資料3 アメリカ合衆国における教員免許更新制

中央教育審議会教員養成部会発表資料

2005年1月18日(火曜日)
八尾坂 修(九州大学)

1.更新制の特徴

  • 免許状の更新・上進制が19世紀以来導入されており、しかも現職研修と連結しているのがアメリカ的免許資格の特質である。
  • 教員免許更新制の仕組みは各州により異なるが、概ね共通するのは、「大学卒業後、各州により有効期限付の仮免許状が発行され、一定期間の教職経験や、上級学位・必要単位数の取得を要件として、普通(上級)免許状が発行される」ことである。
  • 正規の教員免許状は、州により以下の2種類があるが、1.が大多数を占め、終身有効な免許状を発行する州は少なくなりつつある。
    1. 一定期間(例えば5年間)ごとの更新(あるいは上進)義務が課される免許状
    2. 上級免許状としての終身免許状
  • 1.の場合、更新の際の要件としては、大学や大学院での単位取得のほか、教職経験や州・学区の提供する研修機会への参加等が義務づけられている。
  • 更新しなかった場合や更新要件を満たさない場合の罰則として、免許状が失効する場合、更新手数料が高くなる場合があるが、一定の研修により再取得の通が開かれている場合もある。
  • 不適格の認定は免許更新制によることよりも、懲戒処分や分限処分による。
  • 現職教員(就業者)のための現職研修に対する時間や経済的配慮は通常なされておらず、自己の専門職としての責任において行う。

2.教員免許更新制度の州典型的事例

(1)‐1 教員免許状の更新を求める場合(カリフォルニア州)

フローチャート

1.の主な更新(上進)要件

  • 学士号取得課程以上の1年間の課程修了(通常大学院)あるいは初任教員を対象とする州の支援評価プログラムの受講
  • 薬物教育、コンピュータ教育等に関する科目の履修

2.の主な更新要件

  • 150時間以上の現職研修参加及び半年間の教職経験

(1)‐2 教員免許状の更新を求める場合(フロリダ州)

フローチャート

主な更新要件

  • 6単位(semester hours)の大学での単位取得あるいは免許科目に関連するフロリダ州認定職能成長プログラムの履修(120ポイント)など

(2)終身免許状が発行される場合(ニューヨーク州、2004年2月1日以降。同様の事例ペンシルバニア州)

フローチャート

1の主な更新(上進)要件

  • 3年間の教職経験
  • 修士号取得
  • 上級免許状(終身)であっても、5年ごとに所属学区おいて175時間の現職研修参加
  • 仮免許状の1年間の延長(extention)を認める(24時間相当の認定された大学院での学習)
  • 仮免許状の再発行(認定された職能成長プログラムの終了)

3.免許状の更新要件としての現職研修の内容と履修単位

  • 免許資格の更新において多種多様な現職教育が提供されている。
  • 受講者側からすればニーズに見合う研修内容の選択の許容度が大きい。
  • 免許資格制度上の規制のなかにおいても、更新要件としての研修内容そのものは自主的、自己研修的要素を考慮している。
  • いかなる研修内容であれ、担当教科(所有免許状教科)に直接連結したプログラムの受講が望まれ、広く実践的指導力の向上を意図していることがわかる。
  • 地方学区教育局が更新要件としての研修プログラムを作成する際、州教育当局の認定基準において、学習者へのニーズや学習成果へ結びつく明確な計画が要求されている。

 ミネソタ州では、これまで最初に学士号の取得、一定の教職単位の取得によって、2年間有効(更新不可)なentrance license という教員免許状が発行されていた。その後、1年間の満足のゆく教職経験によりcontinuing license という5年間有効な免許状が発行されていた。しかしその更新には、5年ごとに(発行の年の7月1日から失効の6月30日まで)、125更新時間(clock hours)の現職教育が要求されていた。
 ミネソタ州の教育局が考案した各研修内容は更新単位との関係で以下の7つの領域(A‐G)、10項目に分けられている。そのなかで、領域B‐Dは1時間の研修=1時間の更新時間、領域E‐Gは3時間の研修=1時間の更新時間とみなされており、研修の時間と免許資格のための更新時間は相違しているのが特徴である。また125更新時間のうち、最低90時間はA‐D、またその90時間のうち、少なくとも45時間は、各地方における生涯学習のための委員会の目標に合致している研修プログラムのなかから取得しなくてはならないことになっている。

  • A 設定された大学(大学院)における免許教科関連の履修内容の終了:1クォーター期間(4学期制の1学期間)、1セメスター期間(2学期制の1学期間)=20更新時間。なお、聴講あるいは単位取得なしのコース(職能成長のための適切なコース)も認められるが、単位取得のための履修コース相当であることが求められている。
  • B 職能成長活動、現職教育の会合、および現職教育コース。(例)地方の現職教育ワークショップあるいはコース、体育・指導の現職教育ワークショップあるいは実習体験、構造化された教育学習経験である秋季始業前学区ワークショップ。
  • C 担当免許教科におけるワークショップ、会議、講習会、ゼミあるいは講義への出席。
  • D 学区、地域、州、全国あるいは国際レベルのカリキュラム開発。(例)教育実習生のためのカリキュラム開発、教科におけるカリキュラム改定、エイズ教育資料の作成(研修時間は、単に既知の事実を書き留めることの時間を意味せず、開発・学習のための時間のみ認定される)。

< 領域E‐G>

  • E 次の各領域のおける職能成長のための実務。
    1. 教職課程受講生の実習経験の監督(1クォーターあるいは1セメスターの監督=10更新時間相当、最大限30更新時間まで可能)。
    2. 免許資格、教師教育、あるいは職能基準にかかわる全国、州、地方委員会の構成メンバー:地方免許更新委員会、州免許委員会、専門基準委員会、職能成長委員会あるいは教員試験委員会等。
  • F 次の各領域のおけるリーダーシップ経験。
    1. 学校、地域あるいは専門活動における新たな、幅広い技能および感受性の開発。
       (例) 少年相互の活動、陪審員の職務、政治的リーダーシップ、成績・進級あるいは他の特別活動にかかわる地域あるいは州アドバイザーの職位、地域演劇活動のリーダーシップ、職能成長のためのテレビあるいは他の特別プログラムの計画・作成指導、テキストブックの評価、児童研究会・教員組織におけるリーダーシップ活動。
    2. 適切な分野の専門誌における専門記事の執筆。新しい知識を記事のなかに取り入れるために使われる時間数および研究のタイプを含んだ、記事の写しおよび経験の要約が求められている。
    3. 免許教科に関連した専門組織のボランティア活動。(例)教師教育の会合における会長、委員長のようなリーダーシップ的ポジション。
  • G 次の各領域において、さまざまな教育場面の知識および理解を高めるための機会。
    1. 多様な年齢、能力、文化あるいは社会経済的水準の学生との経験。(例)第二外国語(ESL)指導、成人教育クラスにおける指導、健常児と障害児との交流サマースクール。
    2. 学校および関連した産業への訪問における体系的・意図的な観察。(例)外国人学校学習ツアー、議会の観察、美術教員のための製陶工場のツアー、工業教員のための電子工学工場のツアー、モデル工学現場等の観察。
    3. 免許資格の分野に関連した指導能力を改善することの目的のための旅行(1週間=10更新時間、最大限30更新時間)。証明として、細部にわたる旅行日程(適切な輸送手段、宿泊、旅行領収書を含む)、旅行のために明白に述べられた教育目的、目的を達成するためになされた体験の要約レポート、どのように体験が指導能力に貢献したかを明確化しなくてはならない。
    4. 免許資格の分野における適切な商・工業の職務体験。(例)商業担当教員に対する現在の教育工学を使用した事務、英語担当教員に対する図書館委員会についての有給の仕事、社会科担当教員に対する歴史編さん業務、保健担当教員の赤十字での仕事、工業担当教員に対する建築業務、言語担当教員に対する有給の翻訳作業

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