資料10:髙橋委員提出資料

「就学相談・就学先決定の在り方」

東海村教育委員会教育長
髙橋健彦

1 従来の東海村障害児就学指導委員会の流れと方法

 東海村の就学指導委員会は,昭和48年「東海村心身障害児判別委員会」として発足し,更に平成11年に委員会規則を改定して「東海村障害児就学委員会」となり,「適正な就学指導を行うための条例」の規定に基づき実施しています。東海村の就学指導委員会は,毎年8月と11月の2回に分けて実施しています。組織は,作業部会としての「就学指導専門委員会」と,判定機関である「就学指導委員会」とに分けて編成しています。

 「東海村障害児就学指導専門委員会」は,本村の特別支援コーディネーターを中心に,特別支援学級担任及び幼稚園・保育所の担任等20名で構成されています。幼児児童生徒の日ごろの学校生活や学習活動の観点から就学について話し合います。

 一方,「就学指導委員会」は,東海村教育委員会の諮問に応じ障害児の適正な就学指導とこれにかかる必要な事項について調査・審議し,その審議を関係機関に具申しています。委員は医師,学校教育関係者,児童福祉施設の職員及び学識経験者のうちから15人以内をもって組織し,東海村教育委員会が委嘱しています。

 就学指導の手順は,保育所幼稚園学校に実態調査や観察をし,担任の協力を得て,「専門委員」が基礎資料をつくり情報交換をした上で判定し,次に「就学指導委員会」によって各委員からの意見聴取と審議判定をうけます。就学指導委員会の最終判定により特別支援学校適判定となった場合は,調査票を作成し県に報告します。同時に事務局,専門委員が保護者との就学相談にあたります。

2 就学指導にかかる課題

(1)保護者の意見

 障害のある児童の就学先を決定する際は,「市町村教育委員会が専門家の意見が集まる「障害者就学指導委員会の判定を元に決定すること」とのみ規定されていました。保護者によっては,短時間に機械的に振り分けられるという印象がありました。

(2)早期からの継続的な就学指導

 就学指導を円滑に進めていくためには,早期からの教育,医療,福祉などの関係機関の連携が重要となります。さらに,判定を受けた後も,学校生活を送る上でより適切な指導や相談を継続的にしていくことが必要となってきます。そのためには,幼児から成人までの持続的総合的な資料を作成することが必要となります。

(3)適切な教育支援体制の整備

  市町村教育委員会が保護者へ説明したり,教職員に指導・助言をしたりして適切な教育支援を行うためには,専門的な知識をもった職員を配置してアドバイスやアセスメントができるようにする必要があります。

(4)その他

  • 特別支援学校へ行くと地域との交流が少なくなる。
  • 就学指導員会と医療との見識の違い
  • 学級の担任に対する要求
  • 学期途中における特別支援を要する転入者への対応
  • 特別支援学級と普通学級の選択

 特別支援学級へ入級の判定をうけても普通学級に入級したいと強く願っている保護者もいます。ところが,願い通り普通学級に入級すると,今度は学習,評価,友達関係などで,学級集団についていくのが困難で,特別支援学級と普通学級との間で悩んでいる保護者もいます。

3 東海村における就学指導の現状と改善

 東海村は小中学校で8校ありますが,就学指導委員会にかける人数は,平成17年度37人から平成21年度48人に増加しています。特に新学齢児審議人数は平成17年度11人から平成21年度21人に増加しています。

 公立小中学校に入学を希望するものは多く,年々増えています。東海村でも,平成14年度8クラス23人,平成18年度9クラス25人だった特別支援学級が,それ以降急増して平成22年度には,5月1日現在で14クラス46名になっています。在籍人数の割合も,平成14年度の0.42%から平成22年度には1.27%になっています。さらに,平成22年度の調査では,普通学級で特別支援員を必要とすると思われる児童生徒が68名いて,特別支援学級在籍者の1.5倍の児童生徒が普通学級で学習をしています。

 このような状況の中で,適切な教育を受けることができる環境・施設・設備を整備するだけでなく,障害に対応できる専門性の高い教員による指導体制を整えることが必要となります。さらに,保護者との話し合いは,特に大切にしていかなければならないと考えています。その子にとってどのように支援したらよいか保護者の意見を十分に聞き取り,話し合うことが大変重要であると捉えています。

4 就学相談と就学先決定の改善

(1)発達支援センターを中心とした体制の充実 

 発達支援センターは,「なごみ東海村総合支援センター(東海村包括支援センター)」の中にあります。3歳の幼児から中学修了生徒までの特別な支援を必要とする子どもの望ましい発達を促すために,平成19年度に設置されました。個々の発達に応じた療育・訓練の教育的な支援をしています。機能は,「相談支援」「療育支援・発達支援」「普及のための啓発・研修」があります。

    ア 障害に応じた専門職の配置

     職員は,村の職員1人と指導員2人が常駐しており,非常勤として発達支援コーディネーター1人,言語聴覚士1人,臨床発達心理士1人,臨床心理士1人が専門的な立場から相談や教育支援を行っています。

    イ 相談活動

     「来者相談」「巡回相談」「電話相談」「出向き相談(家庭訪問)(待ち合わせ相談)」を実施しています。

     「来室相談」では,保護者からの聞き取り,本人への心理検査などを実施して,適切なアセスメントをしています。さらに,本人の定期的な通級による認知,言語,運動の分野に関する個別相談も実施しています。

     「巡回相談では」幼稚園小中学校を巡回して適切な支援ができるよう,個別の相談や,アセスメントをしています。さらに必要に応じて,教育・保健・福祉・医療分野の連携を図り現場の先生方と適切な支援の在り方について相談を行っています。

     「電話相談」では,発達支援コーディネーターや指導員による保護者や幼稚園・保育所小中学校の教員からの相談への対応をしています。

    ウ 療育支援・発達支援

     発達の状態について,臨床心理士が専門的な検査を行い,その結果に応じて言葉の理解や対人関係,コミュニケーション技術など発達を促すための支援活動を行います。

    エ 啓発・研修

     特別支援学級を担当する教職員や村の職員の資質向上を図るために,講演会の開催等を行っています。発達支援センターが各関係機関をつなげ共通理解を図ったり,特別支援教育を普及するための啓発活動を行っています。

    オ 早期からの教育相談・支援の充実

     発達支援センターでは,幼児期から「個別の支援計画」を立て教育相談や支援指導をして,就学相談に大きく関わっています。通級する幼児を定期的に指導することにより,就学する際の情報を保護者や学校に提供することができます。このことにより,保護者も就学指導の判定に対して冷静に考えることができます。  

(2)教育支援内容の統一

 教育上の指導や支援を幼児期から大人まで継続的に適切な支援をしていく必要があると考えたとき,「個別の支援計画」や「個別の指導計画」は欠かせないものになると考えます。東海村では,それらの継続した活用や統一が図れるよう推進しています。

    ア 個別の支援計画の作成と活用

     必要な教育的ニーズ,保護者や専門家の意見,就学先の学校における教育や支援の内容を総合的に記録した「個別の相談記録」を参考に,「個別の支援計画」を立て教育の方向性を明確にしていきます。現在東海村では,3歳時検診の後から作成し中学校3年生までが「個別の支援計画」を作成しています。また,東海村保健センターや包括支援センターと連携し,0歳児から64歳まで活用できるシステムつくりを推進しているところです。このことにより,保護者も「普通学級」か「特別支援学級・特別支援学校」という二者選択の観点から,「この子をどう教育していくか」という観点に立つことができ,発達支援センターと関係機  関や学校の支援が保護者にも見え,総合的に支援計画を考えることができます。

    イ 「個別の指導計画」の作成

     「個別の支援計画」を元に,短期目標を立てて「個別の指導計画」を学校,発達支援センターの両方で作成し,保護者と話し合ったり共通理解をもったりしています。

(3)環境づくり

 障害者を普通学校で教育するための,環境・施設・設備が整っていなければ,理念だけが先走ってしまいがちになり,現実的には子どもたちも教職員も,それぞれの子どもの能力を十分発達させていくことが難しくなってしまいます。財政的な裏付けが伴うものであるので困難な部分もありますが,できるかぎり努力しています。

    ア 介助員,生活指導員の配置

     様々な障害の子どもが学校で生活するためには,それを支援する支援員が必要となってきます。東海村では,幼稚園の支援員を「介助員」小中学校の支援員を「生活指導員」として雇用しています。子どもの自立を促すことが目的のため,多くの支援をつければいいものではありませんが,子どもたちの状況を巡回指導等によりアセスメントし,その配置人数を決めています。幼稚園の介助員は平成22年に12人でした。小中学校の生活指導員は平成16年には6人でしたが,それからのニーズにより現在は20人となっています。

    イ 看護師の配置

     障害の程度も様々です。ダウン症で気管切開をした児童が入学したケースがあります。就学指導委員会では,「知的障害特別支援学校入学○適」の判定をしました。本児童は気管切開をしていて,医療的ケアーを必要としていましたが,特別支援学校に看護師の配置はまだありませんでした。地域の小学校に通わせたいという保護者の強い希望もあったため,村内小学校の知的障害特別支援学級に入級し,看護師配置の措置をとりました。

    ウ エレベーターの設置

     肢体不自由児が入学し,小学校の頃は生活指導員が歩行を援助していました。中学校に入り,医師との相談の結果,車椅子を使用することになりました。その当時,新設の小学校にはエレベーターの設備がありましたが,中学校には有りませんでした。行政と保護者との話し合いにより,中学校にも障害者のためのエレベーターを設置しました。

    エ 冷暖房機の設置

     障害の中には,体温調節障害をもっている子もいます。入学当時は保健室で体を冷やしたり,アイスパックをあてて体を冷やしたりしていましたが,他の施設から冷暖房機をいただき特別支援教室に設置することで,健康を維持することができるようになりました。

(4)教職員の質の向上のための支援体制

 様々な状況の子どもへ対応するためには,教職員の質の向上と支援体制の確立は不可欠となってきます。このことは,指導する幼児児童生徒を育てるばかりでなく,教職員のメンタルヘルスケアーのためにも必要であります。

    ア 課題への対策を解決する体制づくり

     発達支援コーディネーターを中心とした幼稚園小中学校の支援体制は,大変重要であると考えます。東海村教育委員会指導室の中に教職員が昨今の教育課題に関する協議を学校現場で解決を考えていく「学校運営推進委員会」があります。その中の,「子どもすこやか育成部会」は,「一人一人のニーズに即した特別支援体制の整備」を図っています。各幼稚園・小・中学校の特別支援コーディネーターなどで組織され,東海村に在学する障害児のために,「特別支援教育の体制整備」「事例検討会の実施」「就学指導委員会の在り方の協議」「発達支援センターとの連携の在り方の協議」など様々な課題について協議しています。現在は,教育現場が使いやすい「個別の支援計画」を練り上げているところです。さらに,これの対象になる子どもを中核として,社会福祉課と教育委員会,さらに介護福祉課等教育・福祉関係機関が横断的に活用できる「個別の支援計画」にすることを目標としております。

    イ 研修の充実

     県や市町村での特別支援教育に関する研修は全ての教職員に必要であると考えます。そのには理論だけでなく,実習を通して子どもたちへの対応を実感できるものもあります。

     教職員自身が障害児へ偏見をもったり,負担感をもったりしてしまっては良い教育はできないからです。それを解決するためにも,多様な特別支援の研修は重要です。東海村では,県の研修に加えて,毎年3回,村独自で研修を実施しています。

     また,発達支援センターと学校では,校内の事例検討会や発達支援コーディネーター同士のミーティングを実施し情報交換をしています。

(5)特別支援学校,特別支援学級との連携

 特別支援学校と学校,発達支援センターとの連携をとり,児童が住居している小学校へ出向いて,交流をもつ「居住地交流体験」や,公立学校の教職員が特別支援学校で実習をする「教職員研修」,児童生徒の「特別支援学校体験入学」など多くの交流をしています。また,保護者や教職員対象の相談や情報提供をして,地域の特別支援教育のセンター的機能として活用しています。

(6)就学のための連携

    ア  東海村の子どもたちは,就学指導委員会や上記に挙げた様々な関係機関からのアドバイスや指導を受け保護者に総合的な判断を提示し,保護者と幼稚園保育所学校,教育委員会が何回も話し合います。また,途中で在籍場所や指導方法を変更する場合,発達支援センターや適応指導教室,指導室で保育所や幼稚園学校に巡回相談を行い,子どもの様子を観察し,担当者の相談に応じるようにしています。子どもの成長と共に保護者,学校が個に応じた支援ができるよう連携をとっています。

    イ 学校間の連携

     特別支援を要する児童が中学校に入学する場合,学校間との連携と保護者や関係機関との話し合いが更に重要になります。そのつなぎ役となるのが教育委員会であり発達支援センターです。

     小学校の事例ですが,小学校低学年から全欠であったため,学習の遅れを心配して保護者は特別支援学級の入級を希望していました。諸事情から指定学区外の中学校に入学したいと強く要望したため,教育委員会から特別支援学級の入学を整えるよう要請しました。担当の教員が,3学期に家庭訪問等をして児童と関わりをもち安心して入学するように働きかけた結果,中学校入学がスムーズに行われて,毎日中学校に通学できるようになりました。

     学校間,保護者,関係機関等をつなぐ役割を教育委員会や発達支援センターが担うことにより,幅広い選択ができるようになりました。

 東海村は,未来を担う青少年が心身共に健やかで,のびのびと成長してほしいと願っています。障害児教育に関する正しい認識を深めるとともにその理解・啓発に努め,障害の程度に応じた適切な教育施設・設備の整備を進めていきます。そして,障害者が地域の中で自分らしく生きていける環境をつくり,支えあっていきるまちを目指しています。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)