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資料3 新構想教員養成大学院についての回顧と感想

東京女学院
理事長
麻生 誠

 戦後、日本における教師のためのプロフェッショナル・スクールのモデルとして取り上げるべきは、昭和53年(1978)年に設立された新構想教育大学院である。その設立趣旨を見てみよう。「教育大学は教員の資質能力の向上と初等教育教員の養成・確保という社会的要請に対処するため、主として現職教員の研究・研鑽の機会を確保する趣旨をもつ大学院と初等中等教員の養成を行う学部を有し、全体として大学院に重点を置く大学として設置し、学校教育に関する実践的な教育研究を推進しようとするものである。」
 この大学は、現職教員の研究と教育の機会を確保する大学院を主軸として、それに学部レベルの教員養成を付帯させた構成に特色があった。十分な財政措置もとられ、三つの新構想教育大学が誕生することになった。今やそれぞれの大学は20年近くを経過したが、初期の目的を達したとは言いがたい状況にある。このことを一番よく示しているのは、大学院定員の充足がままならないことである。他方、新構想教育大学大学院を卒業して、現場に戻った教員たちの評価は一般に高い。こう考えると、現職教員を供給する側に問題があるといえる。また、その受け皿となっている大学院側にも問題がある。それは、教科教育とりわけ理系の教科教育に現れている。教科系教育では、教師という専門職に対する教育ではなく、アカデミックな研究者教育が行われているからである。
 人間形成基礎コースとか、教育経営コース、教育方法コース、生徒指導コース、幼児教育コースなどから編成される学校教育専攻では、多くの場合、定員が確保されている。だが、言語系コース、社会系コース、自然系コース、芸術系コース、生活・健康コースなどでは定員割れが普通となっている。さらに、悪いことには、これらの大学人の意識の底には、一昔みられた、アカデミズム至上主義の考え方が潜んでいる。それは研究志向が自然と教育志向に結びついていくからアカデミズムのなかでこそ真の教員の教育が実現するというオプティミズムである。このようなオプティミズムはすでに今日破産している。
 新構想教育大学の失敗の原因を挙げてみよう。それは、次の7つにまとめられる。

  1. 1978年という東西対立の真っ只中で構想され、設立されたこと。文部科学省対日教組の下に作られたこと。
  2. 研究者の養成と社会的活動を志向している専門の養成は基本的に異なったシステムを必要とすることを失念していたこと。つまり、わが国では戦後の学位制度をみても、アカデミックな学位とプロフェッショナルな学位とが峻別されずに、プロフェッショナルな学位がアカデミックな学位のなかに取り込まれてしまっていたのである。そのため、教職のためのプロフェッショナルな大学院レベルの教育というものが、意識的に考えられたことがなかったこと。
  3. 現職教員の供給が都道府県の財政的措置によって、数的に制限されていたことである。これは、現在の待遇をそのままにして現職教員を派遣するという制度により、派遣現職教員学生一人当たり2,000万円弱という驚くべき費用を要したのである。これでは、現職教員の供給が制限されるのも当然であること。
  4. 現職教員が学位を取得して、職場に戻っても、給与などの待遇改善が全くとられなかったことである。当時財政当局は義務教育教員の30%が上級免許状を取得する状態になれば待遇改善という約束をしたが、現状ではいまだ待遇改善がみられない。
  5. 教育委員会側が必ずしも適格な現職教員を送らない場合がしばしば見られたばかりでなく、教員組合の強いところでは、組合員を新構想大学に送ることに反対し事実上教員派遣が見送られた都道府県があったこと。
  6. 大学院のカリキュラムが必ずしも現場の問題を取り入れたり、現場の問題意識に見合った性格のものではなかったこと。
  7. 兵庫、上越、鳴門という3地点に大学院を設立するにあたって政治的に決定し、教育上の配慮がなかった。

 私は、今後の教職のためのプロフェッショナル・スクールを考える際に、新構想大学の失敗に学ぶべき点がきわめて大きいと思う。今日、新しい教職のプロフェッショナル・スクールを求めて、日本の教師の力量向上のための教員養成政策を固めつつある。
 新しい教員養成政策は、従来の大学院や新しい多様なプロフェッショナル・スクールを積極的に利用して教師の力量を飛躍的に高めることを目指している。今日、義務教育教員のわずか0.3%程度しか占めていない修士レベルの教員を今後10年、15年の間に3割に高めることが実現すれば、日本の教育は必ず大きく変わると思う。大学院レベルの教員が1%以下では、大海に落とした一点の油のようなものであり、その効果はないに等しい。だが、その数が3割になれば、その量はクリティカル・マスの段階を超えていく。そして、教員集団全体の質を変えていく大きな力になるのだ。私は教師は専門職であるという原点にもう一度立ち返って、多様なとくに現職教員を対象としたプロフェッショナル・スクールを構想し、実現すべきだと思う。
 とりあえず、新構想の教育教員養成大学院は教科教育の研究・教育や学部教員を放棄して教職教育、例えばLDA問題、生徒の臨床心理指導や教員アドミニストレーターの資質向上やエクセレント・ティーチャー養成などに特化すべきである。
 また、放送大学の利用等により、上申制度のもとで専修員免許状がとれる現状を改善しなくてはならない。そして、教育研究に実績を持つ旧帝大等の教育学部、旧師範系の教育学部、新構想教員養成大学院大学の3つの利点をうまく組み合わせて新しい教員養成システムの拡大を図るべきと思う。

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