1.教員を取り巻く社会状況と教員の現状

 近年、我が国では、「知識基盤社会」の到来や、グローバル化、情報化、少子・高齢化、社会全体の高学歴化など、社会構造が大きく変化しており、変化のスピードも速くなっている。本来、学校や教員には、社会の変化に適切に対応して教育活動を行っていくことが求められているが、現状は、こうした変化がこれまでになく大規模、かつ急激に進んでいるため、教員が迅速かつ適切に対応することが難しくなってきている。

 また、都市化や核家族化の進展等を背景として、家庭や地域社会の教育力が低下し、これに伴い、学校や教員に対する期待が高まっている。本来、子どもたちの教育は、学校、家庭、地域社会の適切な役割分担と連携のもとに行われるべきである。このため、家庭や地域の教育力の向上を図るとともに、保護者や地域住民の学校運営への参画や教育活動への理解と協力を進めるなど、社会全体が学校や子どもの教育を支える環境づくりを進めることは重要な政策課題であるが、現状においては、例えば、子どもの基本的な生活習慣の育成等の面で、学校や教員に過度の期待が寄せられている。

 さらに、こうした社会状況や子どもたちの変化等を背景として、学校教育が抱える課題も、例えば以下のように一層複雑・多様化してきており、また、それらに関する研究も進んできている。

  • 児童・生徒の学ぶ意欲や学力・気力・体力が低下傾向にあるとともに、様々な実体験の減少等に伴い、社会性やコミュニケーション能力等が不足していること
  • いじめや不登校、校内暴力等の問題が依然として深刻な状況にあるほか、治安の悪化等に伴い、子どもの生命安全が脅かされる事件がしばしば発生していること
  • LD(学習障害児)やADHD(注意欠陥/多動性障害)等、児童生徒や学校教育に関する新たな課題やそれに関する知見が明らかになりつつあること
  • 脳科学と教育との関係や、子どもの人間学など、子どもや教育に関する新たな研究が進んでいること

 このような課題に適切に対応することができるよう、教員は、常に研究と修養に努め、専門性の向上を図っていくことが期待される職業である。また、教員に限らず、いかなる専門的職業においても、知識や技術は時間の経過とともに劣化することは避けられないものであり、これをいかに補完し、期待される役割を果たしていくかが専門職に共通する課題である。このような基本認識に立ち、社会の急激な変化や学校教育を取り巻く状況の変化の中で、教員が国民や社会の期待に応える教育活動を行っていくためには、不断に最新の専門的知識や指導技術等を身に付けていくという「学びの精神」が、これまで以上に強く求められていることを認識する必要がある。

 教員の現状を見ると、学校教育が困難な状況にあり、教員に対する要望や批判的意見が強まる中で、大多数の教員は、使命感や誇り、教育的愛情を持って教育活動に当たるとともに、日々の自己研鑽に努めており、この点は積極的に評価する必要がある。特に、保護者の中には、教員に対して日々の努力にとどまらず、一定の目に見える教育成果をあげることを求める傾向が強まっていることも踏まえると、今後、こうした教員を励まし、適切に評価することにより、自信を与えていくことは重要である。その一方で、教員の中には、児童生徒に関する理解が不足していたり、教職に対する情熱・使命感が低下している者が少なからずいることが指摘されている。また、いわゆる指導力不足教員は年々増加傾向にあり、一部の教員による不祥事も依然として後を絶たない状況にある。こうした問題は、たとえ一部の教員の問題であっても、教員の職務が児童生徒の人格形成に多大の影響を及ぼすものであることから、保護者や国民の厳しい批判の対象となり、教員全体に対する社会の信頼を揺るがす要因となっていることは重く受け止める必要がある。

 一方、社会の変化への対応や保護者からの期待の高まり等を背景として、教員の中には多くの業務を抱え込み、本来の教育活動に専念できないような状況が一部に生じてきている。また、教科指導や生徒指導など、本来の職務についても多忙感を抱く教員が多く、その結果、教員間で支え合い、協働する力(同僚性)が希薄になっているという指摘もある。このことは、単に教員だけの問題として捉えるのではなく、学校の運営体制の見直しや必要な条件整備等も含め、今後の学校教育の在り方を総合的に検討する中で、考えていく必要がある。

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