中央教育審議会初等中等教育分科会
教員養成部会
教員免許課程認定大学実地視察の目的は、教員免許課程認定大学実地視察規程(平成13年7月19日教員養成部会決定)に基づき、教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程(以下「教職課程」という。)の認定を受けた大学について、認定時の課程の水準が維持され、その向上に努めているかどうかを確認することである。
(計32大学)
全体としては、概ね、教育職員免許法、教育職員免許法施行規則及び教員免許課程認定審査基準を満たしていた。
しかしながら、一部の大学においては、教育課程や教員組織について、認定時の基準が維持されておらず、早急に改善が必要であったため、厳重な指導を行うとともに迅速な対応を求めた。例年このような大学が見受けられるが、教職課程を法令や審査基準に照らして適切に運営することは、自ら進んで教員養成を行う大学の当然の責務であり、社会に対する最低限の約束である。「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(平成18年7月11日)(以下「18年答申」という。)においても提言されているように、実地視察のみならず、教職課程の事後的・定期的なチェックを行い、必要な改善を促す体系的な仕組みを整備することが重要である。
他方、評価できる取組事例としては、例えば、より実践的な指導力を養成するため、学部と学校現場での学修を交互にかつ段階的に実施している往還型カリキュラムを編成するなど、意欲的な教員養成の取組を行っている大学が見受けられた。
18年答申においては、教職課程の質の維持・向上を促すため、教職課程の認定に係る審査について、今後は、大学の教員養成に対する理念や教職課程の設置の趣旨、責任ある指導体制等を審査対象とすることが適当である旨提言されている。
このことを踏まえ、実地視察大学の運営状況を確認したところ、大学として、また、学部・学科としての教員養成に対する理念が必ずしも明確ではない大学が多く見受けられたところである。これらの大学に対しては、大学だけでなく、学部や学科ごとにおいても、教員養成カリキュラム委員会などを通じて、教員養成に対する理念の構築だけでなく、その理念を十分反映させた教育課程・教員組織の編成及び教職指導体制の確立に努めるよう、学内における十分な議論の機会を恒常的に確保するなど、教員養成に対する全学的な取組に努めるべきであることを指摘した。
科目の開設状況は、全体的には、法令や審査基準を満たしていた。
しかしながら、「教職に関する科目」については、法令に定められている「各科目に含めることが必要な事項」が網羅的・体系的に含まれているかどうかを確認したところ、多くの大学に対して、以下のように指摘した。
これらの「教職に関する科目」の指摘内容については、平成18年度より課程認定申請を行う大学の申請書の一部として、「教職に関する科目」の全ての科目のシラバスを提出する際に、各大学において確認するように求めており、法令に定められている「各科目に含めることが必要な事項」を含んだ科目であることを確認した上で、科目を開設するように十分注意してほしい。
また、シラバス(講義概要)については、各科目の様式が統一されていないものや、統一された様式であるものの担当教員によっては記載内容に差異が見られるものがあった。さらに、複数教員が担当する科目においては、各教員の役割分担などが明記されていないものがあるなど、不十分なシラバスが見られた。シラバスとは、学生と大学との間のいわば履修に当たっての契約のようなものであり、学生に対してわかりやすく丁寧なものとなるよう、科目の目次だけでなく、テーマや到達目標、各回ごとの内容を明記するなど、改善を図るように指摘した。
実習生を受け入れる学校は、大学によって、附属校・協力校・出身校など異なっているが、いずれの場合においても、大学の担当教員が、実習生の状況を把握するためにできるだけ実習校に出向き、実習校の教員と連携・協力しながら、実習生に対する適切な評価・きめ細かな指導を行うように努めることを指摘した。
また、実習生の受け入れにあたって、実習校やその所在する都道府県教育委員会・市町村教育委員会との間で連絡調整を行う教育実習連携協議会のような組織を活用しながら、大学と実習校が実習生の受け入れを円滑に行っている大学があったが、このような取組は18年答申でも提言されており、評価できる。
一方で、大学内の一部の学部において取り組んでいるが、他学部においては実習校任せにしているなど、学部間において取り組み状況に差異が見られる大学もあった。当該大学に対しては、学部間の連絡調整を行う組織を設けて、大学が全学的に責任を持って、実習生に対して、丁寧な指導を行うように指摘した。
学生に対して、各学年ごとに段階的な履修計画を立て、指導教員制度やクラス担任制度などを設けることによって、きめ細かな教職指導体制を築いており、教員志望への高い動機付けを行っている大学があった。
今後は、より充実した教職指導が実践されるよう、教職課程の科目内容や学内の指導体制を調整する組織として、教員養成カリキュラム委員会などを設けて、教職課程の「教職に関する科目」の教員だけでなく、「教科に関する科目」の教員も含めて、全学的・横断的な教職指導体制を築くなど、一層の充実を求めた。
介護等体験については、体験期間中に大学の担当教員が介護等施設を訪問するなど、きめ細かな指導を行っている大学が見られた。
大学が置かれている都道府県教育委員会の教員採用担当者を、当該大学へ招聘し、学生に対して、同教育委員会において求めている教員像などを紹介する機会を設けているなど、学生の教員への就職意識を高める上での効果的な取組を行っている大学があった。
一方で、多くの学生が教員免許状を取得していることに比して、就職状況が芳しくない大学については、学生のニーズに応えるような就職支援体制を構築することを求めた。
各大学ともに、教員養成に必要な施設・設備は概ね整備されていたが、一部の大学では十分に活用されていない状態にあり、教職資料コーナーを設置するなど、教職関連資料等を有効に活用するための工夫を求めた大学があった。
一方で、実際の学校の教室を模した「授業研究用の教室」を設置し、ビデオや高機能マイクなどを使用し、模擬授業や教育実習の事後指導などにおける教育効果を高める工夫をしている大学があった。
今年度の実地視察大学について、概ね、法令及び審査基準を満たしていた。
しかしながら、教員養成に対する理念を、全学として、あるいは学部・学科として明確に持っていないため、大学がこのような理念や教職課程の設置の趣旨などを明確に持ち、その理念を十分反映させた教育課程・教員組織の編成や教職指導体制の確立に努めるよう、学内における十分な議論の機会を恒常的に確保することを求めた。
課程認定大学においては、学長や各学部長が、18年答申はもとより、これまでの各種答申で提言されている内容を再度確認し、教職課程における不断の見直しを行い、責任を持った教職指導体制を構築することを強く望みたい。
実地視察は、教職課程の認定を受けた大学が、課程の水準を維持し、その向上に努めているかどうかを確認するための重要な手段である。教職課程を法令や審査基準に照らして適切に運営することは、自ら進んで教員養成を行う大学の当然の責務であり、社会に対する最低限の約束であることを、全ての課程認定大学はいま一度十分認識することが求められている。
今年度の視察の対象とならなかった大学も含め、全ての課程認定大学が、本実地視察報告書の指摘内容を理解し、教職課程の質的水準の維持と一層の向上を図るための取組を進めていくことを期待する。
初等中等教育局教職員課
-- 登録:平成21年以前 --