資料7 教員免許更新制の導入に関する主な論点

1.平成14年の中教審答申との関係

「中間報告」に対する意見を踏まえ、14年の中教審答申で指摘された課題との関係について、さらにどのように整理すればよいか。また、10年経験者研修の在り方について、どのように考えればよいか。

「中間報告」における関連部分

 平成14年の本審議会の答申「今後の教員免許制度の在り方について」では、更新制の導入の可能性について、1)教員の適格性確保のための制度としての可能性、2)教員の専門性を向上させる制度としての可能性の2つの視点から検討を行った結果、「なお慎重にならざるを得ない」との結論に至っている。今回は、当時指摘した課題等を踏まえ、どのような制度が現在必要とされており、また制度としても導入が可能であるのかという観点から、更新制の在り方を検討した結果、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るための制度」として、導入することが適当ではないかとの結論に至った。

 平成14年の答申においては、前述した2つの視点それぞれについて、具体的な課題を指摘したが、これらは大別すれば、1)分限制度との関係、2)専門性向上との関係、3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係、4)我が国全体の資格制度との関係の4つに分類できる。

1)分限制度との関係については、資格制度としての教員免許状は、あくまでも個人が身に付けた資質能力を公証するものであり、個人の素質や性格等に起因するような適格性が確保されているかどうかについては、基本的に任用制度により対応すべき問題である。したがって、このような意味での適格性に欠ける者については、現在すべての都道府県教育委員会等で進められている指導力不足教員に対する人事管理システムや分限制度等の厳格な運用により、対応することが適当であると考える。
 一方、今回検討する更新制においても、更新時に、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)とその確認が行われることとなる。

2)専門性向上との関係については、基本的に教員の専門性の向上は、現職研修により対応すべき事柄であるが、今回検討する更新制において、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図ることとした場合、国立・公立・私立学校を通じて、その時々で求められる資質能力が確実に保持されることになる。このことは、現職研修を個々の教員の能力や適性等に応じたより効果的なものに改善する上で、大きな意義を有する。また、後述する免許更新講習の受講をきっかけとして、個々の教員の専門性向上への自己研鑽が期待できること等も考慮すると、専門性向上を目的とする現職研修とは異なる施策として、更新制を導入する必要性は高いものと考える。

3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係については、更新制はその時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、教員免許状に有効期限を設け、その満了時に、一定の更新要件を課し、これを満たせば、免許状が更新される資格制度上の制度である。これに対して、任期制は、あらかじめ一定の任用期間を定めて職員を採用するという任用上の制度であり、業績評価等に応じて、再度任用することはありうるものの、一定の要件を満たせば、再任用されることを前提とした制度ではないことから、基本的に更新制とは趣旨・目的を異にするものである。

4)我が国全体の資格制度との関係については、本来、資格制度の在り方は、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本であると考える。一度取得した職業上の資格が、事後において一定の要件を満たさない場合に失効となることは、職業選択の自由に関連する問題であり、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。しかしながら、上記1で述べたような教員の職務の重要性や特殊性、影響等、さらには、これからの変化の激しい時代の中で、教員に必要な資質能力をいかに確実に保持させていくかということを考えた場合、教員免許状に更新制を導入する必要性は高いものと考える。

 更新制を導入することとした場合、平成14年の本審議会の答申に基づき制度化された10年経験者研修との関係が課題となる。この点については、更新制は、すべての免許状保有者を対象として、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図る制度であるのに対して、10年経験者研修は、公立学校の現職教員を対象として、個々の能力、適性等を評価して、それに応じた個別的な研修を課すものである。このように両者は、制度の趣旨や位置付け、対象者等が基本的に異なるものであるが、他方、現実には、教員によっては、免許更新講習の内容と10年経験者研修の内容が類似したものになったり、これらの受講が同時期に重なることも予想される。このため、10年経験者研修については、当面は存続させることを基本とするものの、必要に応じて、研修内容・方法等の見直しを行うことが適当である。また、こうした見直しの状況や、更新制導入後の教員を取り巻く諸状況を総合的に勘案しながら、将来的な在り方についても検討を行う必要がある。

2.教員免許状の有効期限

「中間報告」に対する意見を踏まえ、また、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るという更新制の趣旨を考慮すると、免許状の有効期限はどの程度とすればよいか。

「中間報告」における関連部分

具体的な有効期限については、更新制の目的や更新要件、教員のライフステージ等を総合的に勘案すると、一律に10年間とする方向を基本として、検討することが適当である。なお、最初の有効期限を、例えば5年間程度とすることにも一定の意義があるとの意見もあり、この点については、さらに検討することが必要である。

3.免許更新講習の在り方

更新制が、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう機能するためには、「中間報告」に対する意見を踏まえ、免許更新講習の内容や受講時期、講習時間、修了認定等について、どのように考えればよいか。

「中間報告」における関連部分

 免許更新講習の内容等については、教員のライフステージや、その時々の学校教育が抱える課題等を考慮しつつ、多様な講習の機会が用意されることが望ましいが、更新の要件として、一定の水準を確保するためには、あらかじめ国において基本的な内容等について定めておくことが適当である。具体的には、上記1.(2)で述べた新設科目(「教職実践演習(仮称)」)に含めることが必要な事項(1.使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項2.社会性や対人関係能力に関する事項3.幼児児童生徒理解に関する事項4.教科等の指導力に関する事項)と同様の内容を含むものとすること、また、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に応じ、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)する内容を含むものとすることが適当である。
 なお、教員の教職経験等に応じて、国が定める基準以上のレベルの高い講習を開設することも、講習の受講が教員にとって有意義なものとなり、また、専門性の向上を促す契機となることから、望ましい。これにより、個々の教員が更新時にどのような講習を受講したかについて、例えば教員免許状に裏書すること等により、その後の研修等の参考資料として活用することも考えられる。

 免許更新講習の実施形態については、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)し、その確認ができるよう工夫することが必要である。具体的には、講義のみではなく、新設科目(「教職実践演習(仮称)」)に含めることが必要な事項に関する講習では、事例研究や場面指導、グループ討議のほか、指導案の作成や模擬授業等を取り入れたりするなどの工夫を図ることが必要である。
 また、免許状保有者が職務に従事しながら受講できるよう、例えば、夜間や週末における講習やサテライト教室の開設による講習の実施、インターネット等の多様なメディアを活用した遠隔講習の実施等、弾力的な履修形態を工夫することが必要である。

 免許更新講習の修了認定については、課程認定大学等の実施主体が、あらかじめ各講習科目の修了目標を定め、それに達していると判断した場合には、修了を認定することとするのが適当である。

 免許更新講習の受講時期については、当該講習の受講の有効性や、計画的な受講の促進、受講者の負担等を考慮すると、有効期限の満了時の直近1~2年間程度の間に受講することを基本として、検討することが適当である。また、講習時間については、講習の受講時期や受講者の負担、一定程度の時間確保等を考慮すると、有効期限の満了時の直近1~2年間程度の間に、全体で20~30時間程度の講習を受講する方向で、検討することが適当である。

 教員免許状の更新に際しては、免許更新講習のすべてを受講することが原則であるが、教員としての研修実績や勤務実績等が当該講習に代替しうるものとして評価できる場合もあり得ると考えられることから、免許更新講習の受講については、更新対象者の研修実績や勤務実績等に応じて、その全部又は一部を免除することが可能かどうか、検討することが必要である。また、その時々で求められる教員として必要な資質能力に刷新(リニューアル)する内容以上のレベルの講習を受講・修了した場合には、その実績を上進制度における単位の修得に代替することが可能かどうか等について、検討することが必要である。

4.複数の教員免許状を有する者の取扱い

「中間報告」に対する意見を踏まえ、複数免許状保有者の各免許状に係る専門性の保持を図る観点から、これらの者に対する更新制の適用について、どのように考えればよいか。

「中間報告」における関連部分

 複数の教員免許状を有する者については、それぞれの免許状について更新制が適用されることとなるが、免許更新講習は、その時々で共通に求められる教員として必要な資質能力に刷新(リニューアル)するものであり、また、仮に各免許状について免許更新講習を課した場合、免許状保有者に過重な負担がかかり、複数免許状の保有促進に逆行することになりかねない。このため、複数免許状の保有者については、一の免許状について更新の要件を満たせば、他の免許状についても併せて更新されることとするなど、一定の配慮をすることが適当である。

5.現職教員を含む現に教員免許状を有する者の取扱い

「中間報告」に対する意見や、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るという更新制の趣旨を踏まえ、現職教員を含む現に教員免許状を有する者の取扱いについて、どのように考えればよいか。

「中間報告」における関連部分

 現職教員を含む現に教員免許状を有する者について、当該免許状に有効期限を設け、更新の要件を満たさなければ免許状が失効することとするのは、授与時に課されていなかった新たな要件をもって、免許状が失効するという不利益を課すことになるのではないかとも考えられる。一方、今回の教員養成・免許制度の改革において、現職教員に対する保護者や国民の期待に応えるためには、現職教員に対して、実効ある取組を行うことは不可欠である。このため、現職教員を含む現に教員免許状を有する者に対して、更新制を適用することが可能かどうか、法制度上や実施上の課題などについて、さらに検討することが必要である。

6.必要な条件整備等

「中間報告」に対する意見を踏まえ、更新制の円滑な導入を図るためには具体的にどのような条件整備等を考える必要があるか。

「中間報告」における関連部分

 今回示した教員養成・免許制度の改革方策については、教員を取り巻く状況や改革に対する国民の期待等を考慮すると、できる限り速やかに実現することが求められる。
 一方、これらの改革方策を実現するためには、教育職員免許法等の改正のほか、例えば、課程認定大学における教職課程の再編成や免許更新講習の開設のための準備、都道府県教育委員会における免許管理体制の整備、国における教員志願者等への制度改正の周知徹底や都道府県教育委員会等に対する支援等様々な準備が必要であり、今後、これらを遅滞なく進めていくことが必要である。

 今回示した改革方策は、現行の教員養成・免許制度を大きく変えるものであり、特に更新制の導入は、関係機関や関係者への影響も少なくないことから国においては、制度導入の趣旨や制度の仕組みについて、課程認定大学や都道府県教育委員会、学校、教員、関係行政機関等に十分説明し、理解を得ることが重要である。

 今後とも、教員に優れた人材を得るためには、教職が魅力ある職業であることが不可欠であり、今回の改革が、教員や教員志願者の意欲を高めることにつながるようにする必要がある。このため、国や都道府県教育委員会等においては、教員や教員志願者に対して、教職実践演習(仮称)の新設や更新制の導入に対する理解を得るための取組を実施することが必要である。
 また、更新制の導入については、今でも多忙感を抱いたり、ストレスを感じる者が少なくないと指摘される教員に対して、いたずらに過重な負担を課すことにならないよう、各学校においては、免許更新講習の計画的な受講を可能とする校内の協力体制の確立や、学校の事務・事業の見直し、事後処理体制の整備等について、検討することが必要である。

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