置や指導体制の在り方など,新しい学習システムづくりを整備することが必要である。また,共に学ぶ新しい学習システムを漸進的に実現するため,特別支援学校の児童生徒が居住地の学校で学ぶ活動を推進するなど,多様な取組が必要である。
 そこで,宮城県では,ここに紹介する旧「学習システム整備モデル事業」(平成17~19年度),現「学習支援室システム整備事業」(平成20年度~)とヒアリング項目4で紹介する「居住地校学習推進事業」を,「共に学ぶ」教育実現の2本柱と位置付け,体制・環境整備に努めているところである。
 まず,新旧「システム整備事業」は,国の考える「特別支援教室(仮称)」と基本的な考え方は同じものであるが,以下にその概要を説明する。
 旧「学習システム整備モデル事業」は,市町村就学指導審議会において特別支援学級あるいは特別支援学校相当(重度・重複障害も含む)と判断された児童生徒のうち,本人及び保護者の希望を尊重し,通常の学級在籍を希望する場合には,通常の学級に在籍させるものである。この場合,障害のある児童生徒が在籍する通常の学級には,県単独で教員を配置している。配置教員は,通常の学級や児童生徒の必要に応じて「学習支援室」で,対象児童生徒の指導・支援に当たる。対象児童生徒の学習環境を整備するため,施設の修繕費や医療的ケアが必要な場合の看護士配置に係る経費についても,県で助成している。
 平成20年度からは,新「学習支援室システム整備事業」に組み替え,現在に至っている。旧モデル事業との違いは,対象児童生徒の外に,通常の学級に在籍するLD等の発達障害を含 む全ての障害のある児童生徒を「学習支援室」に配置した教員を活用し,通常の学級や「学習支援室」で指導するものである。
 つまり,県単独で配置した教員は,旧事業では,対象児童生徒に対して配置され,対象児童生徒の指導・支援を担う者であったが,新事業では,配置教員は「学習支援室」に配置され,対象児童生徒の指導・支援を中心に,対象児童生徒の障害の状態などから可能であれば,通常の学級に在籍する他の障害のある児童生徒の指導・支援にも当たれるようにしたものである。

    • 「学習支援室」では,障害によって生ずる教育的なニーズに応じ,個別の指導計画に沿って教科学習の補充や特別な指導内容,専門的な指導を行う。
    • 配置教員は,必要に応じて通常の学級に出向き,対象児童生徒等の指導に当たるとともに「学習支援室」では,学級担任と連携を取りながら対象児童生徒をはじめとした発達障害等の児童生徒の指導にも当たる。
    • 対象児童生徒が在籍学級担任からの指導を受け,かつ個別の指導・支援を要しない時,「学習支援室」の配置教員は,他の教室に在籍する対象児童生徒以外の発達障害等の児童生徒に対し,個別の指導を行う。

 <平成17,20,21,22年度の実施状況>

 

平成17年度

平成20年度

平成21年度

平成22年度

対象校

19校(小16,中3)

18校(小12,中6)

15校(小9,中6)

12校(小6,中6)

対象児童生徒

23名(小20,中3)

21名(小14,中7)

17名(小10,中7)

14名(小6,中8)

活用児童生徒

0名

44名

46名

28名

配置教員

22名

20名

16名

13名

※学習支援室の対象児童生徒以外の学習支援室で学習する児童生徒は「学習支援室活用児童生徒」と総称している。

〈成果〉

    • 対象児童生徒並びに活用児童生徒いずれにおいても,配置教員による個別的な指導・支援を受けたことで,「学習に対する興味・関心,意欲が高まった」「学習態度が身に付いた」「学習への集中が持続するようになった」などの効果が上がっている。
    • 障害のある対象児童生徒の成長を,障害のない児童生徒の成長を参考にしながら確認できる。また,障害のない児童生徒の障害のある児童生徒への接し方や気遣い等,心の成長が見られるなど,事業実施校及び保護者の評価の声は高い。
    • 配置教員の障害のある児童生徒への指導・支援の様子を日々の授業実践の中で知ることができることから,教職員全体の特別支援教育に対する理解と指導力の向上が見られている。
    • 事業開始前,対象児童生徒の在籍する学級の学力低下を懸念する声が聞かれたが,学力低下を招いた学級はなかった。個別への配慮が細やかになり丁寧な授業が多くなった。
    • 対象児童生徒が在籍学級担任の下で学習に参加できる時間は,配置教員が,他の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも当たっているため,学校全体の特別支援教育を充実させる推進役としての評価が高い。校内支援体制が充実,整備されてきている。

〈課題〉

    • 障害の重い児童生徒にも,通常の小・中学校の学習指導要領における教育課程,指導内容を遵守する必要が出る。そのため,児童生徒の学習能力や発達特性に合わせた学習課題を設定することに困難さがみられる。例えば,社会科で「米づくり」を学ぶ場合に,同一課題で学ぶには困難さがあり,「米づくり」に関連した内容ではあるが,課題を別に設定した例,国語科,算数科において知識・理解等能力の格差が開いてきて,「学習支援室」で個別課題に取り組むようにした例などあった。
    • 知的障害のある場合,学年が上がるにつれて,当該学年で求められる学習課題と児童生徒の理解力のレベルとの間の差が開いていく傾向がある。とりわけ中学校段階では顕著になる。
    • 平成17年度の事業開始以来,対象校,対象児童生徒数を増やすことができないでいるのは,本県財政事情に大きく起因している。「学習支援室」の設置や配置する教員等の財源の確保をどうするか,大きな課題となっている。

【まとめ】

 本県の実施する「学習支援室システム」は,障害のある児童生徒が障害のない児童生徒と共に学ぶ教育の場を確保しつつ,適切な指導と必要な支援を受けるための重要な体制・環境整備だと考えるが,これを全面的に実施していくためには,教員の加配だけでなく,特別支援教育支援員の配置,特別支援学校による支援・助言,小・中学校の通常の学級及び特別支援学級の指導に当たる教員の特別支援教育に係る専門性の向上など,障害のある児童生徒が地域の小・中学校に就学する場合に必要となる体制・環境の整備が不可欠と考える。

2.宮城県における障害のある子どもが地域の小・中学校に就学する場合に実施している教育課程上の配慮について

(小・中学校,特別支援学校の連携の下,実態把握・指導目標設定・授業実践・評価・改善を中心として,自閉症の特性に応じた教育課程の編成と指導内容・方法の工夫をした事例)

 平成21年度,本県東部の同一圏域における小学校,中学校,特別支援学校の連携の下,アセスメント(実態把握・指導目標設定・授業実践・評価・改善)を中心として,自閉症の特性に応じた教育課程の編成と指導内容・方法の工夫に関する研究を実施した。

〈成果〉

    • アセスメントにより自閉症児童生徒の障害の特性や対人関係,コミュニケーション能力等の実態が浮き彫りとなり,個々の能力,特性に応じた指導目標の設定や授業実践を行う上での課題を明確化することができた。
    • 目標達成までの段階を細かく設定し,指導に当たること,課題の達成度が児童生徒に分かるような評価方法を用いること,視覚的な教材を用いたり,動作に言葉を添えたりして言語の受容と表出の向上を図ること,スケジュールや場を構造化し,見通しをもって活動できるようにすることなどの指導の手立てを確認できた。

〈課題〉

    • 系統性や関連性を考慮した教育課程編成と指導をしていくためには,小・中学校及び特別支援学校が共同して編成に当たることが必要がある。その場と時間を確保することに苦心した。
    • アセスメント(実態把握)と目標の関連を明確にして指導にあたり,児童の変容を授業の形成的評価や教師,保護者による評価,心理検査により,客観的にとらえていく必要がある。
    • 指導要録の様式での成績評価が困難な児童生徒の場合,学習の様子を記載した資料を添付し補足説明することが必要なケースも見られる。

【まとめ】

 障害のある子どもが地域の小・中学校に就学する場合,その教育課程を小・中学校単独で作成するには専門性や小中継続した個別の指導計画を作成するという観点から,困難さが大きい。教育課程を小・中学校と特別支援学校が協力し合って作成し,指導・支援についての情報や指導法,教材・教具なども共有することが望ましいと考える。
 それは,視覚,聴覚,肢体不自由,病弱の単一障害で,いわゆる準ずる教育が行われる場合を除き,小・中学校学習指導要領に基づいた教育課程の編成と特別支援学校学習指導要領に基づく教育課程の編成の双方が必要となること。特に,重度の知的障害や情緒障害の児童生徒が在籍する場合には,障害のない児童生徒の学習内容や学習活動と一体化した学習には困難さが出るため,その指導法についての担当教員の戸惑いや障害によるハンデを埋めるための教材・教具の開発が必要とされるからである。併せて,評価についても同一尺度では不可能という側面もある。
 ヒアリング事項1で紹介した「学習支援室」システム整備事業において,障害の重い児童の場合には,小学校中学年あるいは中学校入学を期に特別支援学級への学籍異動や特別支援学校への転学を希望する例がみられる。その理由の一つとして,学習進度や学習内容への不適応が上げられており,教育課程編成上の配慮の難しさを示す実例となっている。

3.宮城県において,障害のある子どもが幼稚園,小学校,中学校,高等学校等に就学する場合,必要な合理的配慮として支援を講ずることができなかった事例

(本人の高等学校での学習希望に必要な支援を講ずることができなかった事例)

 普通高等学校に在籍している1年生男子が,2学期後半から疾病による急激な視力低下になった。本人は,はじめ在籍高等学校での学習を継続することを希望したため,当該高等学校では,校内での移動や授業について支援可能な方法を県立視覚支援学校に指導・助言を依頼した。県立視覚支援学校では,拡大鏡の使い方やパソコンを活用した学習の仕方などを指導した。
 しかし,当該高等学校での学習には,教科ごとに視覚障害の生徒に対応した授業の実施や学習内容・学習進度に限界が生じてきた。本人も次第に授業についていくことに限界を感じてくることとなった。その後,教育相談等の中で,視覚障害者として高等学校後の進路に大学進学も可能であるということを知り,学習意欲が戻り,本人が視覚支援学校高等部での学習継続を希望したことにより,2年生後半より,視覚支援学校高等部に転入学することとなった。
 この事例から,障害種に応じた施設・設備の整備に加え,児童生徒の必要に応じた教材・教具,補助具等の準備が必要となること。さらには,その児童生徒に応じた適切な指導を行うための年間指導計画の作成や日々の授業づくりのための専門的知識を有する教員の配置や支援体制が必要であることが分かった。視覚・聴覚など,特に指導上の専門性を必要とするの障害種や重い障害場合には,通常の学級での指導において,対象児童生徒の能力を十分に引き出す適正な指導や必要な支援を行うには限界があることも分かった。

4.宮城県における居住地校との交流及び共同学習の具体例・工夫について

(居住地校学習推進事業)

 「障害児教育将来構想」の基本理念実現のための取組。二つ目の柱が「居住地校学習推進事業」(平成16年度~)である。共に学ぶ新しい学習システムを漸進的に実現するため,特別支援学校の児童生徒が居住地の小・中学校で交流及び共同学習を行うとともに,障害のある児童生徒の社会参加の促進と地域における特別支援教育に関する理解促進を図ることを目的とする。

(最終頁資料参照)

 この事業を展開するに当たっては,対象となる児童生徒本人及び保護者,在籍する特別支援学校の教職員,交流及び共同学習の対象校となる居住地の小・中学校の児童生徒及び保護者,教職員の趣旨理解が重要となる。そこで,これまで理解啓発に関する次のような取組をしてきた。

    • 「宮城県障害児教育将来構想」冊子の配布
    • 県教育委員会編纂「特別支援教育ハンドブック」への交流及び共同学習の実践例等の掲載
    • 県教育委員会主催「教育課程研究協議会」においる新学習指導要領の交流及び共同学習に関する説明
    • 特別支援教育室ホームページでの概略説明
    • 校長会,教頭会,指導主事会議等での事業概要,進捗状況の説明
    • 居住地校学習推進事業連絡会(県内2カ所,年2回)の開催
    • Web版教育広報「プラネット」への掲載

〈成果〉

    • 「地域・学区内にそのような児童生徒がいたことを初めて知った。これからは,子供会行事等,各種行事への案内を差し上げましょう」,「障害の重いお子さんでも懸命に学ぶ姿を見て,自分も頑張らなくてはいけないなと刺激された」,「これまで障害のある方と接することに消極的だったが,壁が越えられたような気がする」など,障害のある児童生徒に対する理解の深まりを感じさせる声が聞かれる。
    • 担任が居住地校学習に付き添いで出張した場合の後を補充する講師の配置は,特別支援学校における事業対象児童生徒外の教育活動を停滞させないために有効に機能しており,評価も高い。
    • 当該校管理職、担当教員,特別支援教育コーディネーター担当者や地域教育事務所担当指導主事等による事業連絡会の開催は,事業の趣旨の理解啓発や事業充実のために有効である。

〈課題〉

    • 特別支援学校に在籍する保護者及び相手校への理解啓発
    • 相手校との計画立案等における連絡・調整
    • 交流及び共同学習の教育課程上の位置付けと学年進行に伴う活動内容の工夫

5.制度改革実施に必要な体制・環境整備における国,地方公共団体の責務・役割分担について

(宮城県としての見解)

 障害に応じた適正な指導や必要な支援を行うためには,障害のある児童生徒本人や保護者の希望に応じた教育の場が確保され,選択できる体制・環境整備が必要と考える。
 具体的には,現行の特別支援学校,特別支援学級,通級指導教室という指導の場を今後も確保しつつ,仮称・特別支援教室(本県でいう「学習支援室」)が,制度化されることが望ましい。

 この実現のためには,

    • 特別支援教育についての専門性を有する教員の育成,配置
    • 校舎バリアフリー化(階段設置箇所へのスロープ併設,児童生徒移動用エレベーターの設置,車椅子利用可能なトイレの設置等)の義務化
    • 例えば,医療的ケアを必要とする児童生徒への看護士の配置
    • 担任教員出張時の後を補充する講師の配置
    • 「学習支援室」の確保・整備

等,制度化と人材,施設などの条件整備,財政支援が必要である。

 また,就学支援や個別の教育支援計画の作成には,学齢期に限らない総合的な支援や就学相談,就労支援,療育など,関係機関との連携も必要となる。

 以上,国による

    • 制度化,人材,施設,財源等の確保
    • 市町村等地方公共団体,文部科学省管轄の枠を越えた関係機関への周知と連絡調整
    • 保護者,学校関係者,関係機関職員,国民への理解啓発活動や施策等に関する説明

などが,国の責務であると考える。

 これを受け,地方公共団体は,保育園・幼稚園,学校,医療,保健福祉,労働・雇用対策などの関係機関との調整・連携を具体的に推進する組織づくりやその実践を推進することとなる。

6.制度改革実施に必要な体制・環境整備における都道府県と市町村等の連携及び役割分担について

(宮城県の現状)

 本県では,文部科学省委託事業『特別支援教育総合推進事業』の「体制整備の推進」他2件の実践研究事業を受託している。「体制整備の推進」では,政令指定都市仙台市を除く県内34市町村すべてを特別支援教育推進地域としている。各推進地域において特別支援連携協議会設置を7月現在,34市町村中16市町が設置済み,12市町が設置予定となっており,県内の8割強の市町村が特別支援教育に関して行政の動きが見られる。
 県としては,各市町村の連携協議会に出向いて事業説明を行ったり,各市町村での研修会等に講師を派遣したりしている。また,教育事務所圏域の市町村担当者や関係機関の代表による情報交換の場としてブロック会議を実施するなどして,各市町村や関係機関との連携や情報交換の場を設けている。
 今後,インクルーシブ教育が漸進的に実現されることになれば,地域の小・中学校から特別支援学校への指導・助言,あるいは支援の要請が益々増えることが見込まれ,特別支援学校だけは対応できない状態が懸念される。

    • 特別支援学級設置校が拠点となり,自校の児童生徒に対する指導の外,周辺校の特別支援教育の推進についても協力できるような近隣校支援のシステムづくり
    • 市町村立小・中学校間において,特別支援教育に関する対応格差が出ないような体制・環境整備
    • 各学校での教員の専門性を高めるための研修会の開催
    • 市町村主催研修会の開催

などが必要と考える。

 これらのシステムづくりや体制・環境整備,研修会などの必要性の発信,研修会開催時の講師紹介や派遣などの支援体制づくりを県と市町村が連携して取り組まなければならないと考える。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

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(初等中等教育局特別支援教育課)