資料6 中央教育審議会義務教育特別部会 審議経過報告(その1)

(平成17年7月19日)

(抜粋)

2 国際的に質の高い教育の実現を目指す-義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善-

(2)教育内容の改善

ア 基本的な理念・目標

  • 現行の学習指導要領の学力観を巡る様々な議論が提起されているが、基礎的な知識・技能の育成(いわゆる習得型の教育)と、自ら学び自ら考える力の育成(わゆる探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的にとらえるべきものではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。
  • したがって、基礎的な知識・技能を徹底して身に付けさせ、それを活用しながら自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成し、「生きる力」をはぐくむという基本的な考え方は今後も維持することが適切である。
  • 子どもたちの学力の現状については、昨年12月に公表された国際的な学力調査の結果から、成績中位層が減り、低位層が増加していることや、読解力、記述式問題に課題があるなど低下傾向が見られたところである。また、先般公表された国立教育政策研究所の教育課程実施状況調査の結果からは、国語の記述式の問題について正答率が低下するなどの課題が見られた。しかし、同調査からは、学校現場における基礎的事項を徹底する努力等により、学力向上に向けての一定の成果も現われ始めている。なお、学習意欲、学習習慣・生活習慣などは、若干の改善は見られるが、引き続きの課題である。
  • このような子どもたちの実態等を踏まえ、
    • 将来の職業や生活への見通しを与えるなど、学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる教育を充実し、学ぶ意欲を高めること、
    • 家庭と連携し、基本的な生活習慣、学習習慣を確立すること、
    • 「読み・書き・計算」などの基礎・基本を確実に定着させ、教えて考えさせる教育を基本として、自ら学び自ら考え行動する力を育成すること、
    • 国際社会に生きる日本人としての自覚を育てること、
    などを重視する必要がある。

イ 学習指導要領の見直し

  • 義務教育の目標を明確化することに連動して、学習指導要領についても、各教科の到達目標を明確に示すことが必要である。また、学習の評価についても、目標に照らして子どもたちのより確実な修得に資するようにすることなど、具体的な評価の在り方について今後検討が必要である。
  • 学習指導要領は、すべての児童生徒に対して指導すべき内容を示す基準であり学校においては、必要がある場合には、これに加えて指導することができるものである。国民として共通に学ぶべき学習内容を明確に定めた上で、学校ができるだけ創意工夫を生かして教育課程を編成できるようにすることが求められる。
  • 総合的な学習の時間については、学校によっては大きな成果を上げている一方当初の趣旨・理念が必ずしも十分に達成されていない状況も見られる。思考力、表現力、知的好奇心や自分で考える力などを育成する上で総合的な学習の時間の役割は今後とも重要であるが、同時に、授業時数や具体的な在り方については再検討が必要である。また、学習が効果的に行われるよう、学校に対する支援策を充実することが必要である。
  • 国語力はすべての教科の基本となるものであり、その充実を図ることが重要である。また、科学技術の土台である理数教育の充実が必要である。このため、全体の見直しの中で、それらの授業時数の在り方について検討する必要がある。また、グローバル社会に対応し、小学校段階における外国語教育を充実する必要がある。具体的な実施方法については専門的な検討が必要である。さらに、社会のIT化に対応し、学校の情報環境を整備し、情報リテラシーを高める教育を充実することも重要である。
  • 学校図書館は、子どもたちの読書活動や主体的な学習を支えるために欠くことのできないものであり、その充実を図る必要がある。その際、司書教諭や学校図書館を担当する職員の役割が更に重要になることから、それらの充実を図る必要がある。司書教諭の専任化が求められるとの意見も出された。
  • 指導方法については、従来の一斉指導の方法も重視することに加えて、習熟度別指導や少人数指導、発展的な学習や補充的な学習などの個に応じた指導を積極的に実施する必要がある。これらの指導形態における指導方法の確立が望まれるまた、教科書、教材の質、量両面での充実も必要である。
  • 子どもたちの健やかな心と体の育成も重要な課題である。学校生活を通じて社会性や集団性を育成すること、健康で安全に生活できる能力を身に付けさせること、子どもたちの創造力や体力をはぐくむ教育活動の充実を図ることが必要である。
  • 教育活動の充実のためには、子どもたちが過ごす学校の規模が適正であることも必要と考えられる。

ウ 学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施

  • 各教科の到達目標を明確にし、その確実な修得のための指導を充実していく上で、子どもたちの学習の到達度・理解度を把握し検証することは極めて重要である。客観的なデータを得ることにより、指導方法の改善に向けた手がかりを得ることが可能となり、子どもたちの学習に還元できることとなる。このような観点から、子どもたちの学習到達度についての全国的な調査を実施することが適当である。なお、実施に当たっては、子どもたちに学習意欲の向上に向けた動機付けを与える観点も考慮しながら、学校間の序列化や過度な競争等につながらないよう十分な配慮が必要である。
  • 具体的な実施の規模、方法、結果の扱い等について更に検討する必要がある。その際には、自治体や学校が全国的な学力状況との関係でそれぞれの学力状況を把握することにより、教育の充実への取組の動機付けとなることが重要な視点であると考えられる。
  • また、併せて、収集・把握する調査データの取扱いに慎重な配慮をしつつ地域性、指導方法・指導形態などによる学力状況との関係が分析可能となる規模・方法を検討する必要がある。

エ 関連する課題

  • 小・中・高等学校の各学校段階を通じて、自然体験、職場体験、就業体験(インターンシップ、デュアルシステム)、奉仕体験などの体験活動を計画的・体系的に推進する必要がある。ニートやフリーターの問題が指摘される中、キャリア教育の推進が求められており、このような観点からも、苦労して成果をあげる体験は意義が大きい。さらに、少子化の中で、兄弟姉妹の少なくなっている子どもたちが年齢や学年学校種を超えて交流する機会を拡大することが必要である。
  • 家庭教育や幼児教育との連携を図り、基本的な生活習慣を確立し、学ぶ意欲を高めるため、幼児教育と小学校教育との連携を図ることが重要である。

2 国際的に質の高い教育の実現を目指す-義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善-

(1)義務教育の使命の明確化

イ 学校の役割の重要性の再認識

  • 平成8年7月の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」以来、学校の役割を巡っては、学校、家庭、地域の連携、とりわけ家庭、地域の教育力の充実が必要であるとの基本的な方向がとられ、それに沿って、学校週5日制が導入され、子どもの居場所づくりなどの施策が推進されている。
  • 学力の向上はじめ子どもたちの健全な育成のためには、家庭と連携して、睡眠時間の確保、食生活の改善、家族のふれあいの時間の確保など、生活習慣の改善が不可欠である。子どもの教育の第一義的責任は家庭にあり、教育における保護者の責任を明確化することが必要である。また、学校外の多様な学習活動について、情報提供や支援を行い、振興を図っていくことも有効である。さらに、大人が家庭や地域で子どもの教育に十分役割を果たせるようにするためには、大人の働き方の問題がかかわっており、企業の協力も必要である。
  • 他方、今日、朝食をとっていない子どもの問題など、家庭や地域の教育力が依然として不十分な現状、あるいは今後更にそれらの教育力が低下する懸念、格差拡大の懸念などを背景として、学校と家庭、地域との役割分担の在り方について、改めて議論となっている。
    当特別部会でも、家庭や地域の教育力を取り戻すことは難しく、学校への期待は大きいとの意見、一方で、本来家庭や地域が果たすべき機能を学校に持ち込むのではなく、家庭や地域がその責任を果たすことが必要であるとの意見などが出された。学校週5日制についても、両方の立場から様々な意見が出された。このほか、家庭の支援のための福祉行政との連携の必要性、ゲーム・テレビの影響などマスメディアを含め大人社会の在り方の問題なども意見として出された。また、学校と、家庭・地域とが共同し、両方が教育力を高めるべきとの意見も出された。
  • これらも踏まえると、学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、適切に役割を分担し合うという基本的な考え方は今後も重要であり、学校、家庭、地域の協力・共同の取組をこれまで以上に強化するための方策、土曜日や長期休業日の有効な活用方策等を更に検討する必要があると考えられる。

(参考)審議経過報告(その1)に関してその後示された主な意見

教育内容の改善

  • 今回の教育論に関しては、議論の前提として、現在の教育システム全体を見直すべき時期にある。いわゆる「ゆとり教育」と言われているが、現行学習指導要領が実施されて3年経ち、そのねらいは十分達成されたのかを、文部科学省がしっかりと検証し、説明していくことが重要である。地方分権の観点から、「ゆとり教育」の成果と課題の検証を通じて、今後いかに教育の質の向上を図るのか議論していくべきである。
  • 義務教育に関する意識調査の結果によると、総合的な学習の時間については、全体として評価は高いが、小学校と中学校とでは教師、保護者、子どもの意識や評価に差があることが明らかになった。また、土曜日、夏休みなどの補習授業、体験活動について、教師と保護者とで意識の差が見られる。
    総合的な学習の時間、土曜日や夏休みの扱い、学習指導要領の基準性などについては、国民の関心も高く、国と地方の関係・役割の在り方、これまでの文部行政の課題やいわゆる「円筒型」行政の問題がどこにあるのかなど、しっかりとした議論が必要である。
  • 総合的な学習の時間が本来の趣旨を生かすためには、学校外の人材の協力や地域との連携が重要である。そういう施策の充実と相まって総合的な学習の時間の在り方を考えていくことが適当である。
  • 小学校における英語教育の充実を図ることが重要である。その際には、ネイティヴ・スピーカーによる指導の機会を確保することが大切である。
     英会話力と同時に、大半の子どもたちにとって最も重要な国語力をしっかり育成する必要がある。また、教師が正しい日本語を話すことが重要である。
  • 図書や教材について、インターネットなどIT技術を活用して収集・提供することも考えられる。これにより予算の効率化も図られる。こうした新しい技術は、教師の研修や子どもの学習意欲の向上に生かすことも考えられる。
  • 義務教育に関する意識調査によると、保護者、教員、教育長、首長からは、1クラス当たりの子どもの数を少なくすることへの賛成意見が非常に多いが、子どもたちへの調査ではクラスの人数を少なくしてほしいとの回答は少ない。この結果を分析し、今後の検討に役立てる必要がある。

学習到達度・理解度の把握のための全国的な学力調査の実施

  • 全国的な学力調査については、政策評価システムを確立するための基礎として全国的な動向把握によりその成果を検証する必要があるとの指摘や、各学校の学校経営の充実という観点から教師による取組の成果を客観的に把握し評価する必要があるとの指摘に留意しつつ、具体的な実施の規模、方法、結果の扱い等の制度設計を進める必要がある。
  • また、学力調査は、知識・技能だけではなく、それを実生活の様々な場面などに活用するために必要な思考力・判断力・表現力などを含めた幅広い学力の測定を可能とする必要がある。

学校の役割の重要性の再認識

  • 義務教育に関する意識調査の結果からは、保護者や首長など学校外からは学校の取組や改革への期待が依然として大きいのに対して、学校の内部からはこれ以上の負担は難しいという意識が表れている。
  • 家庭の教育力が低下しているからといって学校の役割を拡大しても、子どもの心の満足は得られず、家庭の教育力は学校で代替できる性質のものではない。家庭の教育力が低下することを前提にしてしまうのではなく、家庭の教育力をいかに回復するかを意識する必要がある。
  • 教育の成果の検証には、今後力を注いでいく必要があり、学力、体力や道徳性の育成などについて、地域性や教師の指導方法などとの関係を含めてその成果を検証するための検討が必要である。

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