資料4 教職実践演習(仮称)のカリキュラムイメージ(教職課程の改善・充実に関する協力者グループにおける検討)

はじめに

  • このカリキュラムイメージは、平成17年12月の中央教育審議会の「中間報告」で示された教職実践演習(仮称)の趣旨や基本的枠組みを踏まえ、検討を行ったものである。とりまとめに当たっては、すべての課程認定大学において、教職実践演習(仮称)の趣旨が確実に達成されるよう、大学の実態や学校現場、教育委員会のニーズ等も踏まえ、より具体的な内容(授業内容例や到達目標、授業方法、指導教員、指導体制等)をカリキュラムイメージとして盛り込んでいる。

1.科目の趣旨・ねらい

  • 教職実践演習(仮称)は、教職課程の他の授業科目の履修や教職課程外での様々な活動を通じて、学生が身に付けた資質能力が、教員として最小限必要な資質能力として有機的に統合され、形成されたかについて、課程認定大学が自らの養成する教員像や到達目標等に照らして最終的に確認するものであり、いわば全学年を通じた「学びの軌跡の集大成」として位置付けられるものである。学生はこの科目の履修を通じて、将来、教員になる上で、自己にとって何が課題であるのかを自覚し、必要に応じて不足している知識や技能等を補い、その定着を図ることにより、教職生活をより円滑にスタートできるようになることが期待される。
  • このような科目の趣旨を踏まえ、本科目には、教員として求められる以下の4つの事項を含めることが適当である。
    1. 教員として求められる使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項
    2. 教員として求められる社会性や対人関係能力に関する事項
    3. 教員として求められる幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項
    4. 教員として求められる教科・領域等の指導力に関する事項
  • また、本科目の企画、立案、実施に当たっては、常に学校現場や教育委員会との緊密な連携・協力に留意することが必要である。

2.授業内容例

  • 上記1.のような本科目の趣旨を考慮すれば、授業内容については、課程認定大学が有する教科に関する科目及び教職に関する科目の知見を総合的に結集するとともに、学校現場の視点を取り入れながら、その内容を組み立てていくことが重要である。具体的には、以下のような授業内容例が考えられる。
授業内容例 含めることが必要な事項との関連
  • 様々な場面を想定した役割演技(ロールプレーイング)や事例研究のほか、現職教員との意見交換等を通じて、教職の意義や教員の役割、職務内容、子どもに対する責務等を理解しているか確認する。
主として1に関連
  • 学校において、校外学習時の安全管理や、休み時間や放課後の補充指導、遊びなど、子どもと直接関わり合う活動の体験を通じて、子ども理解の重要性や、教員が担う責任の重さを理解しているか確認する。
主として1、3に関連
  • 役割演技(ロールプレーイング)や事例研究、学校における現地調査(フィールドワーク)等を通じて、社会人としての基本(挨拶、言葉遣いなど)が身に付いているか、また、教員組織における自己の役割や、他の教職員と協力した校務運営の重要性を理解しているか確認する。
主として2に関連
  • 関連施設・関係機関(社会福祉施設、医療機関等)における実務実習や現地調査(フィールドワーク)等を通じて、社会人としての基本(挨拶や言葉遣いなど)が身に付いているか、また、保護者や地域との連携・協力の重要性を理解しているか確認する。
主として2に関連
  • 教育実習等の経験をもとに、学級経営案を作成し、実際の事例との比較等を通じて、学級担任の役割や実務、他の教職員との協力の在り方等を修得しているか確認する。
主として2、3に関連
  • いじめや不登校、特別支援教育等、今日的な教育課題に関しての役割演技(ロールプレーイング)や事例研究、実地視察等を通じて、個々の子どもの特性や状況に応じた対応を修得しているか確認する。
主として3に関連
  • 役割演技(ロールプレーイング)や事例研究等を通じて、個々の子どもの特性や状況を把握し、子どもを一つの学級集団としてまとめていく手法を身に付けているか確認する。
主として3に関連
  • 模擬授業の実施を通じて、教員としての表現力や授業力、子どもの反応を活かした授業づくり、皆で協力して取り組む姿勢を育む指導法等を身に付けているか確認する。
主として4に関連
  • 教科書にある題材や単元等に応じた教材研究の実施や、教材・教具、学習形態、指導と評価等を工夫した学習指導案の作成を通じて、学習指導の基本的事項(教科等の知識や技能など)を身に付けているか確認する。
主として4に関連

 (注)授業内容例は、どのような授業を行えば、学生が教員として最小限必要な資質能力の全体を修得しているか(理解しているか、身に付いているか)確認できるかを例示したものである。
 課程認定大学においては、本科目の中で、上記の授業内容例を必ずしもすべて行う必要はなく、科目に含めることが必要な事項1~4が全体として確認できるよう、適宜、組み合わせてカリキュラムを編成することが望ましい。

3.到達目標及び目標到達の確認指標例

含めることが必要な事項 到達目標 目標到達の確認指標例
1.教員として求められる使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項
  • 教育に対する使命感や情熱を持ち、常に子どもから学び、共に成長しようとする姿勢が身に付いている。
  • 高い倫理観と規範意識、困難に立ち向かう強い意志を持ち、自己の職責を果たすことができる。
  • 子どもの成長や安全、健康を第一に考え、適切に行動することができる。
  • 誠実、公平かつ責任感を持って子どもに接し、子どもから学び、共に成長しようとする意識を持って、指導に当たることができるか。
  • 教員の使命や職務についての基本的な理解に基づき、自発的・積極的に自己の職責を果たそうとする姿勢を持っているか。
  • 自己の課題を認識し、その解決に向けて、自己研鑽に励むなど、常に学び続けようとする姿勢を持っているか。
  • 子どもの成長や安全、健康管理に常に配慮して、具体的な教育活動を組み立てることができるか。
2.教員として求められる社会性や対人関係能力に関する事項
  • 教員としての職責や義務の自覚に基づき、目的や状況に応じた適切な言動をとることができる。
  • 組織の一員としての自覚を持ち、他の教職員と協力して職務を遂行することができる。
  • 保護者や地域の関係者と良好な人間関係を築くことができる。
  • 挨拶や服装、言葉遣い、他の教職員への対応、保護者に対する接し方など、社会人としての基本が身についているか。
  • 他の教職員の意見やアドバイスに耳を傾けるとともに、理解や協力を得ながら、自らの職務を遂行することができるか。
  • 学校組織の一員として、独善的にならず、協調性や柔軟性を持って、校務の運営に当たることができるか。
  • 保護者や地域の関係者の意見・要望に耳を傾けるとともに、連携・協力しながら、課題に対処することができるか。
3.教員として求められる幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項
  • 子どもに対して公平かつ受容的な態度で接し、豊かな人間的交流を行うことができる。
  • 子どもの発達や心身の状況に応じて、抱える課題を理解し、適切な指導を行うことができる。
  • 子どもとの間に信頼関係を築き、学級集団を把握して、規律ある学級経営を行うことができる。
  • 気軽に子どもと顔を合わせたり、相談に乗ったりするなど、親しみを持った態度で接することができるか。
  • 子どもの声を真摯に受け止め、子どもの健康状態や性格、生育歴等を理解し、公平かつ受容的な態度で接することができるか。
  • 社会状況や時代の変化に伴い生ずる新たな課題や子どもの変化を、進んで捉えようとする姿勢を持っているか。
  • 子どもの特性や心身の状況を把握した上で学級経営案を作成し、それに基づく学級づくりをしようとする姿勢を持っているか。
4.教員として求められる教科等の指導力に関する事項
  • 教科書の内容を理解しているなど、学習指導の基本的事項(教科等の知識や技能など)を身に付けている。
  • 板書、話し方、表情など授業を行う上での基本的な表現力を身に付けている。
  • 子どもの反応や学習の定着状況に応じて、授業計画や学習形態等を工夫することができる。
  • 自ら主体的に教材研究を行うとともに、それを活かした学習指導案を作成することができるか。
  • 教科書の内容を十分理解し、教科書を介してわかりやすく学習を組み立てるとともに、子どもからの質問に的確に応えることができるか。
  • 板書や発問、的確な話し方など基本的な授業技術を身に付けるとともに、子どもの反応を生かしながら、集中力を保った授業を行うことができるか。
  • 基礎的な知識や技能について反復して教えたり、板書や資料の提示を分かりやすくするなど、基礎学力の定着を図る指導法を工夫することができるか。
  • (注1)到達目標は、学生が具体的にどの程度のレベルまで修得している(身に付いている)ことが必要であるかを示した基本的・共通的な指標である。したがって課程認定大学の判断により、これらの到達目標に加えて別の目標も設定することは可能である。
  • (注2)確認指標例は、どのような観点に基づけば、到達目標に達しているかどうか確認できるかを例示したものである。課程認定大学においては、到達目標との関連を考慮して、適宜、確認指標例を組み合わせたり、あるいは別の確認指標例を付加して確認を行うことが望ましい。

4.授業方法等

  • 上記2.に示すような内容の授業を効果的に展開するためには、授業方法の面でも、課程認定大学が有する知見を結集して、理論と実践の有機的な統合が図られるような新たな授業方法を積極的に開発・工夫することが重要である。具体的には、授業内容に応じて、例えば教室での役割演技(ロールプレーイング)やグループ討論、実技指導のほか、学校や教育委員会等との協力により、実務実習や事例研究、現地調査(フィールドワーク)、模擬授業等を取り入れることなどが考えられる。
    (想定される主な授業形式)
    • 「役割演技(ロールプレーイング)」
      ある特定の教育テーマ(例えば、いじめ、不登校等)に関する場面設定を行い、各学生に様々な役割(例えば、生徒役、教員役、保護者役等)を割り当てて、指導教員による実技指導も入れながら、演技を行わせる。
    • 「事例研究」
      ある特定の教育テーマに関する実践事例について、学生同士でのグループ討議や意見交換、研究発表などを行わせる。
    • 「現地調査(フィールドワーク)」
      ある特定の教育テーマに関する実践事例について、学生が学校現場等に出向き、実地で調査活動や情報の収集を行う。
  • 学生に自己の課題を自覚させ、主体的にその解決に取り組むことを促すため、本科目の履修に当たっては、役割演技(ロールプレーイング)や事例研究、指導案の作成等の成果を省察する観点から、単に映像記録等を残したり、感想文を書かせるだけではなく、例えば学生に実践記録を作成させる等の工夫が求められる。
  • 受講者数は、できる限り少人数(15名~20名程度が理想的)とし、演習の効果が最大限に発揮されるよう配慮することが望ましい。受講者数が増える場合には、大学の実情に応じて、ティーチングアシスタント(TA)等を活用するなど、授業形態の工夫を図る必要がある。

5.指導教員、指導体制等

  • 本科目の実施に当たっては、教科に関する科目の担当教員と教職に関する科目の担当教員が、学生の情報を共有するとともに、適切な役割分担や緊密な連携の下に授業計画の作成や授業の実施、学生の指導や評価に当たるなど、両者が共同して、科目の実施に責任を持つ体制を構築することが重要である。その際特に、教科に関する科目の担当教員の積極的な参画が求められる。
    また、指導に当たっては、教職経験者を指導教員に含め、授業計画の作成、学生に対する指導、評価等の面で、学校現場の視点が適切に反映されるようにすることが必要である。
  • 個々の学生の課題や不足している知識や技能等を補うために、学校や教育委員会との連携・協力により、学生の状況等に応じて、個別に補完的な指導を行うことも考えられる。補完的な指導の実施にあたっては、教員の適切な指導のもと、相互批評や集団討論等、学生が自己の課題を自ら克服していけるような主体的な学習形態や授業方法等の工夫を行うことが望ましい。
  • 本科目の効果的かつ円滑な履修を進めるためには、各大学において、教職課程を運営する専門組織等において、入学直後からの学生の教職課程の履修履歴を把握し、それを踏まえて、指導に当たることが必要である。

6.履修時期

  • 本科目の趣旨・ねらいや授業内容例等を考慮すると、履修時期は教科に関する科目及び教職に関する科目の全てを履修済み、あるいは履修見込みの時期(通常は4年次の後期)に設定することが適当である。

7.単位数

  • 本科目の教職課程における位置付けや、授業内容例等を考慮すると、ある程度の授業時間数が求められることから、2単位程度の科目とすることが適当である。

8.科目区分

  • 本科目の性格が、教科に関する科目と教職に関する科目の双方の目的・内容等を基盤とするものであることを考慮すると、新たな科目区分(例えば、教職(総合)実践に関する科目)を設定することが適当である。

9.留意事項

  • 本カリキュラムイメージは、教員養成系大学や一般大学、4年制大学や短期大学、免許状の種類(学校種、教科種、職種)等の違いにかかわらず、およそ基本的・共通的な内容をまとめたものである。したがって、各大学においては、それぞれの養成する教員像や教職課程の特色、免許状の種類、学生の履修状況等に応じて、例えば他の内容や方法を取り入れたり、「含めることが必要な事項」の特定の項目に重点を置いたり、「教職実践演習1・2」(各1単位)のように科目を分割して実施するなど、特色あるカリキュラム編成の工夫を検討することが必要である。
  • 本科目も含めた教職課程の履修履歴については、あらかじめ大学と教育委員会との間で協議・調整を行った上で、教員の採用選考や採用後の研修の際に、参考情報として活用することも考えられる。

10.その他(今後の検討課題)

  • 以上が、教職実践演習(仮称)のカリキュラムイメージについての、本協力者グループの検討状況であるが、このほかにも、会議においては、例えば以下のような意見があったところであり、今後、これらも含めてさらに検討を進めることとしている。
    • 免許種別(学校種別、教科種別)に科目を設定し、授業内容を検討することも必要ではないか。
    • 単位認定については、点数やグレードを付けずに、単に「認定」として取り扱うこととしてはどうか。
    • 単位認定については、確認指標ごとに段階別の評価を行い、各確認指標ごとの評価を総合して認定することとしてはどうか。
    • 本科目の実施に当たっては、教育実習との関係を明確にする必要があるのではないか。
    • 本科目の創設を契機に、教職課程の他の科目(特に教職に関する科目)について、モデルカリキュラムの開発研究を進めることが必要ではないか。

お問合せ先

初等中等教育局教職員課

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