スウェーデンの教育制度は1990年代に大きく改革された。中でも、教員給与の分野では1996年に給料表が廃止され、代わりに教員の能力・実績に基づく給与が導入されている。(注67)新制度は、教員の質の向上及び優秀な人材確保を目的としており、教員のモチベーション向上につながることが期待されている。また、これに先立ち1991年からスウェーデンでは教育制度の地方分権が進められ、中央政府がそれまで有していた教員給与を含む学校運営の責任が大幅に地方自治体へ委譲された。現在では、最低給与水準のみが中央レベルで決定されることになっており、教員を何人採用しどのような給与を支払うかは各学校の校長が決定することとなっている。(注68)90年代の改革において、地方自治体並びに各学校の校長に権限が委譲したことを受けて、2003年にはスウェーデン学校改善庁(Swedish National Agency for School Improvement)が設立され、各学校の教育の質向上へ向けて助言及び評価を行っている。
教員の多くは、地方自治体及びスウェーデン自治体連合(Swedish Association of Local Authorities:SALA)によって採用されている。
義務教育学校及び後期中等学校の教員は地方自治体に採用されるが、人事の決定権は各学校にある。
スウェーデン教育法(Education Act)は、公立学校の教員になる為に以下の要件を義務付けている。(注69)
1990年代に進められた地方分権改革により、授業内容の設定を含む学校運営が、校長をはじめとする教職員全体の重要な職務となった。
校長及び教頭の職務はEducation Actに記載されており、学習指導並びに学校運営の2点が主な職務となっている。学校運営を円滑に進める為、校長は管理職教員及び一般教員から成る運営委員会を組織し、カリキュラムの設定や予算編成等を執り行う。
一方で、児童生徒の能力が教員に大きく依存するようになったことから、教員にはより独創的な学習指導が求められるようになった。このことから教員自身の質の向上も職務の一つとみなされている。(注74)
現時点において未調査
2005年3月に合意された教職員組合とSALAの協定よって、2007年6月30日までの最低賃金が決定された。教員給与は給料表に基づくものではなく、勤続年数は給与には直接反映されないものの、一般的に教員暦の長い教員の給与は高めに設定されている。各教員の給与は校長により定められるが、地方自治体も教員給与に関与することが出来る。(注75)
また、2007年3月より、労使交渉はスウェーデン自治体・地域連合(Swedish Association of Local Authorities and Regions:SALAR)と教員組合間で行われることとなっている。(注76)
最低賃金 2002年11月 |
平均給料 2002年/2003年11月 |
最高給料 2002年11月 |
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義務教育学校教員(1~7年生) | 15,800 | 21,676/22,000 | 26,800 |
義務教育学校教員(4~9年生) 学習障害を持つ生徒を担当する教員 |
15,700 | 21,905/22,000 | 28,000 |
後期中等教育学校教員(一般科目) | 17,500 | 23,682/23,300 | 29,710 |
管理職教職員 | 22,600 | ― | 40,800 |
出所:Statistics Sweden:Salary statistics 2003, table 7 A
教員給与は各学校の校長が教員と協議の上決定することから、全国レベルでの諸手当に関する規定は存在しない。一方、スウェーデン政府は2001年から2006年にかけて追加的な教育予算を各自治体に割り当てている。同追加予算は予算不足から教員や学校職員を十分雇うことが出来ない自治体を支援することを主な目的としており、自治体はスウェーデン政府へ手当用の予算を申請し、配分方法について事前に報告することとなっている。(注78)
1990年代に実施された最も重要なスウェーデンの教育改革は地方分権化である。それまで中央政府が教員の勤務時間や給与、各学校の教員数等を決定していたのに対し、改革後は地方自治体にそれらを定める権限が与えられた。能力・実績に基づく給与が導入された背景としては、中央レベルで決定される教員の労働協定が地方のニーズと合致していなかったこと、能力・実績に基づく給与の方がより優秀な人材を確保できる等の点が挙げられる。能力・実績に基づく給与を導入するにあたり、教職員組合とスウェーデン全土の290の自治体を代表するSALAが交渉主体となり、1996年に第1次協定が合意された。(注79)第1次協定は、それまで使用されていた給料表から新制度である能力・実績に基づく給与へのスムーズな移行を目的とし、能力・実績に基づく給与になっても給与水準が低下しないような配慮が含まれた内容となっている。(注80)2000年から導入されている第2次協定は第1次協定をさらに発展させたもので、能力・実績に基づく給与支給についてより具体的な内容が示されている。
能力・実績に基づく給与の基となる教員の評価に関する中央レベルのガイドラインはほぼ存在しないといえる。教員の評価は各自治体が学校関係者と連携し、その評価項目を定めることとなっているが、多くの場合自治体レベルで大まかな評価軸が定められ、細かい評価項目は各学校が独自に設定するケースが多い。(注82)評価は校長が実施し、協定には校長が各教員と十分に話し合い、コミュニケーションをとった上で目標設定並びに評価を行うことが重要だと強調されている。
また、1999年にスウェーデン教員組合が実施した調査では能力・実績に基づく給与に賛成している教員は全体の3分の1を下回ったが、2004年に行った同様の調査によると教員の6割以上が能力・実績に基づく給与に賛成しているとの結果が発表されている。(注84)
現時点において未調査
義務教育学校の教師の勤務時間は週平均40時間となっている。多くの教員の年間法定勤務時間は1,767時間であり、そのうち1,360時間は学校内勤務時間として定められ、残りの407時間は授業準備等に充てられる。学校内勤務時間は学期中の194日に振り分けられる。教員は6月中旬から8月中旬にかけて休暇をとる。教員の年齢によって休暇日数は増加する仕組みとなっている。(注85)
現時点において未調査
教員給与は同水準の学歴を持つ他の労働者に比べ小ないといわれている。1990年代の経済停滞期には税収の減少から教員給与の増加率も緩やかなものであったが、近年では経済成長と連動して教員給与も増加傾向にある。(注86)
スウェーデンでは、優秀な人材を確保するために教職員組合及び自治体が中心となり対策を進めている。特に1998年以降、優秀な人材を確保する為にはまず教員という職業を魅力的なものにしなければならないという認識の下、国家レベルで以下のような方策が実施されている。(注87)
現時点において未調査
スウェーデンの教員の9割は、スウェーデン教員組合(Swedish Teacher's Union)もしくは全国スウェーデン教員組合(National Union for Swedish Teachers)に所属している。これらの他にも校長が加盟するスウェーデン学校校長組合(Swedish Association of School Headmasters and Directors for Education)がある。雇用者側組織としては、スウェーデン自治体連合(SALA)があり、スウェーデン全土の290の自治体を代表している。教員組合及び雇用者側組織は教員の勤務時間や処遇等について交渉を重ね、合意された協定は教員組合に所属していない教員にも適応される。(注88)
地方分権化が進められているスウェーデンでは、教育費の配分も地方自治体が行っている。地方自治体には通常教育委員会が設置されており、各学校の特徴を考慮しながら予算配分を行う。教育費の分担に関する政府レベルの規則は存在しないが、通常は児童生徒一人当たりの費用から各学校の予算が算出される。(注89)スウェーデン中央統計局によると、2003年のスウェーデンにおける教育支出額(educational expenditure)は約700億クローナとなっており、1999年以来増加傾向にあることが分かる。GDPに占める割合で見ると、1999年以降教育支出額は2.7パーセントから2.9パーセントの水準を維持している。
学校の種類 | 1999年 | 2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | |||||
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支出額 | GDP比 | 支出額 | GDP比 | 支出額 | GDP比 | 支出額 | GDP比 | 支出額 | GDP比 | |
義務教育学校 | 56,295 | 2.74パーセント | 59,508 | 2.73パーセント | 64,433 | 2.87パーセント | 68,303 | 2.95パーセント | 70,341 | 2.88パーセント |
後期中等学校 | 22,028 | 1.07パーセント | 22,367 | 1.03パーセント | 23,786 | 1.06パーセント | 25,250 | 1.09パーセント | 26,936 | 1.1パーセント |
単位:百万クローネ(注92)
注)支出額は時価
出所:Statistic Sweden, Educational expenditure 2005
初等中等教育局財務課