特殊教育免許の総合化に係る論点整理(案)

(参考)第14回特殊教育免許の総合化に関するWG資料(平成16年12月13日)

平成16年12月13日

1.特殊教育免許の総合化に関する基本的な考え方

(1)新たな免許状の在り方と求められる資質能力

 障害のある児童生徒等の教育については、特に近年、児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が急速に進んでいる中で、その一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う特別支援教育を推進することが必要である。
 このため、障害児教育に関する基本的な専門性を構築しながら、各障害種別に対応した専門性を確保しつつ、多様な障害へ対応することが可能な総合的な専門性を担保する免許状とすべきか。

 特殊教育免許の総合化により新たに創設される免許状で担保すべき資質能力としては、

  • 特別支援教育全般に関する基礎的な知識
  • 各障害児の心理的、発達的特性及び病理に関する一般的な知識・理解
  • 各障害児の教育課程及び指導法に関する深い知識・理解及び実践的指導力(重複障害児の指導に関する知識・理解を含む)
  • 小・中学校等の支援のために必要なLD・ADHD・高機能自閉症等に関する知識・理解及び実践的指導力

 などをひととおり身に付けた上で、新たに創設される「特別支援学校(仮称)」の教員として、他の特別支援教育担当教員とチームを組み協力しながら、様々な障害のある個々の児童生徒への教育を、著しい支障がなく担任できる資質能力であることを中心として捉えたらどうか。

 児童生徒の発達段階に応じた専門性を確保するため、学校種ごとに免許状の種類を設けている現行の教員免許制度の趣旨に沿った形で、今後の特別支援教育に対応するための免許制度とするためには、免許状の種類としては、従前どおり小学校等の免許状を基礎として、新たに創設される「特別支援学校(仮称)」の教諭が有することを前提とした「特別支援学校教諭免許状(仮称)」とすることが適当ではないか。

(2)小・中学校等の特別支援教育に関わる教員への対応

 小・中学校等における特殊学級や通級による指導を担当する教員や、通常の学級においてLD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒を担当する教員についても、特別支援教育に関する専門性が求められることから、当面、特別支援学校教諭免許状(仮称)の取得や、小・中学校等の教員養成カリキュラムにおける特別支援教育に関する内容の充実を促進することとするか。

2.「特別支援学校教諭免許状(仮称)」の在り方

(1)免許状の対象範囲

 特別支援学校教諭免許状(仮称)は、学校種に対応した免許状として、特別支援学校の教員が有することを原則としつつ、小・中学校等の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を担当する教員や、特殊学級担当の教員の専門性向上にも資するものとして位置付けることはどうか。

 これと併せて、小・中学校等の通常の学級等におけるLD、ADHD、高機能自閉症等の障害のある児童生徒への対応については、小・中学校等の教員免許状を取得するための「教職に関する科目」の中で、障害のある児童等の心身の発達及び学習の過程について含めて扱うこととなっていることから、大学の教職課程において、特別支援教育に関する内容の充実を促すことを徹底するとともに、小学校等の教員養成カリキュラム全体の見直しの中で、教職に関する科目等において、特別支援教育に関する科目等が適切に位置付けられることが必要であるとするか。

(2)障害種ごとの専門性の確保の在り方

 特別支援学校教諭免許状に担保することが求められる資質能力としては、新たな特別支援教育の理念や、様々な障害種に共通する基本的な知識等が想定されていることから、従来の特殊教育免許に比して修得すべき内容が増加することとなるが、小学校等の基礎となる免許状に加えてこの免許状を取得することが必要であることを踏まえ、大学における教職課程の編成にあたり工夫が必要ではないか。

 具体的には、現在の特殊教育免許取得に必要な単位数から若干増える単位数を設定し、例えば、特別支援教育に関する基本的な事項について、各障害種で重複する部分はできる限りまとめることとして、障害のある児童生徒の心理・生理・病理、教育課程の総論や各障害種ごとの指導法の導入部分も含めて概論としておさえつつ、各障害種ごとの指導法の詳細については、複数の障害種の指導法を重点的に修得するものとしたらどうか。

(3)特別支援学校教諭免許状(仮称)の種類・内容

 現行の教員免許制度の趣旨を踏まえて特別支援教育担当教員の資質の維持・向上を図るため、他の教員の場合と同様、特別支援学校教諭免許状(仮称)として、普通免許状、特別免許状、臨時免許状の3種類を設け、大学における養成を原則とする普通免許状を中心としたらどうか。

 普通免許状の種類としては、修業年限や修得単位数に応じて多様な大学等から人を得ることにより教員組織全体の活性化を図るとともに、上位の免許状等の取得を目指すことによる現職教員の自発的な研修を促すため、他の教員の場合と同様、専修免許状、一種免許状、二種免許状の3種類を設けることとしたらどうか。この中でも大学における4年間の養成を経た一種免許状を標準とし、各免許状に以下のような内容を想定したらどうか。

1.一種免許状

 特別支援教育を担当する教員の標準的な免許状として、全ての障害に共通する基礎的知識や指導方法を基にして、例えば視覚障害や聴覚障害など、特定の障害を選択して一定の専門的な知識、指導方法等を身に付ける。

2.専修免許状

 特定の障害に対するより深い専門的知識、指導方法等に加え、重度・重複化への対応、地域の小・中学校等における特別支援教育を視野に入れたコーディネートや、特別支援学校のセンター的機能を総合的にコーディネートするために必要な知識や技能を身に付ける。将来、特別支援学校等において指導的立場になろうとする者が積極的に身に付けることを想定する。

3.二種免許状

 一種免許状の取得を原則としつつ、特別支援教育についての専門性のある教員を少しでも多く確保するため、全ての障害に共通する最低限必要な基礎的・基本的知識や、各障害に対応した指導方法の基礎を身に付ける。
 この免許状は、特殊教育担当教員を確保するための経過措置として、当面、特殊教育免許の保有を要しないこととしている法律上の措置と相俟って、新たな特別支援学校(仮称)の教員の免許状取得率向上を図るために取得すべき免許状として捉える。
 また、小・中学校等の通常学級や特殊学級担当教員等が取得することを目指すものとしても想定し、二種免許状取得後、特別支援教育を担当する教員が有することが原則である一種免許状の取得を目指すものとする。

(4)特別支援学校教員の養成カリキュラムの在り方

 特殊教育免許を総合化し、全ての障害種に共通する事項を修得することとしても、現在の特殊教育免許を取得するために修得することが必要な「特殊教育に関する科目」について、その専門分野に応じた科目区分の大枠は維持することが適当と考えられることから、引き続き、「特別支援教育に関する科目(仮称)」として、教育の基礎理論、障害児の心理、生理及び病理、障害児の教育課程及び指導法、障害児の教育実習について、必要単位数を修得することとするのはどうか。(具体的には、別紙の内容を想定)

 新たな特別支援教育の理念等を理解した上で全ての障害種に対応する基礎を身に付けるため、特別支援教育に関する基本的な事項や全ての障害種に共通する基本的な事項について修得するものとして、例えば、「特別支援教育概論(仮称)」として、修得すべき基礎理論に関する科目に位置付けたらどうか。

 上記の「特別支援教育概論(仮称)」において、全ての障害種の心理、生理及び病理、教育課程及び指導法の基礎を含めて修得することとする一方、障害児の心理、生理及び病理や、障害児の指導法の区分については内容と単位数を厳選し、より専門性の深い内容を身に付けることとするのはどうか。

 重度・重複障害のある児童生徒等への指導に対応するため、「特別支援教育概論(仮称)」や障害児の教育課程及び指導法に関する科目等の中で、重度・重複障害に関する内容を含めることとするか。

 自立活動に関する内容については、これまで免許状の種類を別にして、教員資格認定試験等により授与し専門性を確保してきたが、これは本来、特別支援教育を担当する全ての教員に求められる資質であることや、大学における教員養成の原則を踏まえ、特別支援教育概論(仮称)や、各障害児の教育課程及び指導法に関する科目において取り扱うこととし、養成カリキュラムの開発を大学等の関係機関に促すこととするのはどうか。

 障害児の教育実習については、大学の講義等において学修した知識や理論を特別支援教育を行う学校現場での実践につながるようなものとすべきか。その際、小学校等の基礎となる免許状を取得するに当たって5単位程度教育実習を行っていることや、小・中学校の教員免許状取得の際に義務付けられている介護等体験の中で、2日間程度特殊教育諸学校における体験が行われていることなどを踏まえた内容とすべきか。

 なお、特別支援教育を推進するために必要となる、個別の教育支援計画を作成するために必要な資質能力、特別支援学校のセンター的機能、特別支援教育コーディネーターの役割等、教員がチームとして障害のある個々の児童生徒に対応していくために必要な知識等については、上記の「特別支援教育概論(仮称)」においてその基礎となる知識等を修得するとともに、指導的立場やコーディネーターとなる者等が、専修免許状取得の際に更にそれらの知識等を深める学修を積むことや、現職研修を積極的に実施することが必要であることとするか。

3.大学における養成体制の在り方

 特別支援学校教諭普通免許状(仮称)が、全ての障害種に関する基本的事項をおさえるものとすると、大学においても全ての障害種に関する科目を開設する体制を整える必要があるが、これは現実的に困難が予想されることから、工夫が必要ではないか。

 具体的には、特別支援学校教員養成課程としては、より多くの大学で養成課程を設けられるように、他大学との連携や、都道府県教育委員会との連携などを含めた以下のような大学等における教育体制の整備が必要ではないか。

  1. 科目等履修制度や多様なメディアを活用した遠隔授業等による履修を積極的に活用すること
  2. 「特別支援教育に関する科目(仮称)」について、教職に関する科目との均衡を考慮しつつ自大学で開設すべき障害種をある程度軽減する措置をとる一方、大学間の単位互換制度を積極的に活用すること
  3. 多様な障害種に関する科目を担当する教員を確保するため、都道府県教育委員会等と大学との連携を強化し、盲・聾・養護学校等の現職教員や退職した教員を大学の非常勤講師等として積極的に活用すること

4.現職教員の特別支援学校教員免許状の取得促進

 特別支援教育を行う資質能力のある教員の確保・増大を図るために、現職教員が一定の実務経験と大学や教育委員会における免許法認定講習等での単位修得により、特別支援学校教諭普通免許状(仮称)の取得を促進することが必要であり、講習等を開設する関係機関がこれまで以上に、単位修得の機会を拡大するよう努めることとすべきか。

 特殊教育に関する科目の免許法認定講習等は、現在、都道府県・指定都市の教育委員会や独立行政法人国立特殊教育総合研究所において行われているが、これらにおける講習を拡大するとともに、例えば、研修の実施権限を有する中核市の教育委員会においても実施できるよう措置することを検討すべきか。

 現在の盲・聾・養護学校や小・中学校の特殊学級、通級による指導の実務経験を、新たな特別支援学校教諭普通免許状取得に活かす仕組みを設けることを検討することが必要であるとするか。

5.その他の課題

(1)現行の特殊教育免許の取扱い

 現に盲・聾・養護学校教諭免許状を有する者については、引き続き特別支援学校(仮称)の教員となることができることとしつつ、新たな特別支援教育の円滑な実施のために必要な措置を講ずることとしたらどうか。

(2)特殊教育関係教職員の採用、配置、研修の改善

 都道府県・政令市教育委員会等においては、採用、配置、研修等を通じて特別支援教育関係教員の専門性の一層の向上に努めることが必要であり、今後、少なくとも特別支援教育担当教員を採用するにあたっては、特別支援学校教諭免許状(仮称)の保有を前提とすべきであるとするか。

 特殊教育諸学校だけでなく、小・中学校等の通常の学級を担当する教員に特別支援教育に関する知識の修得が期待されるとともに、特殊学級等の担当教員に対しては、特別支援教育に関する現職研修を一層充実し、「特別支援学校教諭免許状(仮称)」の取得を促進することとするか。

 当分の間、特殊教育免許の保有を要しないこととしている教育職員免許法附則第16項について、新たな特別支援学校教諭免許状の普及状況等を見極めた上で、特殊教育免許の保有率向上のための方策とともに、時限を設けて廃止することとするか。

(3)特殊教科の免許状の扱い

 現在、盲・聾・養護学校の免許状とは別に設けられている特殊教科の免許状については、各専門分野の教育に関して人を得るため、盲学校については理療、理学療法、音楽の教科、聾学校については理容、特殊技芸(美術・工芸・被服)の教科、そして自立活動(盲学校については視覚障害教育、聾学校については聴覚障害教育、養護学校については肢体不自由教育及び言語障害教育)として設けられている。

 これらについては、現在でも、特定の分野に人を得るための途として一定の存在意義を有するものと考えられるが、特殊教科の免許状の活用状況、大学における教員養成の原則、高等学校教諭の各教科の免許状の活用などの観点を踏まえ、精選をする必要があるか。

(4)小・中学校等の特別支援教育に関わる教員資格の将来的課題

 「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)」において提言されている「特別支援教室(仮称)」の構想を実現するためには、担当教員のより高い専門性が確保されることが必要である。このため、今後、「特別支援教室(仮称)」の構想の具体化を踏まえ、担当教員の資格の在り方について検討を行うことが必要ではないか。

(別紙)「特別支援学校教諭一種免許状」授与に必要な科目と単位数(試案)

1.特別支援教育概論(2単位)

  • 特別支援教育の意義、制度、理念、歴史、思想、社会的、制度的又は経営的事項
  • 障害児の教育支援(自立活動を含む)・教育相談の基礎

2.障害児の心理、生理及び病理に関する科目(4単位)

  • 各障害のある幼児、児童又は生徒の心理、生理及び病理に関する事項
  • 諸検査の基礎

3.障害児の教育課程及び指導法(各障害種に関する自立活動を含む)に関する科目(8単位)

  • 視覚障害児の指導法(点字指導を含む。)
  • 聴覚障害児の指導法(言語に関する指導を含む。)
  • 知的障害児の指導法
  • 肢体不自由児の指導法
  • 病弱児の指導法
  • 言語障害児の指導法
  • 情緒障害児の指導法
  • 重複障害児の指導法
  • LD・ADHD・高機能自閉症等の指導法

4.障害児の教育実習(4単位)

  • 事前及び事後の指導(1単位)
  • 1校種での実習(2単位)
  • 各校種での観察、体験実習(介護等体験での代替可)(1単位)

5.選択必修科目(8単位)

  • 特定の障害種(1種類又は2種類以上)に関する心理、生理、病理に関する科目及び指導法に関する科目

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