長野県教育委員会
市町村教育委員会数 77
単独設置49(63.6%) 共同設置19(24.7%) 委託9(11.7%)
全市町村就学相談委員数869人
教育関係者453人(52.1%) 医療関係者87人(10.0%) 心理職22人(2.5%)
福祉関係者87人(10.0%) 保護者等12人(1.3%)市町村職員122人(14.0%)
その他85名(9.8%)
文部科学省管轄の学校教育課と厚生労働省管轄の母子保健や児童福祉の業務も含む「支援体制」の一元化を図ることで、一貫した支援を行うことが可能となる。
事例:駒ヶ根市の乳幼児健診から相談後の療育システムにつながる支援体制
平成16年度より、教育委員会の組織として「子ども課」を設置。「子ども課」には、子育て家庭教育係・母子保健係・児童係・学校教育課係が置かれている。このような組織作りをしたことで、妊娠から青少年までの一貫した施策の実現を図ることが可能となった。(別資料参照)
平成21年度には8市町村で取り組んだ。集団生活が始まる時期に健診を行うことで、早期からの支援が可能になる。
事例:塩尻市教育委員会「元気っ子応援事業」(平成19,20年度 文部科学省 発達障害早期総合支援モデル事業)
就学前段階から小学校、中学校、高等学校及び地域での継続した総合支援体制の構築を目指す。対象は市内全ての幼稚園、保育所の年中児とその保護者。「元気っ子応援チーム」と呼ばれる保健師、心理士、教育相談員等からなるチームが市内の幼稚園、保育所を訪問、集団遊びや課題遊びを実施し、相談員が保護者と一緒に参観。参観後に保護者に対し相談を実施。「選別」ではなく、その子の特性に合った幸せの道を探すねらいである。
個別支援手帳の作成・発行を厚生労働省社会・援護局保健福祉部「平成19年度障害者保健福祉推進事業:事業名「障害児・者の情報ネットワーク構築のための個別支援手帳の開発と普及」の国庫補助金の交付により行う。障害者総合支援センター等の療育コーディネーター等により普及を進めている。
事例:I市の知的障害と肢体不自由(車イス使用)のある女児。I市教育委員会は、特別支援学校への就学判断を行ったが、保護者は地元の小学校への入学を強く希望。保護者、教育委員会による学校参観、小学校への体験入学、更に7回に及ぶ就学に係る支援会議を開催したが合意に至らず、保護者の付き添いによる通学、入学となった。就学後はI市の相談員等が本児の学習状況を参観し、保護者と懇談を重ねた。1年後、2年生に進級する時点で、保護者からの申し出により特別支援学校へ転学となる。
平成21年度総判断件数 2,144件 判断と異なる就学件数198件 (9.2%)
判断と異なる就学198件の主な理由
※198件の内訳(特別支援学校判断→通常の学級8件、特別支援学校判断→特別支援学級55件、特別支援学級判断→特別支援学校1件、特別支援学級判断→通級による指導4件、特別支援学級判断→通常の学級116件、通級による指導判断→特別支援学級1件、通級による指導判断→通常の学級5件、通常の学級判断→特別支援学級1件、通常の学級判断→通級による指導1件、その他6件)
※「判断と異なる就学」(198件)の主な理由
(○保護者の希望 128件 ○経過観察 5件 ○当該学級未設置 14件 ○本人の希望 10件 ○祖父母等の反対 3件 ○複数の理由による 38件)
本県では、異なる教育措置となった児童生徒が、その後どのような就学の経過をたどるのかについて、「判断と異なる教育措置となった児童生徒の追跡調査」を行っている。これは、就学時に出された判断が実際の就学と異なった児童について、中学校卒業時まで追跡調査を行うものである。この調査のねらいは「異なる教育措置」となっている児童生徒の就学について、その後の経過を調査することにより、就学相談が就学時の判断で終了するものではなく、継続して行われるべきものであることを市町村に示し、フォローアップの体制作りを促すことにある。(別資料参照)
事例1 知的障害と肢体不自由のある小6女児。就学時に本児を受け入れるにあたって、村がエレベーター設置、介助員1名の配置、畳施設等の改修を行う。
事例2 肢体不自由のある小5男児。地元小学校へ入学したが、バリアフリー化された新設校であったため、トイレ等施設面での設備改善は要しなかった。3年生に進級するときに、隣接のエレベーター設置済である小学校へ転学した。学校への送迎は家庭が行い、トイレ介助のために支援員を配置している。
事例:判断結果と異なる措置であった児童生徒が、その後、判断と同じ学校に転学した事例
知的障害と聴覚障害の重複障害のある生徒。小学校知的障害特別支援学級に6年間在籍し、中学校進学を期に、ろう学校中学部に進学した。発語がないことから、簡単な身振りや筆記だけで周囲とコミュニケーションを取っており、「絵を描きたい」「お腹がすいた」等、本人からの一方的な発信が多かった。ろう学校に転学し、手話や指文字をコミュニケーション手段として獲得したことで、一方的ではない双方向のコミュニケーションが取れるようになった。また、活動の順番や仕方、意味を理解することができ、見通しをもって安心して生活できるようになった。更に、翌年に同じ重複障害のある生徒が転学してきたことから、手話を通して指示する姿や2人で相談することもできるようになり、集団としての育ちが図れ、情緒も安定し、学習内容も進むこととなった。
長野県教育委員会
長野県では、平成16年の養護学校地域化推進協議会において、「ノーマライゼーションの理念に基づき、障害のある者もない者も地域で豊かに学べる教育環境作りを進める」という地域化のねらいを定め、モデル研究を進めてきた。現在、乳幼児きこえの教室(就学前対応)2教室、小学部3教室、中学部2教室、高等部3教室の分教室を設置している。
設置の経過によって、下記のような5つに分類される。
(1) 県のモデル事業として設置。施設の改修費は市町村負担。権限責任は県が有する。
(2) 高校教育課による「高校再編計画」の一貫として、県下4地区に、高等部の分教室を設置。 財源、権限、責任共に県が有する。
(3) 長野県の特別支援学校に関する整備計画に基づいて設置。財源・権限・責任ともに県が有する。
(4) 聴覚障害者の保護者からの要望を受けて設置。財源・権限・責任ともに県が有する。
(5) 「地域の子どもは地域で育てたい」という強い要望により、県下初の市立特別支援学校を須坂市に設置予定。市立特別支援学校となった場合は、財源・権限・責任は市が有する。
高等部の分教室については、比較的障害の軽い生徒を対象にした作業学習や教科学習を設定することで、進路の選択肢を広げることができた。また、受け入れた農業高校は、農業高校独自の教育機能を生かし、交流及び共同学習を推進することができた。
また、小学部・中学部・高等部共通の成果は、通学の利便性が向上したことだけでなく、日常的に設置校の児童生徒と交流ができることにより、お互いの理解が深まったことである。しかし、課題も明確になった。それは、集団としての一定の規模を継続的に確保することが難しいことや、保護者は、単に通学の利便性のみを求めるのではなく、専門性の高い支援を望んでいることである。したがって、単に近くに分教室ができたことで、その周囲の保護者が全員入学を希望する訳ではない。
このような地域化の流れを受けて、須坂市では分教室設置についての機運が盛り上がり、平成21年5月に「須坂発・特別支援教育を考える会」が地域住民の熱意で結成され、「地域の子どもは地域で育てたい」という願いが明らかになった。行政もこの動きを受け、須坂市周辺の市町村が連携して教育7団体を組織し、9月に分教室の設置を県教委に要望した。その後、県教委と須坂市が検討を行う中で、長野県初の市立特別支援学校を設置することが平成23年度に長野県と須坂市との間で合意された。
平成23年度の市立支援学校の設立に向けて、22年度は長野養護学校分教室として、小学部5名の児童でスタートした。県としては教諭2名と、教頭1名を設立準備のため配置した。須坂市からは、2名の支援員が配置されている。
開設から4か月が経ったが、来年度に向けて、すでに10名程の見学者がいる状況である。分教室で特別支援学校の専門的な支援を受けつつ、部分的に小学校の学習活動に参加するなど柔軟な教育課程編成が行われている。また、児童相互のコミュニケーションも日常的に図られている。更に須坂市は、3年後には中学部の設置を計画しており、この動きを受け、県としては高等部の設置も検討していくことになっている。
これまで、市町村は分教室の設置を県に要望するだけであったが、市町村が主体となり特別支援学校を設置しようとする今回の試みは、地域化を進めてきた長野県の大きな成果であると考えている。
長野県教育委員会
長野県駒ヶ根市は、平成16年度より、教育委員会の組織として子ども課を設置した。子ども課には、子育て家庭教育係・母子保健係・児童係・学校教育課係が置かれている。文部科学省管轄の学校教育課だけでなく、厚生労働省管轄の母子保健や児童福祉の業務も含むことになっている。このような組織作りをしたことで、子どもの育ちを、行政で分断しない、妊娠から青少年までの一貫した施策の実現を図ることができた。
「幼児教育こそ家庭づくり・地域づくりの基」「幼児教育は親育ての教育」「幼児教育から学校教育へのスムーズな移行」といった、幼児教育の重要性や、保護者支援の大切さ、学校教育へのスムーズな移行をねらいとしている。
保護者が子どもの障害に気づくことは、幼稚園・保育所で集団生活にじめないでいる様子に接することから始まることが多い。この時期に健診を行うことで、早期からの支援が可能となる。
駒ヶ根市では、子ども課の設置に合わせて5歳児健診を行い、発達障害を中心とした障害のある幼児・保護者の支援を早期から行っている。5歳児健診の内容は行動観察と発達検査で行う。具体的には、「集団遊び」「発達検査」「集団健康教育」「絵本の読み聞かせ」「歯科検診」「保育園でのチェック」「医師の診察」等多岐にわたる。診察終了後に個別相談を行い、障害のある幼児の保護者には医師から障害を伝えることになる。
大切なことは、障害を伝えることではなく、その後にどうフォローしていくかにある。児童発達支援施設のつくし園(つくし園:運営は駒ヶ根市。母子通園10名、単独通園8名、訓練部門園児8名、児童38名を、療育コーディネーター・保育士・作業療法士・理学療法士・心理相談員等からなるスタッフ12名で支援)を中心にして、通園支援、訓練支援、巡回相談等を行っている。また、保護者支援も合わせて行い、保護者会としての活動も支援している。一時期のみ支援をするのではなく、学校に入学しても、対象児童が通園したり、専門家チーム小学校への巡回指導を継続したりして、丁寧な支援を継続している。
このように、手厚い支援が受けられるようになってきたことから、保護者の意識は、早く適切な支援を受けたい、それが我が子にとってプラスになると考えるように変化してきた。学校でも、該当の児童が、継続して支援を受けられるようになっているため、学級集団の中で、担任が配慮していけば、通級のよる指導などの支援がなくても学校生活がスムーズに送られるケースが見られている。
5歳児健診により、多動・衝動性があると診断された23名の幼児を追跡調査したところ、20名は改善・適応してきたと報告されており、更にそのうち20名は、学校生活によく適応している状況であった。早期からの適切な支援は、子どもの成長にとって重要なことであることが明らかになってきた。
長野県では、文部科学省の発達障害早期総合支援モデル事業に平成19年度から、塩尻市、平成20年度から駒ヶ根市、池田町がそれぞれ2年間取り組み、県ではその成果を研修会等を通じて、広く紹介している。
平成21年度は、5歳児健診に8市町村が取り組んでおり、そこで得た情報を就学相談に生かしたり、就学後の支援に継続したりしていこうとしている。
長野県教育委員会
長野県では、児童生徒へのより適切な就学相談体制の整備を求めて、市町村における就学相談の結果に係る調査を行っている。
県全体の就学相談の件数は年々増加をしており、平成16年度は1,513件であったものが、平成21年度には2,144件に増加している。また、同時に行っている「就学時に判断と異なる教育措置となった児童生徒」については、平成16年度には全相談件数1,513件中245件(16.2%)となっていたが、平成21年度は2,144件中198件(9.2%)となり、その割合は近年減少傾向にある。
この背景には、1.平成14年の就学基準の見直し、2.平成19年の保護者からの意見聴取の義務付け等により、就学前からの市町村における就学相談体制整備が進み、「より適切な就学指導・相談」が図られつつあること、3.法改正等による特別支援教育の推進に伴って、特別支援学校・特別支援学級への保護者の理解が深まり、「より専門的な支援サービス」を望む傾向が見られるようになったこと等が挙げられる。
県では、異なる教育措置となった児童生徒のその後の就学経過について、「判断と異なる教育措置の追跡調査」を行っている。これは、就学時に出された判断が実際の教育措置と異なった児童について、中学校卒業時まで追跡調査を行うものである。
(1)措置変更の状況(平成21年度の状況に係る調査結果について)
(2)「判断と同じ教育措置から変更を行った児童」の事例
就学時に判断と異なる措置ではなかったものの、その後により適切な就学のために就学先の変更を行う事例も報告されている。
事例:知的障害のある自閉症、小学部1年生。
「知的障害特別支援学校就学が適切」との判断で、知的障害特別支援学校小学部1年生に入学。対人関係が豊かになり、言語能力にも進展が見られたため、小学校特別支援学級への転校を保護者が希望。交流及び共同学習を重ねた結果、地元市町村教育委員会での再判断を経て、3年生の進級時に小学校に転校。
(1) 修学年限が進むにつれて、就学時に出された判断に戻る傾向が見られること。
(2) 最終的にはほぼ9割の児童生徒が就学時の判断に戻ること。
(3) 判断が変わる節目が小学校4年生、中学校1年生にあること。4年生については、低学年・中学年からの節目であり、中学校については、学習環境が大きく変化するため、それまでの学校生活での育ちや適応力から、より適切な学習環境を考慮し、再判断を行う市町村就学相談委員会が多い。県でも、特に判断と異なる措置になっている子どもについては、少なくとも小学校在学中に1回、中学校への進学にあたって1回の再調査、再判断をお願いしている。
(4) 判断と同じ就学であっても、実際に就学した後に就学変更を希望する児童生徒や保護者もある。児童生徒の発達段階に沿って、より専門的な教育支援体制を常に考慮し、対応できる相談支援体制が必要である。
(1)「判断と異なる教育措置の追跡調査」の実施
調査により、当該児童生徒の就学状況の確認と市町村教育委員会の「判断と異なる教育措置児童・生徒」への注視を促すことが重要である。
(2)市町村教育委員会就学相談委員会の相談体制整備への支援
市町村への支援については、特別支援教育推進員を4教育事務所に1名ずつ4名配置し、特別支援学校への就学事務手続き、就学前相談体制整備に向けての幼稚園・保育所や関係部局訪問、就学相談委員会へのオブザーバー参加等を行っている。
(3)市町村教育委員会の就学相談支援力向上に向けた研修会等の開催
(1) 就学相談にかかる市町村の自治事務と県の支援の在り方
平成16年3月4日、文部科学大臣から中央教育審議会に対して「地方分権時代における教育委員会の在り方について」の諮問がされた。就学相談も市町村がいかにして独自性、自主性を発揮し、子どもに即し地域に即して、医療、保健、福祉、教育を複合的一体的に、しかも一貫した理念で進めるかにかかっている。このような市町村の取組を県としてどのように支えていくかかが今後の課題である。本県では、就学相談が市町村の自治事務として推進されることを願い、県主体の巡回教育相談を平成19年度をもって廃止、「各圏域・地域における相談活動」を重視し支援していく方向に転換し、市町村における就学相談体制整備のために「特別支援教育推進員」4名を配置した。しかし、その後、特別支援学校コーディネーターへの支援要請が急激に増加、21年度は県下18校の特別支援学校が受けた相談ののべ件数は、総数20,000件(1校あたり1,000件以上)を超える状況となった。県としては、「市町村の自主性を促す支援」を図りたいが、市町村が求める支援はより具体的なところ(人材、費用)にある。
(2) 市町村就学相談委員会の専門性担保
市町村就学相談委員会の専門性向上に向けて、県としては全県研修会や圏域における研究協議会を開催している。しかし、例年行っている「市町村における就学相談体制整備状況調査」によると、県下77市町村のうち、就学相談委員会を単独設置している教育委員会は49、共同設置19、委託9という状況である。また、委員構成については、その半分を教員が占めており、教員の異動によって委員会の在り方が左右されてしまうような実態が見られる。
(3) 継続した就学相談支援体制づくりに向けての連携
「個別の教育支援計画」の理念が定着しつつあり、県内では「個別の支援手帳」や就学前の情報を就学校に伝える「プレ支援シート」(県教育委員会が提案)を活用した取組も一部地域で始まっている。また、母子健康保健、児童福祉、学校教育を進める機能が一体となって支援を推進するため組織改編をおこなってきた自治体として、駒ヶ根市、塩尻市、松本市等の取組もある。今後このような取組を県下に広め、実践を共有していくことが必要となっている。
初等中等教育局特別支援教育課